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  • 特開2015004014-シアニン系色素含有発色剤 図000042
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-4014(P2015-4014A)
(43)【公開日】2015年1月8日
(54)【発明の名称】シアニン系色素含有発色剤
(51)【国際特許分類】
   C09B 23/00 20060101AFI20141205BHJP
   G02B 5/22 20060101ALN20141205BHJP
【FI】
   C09B23/00 L
   G02B5/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2013-131040(P2013-131040)
(22)【出願日】2013年6月21日
(71)【出願人】
【識別番号】397077760
【氏名又は名称】株式会社林原
(74)【代理人】
【識別番号】100108486
【弁理士】
【氏名又は名称】須磨 光夫
(72)【発明者】
【氏名】野口 綾志
(72)【発明者】
【氏名】矢吹 堅次
【テーマコード(参考)】
2H148
【Fターム(参考)】
2H148CA04
2H148CA14
2H148CA20
(57)【要約】      (修正有)
【課題】赤色、緑色および青色のいずれかの発色剤として有用なシアニン系色素を含んでなる発色剤の提供。
【解決手段】式1で表されるインドレニン環構造を有するシアニン系色素。

(R、R、R及びRは、それぞれ独立に、アルキル基又はベンジル基を表し、ベンジル基は置換基を有してもよく、R〜R、R10〜R13は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン基、ニトロ基、アルキル基、アルコキシ基またはアリール基を表し、R及びR14は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基を表す。YはC、O、Sのいずれかを表し、Xは対アニオンを表す。nは、0〜2の整数を表す。)
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式1乃至一般式3のいずれかで表されるインドレニン環骨格を有するシアニン系色素であって、かつ、赤色の補色波長域付近の430乃至560nm、青色の補色波長域付近の580乃至605nmおよび緑色の補色波長域付近の630乃至780nmのいずれかに最大吸収極大を有し、溶液中での吸収極大波長を中心とする分子吸光係数の半値幅が80nm以下であるシアニン系色素を含んでなる発色剤。
一般式1:
【化32】
(一般式1において、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、アルキル基またはベンジル基を表し、ベンジル基は置換基を有してもよく、R乃至R、R10乃至R13は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン基、ニトロ基、アルキル基、アルコキシ基またはアリール基を表し、また、隣り合う置換基が結合して、置換基を有することある芳香環を形成していてもよい。RおよびR14は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基を表す。Yは炭素原子、酸素原子、硫黄原子のいずれかを表し、Yが酸素原子、硫黄原子のとき、RおよびRは存在せず、Xは対アニオンを表す。nは、0乃至2の整数を表す。また、メチン鎖に結合する水素原子はアルキル基またはハロゲン基で置換されていても良い。)
一般式2:
【化33】
(一般式2において、R15、R16は、それぞれ独立に、アルキル基またはベンジル基を表し、ベンジル基は置換基を有してもよく、R17乃至R20は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン基、ニトロ基、アルキル基、アルコキシル基またはアリール基を表し、また、隣り合う置換基が結合して、置換基を有することある芳香環を形成していてもよい。R21は置換基を有していてもよいアルキル基を表す。R22乃至R26は水素原子、アルキル基またはアルコキシル基を表し、Xは対アニオンを表す。mは、1または2の整数を表す。)
一般式3:
【化34】
(一般式3において、R27、R28は、それぞれ独立に、アルキル基またはベンジル基を表し、ベンジル基は置換基を有してもよく、R29乃至R32は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン基、ニトロ基、アルキル基、アルコキシル基またはアリール基を表し、また、隣り合う置換基が結合して、置換基を有することある芳香環を形成していてもよい。R33は置換基を有していてもよいアルキル基を表す。R34乃至R38は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシル基またはアミノ基を表し、それらアルキル基、アルコキシ基またはアミノ基は置換基を有してもよい。Xは対アニオンを表し、lは、1または2の整数を表す。)
【請求項2】
前記シアニン系色素が化学式1乃至化学式4のいずれかで表される請求項1記載の発色剤。
化学式1:
【化35】
化学式2:
【化36】
化学式3:
【化37】
化学式4:
【化38】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、インドレニン環構造を有するシアニン系色素を含んでなる発色剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
情報化機器の発展に伴い、可視光から近赤外光までの波長領域において、特定の波長光を選択的に吸収する有機色素化合物の需要が急増している。その用途は、半導体受光素子やプラズマディスプレーなどの、有機色素化合物が近赤外光を遮断する性質を専ら利用する用途から、可視光領域の波長光を選択的に吸収することにより固有な色を表す、化粧品、塗料、インクジェットプリンター用インク、プラスチック着色剤、製紙、カメラレンズ用カラーフィルタなどに用いられる発色剤の用途、さらにはレーザーを光源とする製版、光記録媒体、光カード、熱転写記録、感熱記録をはじめとする情報記録用剤の用途へ拡がることとなった。発色剤の分野においては、赤色、緑色および青色の三原色を色純度良く表現するために、極力、不要な発色光をカットし、色濁りのない発色剤とすることが望まれている。しかも、発色剤は、熱により分解し、退色、変色すると本来の色が表現できない等の問題が生じることから、耐熱性に優れていることも重要な要素となる。
【0003】
これまでに提案された代表的な発色剤としては、アゾ系化合物、アントラキノン系化合物、ジケトピロロピロール系化合物、プテリジン系化合物、ジオキサジン系化合物、フタロシアニン系化合物、及びナフタロシアニン系化合物などが挙げられる(例えば、特許文献1乃至3)。これら化合物を発色剤として使用した場合、色純度が不十分なことがあり、補正用色素を添加して色純度を高めることが行なわれている。しかしながら、色純度の優れる発色剤としての要求は限りがなく、明度、彩度の特性が優れた発色剤が依然として望まれている。上記各種化合物等の発色剤に加えて、シアニン系色素も、これまで発色剤として提案されている(例えば、特許文献4乃至6)。しかし、これら特許文献に記載のシアニン系色素においても、発色剤として十分な、明度、彩度、さらに熱に対する安定性を得るためにはさらなる改良が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−160075号公報
【特許文献2】特開平7−258592号公報
【特許文献3】特表2008−514770号公報
【特許文献4】特開2002−372617号公報
【特許文献5】特開平5−27109号公報
【特許文献6】特開昭62−186205号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、赤色、緑色および青色のいずれかの発色剤として有用なシアニン系色素を含んでなる発色剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明者らが検討した結果、下記一般式1乃至一般式3のいずれかで表されるインドレニン環骨格を有するシアニン系色素であって、かつ、赤色の補色波長域付近の430乃至560nm、青色の補色波長域付近の580乃至605nmおよび緑色の補色波長域付近の630乃至780nmのいずれかに最大吸収極大を有し、溶液中での吸収極大波長を中心とする分子吸光係数の半値幅が80nm以下であるシアニン系色素を含んでなる発色剤が、色純度の良い発色剤として有用であることを見出した。
【0007】
即ち、この発明は、上記光吸収特性を有する下記一般式1乃至一般式3のいずれかで表されるインドレニン環構造を有するシアニン系色素を含んでなる発色剤を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0008】
一般式1:
【化1】
【0009】
一般式1において、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、アルキル基またはベンジル基を表し、ベンジル基は置換基を有してもよい。R乃至R、R10乃至R13は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン基、ニトロ基、アルキル基、アルコキシ基またはアリール基を表し、また、隣り合う置換基が結合して、置換基を有することある芳香環を形成していてもよい。RおよびR14は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基を表す。Yは炭素原子、酸素原子、硫黄原子のいずれかを表し、Yが酸素原子、硫黄原子のとき、RおよびRは存在せず、Xは対アニオンを表す。nは、0乃至2の整数を表す。また、メチン鎖に結合する水素原子はアルキル基またはハロゲン基で置換されていても良い。
【0010】
一般式2:
【化2】
【0011】
一般式2において、R15、R16は、それぞれ独立に、アルキル基またはベンジル基を表し、ベンジル基は置換基を有してもよい。R17乃至R20は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン基、ニトロ基、アルキル基、アルコキシル基またはアリール基を表し、また、隣り合う置換基が結合して、置換基を有することある芳香環を形成していてもよい。R21は置換基を有していてもよいアルキル基を表す。R22乃至R26は水素原子、アルキル基またはアルコキシル基を表し、Xは対アニオンを表す。mは、1または2の整数を表す。
【0012】
一般式3:
【化3】
【0013】
一般式3において、R27、R28は、それぞれ独立に、アルキル基またはベンジル基を表し、ベンジル基は置換基を有してもよい。R29乃至R32は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン基、ニトロ基、アルキル基、アルコキシル基またはアリール基を表し、また、隣り合う置換基が結合して、置換基を有することある芳香環を形成していてもよい。R33は置換基を有していてもよいアルキル基を表す。R34乃至R38は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシル基またはアミノ基を表し、それらアルキル基、アルコキシ基またはアミノ基は置換基を有してもよい。Xは対アニオンを表し、lは、1または2の整数を表す。
【0014】
さらに、この発明は、上記一般式1乃至一般式3のいずれかで表されるインドレニン環構造を有するシアニン系色素を含んでなる発色剤のうち、より好ましくは、化学式1乃至化学式4のいずれかで表されるインドレニン環骨格を有するシアニン系化合物を含んでなる発色剤を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0015】
化学式1:
【化4】
【0016】
化学式2:
【化5】
【0017】
化学式3:
【化6】
【0018】
化学式4:
【化7】
【発明の効果】
【0019】
この発明のインドレニン環構造を有するシアニン系色素を含んでなる発色剤は、赤色、緑色および青色のいずれかの補色波長域に最大吸収極大を有し、その吸収極大波長を中心とする分子吸光係数の半値幅が80nm以下であることから、赤色、緑色および青色それぞれに対応する発光色のスペクトルの波形をシャープにすることが可能となり、結果として、色濁りの原因となる余計な色の波長域に発色を示さない色純度の優れたものとなる。また、この発明の発色剤は、耐熱性も優れ、極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第1図は、この発明の発色剤(化学式47で表されるシアニン系色素)の吸収スペクトル図を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、この発明について詳しく説明する。この発明は、一般式1乃至一般式3で表されるインドレニン環骨格を有するシアニン系色素であって、かつ、赤色の補色波長域付近の430乃至560nm、青色の補色波長域付近の580乃至605nmおよび緑色の補色波長域付近の630乃至780nmのいずれかに最大吸収極大を有し、溶液中での吸収極大波長を中心とする分子吸光係数の半値幅が80nm以下であるシアニン系色素を含んでなる発色剤を提供することによって上記課題を解決するものである。
【0022】
一般式1:
【化8】
【0023】
一般式1において、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、アルキル基またはベンジル基を表し、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基などのアルキル基が挙げられる。また、ベンジル基は、置換基を有していても良い。ベンジル基に結合する置換基としては、例えば、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基などのハロゲン基、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソブチル基などのアルキル基、メトキシ基、トリフルオロメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基などのアルコキシ基若しくはハロアルコキシ基などが挙げられる。上記アルキル基、ベンジル基のうち、メチル基、エチル基、ベンジル基、3−メチルベンジル基が熱、光等の環境に対する安定性、工業的に汎用性の高いアルコール系、ケトン系の溶剤に対する溶解度の点でより好ましい。
【0024】
乃至R、R10乃至R13は、それぞれ独立して、水素原子、ニトロ基、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、イソプロペニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、2−プロピニル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などのアルキル基、メトキシ基、トリフルオロメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基などのアルコキシ基若しくはハロアルコキシ基、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、キシリル基、メシチル基、o−クメニル基、m−クメニル基、p−クメニル基、ビフェニリル基などのアリール基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基などのハロゲン基が挙げられる。
【0025】
、R14は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキル基を表す。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基などの炭素数1乃至7のアルキル基が挙げられる。これらアルキル基は上記、ニトロ基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン基に加えて、スルフォン酸イオン基、リン酸イオン基、カルボン酸イオン基などの置換基がさらに結合することもある。なお、炭素数が1乃至3のアルキル基は、工業的に汎用性の高いアルコール系、ケトン系の溶剤に対する溶解性の点でより好ましい。
【0026】
は炭素原子、酸素原子、硫黄原子のいずれかを表し、Yが酸素原子、硫黄原子のとき、RおよびRは存在しない。Xは対アニオンを表し、シアニン系色素の溶解性と熱安定性を勘案しながら適宜のものを選択することができる。通常、弗素イオン、塩素イオン、臭素イオン、沃素イオンなどのハロゲンイオン、燐酸イオン、過塩素酸イオン、過沃素酸イオン、六弗化アンチモン酸イオン、六弗化錫酸イオン、六弗化燐酸イオン、硼弗化水素酸イオン、四弗硼素酸イオンなどの無機酸イオン、チオシアン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、ナフタレンスルホン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、アルキルスルホン酸イオン、ベンゼンカルボン酸イオン、アルキルカルボン酸イオン、トリハロアルキルカルボン酸イオン、トリハロアルキル硫酸イオン、ニコチン酸イオンなどの有機酸イオン、さらには、アゾ系、ビスフェニルジチオール系、チオカテコールキレート系、チオビスフェノレートキレート系、ビスジオール−α−ジケトン系の金属錯体イオン、テトラ(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸イオン、ビス(トリフルオロメタンスルホン)イミド、ビス(ペンタフルオロエタンスルホン)イミドイオンなどが挙げられる。このうち、ハロゲンイオン、ベンゼンスルホン酸イオン、ナフタレンスルホン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、ビス(トリフルオロメタンスルホン)イミド、ビス(ペンタフルオロエタンスルホン)イミドイオンを対アニオンとするものは、工業的に汎用性の高いアルコール系、ケトン系の溶剤に対する溶解性、耐熱性に優れている。また、上記対アニオンを有するシアニン系色素は、発色剤の使用目的により、最終的に適当な対アニオンにさらに塩交換して使用することもできる。なお、一般式1で表されるシアニン系色素において、R又はR14のいずれかが負に荷電する置換基を有し、その置換基が分子内塩を形成する場合には、Xは存在しない。また、メチン鎖に結合する水素原子はアルキル基またはハロゲン基で置換されていても良い。さらにまた、一般式1で表されるシアニン系色素において、構造上、シス/トランス異性体が存在する場合には、いずれの異性体もこの発明に包含されるものとする。
【0027】
一般式2:
【化9】
【0028】
一般式2において、R15、R16は、それぞれ独立に、一般式1におけるR及びRと同様の置換基を表す。R17乃至R20は、それぞれ独立に、一般式1におけるR乃至R、R10乃至R13と同様の置換基を表す。R21は、一般式1におけるR、R14と同様の置換基を表す。また、R22乃至R26は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基またはアルコキシル基を表し、具体的には、一般式1におけるアルキル基またはアルコキシ基と同様の置換基を挙げることができる。Xは対アニオンを表し、具体的には、一般式1におけるXと同様のものを挙げることができる。mは、1または2の整数を表す。また、一般式2で表されるシアニン系色素において、構造上、シス/トランス異性体が存在する場合には、いずれの異性体もこの発明に包含されるものとする。
【0029】
一般式3:
【化10】
【0030】
一般式3において、R27、R28は、それぞれ独立に、一般式1におけるR及びRと同様の置換基を表し、R29乃至R32は、それぞれ独立に、一般式1におけるR乃至R、R10乃至R13と同様の置換基を表す。R33は、一般式1におけるR、R14と同様の置換基を表す。R34乃至R38は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシル基またはアミノ基を表し、具体的には、一般式1で例示したアルキル基、アルコキシル基、および、アミノ基として、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、ジエチルアミノ基、プロピルアミノ基、ジプロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ブチルアミノ基、ジブチルアミノ基、イソブチルアミノ基、ジイソブチルアミノ基、sec−ブチルアミノ基、tert−ブチルアミノ基、ペンチルアミノ基、アニリノ基、ジフェニルアミノ基、o−トリイジノ基、m−トルイジノ基、p−トルイジノ基、キシリジノ基、ピペリジノ基、ピペラジノ基、モルホリノ基などのアミノ基が挙げられる。Xは対アニオンを表し、一般式1におけるXと同様のものが挙げられる。lは、1または2の整数を表す。また、一般式3で表されるシアニン系色素において、構造上、シス/トランス異性体が存在する場合には、いずれの異性体もこの発明に包含されるものとする。
【0031】
この発明による一般式1乃至一般式3で表されるインドレニン環骨格を有するシアニン系色素であって、かつ、赤色の補色波長域付近の430乃至560nm、青色の補色波長域付近の580乃至605nmおよび緑色の補色波長域付近の630乃至780nmのいずれかに最大吸収極大を有し、溶液中での吸収極大波長を中心とする分子吸光係数の半値幅が80nm以下であるシアニン系色素としては、例えば、化学式1乃至化学式97で表される化合物が挙げられる。これらシアニン系色素を含んでなる発色剤は、上記光吸収特性を有し、色濁りの原因となる余計な発光波長を有さず、赤色、緑色および青色それぞれの波長スペクトルをシャープにすることが可能となる。結果として、色純度の優れた発色剤となり、インクジェット用インク、光学フィルターなどの発色剤として有利に利用できる。また、これらシアニン系色素は汎用の有機溶剤に対し適度の溶解性を有し、耐熱性にも優れ、長時間用いても退色し難いという特徴がある。
【0032】
【化11】
【0033】
【化12】
【0034】
【化13】
【0035】
【化14】
【0036】
【化15】
【0037】
【化16】
【0038】
【化17】
【0039】
【化18】
【0040】
【化19】
【0041】
【化20】
【0042】
【化21】
【0043】
なお、上記例示化合物のうち、化学式1乃至22、化学式73乃至81、化学式83乃至92、化学式94乃至97で表される化合物は赤色の補色波長域付近の430乃至560nmに最大吸収極大を有し、これらいずれかの化合物を含んでなる発色剤は赤色用発色剤となる。また、化学式23乃至36、化学式82、及び化学式93で表される化合物は青色の補色波長域付近の580乃至605nmに最大吸収極大を有し、これらいずれかの化合物を含んでなる発色剤は青色用発色剤となり、化学式37乃至72で表される化合物は緑色の補色波長域付近の630乃至780nmに最大吸収極大を有し、これらいずれかの化合物を含んでなる発色剤は、緑色用発色剤となる。
【0044】
また、化学式1乃至4、化学式32、化学式44及び化学式47で表される化合物は、熱安定性等、耐環境性にも優れており、光学フィルター用の発色剤として特に好ましい。なかでも、化学式1乃至化学式4で表される化合物が、より好適に用いられる。
【0045】
斯かるインドレニン環骨格を有するシアニン系色素は、いずれも、例えば、大河原信ら『機能性色素』、株式会社講談社、1992年3月10日発行、98乃至117頁や、速水正明監修、『感光色素』、産業図書株式会社、1997年10月17日発行、11乃至31頁に記載された方法に準じて所望量を得ることができる。
【0046】
さて、この発明のインドレニン環骨格を有するシアニン系色素を含んでなる発色剤は、赤色、緑色または青色いずれかの発色剤として使用することができる。この発明の発色剤は、斯かるシアニン系色素の1又は複数を含んでなる発色剤とすることができる。これらのシアニン系色素は光吸収特性として、赤色の補色波長域付近の430乃至560nm、青色の補色波長域付近の580乃至605nmおよび緑色の補色波長域付近の630乃至780nmのいずれかに最大吸収極大を有し、溶液中での吸収極大波長を中心とする分子吸光係数の半値幅が80nm以下であるという性質を有し、赤色、緑色または青色いずれかの色純度の優れた発色剤として用いることができる。なお、一般式1乃至一般式3で表されるインドレニン環骨格を有するシアニン系色素であっても、吸収極大波長を中心とする分子吸光係数の半値幅が80nmを上回るものは、吸収極大波長を中心とする吸収スペクトルの波長域が広がり、発色剤として必要な発色光波長が得られず、色純度に問題が生じることがある。また、シアニン系色素の組成や物理的形態は特に問わないけれども、溶剤に溶かした状態で用いたり、微粒子粉末状態、例えば、後述するバインダー樹脂中に粒子径0.1乃至10μmの微粒子を分散させて用いたり、さらにまた、他の発色剤と組み合わせて使用することも可能である。したがって、この発明のインドレニン環骨格を有するシアニン系色素を含んでなる発色剤は、上記光吸収特性を有する一般式1乃至一般式3のいずれかで表されるシアニン系色素の1又は複数からなるものであっても、該シアニン系色素とともに、用途、製造工程および製品形態に応じ、それ以外の成分を1又は複数含んでなるものであってもよい。
【0047】
この発明によるインドレニン環骨格を有するシアニン系色素を含んでなる発色剤は、上記光吸収特性を有し、その分子吸光係数も大きいことから、インクジェット用インク、カラーコピー機用色分解フィルター、カメラレンズ用カラーフィルターなど、赤色、緑色および青色の三原色いずれかの発色剤を利用する用途において、色濁りの少ない発色剤として極めて有用である。
【0048】
この発明の発色剤を、インクジェット用インク、カラーコピー機用色分解フィルター、カメラレンズ用カラーフィルターなどの用途に用いるとき、この発明の発色剤に加え、通常、製造工程時に、溶剤、バインダー樹脂を配合した組成物として使用する。その他、用途により上記の成分に加え、任意に、硬化剤、光重合開始剤、湿潤剤(保湿剤)、表面張力調整剤(界面活性剤)、消泡剤、定着剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、近赤外線吸収剤等を適宜配合することもある。なお、この発明の発色剤をフィルター用途に使用する場合、その含有量は特に制限がないが、上記発色剤組成物中に、固形物換算で、5〜90質量%、好ましくは10〜60質量%の範囲とする。
【0049】
この発明の発色剤を含有する組成物に用いられる溶剤としては、例えば、水、炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、エーテル類、ケトン類、アルコール類、セルソルブ類等が挙げられるが、特に、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤が溶解性、作業性の点で好ましい。
【0050】
また、バインダー樹脂としては、市販されているものを使用することが可能である。例えば、ポリスチレン、ポリビニルブチラート、ポリエステル、シリコーンワニス、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース等のセルロース誘導体、デンプン及びその誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレンオキシド、アクリル酸アミド−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリアクリルアミド、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、カゼイン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸エステル、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体及びスチレン−ブタジエン−アクリル共重合体等を挙げることができ、必要に応じて、これらは組み合わせて用いることができる。斯かるバインバー樹脂は、用途によるけれども、この発明に関わる一般式1乃至一般式3のいずれかで表されるシアニン系色素に対して、通常、質量比で10乃至1,000倍、好ましくは、50乃至500倍の範囲で用いられる。
【0051】
その他、併用できる硬化剤としては、エポキシ樹脂、メチル化メラミン樹脂、ブチル化メラミン樹脂、メチル化メタノールメラミン樹脂、ブチル化メタノールメラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ビスフェノールA、テトラブロムビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、4,4−ビフェニルフェノール、2,2,6,6−テトラメチル−4,4−ビフェニルフェノール、2,2−メチレン−ビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、トリスヒドロキシフェニルメタン、ピロガロール、フェノール系ノボラック樹脂などが挙げられる。硬化剤の配合量は、目的用途に応じ、通常使用する配合量の範囲内で適宜調整して用いられる。
【0052】
光重合開始剤としては、例えば、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、2,2−ジメトキシアセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2−メチル−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノ−1−プロパン−1−オンなどのアセトフェノン系化合物、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン系化合物、ベンゾフェノン、4,4´−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4´−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、3,3−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系化合物、アントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン、1,4−ナフトキノン等のアントラキノン系化合物、ジアセチル、ジベンゾイル、メチルベンゾイルホルメート等のα−ジケトン系化合物、キサントン、チオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン等のキトサン系化合物、2−(3´,4´−ジメトキシスチリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(4´−メトキシナフチル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(2´−ブロモ−4´−メチルフェニル)−4,6−ビス(トリク15メチル)−s−トリアジン等のトリアジン系化合物、4−ジアゾジフェニルアミン、4−ジアゾ−4´−メトキシジフェニルアミン、4−ジアゾ−3−メトキシジフェニルアミン等のジアゾ系化合物を挙げることができる。重合開始剤の添加量は硬化剤100質量部に対し、0.5乃至30質量部、好ましくは1乃至20質量部とする。
【0053】
近赤外線吸収物質としては、この発明のインドレニン環骨格を有するシアニン系色素とは異なるシアニン系色素等のポリメチン系色素、フタロシアニン色素、ナフトキノン系色素、アントラキノン系色素、トリフェニルメタン系色素、アミニウム系色素、ジイモニウム系色素、アゾ系金属錯体、ジアミンシスエチレンチオラトニッケル錯体、ジチオール金属錯体、芳香族ジアミン金属錯体、脂肪族ジアミン金属錯体等の従来から各種用途に用いられている近赤外線吸収色素が挙げられる。これら近赤外線吸収物質の含有量も用途により適宜調整して用いることができる。
【0054】
また、この発明に関わる一般式1乃至一般式3で表されるシアニン系色素からなる発色剤と組合せて用いることのできる発色剤としては、従来から使用されているアントラキノン系化合物、ジケトピロロピロール系化合物、プテリジン系化合物、ジオキサジン系化合物、フタロシアニン系化合物、及びナフタロシアニン系化合物などが挙げられる。これらの発色剤を主要成分とする場合、この発明の発色剤は、上記発色剤に関わる不要な透過光を吸収する特性を有する補正用発色剤として使用することも可能である。組み合わせて使用する場合、この発明の発色剤とこれ以外の発色剤の配合量は、発色剤の彩度、明度等を考慮し、一般式1乃至一般式3で表されるシアニン系色素1質量部に対して、その他の発色剤を0.1質量部乃至100質量部、好ましくは、1質量部乃至50質量部とするのが望ましい。
【0055】
なお、この発明のインドレニン環骨格を有するシアニン色素を含んでなる発色剤を用いてカメラレンズ用カラーフィルターなどのカラーフィルターを作製する場合、透明基材の上に、発色剤とその他の成分を有機溶剤で溶解した液を塗布後、加工形成することによってカラーフィルターを作製するか、或いは、ポリスチレン樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアクリレート樹脂などの熱可塑性樹脂中に混合し、射出成型、延伸などの方法により作製することができる。
【0056】
上記透明基材の材料としては、全可視領域において、光透過率が80%以上、好ましくは、85%以上の、例えば、ABS樹脂、ポリアクリル酸樹脂、ポリアクリル酸エステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメタクリル酸樹脂、ポリメタクリル酸エステル樹脂、さらには、ガラス、セラミックなどが挙げられ、必要に応じて、これらは組み合わせて用いられる。このうち、ポリアクリル酸樹脂、ポリアクリル酸エステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリメタクリル酸樹脂、ポリメタクリル酸エステル樹脂、ガラスが光透過性及び機械的強度の点で、より好ましい。
【0057】
なお、上記透明基材を用いるカラーフィルターは、例えば、透明基材の片面又は両面に密着させて着色層を形成して製造することができる。透明基材の厚みは、透明基材の材質にもよるけれども、強度の点からは、通常、0.5mm以上、好ましくは、1mm以上に、一方、質量の点からは、通常、10mm以下、好ましくは、5mm以下の範囲で加減する。透明基材上に形成されるこの発明の発色剤を含む着色層の厚さは、通常、0.1乃至20μm、好ましくは0.5乃至10μmであることが望ましい。この発明の発色剤を含有するカラーフィルターは、例えば、波長400乃至780nmの白色光源による通過光に対し、赤色用発色剤を含有するフィルターにおいては、赤色の補色波長域である430乃至560nm付近の通過光をカットし、赤色の発色波長領域である590乃至740nmの透過光を有する赤色用フィルターとなり、青色用発色剤を含有するフィルターにおいては、青色の補色波長域の580乃至605nm付近の通過光をカットし、青色の発色波長領域である400乃至540nmの透過光を有する青色用フィルターとなり、緑色用発色剤を含有するフィルターにおいては、緑色の補色波長域の630乃至780nm付近の通過光をカットし、緑色の発色波長領域の480乃至600nmの透過光を有する緑色用フィルターとなる。そして、赤色、緑色および青色のそれぞれのフィルターにおいて、その三原色の基準波長光の透過率は、いずれも70%を上回り実益を有する。
【0058】
以下、この発明の実施の形態につき、実施例を挙げて説明する。なお本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0059】
[発色剤]
反応容器に化学式98で表される化合物31g、オルト蟻酸トリエチル11.6g、ピリジン6.4mlおよび酢酸13.1mlを仕込み100℃の油浴につけ、加熱還流攪拌を5時間行った。反応終了後、ジイソプロピルーテル100ml加え、デカントした後、メタノール150mlを加え、溶解後、純水200mlを加え、メタノ−ルを加熱攪拌留去し、冷却後、結晶を濾別した。得られた粗結晶をメタノ−ル100mlに加熱溶解させた後、結晶化させ、冷却後、濾別した。これを乾燥して、化学式1で表される化合物21gを得た。
【0060】
化学式98:
【化22】
【0061】
結晶の一部をとり、常法によりメタノール溶液における可視吸収スペクトルを測定したところ、本例の化学式1で表される化合物は波長588nm付近に吸収極大(ε=1.23×105)を示した。吸収極大波長を中心とする分子吸光係数の半値幅は53nmであった。また、常法にしたがって、CDClにおけるH−核磁気共鳴スペクトルを測定したところ、化学シフトδ(ppm、TMS)が0.89(6H、t)、1.49(4H、m)、1.85(4H、m)、2.05(12H、s)、4.36(4H、t)、7.26乃至8.16(20H、m)、8.55乃至8.68(2H、m)の位置にそれぞれピークが観察された。
【0062】
また、本例の結晶を適量とり、デジタル熱分析計(商品名『TG/DTA220型』、セイコー電子工業株式会社製造)を用いた示差熱分析及び熱重量分析(熱重量測定−示差熱分析)を行なったところ、本例の化合物の分解温度は274℃であることが分かった。
【0063】
熱に対し安定で、青色の補色波長域の波長光を効率良く吸収し、カラーフィルター、各種インクにおける青色領域の透過光スペクトルの波形を急峻にする本例のシアニン系色素は、青色の発色剤、或いは補正用発色剤として極めて有用である。
【実施例2】
【0064】
[発色剤]
反応容器に化学式99で表される化合物75g、オルト蟻酸トリエチル25gおよびピリジン75mlを仕込み、130℃の油浴につけ、加熱還流攪拌を1.5時間行った。反応終了後、酢酸エチル75mlを加え、続けて、ジイソプロピルーテル375mlを加え、結晶を析出させ、冷却後、濾別した。得られた粗結晶をメタノ−ル300mlに加熱溶解させた後、純水450mlを加え結晶化させ、冷却後、濾別した。これを乾燥して、化学式2で表される化合物57gを得た。
【0065】
化学式99:
【化23】
【0066】
結晶の一部をとり、常法によりメタノール溶液における可視吸収スペクトルを測定したところ、本例の化学式2で表される化合物は、波長588nm付近に吸収極大(ε=1.22×105)を示した。吸収極大波長を中心とする分子吸光係数の半値幅は64nmであった。また、常法にしたがって、CDClにおけるH−核磁気共鳴スペクトルを測定したところ、化学シフトδ(ppm、TMS)が0.93(6H、t)、1.44乃至1.56(4H、m)、1.82乃至1.96(4H、m)、2.06(12H、s)、2.27(3H、s)、4.38(4H、t)、7.12(2H、d)、7.21(2H、d)、7.37(2H、d)、7.48(2H、t)、7.62(2H、t)、7.91乃至7.96(6H、m)、8.12(2H、d)、8.64(1H、t)の位置にそれぞれピークが観察された。
【0067】
また、本例の結晶を適量とり、デジタル熱分析計(商品名『TG/DTA220型』、セイコー電子工業株式会社製造)を用いた示差熱分析及び熱重量分析(熱重量測定−示差熱分析)を行なったところ、本例の化合物の分解温度は281℃であることが分かった。
【0068】
熱に対し安定で、青色の補色波長域の波長光を効率良く吸収し、カラーフィルター、各種インクにおける青色領域の透過光スペクトルの波形を急峻にする本例のシアニン系色素は、青色の発色剤、或いは補正用発色剤として極めて有用である。
【実施例3】
【0069】
[発色剤]
反応容器に化学式100で表される化合物5g、オルト蟻酸トリエチル2.7gおよびピリジン1.47mlを仕込み、70℃の油浴につけ、加熱還流攪拌を2.5時間行った。反応終了後、純水20mlを加え、結晶を析出させ、冷却後、濾別した。これを乾燥して、化学式3で表される化合物4gを得た。
【0070】
化学式100:
【化24】
【0071】
結晶の一部をとり、常法によりメタノール溶液における可視吸収スペクトルを測定したところ、本例の化学式3で表される化合物は、波長548nm付近に吸収極大(ε=1.44×105)を示した。吸収極大波長を中心とする分子吸光係数の半値幅は51nmであった。また、常法にしたがって、CDClにおけるH−核磁気共鳴スペクトルを測定したところ、化学シフトδ(ppm、TMS)が1.17(6H、t)、1.72(12H、s)、3.97(4H、m)、4.27(4H、t)、7.11乃至7.52(10H、m)、8.45(1H、t)の位置にそれぞれピークが観察された。
【0072】
また、本例の結晶を適量とり、デジタル熱分析計(商品名『TG/DTA220型』、セイコー電子工業株式会社製造)を用いた示差熱分析及び熱重量分析(熱重量測定−示差熱分析)を行なったところ、本例の化合物の分解温度は265℃であることが分かった。
【0073】
熱に対し安定で、赤色の補色波長域の波長光を効率良く吸収し、カラーフィルター、各種インクにおける赤色領域の透過光スペクトルの波形を急峻にする本例のシアニン系色素は、赤色の発色剤、或いは補正用発色剤として極めて有用である。
【実施例4】
【0074】
[発色剤]
反応容器に化学式101で表される化合物40g、オルト蟻酸トリエチル16.5gおよびピリジン40mlを仕込み、120℃の油浴につけ、加熱還流攪拌を60分間行った。反応終了後、酢酸エチル40mlを加え、続けてジイソプロピルエーテル200mlを加え、結晶を析出させ、冷却後、濾別した。これを乾燥して、本例の化学式4で表される化合物29gを得た。
【0075】
化学式101
【化25】
【0076】
結晶の一部をとり、常法によりメタノール溶液における可視吸収スペクトルを測定したところ、本例の化学式4で表される化合物は、波長555nm付近に吸収極大(ε=1.28×105)を示した。吸収極大波長を中心とする分子吸光係数の半値幅は58nmであった。また、常法にしたがって、CDClにおけるH−核磁気共鳴スペクトルを測定したところ、化学シフトδ(ppm、TMS)が1.68(12H、s)、2.30(3H、s)、2.41(6H、s)、3.68(6H、s)、6.96乃至7.17(10H、m)、7.89(2H、d)、8.33(1H、t)の位置にそれぞれピークが観察された。
【0077】
また、本例の結晶を適量とり、デジタル熱分析計(商品名『TG/DTA220型』、セイコー電子工業株式会社製造)を用いた示差熱分析及び熱重量分析(熱重量測定−示差熱分析)を行なったところ、本例の化合物の分解温度は284℃であることが分かった。
【0078】
熱に対し安定で、赤色の補色波長域の波長光を効率良く吸収し、カラーフィルター、各種インクにおける赤色領域の透過光スペクトルの波形を急峻にする本例のシアニン系色素は、赤色の発色剤、或いは補正用発色剤として極めて有用である。
【実施例5】
【0079】
[発色剤]
反応容器に化学式102で表される化合物27.3g、オルト蟻酸トリエチル10gおよびピリジン5.5mlを仕込み、130℃の油浴につけ、加熱還流攪拌を90分間行った。反応終了後、メタノール130mlを加え、続けて六弗化燐酸アンモニウム水溶液を加え、結晶を析出させ、冷却後、濾別した。得られた結晶を乾燥して、本例の化学式32で表される化合物20gを得た。
【0080】
化学式102:
【化26】
【0081】
結晶の一部をとり、常法によりメタノール溶液における可視吸収スペクトルを測定したところ、本例の化学式32で表される化合物は、波長599nm付近に吸収極大(ε=1.18×105)を示した。吸収極大波長を中心とする分子吸光係数の半値幅は66nmであった。また、常法にしたがって、CDClにおけるH−核磁気共鳴スペクトルを測定したところ、化学シフトδ(ppm、TMS)が0.87(3H、t)、0.97(3H、t)、2.40(3H、s)、2.90(3H、s)、3.66乃至3.73(2H、m)、4.11乃至4.30(6H、m)、6.39(2H、t)、6.51(2H、t)、6.69乃至6.76(2H、m)、6.87乃至7.03(6H、m)、7.55乃至8.15(10H、m)、8.55(2H、d)、8.42(1H、t)の位置にそれぞれピークが観察された。
【0082】
また、本例の結晶を適量とり、デジタル熱分析計(商品名『TG/DTA220型』、セイコー電子工業株式会社製造)を用いた示差熱分析及び熱重量分析(熱重量測定−示差熱分析)を行なったところ、本例の化合物の分解温度は218℃であることが分かった。
【0083】
熱に対し安定で、緑色の補色波長域の波長光を効率良く吸収し、カラーフィルター、各種インクにおける緑色領域の透過光スペクトルの波形を急峻にする本例のシアニン系色素は、緑色の発色剤、或いは補正用発色剤として極めて有用である。
【実施例6】
【0084】
[発色剤]
反応容器に化学式103で表される化合物50g、プロペンジアニル塩酸塩20gおよびイソプロピルアルコ−ル250mlを仕込み、室温分散下でトリエチルアミン26mlと無水酢酸22mlを滴下した。滴下終了後、70℃の油浴に付け1時間加熱攪拌を行った。反応終了後、純水[300ml]を加え、結晶を析出させ、冷却後、濾別した。得られた結晶を乾燥して、本例の化学式44で表される化合物36gを得た。
【0085】
化学式103;
【化27】
【0086】
結晶の一部をとり、常法によりメタノール溶液における可視吸収スペクトルを測定したところ、本例の化学式44で表される化合物は、波長642nm付近に吸収極大(ε=2.54×105)を示した。吸収極大波長を中心とする分子吸光係数の半値幅は36nmであった。また、常法にしたがって、CDClにおけるH−核磁気共鳴スペクトルを測定したところ、化学シフトδ(ppm、TMS)が1.07(6H、t)、1.79(12H、s)、1.81乃至1.94(4H、m)、4.07(4H、t)、6.33(2H、d)、6.84(1H、t)、7.11(2H、d)、7.22乃至7.40(6H、m)、8.17(2H、t)の位置にそれぞれピークが観察された。
【0087】
また、本例の結晶を適量とり、デジタル熱分析計(商品名『TG/DTA220型』、セイコー電子工業株式会社製造)を用いた示差熱分析及び熱重量分析(熱重量測定−示差熱分析)を行なったところ、本例の化合物の分解温度は246℃であることが分かった。
【0088】
熱に対し安定で、緑色の補色波長域の波長光を効率良く吸収し、カラーフィルター、各種インクにおける緑色領域の透過光スペクトルの波形を急峻にする本例のシアニン系色素は、緑色の発色剤、或いは補正用発色剤として極めて有用である。
【実施例7】
【0089】
[発色剤]
反応容器に化学式104で表される化合物50g、ピリジン14ml、酢酸12mlおよび1,1,3,3−テトラエトキシ2−メチルプロパン27gを仕込み、100℃の油浴につけ、加熱攪拌を3.5時間行った。反応終了後、酢酸エチル500mlを加え、結晶を析出させ、冷却後、濾別する。精製については、溶解時不溶物除去のために濾過を施すと同時にヨウ化ナトリウム水溶液を加え、ヨウ度塩に交換し、得られた結晶を乾燥して、本例の化学式47で表される化合物28gを得た。
【0090】
化学式104
【化28】
【0091】
結晶の一部をとり、常法によりメタノール溶液における可視吸収スペクトルを測定したところ、本例の化学式47で表される化合物は、波長635nm付近に吸収極大(ε=2.52×105)を示した。吸収極大波長を中心とする分子吸光係数の半値幅は47nmであった。本例のシアニン系色素の吸収スペクトルを図1として示す。また、常法にしたがって、CDClにおけるH−核磁気共鳴スペクトルを測定したところ、化学シフトδ(ppm、TMS)が1.68(12H、s)、2.10(3H、s)、2.30(3H、s)、3.70(6H、s)、6.08(2H、d)、7.09乃至7.39(10H、m)、7.88乃至7.96(4H、m)の位置にそれぞれピークが観察された。
【0092】
また、本例の結晶を適量とり、デジタル熱分析計(商品名『TG/DTA220型』、セイコー電子工業株式会社製造)を用いた示差熱分析及び熱重量分析(熱重量測定−示差熱分析)を行なったところ、本例の化合物はの分解温度は265℃であることが分かった。
【0093】
熱に対し安定で、緑色の補色波長域の波長光を効率良く吸収し、カラーフィルター、各種インクにおける緑色領域の透過光スペクトルの波形を急峻にする本例のシアニン系色素は、緑色の発色剤、或いは補正用発色剤として極めて有用である。
【実施例8】
【0094】
<光学フィルターの製造>
バインダー樹脂として飽和共重合ポリエステル系樹脂(商品名『バイロン200』、東洋紡株式会社製造)の20質量%トルエン溶液100質量部と、実施例1乃至実施例4、及び実施例7で得られた化学式1乃至化学式4、化学式47で表されるインドレニン環骨格を有するシアニン系色素のいずれかを発色剤として用い、0.5質量%メチルエチルケトン:メチルセルソルブ=4:6混合溶液とを混合した後、トルエンを加えて、ポリエステル系樹脂の濃度を9質量%に調整した。次いで、バーコーターを用いて、この溶液をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの片面へ均一に塗布し、乾燥させることによって、膜圧4μmの光学フィルターを作製した。比較対象化合物として、光吸収特性と化学構造がこの発明の発色剤とは異なる比較化合物1(λmax:607nm)、比較化合物2(λmax:563nm)および比較化合物3(λmax:424nm)を用い、同様にカラーフィルターを作製した。
【0095】
比較化合物1:
【化29】
【0096】
比較例化合物2:
【化30】
【0097】
比較例化合物3:
【化31】
【0098】
比較対象化合物1を用いた光学フィルターは、赤色の発色波長光付近に吸収極大を有し、比較対象化合物2を用いた光学フィルターは緑色の発色波長光付近に吸収極大を有し、比較対象化合物3を用いた光学フィルターは青色の発色波長光付近に吸収極大を有し、三原色いずれかの波長光の光透過率が60%を下回り、色彩、明度も十分とは言えないのに対し、本例の光学フィルターはいずれも透過率70%を上回り、色純度も良く、赤色、緑色または青色の三原色のいずれかを色純度良く表現できる光学フィルターとなる。さらに本例の発色剤を用いた光学フィルターは、発色剤の熱安定性等、耐環境特性にも優れていることから、例えばカメラレンズ用カラーフィルターなどの光学フィルターとして有利に利用できる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
この発明は、発色剤として有用なインドレニン環骨格を有するシアニン系色素を含んでなる発色剤の創製に基づくものである。この発明による発色剤は、明度、彩度に優れ、さらに耐熱性にも優れていることから、赤色、緑色および青色のいずれかの発色剤として有用なものとなる。
図1