【解決手段】(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を含み、重量平均分子量(Mw)が100,000〜500,000であり、ガラス転移温度(Tg)が−65℃〜10℃である(メタ)アクリル系ポリマー(A)と、重量平均分子量(Mw)が1000〜10000であり、ガラス転移温度(Tg)が20℃〜105℃である(メタ)アクリル系オリゴマー(B)と、を含有するセラミック成形用バインダー組成物である。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を含み、重量平均分子量(Mw)が100,000〜500,000であり、ガラス転移温度(Tg)が−65℃〜10℃である(メタ)アクリル系ポリマー(A)と、
重量平均分子量(Mw)が1,000〜10,000であり、ガラス転移温度(Tg)が20℃〜105℃である(メタ)アクリル系オリゴマー(B)と、
を含有するセラミック成形用バインダー組成物。
前記(メタ)アクリル系オリゴマー(B)に対する(メタ)アクリル系ポリマー(A)の含有比率〔(A)/(B)〕が、質量基準で95/5〜50/50である請求項1に記載のセラミック成形用バインダー組成物。
前記(メタ)アクリル系ポリマー(A)及び前記(メタ)アクリル系オリゴマー(B)の少なくとも一方は、更に、ジカルボン酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を有する請求項1又は請求項2に記載のセラミック成形用バインダー組成物。
前記ジカルボン酸アルキルエステル単量体の少なくとも一種が、2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸、2−メタクリロイルオキシエチルマレイン酸、2−メタクリロイルオキシエチルフタル酸、又は2−メタクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸である請求項3に記載のセラミック成形用バインダー組成物。
前記(メタ)アクリル系ポリマー(A)及び前記(メタ)アクリル系オリゴマー(B)の少なくとも一方における、前記ジカルボン酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位の含有比率は、ポリマー又はオリゴマーの全質量に対して、0.1質量%〜25質量%である請求項3又は請求項4に記載のセラミック成形用バインダー組成物。
前記(メタ)アクリル系オリゴマー(B)は、前記ジカルボン酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を含み、かつ前記(メタ)アクリル系ポリマー(A)中における前記ジカルボン酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位の含有量は、ポリマー全質量に対して0.5質量%未満である請求項3〜請求項5のいずれか1項に記載のセラミック成形用バインダー組成物。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を含み、重量平均分子量(Mw)が100,000〜500,000であり、ガラス転移温度(Tg)が−65℃〜10℃である(メタ)アクリル系ポリマー(A)、重量平均分子量(Mw)が1000〜10000であり、ガラス転移温度(Tg)が20℃〜105℃である(メタ)アクリル系オリゴマー(B)、及びセラミック粉末を含有するセラミックグリーンシート。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
最近では、電子部品の小型化、及びこれに伴なうセラミックグリーンシートの薄膜化に対する要求が高まる傾向にある。その一方、グリーンシートには、高い強度を有するとともに、機械的な打ち抜き加工やプレス加工等の際にクラックが生じない可撓性を有することが求められている。そのため、セラミックグリーンシートを薄膜化しようとすると、厚みが薄くなる分の強度が低下しやすく、グリーンシートとしての性能を保てない。しかしながら、強度を維持するため、単に使用するバインダー樹脂のTgを高める等により硬くするのみでは、シートが脆くなり、加工時にクラックが発生しやすい。
【0007】
上記の従来技術のうち、特許文献1のようにアクリル樹脂を使用したグリーンシートでは、バインダーにアクリル樹脂を用いているため、脱脂性に優れ、残炭率が低い点で有用なものの、ヤング率が小さいために変形しやすく、寸法安定性に劣る課題がある。そのため、単に薄膜化してしまうと、変形耐性が得られず、所望とする寸法安定性を保持することができない。
【0008】
また、(メタ)アクリル系ポリマーと(メタ)アクリル系オリゴマーを用いた特許文献2では、分子量こそ異なるものの、Tgが同じ(メタ)アクリル系のポリマー同士を混合した組成のため、やはり強度が不足し、所望とする寸法安定性を保持することは困難である。
【0009】
一方、従来から使用されているポリビニルブチラールでは、強靭なグリーンシートを得やすいが、脱脂性に劣り、焼成後の残渣が多くなってしまう課題がある。
【0010】
以上のように、近年の電子部品の小型化等に伴なってグリーンシートなどのセラミック成形体の薄膜化が要求される状況下において、必要とされる強度を保持しつつ、加工時にクラック等を生じにくい可撓性を兼ね備え得る技術は、未だ確立されるに至っていない。
【0011】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、焼成性をそなえると共に、成形後の強度、寸法安定性、及び可撓性に優れたセラミック成形用バインダー組成物、及び可撓性と優れた強度及び寸法安定性とを兼ねそなえたセラミックグリーンシートを提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、(メタ)アクリル系のポリマーをバインダー樹脂として用いた組成において、このポリマーよりもガラス転移温度(Tg)の高い(メタ)アクリル系のオリゴマーを含有することで、成形した場合(例えばグリーンシートを作製した場合)に、可撓性を低下させることなく、寸法安定性を高めることができるとの知見を得、かかる知見に基づいて達成されたものである。
したがって、本発明のセラミック成形用バインダー組成物は、可撓性を有しながら、寸法安定性及び強度に優れたセラミック成形体の作製が可能であり、本発明のセラミックグリーンシートは、可撓性と強度及び寸法安定性とに優れている。
【0013】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> (メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を含み、重量平均分子量(Mw)が100,000〜500,000であり、ガラス転移温度(Tg)が−65℃〜10℃である(メタ)アクリル系ポリマー(A)と、重量平均分子量(Mw)が1,000〜10,000であり、ガラス転移温度(Tg)が20℃〜105℃である(メタ)アクリル系オリゴマー(B)と、を含有するセラミック成形用バインダー組成物である。
【0014】
<2> 前記(メタ)アクリル系オリゴマー(B)に対する(メタ)アクリル系ポリマー(A)の含有比率〔(A)/(B)〕が、質量基準で95/5〜50/50である前記<1>に記載のセラミック成形用バインダー組成物である。
【0015】
<3> 前記(メタ)アクリル系ポリマー(A)及び前記(メタ)アクリル系オリゴマー(B)の少なくとも一方は、更に、ジカルボン酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を有する前記<1>又は前記<2>に記載のセラミック成形用バインダー組成物である。
【0016】
<4> 前記ジカルボン酸アルキルエステル単量体の少なくとも一種が、2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸、2−メタクリロイルオキシエチルマレイン酸、2−メタクリロイルオキシエチルフタル酸、又は2−メタクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸である前記<3>に記載のセラミック成形用バインダー組成物である。
【0017】
<5> 前記(メタ)アクリル系ポリマー(A)及び前記(メタ)アクリル系オリゴマー(B)の少なくとも一方における、前記ジカルボン酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位の含有比率は、ポリマー又はオリゴマーの全質量に対して、0.1質量%〜25質量%である前記<3>又は前記<4>に記載のセラミック成形用バインダー組成物である。
【0018】
<6> 前記(メタ)アクリル系オリゴマー(B)は、前記ジカルボン酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を含み、かつ前記(メタ)アクリル系ポリマー(A)中における前記ジカルボン酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位の含有量は、ポリマー全質量に対して0.5質量%未満である前記<3>〜前記<5>のいずれか1つに記載のセラミック成形用バインダー組成物である。
【0019】
<7> (メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を含み、重量平均分子量(Mw)が100,000〜500,000であり、ガラス転移温度(Tg)が−65℃〜10℃である(メタ)アクリル系ポリマー(A)、重量平均分子量(Mw)が1000〜10000であり、ガラス転移温度(Tg)が20℃〜105℃である(メタ)アクリル系オリゴマー(B)、及びセラミック粉末を含有するセラミックグリーンシートである。
本発明のセラミックグリーンシートは、前記<1>〜前記<6>のいずれか1つに記載のセラミック成形用バインダー組成物を含有するセラミックスラリーを用いて例えば支持基材上に塗布等により成形される態様が好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、焼成性をそなえると共に、成形後の強度、寸法安定性、及び可撓性に優れたセラミック成形用バインダー組成物、及び可撓性と優れた強度及び寸法安定性とを兼ねそなえたセラミックグリーンシートが提供される。
【0021】
本発明のセラミック成形用バインダー組成物及びセラミックグリーンシートは、特に、薄層化したセラミック層により構成される、セラミック多層基板、積層セラミックコンデンサ等の積層型電子部品の作製に適している。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明のセラミック成形用バインダー組成物、及びこれを用いたセラミックグリーンシートについて詳細に説明する。
【0023】
<セラミック成形用バインダー組成物>
本発明のセラミック成形用バインダー組成物は、(A)(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を含む(メタ)アクリル系ポリマー(重量平均分子量(Mw;以下「Mw」と略記することがある。)=100,000〜500,000(10万〜50万)、ガラス転移温度(Tg;以下「Tg」と略記することがある。)=−65℃〜10℃)と、(B)(メタ)アクリル系オリゴマー(Mw=1,000〜10,000、Tg=20℃〜105℃)と、を用いて構成されている。本発明のセラミック成形用バインダー組成物は、必要に応じて、更に、溶剤や水、各種添加剤などを用いて構成することができる。
【0024】
本発明のセラミック成形用バインダー組成物においては、(メタ)アクリル系の組成に構成されることで残渣の少ない焼成性を保持するとともに、(メタ)アクリル系ポリマー(A)と該(メタ)アクリル系ポリマー(A)よりも低分子でTgの高い(メタ)アクリル系オリゴマー(B)とを含有することで、可撓性を低下させることなく、良好な強度が得られ、寸法安定性に優れたものとなる。
【0025】
本明細書中の「〜」の表記は、これを含めて示される数値範囲が、その下限値及び上限値の双方を含む範囲を表すものである。
また、本明細書において、「(メタ)アクリル」の語は、「アクリル」及び「メタクリル」の双方を包含する意味で用いられるものである。
また、セラミック成形用バインダー組成物中の(メタ)アクリル系ポリマー(A)及び(メタ)アクリル系オリゴマー(B)を含む樹脂成分を、総じて「バインダー樹脂」ともいう。
【0026】
−(メタ)アクリル系ポリマー(A)−
本発明のセラミック成形用バインダー組成物は、(メタ)アクリル系ポリマー(A)の少なくとも一種を含有する。
【0027】
本発明における(メタ)アクリル系ポリマー(A)は、少なくとも、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を有し、好ましくはジカルボン酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を有し、必要に応じて、更に他の構成単位を設けて構成することができる。
(メタ)アクリル系ポリマー(A)のうち、より好ましくは、主成分として(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を有し、さらにジカルボン酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を有する。なお、主成分とは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位の、(メタ)アクリル系ポリマー(A)中に占める比率が50質量%以上であることをいう。
【0028】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体は、炭素数1〜18のアルキル部位を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、i−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、i−ノニル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、n−ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、及びステアリル(メタ)アクリレート、等が挙げられる。
中でも、ポリマーの重合度、セラミックグリーンシートの生密度を適切な範囲に制御し易い点で、炭素数1〜8のアルキル部位を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、炭素数1〜4のアルキル部位を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。
【0029】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位の、(メタ)アクリル系ポリマー(A)中における比率としては、全構成単位に対して、60質量%以上が好ましく、75.0質量%以上がより好ましく、90.0質量%以上が特に好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体は、共重合体を構成する主成分として含有され、その含有比率が前記範囲内であると、焼成性を良好に保持することができる点で有利である。
【0030】
(メタ)アクリル系ポリマー(A)は、ジカルボン酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を有していることが好ましい。ジカルボン酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を含むことで、セラミック粉と混合した場合に、セラミック粉の分散性が向上し、セラミック粉とバインダー樹脂とが分離してセラミック粉が偏在するのを防ぐことができる。これにより、良好な強度を保持しやすく、寸法安定性により優れたものとなる。
【0031】
ジカルボン酸アルキルエステル単量体としては、炭素数1〜4のアルキル部位及び不飽和二重結合を有するジカルボン酸アルキルエステルが好ましく、例えば、2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸などのコハク酸の(メタ)アクリロイルオキシ置換アルキルエステル、2−メタクリロイルオキシエチルマレイン酸などのマレイン酸の(メタ)アクリロイルオキシ置換アルキルエステル、2−メタクリロイルオキシエチルフタル酸や2−メタクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸などのフタル酸の(メタ)アクリロイルオキシ置換アルキルエステル、等が挙げられる。
【0032】
ジカルボン酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を含む場合は、ジカルボン酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位の含有比率は、(メタ)アクリル系ポリマー(A)の全質量に対して、0.1質量%〜25質量%が好ましく、0.5質量%〜25質量%がより好ましく、1.0質量%〜5.0質量%がさらに好ましい。
ジカルボン酸アルキルエステル単量体の含有量が0.1質量%以上であることで、セラミック粉と混合した場合の分散性向上効果に優れる。また、ジカルボン酸アルキルエステル単量体の含有量が25質量%以下であることで、焼成性を良好に保持することができる。
【0033】
(メタ)アクリル系ポリマー(A)は、本発明の効果を損なわない範囲において、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位及びジカルボン酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位のほか、必要に応じて、(メタ)アクリル酸等の酸モノマーなどの他の単量体に由来の構成単位を有して構成されてもよい。
【0034】
(メタ)アクリル系ポリマー(A)の重量平均分子量(Mw)は、100,000〜500,000(10万〜50万)であり、300,000〜500,000が好ましく、400,000〜500,000がより好ましい。Mwが前記範囲内であることは、セラミック成形用バインダー組成物に含まれる複数の樹脂のうち、(メタ)アクリル系ポリマー(A)が、後述の(メタ)アクリル系オリゴマー(B)に比べて、より高分子量の樹脂であることを示す。また、(メタ)アクリル系ポリマー(A)のMwが10万未満と小さくなり過ぎると、凝集力が低くなりグリーンシートの生密度が低下しやすくなる。逆に、(メタ)アクリル系ポリマー(A)のMwが50万を超えて大きくなり過ぎると、グリーンシートにボイドやゲル物の発生が見られやすくなり、積層セラミック電子部品におけるショート不良や静電容量のばらつきを引き起こす。
【0035】
(メタ)アクリル系ポリマー(A)の重量平均分子量(Mw)は、反応温度、時間、溶剤量、触媒の種類や量を調整することにより、所望の分子量に調整することができる。
なお、Mwの測定法については、後述する。
【0036】
(メタ)アクリル系ポリマー(A)のガラス転移温度(Tg)は、−65℃〜10℃であり、−30℃〜10℃が好ましく、−20℃〜10℃がより好ましい。(メタ)アクリル系ポリマー(A)のTgが−65℃未満であると、比較的高Tgの(メタ)アクリル系オリゴマー(B)を併用したことによる強度の向上効果が小さくなり、可撓性は良好なものの、所望とする寸法安定性が得られない。また、(メタ)アクリル系ポリマー(A)のTgが10℃を超えると、強度をはじめ寸法安定化には良好であるが、硬くなり過ぎて脆く、所望とする可撓性は得られない。
なお、Tgの測定法については、後述する。
【0037】
本発明における(メタ)アクリル系ポリマー(A)の重合方法は、特に制限されるものではなく、溶液重合、乳化重合、懸濁重合などの方法を適用することができる。処理工程が比較的簡単で、かつ短時間で行なえることから、溶液重合が好ましい。
上記のうち、溶液重合は一般に、重合槽内に所定の有機溶媒、単量体、重合開始剤、及び、必要に応じて用いられる連鎖移動剤を仕込み、窒素気流中又は有機溶媒の還流下で、撹拌しながら数時間加熱反応させる。前記重合開始剤としては、特に制限されるものではなく、例えば、過酸化物、アゾ系化合物を用いることができる。
【0038】
−(メタ)アクリル系オリゴマー(B)−
本発明のセラミック成形用バインダー組成物は、(メタ)アクリル系オリゴマー(B)の少なくとも一種を含有する。
【0039】
本発明における(メタ)アクリル系オリゴマー(B)は、(メタ)アクリル系のモノマー由来の構成単位を有し、Mwが1,000〜10,000であって、かつTgが20℃〜105℃であること以外は、特に制限されるものではなく、本発明の効果が奏される範囲で任意に選択することができる。中でも、(メタ)アクリル系オリゴマー(B)は、少なくとも、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位、及びジカルボン酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を有している態様が好ましい。(メタ)アクリル系オリゴマー(B)のうち、特に好ましい態様は、主成分として(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を有し、さらにジカルボン酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を有する態様である。なお、主成分とは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位の、(メタ)アクリル系オリゴマー(B)中に占める比率が50質量%以上であることをいう。
(メタ)アクリル系オリゴマー(B)は、必要に応じて、更に他の構成単位を設けて構成することができる。
【0040】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体は、炭素数1〜18のアルキル部位を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、i−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、i−ノニル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、n−ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、及びステアリル(メタ)アクリレート、等が挙げられる。
中でも、オリゴマーの重合度、セラミックグリーンシートの生密度を適切な範囲に制御し易い点で、炭素数1〜8のアルキル部位を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、炭素数1〜4のアルキル部位を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。
【0041】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位の、(メタ)アクリル系オリゴマー(B)中における比率は、60質量%以上が好ましく、75.0質量%〜99.9質量%がより好ましく、95.0質量%〜99.0質量%が特に好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体は、共重合体を構成する主成分として含有され、その含有比率が前記範囲内であると、焼成性を良好に保持することができる点で有利である。
【0042】
(メタ)アクリル系オリゴマー(B)は、ジカルボン酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を有していることが好ましい。ジカルボン酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を含むことで、セラミック粉と混合した場合に、セラミック粉の分散性が向上し、セラミック粉とバインダー樹脂とが分離してセラミック粉が偏在するのを防ぐことができる。これにより、良好な強度を保持しやすく、寸法安定性により優れたものとなる。
【0043】
ジカルボン酸アルキルエステル単量体としては、炭素数1〜4のアルキル部位及び不飽和二重結合を有するジカルボン酸アルキルエステルが好ましく、例えば、2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸などのコハク酸の(メタ)アクリロイルオキシ置換アルキルエステル、2−メタクリロイルオキシエチルマレイン酸などのマレイン酸の(メタ)アクリロイルオキシ置換アルキルエステル、2−メタクリロイルオキシエチルフタル酸や2−メタクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸などのフタル酸の(メタ)アクリロイルオキシ置換アルキルエステル、等が挙げられる。
【0044】
ジカルボン酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位の含有比率は、(メタ)アクリル系オリゴマー(B)の全質量に対して、0.1質量%〜25質量%が好ましく、0.5質量%〜25質量%がより好ましく、1.0質量%〜5.0質量%がさらに好ましい。
ジカルボン酸アルキルエステル単量体の含有量が0.1質量%以上であることで、セラミック粉と混合した場合の分散性向上効果に優れる。また、ジカルボン酸アルキルエステル単量体の含有量が25質量%以下であることで、焼成性を良好に保持することができる。
【0045】
本発明においては、セラミック成形用バインダー組成物を構成する(メタ)アクリル系ポリマー(A)及び(メタ)アクリル系オリゴマー(B)のうち、特に(メタ)アクリル系オリゴマー(B)が、ジカルボン酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を有している場合が好ましい。ジカルボン酸アルキルエステル単量体は、セラミック粉との分散性を向上させるのに有用であり、(メタ)アクリル系オリゴマー(B)がジカルボン酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を有していることで、焼成性を悪化させることなく、分散性を向上させることができる。これにより、セラミック粉が、組成物(例えばスラリー)中において、あるいは層成形したときには該層中において、偏在せずに分散した状態となり、結果、成形体としたときの強度をはじめ寸法安定性がより向上する。
この場合は、(メタ)アクリル系ポリマー(A)中におけるジカルボン酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位の含有量は、ポリマー全質量に対して0.5質量%未満であることが好ましく、0.1質量%未満であることがより好ましく、0(ゼロ)質量%(含有しないこと)であることがさらに好ましい。
【0046】
(メタ)アクリル系オリゴマー(B)は、本発明の効果を損なわない範囲において、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位及びジカルボン酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位のほか、必要に応じて、(メタ)アクリル酸等の酸モノマーなどの他の単量体に由来の構成単位を有して構成されてもよい。
【0047】
(メタ)アクリル系オリゴマー(B)の重量平均分子量(Mw)は、1,000〜10,000であり、5,000〜9,000が好ましく、7,000〜8,500がより好ましい。Mwが前記範囲内であることは、セラミック成形用バインダー組成物に含まれる複数の樹脂のうち、(メタ)アクリル系オリゴマー(B)が、ポリマーよりも低分子量の重合体であって既述の(メタ)アクリル系ポリマー(A)と区別されるものであることを示す。また、(メタ)アクリル系オリゴマー(B)のMwが1,000未満と低分子になり過ぎると、強度をはじめ寸法安定性を保持することができない。逆に、(メタ)アクリル系オリゴマー(B)のMwが10,000を超えると、分子サイズが(メタ)アクリル系ポリマー(A)に近づくため、既述の(メタ)アクリル系ポリマー(A)より高Tgとした場合に、硬いが脆い性状が現れて可撓性を保持し得ず、(メタ)アクリル系オリゴマー(B)を併用したことによる可撓性と寸法安定性の両立効果が得られない。
【0048】
(メタ)アクリル系オリゴマー(B)の重量平均分子量(Mw)は、反応温度、時間、溶剤量、触媒の種類や量を調整することにより、所望の分子量に調整することができる。
【0049】
本明細書において、アクリル系共重合体の重量平均分子量(Mw)は、下記の方法により測定された値である。即ち、下記(1)〜(3)にしたがって測定される。
(1)アクリル系共重合体溶液を剥離シート(離型シート)上に塗工し、100℃で2分間乾燥させ、フィルム状のアクリル系共重合体を得る。
(2)前記(1)で得られたフィルム状のアクリル系共重合体をテトラヒドロフランにて固形分0.2質量%になるように溶解させる。
(3)下記条件にて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、(メタ)アクリル系共重合体の重量平均分子量(Mw)を測定する。
<条件>
・GPC:HLC−8220 GPC〔東ソー(株)製〕
・カラム:TSK−GEL GMHXL(4本使用)
・移動相溶媒:テトラヒドロフラン
・標準試料 :標準ポリスチレン
・流速 :0.6ml/min
・カラム温度:40℃
【0050】
(メタ)アクリル系オリゴマー(B)のガラス転移温度(Tg)は、20℃〜105℃であり、20℃〜100℃が好ましく、35℃〜100℃がより好ましい。(メタ)アクリル系オリゴマー(B)のTgが20℃未満であると、可撓性は良好なものの、所望とする寸法安定性が得られない。また、(メタ)アクリル系オリゴマー(B)のTgが105℃を超えると、可撓性を保持し得ない点で好ましくない。
【0051】
本明細書において、(メタ)アクリル系ポリマー(A)及び(メタ)アクリル系オリゴマー(B)のガラス転移温度(Tg)は、以下の計算により求められるモル平均ガラス転移温度である。下記式中のTg
1、Tg
2、・・・・・及びTg
nは、成分1、成分2、・・・・・及び成分nそれぞれの単独重合体のガラス転移温度であり、絶対温度(゜K)に換算し算出される。m
1、m
2、・・・、及びm
nは、それぞれの成分のモル分率である。
【0052】
[ガラス転移温度(Tg)の算出式]
【数1】
【0053】
なお、ここでいう「単独重合体のガラス転移温度(Tg)」には、L.E.ニールセン著、小野木宣治訳「高分子の力学的性質」第11〜35頁に記載されている単量体のガラス転移温度が適用される。
【0054】
本発明における(メタ)アクリル系オリゴマー(B)の重合方法は、特に制限されるものではなく、溶液重合、乳化重合、懸濁重合などの方法を適用することができる。処理工程が比較的簡単で、かつ短時間で行なえることから、溶液重合が好ましい。
なお、溶液重合の詳細については、既述の通りである。
【0055】
本発明のセラミック成形用バインダー組成物においては、前記(メタ)アクリル系オリゴマー(B)に対する既述の(メタ)アクリル系ポリマー(A)の含有比〔(A)/(B)〕は、質量基準で95/5〜50/50の範囲にあることが好ましい。(A)/(B)比が95/5を上回る、つまり(メタ)アクリル系ポリマー(A)の割合が大きくなり過ぎない範囲であると、強度をはじめ寸法安定性をより良好なものとするのに有利である。また、(A)/(B)比が50/50を下回る、つまり(メタ)アクリル系オリゴマー(B)の比率が(メタ)アクリル系ポリマー(A)と同等以下に抑えられていると、可撓性をより良好なものとするのに有利である。
(A)/(B)比としては、上記と同様の理由から、90/10〜60/40の範囲にあることがより好ましい。
【0056】
−他の成分−
本発明のセラミック成形用バインダー組成物は、既述の(メタ)アクリル系ポリマー(A)及び(メタ)アクリル系オリゴマー(B)のほか、溶剤や水、並びに分散剤、可塑剤、焼成助剤などの添加剤を用いることができる。
【0057】
本発明のセラミック成形用バインダー組成物は、さらにセラミック粉を含有することで、セラミックスラリーとして調製されてもよい。セラミックスラリーは、さらに溶剤を含有することが好ましく、溶剤を含有することで、支持体上に容易に塗布でき、シート状に成形することが可能となる。
【0058】
前記セラミック粉としては、特に限定されるものでなく、例えば、アルミナ、フェライト、窒化アルミニウム、窒化珪素、等の粉末が挙げられる。
【0059】
前記溶剤としては、例えば、アルコールやトルエン、酢酸エチル等が挙げられる。
溶剤を用いる場合の溶剤量としては、本発明のセラミック成形用バインダー組成物(例えばセラミックスラリー)の固形分量が70質量%〜80質量%となる量が好ましい。
【0060】
本発明のセラミック成形用バインダー組成物の作製方法としては、特に制限されるものではなく、例えばセラミックスラリーを作製する場合、例えば、本発明のセラミック成形用バインダー樹脂と、セラミック粉と、溶剤と、必要に応じて添加される他の成分と、をボールミル、ブレンダーミル、3本ロール等の混合機を用いて混合する方法等が挙げられる。
【0061】
本発明のセラミック成形用バインダー組成物が溶剤を含有してスラリー状に調製される場合、調製されるセラミックスラリーの粘度としては、3Pa・s〜30Pa・s(3,000〜30,000cps)が好ましく、10Pa・s〜20Pa・s(10,000〜20,000cps)がより好ましい。
【0062】
本発明のセラミック成形用バインダー組成物(例えばセラミックスラリー)では、本発明の効果を損なわない範囲であれば、既述の(メタ)アクリル系ポリマー(A)及び(メタ)アクリル系オリゴマー(B)に加えて、これらポリマー(A)及びオリゴマー(B)とは異なる他のバインダー樹脂を用いてもよい。
【0063】
本発明のセラミック成形用バインダー組成物(例えばセラミックスラリー)には、更に、界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤を含むことで、分散剤としての機能を付与することができる。界面活性剤の使用量は、組成物固形分に対して、0.1質量%〜1.0質量%が好ましい。
【0064】
また、可塑剤を含有することができる。可塑剤の例としては、DOP(フタル酸ジオクチル)、DBP(フタル酸ジブチル)等が挙げられる。可塑剤を添加する場合、可塑剤の添加量は、組成物固形分に対して、3.0質量%〜15質量%が好ましい。
【0065】
前記焼結助剤としては、特に限定するものでなく、例えば、CaO、MgO、SiO
2 、TiO
2、等の粉末が挙げられる。
【0066】
<セラミックグリーンシート>
本発明のセラミックグリーンシートは、少なくとも、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に由来の構成単位を含み、Mwが100,000〜500,000であり、Tgが−65℃〜10℃である(メタ)アクリル系ポリマー(A)と、Mwが1,000〜10,000であり、Tgが20℃〜105℃である(メタ)アクリル系オリゴマー(B)と、セラミック粉末と、を用いて構成されたものである。
【0067】
本発明のセラミックグリーンシートは、好ましくは、既述の本発明のセラミック成形用バインダー組成物(例えばセラミックスラリー)を支持基材の上に塗布等することで成形することができる。
【0068】
セラミックグリーンシートの製造に用いられる支持基材としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル基材、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリフルオロエチレンなどの含フッ素樹脂、ナイロン、セルロース等を適宜選択して使用することができる。
支持基材の、本発明のセラミック成形用バインダー組成物(例えばセラミックスラリー)が塗布等により設けられる面には、離型剤が付与されていることが好ましい。支持基材の例としては、フッ素系樹脂、パラフィンワックス、シリコーン等の離型剤で表面処理が施された基材が好ましい。
【0069】
セラミックグリーンシートは、セラミック粉、バインダー樹脂、溶剤や水、及び必要に応じて分散剤、可塑剤、焼結助剤等の添加剤などを用いて調製されたセラミックスラリーを、ドクターブレード法やカレンダーロール法等の公知の塗布法により支持基材の上に塗布し、乾燥させて作製されたシート状の成形物である。また、セラミックグリーンシートは、原料粉末を成形機に充填し、加圧成形して作製することもできる。
本発明においては、前記バインダー樹脂成分として、少なくとも既述の(メタ)アクリル系ポリマー(A)と(メタ)アクリル系オリゴマー(B)とが含有されている。
【0070】
また、分散剤、可塑剤、及び焼結助剤の詳細については、既述の本発明のセラミック成形用バインダー組成物において、既述した通りである。
【0071】
セラミックグリーンシートは、例えばセラミックコンデンサの作製に用いられる。
この場合、あらかじめスクリーン印刷等で所望の内部電極材料を成形後、所望サイズ(例えば数10mm四方〜数100mm四方のサイズ)に裁断して所望数をガイドピンなどで位置合わせしながら積層し、圧力を加えて圧着、一体化した後、積層体であるセラミックグリーンシートを焼成(約1000℃〜1300℃)することにより、セラミック積層体として作製される。このとき、本発明のセラミックグリーンシートは、既述の組成を有することで、可撓性に優れるため、成形やカット(裁断)が精度良く行なえ、また寸法安定性が高いため、印刷精度が得られ、積層及び積層後のプレス操作を容易に行なうことができる。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0073】
<(メタ)アクリル系ポリマー(A)の製造>
(製造例A−1)
攪拌機、還流冷却器、逐次滴下装置、及び温度計を備えた反応器に、酢酸エチル(EAc)200.0質量部を仕込んだ。次いで、別の容器にメチルメタクリレート(MMA)34.2質量%、エチルアクリレート(EA)64.8質量%、及びコハク酸モノ(2−アクリロイルオキシエチル)(HOA−MS)1.0質量%からなる単量体混合物553.3質量部を用意し、このうち53.3質量部を反応器に仕込み、これに重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.16質量部を添加した。添加後、加熱し、還流温度で60分間保った。この中にさらに、残りの単量体混合物500.0質量部、EAc53.3質量部、及びAIBN0.16質量部からなる混合物を120分間かけて逐次滴下した。その後さらに、90分間同温度で保ってから、トルエン84.0質量部、及びAIBN0.48質量部を60分間かけて逐次滴下した。更に70分間同温度で保ってから、EAc、トルエンで希釈した後、冷却し、(メタ)アクリル系ポリマーA−1溶液(固形分濃度:40質量%)を得た。
【0074】
(製造例A−2〜A−14)
前記製造例A−1において、MMA、EA、及びHOA−MSを、下記表1に示す単量体及びその量に変更したこと以外は、製造例A−1と同様にして、(メタ)アクリル系ポリマー溶液A−2〜A−14を製造した。いずれの溶液も、固形分濃度は40質量%である。
【0075】
(製造例A−15)
酢酸エチル(EAc)及びトルエンの混合溶液(EAc/トルエン=50/50)100.0質量部中に、ポリビニルブチラール(PVB)40.0質量部を溶解し、PVB溶液(固形分濃度:40質量%)を製造した。
【0076】
<(メタ)アクリル系オリゴマー(B)の製造>
(製造例B−1)
攪拌機、還流冷却器、逐次滴下装置、温度計を備えた反応装置に、トルエン85.5部、酢酸エチル(EAc10.4部を加えて加熱し、還流温度で10分重合を行なった。次いで、還流温度条件下でメチルメタクリレート(MMA)49.5部、エチルアクリレート(EA)49.5質量%、コハク酸モノ(2−アクリロイルオキシエチル)(HOA−MS)1.0部、及び開始剤としてt−ブチルペルオキシピバレート〔商品名:PB−PV、日油(株)製〕9.1部を60分間かけて逐次滴下し、更に90分間同温度で保ってから、トルエンで希釈後冷却し、(メタ)アクリル系オリゴマーB−1溶液(固形分濃度:40質量%)を得た。
【0077】
(製造例B−2〜B−12)
前記製造例B−1において、MMA、EA、及びHOA−MSを、下記表1に示す単量体及びその量に変更したこと以外は、製造例B−1と同様にして、(メタ)アクリル系オリゴマー溶液B−1〜B−12を製造した。いずれの溶液も、固形分濃度は40質量%である。
【0078】
(混合溶液の調製)
上記で製造した(メタ)アクリル系ポリマー(A)と(メタ)アクリル系オリゴマー(B)との各々を用い、これらを下記表1に示す組み合わせ、含有比にて混合し、(メタ)アクリル系ポリマー溶液及び(メタ)アクリル系オリゴマー溶液の混合溶液1〜9及び11〜16を得た。
【0079】
(実施例1)
−セラミック粉含有バインダー樹脂組成物の調製−
2L(リットル;以下同様)アルミナポットのボールミル(ボールφ20×1kg)に、アルミナが主成分のセラミック粉末(AL−M41−01、粒径2.0μm、住友化学社製)600質量部と、トルエン180.0質量部と、上記で製造した(メタ)アクリル系ポリマー溶液及び(メタ)アクリル系オリゴマー溶液の混合溶液1(固形分:40質量%)15.0質量部と、を配合し、撹拌混合した後、回転数60rpmで24時間ボールミルにより混合・分散した。ボールミルにより24時間かけて混合、分散を行なった後、さらに(メタ)アクリル系ポリマー溶液及び(メタ)アクリル系オリゴマー溶液の混合溶液1(固形分:40質量%)135.0質量部を配合し、撹拌混合した。その後、回転数60rpmでさらにボールミルにより24時間混合、分散し、セラミックスラリー組成物(セラミック粉含有バインダー樹脂組成物)調製した。
【0080】
−グリーンシートの成形−
次に、得られたセラミックスラリー組成物を、シリコーン系離型剤で処理されたポリエステルフィルム(厚み:100μm)のシリコーン処理面に、乾燥後の厚みが100μmとなるようにアプリケーターにより塗布し、室温下で1時間放置後、80℃の熱風乾燥機でさらに1時間乾燥させた。このようにして、試験用セラミックグリーンシートを作製した。
【0081】
(実施例2〜9、比較例1〜5)
実施例1において、(メタ)アクリル系ポリマー溶液及び(メタ)アクリル系オリゴマー溶液の混合溶液1を、下記表1に示すように混合溶液2〜9、11〜16のいずれかに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、セラミックスラリー組成物(セラミック粉含有バインダー樹脂組成物)調製し、更に試験用セラミックグリーンシートを作製した。
【0082】
(比較例6)
−セラミック粉含有バインダー樹脂組成物の調製−
2Lアルミナポットのボールミル(ボールφ20×1kg)に、アルミナが主成分のセラミック粉末(AL−M41−01、粒径2.0μm、住友化学社製)600質量部と、トルエン180.0質量部と、上記で製造したPVB溶液(固形分:40質量%)15.0質量部と、可塑剤としてフタル酸ジブチル(DBP)1.8質量部と、を配合し、撹拌混合した。その後、回転数60rpmでボールミルにより24時間混合、分散した。ボールミルにより24時間かけて混合、分散を行なった後、さらにPVB溶液(固形分:40質量%)135.0質量部を配合し、撹拌混合した。その後、回転数60rpmでさらにボールミルにより24時間混合、分散し、セラミックスラリー組成物(セラミック粉含有バインダー樹脂組成物)調製した。
【0083】
−グリーンシートの成形−
次に、得られたセラミックスラリー組成物を、シリコーン系離型剤で処理されたポリエステルフィルム(厚み:100μm)のシリコーン処理面に、乾燥後の厚さが100μmとなるように塗布し、室温下で1時間放置後、80℃の熱風乾燥機でさらに1時間乾燥させた。このようにして、試験用セラミックグリーンシートを作製した。
【0084】
(評価)
各実施例又は各比較例で得られた、(メタ)アクリル系ポリマー溶液、(メタ)アクリル系オリゴマー溶液、及びPVB溶液、並びに試験用セラミックグリーンシートについて、下記の測定、評価を行なった。測定、評価の結果は、下記表1に示す。
【0085】
−1.焼成性−
各実施例又は比較例において、(メタ)アクリル系ポリマー溶液及び(メタ)アクリル系オリゴマー溶液の混合溶液、並びに、PVB溶液を乾燥させて、(メタ)アクリル系ポリマー及び(メタ)アクリル系オリゴマーの混合乾燥物、並びに、PVB樹脂及び可塑剤(乾燥量で3質量部)の混合乾燥物を得た。そして、各々約10mgをアルミ皿にのせ、熱重量/分析装置(SIIナノテクノロジー社製、EXSTAR6000 TG/DTA6200)を用いて窒素雰囲気下、昇温温度10℃/minで常温から600℃まで昇温した。その後、室温まで冷却し、採取した樹脂量(加熱前の質量α)に対する残渣(加熱後の質量β)の比率(=β/α;残渣率)を算出した。この残渣率を指標として、以下の評価基準にしたがって焼成性を評価した。
残渣率(質量%)=(採取樹脂量−樹脂減少量)/(採取樹脂量)×100
<評価基準>
A:残渣率が5質量%未満である。
B:残渣率が5質量%以上10質量%未満である。
C:残渣率が10質量%以上である。
【0086】
−2.S−S測定−
厚み100μmの各グリーンシートを幅1cm×9cmにカットし、サンプル片を作成した。次いで、テンシロン測定機(エー・アンド・ディ社製、RTF−1350)を用いて各サンプル片に対して下記条件で引張試験を行ない、垂直歪み(%)を横軸に、垂直応力(N)を縦軸にとってS−Sカーブを求めた。
<条件>
・チャック間距離:5cm
・引っ張り速度:100mm/min
・温湿度環境:23℃、50%RH
そして、得られたS−Sカーブより、ヤング率(MPa)、最大強度(MPa)、及び最大伸度(%)を求め、ヤング率、最大強度、最大伸度を以下の評価基準にしたがって評価した。
(1−1.ヤング率)
<評価基準>
A:ヤング率が800MPa以上である。
B:ヤング率が400MPa以上800MPa未満である。
C:ヤング率が400MPa未満である。
(1−2.最大強度)
<評価基準>
A:最大強度が5MPa以上である。
B:最大強度が3MPa以上5MPa未満である。
C:最大強度が3MPa未満である。
(1−3.最大伸度)
<評価基準>
A:最大伸度が10%以上である。
B:最大伸度が5%以上10%未満である。
C:最大伸度が5%未満である。
【0087】
−3.可撓性−
厚さ100μmの各グリーンシートを幅1cm×9cmにカットし、サンプル片を作成した。次いで、各サンプル片を直径20mmのガラス棒に巻き付け、グリーンシートへのクラックの発生の有無を目視にて確認し、クラック(ひび)の有無を指標として以下の評価基準にしたがって可撓性を評価した。
<評価基準>
A:クラックがない
B:クラックが少ない
C:クラックが多い
【0088】
【表1】
【0089】
前記表1に示すように、実施例では、可撓性が保持されていると共に、優れた寸法安定性を示した。これに対し、高Tgのオリゴマーを併用しない比較例1〜2では、寸法安定性及び可撓性の両立が図れなかった。また、オリゴマーを併用した組成でもそのTgが低すぎる場合(比較例3)には、強度が不足し寸法安定性の点で劣っていた。(メタ)アクリルポリマー(A)のTgが低すぎる場合(比較例4)にも、強度が不足し寸法安定性の点で劣っており、逆にTgが高すぎると、強度の点では良好なものの、可撓性が低下してしまった。