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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-42998(P2015-42998A)
(43)【公開日】2015年3月5日
(54)【発明の名称】Dダイマー測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20150206BHJP
   G01N 33/531 20060101ALI20150206BHJP
【FI】
   G01N33/53 L
   G01N33/531 B
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-234605(P2014-234605)
(22)【出願日】2014年11月19日
(62)【分割の表示】特願2010-168521(P2010-168521)の分割
【原出願日】2010年7月27日
(71)【出願人】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(72)【発明者】
【氏名】永井 圭介
(72)【発明者】
【氏名】山下 和昭
(72)【発明者】
【氏名】星子 進
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健史
(57)【要約】
【課題】測定用試薬中のDダイマーに対する抗体の濃度を高めたり、増感剤を試薬に添加したりすることなく、低濃度域においても高感度にDダイマーを測定できる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】Dダイマーに反応するが、Dダイマーに対する反応性が互いに異なる第1及び第2のモノクローナル抗体を感作した担体を含み、前記第1のモノクローナル抗体がDダイマーの高分子画分及び低分子画分と反応し、前記第2のモノクローナル抗体が前記高分子画分と反応するが、前記第2のモノクローナル抗体の前記低分子画分との反応性が前記第1のモノクローナル抗体とは異なることを特徴とするDダイマー測定用試薬により、上記の課題を解決する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料と、Dダイマーに反応するがDダイマーに対する反応性が互いに異なる第1及び第2のモノクローナル抗体を感作した担体粒子を含む試薬とを混合する工程と、
混合物中で抗原抗体反応により生じる、Dダイマーと担体粒子との凝集の度合いを測定する工程と
を含み、
前記第1のモノクローナル抗体がX画分、Y画分及びDダイマーとは反応するが、D画分及びE画分とは反応せず、
前記第2のモノクローナル抗体がDダイマーとは反応するが、X画分、Y画分及びE画分とは反応しない、Dダイマー測定方法。
【請求項2】
前記第1及び第2のモノクローナル抗体を感作した担体粒子が、前記第1のモノクローナル抗体を感作した担体粒子及び第2のモノクローナル抗体を感作した担体粒子の混合物である、請求項1に記載のDダイマー測定方法。
【請求項3】
前記第2のモノクローナル抗体がD画分と反応しない、請求項1又は2に記載のDダイマー測定方法。
【請求項4】
前記第2のモノクローナル抗体がD画分と反応する、請求項1又は2に記載のDダイマー測定方法。
【請求項5】
前記第1のモノクローナル抗体が、受託番号FERM P−19687として独立行政法人産業技術総合研究所に平成16年2月17日付けで寄託されたハイブリドーマにより産生される抗体である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のDダイマー測定方法。
【請求項6】
前記第2のモノクローナル抗体が、受託番号NITE P−968として独立行政法人製品評価技術基盤機構に寄託されたハイブリドーマにより産生される抗体である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のDダイマー測定方法。
【請求項7】
前記第2のモノクローナル抗体が、受託番号NITE P−969として独立行政法人製品評価技術基盤機構に寄託されたハイブリドーマにより産生される抗体である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のDダイマー測定方法。
【請求項8】
前記測定工程では、Dダイマーと担体粒子との凝集の度合いを光学的に測定する、請求項1〜7のいずれか1項に記載のDダイマー測定方法。
【請求項9】
前記測定工程では、Dダイマーと担体粒子との凝集の度合いを、散乱光強度、吸光度及び透過光強度の少なくとも一つを測定することで測定する、請求項1〜8のいずれか1項に記載のDダイマー測定方法。
【請求項10】
前記混合工程では、生体試料と、緩衝液を含む試薬と、Dダイマーに反応するがDダイマーに対する反応性の異なる第1及び第2のモノクローナル抗体を感作した担体粒子を含む試薬とを混合する、請求項1〜9のいずれか1項に記載のDダイマー測定方法。
【請求項11】
前記混合工程では、生体試料と緩衝液を含む試薬とを混合し、生体試料及び緩衝液を含む試薬の混合物と、Dダイマーに反応するがDダイマーに対する反応性の異なる第1及び第2のモノクローナル抗体を感作した担体粒子を含む試薬とを混合する、請求項10に記載のDダイマー測定方法。
【請求項12】
前記緩衝液を含む試薬が前記第1及び/又は第2のモノクローナル抗体を含む、請求項10又は11に記載のDダイマー測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィブリンの分解産物であるDダイマーの測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床検査、特に血液凝固線溶検査の分野では、Dダイマーを測定することが知られている。Dダイマーは血液凝固分子マーカーの1つであり、Dダイマーの測定は、凝固・線溶系を亢進する各種血栓症やDIC(播種性血管内凝固症候群)の診断及びそれらの病態把握や治療効果判定などの指標を得るために重要である。
【0003】
Dダイマーを測定する方法としては種々の方法が知られており、Dダイマー測定用試薬も販売されている。特許文献1〜5には、1種類のモノクローナル抗体を担体粒子に感作したDダイマー測定用試薬が記載されている。
【0004】
また、深部静脈血栓症の除外診断においては、Dダイマー濃度の測定が有用であることが知られている(特許文献6及び7参照)。Dダイマー濃度にカットオフ値を設定し、被験者のDダイマー濃度がカットオフ値を下回る場合、該被験者は深部静脈血栓症ではないと判断できる。したがって、被験者が深部静脈血栓症であるか否かを正確に判断するためには、Dダイマーの低濃度域において高い測定感度が要求される。
【0005】
従来は、Dダイマーの測定感度を向上させる目的で、測定用試薬中のDダイマーに対する抗体の濃度を高めたり、増感剤を試薬に添加したりしていた。しかし、これらの方法ではバックグラウンドが増加し、反応液に粘度や発泡が生じるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平7−46104号公報
【特許文献2】特開2000−193663号公報
【特許文献3】特開2006−105633号公報
【特許文献4】特開2006−234676号公報
【特許文献5】特許第3857468号公報
【特許文献6】特許第4181459号公報
【特許文献7】特表2009−536331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、測定用試薬中のDダイマーに対する抗体の濃度を高めたり、増感剤を試薬に添加したりすることなく、低濃度域においても高感度にDダイマーを測定できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、Dダイマーに反応するが、Dダイマーに対する反応性が互いに異なる第1及び第2のモノクローナル抗体を感作した担体を含む試薬を用いることにより、1種類の抗体を感作した従来の試薬よりもDダイマーの検出感度が向上し、低濃度域においてもDダイマーを測定できることを見出して、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明によれば、生体試料と、Dダイマーに反応するがDダイマーに対する反応性が互いに異なる第1及び第2のモノクローナル抗体を感作した担体粒子を含む試薬とを混合する工程と、混合物中で抗原抗体反応により生じる、Dダイマーと担体粒子との凝集の度合いを測定する工程とを含み、上記第1のモノクローナル抗体がX画分、Y画分及びDダイマーとは反応するが、D画分及びE画分とは反応せず、上記第2のモノクローナル抗体がDダイマーとは反応するが、X画分、Y画分及びE画分とは反応しない、Dダイマー測定方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の測定方法によれば、従来のDダイマー測定用試薬では測定困難であった低濃度域においても試料中のDダイマーを高感度に測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】DD-M1653抗体、DD-M1039抗体及びDD-M46抗体のフィブリン/フィブリノゲン分解産物に対する反応性の違いを示すグラフである。
図2】実施例1〜3並びに比較例1及び2の各第2試薬を用いてDダイマー標準品を測定した場合の波長800 nmにおける1分間あたりの吸光度変化量を示すグラフである。
図3】実施例4〜6並びに比較例3及び4の各第2試薬を用いてDダイマー標準品を測定した場合の波長800 nmにおける1分間あたりの吸光度変化量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、Dダイマーに反応するが、Dダイマーに対する反応性が互いに異なる第1及び第2のモノクローナル抗体を感作した担体を含むDダイマー測定用試薬(以下、本発明の試薬ともいう)である。
【0013】
本明細書において「Dダイマー」とは、トロンビンなどの酵素の作用により血液中のフィブリノゲンが凝固されて形成されるポリマーである安定化フィブリンが、プラスミンなどの酵素によって分解されて生じるフィブリン分解産物である。
なお、Dダイマーは当該技術において、DD/E画分又はDD/E画分の多量体の総称としても知られている。「DD/E画分の多量体」としては、DD/E画分の3量体であるDXD/YY画分、DD/E画分の5量体であるYXY/DXXD画分、DD/E画分の7量体であるDXXD/YXXY画分などが知られている。また、当該技術においては、DダイマーとDD/E画分の多量体とを合わせて「XDP画分」とも総称される。
【0014】
プラスミンなどの酵素は、血液中に存在するフィブリノゲンも分解することが当該技術において知られている。フィブリノゲンがプラスミンなどの酵素によって分解されると、DD/E画分の構成要素であるD画分、E画分、X画分、Y画分のようなフィブリノゲン分解産物が生じる。そのため、血栓症患者の血液中には、安定化フィブリンが分解されて生じるDダイマーとフィブリノゲンが分解されて生じるフィブリノゲン分解産物とが混在する。
【0015】
本明細書において「Dダイマーの高分子画分」とは、安定化フィブリンをプラスミンなどの酵素により短時間分解させて得られるフィブリン分解産物である。そのようなDダイマーの高分子画分としては、例えば安定化フィブリンをプラスミンによって0.25〜4時間、好ましくは0.25〜2時間分解させることにより得られるフィブリン分解産物が挙げられる。
本明細書において「Dダイマーの低分子画分」とは、安定化フィブリンをプラスミンなどの酵素により長時間分解させて得られるフィブリン分解産物である。そのようなDダイマーの低分子画分としては、例えば安定化フィブリンをプラスミンによって10〜30時間、好ましくは15〜25時間分解させることにより得られるフィブリン分解産物が挙げられる。
【0016】
本発明の試薬に用いられる抗体は、Dダイマーと反応するが、Dダイマーに対する反応性が互いに異なる2種類のモノクローナル抗体であれば特に限定されない。以下、該2種類のモノクローナル抗体について、一方を「第1のモノクローナル抗体」と称し、他方を「第2のモノクローナル抗体」と称する。そのような抗体としては、Dダイマーの高分子画分及び低分子画分と反応する第1のモノクローナル抗体と、該高分子画分とは反応するが、該低分子画分との反応性が該第1のモノクローナル抗体とは反応性が異なる第2のモノクローナル抗体が好ましい。
【0017】
本発明の試薬に用いられる第1のモノクローナル抗体は、X画分、Y画分及びDダイマーとは反応するが、D画分及びE画分とは反応しない抗体がより好ましい。
本発明の試薬に用いられる第2のモノクローナル抗体は、Dダイマーとは反応するが、X画分、Y画分及びE画分とは反応しない抗体がより好ましい。そのような第2のモノクローナル抗体は、D画分と反応する抗体であってもよいし、D画分と反応しない抗体であってもよい。
【0018】
上記の第1及び第2モノクローナル抗体は、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ヤギ、ウマなどのいずれの哺乳動物に由来するものであってもよいが、それらの中でもマウスが好ましい。また、抗体のアイソタイプはIgG、IgM、IgE、IgAなどのいずれであってもよい。抗体は、抗体のフラグメント及びその誘導体を含む。具体例としては、Fabフラグメント、F(ab')2フラグメント等が挙げられる。
【0019】
上記の第1及び第2モノクローナル抗体は、当該技術において公知の免疫学的手法により得ることができる。すなわち、抗原としてのDダイマーとアジュバントとを任意に混合して動物を免疫し、該動物由来のBリンパ球と各種骨髄腫細胞とを融合することによりモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得ることができる。
【0020】
具体的には、以下の方法により本発明の試薬に用いられる第1及び第2のモノクローナル抗体を得ることができる。
(抗原の取得)
抗原として用いるDダイマーは、プラスミンのようなフィブリンを分解できる酵素をフィブリンに作用させて得ることができる。該Dダイマーは、DD/E画分より大きい分子量の画分を含むものが好ましい。このようなものとしては、DD/E画分の2〜5量体が挙げられる。また、Dダイマーのアミノ酸配列に基づいて、当該技術において公知の遺伝子工学的手法により得られる組み換え型のDダイマーを抗原として用いてもよい。
Dダイマーの原料となるフィブリンは市販のものを用いてもよいし、フィブリノゲンにトロンビン、第XIII因子及びカルシウム塩を作用させて得られるものを用いてもよい。
【0021】
(免疫方法)
上記のようにして得られる抗原を、アジュバントと任意に混合し、適当な緩衝液に溶解又は懸濁して得られる抗原液で、動物を免疫することができる。該抗原液中の抗原の濃度は、50〜500μg/ml程度が好ましい。抗原の免疫原性が低い場合は、アルブミン、キーホールリンペットヘモシアニンのようなキャリアータンパク質を任意に抗原と結合させてもよい。
【0022】
アジュバントとしては、当該技術において公知のアジュバントを用いることができる。そのようなアジュバントとしては、例えばフロイント完全アジュバント(FCA)、フロイント不完全アジュバント(FIA)、Ribi(MPL)、Ribi(TDM)、Ribi(MPL + TDM)、百日咳ワクチン(Bordetella pertussis vaccine)、ムラミルジペプチド(MPD)、アルミニウムアジュバント(ALUM)及びこれらの組み合わせが挙げられる。初回免疫時にFCAを用い、追加免疫時にFIAやRibiアジュバントを用いる組み合わせが特に好ましい。
【0023】
免疫にする動物はマウス、ラット、ハムスター、ウマ、ヤギ、ウサギなどのいずれであってもよく、好ましくはマウス、より好ましくはBALB/cマウスである。
免疫法は、使用する抗原の種類やアジュバントの有無により適宜選択することができる。例えばマウスを用いる場合、アジュバント混合抗原液0.05〜1ml(抗原10〜200μg)を腹腔内、皮下、筋肉内又は尾静脈内に注射し、初回免疫から約4〜21日毎に1〜4回追加免疫を行い、さらに約1〜4週間後に最終免疫を行う。抗原量を多くして腹腔内注射することにより、抗原液にアジュバントを用いずに免疫を行ってもよい。追加免疫の約5〜10日後に血液を採取して抗体価を測定する。抗体価は、後述する抗体価アッセイのような当該技術において公知の方法にしたがって測定できる。最終免疫から約3〜5日後に、免疫された動物から脾臓を摘出し、脾臓細胞を分離して抗体産生細胞を得ることができる。
【0024】
(モノクローナル抗体の作製)
モノクローナル抗体は、当該技術において公知の方法、例えばKohler及びMilstein, Nature, 256, 495-497 (1975)に記載の方法にしたがって作製できる。
用いる骨髄腫細胞は、マウス、ラット、ヒトなどいずれに由来するものであってもよく、例えばマウスミエローマP3X63-Ag8、P3X63-Ag8-U1、P3NS1-Ag4、SP2/o-Ag14、P3X63-Ag8・653などの株化骨髄腫細胞が挙げられる。骨髄腫細胞には免疫グロブリン軽鎖を産生するものがあり、これを融合対象として用いると、抗体産生細胞が産生する免疫グロブリン重鎖とこの軽鎖とがランダムに結合することがあるので、特に免疫グロブリン軽鎖を産生しない骨髄腫細胞、例えばP3X63-Ag8・653やSP2/o-Ag14などを用いるのが好ましい。抗体産生細胞と骨髄腫細胞とは、同種動物、特に同系統の動物由来のものが好ましい。
【0025】
抗体産生細胞と骨髄腫細胞とを融合させてハイブリドーマを作製する方法としては、ポリエチレングリコール(PEG)を用いる方法、センダイウイルスを用いる方法、電気融合装置を用いる方法などが挙げられる。PEGを用いる場合、約30〜60%のPEG(平均分子量1000〜6000)を含む適当な培地又は緩衝液中に脾臓細胞と骨髄腫細胞とを1〜10:1、好ましくは5〜10:1の混合比で懸濁し、温度約25〜37℃、pH6〜8の条件下で約30秒〜3分間程度反応させればよい。反応終了後、細胞を洗浄し、PEG含有溶液を除いて培地に再懸濁し、マイクロタイタープレート上に播種して培養する。
【0026】
上記のようにして融合させた細胞を選択培地上で培養して、ハイブリドーマの選択を行うことができる。選択培地としては、融合細胞のみが増殖し得る培地であればよく、例えば、ヒポキサンチン−アミノプテリン−チミジン(HAT)培地が用いられる。ハイブリドーマの選択は、通常、細胞融合の1〜7日後に培地の一部、好ましくは約半量を選択培地と交換し、さらに2〜3日毎に同様にして培地交換を繰り返しながら培養し、培養終了後、顕微鏡観察によりハイブリドーマのコロニーが生育しているウェルを選択することにより行うことができる。
【0027】
このようにして得られたハイブリドーマが所望の抗体を産生しているか否かは、そのハイブリドーマの培養上清を採取して、抗体価アッセイを行うことにより確認できる。抗体価アッセイは当該技術において公知の方法により行うことができる。例えば固相に固定化した抗原タンパク質に段階希釈した培養上清を添加し、さらに蛍光物質、酵素又は放射性同位体(RI)で標識した二次抗体(抗グロブリン抗体、抗IgG抗体、抗IgM抗体など)を反応させることにより抗体を検出できる。
【0028】
上記の抗体価アッセイにより所望の抗体を産生していることが確認されたハイブリドーマは、限界希釈法、軟寒天法、蛍光励起セルソーターを用いる方法などにより、単一クローンを分離できる。例えば限界希釈法の場合、ハイブリドーマのコロニーを1細胞/ウェル程度となるように培地で段階希釈して培養することにより、目的とする抗体を産生するハイブリドーマを単離できる。
【0029】
ハイブリドーマからのモノクローナル抗体の取得方法は、モノクローナル抗体の必要量やハイブリドーマの性状により適宜選択できる。例えば該ハイブリドーマを移植したマウスの腹水から取得する方法、細胞培養により培養上清から取得する方法などが挙げられる。マウスの腹腔内で増殖可能なハイブリドーマであれば、腹水から数mg/mlの高濃度のモノクローナル抗体を得ることができる。インビボで増殖できないハイブリドーマの場合には、細胞培養の培養上清からモノクローナル抗体を取得できる。この場合、抗体産生量は低いが、免疫グロブリンや他の夾雑物の混入が少ないので精製が容易である。
【0030】
ハイブリドーマを移植したマウス腹腔内から抗体を取得する場合、例えばプリスタン(2, 6, 10, 14-テトラメチルペンタデカン)のような免疫抑制作用を有する物質を予め投与したBALB/cマウスの腹腔内へハイブリドーマ(約106個以上)を移植し、約1〜3週間後に貯留した腹水を採取する。異種ハイブリドーマを移植する場合には、ヌードマウス、放射線処理マウスなどを用いるのが好ましい。
【0031】
細胞培養上清から抗体を取得する場合、例えば細胞維持に用いられる静置培養の他に、高密度培養法又はスピナーフラスコ培養法などによりハイブリドーマを培養して、抗体を含有する培養上清を得ることができる。培地に血清を添加すると、他の抗体やアルブミンなどの夾雑物が含まれることとなり、抗体の精製が煩雑になることが多いので、培地への血清の添加量は可能な限り少なくするのが好ましい。ハイブリドーマを慣用される方法により無血清培地に馴化させ、無血清培地で培養することがさらに好ましい。これにより、抗体精製が容易になる。
【0032】
腹水や培養上清からのモノクローナル抗体の精製は、公知の方法により行うことができ、例えば硫酸アンモニウムや硫酸ナトリウムを用いる塩析による分画法、ポリエチレングリコール分画法、エタノール分画法、DEAEイオン交換クロマトグラフィー法、ゲルろ過クロマトグラフィー法などに基づく方法により行うことができる。
【0033】
目的のモノクローナル抗体がマウスIgGである場合、プロテインA結合担体又は抗マウスイムノグロブリン結合担体を用いたアフィニティークロマトグラフィー法を用いて抗体を精製できる。
【0034】
本発明の試薬に用いられる第1のモノクローナル抗体としては、例えば受託番号FERM P−19687として独立行政法人産業技術総合研究所に平成16年2月17日付けで寄託されたハイブリドーマにより産生されるマウス抗体(以下、「DD-M1653抗体」ともいう)が挙げられる。
本発明の試薬に用いられる第2のモノクローナル抗体としては、例えば受託番号NITE P−968及びNITE P−969として独立行政法人製品評価技術基盤機構に平成22年7月23日付けでそれぞれ寄託された各ハイブリドーマにより産生されるマウス抗体(以下、それぞれ「DD-M1039抗体」及び「DD-M46抗体」ともいう)が挙げられる。
【0035】
本発明のDダイマー測定用試薬における、第1のモノクローナル抗体と第2のモノクローナル抗体との濃度比は特に限定されず、例えば9:1〜1:9の範囲から適宜選択できる。
【0036】
本発明のDダイマー測定用試薬は、上記のようなDダイマーには反応するが、Dダイマーに対する反応性が互いに異なる第1及び第2のモノクローナル抗体を感作した担体を含む。上記の担体としては、有機高分子化合物、無機化合物、赤血球などが挙げられる。有機高分子化合物としては、不溶性アガロース、不溶性デキストラン、セルロース、ラテックス、ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−グリシジル(メタ)アクリレート共重合体、スチレン−スチレンスルホン酸塩共重合体、メタクリル酸重合体、アクリル酸重合体、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体、塩化ビニル−アクリル酸エステル共重合体、ポリ酢酸ビニルアクリレートなどが挙げられる。無機化合物としては、シリカ、アルミナなどが挙げられる。
【0037】
上記の担体の形状は特に限定されず、球状、平面状などいずれの形状であってもよい。球状である場合、粒子の平均径は測定機器などに応じて適宜選択できるが、通常0.05〜0.5μmが適当である。粒子の材質としては、ラテックスが特に好ましい。
【0038】
第1及び第2のモノクローナル抗体を担体に感作する方法としては、当該技術において公知の物理的吸着法及び化学的結合法のいずれであってもよいが、担持操作が簡便であるので物理的吸着法が好ましい。
【0039】
上記の担体が粒子の場合、該担体粒子は、第1及び第2のモノクローナル抗体の両方が感作された担体粒子であってもよいし、第1モノクローナル抗体が感作された担体粒子と第2モノクローナル抗体が感作された担体粒子との混合物であってもよい。第1モノクローナル抗体と第2のモノクローナル抗体とで、担体粒子への抗体の感作条件が互いに異なる場合は、各抗体を個別に担体粒子に感作することが好ましい。
【0040】
上記の担体粒子がラテックス粒子である場合、第1及び第2のモノクローナル抗体を感作した担体粒子は適当な緩衝液に懸濁されてなることが好ましい。その場合、懸濁液中のラテックス粒子の濃度は、好ましくは0.5〜10 mg/ml、より好ましくは0.75〜1.85 mg/mlである。また、該懸濁液中のモノクローナル抗体の濃度は、好ましくは0.1〜10 mg/ml、より好ましくは0.5〜2mg/mlである。
【0041】
上記の緩衝液としては、pH5〜10、好ましくはpH6〜9にて緩衝作用を有する緩衝液が挙げられる。具体的には、例えばリン酸緩衝液、イミダゾール緩衝液、トリエタノールアミン−塩酸、グッド緩衝液などが挙げられる。グッド緩衝液としては、MES、Bis-Tris、ADA、PIPES、Bis-Tris-Propane、ACES、MOPS、MOPSO、BES、TES、HEPES、HEPPS、Tricine、Tris、Bicine、TAPSなどの緩衝液が挙げられる。それらの中でもMOPSOが好ましい。
【0042】
上記の緩衝液は、タンパク質安定化剤(例えばBSAなど)、防腐剤(例えばアジ化ナトリウム、フェニルメタンスルホニルフルオリドなど)、pH調整剤、増感剤(例えばポリビニルピロリドン、ポリアニオン、ポリエチレングリコール、多糖類など)、無機塩(例えば塩化ナトリウム、塩化カルシウムなど)、バックグラウンド抑制剤(例えばヒト抗マウス抗体(HAMA)吸収剤など)などの添加物をさらに含み得る。
【0043】
本発明の試薬の一実施形態として、Dダイマー測定用試薬キット(以下、本発明の試薬キットともいう)が挙げられる。本発明の試薬キットは、緩衝液を含む第1試薬と、Dダイマーに反応するが、Dダイマーに対する反応性の異なる第1及び第2のモノクローナル抗体を感作した担体粒子を含む第2試薬とを含む。
本発明の試薬キットは、イムノアッセイ、例えば上記の第1及び第2のモノクローナル抗体を感作したラテックス粒子と、生体試料中のDダイマーとを反応させるアッセイ(ラテックス凝集法)などにより該試料中のDダイマーを検出するための試薬キットである。
【0044】
本発明の試薬キットの形態は、上記のとおり第1試薬と第2試薬とからなる2試薬型の形態であるが、1つの試薬からなる1試薬型の形態であってもよい。測定精度の観点などから、試薬キットの形態としては第1試薬と第2試薬とからなる2試薬型が好ましい。より好ましくは、本発明の試薬キットは、緩衝液を含む第1試薬と、上記の本発明のDダイマー測定用試薬からなる第2試薬とを含む形態である。
【0045】
本発明の試薬キットを構成する第1試薬に含まれる緩衝液としては、本発明の試薬において担体粒子の懸濁に用い得る緩衝液と同じ緩衝液が挙げられる。また、第1試薬は、上記のタンパク質安定化剤、防腐剤、pH調整剤、増感剤、無機塩などの添加物を含んでいてもよい。
【0046】
上記の第1試薬はDダイマーと反応する抗体を含んでいてもよい。そのような抗体としては、例えば上記の本発明の試薬に含まれる第1のモノクローナル抗体及び/又は第2のモノクローナル抗体が挙げられる。第1試薬に含まれ得る抗体は、好ましくは第1のモノクローナル抗体であり、より好ましくはDD-M1653抗体である。第1試薬中のモノクローナル抗体の濃度は、好ましくは1〜100μg/ml、より好ましくは5〜50μg/mlである。
【0047】
第1試薬に含まれ得るモノクローナル抗体の中は、Dダイマーに反応性を有すると共に、Dダイマーと類似の構造を有する画分、例えばX画分及び/又はY画分に対する反応性を有する抗体もある。そのような反応性を有するモノクローナル抗体を第1試薬に添加することにより、検体中にDダイマーの構造類似成分であるX画分やY画分が存在していても、第1試薬中の該モノクローナル抗体がこれらの画分と結合する。したがって、続いて添加される第2試薬中の担体に感作されたモノクローナル抗体と、これらの画分との反応は抑制されると考えられる。これは、X画分及びY画分にはモノクローナル抗体との反応部位が1つしかないのに対して、Dダイマーにはモノクローナル抗体との反応部位が複数あることによるものと考えられる。よって、測定しようとするDダイマーと担体に感作されたモノクローナル抗体とはより高い特異性で反応することができ、Dダイマーの濃度をより正確に測定することが可能になる。
【0048】
本発明のDダイマー測定用試薬キットを用いて生体試料中のDダイマーを測定する方法について、以下に具体的に説明する。
まず、緩衝液を含む第1試薬と生体試料とを混合してインキュベートする。ここで、生体試料としては血清、血漿、尿などが挙げられる。第1試薬と生体試料とを混合する際の容量比は、5:1〜50:1程度であればよい。また、インキュベート時間は1〜10分間程度であればよい。
【0049】
次いで、第1試薬と生体試料との混合物に、Dダイマーに対する反応性の異なる第1及び第2のモノクローナル抗体を感作した担体粒子を含む第2試薬を添加する。該混合物と第2試薬とを混合する際の容量比は、1:0.05〜1:1.5程度であればよい。
【0050】
第2試薬を添加して混合すると、抗原抗体反応によりDダイマーと第2試薬中の担体粒子との凝集が生じる。この凝集の度合いを、1分間当たりの吸光度変化量として測定する。この測定は、散乱光強度、吸光度又は透過光強度を測定可能な光学機器で行うことが好ましい。また、測定波長は300〜2400 nm、好ましくは400〜1200 nm、より好ましくは600〜1000 nmの範囲から適切な波長を選択できる。
生体試料中のDダイマーの濃度及び/又は量は、濃度既知のDダイマー標準物質の測定により得られる検量線を用いて、測定した吸光度変化量から算出できる。
【0051】
本発明の試薬キットでは、第1試薬と第2試薬とを混合した後、両試薬の混合物に生体試料を添加して担体粒子の凝集の度合いを光学的に測定する方法にも利用可能である。
【0052】
以下に、実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0053】
1. 免疫沈降法による各抗体の反応性の確認
第1のモノクローナル抗体としてDD-M1653抗体を用い、第2のモノクローナル抗体としてDD-M1039抗体及びDD-M46抗体を用いて、これらの抗体のフィブリン/フィブリノゲン分解産物に対する反応性の違いを、以下のような免疫沈降法により検討した。
【0054】
フィブリン分解産物(Dダイマー)及びフィブリノゲン分解産物(X画分、Y画分、D画分及びE画分)と各抗体とを反応させた後、ヤギ抗マウスイムノグロブリン抗体-sepharose 4Bで抗原抗体反応物を吸着した。該抗原抗体反応物を吸着したsepharose 4Bを洗浄液(10 mM NaPB(pH7.0))で洗浄後、SDS電気泳動用試料希釈液(10%グリセロール、2% SDS、0.01% BPB含62.5 mM Tris-HCl(pH6.8))にて結合抗原を遊離させた。遊離した抗原をSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動後、転写用緩衝液(25 mMトリス、192 mMグリシン、0.02% SDS、20%メタノール(pH8.3))中で100V、1時間でPVDF膜(Bio-rad社)に転写した。転写したPVDF膜をブロッキング用緩衝液(5%スキムミルク含10 mM NaPB(pH7.0))でブロッキングした後、5%スキムミルク含10 mM NaPB(pH7.0)で0.1 mg/mlに希釈したウサギ抗フィブリノーゲンポリクローナル抗体溶液に該PVDF膜を浸し、室温下3時間反応させた。PVDF膜を洗浄液で洗浄後、2%スキムミルク含10 mM NaPB(pH7.0)で500倍希釈したヤギ抗ウサギイムノグロブリン抗体標識POD(DAKO社)に該PVDF膜を浸し、室温下1時間反応させた。PVDF膜を洗浄液で洗浄後、4-クロロ-1-ナフトール/H2O2発色系(Bio-rad社)で発色させて抗原を検出した。結果を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
表1において「+」は抗体が画分に対して反応することを示し、「−」は抗体が画分に対して反応しないことを示し、「w」は抗体が画分に対してわずかに反応することを示す。
表1から、DD-M1653抗体はX画分、Y画分及びDダイマーとは反応するが、D画分及びE画分とは反応しないことがわかった。また、DD-M1039抗体及びDD-M46抗体はDダイマーとは反応するが、X画分、Y画分及びE画分とは反応しないことがわかった。
【0057】
2. Dダイマー測定用試薬及び試薬キットの製造
(1)Dダイマーの低分子画分及び高分子画分の調製
ヒトフィブリノゲン(「Human Fibrinogen Plasminogen Depleted」;Enzyme ResearchLab社)を0.05 Mトリス緩衝液(pH 7.4)に6.62 mg/mlとなるよう溶解し、塩化カルシウム(最終濃度25 mM)、ヒトトロンビン(2 U/ml)及び第XIII因子(最終濃度10μg/ml、フィブロガミンP;アベンティスファーマ社)を添加した。37℃で18時間反応させてフィブリノゲンをフィブリンに変換させた。
【0058】
各反応液中に生じたフィブリン塊を約300 mLの0.05Mトリス緩衝液中で撹拌することにより1時間程度洗浄した。洗浄したフィブリン塊をカッターナイフでほぐし、3.5 ml(高分子画分用)及び1.5 ml(低分子画分用)の0.05Mトリス緩衝液に再懸濁した。各懸濁液にプラスミンを終濃度25 mU/mlとなるように添加して、37℃で撹拌しながら反応させた。
0.75時間後、高分子画分用の反応液にアプロチニンを終濃度1000 U/mlになるように添加し、分解反応を停止した。これを5μmフィルターでろ過して、Dダイマーの高分子画分(フィブリンのプラスミン0.75時間消化物)を得た。また、プラスミンの添加から20時間後、低分子画分用の反応液にアプロチニンを終濃度1000 U/mlになるように添加し、分解反応を停止した。これを5μmフィルターでろ過して、Dダイマーの低分子画分(フィブリンのプラスミン20時間消化物)を得た。
【0059】
(2)Dダイマー測定用試薬の調製
(2-1)第1試薬の製造
各試薬を表2に示される終濃度となるように混合した緩衝液に、DD-M1653抗体を終濃度10μg/mlとなるように添加して混合した。得られた混合液について、1M水酸化ナトリウム水溶液でpHを7.1にした後、超純水で1リットルにメスアップすることにより、緩衝液を含む第1試薬を製造した。
【0060】
【表2】
【0061】
(2-2)抗体を感作した担体粒子を含むDダイマー測定用試薬の製造
(2-2-1)各抗体のF(ab')2化
(i)DD-M1653抗体のF(ab')2化
ペプシン(約3,500 unit/mg prot.)(SIGMA社)とDD-M1653抗体を重量比で1:20になるよう50 mMクエン酸緩衝液(pH3.7)中で混合し、37℃で1時間静置した。ここに3Mトリス溶液を添加してpHを8.0にして、混合溶液を得た。
AKTA prime plusシステム(GEヘルスケア社)に、Superdex 200pg(GEヘルスケア社)
を充填したカラムをセットし、平衡化バッファー(3.3 mM 3,3-ジメチルグルタル酸含3.3 mMトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)でカラムを平衡化した。
平衡化バッファーを流速1ml/分でカラムに流しながら、上記の混合溶液をゲルボリュームの1/100以下でアプライして、ただちにカラム溶出液の分取を開始した。ゲルボリュームの約1.5倍までの液量を採取し、得られた溶液の吸光度によってピークをまとめて回収した。回収した溶液の吸光度を測定して抗体濃度を算出した。
【0062】
(ii)DD-M1039抗体のF(ab')2化
パパイン(約2.8 unit.)(SIGMA社)及びL-システインを、それぞれ終濃度2mg/ml、及び6.1 mg/mlとなるように0.1 M 酢酸緩衝液(pH5.5)/3mM EDTA(以下、酢酸緩衝液という)に溶解した。これを37℃で30分間反応させた。反応液を限外ろ過用遠心チューブ(アミコンYM-5(カットオフ分子量10,000)相当;ミリポア社)により酢酸緩衝液置換した。得られた溶液の吸光度からパパイン濃度を求めた。この溶液にDD-M1039抗体を、パパイン重量が抗体の1/20となるように溶解した。そして、37℃で30分間反応させ、得られた反応液に終濃度30 mMとなるようヨードアセトアミドを添加した。
AKTA prime plusシステム(GEヘルスケア社)に、Superdex 200pg(GEヘルスケア社)を充填したカラムをセットし、平衡化バッファー(3.3 mM 3,3-ジメチルグルタル酸含3.3 mMトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)でカラムを平衡化した。
平衡化バッファーを流速1ml/分でカラムに流しながら、上記の混合溶液をゲルボリュームの1/100以下でアプライして、ただちにカラム溶出液の分取を開始した。ゲルボリュームの約1.5倍までの液量を採取し、得られた溶液の吸光度によってピークをまとめて回収した。回収した溶液の吸光度を測定して抗体濃度を算出した。
【0063】
(iii)DD-M46抗体のF(ab')2化
DD-M46抗体のF(ab')2化は、DD-M1039抗体に代えてDD-M46抗体を用いたこと以外は上記の(ii)DD-M1039抗体のF(ab')2化において述べたことと同様にして行った。
【0064】
(2-2-2)各抗体のラテックス粒子への感作
(i)DD-M1653抗体のラテックス粒子への感作
F(ab')2化DD-M1653抗体の終濃度が1.25 mg/mlとなるように、50 mM 2-ヒドロキシ-3-モルホリノプロパンスルホン酸/150 mM NaCl溶液に混合した。そして、この混合液と25%(重量比)ラテックス溶液(粒径0.238μm;セキスイメディカル株式会社)とを混合した。
これに50 mM 2-ヒドロキシ-3-モルホリノプロパンスルホン酸/150 mM NaCl溶液/2%BSA溶液を等量加えて混合した後、10℃、38400×gで60分間遠心した。上澄みを除去し、沈殿に上澄みと等量の50 mM 2-ヒドロキシ-3-モルホリノプロパンスルホン酸/150 mM NaCl溶液/2%BSA/3%シュークロース溶液を添加した。
得られた混合液を、氷冷条件で超音波破砕機(大岳社製)を用いてソニケーションを行い、さらに、氷冷条件で超音波処理装置(Dr. Hielscher Gmbh UP-200S)を用いてソニケーションを実施しDD-M1653抗体を感作したラテックス粒子の懸濁液を得た。
【0065】
(ii)DD-M1039抗体のラテックス粒子への感作
F(ab')2化DD-M1039抗体の終濃度が1.25 mg/mlとなるように、50 mM 2-ヒドロキシ-3-モルホリノプロパンスルホン酸/150 mM NaCl溶液に混合した。以下、上記の(i)DD-M1653抗体のラテックス粒子への感作において述べたことと同様にして、DD-M1039抗体を感作したラテックス粒子の懸濁液を得た。
【0066】
(iii)DD-M46抗体のラテックス粒子への感作
F(ab')2化DD-M46抗体の終濃度が1.56 mg/mlとなるように、50 mM 2-ヒドロキシ-3-モルホリノプロパンスルホン酸/150 mM NaCl溶液に混合した。以下、上記の(i)DD-M1653抗体のラテックス粒子への感作において述べたことと同様にして、DD-M46抗体を感作したラテックス粒子の懸濁液を得た。
【0067】
(2-2-3)第2試薬の製造
DD-M1653抗体を感作したラテックス粒子の懸濁液と、DD-M1039抗体又はDD-M46抗体を感作したラテックス粒子の懸濁液とを混合することにより、2種類のモノクローナル抗体を感作した担体粒子を含むDダイマー測定用試薬を得た。このDダイマー測定用試薬を第2試薬として、以下の測定に用いた。
【0068】
(3)ラテックス凝集法による各抗体のDダイマーへの反応性の確認
DD-M1653抗体、DD-M1039抗体及びDD-M46抗体のフィブリン/フィブリノゲン分解産物に対する反応性の違いを、以下の手順によるラテックス凝集法により検討した。
上記(1)で調製したDダイマーの低分子画分及び高分子画分をTBSTバッファーで100倍希釈して検体とした。各検体6μlと、上記(2-1)で調製した第1試薬84μlとを混合し、37℃で3分間反応させた。得られた反応液と、上記(2-2)で調製した各抗体をそれぞれ個別に感作したラテックス粒子の懸濁液84μlとを混合して、ラテックス凝集反応を開始させた。反応開始から1分後及び2分後の波長800 nmにおける吸光度をCS-2000i(シスメックス株式会社)を用いて測定した。これらの測定結果から1分間あたりの吸光度の変化量を求めた。結果を図1に示す。
【0069】
図1より、DD-M1653抗体はDダイマーの高分子画分及び低分子画分と反応することがわかった。また、DD-M1039抗体及びDD-M46抗体はDダイマーの高分子画分と反応するが、Dダイマーの低分子画分との反応性はDD-M1653抗体とは異なり、これらの抗体はDダイマーの低分子画分とDD-M1653抗体よりも弱く反応することがわかった。すなわち、DD-M1653抗体とDD-M1039抗体及びDD-M46抗体とは、Dダイマーに対する反応性が互いに異なる抗体であることがわかる。
したがって、上記の(2-2)で製造したDダイマー測定用試薬は、Dダイマーに対する反応性が互いに異なる第1及び第2のモノクローナル抗体を感作した担体粒子を含む試薬である。
【0070】
3. 本発明のDダイマー測定用試薬のDダイマーへの反応性の検討
上記の2.で製造した本発明のDダイマー測定用試薬を用いてDダイマー標準品を測定した。
第1試薬は、上記の2.(2-1)で製造した試薬を用いた。第2試薬は、上記の2.(2-2)で製造した試薬を用いた。第2試薬における、各抗体をそれぞれ個別に感作したラテックス粒子の懸濁液の混合率(体積比)を、以下の表3に示す。なお、第2試薬における抗体の総量は、いずれの混合率の第2試薬においても同じである。
【0071】
【表3】
【0072】
Dダイマー標準品ネオ(シスメックス株式会社)を希釈して濃度1μg/mlのDダイマー溶液を調製した。この溶液を検体とした。検体6μlと第1試薬84μlとを混合し、37℃で3分間反応させた。得られた反応液と、実施例1〜6及び比較例1〜4の各第2試薬84μlとを混合して、ラテックス凝集反応を開始させた。反応開始から1分後及び2分後の波長800 nmにおける吸光度をCS-2000iを用いて測定した。これらの測定結果から1分間あたりの吸光度の変化量を求めた。結果を図2及び3に示す。
図2及び3より、実施例1〜6のDダイマー測定試薬の方が、比較例の試薬よりもDダイマーに対する反応性が高いことが分かった。
【0073】
4. 本発明のDダイマー測定用試薬の低濃度域におけるDダイマー測定感度の検討
低濃度域におけるDダイマー測定感度について、本発明のDダイマー測定用試薬(実施例1)と従来の測定試薬(比較例1)とを比較した。
Dダイマー標準品ネオ(シスメックス株式会社)を希釈して濃度0.25μg/mlのDダイマー溶液を調製した。この溶液を検体とした。検体6μlと試験例1の(2-1)で製造した第1試薬84μlとを混合し、37℃で3分間反応させた。得られた反応液と、実施例1及び比較例1の各第2試薬84μlとを混合して、ラテックス凝集反応を開始させた。反応開始から1分後及び2分後の波長800 nmにおける吸光度をCS-2000iを用いて測定した。これらの測定結果から1分間あたりの吸光度の変化量を求めた。また、Dダイマーを含まない検体(0μg/ml)についても同様にして測定した。各検体10サンプルずつについて、測定値の平均値(Mean)、標準誤差(SD)を算出した。また、平均値のばらつきの上限及び下限として、それぞれ平均値に標準誤差の2倍の値を加えた値(+2SD)及び引いた値(-2SD)を算出した。これらの結果を表4に示す。
【0074】
【表4】
【0075】
実施例1の試薬では、0μg/mlの検体についての平均値+2SDの値よりも、0.25μg/mlの検体についての平均値−2SDの値の方が大きいことがわかる。これは、0μg/mlの検体の測定結果のばらつきの上限と、0.25μg/mlの検体の測定結果のばらつきの下限とが重ならないことを示す。
一方、比較例1の試薬では、0μg/mlの検体についての平均値+2SDの値よりも、0.25μg/mlの検体についての平均値−2SDの値の方が小さいことがわかる。これは、0μg/mlの検体の測定結果のばらつきの上限と、0.25μg/mlの検体の測定結果のばらつきの下限とが重なり得ることを示す。
したがって、実施例1の試薬では、Dダイマーを含まない検体と低濃度のDダイマーを含む検体とを区別できるが、比較例1の試薬ではそのような区別はできないことが示唆される。
よって、本発明のDダイマー測定試薬は低濃度域におけるDダイマーを高感度に測定できることがわかる。
図1
図2
図3