【解決手段】プレートは(A)基板、(B)基板の少なくとも1つの表面上のポリジメチルシロキサン(PDMS)層、及び(C)ポリジメチルシロキサン層上の二酸化チタン粒子の1以上の凝集、を含む。プレートはリン酸化ペプチドの精製に有用である。
前記基板は、金属基板、ガラス基板、ポリメタクリレート基板、ポリカーボネート基板、ポリエチレンテレフタレート基板、及び木材基板から成る群より選択されることを特徴とする、請求項1〜3のうちいずれか一項に記載のプレート。
前記段階(c)は、前記水性懸濁液を前記ポリジメチルシロキサン層上に滴下して、水性懸濁液の1以上の個々の液滴を形成する段階を含むことを特徴とする、請求項5に記載の方法。
前記有機溶媒は、アセトニトリル、メタノール、エタノール、n‐プロパノール、イソプロパノール、n‐ブタノール、イソブタノール、アクリロニトリル、アセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、ベンゼン、メチルベンゼン、n‐ヘキサン、n‐ペンタン、及びそれらの組み合わせから成る群より選択されることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
前記基板は、金属基板、ガラス基板、ポリメタクリレート基板、ポリカーボネート基板、ポリエチレンテレフタレート基板、及び木材基板から成る群より選択されることを特徴とする、請求項5〜12のうちいずれか一項に記載の方法。
前記有機相は、アセトニトリル、メタノール、エタノール、n‐プロパノール、イソプロパノール、n‐ブタノール、イソブタノール、アクリロニトリル、アセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、ベンゼン、メチルベンゼン、n‐ヘキサン、n‐ペンタン、及びそれらの組み合わせから成る群より選択され、かつ前記酸は、置換又は非置換のギ酸、置換又は非置換の酢酸、及びそれらの組み合わせから成る群より選択されることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
前記段階(iii)における前記溶出溶液は、アンモニア溶液、アンモニウム塩の水溶液、ギ酸の水溶液、及びそれらの組み合わせから成る群より選択されることを特徴とする、請求項14〜17のうちいずれか一項に記載の方法。
前記段階(i)における接触時間は2分〜20分であり、かつ前記段階(iii)における接触時間は2分〜10分であることを特徴とする、請求項14〜19のうちいずれか一項に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明のいくつかの実施形態を詳細に説明する。しかしながら、本発明の精神から逸脱することなく、本発明は様々な実施形態で実施することができ、かつ本明細書に記載の実施形態に限定されるべきではない。
さらに、本明細書において別段の定めがある場合を除き、本発明の明細書(特に特許請求の範囲)に記載の表現「a」、「the」等は、単数形及び複数形の両方を含むべきである。本明細書で使用される用語は、すぐ下に記載の例示的な定義と一致するその通常の意味が与えられる。
【0015】
タンパク質リン酸化はリン酸(PO
4)基のタンパク質への結合を指し、それはセリン、トレオニン、及び/又はチロシンの残基において通常起こる。TiO
2とリン酸基との間に優れた結合親和性があるため、TiO
2はリン酸化タンパク質の精製に使用可能であることが知られている。しかしながら、上述の通り、リン酸化タンパク質の精製を実施するためのTiO
2の固定化に使用される従来方法には多くの不利益がなお存在する。したがって、TiO
2を容易かつ効果的に固定化する方法がいまだに必要とされている。
【0016】
本発明の発明者は、TiO
2粒子の水性懸濁液を介した凝集形態において、ポリジメチルシロキサン(PDMS)層上にTiO
2粒子を効果的に固定化可能であることを偶然発見したため、プレート表面上にTiO
2を有するプレートを提供する。プレートはリン酸化ペプチドの精製に有用である。特に、本発明によるプレート表面上にTiO
2を有するプレートは、(A)基板、(B)基板の少なくとも1つの表面上のPDMS層、及び(C)PDMS層上のTiO
2粒子の1以上の凝集、を含む。
【0017】
本発明によるプレート表面上にTiO
2を有するプレートにおいて、基板はPDMS層を支持するのに使用される構成要素である。基板の形状及び材料は、如何なる特定の制限なしに、実際の用途に応じて選択することができる。一般に、PDMSは様々な材料に対して良好な接着性を有する材料である。したがって、本発明のプレートに使用される基板は、金属基板、ガラス基板、ポリマー基板、例えばポリメタクリレート基板、ポリカーボネート基板、及びポリエチレンテレフタレート基板、並びに木材基板から成る群より選択することができる。
さらに、基板は実際の必要性に応じて、平面又は非平面(例えば基板の表面上に溝を有する基板)とすることができる。本発明の一実施形態では、円盤状のステンレス鋼基板が使用される。
【0018】
PDMSは、不燃性、不活性、及び非毒性の高分子有機ケイ素化合物である。PDMSは硬化する前は粘稠な液体であり、次式(I)のような構造を有する:
【0020】
PDMSの粘度はn値の増加と共に増加する。PDMSの構造中のメチル基及び末端基の部分は、他の官能基、例えば水素基、ビニル基、又はフェニル基で置換されてもよい。
【0021】
硬化すると、PDMSは様々な基板に対して良好に接着する疎水性層となる。さらに、硬化PDMSは可撓性、耐熱性、及び光学的に透明である。硬化PDMSは、人工臓器、ガイドチューブ、コンタクトレンズ、及び薬物送達システムに関する医療分野で使用することができる。さらに、硬化PDMSは、産業界においてマイクロ流体デバイス、及びマイクロリアクタに使用することができ、又はシーラント若しくは絶縁体等として使用することができる。
【0022】
本発明によるプレートにおいて、PDMS層はPDMSを提供するのに適した任意の方法によって基板表面上に形成することができる。例えば、水素官能性PDMSとビニル官能性PDMSとを混合し、その後Pt触媒を任意で添加して、基板上に硬化PDMS層を形成することにより、PDMS層を形成することができる。前述の硬化反応は、水素官能性PDMSのシラン基とビニル官能性PDMSのビニル基との間のさらなる反応により達成される。
水素官能性PDMSの例としては、限定されるものではないが、ポリ(メチルヒドロシロキサン)、トリメチルシリル末端のポリ(メチルヒドロシロキサン)、トリメチルシリル末端のポリ(ジメチルシロキサン‐メチルヒドロシロキサン共重合体)、ヒドロキシ末端のポリ(ジメチルシロキサン)、及び水素化物末端のポリ(ジメチルシロキサン)が挙げられる。
ビニル官能性PDMSの例としては、限定されるものではないが、ビニル末端のポリ(ジメチルシロキサン)、及びジビニル末端のポリ(ジメチルシロキサン‐ジフェニルシロキサン共重合体)が挙げられる。Pt触媒の例としては、限定されるものではないが、ヘキサクロロ白金酸、二酸化白金、塩化白金酸カリウム、二塩化白金、及び四塩化白金が挙げられる。
【0023】
さらに、硬化性PDMSを製造するための市販キットを使用して本発明のPDMS層を提供することもできる。一般に、硬化性PDMSの市販キットは、PDMSエラストマー基剤及びPDMSエラストマー硬化剤を含む。このような市販キットを使用する場合、通常、基剤及び硬化剤を特定の比率で混合して混合物を得て、その後得られた混合物を任意に加熱することでPDMSを硬化する。
本発明の一実施形態では、PDMSエラストマー基剤(試薬A)及びPDMSエラストマー硬化剤(試薬B)を含む、市販のSylgard(登録商標)184有機ケイ素エラストマーキット(Dow Corning Inc.,米国)を使用してPDMS層を提供する。PDMS層を提供するためのSylgard(登録商標)184有機ケイ素エラストマーキットを用いた操作段階は、下記を含む:(1)試薬A及び試薬Bを3:1〜15:1の範囲の体積比、好ましくは約10:1の体積比で混合する段階、(2)得られた混合溶液を基板の少なくとも1つの表面上に適用する段階、及び(3)基板を40℃〜200℃の温度範囲で5分〜120分間乾燥させて、基板表面上にPDMS層を形成する段階。
【0024】
PDMS層を提供するための段階(2)で使用される上記のSylgard(登録商標)184有機ケイ素エラストマーキットは、当業者に周知のあらゆる方法により適用することができる。適した適用方法には、限定されるものではないが、スクリーン印刷法、コーティング法、又はスポッティング法がある。適したコーティング法は、例えばナイフコーティング、ローラーコーティング、マイクログラビアコーティング、フローコーティング、ディップコーティング、スプレーコーティング、カーテンコーティング、又はそれらの組み合わせであってもよい。例えば、試薬Aと試薬Bとの混合物の適当量が基板上に適用された後、任意にガラススライド又はローラーを用いて平滑化することができる。
【0025】
本発明によるプレート表面上にTiO
2を有するプレートにおいて、PDMS層の厚さは、如何なる特定の制限なしに、実際の用途に応じて調整することができる。例えば、基板上に被覆されるPDMS溶液の体積及び/又は被覆頻度を調整することで、それにより提供される乾燥PDMS層の厚さを制御することができる。
【0026】
本発明によるプレート表面上にTiO
2を有するプレートにおいて、1以上のTiO
2凝集がPDMS層上にあり、各凝集はTiO
2粒子から実質的に構成されている。
図1(a)は本発明のプレート表面上にTiO
2粒子を有するプレートの実施形態における、TiO
2粒子の凝集の顕微鏡写真を示しており、TiO
2粒子の粒径は約5μmである。
図1(b)は本発明のプレート表面上にTiO
2粒子を有するプレートの他の実施形態における、光学式走査器で走査された画像を示している。TiO
2粒子はPDMS層の表面上に複数の凝集として分布しており、それ故、得られたプレート表面上にTiO
2を有するプレートに複数のリン酸化ペプチド試料の精製を同時に行わせることができる。
【0027】
本発明によるプレート表面上にTiO
2を有するプレートにおいて、TiO
2凝集中のTiO
2粒子はそれらの粒径において特に制限されない。しかしながら、TiO
2粒子が150nm未満などのナノスケールの粒径である場合、TiO
2粒子のもたらされた凝集と非リン酸化ペプチドとの間に非特異的結合が発生する可能性があり、これはリン酸化タンパク質を精製するための特異性が減少する原因となる。したがって、本発明によるプレート表面上にTiO
2を有するプレートにおいて、TiO
2凝集中のTiO
2粒子は少なくとも150nm、好ましくは0.5μm〜10μm、及びより好ましくは1μm〜5μmの粒径を通常有する。
【0028】
本発明はまた、上記のプレート表面上にTiO
2を有するプレートの製造方法を提供し、該方法は下記の段階を含む:(a)基板を提供する段階、(b)基板の少なくとも1つの表面上にPDMS層を形成する段階、(c)PDMS層の少なくとも一部分にTiO
2粒子の水性懸濁液を適用する段階、及び(d)適用したTiO
2懸濁液を乾燥させることで、PDMS層上にTiO
2粒子の1以上の凝集を形成する段階。
本発明の方法において、段階(a)に含まれる基板の種類及び性質、段階(b)に含まれるPDMS層の製造方法、及び段階(c)におけるTiO
2粒子の粒径は、本発明によるプレート表面上にTiO
2を有するプレートに関して本明細書の上記に記載された通りである。
【0029】
本発明による方法の段階(c)において、TiO
2粒子の水性懸濁液が使用され、それは本発明において極めて重要である。本発明の発明者は、TiO
2粒子の水性懸濁液が疎水性のPDMS層に適用されて乾燥すると、TiO
2粒子はPDMS層の表面上に固定化可能であることを予期せず見出した。しかしながら、非水性懸濁液を使用する場合、固定化TiO
2の所望の有効性を達成することは不可能である。
当業者に周知のあらゆる方法を用いて、水性懸濁液をPDMS層の少なくとも一部分に適用することができる。例えば、本発明の一実施形態では、TiO
2粒子の水性懸濁液は約2μl〜5μlの量をピペットチップで繰り返し吸い上げられ、その後PDMS層上に滴下されて1以上の個々の液滴を形成することで、乾燥後にPDMS層上にTiO
2粒子から成る1以上の凝集が形成される。
【0030】
TiO
2粒子の水性懸濁液を適用する手順において、TiO
2粒子の水性懸濁液の各液滴の体積は、実際の用途に応じて調整することができる。一般に、TiO
2水性懸濁液の液滴をより大きな体積で適用することにより、又は水性懸濁液中のTiO
2粒子の濃度を増加した液滴を適用することにより、より大きな体積のTiO
2粒子の凝集を乾燥後に得ることができる。リン酸化ペプチドの精製に使用されるような、このようなより大きなTiO
2凝集は、試料のローディング容量の増加を可能とする。
【0031】
さらに、本発明による方法において、水の極性よりも低い極性を有する有機溶媒をTiO
2粒子の水性懸濁液に任意に添加することが可能であり、それにより水性懸濁液の極性を減少させ、PDMS層上に適用された水性懸濁液の液滴とPDMS層との間の接触角を減少させ、かつTiO
2粒子の形成された凝集とPDMS層との間の接触面積を増加させる。
水の極性よりも低い極性を有する有機溶媒は、限定されるものではないが、アセトニトリル、メタノール、エタノール、n‐プロパノール、イソプロパノール、n‐ブタノール、イソブタノール、アクリロニトリル、アセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、ベンゼン、メチルベンゼン、n‐ヘキサン、n‐ペンタン、又はそれらの組み合わせであってもよい。本発明のいくつかの実施形態では、アセトニトリルがTiO
2粒子の水性懸濁液に添加されることで、PDMS層とより大きな接触面積を有するTiO
2粒子の凝集がもたらされる。
【0032】
本発明による方法の段階(d)では、PDMS層に適用されたTiO
2粒子の水性懸濁液又はその液滴は、あらゆる適した手法、例えば空気乾燥、ベーキング、又は室温での自然乾燥により乾燥可能である。高温加熱手順は必ずしも必要ではない。TiO
2粒子の水性懸濁液は、10℃〜100℃の温度範囲で乾燥されることが好ましい。より好ましくは、TiO
2粒子の水性懸濁液は20℃〜80℃の温度範囲で乾燥される。本発明のいくつかの実施形態によれば、TiO
2粒子の水性懸濁液は、オーブンで80℃にて乾燥されるか、又は室温で自然乾燥にて乾燥される。本発明による方法は、低温乾燥段階を用いてPDMS層上にTiO
2を固定化することができ、かつ高温焼結が関与しないため、より経済的である。
【0033】
上述した通り、TiO
2はリン酸化タンパク質のリン酸基と結合可能であるため、本発明によるプレート表面上にTiO
2を有するプレートは、リン酸化ペプチドの精製に有用である。
したがって、本発明はまた、本発明のプレート表面上にTiO
2を有するプレートを用いたリン酸化ペプチドを精製する方法を提供し、該方法は下記の段階を含む:(i)リン酸化ペプチド含有溶液を、本発明によるプレート表面上にTiO
2を有するプレート上のTiO
2粒子の凝集と、1分〜60分の範囲の時間接触させる段階、(ii)TiO
2粒子の凝集を洗浄溶液で洗い流す段階、及び(iii)TiO
2粒子の凝集を溶出溶液と、1分〜30分の範囲の時間接触させて、リン酸化ペプチドを溶出する段階。
【0034】
前述のリン酸化ペプチドを精製する方法の実施前に、本発明によるプレート表面上にTiO
2の凝集を有する表面は、表面から汚染物質を除去するために、任意に適した洗浄溶液、例えば0.1%のギ酸(FA)を用いて洗浄して乾燥することが可能である。
【0035】
上記の段階(i)において、リン酸化ペプチド含有溶液は加水分解されたタンパク質試料であり得る。例えば、精製されるタンパク質試料は、プロテアーゼで処理されて加水分解されたリン酸ペプチド含有溶液を提供することができる。適したプロテアーゼとしては、限定されるものではないが、トリプシン、キモトリプシン、Glu‐Cプロテアーゼ、Lys‐Cプロテアーゼ、及びAsp‐Nプロテアーゼ等が挙げられる。
【0036】
前述のプロテアーゼ処理の終了後、加水分解されたリン酸化ペプチドは、最初に乾燥されて緩衝溶液に溶解されることで、リン酸化ペプチド含有溶液を提供することが好ましい。その後、リン酸化ペプチド含有溶液は、本発明のプレート表面上にTiO
2を有するプレート上のTiO
2粒子の凝集と接触する。リン酸化ペプチドをTiO
2に結合させるために、接触時間は好ましくは1分〜60分、より好ましくは2分〜20分の範囲である。好ましくは、緩衝溶液は、アセトニトリル(ACN)、トリフルオロ酢酸(TFA)、2,5‐ジヒドロキシ安息香酸(DHB)、及びそれらの組み合わせから成る群より選択される成分を含む。
DHBは酸性アミノ酸残基(例えばアスパラギン酸及びグルタミン酸)とTiO
2との間の静電相互作用を減少させることが可能であるため、リン酸化ペプチドのリン酸基とTiO
2粒子との間の結合親和性を高め、かつ非特異的な結合反応の減少が可能であることが知られている。
【0037】
リン酸化ペプチド含有溶液とTiO
2粒子の凝集との接触段階が終了した後、TiO
2粒子の凝集は洗浄溶液で洗い流されて、TiO
2に結合していない非リン酸化ペプチドを除去する、すなわち段階(ii)である。
好ましくは、洗浄溶液は有機相及び酸を含み、有機相の例としては、アセトニトリル、メタノール、エタノール、n‐プロパノール、イソプロパノール、n‐ブタノール、イソブタノール、アクリロニトリル、アセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、ベンゼン、メチルベンゼン、n‐ヘキサン、n‐ペンタン、及びそれらの組み合わせが挙げられ、かつ酸の例としては、置換又は非置換のギ酸、置換又は非置換の酢酸、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
本発明の一実施形態によれば、水溶液は60wt%〜90wt%のアセトニトリルを含み、1wt%〜5wt%のTFAが洗浄溶液として使用される。
【0038】
その後、上記の段階(iii)において、溶出溶液はTiO
2粒子の凝集と、好ましくは1分〜30分の範囲の時間、より好ましくは2分〜20分の範囲の時間接触して、リン酸化ペプチドを溶出する。好ましくは、溶出溶液は、アンモニア溶液(NH
4OH)、アンモニウム塩(例えば酢酸アンモニウム、炭酸アンモニウム)の水溶液、ギ酸の水溶液、及びそれらの組み合わせから成る群より選択される。本発明の一実施形態では、アンモニア溶液が溶出溶液として使用される。
【0039】
上記の段階(iii)の溶出手順が終了した後、精製リン酸化ペプチドが得られる。ここで、基板の種類及び後に行う応用の目的に応じて、本発明によるプレート表面上にTiO
2を有するプレートを(プレート表面上に溶出したリン酸化ペプチドを含有する溶出溶液を有する間)、直接分析することが可能である、又は溶出したリン酸化ペプチドを含有する溶出溶液を最初に収集して、その後収集された溶出溶液を分析する。
分析は、質量スペクトル分析、液体クロマトグラフィ、又は液体クロマトグラフィと質量スペクトル分析との組み合わせ、例えばLC‐MS、HPLC‐MS/MS、及びナノLC‐MS/MSを含むあらゆる適した分析方法であり得る。
【0040】
本発明の一実施形態によれば、MALDI‐TOFプレート、すなわちステンレス鋼基板が、プレート表面上にTiO
2を有するプレートの調製に使用される。この実施形態では、TiO
2と結合しない非リン酸化ペプチドを除去する段階(ii)の終了後、溶出溶液は各試料ウェル(すなわち
図1(b)に示される円形領域の内側領域)に移され、段階(iii)の溶出手順を実施する。
その後プレートは乾燥され、適したMALDI‐TOFマトリックス溶液が各試料ウェル中に添加されて、直接MALDI‐TOF実験を行うことで、他のMALDI‐TOFプレートに精製リン酸化ペプチドの試料を載せることなく精製リン酸化ペプチドを分析する。
【0041】
本発明によるプレート表面上にTiO
2を有するプレートにおいて、基板は使用後に簡単な方法により再生することができる。例えば、PDMS層は再利用のために基板を再生するよう直接手作業で剥離することができる。
【0042】
本発明によるプレート表面上にTiO
2を有するプレートは、複数のTiO
2粒子の凝集を有し得るため、プレートは単一バッチで複数のリン酸化ペプチドの試料を精製するのに使用することができる。
さらに、上述したように、リン酸化ペプチドは本発明によるプレート表面上にTiO
2を有するプレートにより複雑な遠心分離段階なしで精製することが可能であるため、試料損失の割合を低減することができる。したがって、従来のTiO
2チップを用いたリン酸化ペプチドの精製と比較して、本発明によるプレート表面上にTiO
2を有するプレートは、ハイスループット、容易な操作、低い試料損失、高い実験再現性、及びその基板は容易に再生することができるという利点を有する。
【0043】
本発明を以下の通り特定の実施例を用いてさらに詳細に説明する。しかしながら、以下の実施例は本発明を単に説明するために提供されており、本発明の範囲はそれにより制限されない。本発明の範囲は以下の特許請求の範囲に示される。
【実施例1】
【0044】
プレート表面上にTiO
2を有するプレートの調製
最初に、10重量部のPDMSエラストマー基剤(Sylgard(登録商標)184 試薬A、Dow Corning, Inc.,米国、から購入)及び1重量部のPDMSエラストマー硬化剤(Sylgard(登録商標)184 試薬B、Dow Corning, Inc.,米国、から購入)を混合して、PDMS混合溶液を形成した。PDMS混合溶液をMALDI‐TOFプレート(Bruker Daltonics Inc.,米国、から購入)の表面上に被覆し、任意にグラススライド又はローラー(Bio‐Rad Inc.,米国、から購入)で平滑化し、オーブンにて80℃で60分間乾燥した。その後、5μmの粒径を有する10mgのTiO
2粒子(GL Sciences Inc.,日本、から購入)及び150nm未満の粒径を有する10mgのTiO
2粒子(Sigma‐Aldrich Inc.,米国、から購入)をそれぞれ60%アセトニトリルの100μl水溶液中に懸濁させて、振盪して混合した。
TiO
2粒子の水性懸濁液を約2μl〜5μlの量でピペットチップを用いて繰り返し吸い上げ、PDMS層上に滴下して液滴を形成し(滴下段階において、各液滴は間隔をあけている)、その後、オーブンにて80℃で10分間乾燥させてプレート表面上にTiO
2を有するプレートの調製を完成した。
【0045】
上記のプレート表面上にTiO
2を有するプレートを光学式走査器で走査した。走査画像が
図1(b)に示されており、TiO
2粒子はPDMS層の表面上に凝集の形態で固定化されており、それは走査画像において白色の円形領域で示されている。個々の円形領域の直径は約2.5mmである(
図1(a)を参照のこと)。
【実施例2】
【0046】
単一タンパク質試料からのリン酸化ペプチドの精製
(1)タンパク消化
オボアルブミン(Sigma‐Aldrich Inc.,米国、から購入)を50mMの炭酸アンモニウム溶液に溶解し、90℃で20分間加熱した。ジチオスレイトール(DTT)(10mM)を試料に添加し、56℃で20分間加熱した。ヨードアセトアミド(IAA)(55mM)を試料に添加し、25℃で暗中に30分間放置した。その後、酵素対基質の割合が1:50(w/w)でトリプシンをタンパク質溶液に添加し、37℃で12時間タンパク質を加水分解した。加水分解されたペプチド溶液を遠心濃縮器内で乾燥した。
【0047】
(2)リン酸化ペプチドの精製
上記のペプチド試料をローディング緩衝液(80%ACN、2%TFA、及び20〜200mg/mlDHBを含む)に溶解した。ペプチド溶液(2μl)をピペットチップで吸い上げ、実施例1で調製したプレートのTiO
2粒子の凝集上に滴下して、2分〜5分の範囲の時間インキュベートした。その後、TiO
2粒子の凝集を洗浄溶液(80%ACN、2%TFA)で洗浄し、未結合の非リン酸化ペプチドを除去した。TiO
2粒子の凝集と結合したリン酸化ペプチドを3μl〜5μlの0.05%NH
4OHで溶出した。
TiO
2粒子の凝集が乾燥した後、MALDI‐TOFマトリックス溶液(2mg/mlDHB/25%ACN、1%リン酸)をTiO
2粒子の凝集上に添加し、続いてMALDI‐TOF分析を行った。
【0048】
(3)MALDI‐TOF分析
試料をMALDI‐TOF/TOF‐MS(Ultraflex III TOF/TOF、Bruker Daltonics Inc.,独国、から購入)で分析した。MALDI‐TOFに対するペプチド質量較正を、ペプチド較正標準キット(Bruker Daltonics Inc.から購入)を用いて実施した。スペクトルを下記の実験パラメータで取得した:反射モード、25kV 加速電圧、26.3kV 反射電圧、及び20nsパルスイオン抽出時間。
【0049】
(4)結果
図2(a)、2(b)、及び2(c)は、オボアルブミンのトリプシン消化物のMALDI‐TOF分析を示す質量スペクトルである。
図2(a)は未精製のオボアルブミントリプシンペプチド(対照群)のスペクトルであり、未精製のオボアルブミンペプチドの多数のピークシグナルを示している。リン酸化ペプチドのピークシグナル(2088.908m/z)のシグナル強度は、非リン酸化ペプチドの他の主要ピークシグナルのシグナル強度よりも著しく低かった。
図2(b)は、プレート表面上に5μmの粒径のTiO
2粒子を有するプレートにより精製されたオボアルブミン消化物のMALDI‐TOF質量スペクトルであり、リン酸化ペプチドの主要ピークシグナル(2088.879m/z)を示している。
図2(c)は、プレート表面上に150nm未満の粒径のTiO
2粒子を有するプレートにより精製されたオボアルブミンのMALDI‐TOF質量スペクトルであり、リン酸化ペプチドのピークシグナル(2088.937m/z)及び非リン酸化ペプチドの他のピークシグナルの両方を示している。
図2(b)及び2(c)における円形記号(すなわちO)は、86ダルトンのリン酸化ペプチド断片を失ったペプチドのピークシグナルを表している。
【0050】
図2(a)〜2(c)に示されるように、本発明のプレート表面上にTiO
2を有するプレートは、リン酸化ペプチドを効果的に精製するのに使用することができる。ナノサイズのTiO
2粒子を用いたプレートと比較すると、プレート表面上に5μmの粒径のTiO
2粒子を有するプレートは、リン酸化ペプチドをより効果的に精製するのに使用することができる。
一方、リン酸化ペプチドがプレート表面上に150nm未満の粒径のTiO
2を有するプレートで精製されるとき、非特異的な結合が起こり得る。非特異的な結合は、リン酸化ペプチド及び非リン酸化ペプチドの結合に対するナノTiO
2粒子中のより多くの反応部位に起因しているであろうことが推測されている。
【実施例3】
【0051】
3つの非リン酸化タンパク質(ウシ血清アルブミン(BSA)、ミオグロビン、及びシトクロムC)、及び3つのリン酸化タンパク質(オボアルブミン、α‐カゼイン、及びβ‐カゼイン)(全てSigma−Aldrich Inc.,米国、から購入)をそれぞれ50mMの炭酸アンモニウム溶液に溶解し、タンパク質混合物の溶液を形成した。その後、タンパク質を実施例2に示される方法を用いてトリプシンで消化した。各6つのタンパク質のトリプシンペプチド(20fmole)を混合し、実施例1で調製したプレート表面上にTiO
2を有するプレート(TiO
2粒子の粒径は5μm)により精製し、MALDI‐TOFで分析した。
【0052】
図3(a)は、プレート表面上にTiO
2を有するプレートで精製していない複雑なペプチド混合物の溶液のMALDI‐TOF分析を示す質量スペクトルであり、非リン酸化ペプチドのピークシグナルがスペクトル中の主要ピークであった。
図3(b)は、プレート表面上にTiO
2を有するプレートにより精製した複雑なペプチド混合物の溶液のMALDI‐TOF分析を示す質量スペクトルであり、各記号の意味を下記に示す:「●」はα‐S1‐カゼインのリン酸化ぺプチドのピークシグナルを示している、「◆」はα‐S2‐カゼインのリン酸化ぺプチドのピークシグナルを示している、「★」はβ‐カゼインのリン酸化ぺプチドのピークシグナルを示している、「■」はオボアルブミンのリン酸化ぺプチドのピークシグナルを示している、及び「○」は86ダルトンのリン酸化ペプチド断片を失ったペプチドのピークシグナルを示している。
【0053】
表1は、本発明のプレート表面上にTiO
2を有するプレートにより精製されたか又は精製されていない、複雑なタンパク質混合物の溶液のMALDI‐TOF分析の結果、各リン酸化ペプチドのピークシグナルのシグナルとノイズとの比率(S/N)(4回反復測定して平均化した)、並びにリン酸化ペプチド及びリン酸化部位(配列中の小文字「p」はリン酸化部位を表している)を示している。
【0054】
【表1】
(n.d:不検出)
【0055】
図3(a)、
図3(b)、及び表1における結果は、ペプチド混合物の溶液が本発明のプレート表面上にTiO
2を有するプレートにより精製されると、リン酸化ペプチドのそのMSシグナルは大幅に強化され、その一方で、非リン酸化ペプチドのMSシグナルは
図3(b)の質量スペクトルにおいてほとんど観測不可能であることを示している。
上記の結果は、本発明のプレート表面上にTiO
2を有するプレートは、複数のタンパク質混合物の溶液からリン酸化ペプチドを効果的に精製するのに実際に使用することができるため、MS分析の際に、リン酸化ペプチドのMSシグナルが非リン酸化ペプチドにより抑制されることの防止が可能であることを示している。
【実施例4】
【0056】
試料の回収率の評価
本発明の方法により精製されたリン酸化ペプチド試料の回収率を評価するために、下記の2つの20fmolリン酸化ペプチドを混合した:(1)VNQIG(pT)LSESIK (SEQ ID NO:8)、1368.68m/z、及び(2)VNQIGTL(pS)E(pS)IK(SEQ ID NO:9)、1448.64m/z(配列中の小文字「p」はリン酸化部位を表している)。
前述のリン酸化ペプチド混合物を、実施例2に示される方法により、本発明のプレート表面上にTiO
2を有するプレート(5μmの粒径を有するTiO
2粒子)により精製した。未精製リン酸化ペプチド混合物を対照群として使用した。そして、精製したペプチド試料及び内部標準(2fmoleアンジオテンシンII、1046.54m/z)を混合して、MALDI‐TOF分析を実施した。
【0057】
図4(a)は精製していないリン酸化ペプチド混合物のMALDI‐TOF分析を示す質量スペクトルである(3回反復測定して平均化した)。
図4(b)はプレート表面上にTiO
2を有するプレートにより精製されたリン酸化ペプチド混合物のMALDI‐TOF分析を示す質量スペクトルである(3回反復測定して平均化した)。
図4(c)は
図4(a)及び
図4(b)の1368.68/1046.54m/z及び1448.64/1046.54m/zのピーク比率を比較した棒グラフであり、
図4(a)の1368.68/1046.54m/z及び1448.64/1046.54m/zのピーク比率は、それぞれ約0.37(STD、0.05)及び約0.13(STD、0.04)であり、かつ
図4(b)のそれらは、それぞれ約0.33(STD、0.05)及び約0.12(STD、0.03)である。したがって、2つの20fmoleリン酸化ペプチドの回収はそれぞれ約90%及び約92%であり、このような微量の試料を扱う上での非常に僅かな試料損失を示している。
【実施例5】
【0058】
試料の検出限界の評価
本発明の方法の検出限界を評価するため、かつ上記方法を従来の精製方法と比較するために、2fmole、5fmole、10fmole、及び20fmoleのβ‐カゼインを、それぞれ実施例2に示される方法によりトリプシンで消化した。その後、試料をプレート表面上にTiO
2を有するプレート(5μmの粒径を有するTiO
2粒子)により精製し、質量分析で分析した。
【0059】
TiO
2ピペットチップを用いた精製段階を下記に示した:最初に、80%ACN及び0.1%TFA中に懸濁したTiO
2ビーズをGELoaderピペットにロードし、プラスチックインジェクタを用いて空気圧を作り出し、2μmのTiO
2の高さまでTiO
2チップにロードする段階、加水分解されたβ‐カゼインをTiO
2チップにロードする段階、25μlの80%ACN及び2%TFA溶液で洗浄し、20μlの0.05%NH
4OH溶液(pH10.5)でリン酸化ペプチドを溶出する段階、TiO
2チップのカラムを水で洗浄する段階、リン酸化ペプチドを10μlの50%ACN及び0.1%FA溶液で溶出する段階、溶出溶液を遠心濃縮器で乾燥する段階、乾燥試料を2μlのMALDI−TOFマトリックス溶液(2mg/mlDHB/25%ACN及び1%リン酸(PA))に溶解し、MALDI−TOF分析を実施する段階。
前述の試料のローディング、洗浄、及び溶出の段階は、遠心分離を用いて実施かつ操作した(TiO
2チップの製造方法は、Larsen MRら、Highly selective enrichment of phosphorylated peptides from peptide mixtures using titanium dioxide microcolumns.Molecular & cellular proteomics:MCP 2005;4:873−86で確認することができ、その全体が参照により本明細書に援用される。)
【0060】
図5(a)はトリプシンで消化され、かつ本発明によるプレート表面上にTiO
2を有するプレートにより精製された2fmoleのβ‐カゼインのMALDI−TOF分析を示す質量スペクトルである。2061.8m/zのリン酸化ペプチドピークのS/Nは14.7であり(4回反復測定して平均化した)、本発明の方法は非常に低い濃度において試料を精製するのに使用可能であることを示している。
図5(b)はトリプシンにより加水分化され、かつ従来のTiO
2チップにより精製された20fmoleのβ‐カゼインのMALDI−TOF分析を示す質量スペクトルであり、2061.8m/zのリン酸化ペプチドピークのS/Nは12.6である(3回反復測定して平均化した)。本発明のプレート表面上にTiO
2を有するプレートによるリン酸化ペプチドを精製する方法はより高い検出感度を有することが、上記の結果から示される。
【実施例6】
【0061】
試料容量の評価
本発明の実施例1で調製したプレート表面上にTiO
2を有するプレート(各TiO
2円形領域の直径は約2.5mm)で精製されるリン酸化ぺプチドに対する試料容量を評価するために、β−カゼイン試料(0.5μg、1μg、5μg、10μg、50μg、及び100μg)を本発明の実施例2に記載の方法によりプレート表面上にTiO
2を有するプレートで精製し、その後ACDHペプチド試料(100fmole、200fmole、1pM、2pM、10pM、及び20pM)(配列RPVKVYPNGAEDESAEAFPLEF(SEQ ID NO:10)、2464.2Daを有する副腎皮質刺激ホルモン断片、内部標準として作用する)とそれぞれ混合し、その後MALDI−TOFで分析した。
【0062】
図6に示すように、0.5μg〜100μgのβ‐カゼインを本発明のプレート表面上にTiO
2を有するプレートで精製すると、2061.8m/z(β−カゼインのリン酸化ピークシグナル)対2465.2m/z(内部標準)のピーク強度比は全て約16であり、それは適用されたタンパク質量はプレート表面上にTiO
2を有するプレートの容量限界をまだ下回っていることを意味する。10μgのβ‐カゼインを本発明のプレート表面上にTiO
2を有するプレートで精製すると、2061.8m/z対2465.2m/zのピーク強度比は約15に僅かに減少した。
50μgのβ‐カゼインを本発明のプレート表面上にTiO
2を有するプレートで精製すると、2061.8m/z対2465.2m/zのピーク強度比は約5に大幅に降下した。100μgのβ‐カゼインを本発明のプレート表面上にTiO
2を有するプレートで精製すると、2061.8m/z対2465.2m/zのピーク強度比は約2に大幅に降下した。
本発明のプレート表面上にTiO
2を有するプレート上の各TiO
2円形領域の直径が約2.5mmであるとき、各TiO
2円形領域の試料容量は、β‐カゼイン精製に対して、最大で約10μgであることが上記の結果から示される。
【0063】
本発明を詳細に記載したが、本発明の精神及び範囲内の修正は当業者に容易で明らかであろう。背景及び詳細な説明に関連して上記で議論した、上述の議論、当技術分野における関連知識、及び参考文献を考慮すると、それらの開示は全て参照により本明細書において援用されて、さらなる説明は不要であると考えられる。
さらに、本発明の態様及び様々な実施形態の部分は、全体的又は部分的に組み合わせ、又は入れ替え可能であることが理解されるべきである。そのうえ、上記の記載は単に例示を目的としており、本発明の制限を意図するものではないことを当業者は理解するであろう。