【実施例1】
【0017】
図1は、実施例1に用いられるFETの断面図である。
図1に示すように、基板40に、バッファ層42、電子走行層44、電子供給層46およびキャップ層48が順次形成され窒化物半導体層50を形成している。基板40は、例えばSiC、サファイアまたはSiからなる基板である。バッファ層42は、例えば膜厚が300nmのAlN層である。電子走行層44は、例えば膜厚が1000nmのGaN層である。電子供給層46は、例えば膜厚が20nmのn型AlGaN層である。キャップ層48は、例えば膜厚が5nmのn型GaN層である。窒化物半導体層50上にゲート電極54、ソース電極52およびドレイン電極56が形成されている。ゲート電極54は、窒化物半導体層50の上面において、ソース電極52とドレイン電極56の間に配置されている。ソース電極52およびドレイン電極56は、例えば窒化物半導体層50側からTa層およびAl層から形成されている。ゲート電極54は、例えば窒化物半導体層50側からNi層およびAu層から形成されている。ゲート電極54を覆うように、窒化物半導体層50上に例えば窒化シリコン膜からなる絶縁膜58が形成されている。窒化物半導体層50は、上記各層に限られない。例えば、窒化物半導体層50としてInGaN、AlInGaN、またはInAlNなどを用いることもできる。
【0018】
例えば、
図1に示した窒化物半導体層50を用いたFETにおいては、基板40と窒化物半導体層50との異種の材料を接合している。このため、接合面または接合面の近傍の窒化物半導体層50に深い電子トラップが形成される。この電子トラップが電子を捕獲または放出することにより、ドレイン電流ドリフトが生じる。深い電子トラップは、異種材料の接合に起因する空孔または不純物により形成されるものと考えられている。このように、ドレイン電流ドリフトは、窒化物半導体層50を用いた半導体装置特有の現象である。なお、以下の実施例は、窒化物半導体層を用いた増幅回路に限られず、経時変化を有する増幅回路に適用できる。
【0019】
図2は、実施例1に係る増幅回路の回路図である。増幅回路100は、パワーアンプ11、検出部12、出力部14、生成部16を主に備えている。パワーアンプ11は、窒化物半導体からなるFET10を含む。FET10のソース端子Sは接地されている。ゲート端子Gには入力端子Tinから高周波信号が入力する。入力端子Tinには、チョークインダクタL1を介し出力部14からゲートバイアス電圧Vgが印加される。終端用のキャパシタC1が、インダクタL1と出力部14との間のノードと、グランドと、の間に接続されている。
【0020】
FET10のドレイン端子Dは出力端子Toutに増幅した高周波信号を出力する。出力端子Toutには、チョークインダクタL2を介しドレインバイアス電圧VDが印加される。雑音除去用のキャパシタC2が、インダクタL2とドレイン電源との間のノードと、グランドと、の間に接続されている。インダクタL2とドレイン電源との間には抵抗R1が直列に接続されている。
【0021】
検出部12は、抵抗R1の両端の電位差からFET10のドレインアイドル電流をドレイン電流Idとして検出する。検出部12は、基準電圧VRを用い検出されたドレイン電流Idに応じた電圧Va(第1電圧)を生成し、出力部14に電圧Vaを出力する。
【0022】
生成部16は、電圧Vaとは独立して固定値の電圧VREF(第2電圧)を生成する。生成部16は、電源17と雑音除去用のキャパシタC3を備えている。電源17は、固定電圧VREFを生成する。キャパシタC3は、電源17の出力とグランドとの間に接続されている。
【0023】
出力部14は、入力された電圧Vaと電圧VREFとのうち高い一方を出力電圧としてFET10のゲート端子Gに出力する。出力電圧はFET10のゲートバイアス電圧Vgとして出力される。
【0024】
実施例1との比較のため比較例1について説明する。
図3は、比較例1に係る増幅回路の回路図である。
図3に示すように、増幅回路110は、制御部30および出力部32を備えている。制御部30は、検出されたドレイン電流Idが所定値より小さい場合は、ドレイン電流Idに応じた電圧Vbを出力部32に出力する。一方、検出されたドレイン電流Idが所定値以上の場合は、固定値の電圧VRを電圧Vbとして出力部32に出力する。出力部32は、制御部30の出力電圧Vbをゲートバイアス電圧Vgとしてパワーアンプ11のFET10のゲート端子Gに印加する。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0025】
図4は、実施例1における時間に対するドレイン電流等を示す模式図であり、ドレイン電流ドリフトがない場合の例である。
図4を参照して、ドレイン電流Idは、ドレインアイドル電流に対応する。閾値電圧VthはFET10の閾値電圧である。電圧Va、電圧VREFおよびゲートバイアス電圧Vgは、高周波信号に対し十分周波数の低い直流成分の電圧である。時間t0において、ドレイン電流Id、閾値電圧Vth、電圧Va、電圧VREFおよびゲートバイアス電圧Vgは、それぞれ例えば150mA、−2.5V、−2V、−2Vおよび−2Vである。
【0026】
時間t1とt2との間に入力端子Tinに大電力の高周波信号が入力される。時間t1とt2との間においては、ドレイン電流の直流成分が大きくなるためドレイン電流Idが大きくなる。このため、検出部12の出力電圧Vaは例えば−2.3Vとなる。ドレイン電流ドリフトが発生しないため、閾値電圧Vthは−2.5Vで一定である。電圧VREFは固定値である−2Vである。ゲートバイアス電圧Vgは−2Vである。時間t2後にドレイン電流Idのドリフトが生じていないため、各値は時間t0の値に戻る。
【0027】
図4において、大電力の信号が入力する時間t1とt2との間において、ドレイン電流Idは大きくなる。このため、検出部12の出力電圧Vaは、例えば−2Vから−2.3Vに変化する。しかしながら、出力部14は、電圧Vaより電圧の高い電圧VREFをゲートバイアス電圧Vgとして出力する。よって、大電力の信号が入力する時間t1とt2との間において、ゲートバイアス電圧Vgは変化しない。仮に、大電力の信号が入力する時間t1とt2との間において、ゲートバイアス電圧Vgが変化すると、増幅回路100の最大出力電圧の低下、ゲインの低下、またはエラー率の劣化等を招いてしまう。実施例1によれば、時間t1とt2との間において、ゲートバイアス電圧Vgが変化しないことにより、増幅回路100の出力電力の低下、ゲインの低下、またはエラー率の劣化等を抑制できる。
【0028】
図5は、実施例1における時間に対するドレイン電流等を示す模式図であり、ドレイン電流ドリフトがある場合の例である。
図5を参照して、ドレイン電流Idは、ドレインアイドル電流に対応する。電圧Va、電圧VREFおよびゲートバイアス電圧Vgは、高周波信号に対し十分周波数の低い直流成分の電圧である。時間t0からt2におけるドレイン電流Id、閾値電圧Vth、電圧Va、電圧VREFおよびゲートバイアス電圧Vgは、
図4と同じである。時間t2において大電力の高周波信号がオフする。時間t2の後、ドレイン電流ドリフトのため閾値電圧Vthが例えば−2.2Vとなり、その後徐々に−2.5Vに戻る。ドレイン電流Idが小さくなるため、検出部12は、ドレイン電流Idの低下を検出し、出力電圧Vaとして例えば−1.7Vを出力する。出力部14は、電圧Vaが電圧VREFより高いため、電圧Vaをゲートバイアス電圧Vgとして出力する。これにより、FET10のドレイン電流Idが大きくなるようにゲートバイアス電圧Vgがフィードバックされ、ドレイン電流Idは変化しない。閾値電圧Vthが例えば−2.2Vから徐々に−2.5Vに戻るに従い、電圧VaおよびVgは、例えば−1.7Vから徐々に−2Vに戻る。
【0029】
図6は、比較例1における時間に対するドレイン電流等を示す模式図であり、ドレイン電流ドリフトがある場合の例である。電圧Vbは制御部30の出力電圧、電圧Vgは出力部32の出力電圧である。制御部30は、ドレイン電流Idが所定値より小さい場合は、ドレイン電流Idに応じた電圧Vbを出力部32に出力し、ドレイン電流Idが所定値以上の場合は、固定電圧として例えば−2Vを電圧Vbとして出力する。よって、理想的には、
図6のドレイン電流Idにおける実線のように、実施例1の
図5と同様となることが好ましい。
【0030】
しかしながら、比較例1においては、制御部30等で生じる雑音を除去するためキャパシタC1のキャパシタンスを大きくする。これにより、ゲートバイアス電圧Vgが時間t2後に破線のようにゆっくり立ち上がる。このため、ドレイン電流Idが破線のように時間t2後に低下する。
【0031】
このように、比較例1では、キャパシタC1のキャパシタンスを大きくすると検出部12および制御部30等に起因した雑音を除去できる。例えば、キャパシタC1のキャパシタンスを数10nFから1μFとする。例えば、キャパシタC1のキャパシタンスが100nFであり、出力部32の出力抵抗が100Ωのとき、出力部32の出力の遅延時間は10μ秒となる。これにより、時間t2直後にドレイン電流Idが低下してしまう。よって、増幅回路110における利得の低下および/または歪み特性が劣化する。一方、キャパシタC1のキャパシタンスを小さくすると、ドレイン電流Idの低下を抑制できるが、ゲートバイアス電圧Vgに雑音が重畳する。これにより、増幅回路110における歪み特性が劣化する。
【0032】
実施例1においては、キャパシタC1は、インダクタL1の終端用であり、高周波信号が1GHz程度では、キャパシタC1のキャパシタンスは10pFから100pFである。生成部16において低雑音の電圧VREFを生成する。例えばキャパシタC3のキャパシンタンスを大きくすることにより、電圧VREFの雑音を抑制できる。これにより、
図4の時間t0から時間t2において、ゲートバイアス電圧Vgに重畳される雑音を抑制できる。キャパシタC1のキャパシタンスを小さくすることにより、時間t2以降において、検出部12および出力部14によるフィードバックを高速応答させることができる。例えば、キャパシタC1のキャパシタンスを100pFとすると、出力部14の遅延時間を10n秒とすることができる。よって、時間t2直後にドレイン電流Idが低下することを抑制できる。
【0033】
実施例1においても、時間t2以降に検出部12で生成される雑音は除去できない。しかしながら、検出部12が生成した電圧Vaをゲートバイアス電圧Vgとして出力するのはドレイン電流ドリフトが発生したときである。ドレイン電流ドリフトが発生している期間は全体期間に対し短く、全体期間のほとんどはドレイン電流ドリフトが発生していない。ドレイン電流ドリフトが発生していないときは、低雑音の電圧VREFがゲートバイアス電圧Vgとなる。
【0034】
実施例1によれば、出力部14が、検出部12が出力した電圧Vaと固定値の電圧VREFのうち高い一方をゲートバイアス電圧Vgとしてパワーアンプ11のゲート端子Gにバイアス電圧を出力する。これにより、ドレイン電流ドリフトが発生した場合にゲートバイアス電圧Vgへの高速なフィードバックが可能であり、かつゲートバイアス電圧Vgへの雑音の重畳を抑制することが可能となる。
【0035】
また、キャパシタC1(第1キャパシタ)が出力部14の出力端子とグランド(基準電位)との間に接続されている。キャパシタC3(第2キャパシタ)が生成部16の出力端子とグランド(基準電位)との間に接続されている。キャパシタC3はキャパシタC1よりキャパシタンスの大きいことが好ましい。これにより、電圧VREFがゲートバイアス電圧Vgとして供給されている間におけるゲートバイアス電圧Vgに重畳される雑音を抑制できる。キャパシタC2はインダクタL2の終端用であり、キャパシタC1とC2とのキャパシタンスは同程度である。
【実施例2】
【0036】
図7は、実施例2に係る増幅回路の回路図である。
図7に示すように、増幅回路102において、検出部12は、差動増幅回路28と抵抗R11からR14を備えている。抵抗R11は、差動増幅回路28の正入力端子と、抵抗R1とインダクタL2との間のノードとの間に接続されている。抵抗R12は、差動増幅回路28の負入力端子とドレイン電圧VDとの間に接続されている。抵抗R13は、差動増幅回路28の出力端子と負入力端子との間に接続されている。抵抗R14は、差動増幅回路28の正入力端子と、抵抗R2とR3との間のノードと、の間に接続されている。抵抗R2とR3とは電圧VRとグランドとの間に直接に接続されている。ドレイン電流Idが大きくなると出力電圧Vaは負側に変化し、ドレイン電流Idが小さくなると出力電圧Vaは正側に変化する。抵抗R2およびR3は、抵抗分割により差動増幅回路28の正入力端子に出力する電圧を調整している。他の方法で電圧を調整してもよい。抵抗R11〜R14の抵抗値は例えば等しく設定されている。抵抗R11〜R14の抵抗値を異ならせることにより、差動増幅回路22の増幅率等を変更することもできる。
【0037】
出力部14は、出力回路20および24と、出力回路20および24の出力が共通に接続する出力ノードN1を備えている。出力回路20は、差動増幅回路22(第1差動増幅回路)およびダイオードD1(第1ダイオード)を有する。差動増幅回路22の正入力端子には検出部12の出力電圧Vaが入力する。差動増幅回路22の出力端子にはダイオードD1のアノードが接続されている。差動増幅回路22の負入力端子にはダイオードD1のカソードが接続されている。すなわち、差動増幅回路22の出力端子はダイオードD1を順方向に介し負入力端子に入力する。
【0038】
出力回路24は、差動増幅回路26(第2差動増幅回路)およびダイオードD2(第2ダイオード)を有する。差動増幅回路26の正入力端子には生成部16の出力電圧VREFが入力する。差動増幅回路26の出力端子にはダイオードD2のアノードが接続されている。差動増幅回路26の負入力端子にはダイオードD2のカソードが接続されている。ダイオードD2のカソードは出力回路24の出力をノードN1に出力する。すなわち、差動増幅回路26の出力端子はダイオードD1を順方向に介し負入力端子に入力する。抵抗R4の一端はノードN1に、他端は電圧VREFより低い電圧Veの電源に接続されている。
【0039】
出力回路20および24はボルテージフォロア回路であるが、ダイオードD1およびD2がそれぞれ、出力回路20および24の出力方向が順方向となるように接続されている。これにより、出力回路20および24の出力電圧がノードN1の電圧より高いとき、出力回路20および24の出力インピーダンスZ1は低い。出力回路20および24の出力電圧がノードN1の電圧より低いとき、出力回路20および24の出力インピーダンスZ2は、ダイオードD1およびD2の逆方向となり高くなる。抵抗R4の抵抗値をZ1より高くZ2より低く設定する。これにより、ノードN1の電圧が電圧Vaより高いと出力回路10は電流をノードN1に出力できない。ノードN1の電圧がVREFより高いと出力回路24は電流をノードN1に出力できない。よって、ノードN1は、電圧VaとVREFのいずれか高い方の電圧となる。
【0040】
実施例2によれば、出力回路20は、電圧VaがノードN1の電圧より高いとき抵抗R4の抵抗値より低い出力インピーダンスとなり、ノードN1の電圧が電圧Vaより高いとき、抵抗R4の抵抗値より高い出力インピーダンスとなる。また、出力回路24は、電圧VREFがノードN1の電圧より高いとき抵抗R4の抵抗値より低い出力インピーダンスとなり、ノードN1の電圧が電圧VREFより高いとき、抵抗R4の抵抗値より高い出力インピーダンスとなる。これにより、出力部14は、電圧VaとVREFのうち高い電圧をノードN1に出力できる。
【0041】
図8は、出力部の別の例である。
図8に示すように、出力回路20はトランジスタ36および38、抵抗R5を有している。トランジスタ36は、pnp型バイポーラトランジスタであり、トランジスタ38は、npn型バイポーラトランジスタである。トランジスタ36のエミッタは抵抗R5を介し高電圧電源に接続される。ベースには電圧Vaが入力する。コレクタは低電圧電源に接続されている。トランジスタ38のエミッタはノードN1に接続されている。ベースはトランジスタ36のエミッタに接続されている。コレクタは高電圧電源に接続されている。トランジスタ36はコレクタ接地接続されており、エミッタからの出力インピーダンスが低い。トランジスタ38は、ベース−エミッタがノードN1の方向に順方向に接続されている。
【0042】
出力回路24はトランジスタ37および39、抵抗R6を有している。トランジスタ37および39、抵抗R6は、それぞれ出力回路20のトランジスタ36および38、抵抗R5と同様に接続されており、各機能も同じであり説明を省略する。このように、2つのトランジスタを用いることにより、出力回路20および24を形成することもできる。
【0043】
図8の出力回路20は、電圧VaがノードN1の電圧より高いとき抵抗R4の抵抗値より低い出力インピーダンスとなり、ノードN1の電圧が電圧Vaより高いとき、抵抗R4の抵抗値より高い出力インピーダンスとなる。また、出力回路24は、電圧VREFがノードN1の電圧より高いとき抵抗R4の抵抗値より低い出力インピーダンスとなり、ノードN1の電圧が電圧VREFより高いとき、抵抗R4の抵抗値より高い出力インピーダンスとなる。