(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-44769(P2015-44769A)
(43)【公開日】2015年3月12日
(54)【発明の名称】シリルアミンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 7/10 20060101AFI20150213BHJP
【FI】
C07F7/10 F
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2013-177212(P2013-177212)
(22)【出願日】2013年8月28日
(71)【出願人】
【識別番号】000214272
【氏名又は名称】長瀬産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】白幡 明彦
【テーマコード(参考)】
4H049
【Fターム(参考)】
4H049VN01
4H049VP01
4H049VQ39
4H049VR23
4H049VR51
4H049VS80
4H049VT47
4H049VT50
4H049VU24
4H049VU36
4H049VV10
4H049VW02
(57)【要約】
【課題】従来の方法に比べて高効率かつ低コストにシリルアミンを製造する手法を提供する。
【解決手段】このシリルアミンの製造方法では、R
1R
2R
3SiNHSiR
1R
2R
3で示されるジシラザン(ただし、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立に、炭素数1〜3のアルキル基、又は、炭素数2〜3のアルケニル基を示す。)と、R
4R
5NHで示されるアミン(ただし、R
4及びR
5は、それぞれ独立に、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基、または、フェニル基を示す。)とを、非プロトン性強極性溶媒、及び、強酸またはそのアンモニウム塩、の存在下で反応させてR
1R
2R
3SiNR
4R
5を得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
R1R2R3SiNHSiR1R2R3で示されるジシラザン(ただし、R1、R2及びR3は、それぞれ独立に、炭素数1〜3のアルキル基、又は、炭素数2〜3のアルケニル基を示す。)と、
R4R5NHで示されるアミン(ただし、R4及びR5は、それぞれ独立に、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基、または、フェニル基を示す。)とを、
非プロトン性強極性溶媒、及び、強酸またはそのアンモニウム塩、の存在下で反応させてR1R2R3SiNR4R5を得る、シリルアミンの製造方法。
【請求項2】
ジシラザン100モルに対して0.1モル以上の強酸またはそのアンモニウム塩を存在させる請求項1記載の方法。
【請求項3】
ジシラザン100質量部に対して5質量部以上の非プロトン性強極性溶媒を存在させる請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
R1、R2、R3、R4、R5がすべてメチル基である請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ素化合物、特にはSi−N結合を有する有機ケイ素化合物であるシリルアミンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般式R
3SiNR’
2で示されるシリルアミン化合物は、CVDによる窒化ケイ素膜生成の前駆体や、特殊シリル化剤として有用である。シリルアミン化合物を合成する一般的製法として、非特許文献1に開示されるように、例えばトリメチルクロロシランのようなトリアルキルクロロシランとジメチルアミンやジブチルアミンといったジアルキルアミンとを反応させることが知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Szabo, Katalin; Le Ha, Ngoc; Schneider, Phillippe; Zeltner, Peter; sz. Kovacs,Ervin, Helvetica Chimica Acta, 1984, vol.67, p.2128-2142
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、トリアルキルクロロシランとジアルキルアミンとの反応でシリルアミンを製造する場合には、ジアルキルアミンをクロロシランに対して2倍当量以上用い、トルエンやヘキサンなどの無水の非プロトン性有機溶媒中で反応させ、反応によって生成する塩化水素を当該アミンの塩酸塩としてトラップし、副生するアミンの塩酸塩を濾過で除去してから蒸留で溶媒と生成するシリルアミンを分離精製するといった手法が必要となる。この方法では、目的とするシリルアミンと等モルのアミン塩酸塩が生成するため、原料となるジアルキルアミンが化学両論上クロロシランに対して2倍モル必要であり、かつ反応をスムーズに行わせるための攪拌のために相当量の溶媒が必要であるためその生成効率が制限され、さらにアミン塩酸塩の濾過の工程が必要で工程が複雑となっていた。
【0005】
本発明は、このような従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、従来の方法に比べて高効率かつ低コストにシリルアミンを製造する手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るシリルアミンの製造方法は、R
1R
2R
3SiNHSiR
1R
2R
3で示されるジシラザン(ただし、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立に、炭素数1〜3のアルキル基、又は、炭素数2〜3のアルケニル基を示す。)と、
R
4R
5NHで示されるアミン(ただし、R
4及びR
5は、それぞれ独立に、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基、または、フェニル基を示す。)とを、
非プロトン性強極性溶媒、及び、強酸またはそのアンモニウム塩、の存在下で反応させてR
1R
2R
3SiNR
4R
5を得る工程を備える。
【0007】
ここで、ジシラザン100モルに対して0.1モル以上の、強酸またはそのアンモニウム塩を存在させることが好ましい。
【0008】
また、ジシラザン100質量部に対して5質量部以上の非プロトン性強極性溶媒を存在させることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、高効率かつ低コストなシリルアミンの合成法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係るシリルアミンの製造方法は、R
1R
2R
3SiNHSiR
1R
2R
3で示されるジシラザンと、R
4R
5NHで示されるアミンとを、非プロトン性強極性溶媒、及び、強酸またはそのアンモニウム塩、の存在下で反応させてシリルアミンR
1R
2R
3SiNR
4R
5を得る。
【0011】
(ジシラザン)
ジシラザンR
1R
2R
3SiNHSiR
1R
2R
3の式中のR
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立に、炭素数1〜3のアルキル基、又は、炭素数2〜3のアルケニル基を示す。
【0012】
R
1、R
2、及びR
3はすべて互いに同一でも良いし、R
1、R
2、及びR
3中のいずれか2つのみが互いに同一でも良いし、R
1、R
2及びR
3がいずれも互いに異なっても良い。
【0013】
R
1、R
2、及びR
3の具体例は、メチル基、エチル基、プロピル基、ビニル基、アリル基などである。最も一般的なジシラザンとしてはR
1、R
2、R
3がすべてメチル基のヘキサメチルジシラザンがあげられるが、反応はこのものに限定されるものではない。
【0014】
(アミン)
アミンR
4R
5NHの式中のR
4及びR
5は、それぞれ独立に、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基、または、フェニル基を示す。
【0015】
R
4及びR
5は、互いに同一でもよいし、互いに異種でもよい。R
4及びR
5の例は、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、N−メチルシクロヘキシルアミン、メチルフェニルアミン、ジアリルアミンなどである。
【0016】
(非プロトン性強極性溶媒)
非プロトン性強極性溶媒の例は、N,N−ジメチルフォルムアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルエチレンウレア、ヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPA)などのアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド(DMSO);アセトニトリルなどがあげられる。この非プロトン性強極性溶媒は助触媒として作用し、これが存在しないと反応は進行しない。非プロトン性強極性溶媒の添加量は特に限定されないが、ジシラザン100質量部に対して5質量部以上存在することが好ましく、10質量部以上存在することが好ましい。非プロトン性強極性溶媒の添加量の上限は特にないが、例えば、反応開始時において、ジシラザン100質量部に対して200質量部以下とすることが好ましく、100質量部以下とすることがさらに好ましい。反応釜効率や反応速度を考慮してその添加量は決められる。
【0017】
(強酸またはそのアンモニウム塩)
強酸の例は、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸、p−トルエンスルフォン酸やドデシルベンゼンスルフォン酸などの有機酸である。本反応ではアミンを添加するのでこれらの酸は反応開始時点で添加したアミンのアンモニウム塩になっていると考えられるが、実際、強酸そのものではなく、強酸のアンモニウム塩を添加しても同じ効果が得られる。アンモニウム塩はかならずしも添加するアミンの塩である必要はなく、アンモニア由来の塩化アンモニウム、硫酸アンモニウムなどのアンモニウム塩でも同じ結果が得られる。
【0018】
本反応において、強酸またはそのアンモニウム塩は反応の触媒として作用する。強酸又はそのアンモニウム塩の添加量は特に限定されないが、ジシラザン100モルに対して0.1モル以上存在することが好ましく、0.5モル以上とすることがより好ましい。添加量の上限も特にないが、反応開始時において、ジシラザン100モルに対して10モル以下とすることが好ましく、5モル以下とすることがさらに好ましい。0.1モル未満では反応が遅くなって生産効率がやや低くなる場合があり、10モル超では触媒が無駄なだけでなく、ろ過工程での効率が悪くなる場合がある。
【0019】
(反応操作)
アミンと触媒系成分(非プロトン性強極性溶媒及び強酸又はそのアンモニウム塩)の混合物中にジシラザンを添加しても、ジシラザンと触媒系成分の混合物中にアミンを添加してもよく、いずれの場合でも目的とするシリルアミンを得ることができる。反応に伴って発生するアンモニアを反応系の外へ除去することが好ましい。反応系外に除去する方法としては、分留塔が挙げられる。
【0020】
反応温度は特に限定されないが、10〜125℃が好ましい。反応圧力も特に限定されず、常圧下で行うことができる。なお、加圧下で高温にすることで反応を促進することもできるが生成するアンモニアを効率よく系外に除去するための装置的な工夫が必要となる。
【0021】
(効果)
本発明の製造方法によれば、強酸またはそのアンモニウム塩が触媒となり、非プロトン性強極性溶媒が助触媒となって、シラザンとジアルキルアミンが反応してシリルアミンが生成する。反応は、主として溶媒を含む液相中で起こる。反応の副生物としてアンモニアが生成するが、ガスであるアンモニアを溶媒(液体相)から除去することは、従来の方法のように副生物である塩を溶媒から濾過等により取り除くことに比べてはるかに容易である。したがって、高効率化及び低コスト化が達成され、シリルアミンを合成する工業的製法として有用である。
【実施例】
【0022】
以下に、本発明に関して実施例を挙げて説明するが、本発明は、これらによって限定されるものではない。
【0023】
実施例1
攪拌棒、温度計、還流管、ガス導入管を備え付けた300mlの四つ口フラスコにヘキサメチルジシラザン161g(1モル)を仕込み、川研ファインケミカル製ジメチルエチレンウレアを50g、硫酸アンモニウム1.32g(0.01モル)を加えて加熱攪拌を開始した。40℃を超えたところで、攪拌しながらジメチルアミンを、ガス導入管を通して系内に導入した。ガスクロマトグラフィーで反応の進行を確認しながらジメチルアミンの導入をさらに行い、ヘキサメチルジシラザンが完全に消費されてトリメチルシリルジメチルアミンが生成したことを確認した。その後、常圧蒸留を行い、沸点86℃のトリメチルシリルジメチルアミン200g(1.71モル)を得た。収率は85%であった。
【0024】
実施例2
攪拌棒、温度計、還流管、滴下ロートを備え付けた500mlの四つ口フラスコにヘキサメチルジシラザン161g(1モル)を仕込み、川研ファインケミカル製ジメチルエチレンウレアを50g、濃硫酸0.98g(0.01モル)を加えて加熱攪拌を開始した。40℃を超えたところで、攪拌しながらジメチルアミンを、ガス導入管を通して系内に導入した。ガスクロマトグラフィーで反応の進行を確認しながらジメチルアミンの導入をさらに行い、ヘキサメチルジシラザンが完全に消費されてトリメチルシリルジメチルアミンが生成したことを確認した。その後、常圧蒸留を行い、沸点86℃のトリメチルシリルジメチルアミン210g(1.79モル)を得た。収率は90%であった。
【0025】
実施例3
攪拌棒、温度計、還流管、滴下ロートを備え付けた500mlの四つ口フラスコにヘキサメチルジシラザン161g(1モル)を仕込み、川研ファインケミカル製ジメチルエチレンウレアを50g、ドデシルベンゼンスルフォン酸3.3g(0.01モル)を加えて加熱攪拌を開始した。40℃を超えたところで、攪拌しながらジメチルアミンを、ガス導入管を通して系内に導入した。ガスクロマトグラフィーで反応の進行を確認しながらジメチルアミンの導入をさらに行い、ヘキサメチルジシラザンが完全に消費されてトリメチルシリルジメチルアミンが生成したことを確認した。その後、常圧蒸留を行い、沸点86℃のトリメチルシリルジメチルアミン220g(1.88モル)を得た。収率は94%であった。
【0026】
実施例4
攪拌棒、温度計、還流管、滴下ロートを備え付けた500mlの四つ口フラスコにヘキサメチルジシラザン161g(1モル)を仕込み、N-メチルピロリドンを50g、ドデシルベンゼンスルフォン酸3.3g(0.01モル)を加えて加熱攪拌を開始した。40℃を超えたところで、攪拌しながらジメチルアミンを、ガス導入管を通して系内に導入した。ガスクロマトグラフィーで反応の進行を確認しながらジメチルアミンの導入をさらに行い、ヘキサメチルジシラザンが完全に消費されてトリメチルシリルジメチルアミンが生成したことを確認した。その後、常圧蒸留を行い、沸点86℃のトリメチルシリルジメチルアミン195g(1.66モル)を得た。収率は83%であった。