(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-3902(P2015-3902A)
(43)【公開日】2015年1月8日
(54)【発明の名称】血管新生阻害剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/198 20060101AFI20141205BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20141205BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20141205BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20141205BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20141205BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20141205BHJP
【FI】
A61K31/198
A61P9/00
A61P27/02
A61P35/00
A61P35/04
A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-41199(P2014-41199)
(22)【出願日】2014年3月4日
(31)【優先権主張番号】特願2013-105990(P2013-105990)
(32)【優先日】2013年5月20日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】000001395
【氏名又は名称】杏林製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 圭創
(72)【発明者】
【氏名】新屋 智寛
(72)【発明者】
【氏名】中山 志織
【テーマコード(参考)】
4C206
【Fターム(参考)】
4C206AA01
4C206AA02
4C206JA61
4C206KA17
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZA33
4C206ZA36
4C206ZB26
4C206ZC41
(57)【要約】
【課題】
安全性が高く、動態面で優れた、低分子の血管新生阻害剤の開発が望まれる。本発明の目的は、新規な血管新生阻害剤及び血管新生を伴う疾患に対する予防又は治療剤を提供することにある。
【解決手段】
L−カルボシステイン又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する、血管新生阻害剤および血管新生を阻害する方法を見出した。本発明により、新規な血管新生阻害剤、及び血管新生を伴う疾患に対する予防又は治療剤を提供する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
L−カルボシステイン又はその薬学的に許容される塩を有効成分とする、血管新生阻害剤。
【請求項2】
L−カルボシステイン又はその薬学的に許容される塩を有効成分とする、血管新生を伴う疾患の予防又は治療薬。
【請求項3】
血管新生を伴う疾患が、糖尿病性網膜症又は加齢黄斑変性症である請求項2に記載の予防又は治療薬。
【請求項4】
血管新生を伴う疾患が、腫瘍性疾患である請求項2に記載の予防又は治療薬。
【請求項5】
L−カルボシステイン又はその薬学的に許容される塩を有効成分とする、血管新生を伴う腫瘍性疾患により生じている腫瘍の増殖又は転移抑制剤。
【請求項6】
L−カルボシステイン又はその薬学的に許容される塩を有効成分とする、血管内皮増殖因子により惹起されるシグナル伝達阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管新生の抑制に関する。
【背景技術】
【0002】
血管新生(angiogenesis)とは、成人の健常人体にみられる生理的な現象であり、「生体内に元々ある血管から、新しい血管が形成されるプロセス」である。つまり、血管新生は、人体に必要な生理現象である。
【0003】
その一方、癌,加齢性黄斑変性症,糖尿病性網膜症,乾癬,慢性関節性リウマチ,変形性関節症等に代表される、腫瘍性疾患、種々の眼科疾患、あるいは慢性炎症その他の疾病において、腫瘍の増殖・転移、組織の肥大化の際、腫瘍・肥大化組織への栄養供給のために血管新生が起こっていることが分かっている。
【0004】
従って、これらの疾病は、「血管新生」と「血管新生の抑制」のバランスを、健常人の持つ適度な状態に戻すことによって、予防または治療できると考えられる。
【0005】
近年、血管新生促進因子として知られている血管内皮増殖因子(VEGF: vascular endothelial growth factor)の阻害剤、つまり一種の血管新生阻害剤の臨床応用が実現した。VEGF阻害剤の例としては、抗VEGF抗体や抗VEGFアプタマーなどが挙げられる。これにより、血管新生阻害剤についての、ある種のがん疾患、糖尿病性網膜症、加齢黄斑変性症に対する治療剤としての有効性が確認されている。しかしながら、既存のVEGF阻害剤には、出血・高血圧・心毒性などの副作用、効果の再現性が低い、種によって効果がばらつく、などの欠点が報告されている。そのため、既存の血管新生阻害剤は、患者の投与において使いづらい面もある。
【0006】
血管新生抑制作用を示す化合物として、ビタミンC、ビタミンE、フラボノイド等の抗酸化剤も知られている。しかしながら、これらの化合物は分子量が大きいため、吸収・細胞内移行が悪い等の問題により、実用性は低いと思われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013―43851号公報
【0008】
【非特許文献1】FEBS Letters 536(1−3):19−24,2003
【非特許文献2】Cardiovascular Research 69(2): 512−520, 2006
【非特許文献3】The Journal of Biological Chemistry 283(11):7261−70, 2008
【非特許文献4】Respirology 14(1):53−50, 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の理由から、より安全性が高く、動態面でもより優れた、低分子の血管新生阻害剤の開発が望まれる。
本発明の目的は、新規な血管新生阻害剤、及び血管新生を伴う疾患に対する予防又は治療剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、血管新生抑制にもとづく疾患の予防又は治療法について研究を行った。当該研究において、本発明者は、in vitroヒト正常臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)およびin vivoマトリゲル注入動物を用いた血管新生抑制評価系において、去痰剤として広く知られるL−カルボシステインについて血管新生への影響を検討した。その結果、L−カルボシステインの顕著な血管新生抑制効果が認められた。
【0011】
血管新生はVEGFの刺激で促進され、これにはAkt、Erk1/2、JNK、p38 MAPKのリン酸化亢進が関与することが知られている(非特許文献1−3)。実施例において詳細に説明されるように、L−カルボシステインは、Erk1/2上流のシグナル伝達を抑制する。すなわち、本発明者により、L−カルボシステインは、VEGFにより惹起されるシグナル伝達を抑制しており、当該シグナル伝達の抑制を介してVEGFの作用を阻害し、VEGF刺激による血管新生を抑制することが見出された。
【0012】
なお、L−カルボシステインはシステイン誘導体の去痰剤で、フランスのラボラトリーズ ジュリー(Laboratories Joulie)社により開発され、1965年、販売名「リナチオール(Rhinathiol)」としてL−カルボシステインを含む医薬が発売された。その後、イギリスでは1972年にベルク ファーマシューティカルズ(Berk Pharmaceuticals)社が販売名「ムコダイン(Mucodyne)」としてL−カルボシステインを含む医薬を発売した。現在では、L−カルボシステインを含む医薬が世界各国で販売されている。
【0013】
日本国内でも、杏林製薬によりL−カルボシステインを含む医薬が開発され、1981年に日本国厚生省の製造承認を得て販売名「ムコダイン(登録商標)」として発売されている。以来、ムコダインは、安全性の高い去痰剤として広く臨床で用いられている。
【0014】
L―カルボシステインは、(1)喀痰の物性を改善し排出を速やかにする、(2)線毛の修復を促進し輸送能を改善する、(3)細菌感染のファーストステップである細菌の咽頭上皮細胞への付着を抑制する、などの多彩な作用を有することが知られている。また、限定的かつ弱いながらも抗酸化作用を有し(非特許文献4)、その一部はNrf2活性化を介すると報告されている(特許文献1)。しかしながら、強力な抗酸化作用を示すN―アセチルシステインと比べても劣らぬ血管新生抑制効果を示していること、早いタイミングでリン酸化抑制を示していることから、L−カルボシステインの同効果には、その抗酸化作用以外の関与が考えられた。
【0015】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
[1]L−カルボシステイン又はその薬学的に許容される塩を有効成分とする、血管新生阻害剤。
[2]L−カルボシステイン又はその薬学的に許容される塩を有効成分とする、血管新生を伴う疾患の予防又は治療薬。
[3]血管新生を伴う疾患が、糖尿病性網膜症又は加齢黄斑変性症である[2]に記載の予防又は治療薬。
[4]血管新生を伴う疾患が、腫瘍性疾患である[2]に記載の予防又は治療薬。
[5]L−カルボシステイン又はその薬学的に許容される塩を有効成分とする、血管新生を伴う腫瘍性疾患により生じている腫瘍の増殖又は転移抑制剤。
[6]L−カルボシステイン又はその薬学的に許容される塩を有効成分とする、血管内皮増殖因子により惹起されるシグナル伝達阻害剤。
[7]血管新生を阻害する方法であって、それを必要とする患者に、血管新生を阻害するのに有効な量のL−カルボシステイン又はその薬学的に許容される塩を投与することを含む方法。
[8]血管新生を伴う疾患の予防又は治療方法であって、それを必要とする患者に、治療または予防をするのに有効な量のL−カルボシステイン又はその薬学的に許容される塩を投与することを含む方法。
[9][8]に記載の方法において、
血管新生を伴う疾患が、糖尿病性網膜症又は加齢黄斑変性症である方法。
[10][8]に記載の方法において、
血管新生を伴う疾患が、腫瘍性疾患である方法。
[11][10]に記載の方法において、当該方法は腫瘍性疾患の治療方法であり、L−カルボシステインの投与により腫瘍の増殖又は転移を抑制する方法。
[12]血管内皮増殖因子により惹起されるシグナル伝達を阻害する方法であって、それを必要とする患者に、血管内皮増殖因子を阻害するのに有効な量のL−カルボシステイン又はその薬学的に許容される塩を投与することを含む方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、新規な血管新生阻害剤、及び血管新生を伴う疾患に対する予防又は治療剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例1において、HUVECのVEGF誘導細胞増殖に対するL−カルボシステイン(10,50,100,200μM)の作用を示すグラフである。
【
図2】実施例2において、HUVECのVEGF誘導細胞遊走に対するL−カルボシステイン(100μM)の作用を示す写真である。
【
図3】実施例2において、HUVECのVEGF誘導細胞遊走に対するL−カルボシステイン(100μM)の作用を示すグラフである。
【
図4】実施例3において、HUVECのVEGF誘導管腔形成に対するL−カルボシステイン(100μM)の作用を示すグラフである。
【
図5】実施例4において、マトリゲル内に形成されるVEGF誘導血管新生に対するL−カルボシステイン(5μg/g体重あたり)の作用を示す写真である。
【
図6】実施例4において、マトリゲル内に形成されるVEGF誘導血管新生に対するL−カルボシステイン(5μg/g体重あたり)の作用を示すグラフである。
【
図7】実施例5において、HUVEC各種タンパクのVEGF誘導リン酸化に対するL−カルボシステイン(100μM)の作用を示す写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態についてより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0019】
本実施形態の血管新生阻害剤は、上述のL−カルボシステイン又はその薬学的に許容される塩を有効成分とする。
【0020】
L−カルボシステインは、S−(カルボキシメチル)−L−システイン(S―(carboxymethyl)−L―cysteine)との化学名でも呼ばれる化合物である。L−カルボシステインは、以下の式(1)で表すことができる。
【0021】
【化1】
【0022】
L−カルボシステインの薬学的に許容される塩とは、L−カルボシステインと薬学的に許容される塩基又は酸との塩を意味する。当該薬学的に許容される塩基は、無機塩基又は有機塩基のいずれであってもよい。同様に、当該薬学的に許容される酸は、無機酸又は有機酸のいずれであってもよい。
【0023】
薬学的に許容される無機塩基との塩としては、例えば、アルミニウム、アンモニウム、カルシウム、銅、第一鉄、第二鉄、リチウム、マグネシウム、マンガン、亜マンガン酸、カリウム、ナトリウム等の無機塩基との塩が挙げられる。
【0024】
薬学的に許容される有機塩基との塩としては、例えば、アルギニン、ベタイン、カフェイン、コリン、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン、ジエチルアミン、2−ジエチルアミノエタノール、2−ジメチルアミノエタノール、エタノールアミン、エチレンジアミン、N−エチルモルホリン、N−エチルピペリジン、グルカミン、グルコサミン、ヒスチジン、ヒドラバミン、イソプロピルアミン、リジン、メチルグルカミン、モルホリン、ピペラジン、ピペリジン、ポリアミン樹脂、プロカイン、プリン、テオブロミン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリプロピルアミン、トロメタミン等の有機塩基との塩が挙げられる。
【0025】
薬学的に許容される無機酸との塩としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸等の無機酸との塩が挙げられる。
【0026】
薬学的に許容される有機酸との塩としては、例えば、酢酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、サリチル酸、ステアリン酸、パルミチン酸等の有機酸との塩が挙げられる。
【0027】
本実施形態の血管新生阻害剤は、L−カルボシステイン又はその薬学的に許容される塩の単独で構成されるようにしてもよい。または、本実施形態の血管新生阻害剤は、L−カルボシステインと、有効成分として作用する他の化合物および/または薬学的に許容される添加剤とを含有する医薬組成物として構成されるようにしてもよい。当該医薬組成物は、有効成分として作用する他の化合物および/または薬学的に許容される添加剤として、1種または複数の化合物を含有する。当該医薬組成物は、例えば、L−カルボシステインと、有効成分として作用する他の化合物および添加剤のうち1種以上とを混和することにより調製される。
【0028】
上述の医薬組成物においてL−カルボシステインとともに含有される有効成分として作用する他の化合物としては、例えば、血管新生阻害剤、抗がん剤、抗炎症剤を挙げることができる。
【0029】
上述の医薬組成物においてL−カルボシステインとともに含有される薬学的に許容される添加剤としては、例えば、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、安定剤、矯味矯臭剤、希釈剤が挙げられる。これらの添加剤としては、医薬品製剤の製造に使用可能なものであれば特に限定はなく、例えば、医薬品添加物事典「日本医薬品添加剤協会、薬事日報社(2007年)」に記載されているものを適宜使用できる。
【0030】
本実施形態の血管新生阻害剤は、従来薬学的によく知られた形態及び投与経路を適用してヒトに投与することができ、例えば、散剤、錠剤、カプセル剤、細粒剤、顆粒剤、シロップ剤等の製剤として経口的に投与することができる。また、例えば点眼剤などとして非経口投与の剤形とすることも、もちろん可能である。
本実施形態の血管新生阻害剤におけるL−カルボシステインの投与量は特に限定されず、剤形や投与対象となる患者の年齢、症状などに応じて変更可能である。例えば、L−カルボシステインの投与量を1.5g/日以上15g/日以下、好ましくは1.5g/日以上5g/日以下に設定することができる。
【0031】
本実施形態に係るL−カルボシステインは、血管新生に関連するといわれるin vitroのVEGFにより誘発される血管内皮細胞の増殖・遊走・管腔形成を有意に抑制し、さらに、in vivoのVEGF誘発血管新生を顕著に阻害する。
従って、本実施形態の血管新生阻害剤は、血管新生に伴う疾患の予防又は治療に有効である。このような疾患の例としては、加齢性黄斑変性症,糖尿病性網膜症,増殖性糖尿病網膜症,未熟児網膜症,血管新生緑内障,網膜静脈閉塞症,網膜動脈閉塞症,翼状片,ルベオーシス,角膜新生血管症,腫瘍性疾患(脳腫瘍、咽頭癌、肺癌、胃癌、大腸癌、直腸癌、肝臓癌、膵臓癌、腎細胞癌、前立腺癌、膀胱癌、乳癌、卵巣癌)、骨髄腫、血管腫、関節リウマチ,乾癬,又は変形性関節症が挙げられる。
特に、本実施形態の血管新生阻害剤は、血管新生に伴う腫瘍性疾患において生じている腫瘍の増殖・転移抑制剤として有用である。
また、本実施形態によれば、L−カルボシステインを用いることで、既存の血管新生阻害剤と比較して副作用の抑えられた血管新生阻害剤を提供することが可能である。
また、本実施形態によれば、既存の抗酸化剤と比較して動態面で優れた血管新生阻害剤を提供することができる。
【実施例】
【0032】
以下に本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明は実施例によりなんら限定されるものではない。
【実施例1】
【0033】
HUVECを用い、VEGFによる細胞増殖促進に対するL−カルボシステインの作用を、in vitroで評価した。
1)方法
96 wellマイクロプレートに2500 cells/wellとなるようにHUVECを播種し、24時間培養した。次に、HUVECについて、VEGF、bFGFを除いた培地を用いて1晩、飢餓培養を行った。その後、HUVECを、L−カルボシステイン(10,50,100,200μM)で15分間前処理後、VEGF(30ng/mL)で刺激し、48時間後の生細胞数をCell Counting Kit−8(DOJINDO)により求めた(n=6)。
2)結果
100μM以上のL−カルボシステイン前処理により、VEGFによる血管内皮細胞増殖促進は有意に抑制された。また、L−カルボシステインによる増殖抑制効果は濃度依存的であった。
【実施例2】
【0034】
HUVECを用い、VEGFにより促進される細胞遊走に対するL−カルボシステインの作用をin vitroで評価した。
1)方法
プレートにHUVECを播種し、コンフルエントになるまで培養した。その後、VEGF、bFGFを除いた培地でHUVECを1晩飢餓培養した。L−カルボシステイン(100μM)を15分前処理後、プレート上における細胞(HUVEC)を一定間隔で剥離した。続いて、プレート上に残存している細胞をVEGF(30ng/mL)で刺激し、12時間後の細胞の遊走距離を測定した(n=4)。
2)結果
VEGFによる遊走促進は、L−カルボシステイン前処理により有意に抑制された。
【実施例3】
【0035】
HUVECを用い、VEGFにより促進される管腔形成に対するL−カルボシステインの作用をin vitroで評価した。
1)方法
12wellプレートにコラーゲンType1−C(新田ゼラチン)下層を作成し、その上にHUVECを播種後、コラーゲン上層を作成した。HUVECを、L−カルボシステイン(100μM)で15分間前処理後、VEGF(30ng/mL)で刺激し、24時間後の管腔全長を測定した(n=6)。
2)結果
VEGFによる管腔促進はL−カルボシステイン前処理により有意に抑制された。
【実施例4】
【0036】
マウスin vivoモデルにおいて、VEGFにより促進される血管新生に対するL−カルボシステインの作用を評価した。
1)方法
雄性C57BL/6Jマウス(6週齢)に対してペントバルビタールを用いた麻酔処理を行った。次に、30ng/mLのVEGFを加えたBD
TMマトリックス 500μLを、27Gニードルにより当該マウスの脇腹に皮下注射した。その後14日間、L−カルボシステイン(マウス体重1g当たり5μg)、あるいは同容量の生理食塩水を朝夕2回腹腔内投与した。投与期間終了後、エバンスブルーをマウス眼窩静脈叢より投与した。EDTAにより十分還流した後、ペントバルビタールを用いた麻酔処理をし、マウス体内からマトリゲルを取り出した。取り出したマトリゲルの重量を測定後、ホルムアミド溶液にマトリゲルを浸漬して37℃、48時間静置した。ホルムアミド中にエバンスブルーが溶出されたのを確認後、620nmの吸光度で溶出されたマトリゲル単位重量あたりのエバンスブルーを定量した(n=8)。
2)結果
マトリゲル内血管密度は、L−カルボシステイン(5μg/g B.W.)の1日2回腹腔内投与により顕著に低下した。
【実施例5】
【0037】
HUVECを用い、VEGF刺激によりリン酸化亢進するAkt、Erk1/2、JNK(c−Jun N−terminal kinase)、p38 MAP kinaseに対するL−カルボシステインの作用を評価した。
1)方法
HUVECを播種後、0.1% FBS含有EBM−2培地で1晩飢餓培養した。HUVECに対して、L−カルボシステイン(100μM)15分前処理後、VEGF(30ng/ml)で5または15分刺激した。各種キナーゼの特異的リン酸化抗体を用いてWestern blot法によりVEGF刺激によるリン酸化亢進を評価した。また、各種キナーゼのタンパク発現量は、リン酸化検出後、それぞれの認識抗体により検討した。
2)結果
VEGF刺激により、Erk1/2、JNK、p38 MAP kinaseのリン酸化は5分、Aktのリン酸化は15分で亢進した。L−カルボシステインはそれらのうち、Erk1/2のリン酸化亢進のみを特異的に抑制した。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明に係るL−カルボシステインは、例えば、血管新生を伴う疾患の予防又は治療薬として有用である。
【手続補正書】
【提出日】2014年3月6日
【手続補正1】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】
【手続補正2】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】
【手続補正3】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】