(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-50182(P2015-50182A)
(43)【公開日】2015年3月16日
(54)【発明の名称】電解質溶液、リチウム電池および電気化学キャリア構造
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0567 20100101AFI20150217BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20150217BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20150217BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20150217BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/0568
H01M10/0569
H01M10/052
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-271412(P2013-271412)
(22)【出願日】2013年12月27日
(11)【特許番号】特許第5676733号(P5676733)
(45)【特許公報発行日】2015年2月25日
(31)【優先権主張番号】102131490
(32)【優先日】2013年9月2日
(33)【優先権主張国】TW
(71)【出願人】
【識別番号】390023582
【氏名又は名称】財團法人工業技術研究院
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】鄭 錦淑
(72)【発明者】
【氏名】楊 長榮
(72)【発明者】
【氏名】王 復民
(72)【発明者】
【氏名】邱 國展
(72)【発明者】
【氏名】曾 峰柏
(72)【発明者】
【氏名】邱 俊毅
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ03
5H029AK07
5H029AL03
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】電解質溶液、リチウム電池、電気化学キャリア構造を提供する。
【解決手段】電解質溶液は、81〜88重量部の有機溶剤と12〜19重量部のリチウム塩との混合溶液100重量部に対し、0.1〜15重量部の添加剤を含み、添加剤の構造は以下のとおりである。
[pは5〜31、qは1〜5、rは9〜40、xは3〜40、yは1〜31、及び各zはそれぞれ独立し、1〜40]
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質溶液であって、
81から88重量部の有機溶剤と12から19重量部のリチウム塩との混合溶液100重量部に対し、0.1から15重量部の添加剤を含み、
前記添加剤の構造は、
【化1】
式中、pは5から31の間;
qは1から5の間;
rは9から40の間;
xは3から40の間;
yは1から31の間;および
各zはそれぞれ独立し、1から40の間であることを特徴とする電解質溶液。
【請求項2】
前記有機溶剤は、γ−ブチロラクトン(γ-butyrolactone)、炭酸エチレン(Ethylene carbonate)、炭酸プロピレン(Propylene carbonate)、炭酸ジエチル(Diethyl carbonate)、酢酸プロピル(Propyl acetate)、炭酸ジメチル(dimethyl carbonate)、炭酸エチルメチル(ethyl methyl carbonate)、または上述の組み合わせを含むことを特徴とする請求項1に記載の電解質溶液。
【請求項3】
前記リチウム塩は、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiSbF6、LiClO4、LiAlCl4、LiGaCl4、LiNO3、LiC(SO2CF3)3、LiN(SO2CF3)2、LiSCN、LiO3SCF2CF3、LiC6F5SO3、LiO2CCF3、LiSO3F、LiB(C6H5)4、LiCF3SO3、または上述の組み合わせを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の電解質溶液。
【請求項4】
リチウム電池であって、請求項1から3のいずれか一項に記載の電解質溶液を含むことを特徴とするリチウム電池。
【請求項5】
電気化学キャリア構造であって、請求項1から3のいずれか一項に記載の電解質溶液を含むことを特徴とする電気化学キャリア構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質溶液に関するものであって、特に、その添加剤の組成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラや携帯電話、ノート型パソコン等、現在の携帯型電子製品は、軽量の電池が必要である。各種電池の中でも、重複して充電できるリチウム電池の単位重量が提供する電量は、鉛蓄電池、ニッケル水素充電池、ニッケル亜鉛電池、ニッケルカドミウム電池等の従来の電池よりも3倍高い。このほか、リチウム電池は快速に充電できる。
【0003】
リチウム電池のうち、陰極材料は、一般に、遷移金属酸化物、たとえば、LiNiO
2、LiCoO
2、LiMn
2O
4、LiFePO
4、またはLiNi
xCo
1−xO
2である。陽極材料は、一般に、リチウム金属、リチウムとその他の金属との合金、または炭素質材料(carbonaceous material)、たとえば、グラファイトである。電解質は液体または固体であり、固体電解質の中でも、高分子電解質が特に注目されている。これは、高分子電解質は液体から流出せず、且つ、準備しやすいからである。高分子電解質は、さらに、完全な固体かゲル体かに分けられる。両者の差異は、ゲル体が有機電解質溶液を含み、固体が含まないことである。
【0004】
台湾特許公告番号I384668(特許文献1)は有機非プロトン性溶媒、少なくとも一種の塩および少なくとも一種のキレートホウ酸塩添加剤の電解質を開示している。
【0005】
台湾特許公告番号I376828(特許文献2)は、有機溶剤、リチウム塩、および添加剤を含む電解質溶液を開示している。添加剤は、マレイミド(maleimide)、ビスマレイミド(bismaleimide)、ポリマレイミド(polymaleimide)、ポリビスマレイミド(poly(bismaleimide))、ビスマレイミドとマレイミドとのコポリマー(copolymer of bismaleimide and polymaleimide)、または上述の混合物、およびビニレンカーボネートを含む。
【0006】
一般に、従来の水相電解質溶液はリチウム電池に適さない。これは、水と陽極中のリチウムとが激しい反応を生成するからである。そのため、リチウム塩を溶解する溶剤を有機溶剤に変える必要があり、これらの有機溶剤は、高イオン伝導性、高誘電係数、および低粘性等の特性を有する必要がある。しかし、このような3特性を同時に有する有機溶剤は少ないので、混合溶剤が好ましい選択である。よって、さらにリチウム電池の効率を高める新しい電解質溶液の組成が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】台湾特許出願公告第I384668号明細書
【特許文献2】台湾特許出願公告第I376828号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、電解質溶液、リチウム電池および電気化学キャリア構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態に係る電解質溶液は、81から88重量部の有機溶剤と12から19重量部のリチウム塩との混合溶液100重量部に対し、0.1から15重量部の添加剤を含み、添加剤の構造は以下のとおりである:
【0010】
【化1】
式中、pは5から31の間;qは1から5の間;rは9から40の間;xは3から40の間;yは1から31の間;および各zはそれぞれ独立し、1から40の間である。
【0011】
本発明の一実施形態に係るリチウム電池は、上述の電解質溶液を含む。
【0012】
本発明の一実施形態に係る電気化学キャリア構造は、上述の電解質溶液を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明による添加剤を含む電解質溶液は、効果的に、電池容量を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態における電池容量(amp hours,Ah)と充放電回数との曲線比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態に係る電解質溶液は、81から88重量部の有機溶剤と12から19重量部のリチウム塩との混合溶液100重量部に対し、0.1から15重量部の添加剤を含み、式(1)に示される。
【0017】
式(1)中、pは5から31の間である。pの数値が過小の場合、アルコキシ基(alkoxy group)が少なく、リチウムイオンとの会合伝送効果が悪く、リチウム電池パフォーマンスを低下させる。式(1)中、qは1から5の間である。qの数値が過大である場合、グラフトされるアルコキシ基が少なく、リチウムイオンとの会合伝送効果が悪く、リチウム電池パフォーマンスを低下させる。式(1)中、rは9から40の間である。式(1)中、xは3から40の間である。xの数値が過大の場合、リチウムイオンとの会合伝送効果が悪く、リチウム電池パフォーマンスを低下させる。式(1)中、yは1から31の間である。式(1)中、各zはそれぞれ独立し、1から40の間である。
【0018】
上述の添加剤の合成方法は以下のとおりである。まず、ポリオキシアルキレンアミン(poly(oxyalkylene)-amine)とメタクリル酸グリシジル(Glycidyl Methacrylate)とを混合し、テトラヒドロフラン(Tetrahydrofuran,THF)中に入れて、60℃から80℃で加熱すると共に、4−12時間反応させる。反応式は式(2)に示される。
【0020】
式(2)中、ポリオキシアルキレンアミン(poly(oxyalkylene)-amine)は市販のJEFFAMINE(登録商標)シリーズ、たとえば、M−600(x=9,y=1)、M−1000(x=3,y=19)、M−2005(x=29,y=6)、またはM−2070(x=10,y=31)が挙げられる。
【0021】
続いて、式(2)の産物と、トリス(2−メトキシエトキシ)ビニル)シラン(Tris(2-methoxyethoxy)(vinyl)silane)と、ポリ(メチルシロキサン)(poly(methysiloxane))と、白金触媒(Platinum catalyst)とを用い、ヒドロシリル化触媒反応(J. Appl Electrochem(2009)39:253)を行う。反応式は式(3)に示される:
【0023】
式(3)中、ポリ(メチルシロキサン)(poly(methysiloxane))は、Aldrich(#176206,nは26から51の間)から購入可能であり、トリス(2−メトキシエトキシ)ビニル)シラン(Tris(2-methoxyethoxy)(vinyl)silane)は、Aldrich(#175587)から購入可能である。理解できることは、式(3)の産物はランダム共重合体であることである。
【0024】
本発明の一実施形態において、有機溶剤は、γ−ブチロラクトン(γ-butyrolactone)、炭酸エチレン(Ethylene carbonate)、炭酸プロピレン(Propylene carbonate)、炭酸ジエチル(Diethyl carbonate)、酢酸プロピル(Propyl acetate)、炭酸ジメチル(dimethyl carbonate)、炭酸エチルメチル(ethyl methyl carbonate)、または上述の組み合わせを含むことが好ましい。有機溶剤とリチウム塩との混合溶液100重量部を基準とすると、当該混合溶液中の有機溶剤は81から88重量部である。
【0025】
本発明の一実施形態において、リチウム塩は、LiPF
6、LiBF
4、LiAsF
6、LiSbF
6、LiClO
4、LiAlCl
4、LiGaCl
4、LiNO
3、LiC(SO
2CF
3)
3、LiN(SO
2CF
3)
2、LiSCN、LiO
3SCF
2CF
3、LiC
6F
5SO
3、LiO
2CCF
3、LiSO
3F、LiB(C
6H
5)
4、LiCF
3SO
3、または上述の組み合わせであることが好ましい。有機溶剤とリチウム塩との混合溶液100重量部を基準とすると、当該混合溶液中のリチウム塩は12から19重量部である。リチウム塩を用いる量が多過ぎる場合、電解質中に完全に溶解できず、リチウム塩を析出させて、電解質溶液の導電性を低下させる。反対に、リチウム塩を用いる量が少な過ぎる場合、電解質溶液に十分な導電度を有させることができない。
【0026】
有機溶剤とリチウム塩との混合溶液100重量部を基準とすると、電解質溶液中の添加剤は0.1から15重量部である。添加剤の比率が高過ぎる場合、過多な添加剤は、容量の下降を生じる。添加剤の比率が低過ぎる場合、リチウム電池または電気化学キャリア構造のパフォーマンスを改善することができない。
【0027】
リチウムイオン電池は、例えば以下のようにして製造することができる。まず、上述の有機溶剤、リチウム塩および添加剤を、必要な比率で混合して、電解質溶液を形成する。混合方法は、例えば、攪拌、超音波処理、または上述の組み合わせにより、標準リチウムイオン電池に注入する。標準リチウムイオン電池正極極板製法に基づいて、正極極板を製造する。標準リチウムイオン電池負極ペーストを合わせて使用して、標準負極極板を製造する。正、負電極を組み合わせて、標準電池芯(Jelly Roll)を形成し、尺寸は、3.5mm(高さ)・58mm(幅)・120mm(長さ)、即ち、3558120標準型電池芯で、7.8グラムの液体電解液を注入し、パッケージと化成すると、本実施形態に係るリチウムイオン電池が得られる。
【実施例】
【0028】
本発明の上述およびその他の目的、特徴、および長所をさらにわかりやすくするため、以下で実施例および図面により説明する。
【0029】
実施例1
式(2)に示されるように、0.6モル分のメタクリル酸グリシジル(Glycidyl Methacrylate)と0.6モル分のポリオキシアルキレンアミン(poly(oxyalkylene)-amine)(JEFFAMINE(登録商標)2070,x=10,y=31)とを、100mLのテトラヒドロフラン(Tetrahydrofuran,THF)中に入れると共に、60℃から80℃で加熱して、4時間反応させ、式(2)で示される産物を合成した。
【0030】
続いて、式(3)に示されるように、1モル分のポリ(メチルシロキサン)(poly(methysiloxane))(Aldrichの#176206)、0.6モルの式(2)の産物、0.3モルのトリス(2−メトキシエトキシ)ビニル)シラン(Tris(2-methoxyethoxy)(vinyl)silane)(Aldrichの#175587)、および0.1〜1モルの白金触媒を反応させて、添加剤を合成した。この添加剤は式(1)に示され、pは16から31、qは3から5、rは9から15、xは35、yは6、zは1である。
【0031】
90重量部のLiCoO
2、5重量部のPVDF、および5重量部のアセチレンブラック(導電パウダー)を、N−メチル−2−ピロリドン(N-Methyl-2-pyrrolidone,NMP)中に分散させて、このゲル体をアルミ箔に塗布して乾燥させ、圧縮すると共に裁断して、負極を形成した。
【0032】
95重量部のグラファイトと5重量部のPVDFとをNMP中に分散させ、このゲル体をアルミ箔に塗布して乾燥させ、圧縮すると共に裁断して、正極を形成した。
【0033】
18.4重量部の炭酸プロピレン(Propylene carbonate,PC)、30.7重量部の炭酸エチレン(Ethylene carbonate,EC)、および37.1重量部の炭酸ジエチル(Diethyl carbonate,DEC)を混合して、電解質溶液の有機溶剤とした。この有機溶剤にリチウム塩としてLiPF
6(13.8重量部)を溶解し、有機溶剤とリチウム塩との混合溶液を調製した(合計100重量部)。この混合溶液に添加剤を加え、電解質溶液とした。この電解質溶液の添加剤は上述のとおりである(1重量部)。
【0034】
続いて、隔離膜(PP)により陽極と陰極とを隔離後、陽極と陰極との間の収容領域に、上述の電解質溶液を加えた。最後に、パッケージ構造で、上述の構造をパッケージした。
【0035】
比較例1
電解質溶液が本発明の添加剤を含まないことを除いて、比較例1は、実施例1と類似する。
【0036】
実施例1および比較例1の電池を、固定電流/電圧によって、充放電した。まず、2.4mAの固定電流で、電流が0.1mA以下になるまで、電池を4.2Vに充電し、測定された容量(amp hour,Ah)を表1に示した。続いて、固定電流2.4Aにより、電池を、カットオフ電圧(2.75V)になるまで放電した。上述の過程を300回繰り返した。実施例1および比較例1の電池容量(amp hours,Ah)と充放電回数との曲線が
図1に示される。
【0037】
図1から分かるように、本発明の実施例1は、比較例1と比較すると、電池容量が約10%から15%高く、350回充放電後、電池容量は、約30%から40%高い。上述のデータから分かるように、本発明による添加剤を含む電解質溶液は、効果的に、電池容量を改善することができる。
【0038】
実施例2
比較例1の電解質溶液中の添加剤含量が0.1重量部であることを除いて、実施例2は実施例1と類似する。
2.4mAの固定電流により、電流が0.1mA以下になるまで、電池を4.2Vに充電し、その容量(amp hour,Ah)を測定して、表1に示した。
【0039】
実施例3
比較例1の電解質溶液中の添加剤含量が5重量部であることを除いて、実施例3は実施例1と類似する。
2.4mAの固定電流で、電流が0.1mA以下になるまで、電池を4.2Vに充電し、その容量(amp hour,Ah)を測定して、表1に示した。
【0040】
実施例4
比較例1の電解質溶液中の添加剤含量が10重量部であることを除いて、実施例4は実施例1と類似する。
2.4mAの固定電流で、電流が0.1mA以下になるまで、電池を4.2Vに充電して、その容量(amp hour,Ah)を測定して、表1に示した。
【0041】
実施例5
比較例1の電解質溶液中の添加剤含量が15重量部であることを除いて、実施例5は実施例1と類似する。
2.4mAの固定電流で、電流が0.1mA以下になるまで、電池を4.2Vに充電し、その容量(amp hour,Ah)を測定して、表1に示した。
【0042】
【表1】
【0043】
本発明では好ましい実施形態を前述の通り開示したが、これらは決して本発明に限定するものではなく、当該技術を熟知する者なら誰でも、本発明の精神と領域を脱しない範囲内で各種の変動や潤色を加えることができ、従って本発明の保護範囲は、特許請求の範囲で指定した内容を基準とする。