(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-52927(P2015-52927A)
(43)【公開日】2015年3月19日
(54)【発明の名称】穴加工方法および数値制御装置
(51)【国際特許分類】
G05B 19/4093 20060101AFI20150220BHJP
B23B 47/18 20060101ALI20150220BHJP
【FI】
G05B19/4093 M
B23B47/18 B
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-185603(P2013-185603)
(22)【出願日】2013年9月6日
(11)【特許番号】特許第5631467号(P5631467)
(45)【特許公報発行日】2014年11月26日
(71)【出願人】
【識別番号】000154990
【氏名又は名称】株式会社牧野フライス製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100102819
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100130133
【弁理士】
【氏名又は名称】曽根 太樹
(74)【代理人】
【識別番号】100171251
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 拓也
(72)【発明者】
【氏名】前田 淳一
(72)【発明者】
【氏名】坂西 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大貴
【テーマコード(参考)】
3C036
3C269
【Fターム(参考)】
3C036DD09
3C269AB03
3C269CC01
3C269DD01
3C269QA07
(57)【要約】
【課題】加工時間が長くならず、装置が複雑化、大型化することなく、既設の工作機械へも適用可能な、切りくずを細かく分断できる穴加工方法を提供する。
【解決手段】回転工具(T)とワーク(W)とを相対移動させ、ワーク(W)に穴を加工する穴加工方法において、回転工具(T)の中心軸線方向への送り速度を、送りの方向が変化しない範囲で周期的に増減するようにした。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転工具とワークとを相対移動させ、ワークに穴を加工する穴加工方法において、
前記回転工具の中心軸線方向への送り速度を、送りの方向が変化しない範囲で周期的に増減することを特徴とした穴加工方法。
【請求項2】
前記回転工具の中心軸線方向への一定速度の送り指令を生成し、該一定速度の送り指令に周期的に変化する送り速度指令を重畳させることによって、前記回転工具の中心軸線方向への送り速度を周期的に増減するようにした請求項1に記載の穴加工方法。
【請求項3】
回転工具とワークとを相対移動させ、ワークに穴を加工する工作機械のための数値制御装置において、
加工プログラムを読み取り、解釈して、前記回転工具の中心軸線方向への一定速度の送り動作指令を出力する読取解釈部と、
加工条件に従って周期的に変化する往復動作指令を選択するためのデータベースを備えた記憶部と、
前記読取解釈部が出力した一定速度の送り動作指令と、前記記憶部が出力した往復動作指令とを重畳し、前記回転工具の中心軸線方向への周期的に変化する動作指令を生成する重畳部と、
前記周期的に変化する動作指令を補間演算して位置指令を生成する補間部と、
前記位置指令に基づいて前記回転工具を中心軸線方向に送る送り軸を駆動するための電流値を生成するサーボ制御部と、
を具備することを特徴とした数値制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械による穴加工方法および該穴加工方法を実施するための数値制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ドリル加工や中ぐり加工のような穴加工に際して発生する連続的な切りくずによって、工具が損傷したり、切りくずによって加工面が損傷したり、加工機から切りくずを排出する切りくず処理装置に切りくずが詰まる等の障害が生じることが従来から問題となっている。
【0003】
この問題を解決するために、従来から、穴加工中にドリルを軸方向に後退させて切りくずを加工中の穴から排出し、その後再びドリルを軸方向に前進させ、これを繰り返して、所望深さまで穴を穿設するステップフィード加工法がある。例えば、特許文献1には、カムを用いてドリルユニットを軸方向に正弦波状に往復移動させるようにした穴加工装置が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、深穴加工中のスピンドルに作用する実負荷が、スピンドルの初期負荷に所定値を乗じた値を超えたときに、Z軸を後退させるようにした深穴ドリルサイクル制御方法が開示されている。特許文献2の発明では、ドリルサイクル自体はJIS B6314、国際規格ISO 1056、米国規格 EIA RS-274といった規格によるものであることが記載されている。
【0005】
更に、特許文献3には、ベース台上にリニアモータを配置し、該リニアモータ上に配置されたスピンドル台と、該スピンドル台に配置されスピンドルとを備え、リニアモータによってスピンドル台を送り方向に往復移動させるようにした穴加工機が開示されている。特許文献3の発明では、リニアモータによってスピンドル台と共にスピンドルを往復移動させるので、往復移動速度および往復移動の距離を容易に変更することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2ー36009号公報
【特許文献2】特開昭62ー246408号公報
【特許文献3】特開2004−261928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の発明では、カムを用いてドリルユニットを軸方向に往復移動させているため、移動速度および往復距離(振幅)は常に固定された値となり、様々な加工条件に最適に適合させることが難しい問題がある。また、ドリルユニットの往復動作中に工具の先端が加工中の穴から露出するまで、ドリルユニットを後退させるため、往復動作に時間を要し、加工時間が長くなる。更に、ドリルユニットの往復動作に際して、ドリル先端がワークから離反してしまうので、再びドリルの先端がワークに衝触したときに、刃先が欠けたり、衝触に伴う騒音が生じたりする問題がある。なお、衝触とは衝撃のある接触のことである。
【0008】
特許文献2の発明では、スピンドルに作用する負荷が高くなったときに、Z軸を後退させるようにしているので、スピンドルに作用する負荷が高くなるまで切りくずは破断することなく、従って連続した切りくずが発生し易く、切りくずによって加工面に傷が生じ易い問題がある。更に、特許文献2の発明では、Z軸を後退させるときに、ドリル先端がワークから離反してしまうので、特許文献1と同様の刃先の欠けや、衝触に伴う騒音の発生という問題がある。更に、特許文献2の発明では、国際規格等で決められた従来技術のドリルサイクルでは加工時間が長くなる問題を挙げて、Z軸を後退させる回数を減らす対応をしているが、回数を減らしただけでZ軸を後退する動作は残っているため、改善の余地がある。
【0009】
特許文献3の発明では、リニアモータによってスピンドル台と共にスピンドルを軸方向に微小振動させるようになっているため、マシニングセンタのような汎用機には応用することが難しく、特に既設の工作機械には適用することができない。
【0010】
本発明は、こうした従来技術の問題を解決することを技術課題としており、加工時間が長くならず、装置が複雑化、大型化することなく、既設の工作機械へも適用可能な、穴加工に際して発生する切りくずを細かく分断可能な穴加工方法および該穴加工方法を実施するための数値制御装置を提供することを目的としている。
【0011】
更に、本発明は、穴加工に際して工具の折損や刃先の欠けのような工具損傷を防止した穴加工方法および該穴加工方法を実施するための数値制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の目的を達成するために、本発明によれば、回転工具とワークとを相対移動させ、ワークに穴を加工する穴加工方法において、前記回転工具の中心軸線方向への送り速度を、送りの方向が変化しない範囲で周期的に増減するようにした穴加工方法が提供される。
【0013】
本発明の他の特徴によれば、回転工具とワークとを相対移動させ、ワークに穴を加工する工作機械のための数値制御装置において、加工プログラムを読み取り、解釈して、前記回転工具の中心軸線方向への一定速度の送り動作指令を出力する読取解釈部と、加工条件に従って周期的に変化する往復動作指令を選択するためのデータベースを備えた記憶部と、前記読取解釈部が出力した一定速度の送り動作指令と、前記記憶部が出力した往復動作指令とを重畳し、前記回転工具の中心軸線方向への周期的に変化する動作指令を生成する重畳部と、前記周期的に変化する動作指令を補間演算して位置指令を生成する補間部と、前記位置指令に基づいて前記回転工具を中心軸線方向に送る送り軸を駆動するための電流値を生成するサーボ制御部とを具備する数値制御装置が提供される。
【発明の効果】
【0014】
このように本実施形態によれば、送り速度を周期的に変化させながら回転工具をワークに対して中心軸線方向に相対的に送ることによってワークに穴を加工するので、加工に際して発生する切りくずの厚さが周期的に変化し、切りくずが分断され易くなる。これによって、加工した穴から切りくずが排出され易くなると共に、回転工具に切りくずが絡みつくことがなくなり、加工領域(穴)内での発熱が低減され、更に、切りくずによってワークの表面や加工された穴の内面が傷つくことが防止される。これによって、更に、高圧クーラントを加工領域に供給する必要がなくなり、従来と比べ、高圧クーラント用のポンプを駆動するための電力消費を削減することが可能となる。
【0015】
また、本発明によれば、回転工具の相対的な軸方向の送り速度は、送りの方向が変化しない範囲で周期的に増減するように制御される。つまり、回転工具は軸方向に後退することはなく、該回転工具の先端は常にワークに接触し続けワークWから離反することはない。従って、従来技術のように、工具がワークに対して衝触、離反することによって生じていた刃先の欠けや騒音の発生が防止される。
【0016】
更に、本発明によれば、穴加工に際して、回転工具はワークに対して送りの方向が変化しないようにその中心軸線方向へ相対的に送られるので、その送り軸、通常はZ軸を構成するボールねじが反転することがない。従って、Z軸が停止または後退する動作をしないため、従来技術のドリルサイクルの問題である加工時間が長くなるという現象が発生しない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明を適用する工作機械の一例を示す側面図である。
【
図2】本発明の穴加工方法を実施するための数値制御装置の一例を示すブロック図である。
【
図3】Z軸動作指令(送り量)を示すグラフである。
【
図4】Z軸動作指令(送り速度)を示すグラフである。
【
図6】更に他の例による
図3と同様のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態を説明する。
図1を参照すると、本発明を適用する工作機械の一例が示されている。
図1において、本発明の好ましい実施の形態による工作機械100は、立形マシニングセンタを構成しており、工場の床面に固定された基台としてのベッド102、ベッド102の前方部分(
図1では左側)の上面で前後方向またはY軸方向(
図1では左右方向)に移動可能に設けられワークWが固定されるテーブル106、ベッド102の後端側(
図1では右側)で同ベッド102の上面に立設、固定されたコラム104、該コラム104の前面で左右方向またはX軸方向(
図1では紙面に垂直な方向)に移動可能に設けられたX軸スライダ108、X軸スライダ108の前面で上下方向またはZ軸方向に移動可能に取り付けられ主軸112を回転可能に支持する主軸頭110を具備している。
【0019】
テーブル106は、ベッド102の上面において水平なY軸方向(
図1の左右方向)に延設された一対のY軸案内レール(図示せず)に沿って往復動可能に設けられており、ベッド102には、テーブル106をY軸案内レールに沿って往復駆動するY軸送り装置として、Y軸方向に延設されたボールねじ(図示せず)と、該ボールねじの一端に連結されたY軸サーボモータ116が設けられており、テーブル106には、前記ボールねじに係合するナット(図示せず)が取り付けられている。テーブル106には、また、Y軸方向のテーブル106のY軸方向の座標位置を測定するY軸スケール(図示せず)が取り付けられている。
【0020】
主軸頭110は、Z軸に平行な鉛直方向に延びる中心軸線O周りに回転可能に主軸112を支持している。主軸112は、テーブル106に対面する先端部に回転工具Tを装着するための工具装着穴(図示せず)が形成されている。主軸頭110は主軸112を回転駆動するサーボモータ(図示せず)を有している。該サーボモータは、主軸頭110のハウジングの外側に取り付けるようにできるが、主軸頭110のハウジング内面にステーターコイル(図示せず)を設け、そして主軸112にローターコイル(図示せず)を配設して所謂ビルトインモータとしてもよい。
【0021】
X軸スライダ108は、コラム104の上方部分の前面においてX軸方向に延設された一対のX軸案内レール(図示せず)に沿って往復動可能に設けられている。コラム104には、X軸スライダ108をX軸案内レールに沿って往復駆動するX軸送り装置として、X軸方向に延設されたボールねじ(図示せず)と、該ボールねじの一端に連結されたX軸サーボモータ114が設けられており、X軸スライダ108には、前記ボールねじに係合するナット(図示せず)が取り付けられている。コラム104には、また、X軸スライダ108のX軸方向の座標位置を測定するX軸スケール(図示せず)が取り付けられている。
【0022】
主軸頭110は、X軸スライダ108の前面においてZ軸方向(
図1では上下方向)に延設された一対のZ軸案内レールに沿って往復動可能に設けられている。X軸スライダ108には、主軸頭110をZ軸案内レールに沿って往復駆動するZ軸送り装置として、Z軸方向に延設されたボールねじ(図示せず)と、該ボールねじの一端に連結されたZ軸サーボモータ118が設けられており、主軸頭110には、前記ボールねじに係合するナット(図示せず)が取り付けられている。X軸スライダ108には、また、主軸頭110のZ軸方向の座標位置を測定するZ軸スケール(図示せず)取り付けられている。回転工具TはZ軸送り装置によって、その中心軸線に沿って送られる。
【0023】
X軸サーボモータ114、Y軸サーボモータ116、Z軸サーボモータ118およびX軸スケール、Y軸スケール、Z軸スケールは、工作機械100を制御する数値制御装置10に接続されている。数値制御装置10によって、X軸サーボモータ114、Y軸サーボモータ116、Z軸サーボモータ118へ供給される電力(電流値)が制御される。
【0024】
本発明の穴加工方法を実施するための数値制御装置の一例を示すブロック図である
図2を参照すると、数値制御装置10は、読取解釈部12、重畳部14、補間部16、サーボ制御部18、記憶部20を具備している。読取解釈部12は、CAMシステム30からの加工プログラムを読取り解釈して動作指令をを出力する。この動作指令は、X軸、Y軸、Z軸方向の送り量と送り速度を含んでいる。読取解釈部12が出力した動作指令は重畳部14へ送出される。なお、CAM(Computer Aided Manufacturing)システム30は、加工モデル、加工条件を入力して自動的に加工プログラムを生成する装置である。
【0025】
記憶部20は、種々の穴加工に対する往復動作、つまり一定振幅のZ軸方向の周期的に変動する送り量を格納したデータベースを有している。記憶部20は、数値制御装置10に通常設けられているタッチパネルのような入力部32から入力される穴加工に関する条件(往復動作条件)に基づいてデータベースを参照して往復動指令を重畳部14に出力する。往復動作条件としては、ワークの材料、加工すべき穴の直径、深さ、工具の送り速度、工具(主軸)の回転速度、刃数、ドリルや座ぐり工具といった工具の種類等が含まれる。記憶部20は、過去の往復動作条件を累積的にデータベースに格納するようにしてもよい。
【0026】
重畳部14は、読取解釈部12から出力されるZ軸動作指令に、記憶部20から出力された往復動作指令を重ね合わせる。往復動作指令を重畳したZ軸動作指令は、読取解釈部12が生成したX軸およびY軸送り動作指令と共に補間部16に出力される。
【0027】
補間部16は、受け取ったX軸、Y軸、Z軸動作指令を補間演算し、補間関数、送り速度に合った位置指令(パルス位置指令)をサーボ制御部18に出力する。サーボ制御部18は、受け取ったX軸、Y軸、Z軸の各位置指令から工作機械100のX軸、Y軸、Z軸の各送り軸を駆動するための電流値を出力し、これがX軸、Y軸、Z軸のサーボモータ114、116、118に送出される。
【0028】
Z軸動作指令(送り量)を示すグラフである
図3を参照すると、読取解釈部12から重畳部14へ出力されるZ軸動作指令(送り量)の一例が破線で示されている。
図3において、縦軸は送り量、つまりZ座標であり、横軸は時間である。
図3の例では、読取解釈部12から重畳部14へ出力される動作指令は、回転工具TをZ軸方向に一定速度で送る動作指令であることが理解されよう。また、
図3には、記憶部20から重畳部14へ出力される往復動作指令の一例が一点鎖線で示されている。
図3の例では、往復動作指令は、時間に対してZ軸方向の送り量(Z座標)が一定の周期、一定の振幅で変化する送り動作指令となっている。更に、重畳部14において、読取解釈部12から重畳部14へ出力されるZ軸動作指令と、記憶部20から重畳部14へ出力される往復動作指令とを重畳または合成した動作指令であって、重畳部14から補間部16へ出力されるZ軸方向の送り動作指令が実線で示されている。
【0029】
Z軸動作指令(送り速度)の一例を
図4に示す。
図4において、縦軸は送り速度、横軸は時間であり、破線は読取解釈部12から重畳部14へ出力されるZ軸動作指令を示し、一点鎖線は記憶部20から重畳部14へ出力される往復動作指令を示し、実線は、重畳部14から補間部16へ出力される重畳または合成後の動作指令を示している。読取解釈部12から重畳部14へ出力されるZ軸動作指令は一定の送り速度となっている。記憶部20から補間部16へ出力されるZ軸方向の送り動作指令(送り速度)は、一定の振幅(絶対値が等しい)で符号(±)が一定の周期で入れ替わる矩形波となっている。なお、記憶部20から重畳部14へ出力される往復動作指令は矩形波ではなく、他の曲線、例えば正弦波であってもよい。
【0030】
本実施形態では、読取解釈部12から重畳部14へ出力されるZ軸動作指令と、重畳部14から補間部16へ出力されるZ軸方向の送り動作指令(送り速度)とを合成または重畳すると、読取解釈部12から重畳部14へ出力される一定の送り速度を中心とした矩形波となる。この矩形波は正の範囲で一定の周期、振幅で変化し、回転工具TのZ軸方向の送り速度は負の値とはならない。
【0031】
既述したように、本実施形態によれば、穴加工に際して、回転工具Tは送りの方向が変化しないようにZ軸方向へ送られる。
図3の例では、回転工具Tは、常に読取解釈部12から重畳部14へ出力されるZ軸送り量よりも大きな送り量でZ軸方向に送られる、つまり
図3において実線が常に破線の上側となるように送られている。然しながら、
図5に示すように、読取解釈部12から重畳部14へ出力されるZ軸送り量よりも小さな送り量でZ軸方向に送るようにしたり、
図6に示すように、読取解釈部12から重畳部14へ出力されるZ軸送り量を中心として送り量が増減するような送り量でZ軸軸方向に送るようにしてもよい。要は、送り量の傾きが常に零または正の値となればよい。つまり送り量の時間微分が負にならなければよい。
【0032】
発明者等は、ワークWの材質をステンレス鋼(SUS403)、ダクタイル鋳鉄(FCD450)およびアルミニウム(A5052)と変えて、送り速度または送り量を周期的に変化させながら直径5mmの穴加工(ドリル加工)を実際に行い、送り速度または送り量を変化させずに加工した場合とで比較した。更に、上記のドリル加工に加え、アルミニウム(A5052)のワークに直径30mmのボーリング加工と、直径6mmの座ぐり加工を送り速度または送り量を周期的に変化させながら行い、送り速度または送り量を変化させずに加工した場合とで比較した。Z軸方向への送り量の変化(振幅)および周波数は表1に示す通りである。何れの場合も、送り速度を周期的に変化させることによって、切りくずが分断され、高圧のクーラントを供給しなくとも、送り速度を変化させずに加工した場合よりも良好に穴を加工可能となることが確認された。
【表1】
【0033】
このように本実施形態によれば、送り速度を周期的に変化させながら回転工具TをZ軸方向に送ることによってワークWに穴を加工するので、加工に際して発生する切りくずの厚さが周期的に変化し、切りくずが分断され易くなる。これによって、加工した穴から切りくずが排出され易くなると共に、回転工具Tに切りくずが絡みつくことがなくなり、加工領域(穴)内での発熱が低減され、更に、切りくずによってワークWの表面や加工された穴の内面が傷つくことが防止される。これによって、更に、高圧クーラントを加工領域に供給する必要がなくなり、従来の高圧クーラント用のポンプを駆動するための電力消費を削減することが可能となる。
【0034】
また、回転工具TのZ軸方向の送り速度は負の値とはならないので、回転工具TのZ軸方向の送りは、その方向が変化する或いは後退することはなく、回転工具Tの先端は常にワークWに接触し続けワークWから離反することはない。従って、Z軸が停止または後退する動作をしないため、従来技術のドリルサイクルの問題である加工時間が長くなるという現象が発生しない。
【0035】
また、既述のように、本実施形態によれば、穴加工に際して、回転工具Tは送りの方向が変化しないようにZ軸方向へ送られ、Z軸ボールねじが反転することがない。従って、Z軸が停止または後退する動作をしないため、従来技術のドリルサイクルの問題である加工時間が長くなるという現象が発生しない。
【0036】
なお、既述した実施形態では、読取解釈部12から重畳部14へ出力される一定速度のZ軸動作指令に、記憶部20から重畳部14へ出力される周期的に変化する往復動作指令を重畳するようになっているが、本発明はこれに限定されず、NCプログラム中において、Z軸の送り速度を送りの方向が変化しない範囲で周期的に増減するように座標を直接記述するようにしてもよい。但し、既述したように、一定速度のZ軸動作指令に周期的に変化する往復動作指令を重畳する方が容易かつ確実である。
【符号の説明】
【0037】
10 数値制御装置
12 読取解釈部
14 重畳部
16 補間部
18 サーボ制御部
20 記憶部
30 CAMシステム
32 入力部
100 工作機械
102 ベッド
104 コラム
106 テーブル
108 X軸スライダ
110 主軸頭
112 主軸
114 X軸サーボモータ
116 Y軸サーボモータ
118 Z軸サーボモータ
【手続補正書】
【提出日】2014年8月15日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0012】
上述の目的を達成するために、本発明によれば、
ドリル、中ぐりカッタまたは座ぐりカッタの回転工具とワークとを相対移動させ、ワークに穴を加工する穴加工方法において、前記回転工具の中心軸線方向への送り速度を、
該回転工具がその中心軸線方向に後退しない範囲で
増減を繰り返すように変化させて前記ワークに穴を加工するようにした穴加工方法が提供される。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0013】
本発明の他の特徴によれば、
ドリル、中ぐりカッタまたは座ぐりカッタの回転工具とワークとを相対移動させ、ワークに穴を加工する工作機械のための数値制御装置において、加工プログラムを読み取り、解釈して、前記回転工具の中心軸線方向への一定速度の送り動作指令を出力する読取解釈部と、加工条件に従って
前記回転工具の中心軸線方向への送り速度を、該回転工具がその中心軸線方向に後退しない範囲で増減を繰り返すように変化させる往復動作指令を選択するためのデータベースを備えた記憶部と、前記読取解釈部が出力した一定速度の送り動作指令と、前記記憶部が出力した往復動作指令とを重畳し、前記回転工具の中心軸線方向へ
の動作指令を生成する重畳部と、前記
重畳部から出力される動作指令を補間演算して位置指令を生成する補間部と、前記位置指令に基づいて前記回転工具を中心軸線方向に送る送り軸を駆動するための電流値を生成するサーボ制御部とを具備する数値制御装置が提供される。
【手続補正3】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドリル、中ぐりカッタまたは座ぐりカッタの回転工具とワークとを相対移動させ、ワークに穴を加工する穴加工方法において、
前記回転工具の中心軸線方向への送り速度を、該回転工具がその中心軸線方向に後退しない範囲で増減を繰り返すように変化させて前記ワークに穴を加工することを特徴とした穴加工方法。
【請求項2】
前記回転工具の中心軸線方向への一定速度の送り指令を生成し、該一定速度の送り指令に周期的に変化する送り速度指令を重畳させることによって、前記回転工具の中心軸線方向への送り速度を周期的に増減するようにした請求項1に記載の穴加工方法。
【請求項3】
ドリル、中ぐりカッタまたは座ぐりカッタの回転工具とワークとを相対移動させ、ワークに穴を加工する工作機械のための数値制御装置において、
加工プログラムを読み取り、解釈して、前記回転工具の中心軸線方向への一定速度の送り動作指令を出力する読取解釈部と、
加工条件に従って前記回転工具の中心軸線方向への送り速度を、該回転工具がその中心軸線方向に後退しない範囲で増減を繰り返すように変化させる往復動作指令を選択するためのデータベースを備えた記憶部と、
前記読取解釈部が出力した一定速度の送り動作指令と、前記記憶部が出力した往復動作指令とを重畳し、前記回転工具の中心軸線方向への動作指令を生成する重畳部と、
前記重畳部から出力される動作指令を補間演算して位置指令を生成する補間部と、
前記位置指令に基づいて前記回転工具を中心軸線方向に送る送り軸を駆動するための電流値を生成するサーボ制御部と、
を具備することを特徴とした数値制御装置。