【解決手段】対象音を測定するマイクロホン101と、風速計102と、前記風速計の出力信号から風ノイズ推計レベルを求めるとともに、前記風ノイズ推計レベルと前記マイクロホンの出力値とを処理する演算処理部105、を備えた騒音計100であり、前記風ノイズ推計レベルは、前記風速計の前記出力信号を元に、前記演算処理部において演算を行うことにより求めるものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、先に挙げた騒音に共通するのは、すべて屋外での音響伝播であることである。従って、騒音計は多くの場合、屋外で使用する必要がある。
【0006】
しかし、屋外での騒音計の使用は、気象条件に影響されることになる。特に、低周波騒音の測定においては風の乱れ成分による圧力変動がマイクロホンに作用することが知られており、風雑音(風ノイズ)と呼ばれている。この場合、騒音計の計測値は、測定対象音に風雑音が加わった値となる。風雑音は、風速が弱い場合であっても相当程度発生する。そして、風速が5m/秒を超えると風雑音の影響は無視できないものとなり、ISOのレギュレーションによれば測定を中止しなければならない。従って、屋外での騒音計の使用は、風のない時期を選んで行う必要があり、騒音測定が気象条件によって左右され、季節によっては相当長期間測定ができないという問題があった。
【0007】
これらの問題を解決するため、マイクロホンの周りに防風スクリーン部材を配置することにより風雑音の影響を低減させる技術がある(特許文献1)。
しかし、この技術は直接風雑音の影響を評価するものではない。また、風雑音の影響を完全に除去できるものではない。
【0008】
また、風雑音が低周波成分を主に構成されることに着目し、ハイパスフィルターで風雑音成分を取り除く技術や、一対のマイクロホンに及ぼす風雑音の影響は相関性が低いことに着目し、これを利用して風雑音成分を取り除く技術がある(特許文献2)。
しかし、これらの場合においても、風雑音のマイクロホンに対する作用そのものを評価しているのではなく、風雑音が影響した騒音測定結果に見られる特性や相関を利用したものであるので、測定対象音も一部除去されることを完全に防止できるものではない。
【0009】
一方で、本願発明者らは、風雑音のマイクロホンに対する作用を直接評価してマイクロホンの出力から控除することにより補正し、測定対象音を求める手法を提案している(特許文献3)。そして、風雑音にマイクロホンに対する作用を、回帰式を用いて数値化することを試みている(特許文献4)。
しかし、回帰式を用いての数値化に対し、さらなる精度の向上が求められている。
【0010】
そこで、本件特許発明は、気象条件に左右されない、つまり風が吹いていても通常の使用態様で使用できる高精度の騒音計および騒音計測用プログラムを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、本項において発明とは、出願時の特許請求の範囲に記載されている発明をいう。
第1の発明は、以下の発明である。
【0012】
対象音を測定するマイクロホンと、
風速計と、
前記風速計の出力信号から風ノイズ推計レベルを求めるとともに、前記風ノイズ推計レベルと前記マイクロホンの出力値とを処理する演算処理部、
を備えた騒音計であり、
前記風ノイズ推計レベルは、前記風速計の前記出力信号を元に、前記演算処理部において
【数1】
Lwind :風ノイズ推計レベル(dB)
Iu :乱流強度
u
0 :平均風速
A,B,C :係数
の演算を行うことにより求める騒音計。
【0013】
「対象音」とは、騒音計の測定対象となる音であり、特に低周波音を対象とするが、低周波音のみには限られずその他の帯域の音全般を含む。また可聴領域の音に限られるものではない。
「騒音計」とは、測定対象音が騒音、特に低周波騒音であるものを主とするが、測定対象は騒音に限られるものではない。例えば、受け取る者の主観によって騒音か否かが変化するもの、例えば、コンサートホールや球場で発生する音も含まれる。さらに、社会通念上は騒音に含まれないような音、例えば虫の音や雷の音など自然界で発せられる音も含まれる。
【0014】
第2の発明は、以下の発明である。
風の変動周波数(f)毎に、A,B,Cの値を記憶する記憶手段を有することを特徴とする、第1の発明に記載の騒音計。
【0015】
「記憶手段」とは、各種半導体メモリやハードディスクなどの外部記憶装置などが例として挙げられる。記憶手段は、必ずしも恒久的にA、B,Cの値を保持する必要はなく、必要に応じて書き換えが可能に保持されていてもよい。
【0016】
第3の発明は、以下の発明である。
A、B、Cは、風の変動周波数(f)の関数であることを特徴とする、第1の発明に記載の騒音計。
【0017】
第4の発明は、以下の発明である。
A,B,Cは、(log(f))の項を有する、第3の発明に記載の騒音計。
【0018】
第5の発明は、以下の発明である。
A,B,Cは、
【数2】
で表される、第4の発明に記載の騒音計。
【0019】
第6の発明は、以下の発明である。
マイクロホンの出力値(Lout)を入力するステップと、
風速計の出力信号を入力するステップと、
前記風速計の前記出力信号から風ノイズ推計レベル(Lwind)を求めるステップと、
前記風ノイズ推計レベル(Lwind)と前記マイクロホンの出力値(Lout)とを処理するステップと、
を備えた騒音計測用プログラムであり、
前記風ノイズ推計レベル(Lwind)は、前記風速計の前記出力信号を元に、
【数3】
Lwind :風ノイズ推計レベル(dB)
Iu :乱流強度
u
0 :平均風速
A,B,C :係数
の演算を行うことにより求める騒音計測用プログラム。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、風雑音の評価式が風の乱れ強さと平均風速の関数、さらに望ましくは風の変動周波数と風の乱れ強さと平均風速の関数で表現されており、このような風雑音の理論的根拠を反映した回帰式を利用することで、風雑音の評価精度が向上するという効果を発揮するものである。そして、これにより、風が吹いているときも騒音の測定が可能となり、騒音測定作業の効率を著しく向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(1.本発明の原理)
まず、本発明の原理を説明する。
圧縮性の流れ場の支配方程式には、流体の移流拡散現象に加えて流体の弾性挙動も含まれるので、圧縮性ナビアストークス方程式は音波の伝播現象も同時に表現しており、そこでは速度場と圧縮場は互いに関係する物理量である。
マイクロホンに作用する風圧値と風速の関係は、(1)式のように表現できる。
【数4】
・・・・・・(1)
Pwind :風圧値(パスカル)
Cw :補正係数
ρ :空気の密度
u :風速
ここで、風圧値Pwindは風がマイクロホンに与える風圧値、ρは空気の密度、uは時々刻々と変化する風速である。また風速uは、(2)式のように、平均風速u
0と変動風速u’で表すことができる。なお平均風速値u
0は一定時間の測定風速値uを平均して算出することができる。
【数5】
・・・・・・(2)
u
0 :平均風速値
u’ :変動風速
このように、風速の変動成分により、圧力の変動成分を生じるものである。また補正係数Cwは、マイクロホンの形状や、マイクロホンの風に対する応答のメカニズム(マイクロホンの感度、マイクロホンの周囲の流れ場、風の入射角、風の周波数成分、風速)などに依存する係数である。
【0023】
一方、測定対象音がマイクロホンに作用する場合の音圧値は、(3)式のように表現できる。
【数6】
・・・・・・(3)
Psound :対象音の音圧値(パスカル)
ρ :空気の密度
c :音速
V :粒子速度
ここで、Psoundは測定対象音の音圧値、ρは空気の密度、cは音速、Vは流体粒子(空気)の振動速度である。
【0024】
もし、音圧と風圧が位相的に見て互いに無関係に作用しているとすれば、暗騒音の補正と同様の考え方で、(4)式のように、マイクロホンの出力は実効値レベルで圧力の加算が成り立つ。
【数7】
・・・・・・(4)
Pout :マイクロホンの出力値(パスカル)
ここで、Poutは騒音計のマイクロホンの出力値である。
【0025】
この(4)式はパスカルの次元で記述しているが、dB(デシベル)の基準圧力P
0を20μPa(パスカル)とすれば、
【数8】
・・・・・・(5)
Lout :マイクロホンの出力レベル(dB)
Lsound:対象音の出力レベル(dB)
Lwind :風ノイズ推計レベル(dB)
logは10を基底とする対数である。
そこで、(5)式のLwindを(1)(2)式を用いて変形すると、
【数9】
・・・・・・(6)
【0026】
ここで、風の乱流強度Iuは、(7)式で表すことができる。
【数10】
・・・・・・(7)
Iu :乱流強度
u
0 :平均風速
σ
u :風速変動の標準偏差(実効値)
そして、ρおよびP
0は定数であることから(6)式の第3項を定数Δに置き換える。さらに、(6)式のu’をデシベルの定義に従い実効値σ
uに置き換えるとともに(7)式を変形して代入すれば
【数11】
・・・・・・(8)
Δ :定数
【0027】
このように、理論的に見れば、風ノイズ推計レベルLwindは(8)式のように4つの項で表現される。
【0028】
第1項目のCwは無次元の定数であり、上述の通り、マイクロホンの形状や、マイクロホンの風に対する応答のメカニズム(マイクロホンの感度、マイクロホンの周囲の流れ場、風の入射角、風の周波数成分、風速)などに依存する係数である。そして、この中でも、風の変動周波数fとの関係が密である。
そこで、Cwは、望ましくは風の変動周波数fの関数として表現できる。本発明では以下で説明する通り、1/3オクターブバンドの中心周波数を用いているが、これに限られるものではない。
【0029】
第2項目は、乱流強度Iuの関数、つまり第1項目と同じく風の変動成分の関数となっている。
【0030】
第3項目は、平均風速u
0の関数となっている。
【0031】
第4項目のΔは上述のように、空気の密度ρおよび基準圧力P
0に依存する定数となっている。
【0032】
ただし、(8)式においては、第1項のCwと第4項のΔしか変動要素を見積もることができない。風がマイクロホンに及ぼす影響のメカニズムは複雑であることから、(8)式の第2項と第3項についても、変動要素を見積もることにより、より精密な評価が可能となる。そこで、(8)式の各項に変動要素である係数A,B,C,Dをそれぞれ加えるとともに、Cwがfの関数であることを明示すると、
【数12】
・・・・・・(9)
となる。そして、重回帰分析を行うことで各係数A,B,C,Dを求めることができる。本発明では、精度の高い風ノイズ推計レベルを得るために、1/3オクターブバンドにおける中心周波数fを定め、周波数帯域毎に対応する各係数A,B,C,Dを決定する。そのため、回帰係数を(10)式の通り変形する。
【数13】
・・・・・・(10)
【0033】
そして、(10)式の係数表記を書き換え、以下の(11)式となる。
【数14】
・・・・・・(11)
【0034】
この回帰式は、流れ場の風速と圧力の関係に基づく関数形となっており、従来の実測レベルから導いた回帰関数よりも、本来の物理的な現象を説明するものとしてより適切な形となっている。
【0035】
そして、屋外での測定データを用いて、重回帰分析により、(11)式の係数A,B,Cを求める。測定データを収集する実験フィールドは、風の乱れに影響を与える障害物が少ない広い場所で、極力暗騒音が小さい場所が望ましいことから、秋田県八郎潟で収録を行ったデータを使用している(測定条件1)。
測定は、暗騒音が十分低い場所での風ノイズのみを対象とし、後述の測定装置に用いる係数A、B、Cを求めるための風速およびマイクロホンの出力値(実測値)を測定している。
【0036】
これらの測定データを用いて求めた係数A,B、Cを表1に示す。
【表1】
【0037】
この表のようなテーブルを本発明の騒音計の記憶装置に記憶させ、風速uの測定結果から1/3オクターブバンドの中心周波数f毎にそれぞれの中心周波数fに対応するA,B,Cの値を記憶装置から呼び出すことにより、Lwindを求めることができる。
【0038】
さらに、測定条件を変えて測定したデータを用いてこのようなテーブルを複数準備しておき、測定条件に応じて対応するテーブルを呼び出して用いることにより、より正確にLwindを求めることができる。測定条件としては、用いるウインドスクリーンの形状や種類、平均風速の範囲、その他測定場所の特徴(障害物の多少等)などが挙げられる。
【0039】
さらに、測定条件を変えて係数A,B,Cを求めることにより同様のテーブルを作成し、A、B,Cの値の推移に注目すると、A、B,Cは測定条件によらず同じ挙動を示すことが分かった。そこで、
図3のように測定条件1およぶ測定条件2で求めた中心周波数f毎のA,B,Cをグラフにプロットし中心周波数fを変数とする関数形を求めると、(12)式の関数形が各測定場所に共通の関数形として適していることが分かった。
【数15】
・・・・・・(12)
f :風の1/3オクターブバンドの各帯域毎の中心周波数
a
0、a
1、b
0、b
1、b
2、c
0、c
1、c
2 :係数
【0040】
なお、測定条件ごとの係数は以下の通りである。
(測定条件1)
【数16】
(測定条件2)
【数17】
【0041】
したがって、表1のようなテーブルを記憶装置に格納する代わりに、(12)式および(12)式の係数a
0、a
1、b
0、b
1、b
2、c
0、c
1、c
2を記憶装置に格納しておき、測定条件に応じて対応する係数を呼び出して用いるようにすれば、A,B,Cの係数を測定条件毎に格納する必要がないので、必要なメモリ量を削減することができる。
【0042】
(2.本発明の騒音計および騒音計測用プログラムの構成)
図1は、本発明の実施例である騒音計の概略構成図である。
騒音計100は、マイクロホン101、風速計102、設置スタンド103、計測ケーブル104、情報処理装置105、外部電源106からなる。
【0043】
マイクロホン101は、測定対象音の音圧値を測定する装置である。ただし上述の通り、マイクロホン101が計測する音圧値、すなわちマイクロホン101の出力値は、(4)式の通り、測定対象音の真の音圧値と風圧値とが重畳されたものである。
【0044】
本実施形態では、低周波騒音を測定するため、マイクロホン101として低周波マイクロホンを使用している。また、マイクロホン101の周りには球状のウィンドスクリーンを設け、風の影響を緩和するようにしている。
【0045】
風速計102は、風速を計測する装置である。本実施形態では、2次元あるいは3次元の超音波風速計を用い、測定した風速成分から算出されるスカラー風速を採用している。その他、熱線流速計など、任意の種類の風速計が使用可能である。
【0046】
そして、マイクロホン101に作用する風圧を評価する必要があるので、風速計102はマイクロホン101と隣接するように設けられている。もっともマイクロホン101と風速計102との相互干渉を避けるため、ある程度離間させて設けるのが望ましい。
【0047】
マイクロホン101と風速計102とは、相互の位置関係を固定するため、設置スタンド103に固定され一体化されている。そして、音圧と風速の同期計測が可能となっている。
【0048】
計測ケーブル104は、マイクロホン101と後述の情報処理装置105、および風速計102と情報処理装置105とを接続するものである。そして、それぞれ、マイクロホンの出力値、および風速を情報処理装置105に伝達するものである。
【0049】
情報処理装置105は、演算処理部に対応し、マイクロホン101からの出力値、および風速計102からの出力信号の入力を受ける。そして、風速計102の出力信号から風がマイクロホンに及ぼす風圧値を求めるとともに、マイクロホン101で測定された音圧値(出力値)に対し、風雑音の影響を除去する補正に必要な演算を行い、測定対象音の真の音圧値を情報処理装置105の表示装置に出力する。また、情報処理装置105は、演算結果に基づきオクターブ分析、1/3オクターブ分析、FFT(高速フーリエ変換)分析を行い、この結果を表示装置に出力したり、風速計102の出力信号から風速を求め、これを表示装置に出力するといった役割も担っている。そのほか、騒音計の出力として、等価騒音レベル(Leq)、レベル最大値(Lmax)、時系列のレベル(LP)、低周波特性(LG)を求めるための演算や、風速計の出力信号から、平均風速u
0、風の乱れ強度Iu、最大風速、風の変動周波数f、時系列波形を求めるための演算も行う。
【0050】
外部電源106は、情報処理装置105および必要に応じマイクロホン101および風速計102を駆動するための電力を供給している。
【0051】
以上が本発明の騒音計の構成であるが、騒音計の具体的な構成はこれに限るものではない。例えば、情報処理装置105は、専用の装置の他、汎用のPCやタブレット、あるいはスマートフォンなどを用いることも可能である。また、特許文献3および特許文献4で本発明者らが提案したように、従来のハンディタイプの騒音計に風速計を一体化して設け、風速計の出力信号を処理可能なプログラムを用いた演算装置を内蔵するなど、任意の構成をとることができる。
【0052】
なお、従来騒音計は、例えばハンディタイプの騒音計のように、騒音を計測する装置として一体物として供給されてきた。しかし、本発明は、従来の騒音計部分に加えて、風速計、その他の計測装置や情報処理装置も含むものである。本発明では、風速計やその他の計測装置および情報処理装置を一体として有する形態はもちろん、
図1のようにこれらを別体として有する形態も全体として騒音計を構成する。すなわち、本発明の騒音計は、騒音測定装置ないし騒音測定システムとしての概念を包含するものである。
【0053】
(3.本発明の騒音計および騒音計測用プログラムの動作)
次に、本発明の騒音計100の騒音測定時の動作について説明する。
図2は、騒音計の動作を図示したフローチャートである。かかる動作は、情報処理装置105の記憶装置に格納された騒音計測用プログラムを展開し、実行することにより実現することが可能である。
【0054】
騒音計100の使用者は、情報処理装置105の操作により、騒音測定を開始する(S1)。
【0055】
マイクロホン101で測定された出力値Poutは、電気信号に変換され、情報処理装置105に入力される。ここで上述の通り、測定された出力値Poutは、風の影響が重畳した値となっているので、測定対象音源から発生した正確な音圧値ではない。一方風速計102で測定された出力信号である風速uも同様に電気信号に変換され、情報処理装置105に入力される(S2)。
【0056】
情報処理装置105は、出力値Poutおよび風速uから、測定対象音の正確な音圧値Psoundを求める。
【0057】
まず、所定時間測定されたuの平均値(平均風速値u
0)を求める。さらに、(2)式に基づき変動風速u’を求めた後、(7)式に基づき、平均風速値u
0および変動風速u’(風速変動の標準偏差σ
u)から、乱流強度Iuを求める(S3)。
【0058】
そして、平均風速値u
0および乱流強度Iu、さらには風の変動周波数fに応じた係数A,B,Cを情報処理装置105に設けられた記憶装置から呼び出し、これらを用いて(11)式に基づき、風ノイズ推計レベル(dB)Lwindを求める(S4)。
【0059】
最後に、風ノイズ推計レベル(dB)Lwindを風圧値(パスカル)Pwindに変換するとともに、風圧値(パスカル)Pwindがマイクロホンの出力値(パスカル)Poutより小さい条件を満たすとき、これとマイクロホンの出力値(パスカル)Poutとから(4)式を用いて、対象音の音圧値(パスカル)Psoundを求めることができる(S5)。
【0060】
そして、情報処理装置105に設けられた表示装置に、Psound、あるいはデシベル表示のLsoundを表示する(S6)。この他、LoutやLwindを必要に応じて表示してもよい。
さらに、測定者が入力した命令に従い、情報処理装置105はあらかじめ記憶装置に格納されたプログラムにしたがって、等価騒音レベル(Leq)、レベル最大値(Lmax)、時系列のレベル(LP)、低周波特性(LG)を求めたり、オクターブ分析、1/3オクターブ分析、FFT(高速フーリエ変換)分析を行い、分析結果を表示装置に表示することもできる。
また、測定者の命令に従い、風速計102の出力から、平均風速u
0、風の乱れ強度Iu、最大風速、風の変動周波数f、時系列波形を求め、表示装置に表示することもできる。
【0061】
本実施例では、(4)式に従いPoutの実効値からPwindの実効値を減算した値をそのままPsoundとして用いたが、他の必要な演算をさらに行うことを排除するものではない。例えば、PoutないしPwindのいずれか一方ないし両方に補正係数をかけて減算を行うことも、ここでいう減算に該当する。
また、上記演算は一例であり、演算の途中経過は任意である。
さらに、Lwindを求める(11)式は、(2)式や(7)式、あるいは変動周波数fなどを用いて式変形が可能であるが、(11)式から式変形したものをS4で用いることも等価であり、可能である。
【0062】
なお、S4で風の変動周波数fに応じた係数A,B,Cを記憶装置から呼び出して用いているが、これに代えて記憶装置から式(12)の関数を呼び出し、風の変動周波数fを用いて係数A,B,Cを求めてもよい。
【0063】
(4.本発明の騒音計および騒音計測用プログラムの効果、および従来の回帰式との比較)
(11)式の回帰式を用いた本発明の騒音計の出力結果(推定値)(Method 2)と実測値との比較を
図4,
図5に示す。
図4は、風圧値を時間軸に対しプロットしたものであるが、本発明の出力結果と実測値とは非常によく合致している。また、
図5は風圧値を1/3オクターブレベルの中心周波数毎にプロットしたものであるが、こちらも本発明の出力結果と実測値とは非常によく合致している。
【0064】
図6は、回帰式を用いた出力結果と実測値との関係を散布図で表したものである。
図6(a)は従来発明者らが提案した回帰式である下記(13)式(Method 1)、
図6(b)は本発明の回帰式である(11)式(Method 2)、を用いた場合である。
【数18】
・・・・・・(13)
f :風の1/3オクターブバンドの各帯域毎の中心周波数
Iu :乱流強度
A、B :係数
c
a、d
a、c
b、d
b :係数
【0065】
図6より、何れの回帰式による出力結果も実測値とよく合致しているが、本発明の回帰式(11)の方が従来発明者らが提案した回帰式(13)よりも、偏差がやや小さいので、精度は高いといえる。
【0066】
また、
図7の通り、1/3オクターブバンドレベル毎の回帰式による出力結果と実測値との標準偏差を求めた。その結果、従来の回帰式(13)(Method 1)では、10Hz帯域以上で標準偏差が大きくなる傾向に対し、本発明の回帰式(11)(Method 2)では、対象とする全周波数領域において同程度の標準偏差が得られている。つまり、本発明の回帰式(11)の方が精度のよい出力結果が得られているといえる。