(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-54850(P2015-54850A)
(43)【公開日】2015年3月23日
(54)【発明の名称】腋臭原因菌に対する静菌剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/37 20060101AFI20150224BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20150224BHJP
A61Q 15/00 20060101ALI20150224BHJP
A61K 31/22 20060101ALI20150224BHJP
【FI】
A61K8/37
A61P17/00 101
A61Q15/00
A61K31/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-190027(P2013-190027)
(22)【出願日】2013年9月13日
(71)【出願人】
【識別番号】390010674
【氏名又は名称】理研ビタミン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮田 侑典
【テーマコード(参考)】
4C083
4C206
【Fターム(参考)】
4C083AC072
4C083AC102
4C083AC112
4C083AC242
4C083AC352
4C083AC391
4C083AC392
4C083AC432
4C083BB48
4C083CC17
4C083DD11
4C083DD21
4C083DD23
4C083EE10
4C083EE18
4C206AA01
4C206AA02
4C206DB45
4C206MA83
4C206NA06
4C206NA14
4C206ZA90
(57)【要約】
【課題】皮膚刺激性が弱く、安全性の高い腋臭原因菌に対する静菌剤を提供すること。
【解決手段】構成する脂肪酸として炭素数が8〜14の脂肪酸を1種又は2種以上を含有し、モノエステル体の含有量が90質量%以上のプロピレングリコール脂肪酸エステルであることを特徴とする腋臭原因菌に対する静菌剤。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成する脂肪酸として炭素数が8〜14の脂肪酸を1種又は2種以上を含有し、モノエステル体の含有量が90質量%以上のプロピレングリコール脂肪酸エステルであることを特徴とする腋臭原因菌に対する静菌剤。
【請求項2】
請求項1に記載の静菌剤を含有することを特徴とする腋臭用皮膚外用剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腋臭原因菌に対する静菌剤に関し、詳しくは、皮膚刺激性が弱く、安全性の高い腋臭原因菌に対する静菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
人に不快感を与える腋臭は、汗が皮脂と混ざり、それがコリネバクテリウム(Corynebacterium)属菌などの皮膚常在菌と称される微生物により分解され悪臭物質を産生することにより発生する。そこで、従来から、この腋臭を含む体臭の発生を抑制するために、体臭防止用薬剤として、塩化アルミニウム等の制汗剤、塩化ベンザルコニウム等の殺菌剤、酸化亜鉛等の消臭剤などが用いられている。しかし、従来の体臭防止用薬剤には、皮膚刺激性が強いなどの問題があった。
【0003】
腋臭原因菌に対する静菌剤及び皮膚外用品に関する従来技術としては、中鎖脂肪酸エステルを含有してなるわきが防止剤(特許文献1)、炭素数8〜22を有する脂肪酸のショ糖脂肪酸エステルを有効成分とするコリネバクテリウム属菌に対する抗菌剤(特許文献2)、クエン酸エステル及び炭素数8〜22を有する脂肪酸のショ糖エステルを有効成分とする腋臭の原因菌用抗菌剤(特許文献3)などが開示されているが、一長一短がありより好ましい腋臭原因菌に対する静菌剤が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−99852号公報
【特許文献2】特開2002−255775号公報
【特許文献3】特開2002−255807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、皮膚刺激性が弱く、安全性の高い腋臭原因菌に対する静菌剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決する為に鋭意研究を重ねた結果、一定条件のプロピレングリコール脂肪酸エステルが上記課題を解決することを見出した。そして、これらの知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)構成する脂肪酸として炭素数が8〜14の脂肪酸を1種又は2種以上を含有し、モノエステル体の含有量が90質量%以上のプロピレングリコール脂肪酸エステルであることを特徴とする腋臭原因菌に対する静菌剤、
(2)上記(1)に記載の静菌剤を含有することを特徴とする腋臭用皮膚外用剤、
からなっている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の腋臭原因菌に対する静菌剤は、皮膚刺激性が弱いため安全性が高く、且つ腋臭原因菌を有効に静菌するという効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の腋臭原因菌に対する静菌剤は、構成する脂肪酸として炭素数が8〜14の脂肪酸を1種又は2種以上を含有し、モノエステル体の含有量が90質量%以上のプロピレングリコール脂肪酸エステルである。
【0009】
上記プロピレングリコール脂肪酸エステルを構成する炭素数が8〜14の脂肪酸としては、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸のいずれでもよく、好ましくは、炭素数8〜14の直鎖の飽和脂肪酸(例えばカプリル酸、ぺラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸など)、より好ましくはカプリル酸、ぺラルゴン酸、カプリン酸及びラウリン酸である。脂肪酸の炭素数が8より小さい場合、得られたプロピレングリコール脂肪酸エステルは不快臭の発生や皮膚刺激性が強くなり、構成する脂肪酸の炭素数が14を超える場合、得られたプロピレングリコール脂肪酸エステルは静菌効果が弱く又は無くなるので好ましくない。
【0010】
炭素数が8〜14の脂肪酸は、1種又は2種以上を用いることができ、脂肪酸全体中に好ましくは約50質量%以上、より好ましくは約70質量%以上、更により好ましくは約90質量%以上含有する脂肪酸又は脂肪酸混合物である。
【0011】
上記プロピレングリコール脂肪酸エステルは、プロピレングリコールと上記脂肪酸のエステル化生成物から、未反応物及びジエステル体を可及的に除去し、モノエステル体の含有量を90質量%以上に精製したものであり、エステル化反応、除去及び精製等自体公知の方法で製造され得る。
上記プロピレングリコール脂肪酸エステルの製造方法の概略は下記の通りである。
例えば、攪拌機、加熱用のジャケット、邪魔板などを備えた通常の反応容器に、プロピレングリコールと炭素数8〜14の脂肪酸を約1:0.2〜1.5のモル比で仕込み、常法によりエステル化反応を行い、反応終了後、反応混合物中に残存する触媒を中和して反応液を得る。エステル化反応する際の加熱温度としては通常、約180〜260℃の範囲、好ましくは約190〜210℃の範囲である。また、反応圧力条件は減圧下又は常圧下で、反応時間は約0.5〜15時間、好ましくは約1〜10時間である。得られた反応液は、未反応の脂肪酸、未反応のプロピレングリコール、プロピレングリコールモノ脂肪酸エステル及びプロピレングリコールジ脂肪酸エステルなどを含む混合物である。この反応液を減圧下で蒸留して未反応のプロピレングリコールを留去し、続いて、例えば流下薄膜式分子蒸留装置又は遠心式分子蒸留装置などを用いて分子蒸留するか、又はカラムクロマトグラフィーもしくは液液抽出など自体公知の方法を用いて精製することにより、モノエステル体を90質量%以上含むプロピレングリコール脂肪酸エステルを得る。
【0012】
上記プロピレングリコール脂肪酸エステルとしては、商業的に製造及び販売されているものを用いることができ、例えば、リケマールPL−100(商品名;理研ビタミン社製 プロピレングリコールラウリン酸エステル モノエステル体含有量約95質量%)が挙げられる。
【0013】
かくして得られる本発明の腋臭原因菌に対する静菌剤は、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属菌などの腋臭原因菌、特にCorynebacterium xerosisに対する静菌効果を発揮する。
【0014】
本発明の腋臭原因菌に対する静菌剤を含油する腋臭用皮膚外用剤も本発明の形態の1つである。腋臭用皮膚外用剤とは、腋臭の予防や治療を目的としたて皮膚に対して外用で用いられる製剤の総称であり、医薬又は化粧料として使用される。医薬として使用する場合には、軟膏剤、スティック状剤、水剤、エキス剤、ローション剤、乳剤、パップ剤などの形態とすることができる。例えば、軟膏剤とする場合には油性基剤をベースとするもの、水中油型又は油中水型の乳化系基剤をベースとするもののいずれでもよく、油性基材としては例えば植物油、動物油、合成油、脂肪酸及び天然又は合成のグリセライドなどがあげられる。また、当該医薬には、他の薬効成分、例えば鎮痛消炎剤、殺菌消毒剤、収斂剤、皮膚軟化剤、ホルモン剤、抗生物質などを適宜配合することができる。
【0015】
化粧料として使用する場合には、種々の形態、例えば水中油型又は油中水型の乳化化粧料、クリーム、ジェル、化粧乳液、化粧水、油性化粧料、洗顔料、ファンデーション、パック、パップ剤、スプレー、ミスト、皮膚洗浄剤などとすることができる。当該化粧料にはさらに化粧料成分として一般に使用されている、油分、セラミド類、凝セラミド類、ステロール類、保湿剤、抗酸化剤、一重項酸素消去剤、粉末成分、色剤、紫外線吸収剤、美白剤、アルコール類、キレート剤、pH調製剤、防腐剤、増粘剤、色素類、香料、植物エキス、各種皮膚栄養剤などを任意に組み合わせて配合することができる。
【0016】
以下に本発明を実施例で説明するが、これは本発明を単に説明するだけのものであって、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0017】
<腋臭原因菌に対する静菌剤の作製>
[試作品1の作製]
攪拌機、温度計、ガス吹き込み管及び水分離器を取り付けた3Lの四つ口フラスコにプロピレングリコール1080gとカプリン酸1320g及び酸化亜鉛0.24gを仕込み、窒素ガスを導入しつつ195℃に昇温し7時間反応を行い、酸価1.2の反応液2140gを得た。この反応液900gを減圧蒸留(100℃、250Pa)して未反応のプロピレングリコールを除去した後、さらに減圧蒸留(150℃、120Pa)し、プロピレングリコールカプリン酸エステル(実施例品)430gを得た。モノエステル体含有量は95質量%であった。
【0018】
[試作品2の作製]
攪拌機、温度計、ガス吹き込み管及び水分離器を取り付けた500mlの四つ口フラスコにプロピレングリコール106gとカプリン酸294g及び酸化亜鉛0.04gを仕込み、窒素ガスを導入しつつ195℃に昇温し6時間反応を行い、酸価1.7であるプロピレングリコールカプリン酸エステル(比較例品1)360gを得た。モノエステル体の含有量は50質量%であった。
【0019】
[モノエステル体含有量の測定法]
HPLCを用いてエステル組成分析を行い、定量は絶対検量線法により行った。即ち、データ処理装置によってクロマトグラム上に記録された被検試料のモノエステル体に相当するピーク面積を測定し、順相系カラムクロマトグラフィーにより精製したプロピレングリコールモノラウリン酸エステルを標準試料として作成した検量線から、被検試料のモノエステル体含有量を求めた。HPLC分析条件を以下に示した。
【0020】
[HPLC分析条件]
装置 島津高速液体クロマトグラフ
ポンプ(型式:LC−20AD;島津製作所社製)
カラムオーブン(型式:CTO−20A;島津製作所社製)
データ処理装置(型式:LCsolution;島津製作所社製)
カラム GPCカラム(型式:SHODEX KF−801;昭和電工社製) 2本連結
移動相 THF
流量 1.0mL/min
検出器 RI検出器(型式:RID−10A;島津製作所社製)
カラム温度 40℃
検液注入量 15μL(in THF)
【0021】
<静菌試験>
下記表1に示す腋臭原因菌に対する静菌剤を用いて、腋臭原因菌(Corynebacterium xerosis:C.xerosis)に対する静菌試験を行った。
【0022】
【表1】
【0023】
[接種用菌液の調製]
C.xerosisを、No702培地(ポリペプトン10g、酵母エキス2g、硫酸マグネシウム7水和物1g、蒸留水1Lを調整)に加えて菌数が1×10
5CFU/mLの接種用菌液を調整した。
【0024】
[最少阻止濃度(MIC)の測定]
48穴マイクロプレートの各ウェルに、培養液として、液体培地(No702培地)900μL、接種用菌液100μL及び上記の腋臭原因菌に対する静菌剤を培養液中の濃度が25ppm、50ppm、100ppm、200ppm、300ppm、400ppmとなるように希釈した溶液10μLを分注し、30℃で5日間培養して菌の生育の有無を確認した。この時、生育が認められなかった培養液を150μL採取し、No802培地(ポリペプトン10g、酵母エキス2g、硫酸マグネシウム7水和物1g、蒸留水1L、寒天15gを調整)に塗布し、さらに30℃で5日間培養した。この際、生育が認められなかった最少の濃度を最少阻止濃度(MIC)とした。結果を表2に示す。
【0025】
【表2】
結果より、実施例品は50ppmで静菌効果を示した。比較例品1〜3は、200ppm未満では静菌効果が得られなかった。一般的な静菌剤である参考例品1、2は200ppmで静菌効果を示した。実施例品は、腋臭原因菌に対し優れた静菌効果を示した。
【0026】
<皮膚刺激性確認テスト>
実施例品及び参考例品1についての皮膚刺激性を、パッチテスト(閉塞パッチテスト法)により確認した。この手法は、化粧料等の皮膚刺激性を確認する目的で一般的に用いられている手法である。
【0027】
[希釈液の作製]
蒸留水(89.5g)、エタノール(10.0g)、実施例品(0.5g)を混合して実施例品を0.5質量%含む希釈液1を作製した。また、実施例品に替えて参考例品1を用いて参考例品1を0.5質量%含む希釈液2を作製した。
【0028】
[皮膚刺激性確認テストの実施]
得られた希釈液1及び2をそれぞれ直径5mm程の円形ろ紙にしみ込ませ、これを上腕部にろ紙と同径のアルミニウム製円盤(フィンチャンバー)を用いて貼付し48時間固定した。48時間後に貼付したろ紙を剥がし(パッチ除去)、その後1時間及び24時間経過後の皮膚の刺激反応状態を判定した。判定は、表3の判定基準で皮膚の反応を評価した。そして皮膚に反応があらわれた人数に各判定の係数を乗じたものの和を評点とし、評点を被験者の人数(8名)で割り100倍した値を刺激指数とした。刺激指数が、概ね10以下は安全品、10〜30は許容品、30以上は要改良品と評価した。皮膚反応状態の判定、評点、刺激指数、評価を表4に示す。
【0029】
【表3】
【0030】
【表4】
結果より、実施例品は、従来用いられている参考例品1(4−ヒドロキシ安息香酸プロピル)に比較して刺激性が弱く安全性が高いといえる。
【0031】
<腋臭用皮膚外用剤の作製>
[腋臭用皮膚外用剤1]
下記表5の配合により、各成分を均一に混合して実施例品を含有する腋臭用皮膚外用品1(スティックデオドラント)を作製した。
【0032】
【表5】
【0033】
[腋臭用皮膚外用剤2]
下記表6の配合により、各成分を均一に混合して実施例品を含有する腋臭用皮膚外用剤2(腋臭用液体防臭剤)を作製した。
【0034】
【表6】