特開2015-48870(P2015-48870A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-48870(P2015-48870A)
(43)【公開日】2015年3月16日
(54)【発明の名称】自転車用歯付ベルト駆動装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 7/02 20060101AFI20150217BHJP
   F16G 1/28 20060101ALI20150217BHJP
   F16H 55/38 20060101ALI20150217BHJP
   B62M 9/06 20060101ALI20150217BHJP
【FI】
   F16H7/02 A
   F16G1/28 C
   F16G1/28 E
   F16H55/38 A
   B62M9/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2013-179395(P2013-179395)
(22)【出願日】2013年8月30日
(71)【出願人】
【識別番号】000006068
【氏名又は名称】三ツ星ベルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089196
【弁理士】
【氏名又は名称】梶 良之
(74)【代理人】
【識別番号】100104226
【弁理士】
【氏名又は名称】須原 誠
(72)【発明者】
【氏名】大崎 侑
(72)【発明者】
【氏名】岡沢 学秀
【テーマコード(参考)】
3J031
3J049
【Fターム(参考)】
3J031AA01
3J031BB05
3J031CA04
3J049AA03
3J049BF02
3J049BF03
3J049BH01
3J049CA05
(57)【要約】
【課題】水と砂の混合物などの異物が付着する環境下にあっても、従動プーリにおけるベルトのジャンピングの発生を抑制し、円滑な動力伝達性能を維持する。
【解決手段】自転車用歯付ベルト駆動装置は、駆動状態において、従動プーリ120のプーリ溝部121と、ベルト歯部3のベルト走行方向側の面の一部分とは、面接触する。この面接触する部分が、従動プーリ120の外径からベルト歯部3の歯高さHを差し引いた長さを直径とする当該プーリと同心の基準円周L3からベルト歯部3の歯元側の範囲内であって、且つ、ベルト幅方向に直交する断面において曲線状である。また、従動プーリ120のプーリ溝部121と、ベルト歯部3のべルト走行方向と反対側の面との最短距離の最大値d3は、歯ピッチの10%以上18%以下であって、従動プーリ120のプーリ溝部121の溝深さh3は、ベルト歯部3の歯高さHよりも大きく、その差が歯高さHの5%以上である。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルト長手方向に沿って抗張体が埋設されたゴム状弾性体で形成され、ベルト長手方向に所定の歯ピッチで配置された凸状のベルト歯部を有する歯付ベルトと、
前記ベルト歯部と噛み合うプーリ溝部が外周面に形成された駆動プーリおよび従動プーリとを備える自転車用歯付ベルト駆動装置であって、
ベルト幅方向に直交する断面において、前記ベルト歯部が、ベルト厚み方向の直線に対して対称に形成されており、
駆動状態において、前記駆動プーリの前記プーリ溝部と前記ベルト歯部のベルト走行方向と反対側の面の一部分、および、前記従動プーリの前記プーリ溝部と前記ベルト歯部のベルト走行方向側の面の一部分が、それぞれ面接触し、
前記プーリ溝部と前記ベルト歯部との前記面接触する部分が、前記駆動プーリおよび前記従動プーリのそれぞれの外径から前記ベルト歯部の歯高さを差し引いた長さを直径とする当該プーリと同心の基準円周から前記ベルト歯部の歯元側の範囲内であって、且つ、ベルト幅方向に直交する断面において曲線状であり、
駆動状態において、前記駆動プーリの前記プーリ溝部と前記ベルト歯部のベルト走行方向と反対側の面との前記基準円周上の間隔、および、前記従動プーリの前記プーリ溝部と前記ベルト歯部のベルト走行方向側の面との前記基準円周上の間隔が、前記ベルト歯部の歯ピッチの0%以上0.5%以下であって、
駆動状態において、前記駆動プーリの前記プーリ溝部と、前記ベルト歯部のべルト走行方向側の面との最短距離の最大値が、前記ベルト歯部の歯ピッチの2%以上6%以下であって、
駆動状態において、前記従動プーリの前記プーリ溝部と、前記ベルト歯部のべルト走行方向と反対側の面との最短距離の最大値が、前記ベルト歯部の歯ピッチの10%以上18%以下であって、
前記従動プーリの前記プーリ溝部の溝深さが、前記ベルト歯部の歯高さよりも大きく、その差が前記ベルト歯部の歯高さの5%以上であることを特徴とする自転車用歯付ベルト駆動装置。
【請求項2】
ベルト幅方向に直交する断面において、前記従動プーリの前記プーリ溝部が、プーリの径方向のいずれの直線に対しても非対称であることを特徴とする請求項1に記載の自転車用歯付ベルト駆動装置。
【請求項3】
ベルト幅方向に直交する断面形状において、前記ベルト歯部の歯先が、ベルト長手方向に延びる直線状に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の自転車用歯付ベルト駆動装置。
【請求項4】
前記抗張体が、炭素繊維からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の自転車用歯付ベルト駆動装置。
【請求項5】
前記ゴム状弾性体が、少なくとも熱硬化性ウレタンエラストマーを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の自転車用歯付ベルト駆動装置。
【請求項6】
前記ゴム状弾性体のJISA硬度が、90以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の歯付ベルト駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト駆動式自転車に用いられる自転車用歯付ベルト駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自転車のペダルの回転を後輪に伝達するための装置として、ペダルの回転軸に連結された駆動プーリと、後輪の回転軸に連結された従動プーリと、これら2つのプーリに巻き掛けられた歯付ベルトとを備えた歯付ベルト駆動装置が知られている。この歯付ベルトの内周面には、凸状のベルト歯部がベルト長手方向に沿って所定のピッチで形成されている。また、駆動プーリおよび従動プーリの外周面には、ベルト歯部と噛み合うプーリ溝部が形成されている。
【0003】
従動プーリは、駆動プーリよりも外径が小さいため、プーリ溝部1つあたりにかかかるベルト張力は駆動プーリよりも大きくなる。そのため、走行中に立ち漕ぎなどによって急激にベルトの張力が大きくなって、部分的にベルトが伸びると、従動プーリにおいてベルトのジャンピング(歯飛び)が発生しやすくなる。特に、雨天走行中では、従動プーリに雨水がかかって、プーリ溝部とベルト歯部との摩擦係数が低下するため、ジャンピングが一層発生しやすくなる。このような雨天走行時に急激にベルトの張力が増大したときの従動プーリでのベルトのジャンピングを抑制するために、例えば特許文献1の歯付ベルト駆動装置では、従動プーリのプーリ溝部と歯付ベルトのベルト歯部の形状を工夫している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4340460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
走行状況によっては、歯付ベルト駆動装置に水だけでなく砂も入り込む場合がある。砂は水を含むことでよりプーリやベルトに付着しやすくなる。上述の特許文献1の歯付ベルト駆動装置において、砂と水の混合物が、従動プーリのプーリ溝部とベルト歯部との間に入り込むと、砂と水の混合物が、両者の間に噛み込まれてしまう。これにより、砂と水の混合物が、ベルト歯部をプーリ溝部との噛み合いを外す方向(プーリ径方向外側)に押しやり、その結果、従動プーリにおいてベルトのジャンピングが生じやすくなってしまう。
【0006】
そこで、本発明は、水と砂の混合物などの異物が付着する環境下にあっても、従動プーリにおけるベルトのジャンピングの発生を抑制し、円滑な動力伝達性能を維持できる自転車用歯付ベルト駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0007】
第1の発明に係る自転車用歯付ベルト駆動装置は、ベルト長手方向に沿って抗張体が埋設されたゴム状弾性体で形成され、ベルト長手方向に所定の歯ピッチで配置された凸状のベルト歯部を有する歯付ベルトと、前記ベルト歯部と噛み合うプーリ溝部が外周面に形成された駆動プーリおよび従動プーリとを備える自転車用歯付ベルト駆動装置であって、ベルト幅方向に直交する断面において、前記ベルト歯部が、ベルト厚み方向の直線に対して対称に形成されており、駆動状態において、前記駆動プーリの前記プーリ溝部と前記ベルト歯部のベルト走行方向と反対側の面の一部分、および、前記従動プーリの前記プーリ溝部と前記ベルト歯部のベルト走行方向側の面の一部分が、それぞれ面接触し、前記プーリ溝部と前記ベルト歯部との前記面接触する部分が、前記駆動プーリおよび前記従動プーリのそれぞれの外径から前記ベルト歯部の歯高さを差し引いた長さを直径とする当該プーリと同心の基準円周から前記ベルト歯部の歯元側の範囲内であって、且つ、ベルト幅方向に直交する断面において曲線状であり、駆動状態において、前記駆動プーリの前記プーリ溝部と前記ベルト歯部のベルト走行方向と反対側の面との前記基準円周上の間隔、および、前記従動プーリの前記プーリ溝部と前記ベルト歯部のベルト走行方向側の面との前記基準円周上の間隔が、前記ベルト歯部の歯ピッチの0%以上0.5%以下であって、駆動状態において、前記駆動プーリの前記プーリ溝部と、前記ベルト歯部のべルト走行方向側の面との最短距離の最大値が、前記ベルト歯部の歯ピッチの2%以上6%以下であって、駆動状態において、前記従動プーリの前記プーリ溝部と、前記ベルト歯部のべルト走行方向と反対側の面との最短距離の最大値が、前記ベルト歯部の歯ピッチの10%以上18%以下であって、前記従動プーリの前記プーリ溝部の溝深さが、前記ベルト歯部の歯高さよりも大きく、その差が前記ベルト歯部の歯高さの5%以上であることを特徴とする。
【0008】
本発明では、従動プーリのプーリ溝部とベルト歯部のべルト走行方向と反対側の面との最短距離の最大値が、歯ピッチの10%以上と大きい。そのため、砂と水の混合物などの異物が付着する環境下で自転車用歯付ベルト駆動装置を駆動した場合に、従動プーリのプーリ溝部とベルト歯部のべルト走行方向と反対側の面との間に、砂と水の混合物などの異物が噛み込まれるのを防止できるとともに、入り込んだ異物を外部に排出させやすい。その結果、従動プーリにおけるベルトのジャンピングの発生を抑制できる。
また、仮に、従動プーリのプーリ溝部とベルト歯部のべルト走行方向と反対側の面との最短距離の最大値が歯ピッチの18%を超える場合には、隣り合う2つのプーリ溝部の間の幅(プーリ歯部の幅)が狭くなりすぎる。そのため、摩耗により従動プーリの耐久性が低下したり、プーリ溝部の肩の丸み(プーリ歯部の歯先丸み)を大きく確保できなくなる。また、たとえプーリ溝部の肩の丸みを確保できたとしても、欠けやすくなる。一方、本発明では、従動プーリのプーリ溝部とベルト歯部のべルト走行方向と反対側の面との最短距離の最大値が歯ピッチの18%以下であるため、上述したような問題を防止できる。
【0009】
また、従動プーリのプーリ溝部の溝深さがベルト歯部の歯高さよりも大きく、その差が5%未満の場合、水や砂などの異物が付着しない環境下では従動プーリでのベルトのジャンピングの発生を抑制できるものの、砂と水の混合物などの異物が付着する環境下では、従動プーリのプーリ溝部の溝底とベルト歯部の歯先との間に砂と水の混合物などの異物が噛み込まれるため、ジャンピングが発生しやすい。一方、本発明では、従動プーリのプーリ溝部の溝深さとベルト歯部の歯高さとの差がベルト歯部の歯高さの5%以上である。そのため、従動プーリのプーリ溝部の溝底とベルト歯部の歯先との間に砂と水の混合物などの異物が噛み込まれるのを防止でき、ジャンピングの発生を抑制できる。
【0010】
また、仮に、駆動プーリおよび従動プーリのプーリ溝部、または、ベルト歯部のベルト幅方向に直交する断面形状が、前記基準円周よりも歯元側の範囲内において、直線状の部分を含んでいる場合、プーリ溝部とベルト歯部との接触は線接触になりやすい。従動プーリのプーリ溝部とベルト歯部とが線接触する場合、ベルト歯部に局所的に大きい応力がかかるため、ジャンピング時に歯欠けが生じやすくなる。
一方、本発明では、駆動プーリおよび従動プーリのプーリ溝部と、ベルト歯部とは、それぞれ、前記基準円周より歯元側の範囲内において断面曲線状に面接触する。そのため、従動プーリのベルト歯部に局所的に大きい応力がかかるのを防止できるため、ジャンピング時に歯欠けが生じるのを抑制できる。
【0011】
さらに、本発明では、駆動状態において、駆動プーリのプーリ溝部とベルト歯部のベルト走行方向と反対側の面との前記基準円周上の間隔、および、従動プーリのプーリ溝部とベルト歯部のベルト走行方向側の面との前記基準円周上の間隔が、それぞれ、歯ピッチの0%以上0.5%以下である。そのため、駆動プーリおよび従動プーリのプーリ溝部とベルト歯部とが円滑に噛み合うことができ、円滑な動力伝達性能を得ることができる。
【0012】
また、自転車用歯付き駆動装置においては、駆動プーリは、従動プーリよりも外径が大きいため、プーリ溝部1つあたりにかかるベルト張力は従動プーリよりも小さい。そのため、水と砂の混合物などの異物が付着する環境下でも駆動プーリではベルトのジャンピングはほとんど生じない。したがって、駆動プーリでは、従動プーリのプーリ溝部とベルト歯部のべルト走行方向と反対側の面との間隔のように、プーリ溝部とベルト歯部のべルト走行方向側の面との間隔を大きく確保する必要はない。
仮に、駆動プーリのプーリ溝部とベルト歯部のべルト走行方向側の面との最短距離の最大値が歯ピッチの6%を超える場合、動力伝達効率の低下、振動や異音の発生、摩耗による歯付きベルトの耐久性(寿命)の低下などの問題が生じる。一方、本発明では、駆動プーリのプーリ溝部とベルト歯部のべルト走行方向側の面との最短距離の最大値が歯ピッチの6%以下であるため、上述したような問題を防止できる。
さらに、本発明では、駆動プーリのプーリ溝部とベルト歯部のべルト走行方向側の面との最短距離の最大値が、歯ピッチの2%以上であるため、駆動プーリのプーリ溝部とベルト歯部とが円滑に噛み合うことができ、円滑な動力伝達性能を得ることができる。
【0013】
第2の発明に係る自転車用歯付ベルト駆動装置は、第1の発明において、ベルト幅方向に直交する断面において、前記従動プーリの前記プーリ溝部が、プーリの径方向のいずれの直線に対しても非対称であることを特徴とする。
【0014】
この構成によると、ベルト幅方向に直交する断面において、従動プーリのプーリ溝部が、プーリの径方向に沿った直線に対して対称である場合に比べて、駆動状態における従動プーリのプーリ溝部とベルト歯部のべルト走行方向と反対側の面との最短距離の最大値をより大きく確保できる。そのため、従動プーリのプーリ溝部とベルト歯部のべルト走行方向と反対側の面との間に、砂と水の混合物などの異物を押し固めて滞留させてしまうことを防止でき、異物を速やかに外部に排出させやすくなる。したがって、従動プーリにおけるベルトのジャンピングの発生を継続的に抑制できる。
【0015】
第3の発明に係る自転車用歯付ベルト駆動装置は、第1または第2の発明において、ベルト幅方向に直交する断面形状において、前記ベルト歯部の歯先が、ベルト長手方向に延びる直線状に形成されていることを特徴とする。
【0016】
この構成によると、ベルト幅方向に直交する断面において、ベルト歯部の歯先が、外側に膨らんだ円弧状に形成されている場合に比べて、駆動状態における従動プーリのプーリ溝部の溝底とベルト歯部の歯先との間隔をより大きく確保できる。そのため、従動プーリのプーリ溝部の溝底とベルト歯部の歯先との間に、砂と水の混合物などの異物が噛み込まれるのをより確実に防止でき、ジャンピングの発生をより確実に抑制できる。
【0017】
第4の発明に係る自転車用歯付ベルト駆動装置は、第1〜第3の発明のいずれかにおいて、前記抗張体が、炭素繊維からなることを特徴とする。
【0018】
この構成によると、抗張体の材料にアラミド繊維を用いた場合よりも、抗張体が高強度且つ高弾性であるため、中間伸びが抑えられ、適正な張力を維持できる。そのため、伸びによる歯付ベルトのゆるみ、ばたつき、かみ合い異常の発生などを防止できる。さらに万が一、歯付ベルトに過大な張力がかかっても、歯付ベルトの伸びが低く抑えられるので、ジャンピングの発生を抑制できる。
【0019】
第5の発明に係る自転車用歯付ベルト駆動装置は、第1〜第4の発明のいずれかにおいて、前記ゴム状弾性体が、少なくとも熱硬化性ウレタンエラストマーを含むことを特徴とする。
この構成によると、歯付ベルトの歯面が歯布で被覆されていない簡素な構成であっても、容易に歯付ベルトの耐磨耗性を向上させることができる。また、磨耗粉の発生を抑制できる。
【0020】
第6の発明に係る自転車用歯付ベルト駆動装置は、第1〜第5の発明のいずれかにおいて、前記ゴム状弾性体のJISA硬度が、90以上であることを特徴とする。
この構成によると、歯付ベルトの歯変形が低く抑えられるので、ジャンピングの発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第1実施形態に係る自転車用歯付ベルト駆動装置の構成を示す図である。
図2図1の歯付ベルトの部分拡大断面図である。
図3図1の駆動プーリの部分拡大断面図である。
図4図1の装置の駆動状態における駆動プーリと歯付ベルトの部分拡大断面図である。
図5図1の従動プーリの部分拡大断面図である。
図6図1の装置の駆動状態における従動プーリと歯付ベルトの部分拡大断面図である。
図7】本発明の第2実施形態に係る自転車用歯付ベルト駆動装置の従動プーリの部分拡大断面図である。
図8図7の装置の駆動状態における従動プーリと歯付ベルトの部分拡大断面図である。
図9】比較例の駆動状態における従動プーリと歯付ベルトの部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
図1に示すように、本実施形態の自転車用歯付ベルト駆動装置1は、自転車のペダル(図示せず)の回転軸に連結される駆動プーリ10と、自転車の後輪(図示せず)の回転軸に連結される従動プーリ20と、駆動プーリ10および従動プーリ20に巻き掛けられる無端状の歯付ベルト2とを備える。本実施形態の自転車用歯付ベルト駆動装置1は、歯付ベルト2の張力を調整する張力調整機構を有しない。
【0023】
自転車のライダーがペダルを踏んでペダルを回転させると、駆動プーリ10が回転し、その回転運動が歯付ベルト2を介して従動プーリ20に伝達されることで、後輪が回転する。
【0024】
以下の説明において、自転車用歯付ベルト駆動装置1のベルト幅方向に直交する断面(プーリの軸方向に直交する断面)を、側断面という。
【0025】
図2に示すように、歯付ベルト2の内周面には、凸状のベルト歯部3が、ベルト長手方向に沿って一定の歯ピッチで配置されている。隣り合う2つのベルト歯部3の間には、ピッチラインPLと平行な歯底面4が形成されている。
【0026】
歯付ベルト2は、ピッチラインPL上に抗張体(図示せず)が埋設されたゴム状弾性体からなる。なお、ピッチラインPLとは、ベルトが曲げられても同じ長さを保つベルト中のベルト長手方向の基準線のことである。ゴム状弾性体は、ゴム、エラストマー、または合成樹脂等で構成されている。ゴム状弾性体は、熱硬化性ウレタンエラストマーを含んでいることが好ましい。また、ゴム状弾性体のJISA硬度は、90以上が好ましい。抗張体には、高弾性で高強度のコードが用いられる。抗張体は、例えば、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維等で形成されている。なお、抗張体には、ゴム状弾性体との接着性を高める目的で接着処理が施されていてもよい。また、歯付ベルト2の歯面(内周面)は、歯布で被覆されていてもよい。
【0027】
歯付ベルト2の側断面の形状はベルト幅方向に関して一定である。側断面において、ベルト歯部3は、ベルト厚み方向に沿ったベルト中心線Cに対して対称に形成されている。歯ピッチは、隣り合う2つのベルト歯部3のベルト中心線C間の距離のことである。
【0028】
側断面において、ベルト歯部3の輪郭は、歯先部5と、2つの歯元部6と、2つの歯側部7とで構成されている。歯元部6は、歯底面4の端部に接続されており、単一の円弧状(任意の一点を中心とする円弧状)に形成されている。歯先部5は、ベルト歯部3の先端(歯頂)を含む部分である。本実施形態の歯先部5は、ベルト長さ方向に延びる直線状に形成されている。なお、歯先部5は、単一の円弧状に形成されていてもよい。歯側部7は、歯先部5と歯元部6との間の部分である。歯側部7は、複数の円弧をなめらかに繋げた形状であって、外側に膨らんだ曲線状となっている。ベルト歯部3の先端から、ベルト歯部3の歯底面4までのベルト厚さ方向の距離が、ベルト歯部3の歯高さHである。
【0029】
駆動プーリ10は、ポリアセタール、ナイロン、ポリプロピレン等の合成樹脂、または、金属で形成されている。なお、従動プーリ20の材質も駆動プーリ10と同様である。図3に示すように、駆動プーリ10の外周面には、ベルト歯部3と噛み合うプーリ溝部11が形成されている。
【0030】
側断面において、プーリ溝部11は、駆動プーリ10の径方向に沿ったプーリ中心線c1に対して対称に形成されている。側断面において、プーリ溝部11は、複数の円弧をなめらかに繋げた形状となっている。
【0031】
駆動プーリ10のプーリ溝部11の溝深さh1は、ベルト歯部3の歯高さHよりも大きいことが好ましいが、ベルト歯部3の歯高さHより小さくてもよい。前述のように、水と砂の混合物などの異物が付着する環境下でも駆動プーリ10では歯付ベルト2のジャンピングはほとんど生じないが、水と砂の混合物などの異物の付着によりベルト歯先部5及びプーリ溝部11においても磨耗が促進されるおそれがある。また、歯付ベルト2と駆動プーリ10の噛み合いを良好に維持する必要がある。このため、駆動プーリ10のプーリ溝部11の溝深さh1は、ベルト歯部3の歯高さHよりも大きいことが好ましい。むろん、溝深さh1と歯高さHの差は、後述の従動プーリ20と同様に、歯高さHの5%以上であっても良い。
【0032】
図4に示すように、駆動状態において、駆動プーリ10のプーリ溝部11と、ベルト歯部3のベルト走行方向(図4の矢印B方向)と反対側の面の一部分とは、面接触する。なお、図4では、歯付ベルト2および駆動プーリ10の断面を示すハッチングを省略して表示している。プーリ溝部11においてベルト歯部3と面接触する部分を、第1動力伝達領域A1とする。また、駆動プーリ10の外径からベルト歯部3の歯高さHを差し引いた長さを直径とする駆動プーリ10と同心の円周を、第1基準円周L1とする。
【0033】
第1動力伝達領域A1は、第1基準円周L1から歯元部6側の範囲内にある。また、側断面において、第1動力伝達領域A1は、複数の円弧を繋げた形状または単一の円弧状である(すなわち、曲線状である)。本実施形態の第1動力伝達領域A1は、ベルト歯部3の歯側部7の一部と歯元部6の一部に接触するが、歯側部7のみに接触してもよい。
【0034】
また、駆動状態において、駆動プーリ10のプーリ溝部11とベルト歯部3のベルト走行方向と反対側の面との第1基準円周L1上の間隔(以下、動力伝達側のバックラッシという)D1は、歯ピッチの0.5%以下である。間隔D1は無くてもよい(歯ピッチの0%であってもよい)。また、駆動状態において、駆動プーリ10のプーリ溝部11とベルト歯部3のべルト走行方向側の面との最短距離の最大値(以下、非動力伝達側のバックラッシという)d1は、歯ピッチの2%以上6%以下である。
【0035】
図5に示すように、従動プーリ20の外周面には、ベルト歯部3と噛み合うプーリ溝部21が形成されている。従動プーリ20の外径は、駆動プーリ10の外径よりも小さい。従動プーリ20のプーリ溝21の溝数は、一般的な自転車用歯付ベルト駆動装置の範囲内であって、例えば22〜29である。従動プーリ20と駆動プーリ10の外径比(溝数比)は、一般的な自転車用歯付ベルト駆動装置の範囲内であって、例えば1.7〜3.2である。
【0036】
側断面において、プーリ溝部21は、従動プーリ20の径方向に沿ったプーリ中心線c2に対して対称に形成されている。側断面において、プーリ溝部21は、複数の円弧をなめらかに繋げた形状となっている。
【0037】
従動プーリ20のプーリ溝部21の溝深さh2は、ベルト歯部3の歯高さHよりも大きい。その差は、歯高さHの5%以上である。
【0038】
図6に示すように、駆動状態において、従動プーリ20のプーリ溝部21と、ベルト歯部3のベルト走行方向(図6の矢印B方向)側の面の一部分とは、面接触する。なお、図6では、歯付ベルト2および従動プーリ20の断面を示すハッチングを省略して表示している。プーリ溝部21においてベルト歯部3と面接触する部分を、第2動力伝達領域A2とする。また、従動プーリ20の外径からベルト歯部3の歯高さHを差し引いた長さを直径とする従動プーリ20と同心の円周を、第2基準円周L2とする。
【0039】
第2動力伝達領域A2は、第2基準円周L2から歯元部6側の範囲内にある。また、側断面において、第2動力伝達領域A2は、複数の円弧を繋げた形状または単一の円弧状である(すなわち、曲線状である)。本実施形態の第2動力伝達領域A2は、ベルト歯部3の歯側部7の一部と歯元部6の一部に接触するが、歯側部7のみに接触してもよい。第2動力伝達領域A2のプーリの径方向(ベルト厚さ方向)の長さは、歯高さHの10%以上50%以下が好ましい。
【0040】
また、駆動状態において、従動プーリ20のプーリ溝部21とベルト歯部3のベルト走行方向側の面との第2基準円周L2上の間隔(以下、動力伝達側のバックラッシという)D2は、歯ピッチの0.5%以下である。間隔D2は無くてもよい(歯ピッチの0%であってもよい)。また、駆動状態において、従動プーリ20のプーリ溝部21と、ベルト歯部3のべルト走行方向と反対側の面との最短距離の最大値(以下、非動力伝達側のバックラッシという)d2は、歯ピッチの10%以上18%以下である。従動プーリ20のプーリ溝部21とベルト歯部3のべルト走行方向と反対側の面との最短距離が最大となる位置は、ベルト歯部3の歯先部を通る円周よりも、第2基準円周L2に近い。
【0041】
本実施形態の自転車用歯付プーリ駆動装置1では、従動プーリ20の非動力伝達側のバックラッシd2が、歯ピッチの10%以上と大きい。そのため、砂と水の混合物などの異物Xが付着する環境下で自転車用歯付ベルト駆動装置1を駆動した場合に、従動プーリ20のプーリ溝部21とベルト歯部3のべルト走行方向と反対側の面との間に、砂と水の混合物などの異物Xが噛み込まれるのを防止できるとともに、入り込んだ異物Xを外部に排出させやすい。その結果、従動プーリ20におけるベルトのジャンピングの発生を抑制できる。
【0042】
また、仮に、従動プーリ20の非動力伝達側のバックラッシd2が、歯ピッチの18%を超える場合には、隣り合う2つのプーリ溝部21の間の幅(プーリ歯部の幅)が狭くなりすぎる。そのため、摩耗により従動プーリ20の耐久性が低下したり、プーリ溝部21の肩の丸みを大きく確保できなくなる。また、たとえプーリ溝部21の肩の丸みを確保できたとしても、欠けやすくなる。一方、本実施形態では、従動プーリ20の非動力伝達側のバックラッシd2が、歯ピッチの18%以下であるため、上述したような問題を防止できる。
【0043】
また、従動プーリ20のプーリ溝部21の溝深さh2が、ベルト歯部3の歯高さHよりも大きく、その差が5%未満の場合、水や砂などの異物Xが付着しない環境下では従動プーリ20でのベルトのジャンピングの発生を抑制できるものの、砂と水の混合物などの異物Xが付着する環境下では、従動プーリのプーリ溝部の溝底とベルト歯部の歯先との間に異物Xが噛み込まれるため、ジャンピングが発生しやすい。一方、本実施形態では、従動プーリ20のプーリ溝部21の溝深さh2とベルト歯部3の歯高さHとの差が歯高さHの5%以上である。そのため、従動プーリ20のプーリ溝部21の溝底とベルト歯部3の歯先との間に砂と水の混合物などの異物Xが噛み込まれるのを防止でき、ジャンピングの発生を抑制できる。
【0044】
また、仮に、駆動プーリおよび従動プーリのプーリ溝部、または、ベルト歯部のベルト幅方向に直交する断面形状が、基準円周よりも歯元側の範囲内において、直線状の部分を含んでいる場合、プーリ溝部とベルト歯部との接触は線接触になりやすい。従動プーリのプーリ溝部とベルト歯部とが線接触する場合、ベルト歯部に局所的に大きい応力がかかるため、ジャンピング時に歯欠けが生じやすくなる。
一方、本実施形態では、駆動プーリ10および従動プーリ20のプーリ溝部11、21と、ベルト歯部3とは、それぞれ、基準円周L1、L2より歯元側の範囲内において断面曲線状に面接触する。そのため、従動プーリ20のベルト歯部3に局所的に大きい応力がかかるのを防止でき、ジャンピング時に歯欠けが生じるのを抑制できる。
【0045】
さらに、本実施形態では、駆動状態において、駆動プーリ10の動力伝達側のバックラッシD1、および、従動プーリ20の動力伝達側のバックラッシD2が、それぞれ、歯ピッチの0%以上0.5%以下である。そのため、駆動プーリ10および従動プーリ20のプーリ溝部11、21とベルト歯部3とが円滑に噛み合うことができ、円滑な動力伝達性能を得ることができる。
【0046】
また、駆動プーリ10は、従動プーリ20よりも外径が大きいため、プーリ溝部1つあたりにかかるベルト張力は従動プーリ20よりも小さい。そのため、水と砂の混合物などの異物Xが付着する環境下でも駆動プーリ10ではベルトのジャンピングはほとんど生じない。したがって、駆動プーリ10では、従動プーリ20のように、非動力伝達側のバックラッシを大きく確保する必要はない。
仮に、駆動プーリ10の非動力伝達側のバックラッシd1が、歯ピッチの6%を超える場合、動力伝達効率の低下、振動や異音の発生、摩耗による歯付きベルトの耐久性(寿命)の低下などの問題が生じる。一方、本実施形態では、駆動プーリ10の非動力伝達側のバックラッシd1が、歯ピッチの6%以下であるため、上述したような問題を防止できる。
さらに、本実施形態では、駆動プーリ10の非動力伝達側のバックラッシd1が、歯ピッチの2%以上であるため、駆動プーリ10のプーリ溝部11とベルト歯部3とが円滑に噛み合うことができ、円滑な動力伝達性能を得ることができる。
【0047】
また、本実施形態では、側断面において、ベルト歯部3の歯先部5が、ベルト長手方向に延びる直線状に形成されている。したがって、側断面において、ベルト歯部3の歯先部が、外側に膨らんだ円弧状に形成されている場合に比べて、駆動状態における従動プーリ20のプーリ溝部21の溝底とベルト歯部3の歯先との間隔をより大きく確保できる。そのため、従動プーリ20のプーリ溝部21の溝底とベルト歯部3の歯先との間に、砂と水の混合物などの異物Xが噛み込まれるのをより確実に防止でき、ジャンピングの発生をより確実に抑制できる。
【0048】
また、歯付ベルト2を構成するゴム状弾性体が、熱硬化性ウレタンエラストマーからなる場合、歯付ベルトの歯面が歯布で被覆されていない簡素な構成であっても、容易に歯付ベルトの耐磨耗性を向上させることができる。また、磨耗粉の発生を抑制できる。
【0049】
また、歯付ベルト2を構成するゴム状弾性体のJISA硬度が、90以上である場合、歯付ベルトの歯変形が低く抑えられるので、ジャンピングの発生を抑制できる。
【0050】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。但し、前記第1実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を用いて適宜その説明を省略する。
本実施形態の自転車用歯付ベルト駆動装置は、第1実施形態の従動プーリ20と異なる従動プーリ120と、第1実施形態と同様の駆動プーリ10および歯付ベルト2とを備えている。
【0051】
図7に示すように、従動プーリ120の外周面には、ベルト歯部3と噛み合うプーリ溝部121が形成されている。なお、図7には、第1実施形態の従動プーリ20を破線で表示している。従動プーリ120の外径およびプーリ溝部121の溝数は、第1実施形態の従動プーリ20と同じである。
【0052】
側断面において、プーリ溝部121は、従動プーリ120の径方向のいずれの直線に対しても非対称となっている。側断面において、プーリ溝部121は、複数の円弧をなめらかに繋げた形状となっている。
【0053】
従動プーリ120のプーリ溝部121の溝深さh3は、ベルト歯部3の歯高さHよりも大きい。その差は、歯高さHの5%以上である。プーリ溝部121の溝深さh3は、第1実施形態の従動プーリ20のプーリ溝部21の溝深さh2よりも大きい。
【0054】
プーリ溝部121の回転方向(図7の矢印B方向)側の面は、第1実施形態のプーリ溝部21の回転方向側の面とほぼ同じ形状である。また、プーリ溝部121の回転方向と反対側の面は、第1実施形態のプーリ溝部21の回転方向と反対側の面より外側に形成されている。したがって、プーリ溝部121の溝幅は、プーリ溝部21の溝幅よりも大きい。
【0055】
図8に示すように、駆動状態において、従動プーリ120のプーリ溝部121と、ベルト歯部3のベルト走行方向(図8の矢印B方向)側の面の一部分とは、面接触する。なお、図8では、歯付ベルト2および従動プーリ120の断面を示すハッチングを省略して表示している。プーリ溝部121においてベルト歯部3と面接触する部分を、第3動力伝達領域A3とする。また、従動プーリ120の外径からベルト歯部3の歯高さHを差し引いた長さを直径とする従動プーリ120と同心の円周を、第3基準円周L3とする。第3基準円周L3は、第2基準円周L2と同径である。
【0056】
第3動力伝達領域A3は、第3基準円周L3から歯元部6側の範囲内にある。また、側断面において、第3動力伝達領域A3は、複数の円弧を繋げた形状または単一の円弧状である(すなわち、曲線状である)。本実施形態の第3動力伝達領域A3は、ベルト歯部3の歯側部7の一部と歯元部6の一部に接触するが、歯側部7のみに接触してもよい。第3動力伝達領域A3のプーリの径方向(ベルト厚さ方向)の長さは、歯高さHの10%以上50%以下が好ましい。
【0057】
また、駆動状態において、従動プーリ120のプーリ溝部121とベルト歯部3のベルト走行方向側の面との第3基準円周L3上の間隔(以下、動力伝達側のバックラッシという)D3は、歯ピッチの0.5%以下である。間隔D3は無くてもよい(歯ピッチの0%であってもよい)。また、駆動状態において、従動プーリ120のプーリ溝部121と、ベルト歯部3のべルト走行方向と反対側の面との最短距離の最大値(以下、非動力伝達側のバックラッシという)d3は、歯ピッチの10%以上18%以下である。従動プーリ120のプーリ溝部121とベルト歯部3のべルト走行方向と反対側の面との最短距離が最大となる位置は、ベルト歯部3の歯先部を通る円周よりも、第3基準円周L3に近い。
【0058】
本実施形態の自転車用歯付プーリ駆動装置では、第1実施形態で述べた効果に加えて、以下の効果を奏する。
【0059】
本実施形態では、側断面において、従動プーリ120のプーリ溝部121が、プーリの径方向のいずれの直線に対しても非対称である。したがって、側断面において、従動プーリ120のプーリ溝部が、プーリの径方向に沿った直線に対して対称である場合に比べて、従動プーリ120の非動力伝達側のバックラッシd3をより大きく確保できる。そのため、従動プーリ120のプーリ溝部121とベルト歯部3のべルト走行方向と反対側の面との間に、砂と水の混合物などの異物Xを押し固めて滞留させてしまうことを防止でき、異物Xを速やかに外部に排出させやすくなる。したがって、従動プーリ120におけるベルトのジャンピングの発生を継続的に抑制できる。
【0060】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能である。
【実施例】
【0061】
以下、本発明の具体的な実施例と比較例について説明する。
【0062】
<実施例1>
実施例1として、図1図6に示す第1実施形態の自転車用歯付ベルト駆動装置と同様の駆動プーリ、従動プーリ、および歯付ベルトを使用した。また、駆動プーリのプーリ溝部の溝数は55であり、従動プーリのプーリ溝部の溝数は25であって、その溝数比は2.2である。駆動プーリおよび従動プーリは、鋼材で形成されている。また、駆動プーリのプーリ溝部の溝深さは、3.45mmである。従動プーリのプーリ溝部の溝深さ(Hp)は、表1に示す通りである。なお、後述する実施例2および比較例2〜8の駆動プーリは、実施例1の駆動プーリと同様のものを用いた。また、後述する実施例2および比較例2〜8の従動プーリの材質およびプーリ溝の溝数は、実施例1の従動プーリと同様である。
【0063】
【表1】
【0064】
実施例1の歯付ベルトの仕様は以下の通りである。なお、後述する実施例2および比較例3〜8の歯付ベルトは、実施例1の歯付ベルトと同様のものを用いた。
・ベルト幅:15mm
・歯ピッチ:8mm
・歯高さ(Hb):3.4mm
・ピッチ円周長(ピッチライン上の長さ):1200mm
・歯数:150
・ゴム状弾性体:熱硬化性ウレタンエラストマー、JISA硬度95
・抗張体:カーボン繊維、直径0.9mm
【0065】
実施例1のベルト走行時の駆動プーリの動力伝達側のバックラッシは、歯ピッチの0.26%であって、非動力伝達側のバックラッシは、歯ピッチの4.52%である。また、ベルト走行時の従動プーリの動力伝達側のバックラッシDおよび非動力伝達側のバックラッシdの歯ピッチに対する割合は、表1に示す通りである。
【0066】
<実施例2>
実施例2の従動プーリとして、図7および図8に示す上述した第2実施形態の従動プーリを使用した。従動プーリのプーリ溝部の溝深さ(Hp)は、表1に示す通りである。ベルト走行時の従動プーリの動力伝達側のバックラッシDおよび非動力伝達側のバックラッシdの歯ピッチに対する割合は、表1に示す通りである。
【0067】
<比較例1>
比較例1として、特許文献1(特許第4340460号公報)に記載の駆動プーリ、従動プーリ、および歯付ベルトと同様のものを使用した。図9(a)は、比較例1のベルト走行時の従動プーリと歯付ベルトの部分拡大断面図を示している。駆動プーリのプーリ溝部の溝数は55であり、従動プーリのプーリ溝部の溝数は25であって、その溝数比は2.2である。駆動プーリのプーリ溝部の溝深さは、3.65mmである。従動プーリのプーリ溝部の溝深さ(Hp)は、表1に示す通りである。
【0068】
比較例1の歯付ベルトは、抗張体の材質と、ベルト歯部の歯高さ(Hb)と、ベルト歯部の形状が、実施例1、2および後述する比較例2〜8の歯付ベルトと異なっているが、その他の仕様は同じである。比較例1では、抗張体の材質は、アラミド繊維であって、ベルト歯部の歯高さ(Hb)は、3.56mmである。図9(a)に示すように、比較例1の歯付ベルトの歯先は、断面円弧状に形成されている。
【0069】
比較例1のベルト走行時の駆動プーリの動力伝達側のバックラッシは、歯ピッチの0.31%であって、非動力伝達側のバックラッシは、歯ピッチの3.49%である。また、ベルト走行時の従動プーリの動力伝達側のバックラッシDおよび非動力伝達側のバックラッシdの歯ピッチに対する割合は、表1に示す通りである。比較例1では、ベルトの走行時に、従動プーリのプーリ溝部と歯付ベルトの走行方向側の面とが、断面曲線状に面接触する。
【0070】
<比較例2>
図9(b)は、比較例2のベルト走行時の従動プーリと歯付ベルトの部分拡大断面図を示している。比較例2の歯付ベルトは、抗張体がアラミド繊維からなり、この点以外は実施例1の歯付ベルトと同じ構成である。比較例2の従動プーリのプーリ溝部の溝深さと、ベルト走行時の従動プーリの動力伝達側のバックラッシDおよび非動力伝達側の非動力伝達側のバックラッシdの歯ピッチに対する割合は、表1に示す通りである。比較例2では、ベルトの走行時に、従動プーリのプーリ溝部と歯付ベルトの走行方向側の面とが、断面曲線状に面接触する。
【0071】
<比較例3〜8>
図9(c)〜図9(g)は、比較例3〜8のベルト走行時の従動プーリと歯付ベルトの部分拡大断面図を示している。比較例3〜8の従動プーリとのプーリ溝部の溝深さと、ベルト走行時の従動プーリの動力伝達側のバックラッシDおよび非動力伝達側の非動力伝達側のバックラッシdの歯ピッチに対する割合は、表1に示す通りである。比較例3、4では、ベルトの走行時に、従動プーリのプーリ溝部と歯付ベルトの走行方向側の面とが、断面曲線状に面接触する。比較例5〜8では、従動プーリのプーリ溝部と歯付ベルトの走行方向側の面と非相似形であって、ベルトの走行時に、従動プーリのプーリ溝部と歯付ベルトの走行方向側の面とが、従動プーリの外径から歯高さを差し引いた長さを直径とする従動プーリと同心の円周である基準円周Lより外側の位置において、線接触する。
【0072】
以上の実施例1、2および比較例1〜8について、異物の無い状況と、水と砂の混合物が付着する状況で、それぞれ、ジャンピング試験を行った。
【0073】
異物が無い状況でのジャンピング試験は、まず、駆動プーリと従動プーリに歯付ベルトを巻き掛けて、ベルト張力が300Nになるようにプーリの軸間距離を調整した後、駆動プーリを500rpmで回転させた。その後、従動軸に与える負荷トルクを連続的に上昇させていき、ジャンピングが発生した時点での従動軸の負荷トルクを「水・砂無しジャンピングトルクT」とした。その結果を表1に示す。
【0074】
また、異物が無い状況でのジャンピング試験と同様に、ベルト張力が300Nになるようにプーリの軸間距離を調整した後、歯付ベルトの従動プーリに巻き付く手前側の歯面全体(図1のAの範囲)に、容積比1:1で計量・混合した砂と水の混合物をベルト歯元が見えなくなる程度まで堆積させた後、駆動プーリを回転させた(500rpm)。砂は、珪砂6号(粒径0.2〜0.4mm)を用いた。その後、従動軸に与える負荷トルクを連続的に上昇させていき、ジャンピングが発生した時点での従動軸の負荷トルクを「水・砂有りジャンピングトルクT」とした。また、試験後、歯付ベルトの歯欠けの有無を観察した。それらの結果を表1に示す。また、「水・砂無しジャンピングトルクT」に対する「水・砂有りジャンピングトルクT」の低下率((T―T)/T)(以下、ジャンピングトルクの低下率という)も表1に示す。
【0075】
表1から明らかなように、比較例1〜7では、ジャンピングトルクの低下率が0よりも大きい。つまり、異物の付着により、ジャンピングが発生しやすくなっている。これに対して、比較例8および実施例1、2では、ジャンピングトルクの低下率が0である。つまり、異物の付着に起因するジャンピングの発生を抑制できていることがわかる。
【0076】
また、従動プーリのプーリ溝部とベルト歯部とが線接触する比較例8では、歯欠けが生じている。これに対して、従動プーリのプーリ溝部とベルト歯部とが面接触する実施例1、2では、歯付ベルトの歯欠けが生じていない。これは、従動プーリのプーリ溝部とベルト歯部とが面接触することで、歯付ベルトに局所的に大きな応力がかかることを防止できたためと考えられる。
【0077】
また、比較例2、3は、抗張体の材質のみが異なっており、比較例2ではアラミド繊維を用いており、比較例3ではカーボン繊維を用いている。
比較例2、3の試験結果を比較すると、比較例3は、「水・砂無しジャンピングトルクT」、「水・砂有りジャンピングトルクT」とも、比較例2よりも大きくなっている。この結果から、抗張体としてカーボン繊維を用いることが、ジャンピングの発生の抑制に寄与していることがわかる。
【0078】
また、比較例4では、従動プーリのプーリ溝部の溝深さ(Hp)が、ベルト歯部の歯高さ(Hb)よりも小さい。一方、比較例3では、従動プーリのプーリ溝部の溝深さ(Hp)が歯高さ(Hb)よりも大きい。
比較例3、4の試験結果を比較すると、比較例3は、「水・砂無しジャンピングトルクT」が、比較例4よりも大きくなっている。さらに比較例3は、従動プーリの非動力伝達側のバックラッシdが比較例4よりも小さいにも関わらず、「水・砂有りジャンピングトルクT」が、比較例4よりも大きくなっている。この結果から、従動プーリのプーリ溝部の溝底と、ベルト歯部の歯先との間に、隙間を確保することが、ジャンピングの発生の抑制に寄与していることがわかる。
なお、比較例3と比較例4では、ジャンピングトルクの低下率はほぼ同じである。
【0079】
また、比較例5〜8は、従動プーリのプーリ溝部とベルト歯部とが線接触するという条件が同じであって、比較例5、6、7、8の順に、従動プーリの非動力伝達側のバックラッシdが大きくなっていると共に、従動プーリのプーリ溝部の溝底とベルト歯部の歯先との間の隙間が大きくなっている。
比較例5〜8の試験結果を比較すると、比較例5、6、7、8の順に、「水・砂無しジャンピングトルクT」および「水・砂有りジャンピングトルクT」が大きくなっていると共に、ジャンピングトルクの低下率が小さくなっている。
ここで、比較例3、4の結果から、従動プーリのプーリ溝部の溝底とベルト歯部の歯先との間の隙間の大きさは、ジャンピングトルクの低下率への影響は小さいと考えられる。したがって、従動プーリの非動力伝達側のバックラッシdが大きくなるほど、ジャンピングトルクの低下率が小さくなることと考えられる。
【符号の説明】
【0080】
1 自転車用歯付ベルト駆動装置
2 歯付ベルト
3 ベルト歯部
5 歯先部
6 歯元部
7 歯側部
10 駆動プーリ
11 プーリ溝部
20、120 従動プーリ
21、121 プーリ溝部
A1 第1動力伝達領域
A2 第2動力伝達領域
A3 第3動力伝達領域
C ベルト中心線
c1、c2 プーリ中心線
D1 駆動プーリの動力伝達側のバックラッシ
D2、D3 従動プーリの動力伝達側のバックラッシ
d1 駆動プーリの非動力伝達側のバックラッシ
d2、d3 従動プーリの非動力伝達側のバックラッシ
H 歯高さ
h1、h2、h3 溝深さ
L1 第1基準円周
L2 第2基準円周
L3 第3基準円周
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9