【解決手段】本体102と、本体102と略同軸に設けられたプローブ103と、を備える摩擦攪拌ツール100は、プローブ103の側面に凹凸形状が設けられ、プローブ103の少なくとも一部が被加工材の内部に埋没され、プローブ103が回転しつつ加工方向に移動する際に、プローブ103の加工方向の後退側の凹凸形状によって、被加工材が押し留められる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係る摩擦攪拌接合用工具100(摩擦攪拌ツール)および摩擦攪拌接合用工具100を用いた摩擦攪拌接合方法について、図面を用いて説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係る摩擦攪拌接合用工具100の全体の形状を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、摩擦攪拌接合用工具100は、保持部材101と、本体102と、本体102と略同軸に設けられたプローブ103と、を備え、プローブ103の側面に凹凸形状9(
図5)が設けられ、プローブ103の少なくとも一部が被加工材の内部に埋没され、プローブ103が回転しつつ加工方向Y4(
図2)に移動する際に、プローブ103の加工方向の後退側の凹凸形状9(
図5)によって、被加工材が押止される。本明細書において、「略同軸」とは、同軸である形態だけではなく、わずかに軸の角度が異なっていたり、わずかに軸の位置がずれていたりするが、同軸の場合と同様にプローブ103が動作することができる形態をも含むものとする。
【0015】
保持部材101は、摩擦攪拌接合を行う際に回転手段(図示せず)に取り付けられる。本体102は、本体102の上部と保持部材101の下部とが接するように保持部材101に取り付けられる。プローブ103は、プローブ103の上部が本体102の下部に埋め込まれるように本体102に取り付けられる。保持部材101、本体102、プローブ103の材質は本発明の効果を奏する範囲で適宜選択され、以下に限定されるものではないが、たとえば、JIS SKD61などの工具鋼が用いられる。また、本発明の実施形態においては、保持部材101、本体102、プローブ103の軸方向の形状は、たとえば、いずれも軸方向に向かって略一定の大きさとする。また、回転手段(図示せず)と保持部材101との間、保持部材101と本体102との間、本体102とプローブ103との間の取り付けは、常法によって行われる。
【0016】
図2に示すように、本発明の実施形態に係る摩擦攪拌接合方法は、アルミニウム合金板等の金属板からなる被接合部材105a(被加工材)と被接合部材105b(被加工材)とを、鋼板等の硬質な裏当て板106の上に載置して突き合わせ、その突合せ部に、硬質な摩擦攪拌接合用工具100を、回転手段(図示せず)を用いて、矢印Y2の方向に高速で回転させながら押し込み、突き合わせ部分に沿って移動手段(図示せず)を用いて矢印Y3の方向に移動させることによって被接合部材105aと被接合部材105bとを接合する方法である。
図1に示すように、摩擦攪拌接合用工具100はプローブ103を有しており、プローブ103が被接合部材105aと被接合部材105bとの間の突き合わせ部に押し込まれる。摩擦攪拌接合は接合部の最高到達温度が融点に達しない固相接合であり、通常の溶接に比べて入熱が小さいことが特徴である。
【0017】
図2に示すように、摩擦攪拌接合は接合方向(加工方向)を持つ接合方法である。本明細書において、摩擦攪拌接合用工具100の移動方向、すなわち接合方向(加工方向)が矢印Y3に示す方向であるとき、矢印Y4で示す方向を「接合方向(加工方向)前方」と呼び、矢印Y5で示す方向を「接合方向(加工方向)後方」と呼ぶ。また、摩擦攪拌接合は接合方向(加工方向)に関して左右非対称な接合方法であり、摩擦攪拌接合用工具100の回転方向が矢印Y2で示す方向の場合、矢印Y3で示す接合方向(加工方向)との関係より、矢印Y6で示す側を「前進側」と呼び、矢印Y7で示す側を「後退側」と呼ぶ。
【0018】
図3は、本発明の実施形態に係るプローブ103の、プローブ103の回転軸1に対して垂直な断面の模式図である。
【0019】
図3に示すように、本発明の実施形態に係る摩擦攪拌接合用工具100のプローブ103の側面は凹凸形状を有する。本発明の実施形態においては、プローブ103の側面における凹凸形状は、プローブ103の回転に関して方向性を持つ形状である。
【0020】
プローブ103の側面は、
図3に示すように、プローブ103の外接円8に対して凹部を有しており、かつ、回転方向に径徐変部4が配置され、回転方向と逆方向にエッジ部3が配置されている。
図3に示すように、本発明の実施形態において、径徐変部4はプローブ103の回転軸1との距離を徐変させる部分であり、エッジ部3は回転軸1との距離を急変させる部分である。また、
図3に示すように、径徐変部4が存在する部分の角度をφとする。
図3中、エッジ部3でも径徐変部4でもない部分を外周部5とする。
図3に示すように、本発明の実施形態に係るプローブ103においては、エッジ部3の形状は、プローブ103の回転軸1に関する半径方向に平行な面となる形状である。
【0021】
エッジ部3の個数は本発明の効果を奏する範囲で適宜選択され、以下に限定されるものではないが、たとえば、エッジ部3の個数をNとしたときに、Nが2以上12以下の整数であることがより好ましい。Nが2以上の整数であることによって、摩擦攪拌接合中、エッジ部3が常に前進側と後退側の両方に存在し、摩擦攪拌接合中に負荷トルクを低減する効果および接合抵抗を低減する効果をより安定的に得られるからである。また、Nが12以下の整数であることによって、プローブ103の多角形状の断面が維持され、負荷トルクを低減する効果および接合抵抗を低減する効果をより高く得られるからである。また、接合抵抗を低下させるためには、さらに好ましくはN=3、5、7、さらに一層好ましくはN=3が選択される。すなわち、
図3に示すプローブ103の断面形状の概形は正N角形であり、Nが奇数、さらに一層好ましくはN=3の場合、プローブ103の最大投影面積はプローブ103の外接円8によって構成される円筒の投影面積よりも小さくなるため、接合抵抗をより一層小さくすることができる。
【0022】
エッジ部3の位置は、本発明の効果を奏する範囲で適宜選択され、以下に限定されるものではないが、たとえば、円周方向に均等に配置されることがより好ましい。すなわち、隣り合うエッジ部3同士のなす角度が、エッジ数をNとしたときに、2π/Nとなることがより好ましい。プローブ103において、それぞれのエッジ部3の大きさが等しいことがより好ましい。また、プローブ103の回転軸1からのそれぞれの最大距離が等しいことがより好ましい。
【0023】
エッジ部3の高さをh、プローブ103の断面の外接円8の半径をR、x=h/Rとするとき、xの範囲は本発明の効果を奏する範囲で適宜選択され、以下に限定されるものではないが、たとえば、0.05以上0.4以下であることが好ましい。xが0.05以上であることによってプローブ103の断面形状を多角形状のまま維持することが可能となり、負荷トルクを低減する効果および接合抵抗を低減する効果を十分に得ることができる。また、xが0.4以下であることによって、径徐変部の機能とエッジ部の機能との差が十分に確保され、本発明の効果を十分に得ることができる。
【0024】
図3に示すように、径徐変部4が存在する角度範囲をφとする。径徐変部4が存在する角度範囲φとは、
図3に示すように、エッジ部3の個数をNとした時に、プローブ103の回転軸1と径徐変部4の一端とを結ぶ直線と、プローブ103の回転軸1と径徐変部4の他端とを結ぶ直線とが成す角度のことをさす。φの範囲は、本発明の効果を奏する範囲で適宜選択され、以下に限定されるものではないが、たとえば、2π/9以上π以下がより好ましい。φが2π/9以上であることによって、摩擦攪拌接合中に被接合部材をエッジ部3に向けて十分に流動させることが可能となるため、負荷トルクを減ずる効果を十分に得ることができ、また、摩擦攪拌接合中にエッジ部3付近の被接合部材を接合方向後方に十分に排出することが可能となるため、接合抵抗を低減する効果を十分に得ることが可能となる。また、エッジ部3が摩擦攪拌接合中、常に前進側と後退側との両方に存在していることがより好ましいことから、φはπ以下であることがより好ましい。また、φの値は、エッジ部3を均等に配置する場合では、2π/Nが自ずと上限値となる。
【0025】
本発明の実施形態において、径徐変部4の形状は、プローブ103の回転軸1からの距離を徐変させる形状である。径徐変部4の形状は、本発明の効果を奏する範囲で適宜選択され、以下に限定されるものではないが、たとえば、平面あるいは複数の平面を連続させる形状とすると製造容易性をより向上させることができる。また、たとえば、径徐変部4の断面形状をプローブ103の回転軸1に関する対数渦巻線とすることによって、径徐変部4はプローブ103の回転軸1に関する円周方向と常に平行に近い角を成す面とすることが可能となる。対数渦巻線はプローブ103の回転軸1を原点とした極座標系において距離をr、角度をθ、定数をa、bとしたときに、r=ab
θで表され、円周方向と常に一定の角を成すため、円周方向と成す角の最大値が最も小さい形状となる。また、たとえば、径徐変部4の断面形状をプローブ103の回転軸1に関するアルキメデスの渦巻線とすることによって、径徐変部4は角度に対する距離の変化量を一定にすることが可能になる。ここで、アルキメデスの渦巻線は、プローブ103の回転軸1を原点とした極座標系において、距離をr、角度をθ、定数をa、bとしたときに、r=aθ+bで表され、角度θに対する距離rの変化量が一定の形状となる。
【0026】
本発明の実施形態に係る摩擦攪拌接合用工具100を用いることで負荷トルクを減少させることが可能となる理由を、
図4を用いて以下に説明する。凹凸形状を有する本発明の実施形態に係るプローブ103を用いて摩擦攪拌接合を行った時の被接合部材の流動を、
図4中の矢印6、矢印7、矢印15に模式的に示す。なお、接合方向は矢印13で示す方向である。矢印15は、プローブ103の周りの被接合部材の、プローブ103の移動に関する相対的な流動である。該流動は、接合方向前方から接合方向後方に向かって流れている。矢印6は、後退側においてプローブ103の側面に沿って接合方向前方から接合方向後方に向かう被接合部材の流動である。矢印6で示される流動がエッジ部3によって堰き止められるため、プローブ103が後退側において矢印15で示される流動から受ける抵抗は、エッジ部3が存在しない場合と比べて大きくなる。矢印7は、前進側においてプローブ103の側面に沿って接合方向前方から接合方向後方に向かう被接合部材の流動である。矢印7で示される流動は、矢印6で示される流動のようにエッジ部3によって堰き止められず、プローブ103が後退側において矢印15で示される流動から受ける抵抗は小さい。プローブ103が矢印15で示される流動から受ける負荷トルクは、プローブ103の回転方向Y1を踏まえると、矢印6で示される流動の抵抗が大きいほど小さくなり、矢印7で示される流動の抵抗が小さいほど負荷トルクが小さくなる。すなわち、プローブ103は、プローブ103が被接合部材に埋没し、回転しながら接合方向前方に移動する際、接合方向前方に移動することによってプローブ103が被接合部材から受ける抵抗が前進側に比べ後退側の方が大きくなるように、前進側に比べ後退側では接合方向前方からプローブ103に沿って後方に流動しようとする被接合部材を堰き止める平面または曲面を多く有するような凹凸形状を側面に有する。したがって、
図4に示す断面形状を有するプローブ103を用いることによって、摩擦攪拌接合時の負荷トルクが低減される。
【0027】
本発明の実施形態に係る摩擦攪拌接合用工具100を用いることによって接合抵抗を低減させることが可能になる理由を、
図5を用いて以下に説明する。
図5は、
図4と同様、プローブ103の回転軸1に垂直な断面およびプローブ103の周りの被接合部材の相対的な流動を示す図である。なお、接合方向は、
図4と同様、矢印13で示す方向である。
【0028】
はじめに、たとえば特許文献1〜特許文献4に記載されているような摩擦攪拌接合用工具を用いた場合の接合抵抗が、本発明の実施形態に係る摩擦攪拌接合用工具を用いた場合の接合抵抗に比べて大きくなる理由を説明する。
【0029】
第一に、プローブ形状が完全な円筒形状の場合、プローブが接合方向に移動する際、接合方向前方の被接合部材の圧力を大きく増加させることによって接合方向前方の被接合部材を排除し、接合方向後方へ移動させなければならないため、プローブが接合方向に移動するために必要な力、すなわち接合抵抗が大きくなる。
【0030】
第二に、たとえば特許文献3に示すように、摩擦攪拌接合用工具のプローブが凹形状を有するが回転に関して方向性を持たない断面形状を持つ場合には、プローブの凹形状に被接合部材を入れて移動させることが可能であるが、後退側において接合方向前方の材料をプローブの回転によって接合方向後方に移動させると同時に、前進側において接合方向後方の材料をプローブの回転によって接合方向前方に移動させるため、実質的には、プローブの回転によって被接合部材を接合方向前方から接合方向後方に移動させる効果が無く、プローブが接合方向に移動する際には、プローブ形状が完全な円柱の場合と同様に、接合方向前方の材料の圧力を大きく増加させなければならなくなるからである。
【0031】
第三に、たとえば特許文献4に示すように、プローブが回転方向に関して方向性を持つ凹形状を有し、該凹形状が被接合部材を回転方向に向かって掻き進めるような向きのエッジ部を有する形状である場合、プローブの回転によって材料を移動させる効果は、上述の例よりもさらに大きくなるが、この場合も接合方向前方の被接合部材を接合方向後方に移動させる効果と接合方向後方の被接合部材とを、接合方向前方に移動させる効果が等しく、実質的にはプローブの回転によって被接合部材を接合方向前方から接合方向後方に移動させる効果が無く、プローブが接合方向に移動する際には、プローブ形状が完全な円柱の場合と同様に、接合方向前方の材料の圧力を大きく増加させなければならなくなるからである。
【0032】
一方、本発明の実施形態に係るプローブ103においては、
図5に示すように、凹凸形状9の凹部がエッジ部3と径徐変部4とによって構成されており、矢印15によって示される被接合部材の流動よりも主に後退側において接合方向前方の被接合部材が凹凸形状9の凹部に入り、プローブ103の回転によって被接合部材が接合方向後方に移動して凹凸形状9の凹部から排出される一方で、プローブ103の側面には被接合部材をプローブ103の回転方向に掻き進める向きにはエッジ部を有さないため、前進側においては接合方向後方の被接合部材をプローブ103の回転によって接合方向前方に移動させにくい。すなわち、プローブ103は、プローブ103が被接合部材に埋没し、回転しながら接合方向前方に移動することによって、被接合部材がプローブ103の周りを接合方向の前方から後方に向かって流れようとする際、後退側においてはプローブ103の凹部に入っている被接合部材がプローブ103の回転に沿って前方から後方に流動することが出来る一方で、前進側においてはプローブの回転に沿って後方から前方に被接合部材を送り込む流動が起こりにくくなるように、プローブ103は凹部を有しており、かつ、後退側に比べ前進側において接合方向前方からプローブ103に沿って後方に流動しようとする被接合部材を接合方向後方からプローブ103に沿って前方に掻き進めるような平面または曲面を持たない凹凸形状を側面に有する。このため、プローブ103の回転によって被接合部材を接合方向前方から接合方向後方に移動させる効果が実質的にあり、接合方向前方の圧力を大きく増加させることなく、被接合部材を接合方向に移動させることが可能となるため接合抵抗が低減される。
【0033】
以上説明したように、本発明の実施形態に係る摩擦攪拌接合用工具100を用いることによって、プローブ103が回転しながら被接合部材105aと105bとの間の突き合わせ部分に埋没し、接合方向に移動する際に発生する負荷トルクおよび接合抵抗を減少させることが可能となる。
【0034】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲であれば種々の変形が可能である。たとえば、本発明の実施形態においては、摩擦攪拌接合に対して摩擦攪拌ツールを用いる形態について説明したが、材料改質等を目的とした摩擦攪拌プロセス用に本発明の実施形態に係る摩擦攪拌ツールを用いてもよい。また、摩擦攪拌工具として工業用に用いるだけではなく、工業以外の産業用に本発明の実施形態に係る摩擦攪拌ツールを用いてもよい。
【0035】
また、本発明の実施形態においてはプローブ103のエッジ部3の形状として、
図3および
図6(a)に示されるようなプローブ103の回転軸1に関する半径方向に平行な面である形態について説明したが、エッジ部3の形状は本発明の効果を奏する範囲で適宜選択され、以下に限定されるものではないが、たとえば、
図6(b)〜
図6(f)に示されるような形状であってもよい。
図6(b)および
図6(c)のように、
図3および
図6(a)に示される形状のエッジ部3を内側に窪ませたような形状を用いた場合も、
図3および
図6(a)に示される形状を用いた場合と同様に、被接合部材を堰き止める効果を有する。また、
図6(d)に示すようにエッジ部3の端部Aが径徐変部4から離れる側にある場合も、被接合部材を堰き止める効果を有する。たとえば、
図6(f)に示すようにエッジ部3中の回転軸に近い側の端部Bを基準としてφを規定し、φがより好ましい範囲である2π/9以上π以下にあり、プローブ103の回転軸1とエッジ部3のプローブ103の回転軸1に近い側の端部Bとを通る直線と、端部Aと端部Bとを通る直線と、の成す角をαとおき、αが0°以上45°以下の範囲にあることがより好ましく、また、αが0°以上20°以下の範囲にあることがより一層好ましい。αが20°以下であることによって、エッジ部3は被接合部材をより効果的に堰き止めることが可能となる。また、
図6(e)に示すような形状であってもよく、エッジ部3中の回転軸1から離れた側の端部Aを基準としてエッジ部3の位置を規定し、径徐変部4の存在する角度範囲φを規定し、φが2π/9以上π以下であることがより好ましい。
【0036】
また、本発明の実施形態においては、プローブ103の形状が軸方向に向かって略一定の大きさである形態(すなわち、プローブ103を横からみた時の形状が矩形状である形態)について説明したが、先細り形状や先太り形状など軸方向に向かってプローブの径を変化させてもよく、とりわけ、工具の強度と接合抵抗の大きさの兼ね合いを考慮して、プローブ先端に向かってプローブの径が小さくなる先細りの形状とすることがより好ましい。
【0037】
また、本発明の実施形態においては、プローブ103の形状が軸方向に向かって略一定の大きさである形態について説明したが、プローブ103の側面にネジ山やネジ溝のような形状を付与してもよい。ネジ山やネジ溝のような形状を付与することによって、プローブ103の軸方向の流動を一層促進することが可能となり、被接合部材に存在する表面酸化物などの攪拌を効率的に行うことが可能となる。また、プローブ103の円周方向に溝が引かれることによって、該溝内を被接合部材が流動することが可能となり、エッジ部3付近の被接合部材が接合方向後方において排出されやすくなる。
【0038】
また、被接合部材を堰き止める面の位置をプローブ103の軸方向において変化させてもよく、特に、エッジ部3を十分にプローブ103の回転軸1に関する円周方向に向けることがより一層好ましい。
【0039】
また、プローブ103の断面形状は、本発明の効果を奏する範囲で適宜選択され、凹凸形状が付与されてもよい。
【実施例】
【0040】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0041】
実施例1〜12および比較例1〜6は、
図1に示す摩擦攪拌ツールを用いて、
図2に示す摩擦攪拌方法によって実施された。実施例1〜12および比較例1〜6においては、摩擦攪拌工具本体の直径は15mm、プローブの直径は外接円の径で5mmであった。
【0042】
実施例1〜12、比較例3〜6において、プローブの形状を変化させた。実施例1〜12、比較例3〜6のプローブの断面形状は
図3に示す形状であり、x、N、φをパラメータとして変化させた。また、径徐変部の断面形状は、プローブ回転軸を原点とした極座標系において、距離をr、角度をθ、定数をa、bとおいてr=aθ+bとなる曲線となるようにした。すなわち、実施例1〜12、比較例3〜6におけるプローブの形状は、
(i)θ=0のときは円周方向に垂直なエッジ部であり、R×(1−x)≦r≦R
(ii)0<θ<φのときはr=(R×x/φ)×θ+R×(1−x)
(iii)φ≦θ<(2π/N)のときはr=R
で表される。
なお、(2π/N)≦θ以降のrとRとの関係式は、上記(i)〜(iii)を繰り返すことによって表される。たとえば、
θ=2π/NのときはR×(1−x)≦r≦R、
2π/N<θ<φ+(2π/N)のときはr=(R×x/φ)×(θ−(2π/N))+R×(1−x)、
φ+(2π/N)≦θ<2×(2π/N)のときはr=R、
と表される。
実施例1〜12、比較例3〜6においてはR=2.5であった。
【0043】
比較例1のプローブの断面形状は、
図7(a)に示すような単純な円形状であり、半径Rは2.5mmであった。
比較例2のプローブの断面形状は、
図7(b)に示すような、円筒から三面を切り取った形状であった。Rは2.5mmであり、rは1.75mmであった。
【0044】
実施例1〜12、比較例1〜6のそれぞれにおいて、摩擦攪拌ツールを用いて、厚さ5.0mmのアルミニウム合金板材(A5083−O)を接合した。摩擦攪拌ツールの回転数を1000rpmとし、接合速度を500mmとする条件においてアルミニウム合金板材を接合した。摩擦攪拌接合中、摩擦攪拌ツールを接合方向に対して後方に1.5°傾けた。
【0045】
摩擦攪拌ツールの回転手段および移動手段としては、当業者に広く知られ、用いられている摩擦攪拌接合装置(製造社名:MTS Systems Corporation、型式:I−STIR PDS 摩擦攪拌接合装置)を用いた。摩擦攪拌接合装置は負荷トルクおよび接合抵抗を各所のセンサによって測定し、記録する機能を有していた。
【0046】
摩擦攪拌接合装置における負荷トルクの測定値は、摩擦攪拌接合装置の摩擦攪拌接合工具の回転手段に関わるモータの油圧の大きさをセンサにて測定し、モータのトルク特性を参照して算出した。
【0047】
摩擦攪拌接合装置における接合抵抗は、
図8に示すように、摩擦攪拌ツール100の保持部材101にかかる接合方向後方向きの力(矢印Y8の方向)から矢印Y9の方向に発生するトルクを、センサを用いて測定し、トルクの大きさと、トルクの測定場所107から摩擦攪拌ツールの先端までの距離Lとを用いて算出した。
【0048】
実施例1〜12および比較例1〜6における負荷トルクおよび接合抵抗の測定結果を表1に示す。表1において負荷トルクおよび接合抵抗の大きさは、断面に凹凸形状を有さない円筒形状のプローブを用いた比較例1と同等であるものを「中」、比較例1と比較して大きいものを「高」、比較例1と比較して小さいものを「低」と記した。また、総合評価として、負荷トルクおよび接合抵抗の両方が従来の工具である比較例1と比べて小さいものを「A」、負荷トルクまたは接合抵抗のどちらか一方が従来の工具である比較例1と比べて小さいものを「B」、負荷トルクおよび接合抵抗の両方が従来の工具である比較例1と同等だったものを「C」とした。
【0049】
【表1】
【0050】
表1に示すように、実施例1〜11においては、負荷トルクおよび接合抵抗ともに、比較例1と比較して低い数値であった。
実施例12においては、負荷トルクが比較例1と比較して低い数値であった。
一方、比較例1においては、プローブの側面が凹凸形状を有さなかったため、負荷トルクおよび接合抵抗ともに低減されなかった。
比較例2においては、プローブの側面が凹凸形状を有するものの、回転に関して方向性を持たないため、プローブが回転しながら加工方向に移動する際に前進側に配置される凹凸形状と後退側に配置される凹凸形状とで大きさ、個数、形状が同じで差が無いため、プローブの加工方向の後退側の凹凸形状が被加工材を押し留める一方でプローブの加工方向の前進側の凹凸形状も同じだけ被加工材料を押し留め、かつ、プローブの後退側において接合方向前方の材料をプローブの回転によって接合方向後方に移動させると同時に、プローブの前進側において接合方向後方の材料をプローブの回転によって接合方向前方に同じだけ移動させたために、実質的には、プローブの回転によって被接合部材を接合方向前方から接合方向後方に移動させなかったため、負荷トルクおよび接合抵抗ともに低減されなかった。
比較例3〜6においては、負荷トルクおよび接合抵抗ともに低減されなかった。