【解決手段】速度・距離検出部35は、検出用データ取得部31がサンプリングした反射波に基づいて、物体との速度V及び距離Rを検出する。減算信号生成部36は、検出した速度V及び距離Rに基づいて、複素振幅A(V,R)において速度Vと距離Rとからなる位相項が積算されている減算信号を生成する。減算処理部37は、生成された減算信号を検出用データ取得部31がサンプリングした反射波から減算する。速度・距離検出部35は、減算信号を減算された反射波を新たな反射波として、速度V及び距離Rを検出する。これにより、相関特性のサイドローブレベルを低減し、個々の物体に係る信号間の干渉を少なくして、個別の信号をより明確にし、より小さい信号を高精度で検出できる。
前記検出部は、前記検出用データ取得部がサンプリングした前記反射波のサンプルに対して前記符号を復元したものをフーリエ変換したものに基づいて、前記相対速度及び前記距離を検出する、請求項1に記載のレーダ。
前記検出用データ取得部は、前記相対速度を検出するための速度検出用データとして、前記物体に反射した前記送信信号それぞれの反射波の1つの前記符号の2箇所以上を繰り返しサンプリングしたものを取得し、
前記検出部は、前記検出用データ取得部が取得した前記速度検出用データに基づいて、前記相対速度を検出し、
前記検出用データ取得部は、前記距離を検出するための距離検出用データとして、前記物体に反射した前記送信信号の前記反射波を前記符号を復元できるサンプリング周期でサンプリングしたものを取得し、
前記検出部は、前記速度検出用データに基づいて検出した前記相対速度に基づいて、前記検出用データ取得部が取得した前記距離検出用データのドップラーシフトを補償し、ドップラーシフトを補償された前記距離検出用データに基づいて、前記距離を検出し、
前記減算信号生成部は、前記検出部が検出した前記相対速度及び前記距離に基づいて、複素振幅において前記相対速度と前記距離とからなる位相項が積算されている減算信号を生成し、
前記減算処理部は、前記減算信号生成部が生成した前記減算信号を前記検出用データ取得部がサンプリングした前記距離検出用データから減算し、
前記検出部は、前記減算処理部により前記減算信号を減算された前記距離検出用データを新たな前記距離検出用データとして、前記距離を検出する、請求項1又は2に記載のレーダ。
前記検出工程では、前記検出用データ取得工程がサンプリングした前記反射波のサンプルに対して前記符号を復元したものをフーリエ変換したものに基づいて、前記相対速度及び前記距離を検出する、請求項4に記載の物体検出方法。
前記検出用データ取得工程では、前記相対速度を検出するための速度検出用データとして、前記物体に反射した前記送信信号それぞれの反射波の1つの前記符号の2箇所以上を繰り返しサンプリングしたものを取得し、
前記検出工程では、前記検出用データ取得工程でが取得した前記速度検出用データに基づいて、前記相対速度を検出し、
前記検出用データ取得工程では、前記距離を検出するための距離検出用データとして、前記物体に反射した前記送信信号の前記反射波を符号を復元できるサンプリング周期でサンプリングしたものを取得し、
前記検出工程では、前記速度検出用データに基づいて検出した前記相対速度に基づいて、前記検出用データ取得工程で取得した前記距離検出用データのドップラーシフトを補償し、ドップラーシフトを補償された前記距離検出用データに基づいて、前記距離を検出し、
前記減算信号生成工程では、前記検出工程で検出した前記相対速度及び前記距離に基づいて、複素振幅において前記相対速度と前記距離とからなる位相項が積算されている減算信号を生成し、
前記減算処理工程では、前記減算信号生成工程で生成した前記減算信号を前記検出用データ取得工程でサンプリングした前記距離検出用データから減算し、
前記検出工程では、前記減算処理工程により前記減算信号を減算された前記距離検出用データを新たな前記距離検出用データとして、前記距離を検出する、請求項4又は5に記載の物体検出方法。
【背景技術】
【0002】
直接シーケンススペクトル拡散(DS‐SS:Direct Sequence Spread Spectrum)方式のレーダが提案されている。
図9に示すように、DS−SS方式のレーダでは、送信部2より所定の系列(例えば、
図10においてはM系列)の一定の周期の符号で変調された送信信号が繰り返し送信される。検出用データ取得部3では、物体に反射した送信信号それぞれの反射波について、サンプリング周期(N+1)Twにて等価時間サンプリングが行われることにより、サンプリング信号が取得される。
図11に示すように、乗算部4では、サンプリング周期(N+1)Twの等価時間サンプリング後の符号方向h=0〜N−1及び距離方向k=0〜N−1のサンプリング信号に対して、遅延時間(距離)kごとに変調符号を参照関数として複素共役積にて同一符号で補償が行われる。FFT部5では、距離kごとに符号方向にフーリエ変換が行われる。これにより、速度・距離検出部6では、距離Rごとの物体の速度(相対速度)Vが求められる。
【0003】
例えば、特許文献1では、所定の符号系列を含む送信信号を1以上の目標体に送信する手段と、1以上の目標体により反射された信号を受信する手段と、異なる時点で得た受信信号の和及び差を算出し、和信号及び差信号間の位相差から目標体のドップラー周波数偏移を求める手段とを有するDS‐SS方式のレーダが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の技術では、速度の異なる複数のターゲットがある場合には相関特性のサイドローブレベルが高く、個々の物体に係る信号間の干渉が生じるという問題があり、改善が望まれている。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、相関特性のサイドローブレベルが高い場合にも個々の物体を分離・検出できるようにするレーダ及び物体検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、符号で変調された送信信号を繰り返し送信する送信部と、物体に反射した送信信号の反射波を所定のサンプリング周期でサンプリングする検出用データ取得部と、検出用データ取得部がサンプリングした反射波に基づいて、物体との相対速度及び距離を検出する検出部と、検出部が検出した相対速度及び距離に基づいて、複素振幅において相対速度と距離とからなる位相項が積算されている減算信号を生成する減算信号生成部と、減算信号生成部が生成した減算信号を検出用データ取得部がサンプリングした反射波から減算する減算処理部とを備え、検出部は、減算処理部により減算信号を減算された反射波を新たな反射波として、相対速度及び距離を検出するレーダである。
【0008】
この構成によれば、送信部は、符号で変調された送信信号を繰り返し送信する。検出用データ取得部は、物体に反射した送信信号の反射波を所定のサンプリング周期でサンプリングする。検出部は、検出用データ取得部がサンプリングした反射波に基づいて、物体との相対速度及び距離を検出する。これにより、物体を検出することができる。また、減算信号生成部は、検出部が検出した相対速度及び距離に基づいて、複素振幅において相対速度と距離とからなる位相項が積算されている減算信号を生成する。減算処理部は、減算信号生成部が生成した減算信号を検出用データ取得部がサンプリングした反射波から減算する。検出部は、減算処理部により減算信号を減算された反射波を新たな反射波として、相対速度及び距離を検出する。これにより、相関特性のサイドローブレベルを低減し、個々の物体に係る信号間の干渉を少なくして、個別の信号をより明確にし、より小さい信号を高精度で検出することができる。
【0009】
この場合、検出部は、検出用データ取得部がサンプリングした反射波のサンプルに対して符号を復元したものをフーリエ変換したものに基づいて、相対速度及び距離を検出することが好適である。
【0010】
この構成によれば、検出部は、検出用データ取得部がサンプリングした反射波のサンプルに対して符号を復元したものをフーリエ変換したものに基づいて、物体の相対速度及び距離を検出する。これにより、周波数分解して、信号の真のピークを求めることが可能となる。
【0011】
この場合、検出用データ取得部は、相対速度を検出するための速度検出用データとして、物体に反射した送信信号それぞれの反射波の1つの符号の2箇所以上を繰り返しサンプリングしたものを取得し、検出部は、検出用データ取得部が取得した速度検出用データに基づいて、相対速度を検出し、検出用データ取得部は、距離を検出するための距離検出用データとして、物体に反射した送信信号の反射波を符号を復元できるサンプリング周期でサンプリングしたものを取得し、検出部は、速度検出用データに基づいて検出した相対速度に基づいて、検出用データ取得部が取得した距離検出用データのドップラーシフトを補償し、ドップラーシフトを補償された距離検出用データに基づいて、距離を検出し、減算信号生成部は、検出部が検出した相対速度及び距離に基づいて、複素振幅において相対速度と距離とからなる位相項が積算されている減算信号を生成し、減算処理部は、減算信号生成部が生成した減算信号を検出用データ取得部がサンプリングした距離検出用データから減算し、検出部は、減算処理部により減算信号を減算された距離検出用データを新たな距離検出用データとして、距離を検出することが好適である。
【0012】
この構成によれば、検出用データ取得部は、相対速度を検出するための速度検出用データとして、物体に反射した送信信号それぞれの反射波の1つの符号の2箇所以上を繰り返しサンプリングしたものを取得し、検出部は、検出用データ取得部が取得した速度検出用データに基づいて、相対速度を検出する。これにより、サンプルを増やすことにより、同じノイズが含まれていても、S/N比を改善することができ、より小さい信号を検出することができる。そのため、検出部が、検出用データ取得部がサンプリングした反射波に基づいて、物体の相対速度を検出することにより、より遠方の物体の相対速度をより高精度に検出することができる。
【0013】
また、検出用データ取得部は、距離を検出するための距離検出用データとして、物体に反射した送信信号の反射波を符号を復元できるサンプリング周期でサンプリングしたものを取得し、検出部は、速度検出用データに基づいて検出した相対速度に基づいて、検出用データ取得部が取得した距離検出用データのドップラーシフトを補償し、ドップラーシフトを補償された距離検出用データに基づいて、距離を検出する。これにより、より高い精度で検出された相対速度でドップラー補償がなされた距離検出用データに基づいて、物体との距離を検出することができる。
【0014】
また、減算信号生成部は、検出部が検出した相対速度及び距離に基づいて、複素振幅において相対速度と距離とからなる位相項が積算されている減算信号を生成し、減算処理部は、減算信号生成部が生成した減算信号を検出用データ取得部がサンプリングした距離検出用データから減算し、検出部は、減算処理部により減算信号を減算された距離検出用データを新たな距離検出用データとして、距離を検出する。これにより、相関特性のサイドローブレベルを低減し、個々の物体に係る信号間の干渉を少なくして、個別の信号をより明確にし、より小さい信号を高精度で検出することができる。
【0015】
また、本発明は、符号で変調された送信信号を繰り返し送信する送信工程と、物体に反射した送信信号の反射波を所定のサンプリング周期でサンプリングする検出用データ取得工程と、検出用データ取得工程でサンプリングした反射波に基づいて、物体との相対速度及び距離を検出する検出工程と、検出工程で検出した相対速度及び距離に基づいて、複素振幅において相対速度と距離とからなる位相項が積算されている減算信号を生成する減算信号生成工程と、減算信号生成工程で生成した減算信号を検出用データ取得工程でサンプリングした反射波から減算する減算処理工程とを備え、検出工程では、減算処理工程により減算信号を減算された反射波を新たな反射波として、相対速度及び距離を検出する、物体検出方法である。
【0016】
この場合、検出工程では、検出用データ取得工程がサンプリングした反射波のサンプルに対して符号を復元したものをフーリエ変換したものに基づいて、相対速度及び距離を検出することが好適である。
【0017】
また、検出用データ取得工程では、相対速度を検出するための速度検出用データとして、物体に反射した送信信号それぞれの反射波の1つの符号の2箇所以上を繰り返しサンプリングしたものを取得し、検出工程では、検出用データ取得工程でが取得した速度検出用データに基づいて、相対速度を検出し、検出用データ取得工程では、距離を検出するための距離検出用データとして、物体に反射した送信信号の反射波を符号を復元できるサンプリング周期でサンプリングしたものを取得し、検出工程では、速度検出用データに基づいて検出した相対速度に基づいて、検出用データ取得工程で取得した距離検出用データのドップラーシフトを補償し、ドップラーシフトを補償された距離検出用データに基づいて、距離を検出し、減算信号生成工程では、検出工程で検出した相対速度及び距離に基づいて、複素振幅において相対速度と距離とからなる位相項が積算されている減算信号を生成し、減算処理工程では、減算信号生成工程で生成した減算信号を検出用データ取得工程でサンプリングした距離検出用データから減算し、検出工程では、減算処理工程により減算信号を減算された距離検出用データを新たな距離検出用データとして、距離を検出することが好適である。
【発明の効果】
【0018】
本発明のレーダ及び物体検出方法によれば、相関特性のサイドローブレベルが高い場合にも個々の物体を分離・検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1実施形態のDS‐SSレーダを示すブロック図である。
【
図2】第1実施形態の物体の距離に応じた反射波のサンプリングタイミングを示す図である。
【
図3】(a)〜(f)は第1実施形態のDS‐SSレーダのシミュレーションの結果を示し、(a)は減算処理前の速度ビン及び距離ビンを示し、(b)は減算処理前の速度の検出結果を示し、(c)は減算処理前の距離の検出結果を示し、(d)は減算処理後の速度ビン及び距離ビンを示し、(e)は減算処理後の速度の検出結果を示し、(f)は減算処理後の距離の検出結果を示す。
【
図4】第2実施形態のDS‐SSレーダを示すブロック図である。
【
図5】第2実施形態のDS‐SSレーダの信号処理を示す図である。
【
図6】第2実施形態のDS‐SSレーダの減算処理を示す図である。
【
図7】第2実施形態に物体の距離に応じた減算信号を示す図である。
【
図8】(a)〜(d)は第2実施形態のDS‐SSレーダのシミュレーションの結果を示し、(a)は減算処理前の目標1の距離の検出結果を示し、(b)は減算処理前の目標2の距離の検出結果を示し、(c)は減算処理後の目標1の距離の検出結果を示し、(d)は減算処理後の目標2の距離の検出結果を示す。
【
図9】従来のDS‐SSレーダを示すブロック図である。
【
図10】DS‐SSレーダで送信される信号を示す図である。
【
図11】従来のDS‐SSレーダの信号処理を示す図である。
【
図12】(a)〜(d)は雑音無しの一目標についての信号処理結果を示すグラフであり、(a)(b)は速度特性を示し、(c)(d)は距離特性を示す。
【
図13】符号長N=127における送信信号とドップラーシフト後の受信信号の周波数スペクトルを示すグラフである。
【
図14】従来のDS‐SSレーダのシミュレーションにおけるレーダの近距離モードのパラメータと期待される性能とを示す表である。
【
図15】従来のDS‐SSレーダのシミュレーションの条件と結果とを示す表である。
【
図16】
図15の条件No.1のシミュレーションの結果を示すグラフである。
【
図17】(a)〜(d)は
図15の条件No.1のシミュレーションの結果を示すグラフであり、(a)は目標1についての速度ビンを示し、(b)は目標1についての距離ビンを示し、(c)は目標2についての速度ビンを示し、(d)は目標2についての距離ビンを示す。
【
図18】A/Dサンプリング前の受信電力を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図面を参照して、本発明の実施形態に係るレーダ及び物体検出方法の例について説明する。
図1に示すように、本発明の第1実施形態のDS−SSレーダ10は、送信部21、検出用データ取得部31、乗算部32、FFT部33、ピークサーチDFT部34、速度・距離検出部35、減算信号生成部36及び減算処理部37を備える。
【0021】
送信部21は、
図10に示すように、チップ(chip)毎にM系列符号で位相を符号変調した信号を連続で繰り返し送信する。信号の1チップのチップ幅をTw、信号に含まれる符号n=0〜N−1の符号長をN、1回の信号処理に必要な観測時間Tcに対する周期m=0〜M−1の周期数をMとする。
【0022】
検出用データ取得部31は、
図11に示すように、目標となる個々の物体に反射した送信信号それぞれの反射波について、サンプリング周期(N+1)Twにて等価時間サンプリングが行われることにより、サンプリング信号が取得される。
【0023】
乗算部32は、
図11に示すように、サンプリング周期(N+1)Twの等価時間サンプリング後の符号方向h=0〜N−1及び距離方向k=0〜N−1のサンプリング信号に対して、遅延時間(距離)kごとに変調符号を参照関数として複素共役積にて同一符号で補償が行われる。
【0024】
FFT部33は、距離kごとに符号方向にフーリエ変換を行う。
【0025】
ピークサーチDFT部34は、減算処理を行う際の目標速度の推定誤差を低減するためにFFTの速度推定結果から検出されたドップラ周波数のピーク周波数番号の前後1ビンの範囲に対して、DFTによる目標の速度Vの推定を行う。
【0026】
これにより、速度・距離検出部35では、距離Rごとの物体の速度(相対速度)V及び複素振幅A(V,R)が求められる。
図2に示すように、目標の距離に応じて、計測のサンプリングタイミングが異なっている。
【0027】
減算信号生成部36は、速度・距離検出部35が検出した速度V及び距離Rに基づいて、下式(1)のように、複素振幅A(V,R)において速度Vと距離Rとからなる位相項が積算されている減算信号を生成する。これにより、疑似的に検出された個々の目標からの受信信号が生成される。
【数1】
【0028】
減算処理部37は、減算信号生成部36が生成した減算信号を検出用データ取得部31が取得した原信号から減算し、減算後の信号を次回の入力とする。乗算部32、FFT部33、ピークサーチDFT部34及び速度・距離検出部35は、減算処理部により減算信号を減算された反射波を次回の新たな反射波として、他の目標の速度V及び距離Rを検出する。
【0029】
本実施形態では、送信部21は、符号で変調された送信信号を繰り返し送信する。検出用データ取得部31は、物体に反射した送信信号の反射波を所定のサンプリング周期でサンプリングする。FFT部33、ピークサーチDFT部34及び速度・距離検出部35は、検出用データ取得部31がサンプリングした反射波に基づいて、物体との速度V及び距離Rを検出する。これにより、物体を検出することができる。また、減算信号生成部36は、速度・距離検出部35が検出した速度V及び距離Rに基づいて、複素振幅A(V,R)において速度Vと距離Rとからなる位相項が積算されている減算信号を生成する。減算処理部37は、減算信号生成部36が生成した減算信号を検出用データ取得部31がサンプリングした反射波から減算する。FFT部33、ピークサーチDFT部34及び速度・距離検出部35は、減算処理部37により減算信号を減算された反射波を新たな反射波として、速度V及び距離Rを検出する。これにより、相関特性のサイドローブレベルを低減し、個々の物体に係る信号間の干渉を少なくして、個別の信号をより明確にし、より小さい信号を高精度で検出することができる。
【0030】
また、本実施形態によれば、FFT部33、ピークサーチDFT部34及び速度・距離検出部35は、検出用データ取得部31がサンプリングした反射波のサンプルに対して符号を復元したものをフーリエ変換したものに基づいて、物体の速度V及び距離Rを検出する。これにより、周波数分解して、信号の真のピークを求めることが可能となる。
【0031】
以下、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態のDS−SSレーダ100は、送信部121、速度検出用データ取得部131、FFT部132、サンプル方向ノンコヒーレント加算部133、ピークサーチDFT部134、速度検出部135、距離検出用データ取得部141、ドップラ補償部142、乗算部143、符号方向コヒーレント加算部144、距離検出部145、減算信号生成部146及び減算処理部147を備えている。
【0032】
送信部121は、上記第1実施形態と同様に、
図10に示すように、チップ(chip)毎にM系列符号で位相を符号変調した信号を連続で繰り返し送信する。上述したように、信号の1チップのチップ幅をTw、信号に含まれる符号n=0〜N−1の符号長をN、1回の信号処理に必要な観測時間Tcに対する周期m=0〜M−1の周期数をMとする。
【0033】
速度検出用データ取得部131は、物体に反射した送信信号の反射波に対し、
図5に示すように、速度推定区間観測時間Tc_V、周期数Mv(ただし、符号長Nの整数倍とする)の区間の受信信号に対して、等価時間サンプリングをsp間隔サンプル(ただし、符号長Nより小さく、spは好適には2のべき乗とする)で行う。これにより、サンプリング間隔Nの同一符号のサンプリングデータがsp個得られる。つまり、本実施形態では、S/Nを向上させるために、反射波の1つの符号の2箇所以上を繰り返しサンプリングすることにより、サンプリング間隔Nの同一符号のサンプリングデータが複数個得られる。1つの符号について、最少で2チップのサンプリングデータが得られ、最多で全チップのサンプリングデータが得られる。ここで,M系列符号の符号長は2
n−1と2のべき乗とならないため,等価時間サンプリングを行う際は、周期毎にサンプリング取得のタイミングを1チップずつ遅らせるようにすると好適である。
【0034】
FFT部132は、
図5に示すように、等価時間サンプリング後の同一符号毎のサンプリングデータに対して、周期数m方向に離散フーリエ変換を行い、サンプル数分の速度推定結果を得る。
【0035】
サンプル方向ノンコヒーレント加算部133は、
図5に示すように、周期数m方向の離散フーリエ変換後のサンプル数分の速度推定結果に対して各電力の加算すなわち、ノンコヒーレント加算を行う。
【0036】
ピークサーチDFT部134は、距離推定におけるドップラー補償を行う際に物体の相対速度の推定誤差を低減するためにサンプル方向のノンコヒーレント加算後の速度推定結果から検出されたドップラー周波数のピーク周波数番号の前後1ビンの範囲に対して、離散フーリエ変換による物体の相対速度の推定を行う。
【0037】
速度検出部135は、離散フーリエ変換により推定された物体の相対速度を出力し、ドップラ補償部42に送信する。本実施形態では、速度検出部135は、後述するように減算信号の生成に速度推定区間の複素振幅を用いる場合は、速度検出部135は、減算信号生成部146に推定された物体の相対速度を送信する。
【0038】
距離検出用データ出区部141は、距離検出用データ取得部141は、
図5に示すように、距離推定区間観測時間Tc_R、周期数Mr(=N)の区間の受信信号に対して、等価時間サンプリングをN+1間隔サンプルで行い、符号方向のサンプリングデータを得る。
【0039】
等価時間サンプリングの受信信号は、ドップラシフトの影響を受け時間方向に位相が不連続となる。そこで、ドップラ補償部142は、
図5に示すように、速度検出部135によって得られた目標の速度の情報を用いてドップラ補償を行う。
【0040】
乗算部143は、
図5に示すように、ドップラ補償後の受信信号に対して、送信信号の参照関数であるM系列符号を距離遅延に1チップずらしたものと乗算し符号補償を行う。
【0041】
符号方向コヒーレント加算部144は、
図5に示すように、乗算後の受信信号に対して符号方向にサンプル数Mrのコヒーレント加算を行う。
【0042】
距離検出部145は、符号方向のコヒーレント加算により得られた物体の距離を出力する。後述するように減算信号の生成に速度推定区間の複素振幅を用いる場合は、距離検出部145は、減算信号生成部146に推定された物体の相対速度を送信する。
【0043】
減算信号生成部146は、速度検出部135から得られた速度V、距離検出部145から得られた距離R及び
図7に示すような、距離推定後の複素振幅A(R)に基いて、下式(2)のように、複素振幅A(R)において速度Vと距離Rとからなる位相項が積算されている減算信号を生成する。これにより、疑似的に検出された個々の目標からの受信信号が生成される。
【数2】
【0044】
あるいは、本実施形態では、減算信号生成部146は、速度V、距離R及び速度推定後の複素振幅A(V)に基づいて、下式(3)のように複素振幅A(V)において速度Vと距離Rとからなる位相項が積算されている減算信号を生成する。これにより、疑似的に検出された個々の目標からの受信信号が生成される。
【数3】
【0045】
減算処理部147は、
図6に示すように、速度推定結果によって得られた検出目標数K個の速度に対する上述した従来のDS−SS方式と同様の距離推定処理を行い、その距離に対応する距離の検出されたすべての目標を一括で減算し、減算された距離検出用データを次回の新たな距離検出用データとして、再び距離の推定を行う。
【0046】
本実施形態によれば、速度検出用データ取得部131は、相対速度を検出するための速度検出用データとして、物体に反射した送信信号それぞれの反射波の1つの符号の2箇所以上を繰り返しサンプリングしたものを取得し、サンプル方向ノンコヒーレント加算部133、ピークサーチDFT部134及び速度検出部135は、速度検出用データ取得部131が取得した速度検出用データに基づいて、相対速度を検出する。これにより、サンプルを増やすことにより、同じノイズが含まれていても、S/N比を改善することができ、より小さい信号を検出することができる。そのため、速度検出部135が、速度検出用データ取得部131がサンプリングした反射波に基づいて、物体の相対速度を検出することにより、より遠方の物体の相対速度をより高精度に検出することができる。
【0047】
また、距離検出用データ取得部141は、距離を検出するための距離検出用データとして、物体に反射した送信信号の反射波を符号を復元できるサンプリング周期でサンプリングしたものを取得し、ドップラ補償部142、符号方向コヒーレント加算部144及び距離検出部145は、速度検出用データに基づいて検出した相対速度に基づいて、距離検出用データ取得部141が取得した距離検出用データのドップラーシフトを補償し、ドップラーシフトを補償された距離検出用データに基づいて、距離を検出する。これにより、より高い精度で検出された相対速度でドップラー補償がなされた距離検出用データに基づいて、物体との距離を検出することができる。
【0048】
また、減算信号生成部146は、速度検出部135及び距離検出部145が検出した相対速度及び距離に基づいて、複素振幅において相対速度と距離とからなる位相項が積算されている減算信号を生成し、減算処理部147は、減算信号生成部146が生成した減算信号を距離検出用データ取得部141がサンプリングした距離検出用データから減算し、符号方向ノンコヒーレント加算部144及び距離検出部145は、減算処理部147により減算信号を減算された距離検出用データを新たな距離検出用データとして、距離を検出する。これにより、相関特性のサイドローブレベルを低減し、個々の物体に係る信号間の干渉を少なくして、個別の信号をより明確にし、より小さい信号を高精度で検出することができる。
【0049】
以下、
図1に示す第1実施形態のDS−SSレーダ10についてのシミュレーション結果を示す。処理結果の一例として、2つの目標の信号電力差が約30dBにおけるシミュレーション結果を
図3(a)〜(f)に示す。このシミュレーションでは、目標1の距離R1=10m、目標1の速度V1=30km/h、目標2の距離R2=50m、目標2の速度V2=40km/h、目標1及び目標2との信号電力差S1/S2=30dBとし、ノイズ無しの条件とした。
【0050】
減算処理によるフロアレベルの改善を検証するために検出目標の誤差Rerror=0m、Verror=0km/hとし、振幅の損失も無損失とした。減算前のフロアレベルが約31dBに対し、減算処理後は約61dBと2つ目標の信号電力差S1/S2に相当する約30dBの相関特性のサイドローブレベル改善がなされていることが判る。
【0051】
また、
図4に示す第2実施形態のDS−SSレーダ100についてのシミュレーション結果を示す。処理結果の一例として、2つの目標の信号電力差が約40dBにおけるシミュレーション結果を
図8(a)〜(d)に示す。このシミュレーションでは、目標1の距離R1=10m、目標1の速度V1=30km/h、目標2の距離R2=100m、目標2の速度V2=60km/h、目標1及び目標2との信号電力差S1/S2=40dBとし、ノイズ無しの条件とした。減算処理を行うことにより、信号電力が40dB小さい目標2に対するフロアレベルが約62dBまで改善し目標が検出されていることが判る。
【0052】
次に、比較のため、
図9に示す従来の方式のDS−SSレーダ1についてのシミュレーション結果を示す。まず、雑音無しの1つの目標となる物体が存在する条件下の処理結果を
図12(a)〜(d)に示す。符号長N=127である。
図12(a)〜(d)に示すように、目標の距離・速度に対応する速度ビンと距離ビンにおいてフロアが低下しており、目標の存在しない距離・速度において相関特性のサイドローブレベルが高く、符号長に依存した10log(127)≒21dBとなることが確認される。これらの要因として目標の存在しない距離においては乗算後の位相が不連続となるため、目標の存在しない距離に目標のドップラ成分が雑音として拡散していることが考えられる。
【0053】
図13に符号長N=127における送信信号及びドップラシフト後の受信信号を離散フーリエ変換した結果を示す。
図13より、送信信号では周波数番号0のみを低くするフィルタ特性を有し、周波数番号10のドップラシフト後の周波数スペクトルは周波数番号10のみを低くしていることが分かる。このことから、目標の存在しない速度においても目標のドップラ成分が雑音として拡散することが考えられる。本方式におけるS/N改善能力はFFTによるS/N改善利得に依存し、10log(N)(符号長N=2047のとき約33dB)と予想される。
【0054】
次に、従来の方式のDS−SSレーダ1において、2つの物体を検出するシミュレーションを実施した。レーダパラメータ及び期待される性能を
図14に示し、シミュレーション条件を
図15に示す。この従来の方式のDS−SSレーダ1におけるシミュレーションでは、2つの目標をそれぞれ距離10mと距離100mとに配置し、距離減衰を考慮した場合(−40dB)と考慮無しの場合とにおけるシミュレーションを行った。雑音は、SNR=0dB、−10dB及び−20dBとした。
図15に、それぞれのシミュレーション条件におけるS/Nの改善の結果を示す。目標検出の閾値を目標検出の最小S/NであるS/Nmin=13dBとし、この閾値を超えた物を検出可能な対象とした。参考のために、シミュレーション条件No.5の結果を
図16及び
図17(a)〜(d)に示す。
図15より、本実施形態のDS−SSレーダ10では距離の検出が困難ではあるが目標の検出は可能な距離減衰を考慮した条件において(−40dB)、従来の方式のDS−SSレーダ1では、目標の検出すら困難であることが判る。
【0055】
従来の方式のDS−SSレーダ1におけるA/Dサンプリング前の受信電力を
図18に示す。このとき送受信アンテナのゲイン、自動車と人間とのレーダ反射断面積RCS及び信号処理利得は、それぞれ上述した従来の方式のDS−SSレーダ1における最大探知距離計算と同様の値を用いた。また、送信波の漏れ込みのアイソレーションを50dBとした。
図18は自動車又は人間の反射電力と、信号処理後の雑音の電力との交点以下に相当する距離では、目標の信号は雑音以下に埋もれてしまうことを示している。また、従来の方式のDS−SSレーダ1の相関特性のサイドローブレベルが33dBとなるため、これ以上の目標電力差のある多目標環境においては強信号の目標の相関特性のサイドローブに弱信号が埋もれてしまうことが考えられる。
【0056】
なお、本発明は上記実施形態に限定されず、様々な変形態様が可能である。