【解決手段】送信部21は、符号で変調された送信信号を繰り返し送信する。速度検出用データ取得部31は、物体に反射した送信信号それぞれの反射波の1つの符号の2箇所以上を繰り返しサンプリングする。このようにサンプルを増やすことにより、同じノイズが含まれていても、S/N比を改善することができ、より小さい信号を検出することができる。そのため、ピークサーチDFT部34及び速度検出部35が、速度検出用データ取得部31がサンプリングしたデータに基づいて、物体の相対速度を検出することにより、より遠方の物体の相対速度をより高精度に検出することができる。
前記速度検出部は、前記速度検出用データ取得部がサンプリングした前記反射波の前記符号の同じ位置のデータの集合それぞれをフーリエ変換したものをノンコヒーレント加算したものに基づいて、前記物体の相対速度を検出する、請求項1に記載のレーダ。
前記速度検出工程では、前記速度検出用データ取得工程でサンプリングした前記反射波の前記符号の同じ位置のデータの集合それぞれをフーリエ変換したものをノンコヒーレント加算したものに基づいて、前記物体の相対速度を検出する、請求項3に記載の物体検出方法。
【背景技術】
【0002】
直接シーケンススペクトル拡散(DS‐SS:Direct Sequence Spread Spectrum)方式のレーダが提案されている。
図15に示すように、DS−SSレーダ1では、送信部2より所定の系列(例えば、
図16においてはM系列)の一定の周期の符号で変調された送信信号が繰り返し送信される。検出用データ取得部3では、物体に反射した送信信号それぞれの反射波について、サンプリング周期(N+1)Twにて等価時間サンプリングが行われることにより、サンプリング信号が取得される。
図17に示すように、乗算部4では、サンプリング周期(N+1)Twの等価時間サンプリング後の符号方向h=0〜N−1及び距離方向k=0〜N−1のサンプリング信号に対して、遅延時間(距離)kごとに変調符号を参照関数として複素共役積にて同一符号で補償が行われる。FFT部5では、距離kごとに符号方向にフーリエ変換が行われる。これにより、速度・距離検出部6では、距離Rごとの物体の速度(相対速度)Vが求められる。
【0003】
例えば、特許文献1では、所定の符号系列を含む送信信号を1以上の目標体に送信する手段と、1以上の目標体により反射された信号を受信する手段と、異なる時点で得た受信信号の和及び差を算出し、和信号及び差信号間の位相差から目標体のドップラ周波数偏移を求める手段とを有するDS‐SS方式のレーダが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の技術では、検出信号のS/N比が符号長に依存するため、比較的長い符号を使用できない場合には、S/N比が不足し、探知距離が短いという問題があり、改善が望まれている。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、S/N比を改善し、より遠方の物体をより高精度に検出することができるレーダ及び物体検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、符号で変調された送信信号を繰り返し送信する送信部と、物体に反射した送信信号それぞれの反射波の1つの符号の2箇所以上を繰り返しサンプリングする速度検出用データ取得部と、速度検出用データ取得部がサンプリングしたデータに基づいて、物体の相対速度を検出する速度検出部と、物体に反射した送信信号それぞれの反射波を符号を復元できるサンプリング周期でサンプリングする距離検出用データ取得部と、速度検出部が検出した物体の相対速度に基づいて、距離検出用データ取得部がサンプリングした反射波のドップラーシフトを補償する補償部と、補償部によりドップラーシフトを補償された反射波に基づいて、物体との距離を検出する距離検出部とを備えたレーダである。
【0008】
この構成によれば、送信部は、符号で変調された送信信号を繰り返し送信する。速度検出用データ取得部は、物体に反射した送信信号それぞれの反射波の1つの符号の2箇所以上を繰り返しサンプリングする。このようにサンプルを増やすことにより、同じノイズが含まれていても、S/N比を改善することができ、より小さい信号を検出することができる。そのため、速度検出部が、速度検出用データ取得部がサンプリングしたデータに基づいて、物体の相対速度を検出することにより、より遠方の物体の相対速度をより高精度に検出することができる。
【0009】
また、この構成によれば、距離検出用データ取得部は、物体に反射した送信信号それぞれの反射波を符号を復元できるサンプリング周期でサンプリングする。補償部は、速度検出部が検出した物体の相対速度に基づいて、距離検出用データ取得部がサンプリングした反射波のドップラーシフトを補償する。これにより、より高い精度で検出された相対速度に基づいて反射波のドップラー補償を行うことができる。距離検出部は、補償部によりドップラーシフトを補償された反射波に基づいて、物体との距離を検出する。これにより、より高い精度で検出された相対速度でドップラー補償がなされた反射波に基づいて、物体との距離を検出することができる。
【0010】
この場合、速度検出部は、速度検出用データ取得部がサンプリングした反射波の符号の同じ位置のデータの集合それぞれをフーリエ変換したものをノンコヒーレント加算したものに基づいて、物体の相対速度を検出することが好適である。
【0011】
この構成によれば、速度検出部は、速度検出用データ取得部がサンプリングした反射波の符号の同じ位置のデータの集合それぞれをフーリエ変換したものをノンコヒーレント加算したものに基づいて、物体の相対速度を検出する。これにより、周波数分解して信号の真のピークを求めることが可能となる。
【0012】
また、本発明は、符号で変調された送信信号を繰り返し送信する送信工程と、物体に反射した送信信号それぞれの反射波の1つの符号で2箇所以上を繰り返しサンプリングする速度検出用データ取得工程と、速度検出用データ取得工程でサンプリングしたデータに基づいて、物体の相対速度を検出する速度検出工程と、物体に反射した送信信号の反射波を符号を復元できるサンプリング周期でサンプリングする距離検出用データ取得工程と、速度検出工程で検出した物体の相対速度に基づいて、距離検出用データ取得工程でサンプリングした反射波のドップラーシフトを補償する補償工程と、補償工程によりドップラーシフトを補償された反射波に基づいて、物体との距離を検出する距離検出工程とを備えた物体検出方法である。
【0013】
この場合、速度検出工程では、速度検出用データ取得工程でサンプリングした反射波の符号の同じ位置のデータの集合それぞれをフーリエ変換したものをノンコヒーレント加算したものに基づいて、物体の相対速度を検出することが好適である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のレーダ及び物体検出方法によれば、S/N比を改善し、より遠方の物体のをより高精度に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態のDS‐SSレーダを示すブロック図である。
【
図2】実施形態のDS‐SSレーダの信号処理を示す図である。
【
図3】実施形態のサンプル方向のノンコヒーレント加算の前後における速度の推定結果を示すグラフである。
【
図4】実施形態の距離の推定結果を示すグラフである。
【
図5】実施形態のDS‐SSレーダの近距離モードにおける車両の最大探知距離の計算結果を示す表である。
【
図6】実施形態のDS‐SSレーダの近距離モードにおける人間の最大探知距離の計算結果を示す表である。
【
図7】実施形態のDS‐SSレーダの遠距離モードにおける車両の最大探知距離の計算結果を示す表である。
【
図8】実施形態のDS‐SSレーダの遠距離モードにおける人間の最大探知距離の計算結果を示す表である。
【
図9】実施形態のDS‐SSレーダのシミュレーションにおけるレーダの近距離モードのパラメータと期待される性能とを示す表である。
【
図10】実施形態のDS‐SSレーダのシミュレーション条件を示す表である。
【
図11】(a)(b)は
図10の条件No.1のシミュレーションの距離推定の結果を示すグラフであり、(a)は目標1の結果を示し、(b)は目標2の結果を示す。
【
図12】(a)(b)は
図10の条件No.2のシミュレーションの距離推定の結果を示すグラフであり、(a)は目標1の結果を示し、(b)は目標2の結果を示す。
【
図13】(a)(b)は
図10の条件No.3のシミュレーションの距離推定の結果を示すグラフであり、(a)は目標1の結果を示し、(b)は目標2の結果を示す。
【
図14】(a)(b)は
図10の条件No.4のシミュレーションの距離推定の結果を示すグラフであり、(a)は目標1の結果を示し、(b)は目標2の結果を示す。
【
図15】従来のDS‐SSレーダを示すブロック図である。
【
図16】DS‐SSレーダで送信される信号を示す図である。
【
図17】従来のDS‐SSレーダの信号処理を示す図である。
【
図18】(a)〜(d)は雑音無しの一目標についての信号処理結果を示すグラフであり、(a)(b)は速度特性を示し、(c)(d)は距離特性を示す。
【
図19】符号長N=127における送信信号とドップラーシフト後の受信信号の周波数スペクトルを示すグラフである。
【
図20】従来のDS‐SSレーダの車両のレーダ反射断面積15dBsmにおける最大探知距離の計算結果を示す表である。
【
図21】従来のDS‐SSレーダの車両のレーダ反射断面積10dBsmにおける最大探知距離の計算結果を示す表である。
【
図22】従来のDS‐SSレーダのシミュレーションにおけるレーダの近距離モードのパラメータと期待される性能とを示す表である。
【
図23】従来のDS‐SSレーダのシミュレーションの条件と結果とを示す表である。
【
図24】
図23の条件No.1のシミュレーションの結果を示すグラフである。
【
図25】(a)〜(d)は
図23の条件No.1のシミュレーションの結果を示すグラフであり、(a)は目標1についての速度ビンを示し、(b)は目標1についての距離ビンを示し、(c)は目標2についての速度ビンを示し、(d)は目標2についての距離ビンを示す。
【
図26】A/Dサンプリング前の受信電力を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図面を参照して、本発明の実施形態に係るレーダ及び物体検出方法の例について説明する。
図1に示すように、本発明の実施形態のDS‐SSレーダ10は、送信部21、速度検出用データ取得部31、FFT部32、サンプル方向ノンコヒーレント加算部33、ピークサーチDFT部34、速度検出部35、距離検出用データ取得部41、ドップラ補償部42、乗算部43、符号方向コヒーレント加算部44及び距離検出部45を備えている。
【0017】
送信部21は、
図16に示すように、チップ(chip)毎にM系列符号で位相を符号変調した信号を連続で繰り返し送信する。信号の1チップのチップ幅をTw、信号に含まれる符号n=0〜N−1の符号長をN、1回の信号処理に必要な観測時間Tcに対する周期m=0〜M−1の周期数をMとする。
【0018】
速度検出用データ取得部31は、物体に反射した送信信号の反射波に対し、
図2に示すように、速度推定区間観測時間Tc_V、周期数Mv(ただし、符号長Nの整数倍とする)の区間の受信信号に対して、等価時間サンプリングをsp間隔サンプル(ただし、符号長Nより小さく、spは好適には2のべき乗とする)で行う。これにより、サンプリング間隔Nの同一符号のサンプリングデータがsp個得られる。つまり、本実施形態では、S/Nを向上させるために、反射波の1つの符号の2箇所以上を繰り返しサンプリングすることにより、サンプリング間隔Nの同一符号のサンプリングデータが複数個得られる。1つの符号について、最少で2チップのサンプリングデータが得られ、最多で全チップのサンプリングデータが得られる。ここで、M系列符号の符号長は2
n−1と2のべき乗とならないため、等価時間サンプリングを行う際は、周期毎にサンプリング取得のタイミングを1チップずつ遅らせるようにすると好適である。
【0019】
FFT部32は、
図2に示すように、等価時間サンプリング後の同一符号毎のサンプリングデータに対して、周期数m方向に離散フーリエ変換を行い、サンプル数分の速度推定結果を得る。
【0020】
サンプル方向ノンコヒーレント加算部33は、
図2に示すように、周期数m方向の離散フーリエ変換後のサンプル数分の速度推定結果に対して各電力の加算すなわち、ノンコヒーレント加算を行う。
図3は距離R=0m、相対速度V=30km/h及びS/N比=0dBにおけるシミュレーションの速度推定結果を示す。
図3に示すように、サンプル方向のノンコヒーレント加算を行うことで、雑音の周波数領域の分散が抑えられていることが分かる。これにより、目標検出時の最小S/N値であるS/Nminを下げることが可能となり、更なる探知距離の延伸が期待される。
【0021】
ピークサーチDFT部34は、距離推定におけるドップラー補償を行う際に物体の相対速度の推定誤差を低減するためにサンプル方向のノンコヒーレント加算後の速度推定結果から検出されたドップラー周波数のピーク周波数番号の前後1ビンの範囲に対して、離散フーリエ変換による物体の相対速度の推定を行う。
【0022】
速度検出部35は、離散フーリエ変換により推定された物体の相対速度を出力し、ドップラ補償部42に送信する。
【0023】
距離検出用データ取得部41は、
図2に示すように、距離推定区間観測時間Tc_R、周期数Mr(=N)の区間の受信信号に対して、等価時間サンプリングをN+1間隔サンプルで行い、符号方向のサンプリングデータを得る。
【0024】
等価時間サンプリングの受信信号は、ドップラシフトの影響を受け時間方向に位相が不連続となる。そこで、ドップラ補償部42は、
図2に示すように、速度検出部35によって得られた目標の速度の情報を用いてドップラ補償を行う。
【0025】
乗算部43は、
図2に示すように、ドップラ補償後の受信信号に対して、送信信号の参照関数であるM系列符号を距離遅延に1チップずらしたものと乗算し符号補償を行う。
【0026】
符号方向コヒーレント加算部44は、
図2に示すように、乗算後の受信信号に対して符号方向にサンプル数Mrのコヒーレント加算を行う。
図4は距離R=10m、相対速度V=30km/h、速度推定誤差Verror=0及びノイズ無しにおけるシミュレーションの距離推定結果を示す。
図4に示すように、物体の距離においては位相が連続となるため,符号方向のコヒーレント加算により物体の距離の推定結果が得られる。1目標下のシミュレーション条件において,サイドローブレベルが符号長N=2047に基づく20log(2047)=約62dBとなることが分かる。距離検出部45は、符号方向のコヒーレント加算により得られた物体の距離を出力する。
【0027】
本実施形態によれば、送信部21は、符号で変調された送信信号を繰り返し送信する。速度検出用データ取得部31は、物体に反射した送信信号それぞれの反射波の1つの符号の2箇所以上を繰り返しサンプリングする。このようにサンプルを増やすことにより、同じノイズが含まれていても、S/N比を改善することができ、より小さい信号を検出することができる。そのため、ピークサーチDFT部34及び速度検出部35が、速度検出用データ取得部31がサンプリングしたデータに基づいて、物体の相対速度を検出することにより、より遠方の物体の相対速度をより高精度に検出することができる。
【0028】
また、本実施形態によれば、距離検出用データ取得部41は、物体に反射した送信信号それぞれの反射波を符号を復元できるサンプリング周期でサンプリングする。ドップラ補償部42は、速度検出部35が検出した物体の相対速度に基づいて、距離検出用データ取得部41がサンプリングした反射波のドップラーシフトを補償する。これにより、より高い精度で検出された相対速度に基づいて反射波のドップラー補償を行うことができる。符号方向コヒーレント加算部44及び距離検出部45は、ドップラ補償部42によりドップラーシフトを補償された反射波に基づいて、物体との距離を検出する。これにより、より高い精度で検出された相対速度でドップラー補償がなされた反射波に基づいて、物体との距離を検出することができる。
【0029】
また、本実施形態によれば、ピークサーチDFT部34及び速度検出部35は、速度検出用データ取得部31がサンプリングした反射波の符号の同じ位置のデータの集合それぞれをフーリエ変換したものをノンコヒーレント加算したものに基づいて、物体の相対速度を検出する。これにより、周波数分解して信号の真のピークを求めることが可能となる。
【0030】
以下、
図1に示す本実施形態のDS−SSレーダ10についてのシミュレーション結果を示す。なお、速度推定の観測時間Tc=Tw・N・Mv=1nsec・2047chip・2048周期=約4msecの間、相対速度Vtg=200km/hの目標が移動するレンジウォーク量は、Vtg・Tc=0.22mとなる。したがって、観測時間32msecの区間におけるレンジウォーク量は1.78mであり、チップ幅1msec(距離分解能0.15m)の約10倍に相当するレンジウォークによる信号損失が生じる。
【0031】
そこで、近距離目標に対しては、観測時間を4msecにし、サンプル方向にノンコヒーレント加算を行う近距離モードを用いる。遠距離目標に対してはチップ幅を16nsec(帯域幅62.5MHz、距離分解能2.4m)に伸ばすことで、(1)受信機帯域幅を狭め、受信機内の雑音(kTB積)低下、及び(2)レンジウォークの影響が緩和し、速度推定の観測時間の延伸により信号処理利得の向上を図る遠距離モードを用いる。近距離モードと遠距離モードとの両モードを時分割に信号処理を切り替えた。
【0032】
本実施形態のDS−SSレーダ10における近距離モード及び遠距離モードの最大探知距離の計算結果を
図5〜
図8に示す。
図5は近距離モードにおける車両の最大探知距離を示し、
図6は近距離モードにおける人間の最大探知距離を示し、
図7は遠距離モードにおける車両の最大探知距離を示し、
図8は遠距離モードにおける人間の最大探知距離を示す。後述する従来の方式のDS−SSレーダ1に比して最大探知距離が向上していることが判る。
【0033】
本実施形態のDS−SSレーダ10の近距離モードにおいて、2つの物体を検出するシミュレーションを実施した。レーダパラメータ及び期待される性能を
図9に示し、シミュレーション条件を
図10に示す。
図11(a)(b)にシミュレーション条件No.1で検出した速度30km/h,40km/h(検出ピーク番号18,25)の距離推定結果それぞれを示す。いずれもサイドローブ(フロア)レベルは約32dBという結果となった。これは各ピーク情報を用いて距離推定区間の信号にドップラ補正処理を行うため、各ドップラに対する距離推定処理時に別の目標のドップラ成分が残留することが原因であると思われる。シミュレーション条件No.1は、S1/S2=0dBという同じ信号レベルの異なる2つのドップラの目標が存在する環境において、後述する従来の方式のDS−SSレーダ1のノイズ無し、1つの目標の環境と同等のサイドローブ(フロア)レベルであった。
【0034】
シミュレーション条件No.2〜No.4では、2つの物体の信号レベルS1/S2を10dB刻みで変化させた。シミュレーション条件No.2〜No.4の距離推定結果を
図12(a)(b)〜
図14(a)(b)にそれぞれ示す。
図12(a)(b)〜
図14(a)(b)に示すように、シミュレーション条件No.1の結果より予想された通り、目標2に対し信号レベルの大きい目標1ではサイドローブ(フロア)レベルが低下し、逆に目標2ではサイドローブ(フロア)レベルが上がり、
図13(a)(b)〜
図14(a)(b)に示すシミュレーション条件No.3及びNo.4では距離の検出が困難な結果となった。しかしながら、後述するように、シミュレーション条件No.4の条件下では従来の方式のDS−SSレーダ1においては目標の検出すら困難であったことから、本実施形態のDS−SSレーダ10は目標の検出能力に関して能力が向上したと思われる。
【0035】
比較のため、
図15に示す従来の方式のDS−SSレーダ1についてのシミュレーション結果を示す。まず、雑音無しの1つの目標となる物体が存在する条件下の処理結果を
図18(a)〜(d)に示す。符号長N=127である。
図18(a)〜(d)に示すように、目標の距離・速度に対応する速度ビンと距離ビンにおいてフロアが低下しており、目標の存在しない距離・速度においてサイドローブレベルが高く、符号長に依存した10log(127)≒21dBとなることが確認される。これらの要因として目標の存在しない距離においては乗算後の位相が不連続となるため、目標の存在しない距離に目標のドップラ成分が雑音として拡散していることが考えられる。
【0036】
図19に符号長N=127における送信信号及びドップラシフト後の受信信号を離散フーリエ変換した結果を示す。
図19より、送信信号では周波数番号0のみを低くするフィルタ特性を有し、周波数番号10のドップラシフト後の周波数スペクトルは周波数番号10のみを低くしていることが分かる。このことから、目標の存在しない速度においても目標のドップラ成分が雑音として拡散することが考えられる。本方式におけるS/N改善能力はFFTによるS/N改善利得に依存し、10log(N)(符号長N=2047のとき約33dB)と予想される。
【0037】
次に、従来の方式のDS−SSレーダ1における自動車及び人間の最大探知距離の計算結果を
図20及び
図21に示す。ここで受信機帯域幅を1チップの帯域幅の1.5倍である1.5GHz、送信アンテナと受信アンテナのゲインをそれぞれ23dB、目標検出の閾値をS/Nmin=13dBとした。
図20及び
図21に示すように、上述した本実施形態のDS−SSレーダ10に比べて、従来の方式のDS−SSレーダ1における自動車及び人間の最大探知距離は劣ることが判る。
【0038】
次に、従来の方式のDS−SSレーダ1において、2つの物体を検出するシミュレーションを実施した。レーダパラメータ及び期待される性能を
図22に示し、シミュレーション条件を
図23に示す。この従来の方式のDS−SSレーダ1におけるシミュレーションでは、2つの目標をそれぞれ距離10mと距離100mとに配置し、距離減衰を考慮した場合(−40dB)と考慮無しの場合とにおけるシミュレーションを行った。雑音は、SNR=0dB、−10dB及び−20dBとした。
図23に、それぞれのシミュレーション条件におけるS/Nの改善の結果を示す。目標検出の閾値を目標検出の最小S/NであるS/Nmin=13dBとし、この閾値を超えた物を検出可能な対象とした。参考のために、シミュレーション条件No.5の結果を
図24及び
図25(a)〜(d)に示す。
図23より、本実施形態のDS−SSレーダ10では距離の検出が困難ではあるが目標の検出は可能な距離減衰を考慮した条件において(−40dB)、従来の方式のDS−SSレーダ1では、目標の検出すら困難であることが判る。
【0039】
従来の方式のDS−SSレーダ1におけるA/Dサンプリング前の受信電力を
図26に示す。このとき送受信アンテナのゲイン、自動車と人間とのレーダ反射断面積RCS及び信号処理利得は、それぞれ上述した従来の方式のDS−SSレーダ1における最大探知距離計算と同様の値を用いた。また、送信波の漏れ込みのアイソレーションを50dBとした。
図26は自動車又は人間の反射電力と、信号処理後の雑音の電力との交点以下に相当する距離では、目標の信号は雑音以下に埋もれてしまうことを示している。また、従来の方式のDS−SSレーダ1のサイドローブレベルが33dBとなるため、これ以上の目標電力差のある多目標環境においては強信号の目標のサイドローブに弱信号が埋もれてしまうことが考えられる。
【0040】
なお、本発明は上記実施形態に限定されず、様々な変形態様が可能である。