特開2015-41998(P2015-41998A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友電工デバイス・イノベーション株式会社の特許一覧

<>
  • 特開2015041998-増幅回路 図000003
  • 特開2015041998-増幅回路 図000004
  • 特開2015041998-増幅回路 図000005
  • 特開2015041998-増幅回路 図000006
  • 特開2015041998-増幅回路 図000007
  • 特開2015041998-増幅回路 図000008
  • 特開2015041998-増幅回路 図000009
  • 特開2015041998-増幅回路 図000010
  • 特開2015041998-増幅回路 図000011
  • 特開2015041998-増幅回路 図000012
  • 特開2015041998-増幅回路 図000013
  • 特開2015041998-増幅回路 図000014
  • 特開2015041998-増幅回路 図000015
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-41998(P2015-41998A)
(43)【公開日】2015年3月2日
(54)【発明の名称】増幅回路
(51)【国際特許分類】
   H03F 3/24 20060101AFI20150203BHJP
   H03F 1/32 20060101ALI20150203BHJP
   H03F 3/34 20060101ALI20150203BHJP
【FI】
   H03F3/24
   H03F1/32
   H03F3/34 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-173860(P2013-173860)
(22)【出願日】2013年8月23日
(71)【出願人】
【識別番号】000154325
【氏名又は名称】住友電工デバイス・イノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】井上 真吾
【テーマコード(参考)】
5J500
【Fターム(参考)】
5J500AA01
5J500AA41
5J500AA58
5J500AA63
5J500AC12
5J500AC21
5J500AF10
5J500AH02
5J500AH09
5J500AH19
5J500AH24
5J500AH25
5J500AH29
5J500AH33
5J500AK01
5J500AK11
5J500AK12
5J500AK28
5J500AM20
5J500AM23
5J500AQ02
5J500AS14
5J500AT06
5J500NG01
5J500NN06
5J500NN15
(57)【要約】
【課題】ドレイン電流ドリフトの補償の動作点の複雑な調整を不要とし、FET特性の変化によるドレイン電流ドリフトの補償の動作点の変化に起因した補償の異常を抑制すること。
【解決手段】高周波信号がゲート端子に入力されるFET10からなるパワーアンプ11と、前記パワーアンプのドレインアイドル電流を検出し、前記ドレインアイドル電流に応じた第1電圧を出力する検出部12と、前記第1電圧が低下する場合に前記第1電圧から第1応答時間で前記第1電圧に応じたゲートバイアス電圧を生成し、前記パワーアンプのゲート端子に出力し、前記第1電圧が上昇する場合に前記第1電圧から前記第1応答時間より短い第2応答時間で前記第1電圧に応じた前記ゲートバイアス電圧を生成し、前記ゲート端子に出力する出力部15と、を具備する増幅回路。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波信号がゲート端子に入力されるFETを含むパワーアンプと、
前記FETのドレインアイドル電流を検出し、前記ドレインアイドル電流に応じた第1電圧を出力する検出部と、
前記第1電圧が低下する場合に前記第1電圧から第1応答時間で前記第1電圧に応じたゲートバイアス電圧を生成し、前記FETのゲート端子に出力し、前記第1電圧が上昇する場合に前記第1電圧から前記第1応答時間より短い第2応答時間で前記第1電圧に応じた前記ゲートバイアス電圧を生成し、前記ゲート端子に出力する出力部と、
を具備することを特徴とする増幅回路。
【請求項2】
前記高周波信号には、他の期間よりも電力が大きい大電力期間が存在し、前記第1応答時間は、前記大電力期間よりも短いことを特徴とする請求項1記載の増幅回路。
【請求項3】
前記ドレインアイドル電流は、ドハティ増幅回路のメインアンプに含まれるFETのドレインアイドル電流であり、前記ゲートバイアス電圧は、前記メインアンプに含まれるFETのゲートバイアス電圧であることを特徴とする請求項1または2記載の増幅回路。
【請求項4】
前記パワーアンプのドレイン電圧を制御するエンベロープコントローラを具備することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項記載の増幅回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増幅回路に関し、例えば、ドレインアイドル電流に応じゲートバイアス電圧を制御する増幅回路に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の携帯電話用基地局等においては、高出力かつ高効率な高周波増幅回路が求められている。シリコンまたはGaAsを用いた増幅回路に代わりGaN等の窒化物半導体FET(Field Effect Transistor)を用いた高周波増幅回路が用いられはじめている。窒化物半導体を用いた増幅回路は、高電圧動作、高電流密度動作が可能であり、高熱伝導性の基板を選択することもできる。このように、窒化物半導体を用いた増幅回路は、高出力高周波増幅回路として優れている。
【0003】
いっぽう、とりわけ窒化物半導体を用い増幅回路においては、ドレインアイドル電流が、例えば大電力を入力するストレスにより変動することが知られている。ここで、ドレインアイドル電流とは、ゲート端子に高周波信号を入力しない状態でドレインに流れる電流を指す。この現象はドレインアイドル電流のドリフトと呼ばれている。ドレインアイドル電流のドリフトが発生すると、利得低下および/または歪み特性の劣化が生じることが知られている。特許文献1には、窒化物半導体を用いた増幅回路において、ドレインアイドル電流のドリフトが生じた場合に、ゲートバイアス電圧を制御することにより利得の低下または歪み特性の劣化を抑制する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−9200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、ドレインアイドル電流のドリフト(以下ドレイン電流ドラフトともいう)の補償を行なうためのドレイン電流の基準値をスイッチを用い複雑な調整を行なうことになる。また、窒化物半導体FETの特性が温度変化および/または経年変化した場合、ドレイン電流ドリフトの補償を行なうためのドレイン電流の基準値が変化し、ドレイン電流ドリフトの補償が正常に行なわれない場合がある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、ドレイン電流ドリフトの補償の異常を抑制することを可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、窒化物半導体層を有し、かつ高周波信号がゲート端子に入力されるFETからなるパワーアンプと、前記パワーアンプのドレインアイドル電流を検出し、前記ドレインアイドル電流に応じた第1電圧を出力する検出部と、前記第1電圧が低下する場合に前記第1電圧から第1応答時間で前記第1電圧に応じたゲートバイアス電圧を生成し、前記パワーアンプのゲート端子に出力し、前記第1電圧が上昇する場合に前記第1電圧から前記第1応答時間より短い第2応答時間で前記第1電圧に応じた前記ゲートバイアス電圧を生成し、前記ゲート端子に出力する出力部と、を具備することを特徴とする増幅回路である。
【0008】
上記構成において、前記高周波信号には、他の期間よりも電力が大きい大電力期間が存在し、前記第1応答時間は、前記大電力期間よりも短い構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記ドレインアイドル電流は、ドハティ増幅回路のメインアンプに含まれるFETのドレインアイドル電流であり、前記ゲートバイアス電圧は、前記メインアンプに含まれるFETのゲートバイアス電圧である構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記パワーアンプのドレイン電圧を制御するエンベロープコントローラを具備する構成とすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ドレイン電流ドリフトの補償の異常を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施例1に用いられるFETの断面図である。
図2図2は、実施例1に係る増幅回路の回路図である。
図3図3は、比較例1に係る増幅回路の回路図である。
図4図4は、実施例1における時間に対するドレイン電流等を示す模式図であり、ドレイン電流ドリフトがない場合の例である。
図5図5は、実施例1における時間に対するドレイン電流等を示す模式図であり、ドレイン電流ドリフトがある場合の例である。
図6図6は、比較例1における時間に対するドレイン電流等を示す模式図であり、ドレイン電流ドリフトがある場合の例である。
図7図7は、比較例1における時間に対するドレイン電流を示す模式図である。
図8図8は、実施例2に係る増幅回路の回路図である。
図9図9(a)から図9(c)は、出力部の別の例である。
図10図10(a)および図10(b)は、出力部のさらに別の例である。
図11図11(a)および図11(b)は、出力部のさらに別の例である。
図12図12は、実施例3に係る増幅回路のブロック図である。
図13図13は、実施例4に係る増幅回路のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照し、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0014】
図1は、実施例1に用いられるFETの断面図である。図1に示すように、基板40に、バッファ層42、電子走行層44、電子供給層46およびキャップ層48が順次形成され窒化物半導体層50を形成している。基板40は、例えばSiC、サファイアまたはSiからなる基板である。バッファ層42は、例えば膜厚が300nmのAlN層である。電子走行層44は、例えば膜厚が1000nmのGaN層である。電子供給層46は、例えば膜厚が20nmのn型AlGaN層である。キャップ層48は、例えば膜厚が5nmのn型GaN層である。窒化物半導体層50上にゲート電極54、ソース電極52およびドレイン電極56が形成されている。ゲート電極54は、窒化物半導体層50の上面において、ソース電極52とドレイン電極56の間に配置されている。ソース電極52およびドレイン電極56は、例えば窒化物半導体層50側からTa層およびAl層から形成されている。ゲート電極54は、例えば窒化物半導体層50側からNi層およびAu層から形成されている。ゲート電極54を覆うように、窒化物半導体層50上に例えば窒化シリコン膜からなる絶縁膜58が形成されている。窒化物半導体層50は、上記各層に限られない。例えば、窒化物半導体層50としてInGaN、AlInGaN、またはInAlNなどを用いることもできる。
【0015】
例えば、図1に示した窒化物半導体層50を用いたFETにおいては、基板40と窒化物半導体層50との異種の材料を接合している。このため、接合面または接合面の近傍の窒化物半導体層50に深い電子トラップが形成される。この電子トラップが電子を捕獲または放出することにより、ドレイン電流ドリフトが生じる。深い電子トラップは、異種材料の接合に起因する空孔または不純物により形成されるものと考えられている。このように、ドレイン電流ドリフトは、窒化物半導体層50を用いた半導体装置特有の現象である。以下の実施例は、窒化物半導体層を用いた増幅回路に限られず、経時変化を有する増幅回路に適用できる。
【0016】
図2は、実施例1に係る増幅回路の回路図である。増幅回路100は、パワーアンプ11、検出部12および出力部15を主に備えている。パワーアンプ11は、窒化物半導体からなるFET10から形成されている。FET10のソース端子Sは接地されている。ゲート端子Gには入力端子Tinから高周波信号が入力する。入力端子Tinには、チョークインダクタL1を介し出力部15からゲートバイアス電圧Vgが印加される。終端用のキャパシタC1が、インダクタL1と出力部15との間のノードと、グランドと、の間に接続されている。
【0017】
FET10のドレイン端子Dは出力端子Toutに増幅した高周波信号を出力する。出力端子Toutには、チョークインダクタL2を介しドレインアイドル電圧VDが印加される。雑音除去用のキャパシタC2が、インダクタL2とドレイン電源との間のノードと、グランドと、の間に接続されている。インダクタL2とドレイン電源との間には抵抗R1が直列に接続されている。
【0018】
検出部12は、抵抗R1の両端の電位差からFET10のドレインアイドル電流をドレイン電流Idとして検出する。検出部12は、基準電圧VRを用い検出されたドレイン電流Idに応じた電圧Va(第1電圧)を生成し、出力部15に電圧Vaを出力する。
【0019】
出力部15は、第1回路14および第2回路16を備えている。第1回路14は、電圧Vaが低下する場合に第1応答時間で電圧Vaから電圧Vb(第2電圧)を生成し、電圧Vaが上昇する場合に第1応答時間より速い第2応答時間で応答し電圧Vaから電圧Vbを生成する。第2回路16は、電圧Vbをゲートバイアス電圧VgとしてFET10のゲート端子Gに出力する。
【0020】
実施例1との比較のため比較例1について説明する。図3は、比較例1に係る増幅回路の回路図である。図3に示すように、増幅回路110は、制御部30、出力部32およびスイッチ34を備えている。制御部30は、検出されたドレイン電流Idが基準値より小さい場合は、ドレイン電流Idに応じた電圧Vbを出力部32に出力する。一方、検出されたドレイン電流Idが基準値以上の場合は、固定値の電圧VRを電圧Vbとして出力部32に出力する。出力部32は、制御部30の出力電圧Vbをゲートバイアス電圧Vgとしてパワーアンプ11のFET10のゲート端子Gに印加する。スイッチ34は、出力部32の出力と電圧VRとのいずれかを選択し、FET10のゲート端子Gに出力する。増幅回路110の初期調整またはFET特性が経年変化した場合に、ドレイン電流の基準値を調整するために、スイッチ18はゲート端子Gに電圧VRを印加する。増幅回路110の動作時は、スイッチ18はゲート端子Gに出力部32の出力を出力する。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0021】
図4は、実施例1における時間に対するドレイン電流等を示す模式図であり、ドレイン電流ドリフトがない場合の例である。ドレイン電流Idは、ドレインアイドル電流に対応する。閾値電圧VthはFET10の閾値電圧である。電圧Va、電圧Vbおよびゲートバイアス電圧Vgは、高周波信号に対し十分周波数の低い直流成分の電圧である。時間t0において、ドレイン電流Id、閾値電圧Vth、電圧Va、電圧Vbおよびゲートバイアス電圧Vgは、それぞれ例えば150mA、−2.5V、−2V、−2Vおよび−2Vである。
【0022】
時間t1とt2との間に入力端子Tinに大電力の高周波信号が入力される。時間t1とt2との間においては、ドレイン電流の直流成分が大きくなるためドレイン電流Idが大きくなる。このため、検出部12の出力電圧Vaは例えば−2.3Vとなる。ドレイン電流ドリフトが発生しないため、閾値電圧Vthは−2.5Vで一定である。電圧Vbは、第1応答時間で応答する。第1応答時間は、t1とt2との期間より十分長いため、時間t2においても電圧Vbは−2Vからほとんど低下しない。ゲートバイアス電圧Vgは電圧Vbとほぼ同じであり、ほとんど−2Vである。時間t2後にドレイン電流Idのドリフトが生じていない。電圧Vaが−2Vに戻ると、電圧Vbは第2応答時間で応答する。第2応答時間は、第1応答時間より速いため、電圧VbおよびVgは時間t2後直ぐに−2Vに戻る。
【0023】
図4において、大電力の信号が入力する時間t1とt2との間において、ドレイン電流Idは大きくなる。このため、検出部12の出力電圧Vaは、例えば−2Vから−2.3Vに変化する。しかしながら、第1回路14は、電圧Vbとして、ほぼ−2Vを出力する。よって、大電力の信号が入力する時間t1とt2との間において、ゲートバイアス電圧Vgはほとんど変化しない。仮に、大電力の信号が入力する時間t1とt2との間において、ゲートバイアス電圧Vgが変化すると、増幅回路100の最大出力電圧の低下、ゲインの低下、またはエラー率の劣化等を招いてしまう。実施例1によれば、時間t1とt2との間において、ゲートバイアス電圧Vgがほとんど変化しないことにより、増幅回路100の出力電力の低下、ゲインの低下、またはエラー率の劣化等を抑制できる。
【0024】
図5は、実施例1における時間に対するドレイン電流等を示す模式図であり、ドレイン電流ドリフトがある場合の例である。ドレイン電流Idは、ドレインアイドル電流に対応する。電圧Va、電圧Vbおよびゲートバイアス電圧Vgは、高周波信号に対し十分周波数の低い直流成分の電圧である。時間t0からt2におけるドレイン電流Id、閾値電圧Vth、電圧Va、電圧Vbおよびゲートバイアス電圧Vgは、図4と同じである。時間t2において大電力の高周波信号がオフする。時間t2の後、ドレイン電流ドリフトのため閾値電圧Vthが例えば−2.2Vとなり、その後徐々に−2.5Vに戻る。ドレイン電流Idが小さくなるため、検出部12は、ドレイン電流Idの低下を検出し、電圧Vaとして例えば−1.7Vを出力する。電圧Vaが上昇するときの第2応答時間は速いため、電圧Vbは、直ぐに電圧Vaに追従する。これにより、FET10のドレイン電流Idが大きくなるようにゲートバイアス電圧Vgがフィードバックされ、結果としてドレイン電流Idは変化しない。閾値電圧Vthが例えば−2.2Vから徐々に−2.5Vに戻るに従い、電圧Va、VbおよびVgは、例えば−1.7Vから徐々に−2Vに戻る。
【0025】
図6は、比較例1における時間に対するドレイン電流等を示す模式図であり、ドレイン電流ドリフトがある場合の例である。電圧Vbは制御部30の出力電圧、電圧Vgは出力部32の出力電圧である。制御部30は、ドレイン電流Idが基準値(例えば150mA)より小さい場合は、ドレイン電流Idに応じた電圧Vbを出力部32に出力し、ドレイン電流Idが基準値以上の場合は、固定電圧として例えば−2Vを電圧Vbとして出力する。時間t0からt2の間は、ドレイン電流Idは基準値以上である。よって、電圧VbおよびVgは、時間t2まで−2Vと一定である。時間t2以降においてドレイン電流ドリフトが発生すると、ドレイン電流Idは基準値より小さくなろうとする。よって、電圧VbおよびVgは、ほぼ電圧Vaとなる。これにより、ドレイン電流ドリフトが補償され、ドレイン電流Idはほとんど変化しない。
【0026】
図7は、比較例1における時間に対するドレイン電流を示す模式図である。図7において、実線80は、図6のドレイン電流Idと同じである。破線81は、FET10の特性が温度変化および/または経年変化し、ドレインアイドル電流が大きくなった場合を示している。一点鎖線82のように、ドレイン電流ドリフトが発生してもドレイン電流は一定であることが好ましい。仮にドレイン電流ドリフトの補償を行なわないと、点線83のように、時間t2直後においてドレイン電流が大きく低下してしまう。比較例1においては、制御部30が電圧Vbを一定にするか電圧Vaにするか判定する基準値が一定である。このため、ドレイン電流ドリフトが発生しても一部の期間でドレイン電流ドリフトの補償のフィードバックがかからない。よって、破線81のように、時間t2直後において、ドレイン電流のドリフトが一部残ってしまう。これにより、増幅回路110において利得の低下および歪み特性の劣化が生じてしまう。
【0027】
実施例1によれば、出力部15は、電圧Vaが低下する場合に電圧Vaから第1応答時間で電圧Vaに応じたゲートバイアス電圧Vgを生成し、ゲート端子Gに出力する。出力部15は、電圧Vaが上昇する場合に電圧Vaから第1応答時間より短い第2応答時間で電圧Vaに応じたゲートバイアス電圧Vgを生成し、ゲート端子Gに出力する。これにより、第1応答時間より長い時間で考えれば、ドリフト電流はほぼ一定の電流となる。よって、FET特性が温度変化および/または経年変化してもドレインアイドル電流をほぼ一定に保つ。よって、図7の破線81のようなFET特性の変化に起因し、ドレイン電流ドリフトの補償が異常となることを抑制することができる。よって、低下および歪み特性の劣化を抑制できる。さらに、比較例1のように、スイッチ18を用いた複雑な基準値の設定を行なわなくてもよい。
【0028】
また、第2応答時間は、高周波信号に大電力が入力する期間(t1とt2との間の期間)より長い。これにより、時間t2までに電圧VbおよびVgが低下してしまうことを抑制できる。第2応答時間は、例えば100m秒以上が好ましい。
【0029】
さらに、第1応答時間は、高周波信号に大電力が入力する期間より短い。すなわち、高周波信号には、他の期間よりも電力が大きい大電力期間が存在し、第1応答時間は、大電力期間よりも短い。これにより、ドレイン電流ドリフトの応答に電圧VbおよびVgを十分追従させることができる。第1応答時間は、例えば1μ秒以下が好ましい。
【実施例2】
【0030】
図8は、実施例2に係る増幅回路の回路図である。図8に示すように、検出部12は、差動増幅回路28と抵抗R11からR14を備えている。抵抗R11は、差動増幅回路28の正入力端子と、抵抗R1とインダクタL2との間のノードとの間に接続されている。抵抗R12は、差動増幅回路28の負入力端子とドレイン電圧VDとの間に接続されている。抵抗R13は、差動増幅回路28の出力端子と負入力端子との間に接続されている。抵抗R14は、差動増幅回路28の正入力端子と、抵抗R2とR3との間のノードと、の間に接続されている。抵抗R2とR3とは電圧VRとグランドとの間に直接に接続されている。ドレイン電流Idが大きくなると出力電圧Vaは負側に変化し、ドレイン電流Idが小さくなると出力電圧Vaは正側に変化する。抵抗R2およびR3は、抵抗分割により差動増幅回路28の正入力端子に出力する電圧を調整している。他の方法で電圧を調整してもよい。抵抗R11〜R14の抵抗値は例えば等しく設定されている。抵抗R11〜R14の抵抗値を異ならせることにより、差動増幅回路22の増幅率等を変更することもできる。
【0031】
第1回路14は、差動増幅回路22、ダイオードD1、抵抗R4およびキャパシタC3を備えている。電圧Vaが差動増幅回路22の正入力端子に入力する。差動増幅回路22の出力端子には、ダイオードD1のアノードと抵抗R4の一端が共通に接続されている。ダイオードD1のカソードと抵抗R4の他端は共通に差動増幅回路22の負入力端子に接続され、キャパシタC3を介しグランドに接続され、かつ電圧Vbを出力する。
【0032】
電圧Vaが上昇するときには、電圧Vaが電圧Vbより高くなる。よって、ダイオードD1の順方向に電流が流れ、キャパシタC3が充電される。ダイオードD1の順方向のインピーダンスは抵抗R4の抵抗値より十分低い。これにより、電圧Vbは速い応答時間で電圧Vaに追従し応答する。一方、電圧Vaが低下するときには、電圧Vaが電圧Vbより低くなる。よって、電流はダイオードD1を介さず抵抗R4を介し流れ、キャパシタC3が放電される。よって、電圧Vbは遅い応答時間で電圧Vaに追従し応答する。このように、第1回路14は、電圧Vaに対し非対称な応答速度で追従し電圧Vbを生成する。
【0033】
第2回路16は、差動増幅回路24と抵抗R5およびR6を備えている。電圧Vbが抵抗R5を介し差動増幅回路24の正入力端子に入力する。差動増幅回路24の出力端子が抵抗R6を介し差動増幅回路24の負入力端子に接続されている。以上により、第2回路16は、ボルテージフォロア回路として機能する。よって、第2回路16は、電圧Vbをゲートバイアス電圧Vgとして出力する。また、第2回路16の出力インピーダンスを第1回路14の出力インピーダンスより低くできる。
【0034】
図9(a)から図9(c)は、出力部の別の例である。図9(a)に示すように、図8のキャパシタC3の充放電の機能とキャパシタC1の雑音除去機能を1つのキャパシタC1で兼ねている。このように、第2回路16を省略してもよい。これにより、出力部15が簡素となり、実装面積の削減およびコストを低減することができる。
【0035】
図9(b)に示すように、ダイオードD1が差動増幅回路20の出力に直列に接続され、抵抗R7とキャパシタC3とが負電圧VRに接続されていてもよい。キャパシタC3の充電の際は、ダイオードD1の順方向に電流が流れるため応答時間が速い。キャパシタC3の放電の際は、ダイオードD1には電流が流れず、抵抗R7を介し負電圧VRに放電される。よって、応答時間が長くなる。第2回路16における抵抗の図示を省略しているが、第2回路16は図8と同じ構成である。図9(c)に示すように、図9(b)の第2回路16を省略し、キャパシタC1が、図9(b)のキャパシタC1およびC3の機能を兼ねていてもよい。
【0036】
図10(a)および図10(b)は、出力部のさらに別の例である。図10(a)に示すように、第1回路14は、pnp型バイポーラトランジスタ36および39、npn型バイポーラトランジスタ37および38、並びに抵抗R20からR22を備えている。電圧Vaは、トランジスタ36および37のベースに入力する。トランジスタ36のエミッタは抵抗R20を介し高電圧電源に接続されている。トランジスタ36のコレクタは低電圧電源に接続されている。トランジスタ37のエミッタは抵抗R21を介し低電圧電源に接続されている。トランジスタ37のコレクタは高電圧電源に接続されている。トランジスタ38のベースはトランジスタ36のエミッタに接続されている。トランジスタ38のコレクタは高電圧電源に接続されている。トランジスタ39のベースはトランジスタ37のエミッタに接続されている。トランジスタ39のコレクタは低電圧電源に接続されている。トランジスタ38および39のエミッタは共通に第1回路14の出力端子に接続されている。トランジスタ39のエミッタは抵抗R22を介し出力端子に接続されている。キャパシタC3は出力端子とグランドとの間に接続されている。
【0037】
トランジスタ36から39は、ボルテージフォロアとして機能し、電圧Vbが電圧Vaと同じになるように、トランジスタ38および39が電流を流す。電圧Vaが上昇すると、トランジスタ38がキャパシタC3を高速に充電する。電圧Vaが低下すると、トランジスタ39がキャパシタC3を充電する。しかし、抵抗R22のため、キャパシタC3の放電は低速になる。これにより、第1応答時間を第2応答時間より遅くできる。第2回路16における抵抗の図示を省略しているが、第2回路16は図8と同じ構成である。図10(b)に示すように、図10(a)の第2回路16を省略し、キャパシタC1が、図10(a)のキャパシタC1およびC3の機能を兼ねていてもよい。
【0038】
図11(a)および図11(b)は、出力部のさらに別の例である。図11(a)は、図10(a)のトランジスタ38、抵抗R22およびトランジスタ39を、複数のトランジスタ38およびトランジスタ39に置き換えた回路である。トランジスタ36のエミッタが複数のトランジスタ38のベースに接続されている。トランジスタ37のエミッタがトランジスタ39のベースに接続されている。トランジスタ39のエミッタに抵抗R22が接続されていない。その他の構成は、図10(b)と同じであり説明を省略する。キャパシタC3を充電することきは、複数のトランジスタ38が駆動するため、高速に充電される。キャパシタC3を放電するときはトランジスタ38より少ない(例えば1つ)トランジスタ39が駆動するため低速に放電される。これにより、第1応答時間を第2応答時間より遅くできる。第2回路16における抵抗の図示を省略しているが、第2回路16は図8と同じ構成である。図11(b)に示すように、図11(a)の第2回路16を省略し、キャパシタC1が、図11(a)のキャパシタC1およびC3の機能を兼ねていてもよい。
【0039】
図9(a)から図11(b)のように、出力部15として、任意の回路を用いることができる。
【実施例3】
【0040】
実施例3は、実施例1または2に係る増幅回路をドハティ型増幅回路に適用する例である。図12は、実施例3に係る増幅回路のブロック図である。図12に示すように、増幅回路104は、メインアンプ60、ピークアンプ62、1/4波長位相線路64および66および回路70を備えるドハティ型増幅回路である。入力端子Tinはメインアンプ60の入力に電気的に接続され、かつ1/4波長位相線路66を介しピークアンプ62の入力に電気的に接続されている。出力端子Toutは1/4波長位相線路64を介しメインアンプ60の出力に電気的に接続され、かつピークアンプ62の出力に電気的に接続されている。メインアンプ60は、例えばA級またはAB級アンプであり、入力端子Tinに入力した入力信号を常に増幅する。ピークアンプ62は、例えばC級アンプであり、入力信号が所定電力以上の場合、入力信号を増幅する。よって、メインアンプ60はドレインアイドル電流が流れているが、ピークアンプ62はアイドル電流が流れていない。このため、ドレイン電流のドリフトが問題になるのは、主にメインアンプ60である。
【0041】
回路70は、実施例1の抵抗R1、検出部12および出力部15に対応する。回路70の抵抗R1および検出部12は、メインアンプ60のドレイン電流を検出する。回路70の出力部15がメインアンプ60のゲートバイアス電圧を制御する。これにより、ドハティ型増幅回路においてもドレイン電流ドリフトに起因したゲイン低下等を抑制することができる。
【実施例4】
【0042】
実施例4は、実施例1または2に係る増幅回路をエンベロープトラッキング方式増幅回路に適用する例である。図13は、実施例4に係る増幅回路のブロック図である。図13に示すように、増幅回路106において、入力端子Tinはパワーアンプ72の入力に電気的に接続されている。出力端子Toutは、パワーアンプ72の出力に電気的に接続されている。エンベロープコントローラ74は、パワーアンプ72のドレイン電圧を制御する。回路70の抵抗R1および検出部12は、パワーアンプ72のドレイン電流を検出する。回路70の出力部15がパワーアンプ72のゲートバイアス電圧を制御する。
【0043】
エンベロープトラッキング方式では、エンベロープコントローラ74が変調信号のエンベロープ(変調信号波の振幅)に合わせてパワーアンプ72のドレイン電圧を高速で制御する。ドレイン電圧を高電圧(例えば50V)から低電圧(例えば10V)に変化させた場合、高電圧のストレスにより、ドレイン電流のドリフトが発生し、低電圧時にバイアス点がシフトしてしまう。そこで、回路70を用いることにより、低電圧時のドレイン電流ドリフトを補償し、バイアス点を一定に保つことができる。なお、検出部12は、抵抗R1の両端の電位差を検知している。このため、ドレイン電圧の絶対値が変化しても、ドレイン電流の大小により検出部12は実施例1または2と同様に動作することができる。
【0044】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0045】
10 FET
11 パワーアンプ
12 検出部
14 第1回路
15 出力部
16 第2回路
60 メインアンプ
62 ピークアンプ
70 回路
74 エンベロープコントローラ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13