(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-54882(P2015-54882A)
(43)【公開日】2015年3月23日
(54)【発明の名称】蛍光体、その製造方法およびそれを用いた発光装置
(51)【国際特許分類】
C09K 11/64 20060101AFI20150224BHJP
C09K 11/08 20060101ALI20150224BHJP
C09K 11/00 20060101ALI20150224BHJP
H01J 63/06 20060101ALI20150224BHJP
【FI】
C09K11/64CQD
C09K11/08 B
C09K11/00 A
C09K11/08 F
H01J63/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2013-187976(P2013-187976)
(22)【出願日】2013年9月11日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】独立行政法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】武田 隆史
(72)【発明者】
【氏名】広崎 尚登
【テーマコード(参考)】
4H001
5C039
【Fターム(参考)】
4H001CA02
4H001CB02
4H001DA04
4H001XA07
4H001XA08
4H001XA13
4H001XA14
4H001YA24
4H001YA58
4H001YA63
5C039MM09
(57)【要約】
【課題】 水銀を利用せずに効率的に紫外線発光する蛍光体、その製造方法、および、それを用いた紫外線発光する発光装置を提供すること。
【解決手段】 本発明による蛍光体は、AlN結晶またはAlNポリタイポイド結晶に少なくともSiが固溶した無機化合物を含有し、電子線を照射することにより300nm以上400nm以下の範囲の波長にピーク持つ発光を示す。本発明の発光装置は、真空容器内に、少なくとも電子線放出源と、上記蛍光体からなる蛍光体塗布物とを有する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
AlN結晶またはAlNポリタイポイド結晶に少なくともSiが固溶した無機化合物を含有し、
電子線を照射することにより300nm以上400nm以下の範囲の波長にピーク持つ発光を示す、蛍光体。
【請求項2】
前記Siの含有量は、0.1質量%以上10質量%以下である、請求項1に記載の蛍光体。
【請求項3】
前記無機化合物は、酸素をさらに含む、請求項1に記載の蛍光体。
【請求項4】
前記酸素の含有量は、0.1質量%以上2質量%以下である、請求項3に記載の蛍光体。
【請求項5】
前記蛍光体に含有されるEu、CeまたはCrの元素の含有量は、0.001質量%以下である、請求項1に記載の蛍光体。
【請求項6】
前記蛍光体は、メジアン平均粒径(d50)が0.1μm以上50μm以下である粒子からなる、請求項1に記載の蛍光体。
【請求項7】
前記蛍光体は、メジアン平均粒径(d50)が0.5μm以上5μm以下である粒子からなる、請求項6に記載の蛍光体。
【請求項8】
アルミニウム含有物とケイ素含有物とを含む粉体原料を窒素雰囲気中で1600℃以上2200℃以下の温度で加熱処理する、請求項1に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項9】
前記アルミニウム含有物は、金属アルミニウムおよび窒化アルミニウムからなる群から選ばれる単体または2種の混合物である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ケイ素含有物は、金属ケイ素、窒化ケイ素および炭化ケイ素からなる群から選ばれる単体または2種以上の混合物である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記粉体原料は、窒化アルミニウムと窒化ケイ素との混合物であり、前記混合物中の窒化ケイ素の含有量は、1質量%以上5質量%以下である、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
真空容器内に、少なくとも電子線放出源と、請求項1に記載の蛍光体からなる蛍光体塗布物とを有し、
前記電子線放出源から放出された電子が前記蛍光体塗布物に照射されることにより300nm以上400nm以下の範囲にピーク波長を持つ光を放つ、発光装置。
【請求項13】
前記電子線放出源は、熱電子放出源、フィラメント状熱電子放出源および電界放出源からなる群から選択される、請求項12に記載の発光装置。
【請求項14】
前記真空容器はガラス製である、請求項12に記載の発光装置。
【請求項15】
前記蛍光体塗布物はアノード電極上に形成されており、
前記電子が照射された前記蛍光体塗布物の面から反射により蛍光を取り出す、請求項12に記載の発光装置。
【請求項16】
前記蛍光体塗布物は透光性基板上に形成されており、
前記電子が照射された前記蛍光体塗布物の面と対向する面から透過により蛍光を取り出す、請求項12に記載の発光装置。
【請求項17】
前記蛍光体塗布物は、透明導電膜を付与した透光性基板上に層状に形成される、請求項16に記載の発光装置。
【請求項18】
前記蛍光体塗布物は、透光性基板上に層状に形成され、
前記蛍光体塗布物は、さらに導電性金属からなるコーティング膜で覆われている、請求項16に記載の発光装置。
【請求項19】
前記コーティング膜は、厚さ100nm以上1μm以下のアルミニウム膜である、請求項18に記載の発光装置。
【請求項20】
アノード電圧は、5kV以上40kV以下で駆動される、請求項12に記載の発光装置。
【請求項21】
前記アノード電圧は、10kV以上30kV以下で駆動される、請求項20に記載の発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線励起により主に紫外線を発光する蛍光体、その製造方法、および、その蛍光体を利用した発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光体は、蛍光表示管(VFD)、フィールドエミッションディスプレイ(FEDまたはSED)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、陰極線管(CRT)、白色発光ダイオード(LED)などに用いられている。これらのいずれの用途においても、蛍光体を発光させるためには、蛍光体を励起するためのエネルギーを蛍光体に供給する必要があり、蛍光体は、真空紫外線、紫外線、電子線、青色光などの高いエネルギーを有した励起源により励起されて、可視光線を発する。しかしながら、蛍光体は前記のような励起源に曝される結果、蛍光体の輝度が低下するという問題があり、輝度低下のない蛍光体が求められている。そのため、従来のケイ酸塩蛍光体、リン酸塩蛍光体、アルミン酸塩蛍光体、硫化物蛍光体などの蛍光体に代わり、輝度低下の少ない蛍光体として、サイアロン蛍光体、酸窒化物蛍光体、窒化物蛍光体が提案されている。
【0003】
このサイアロン蛍光体の一例は、概略以下に述べるような製造プロセスによって製造される。まず、窒化ケイ素(Si
3N
4)、窒化アルミニウム(AlN)、酸化ユーロピウム(Eu
2O
3)を所定のモル比に混合し、1気圧(0.1MPa)の窒素中において1700℃の温度で1時間保持してホットプレス法により焼成して製造される(例えば、特許文献1参照)。このプロセスで得られるEuイオンを付活したα型サイアロンは、450から500nmの青色光で励起されて550から600nmの黄色の光を発する蛍光体となることが報告されている。また、β型サイアロンに希土類元素を添加した蛍光体(特許文献2参照)が知られており、Tb、Yb、Agを付活したものは525nmから545nmの緑色を発光する蛍光体となることが示されている。さらに、β型サイアロンにEu
2+を付活した緑色の蛍光体(特許文献3参照)が知られている。
【0004】
本発明者は、AlN構造を持つ結晶、AlNポリタイプ結晶またはこれらの固溶体結晶を母体結晶とし、2価のEuイオンを添加した蛍光体(即ちAlN:Eu
2+)を提案した(例えば、特許文献4〜5)。この蛍光体は、AlNにSi
3N
4とEu
2O
3を添加して1800℃以上の高温で焼成することにより得られるものであり、AlN結晶構造にSiとEuと酸素とが固溶して2価のEuイオン(Eu
2+)が安定化することにより、Eu
2+由来の青色の蛍光が発現する。
【0005】
一方、真空容器中に電界放出陰極と蛍光体を塗布したアノード基板とを設置し、電子を加速して蛍光体を励起発光する、フィールドエミッションランプ(以下、FELと略す。)が知られている(例えば、特許文献6〜11)。FELは水銀を使用しないので環境に優しい発光装置である。
【0006】
特許文献6は、照明装置および発光装置としてのFELの構成を開示している。特許文献7は、AlNにEuを付活した蛍光体を用いた電子線励起の発光装置を開示する。特許文献8は、FELの構成および制御方法を開示する。特許文献9は、透明電極を有するFELの構成を開示する。特許文献10は、母体結晶として(Ma)(Mb)
2S
4(Maは、SrまたはSrの一部もしくは全てがCaで置換された元素であり、Mbは、GaまたはGaの一部もしくは全てがAlで置換された元素である)を、発光中心としてPr
3+を有する白色蛍光体を用いたFELを開示している。特許文献11は、反射型FELの構成を開示している。
【0007】
紫外線発光は様々な分野で利用されている。水、空気、容器、食品、医療器具などの殺菌、フィルム、ガラスなどの表面改質、半導体の洗浄、紙幣や血液の検査、樹脂の硬化などその範囲は多岐に渡る。紫外線源としては水銀ランプが使用されている。水銀ランプでは水銀蒸気を真空管に封入し、電子線エミッタから放出された電子線により水銀原子がエネルギーの高い励起状態に遷移する。励起状態から基底状態に戻るときに紫外線を発光する。
【0008】
紫外線を発光する蛍光体として、Siを添加したAlN膜が報告されている(例えば、非特許文献1)。非特許文献1によれば、Siを5.2×10
21cm
−3の濃度(約9原子%に相当)含むAlN膜を、プラズマ支援分子線エピタキシーにより860℃で形成している。
【0009】
水銀を利用した紫外線発光は幅広く利用されているが、水銀は人体に対して有毒であるため使用の規制が予定されており、水銀を利用しないクリーンな紫外線発光が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3668770号
【特許文献2】特開昭60−206889号公報
【特許文献3】特開2005−255895号公報
【特許文献4】特願2004−234690号公報
【特許文献5】国際公開第2008/084848号
【特許文献6】特開平10−255695号公報
【特許文献7】特開2006−291035号公報
【特許文献8】特開2007−12553号公報
【特許文献9】特開2007−173161号公報
【特許文献10】特開2013−174222号公報
【特許文献11】特開2013−73857号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】E.Monroyら,Applied Physics Letter,88,071906,2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、水銀を利用せずに効率的に紫外線発光する蛍光体、その製造方法、および、それを用いた紫外線発光する発光装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らにおいては、かかる状況の下で、AlN結晶またはAlNポリタイポイド結晶からなる粒子状蛍光体について鋭意研究を重ねた結果、特定の組成領域範囲、特定の固溶状態および特定の結晶相を有するものは、電子線を照射することにより300nm以上400nm以下の範囲の波長にピークを持つ主として紫外線を発光する高輝度蛍光体となることを見いだした。
【0014】
本発明による蛍光体は、AlN結晶またはAlNポリタイポイド結晶に少なくともSiが固溶した無機化合物を含有し、電子線を照射することにより300nm以上400nm以下の範囲の波長にピーク持つ発光を示し、これにより上記課題を解決する。
前記Siの含有量は、0.1質量%以上10質量%以下であってもよい。
前記無機化合物は、酸素をさらに含んでもよい。
前記酸素の含有量は、0.1質量%以上2質量%以下であってもよい。
前記蛍光体に含有されるEu、CeまたはCrの元素の含有量は、0.001質量%以下であってもよい。
前記蛍光体は、メジアン平均粒径(d50)が0.1μm以上50μm以下である粒子からなってもよい。
前記蛍光体は、メジアン平均粒径(d50)が0.5μm以上5μm以下である粒子からなってもよい。
本発明の蛍光体の製造方法は、アルミニウム含有物とケイ素含有物とを含む粉体原料を窒素雰囲気中で1600℃以上2200℃以下の温度で加熱処理し、これにより上記課題を解決する。
前記アルミニウム含有物は、金属アルミニウムおよび窒化アルミニウムからなる群から選ばれる単体または2種の混合物であってもよい。
前記ケイ素含有物は、金属ケイ素、窒化ケイ素および炭化ケイ素からなる群から選ばれる単体または2種以上の混合物であってもよい。
前記粉体原料は、窒化アルミニウムと窒化ケイ素との混合物であり、前記混合物中の窒化ケイ素の含有量は、1質量%以上5質量%以下であってもよい。
本発明の発光装置は、真空容器内に、少なくとも電子線放出源と、上記蛍光体からなる蛍光体塗布物とを有し、前記電子線放出源から放出された電子が前記蛍光体塗布物に照射されることにより300nm以上400nm以下の範囲にピーク波長を持つ光を放ち、これにより上記課題を解決する。
前記電子線放出源は、熱電子放出源、フィラメント状熱電子放出源および電界放出源からなる群から選択されてもよい。
前記真空容器はガラス製であってもよい。
前記蛍光体塗布物はアノード電極上に形成されており、前記電子が照射された前記蛍光体塗布物の面から反射により蛍光を取り出してもよい。
前記蛍光体塗布物は透光性基板上に形成されており、前記電子が照射された前記蛍光体塗布物の面と対向する面から透過により蛍光を取り出してもよい。
前記蛍光体塗布物は、透明導電膜を付与した透光性基板上に層状に形成されてもよい。
前記蛍光体塗布物は、透光性基板上に層状に形成され、前記蛍光体塗布物は、さらに導電性金属からなるコーティング膜で覆われていてもよい。
前記コーティング膜は、厚さ100nm以上1μm以下のアルミニウム膜であってもよい。
アノード電圧は、5kV以上40kV以下で駆動されてもよい。
前記アノード電圧は、10kV以上30kV以下で駆動されてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の蛍光体は、AlN結晶またはAlNポリタイポイド結晶に少なくともSiが固溶した無機化合物を主成分として含有する。これにより、電子線を照射することにより紫外線(すなわち、300nm以上400nm以下の範囲の波長にピーク持つ発光)を発することができる。このような蛍光体と電子線放出源とを組み合わせることにより、電子線の照射により紫外線を発光する発光装置を提供できる。また、蛍光体の組成を変更することで発光強度の調節、発光波長の調節が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図4】実施例2の合成物による種々のアノード電圧における波長とエネルギー値との関係を示す図
【
図5】実施例2の合成物を用いた反射型発光装置の電圧電流特性を示す図
【
図6】実施例4の合成物による種々のアノード電圧における波長とエネルギー値との関係を示す図
【
図7】実施例4の合成物を用いた反射型発光装置の電圧電流特性を示す図
【
図8】実施例5の合成物による種々のアノード電圧における波長とエネルギー値との関係を示す図
【
図9】実施例5の合成物を用いた反射型発光装置の電圧電流特性を示す図
【
図10】実施例6の合成物による種々のアノード電圧における波長とエネルギー値との関係を示す図
【
図11】実施例6の合成物を用いた反射型発光装置の電圧電流特性を示す図
【
図12】実施例7の合成物による種々のアノード電圧における波長とエネルギー値との関係を示す図
【
図13】実施例7の合成物を用いた反射型発光装置の電圧電流特性を示す図
【
図14】実施例8の合成物による種々のアノード電圧における波長とエネルギー値との関係を示す図
【
図15】実施例8の合成物を用いた反射型発光装置の電圧電流特性を示す図
【
図16】実施例9の合成物による種々のアノード電圧における波長とエネルギー値との関係を示す図
【
図17】実施例9の合成物を用いた反射型発光装置の電圧電流特性を示す図
【発明を実施するための形態】
【0017】
図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述する。同様の要素には同様の参照符号を付し、その説明を省略する。
【0018】
本発明の蛍光体は、AlN結晶またはAlNポリタイポイド結晶に少なくともSiが固溶した無機化合物を主成分として含有する。これにより、電子線を照射することにより300nm以上400nm以下の範囲の波長にピーク持つ発光を示す。無機化合物の主成分とする量は、20質量%以上である。20質量%未満になると、発光強度が低くなる恐れがある。
【0019】
AlN結晶は、ウルツ型の結晶構造を有する結晶である。AlNポリタイポイド結晶は、Al(O,N)
4四面体骨格からなる層の積層構造をとる。Al(O,N)
4四面体骨格からなる層はウルツ型AlN結晶のC軸方向に積層される。このように異なる骨格からなる層が積層されてAlNポリタイポイド結晶となる。Al(O,N)
4四面体骨格からなる層は、結晶構造を安定化させる働きがある。このような積層構造はX線回折測定で判別することは難しく、AlNポリタイポイド結晶のX線回折のピーク位置は、ウルツ型AlN結晶と大きく変化しない。積層構造における違いは透過型電子顕微鏡により判定することができる。透過型電子顕微鏡でAlNポリタイポイド結晶を観察するとAl(O,N)
4四面体骨格からなる層の積層構造を観察できる。なお、表記(O,N)は、Nサイトの一部がOで置換されていることを示すが、必ずしも置換されている必要はない。
【0020】
Siの含有量を0.1質量%以上10質量%以下にすることにより、さらなる高輝度化を可能にした。これは、粉体の抵抗が低減することにより電子線の注入効率が向上する効果があるためと考えられる。より好ましくは、Siの含有量は、0.1質量%以上8質量%以下の範囲(0.05原子%以上6原子%以下の範囲としてもよい)である。これにより、高輝度化を確実にする。
【0021】
無機化合物は、酸素をさらに含んでもよい。これにより高輝度化を可能にする。好ましくは、酸素の含有量を0.1質量%以上2質量%以下にすることにより、さらなる高輝度化を可能にする。
【0022】
蛍光体に含有される不純物としてのEu、CeまたはCrの含有量は、0.001質量%以下にすることが好ましい。下限は特に設けていないが、上記範囲内であれば問題はない。従来、これらの元素は蛍光体に添加し、発光中心として機能していたが、本発明の蛍光体ではこれらの含有量を低減することにより、紫外線発光の成分が増えることが分かった。
【0023】
本発明の蛍光体は、好ましくは、メジアン平均粒径(d50)が0.1μm以上50μm以下である粒子からなる。これにより電子線の発光効率が向上する。より好ましくは、本発明の蛍光体は、メジアン平均粒径(d50)が0.5μm以上5μm以下である粒子からなる。これにより、電子線の発光効率がさらに向上する。
【0024】
本発明の蛍光体の製造方法は特に限定しないが、一例として次の方法をあげることができる。
【0025】
アルミニウム含有物とケイ素含有物とを含む粉体原料を窒素雰囲気中で1600℃以上2200℃以下の温度で加熱処理する製造方法である。
【0026】
より詳細には、粉体原料を相対嵩密度40%以下の充填率に保持した状態で容器に充填し、0.1MPa以上100MPa以下の窒素雰囲気中において、1600℃以上2200℃以下の温度範囲で焼成する。このようにすることより、AlN結晶またはAlNポリタイポイド結晶に少なくともSiが固溶した無機化合物を主成分とする本発明の蛍光体を製造することができる。
【0027】
なお、焼成温度および焼成時間は、例示的には、1600℃以上2200℃以下、および、1時間以上10時間以下の範囲であるが、用いる粉体原料によって適宜調整され得る。
【0028】
アルミニウム含有物は、好ましくは、金属アルミニウムおよび窒化アルミニウムからなる群から選ばれる単体または2種の混合物であり得る。これらは高純度な粉体原料の入手が容易であり、下記のケイ素含有物との反応性に優れるため好ましい。
【0029】
ケイ素含有物は、好ましくは、金属ケイ素、窒化ケイ素および炭化ケイ素からなる群から選ばれる単体または2種以上の混合物であり得る。これらは高純度な粉体原料の入手が容易であり、上述したアルミニウム含有物との反応性に優れるため好ましい。
【0030】
なかでも、窒化アルミニウムと窒化ケイ素との組み合わせが、発光輝度の高い蛍光体が得られるので好ましい。より好ましくは、粉体原料が、窒化アルミニウムと窒化ケイ素との混合物であり、混合物中の窒化ケイ素の含有量が、1質量%以上5質量%以下である。これにより、得られる蛍光体の発光輝度を確実に向上させることができる。
【0031】
別の組合せとして、窒化アルミニウムと金属シリコンとの組み合わせは、反応性がよく比較的低温で製造できるため好ましい。また、窒化アルミニウムと炭化ケイ素との組み合わせは、加熱反応中に窒化アルミニウムから酸素を取り除く効果があり、生成物中の酸素含有量を低下させ、発光スペクトルを短波長化できる効果がある。
【0032】
焼成時の反応性を向上させるために、必要に応じて出発原料の混合物に、焼成温度以下の温度で液相を生成する無機化合物を添加することができる。無機化合物としては、反応温度で安定な液相を生成するものが好ましく、Li、Na、K、Mg、Ca、Sr、Ba、Alの元素のフッ化物、塩化物、ヨウ化物、臭化物、あるいはリン酸塩が適している。さらに、これらの無機化合物は、単体で添加するほか2種以上を混合してもよい。なかでも、フッ化バリウムおよびフッ化アルミニウムは合成の反応性を向上させる能力が高いため好ましい。無機化合物の添加量は特に限定されないが、粉体原料の100重量部に対して、0.1重量部以上10重量部以下で、特に効果が大きい。0.1重量部より少ないと反応性の向上が少なく、10重量部を越えると蛍光体の輝度が低下するおそれがある。これらの無機化合物を添加して焼成すると、反応性が向上して、比較的短い時間で粒成長が促進されて粒径の大きな単結晶が成長し、蛍光体の輝度が向上する。
【0033】
窒素雰囲気は0.1MPa以上100MPa以下の圧力範囲のガス雰囲気がよい。より好ましくは、0.5MPa以上10MPa以下がよい。窒化ケイ素を原料として用いる場合、0.1MPaより低い窒素雰囲気中で1820℃以上の温度に加熱すると、粉体原料が熱分解し易くなるのであまり好ましくない。0.5MPaより高いとほとんど分解しない。10MPaあれば十分であり、100MPa以上となると特殊な装置が必要となり、工業生産に向かない。
【0034】
粒径数μmの微粉末を出発原料に用いる場合、出発原料を混合後の粉体原料は、粒径数μmの微粉末が数百μmから数mmの大きさに凝集した形態をなす(以下「粉体凝集体」と呼ぶ)。本発明では、粉体凝集体を嵩密度40%以下の充填率に保持した状態で焼成する。ここで、相対嵩密度とは、容器に充填された粉体の質量を容器の容積で割った値(嵩密度)と粉体の物質の真密度との比である。通常のサイアロンの製造では、加圧しながら加熱するホットプレス法や金型成形(圧粉)後に焼成を行なう製造方法が用いられるが、このときの焼成は粉体の充填率が高い状態で行われる。しかし、本発明では、粉体に機械的な力を加えることなく、また予め金型などを用いて成形することなく、混合物の粉体凝集体の粒度をそろえたものを、そのままの状態で容器などに嵩密度40%以下の充填率で充填する。必要に応じて、粉体凝集体を、ふるいや風力分級などを用いて、平均粒径500μm以下に造粒して粒度制御することができる。また、スプレードライヤなどを用いて直接的に500μm以下の形状に造粒してもよい。また、容器は窒化ホウ素製を用いると蛍光体との反応が少ない利点がある。本明細書では断りのない限り、「相対嵩密度」を単に「嵩密度」と称して用いる。
【0035】
嵩密度を40%以下の状態に保持したまま焼成するのは、粉体原料の周りに自由な空間がある状態で焼成するためである。最適な嵩密度は、顆粒粒子の形態や表面状態によって異なるが、好ましくは20%以下がよい。このようにすると、反応生成物が自由な空間に結晶成長するので結晶同士の接触が少なくなり、表面欠陥が少ない結晶を合成することが出来ると考えられる。これにより、輝度が高い蛍光体が得られる。嵩密度が40%を超えると焼成中に部分的に緻密化が起こって、緻密な焼結体となってしまい結晶成長の妨げとなり蛍光体の輝度が低下するおそれがある。また微細な粉体が得られ難い。また、粉体凝集体の大きさは500μm以下が、焼成後の粉砕性に優れるため特に好ましい。
【0036】
次に、充填率40%以下の粉体凝集体を上述の条件で焼成(加熱処理)する。焼成に用いる炉は、焼成温度が高温であり焼成雰囲気が窒素であることから、金属抵抗加熱方式または黒鉛抵抗加熱方式であってよい。炉の高温部の材料として炭素を用いた電気炉が好ましい。焼成は、常圧焼結法やガス圧焼結法などの外部から機械的な加圧を施さない焼成方法によるのが、所定の範囲の嵩密度を保ったまま焼成するために好ましい。
【0037】
焼成して得られた粉体凝集体が固く凝集している場合は、例えばボールミル、ジェットミル等の工業的に通常用いられる粉砕機により粉砕する。なかでも、ボールミル粉砕は粒径の制御が容易である。このとき使用するボールおよびポットは、窒化ケイ素焼結体またはサイアロン焼結体製等が好ましい。粉砕は平均粒径(メジアン平均粒径d50)50μm以下となるまで施す。
【0038】
好ましくは、メジアン平均粒径が0.1nm以上50μm以下となるまで粉砕する。この範囲を超えると、電子線での発光効率が悪くなり得る。メジアン平均粒径が0.5μm以上5μm以下となるまで粉砕すると、電子線での発光効率が高く、取扱の操作性に優れた蛍光体となる。粉砕だけで目的の粒径が得られない場合は、分級を組み合わせることができる。分級の手法としては、篩い分け、風力分級、液体中での沈殿法などを用いることができる。
【0039】
なお、本明細書において、メジアン平均粒径d50とは、以下のように定義される。粒子径は、沈降法による測定においては沈降速度が等価な球の直径として、レーザ散乱法においては散乱特性が等価な球の直径として定義される。また、粒子径の分布を粒度(粒径)分布という。粒径分布において、ある粒子径より大きい質量の総和が、全粉体のそれの50%を占める場合の粒子径が、平均粒径d50として定義される。この定義および用語は、いずれも当業者において周知であり、例えば、JISZ8901「試験用粉体および試験用粒子」、または、粉体工学会編「粉体の基礎物性」(ISBN4−526−05544−1)の第1章等諸文献に記載されている。本発明においては、分散剤としてヘキサメタクリン酸ナトリウムを添加した水に試料を分散させ、レーザ散乱式の測定装置を使用して、粒子径に対する体積換算の積算頻度分布を測定した。なお、体積換算と重量換算の分布は等しい。この積算(累積)頻度分布における50%に相当する粒子径を求めて、メジアン平均粒径d50とした。以下、本明細書において、平均粒径は、上述のレーザ散乱法による粒度分布測定手段によって測定した粒度分布の中央価(d50)に基づくことに留意されたい。平均粒径を求める手段については、上述以外にも多様な手段が開発され、現在も続いている現状にあり、測定値に若干の違いが生じることもあり得るが、平均粒径それ自体の意味、意義は明確であり、必ずしも上記手段に限定されないことを理解されたい。
【0040】
さらに、焼成後に無機化合物を溶解する溶剤で洗浄することにより、焼成により得られた反応生成物に含まれるガラス相、第二相、または不純物相などの蛍光体以外の無機化合物の含有量を低減すると、蛍光体の輝度が向上する。このような溶剤としては、水および酸の水溶液を使用することができる。酸の水溶液としては、硫酸、塩酸、硝酸、フッ化水素酸、有機酸とフッ化水素酸の混合物などを使用することができる。なかでも、硫酸とフッ化水素酸の混合物は効果が大きい。この処理は、焼成温度以下の温度で液相を生成する無機化合物を添加して高温で焼成した反応生成物に対しては、特にその効果が大きい。
【0041】
以上の工程で微細な蛍光体粉末が得られるが、輝度をさらに向上させるには熱処理が効果的である。この場合は、焼成後の粉末、あるいは粉砕や分級により粒度調整された後の粉末を、1000℃以上で焼成温度以下の温度で熱処理することができる。1000℃より低い温度では、表面の欠陥除去の効果が少ない。焼成温度以上では粉砕した粉体どうしが再度固着するため好ましくない。熱処理に適した雰囲気は、蛍光体の組成により異なるが、窒素、空気、アンモニア、水素から選ばれる1種または2種以上の混合雰囲気中を使用することができ、特に窒素雰囲気が欠陥除去効果に優れるため好ましい。
【0042】
以上のようにして得られる本発明の蛍光体は、上述したようにAlN結晶またはAlNポリタイポイド結晶に少なくともSiが固溶した無機化合物を主成分として含有しており、電子線を照射することにより300nm以上400nm以下の範囲の波長にピークを有する発光を示すことができる。高温にさらしても劣化しないことから耐熱性に優れており、酸化雰囲気および水分環境下での長期間の安定性にも優れている。
【0043】
次に、本発明の蛍光体を用いた紫外線を発する発光装置について説明する。
【0044】
本発明の発光装置は、真空容器内に、少なくとも電子線放出源と、上述した蛍光体からなる蛍光体塗布物とを有する。真空容器は、気密封止可能な透光性材料からなり、例示的にはガラスである。電子線放出源は、電子を放出可能なカソード電極として機能し、熱電子放出源、フィラメント状熱電子放出源、および、電界放出源からなる群から選択される。熱電子放出源は、例えば、タングステン、ホウ化ランタン、ダイヤモンド、カーボンナノチューブを利用したものが知られている。これらの電子放出源は、効率よく電子線を塗布物に照射できる。また、蛍光体塗布物は、放出した電子が照射されるアノード電極としても機能し得る。
【0045】
発光装置に高電圧が印加されると、電子線放出源は、真空容器内にて電子を放出する。放出された電子は、蛍光体塗布物に照射され、これにより、蛍光体塗布物中の蛍光体が励起され、300nm以上400nm以下の範囲の波長にピークを持つ紫外光を発することができる。紫外光は、真空容器を透過し、外部へ放出される。
【0046】
図1は、本発明の反射型発光装置を示す模式図である。
【0047】
本発明の反射型発光装置100は、真空容器110内に、少なくとも電子線放出源120と、上述した蛍光体からなる蛍光体塗布物130とを有する。より詳細には、蛍光体塗布物130は不透光なアノード電極140上に形成されている。このように構成することにより、反射型発光装置100は、電子線放出源120から放出された電子150は、蛍光体塗布物130中の本発明の蛍光体に照射され、これにより、蛍光体が励起され、300nm以上400nm以下の範囲の波長にピークを持つ紫外光160を発するが、電子線照射面(すなわち、電子が照射された蛍光体塗布物130の面)から反射により紫外光160を取り出すことができる。
【0048】
アノード電極140は、アルミニウム、ニッケル等の導電性基板、または、表面をITO(Snをドープした酸化インジウム)、ZnO等の透明導電膜により導電性処理した不透光な絶縁体であってもよい。例えば、アノード電極140としてアルミニウム基板に蛍光体塗布物130を層状に形成してもよい。本発明の蛍光体は、例えば、圧着等により容易に層状に成形され得る。
【0049】
図1では、反射型発光装置100は、さらに、ゲート電極170を備える。ゲート電極170は、例示的には、銅製のメッシュ、グリッド、スリット等であり、電子を効率よく通過させることができるが、選択した電子線放出源の種類によってゲート電極の使用を適宜採用すればよい。
【0050】
図2は、本発明の透過型発光装置を示す模式図である。
【0051】
本発明の透過型発光装置200は、真空容器110内に、少なくとも電子線放出源120と、上述した蛍光体からなる蛍光体塗布物130とを有する。より詳細には、塗布物130は少なくとも透光性基板210上に形成されている。このように構成することにより、透過型発光装置200は、電子線放出源120から放出された電子150は、蛍光体塗布物130中の本発明の蛍光体に照射され、これにより、蛍光体が励起され、300nm以上400nm以下の範囲の波長にピークを持つ紫外光160を発するが、蛍光体塗布物130を透過して、電子線照射面の対面(すなわち、透光性基板210)から透過により紫外光160を取り出すことができる。
【0052】
透光性基板210は、表面をITO(Snをドープした酸化インジウム)、ZnO等の透明導電膜により導電性処理した透光可能な絶縁体であってもよい。具体的には、透光可能な絶縁体の一例はガラス基板である。これにより、紫外光160を効率的に取り出すことができる。この場合、蛍光体塗布物130を透明導電膜上に層状に形成してもよい。本発明の蛍光体は、例えば、圧着等により容易に層状に成形され得る。これにより、蛍光体塗布物130が形成された透光性基板210は、アノード電極として機能し得る。
【0053】
あるいは、透光性基板210が導電性処理されていない透光可能なガラス等の絶縁体である場合、透光性基板210上に蛍光体塗布物130を層状に形成し、その上を、アルミニウム、ニッケル等の導電性金属からなるコーティング膜(図示せず)で覆ってもよい。これにより、蛍光体塗布物130上を覆うコーティング膜は、アノード電極として機能し得る。また、コーティング膜により、電子線の注入効率が上がるため、透過型発光装置200の発光効率が向上する。
【0054】
コーティング膜の厚さは、100nm以上1μm以下が好ましい。厚さ100nm未満になると、電子の導電性が不十分となり、チャージが溜まり、電子線の注入効率が低下する恐れがある。厚さ1μmを超えると、コーティング膜を通過する電子の割合が減少し、電子線の注入効率が低下し得る。導電性金属の中でもアルミニウムが好ましい。これは、本発明の蛍光体の主成分である無機化合物はAlN結晶またはAlNポリタイポイド結晶からなり、これらの結晶との密着性に優れるためである。
【0055】
図2では、透過型発光装置200は、さらに、ゲート電極170を備える。ゲート電極170は、例示的には、銅製のメッシュ、グリッド、スリット等であり、電子を効率よく通過させることができるが、
図1の反射型発光装置100と同様に、選択した電子線放出源の種類によってゲート電極を適宜採用すればよい。
【0056】
本発明の反射型発光装置100および透過型発光装置200は、アノード電圧が5kV以上40kV以下で駆動させるとよい。アノード電圧が5kV未満になると、蛍光体が十分に発光しない場合がある。アノード電圧が40kVを超えると、蛍光体が劣化する恐れがある。好ましくは、反射型発光装置100および透過型発光装置200は、アノード電圧が10kV以上30kV以下で駆動させるとよい。これにより、蛍光体の劣化を抑制し、十分な発光を可能にする明るい発光装置が得られる。
【0057】
また、反射型発光装置100および透過型発光装置200の種々の要素を組み合わせて、蛍光体塗布物130から紫外光160を取り出すよう改変することは本願の範囲内である。
【実施例】
【0058】
次に本発明を以下に示す実施例によってさらに詳しく説明するが、これはあくまでも本発明を容易に理解するための一助として開示したものであって、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
[実施例および参考例;例1から例16]
ケイ素含有物として、平均粒径0.5μm、酸素含有量0.93重量%、α型含有量92%の窒化ケイ素粉末(宇部興産製SN−E10グレード)と、アルミニウム含有物として、比表面積3.3m
2/g、酸素含有量0.85%の窒化アルミニウム粉末(トクヤマ製Fグレード)とを原料粉末に用いた。
【0060】
窒化アルミニウム粉末と窒化ケイ素粉末とを、表1、2に示す設計組成にしたがって、表3の原料混合組成(モル比)となるように秤量した。秤量した原料粉末を、窒化ケイ素焼結体製乳棒と乳鉢とを用いて5分間混合を行ない、粉体原料を得た。その後、粉体原料を窒化ホウ素焼結体製のるつぼに投入した。粉体原料の嵩密度は約20%から30%であった。
【0061】
粉体原料が入ったるつぼを黒鉛抵抗加熱方式の電気炉にセットした。粉体原料の加熱処理手順は次の通りであった。まず、拡散ポンプにより焼成雰囲気を1×10
−1Pa以下圧力の真空とし、室温から800℃まで毎時500℃の速度で加熱し、800℃で純度が99.999体積%の窒素を導入して炉内の圧力を1MPaとし、毎時500℃で表4に示す設定温度まで昇温し、その温度で4時間保持した。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
【表3】
【0065】
【表4】
【0066】
次に、合成物をメノウの乳鉢を用いて粉砕し、CuのK
α線を用いた粉末X線回折測定を行った。その結果、いずれの合成物からもウルツ型AlN構造の結晶の生成が確認され、その他の結晶相は検出されなかった。また、EDS測定(エネルギー分散型X線分析装置)により、合成物が、少なくとも、Si、AlおよびNを含むことを確認した。これらから、合成物は、AlN結晶またはAlNポリタイポイド結晶に少なくともSiが固溶した無機化合物を主成分として含有していることが分かった。
【0067】
加熱処理後、この得られた合成物を粗粉砕の後、窒化ケイ素焼結体製のるつぼと乳鉢とを用いて手で粉砕し、30μmの目のふるいを通した。粒度分布を測定したところ、平均粒径(メジアン平均粒径d50)は0.5〜5μmであった。
【0068】
これらの粉末のCL発光スペクトルを、カソードルミネッセンス法により測定した。結果の一部を
図3に示す。
【0069】
図3は、実施例3のCL発光スペクトルを示す図である。
【0070】
図3のCL発光スペクトルにより、実施例3の合成物は、電子線によって励起され、300nm以上400nm以下の波長範囲にピークを有する紫外線を発する蛍光体であることがわかった。図示しないが、他の実施例も同様の結果を示した。本発明の合成物は、既存のAlN:Eu等の可視光を発する蛍光体ではなく、電子線励起により紫外線を発する蛍光体であることを確認した。
【0071】
次に、粒度調整した合成物を用いて、
図1に示す反射型発光装置を製造した。詳細には、合成物(1.0g)をエタノール中でスターラを用いて分散させ、スターラを停止後、アノード電極140(
図1)としてアルミニウム基板上に自然沈降させ、層状にした。層状にした合成物(蛍光体塗布物130に相当)でおおわれたアルミニウム基板を、乾燥機で乾燥後、プレス機で圧着させた。電子線放出源120(
図1)としてタングステンを用いた電子線エミッタを備えた、ガラス製真空容器110(
図1)内に層状にした合成物で覆ったアルミニウム基板を配置した。
【0072】
ターボ分子ポンプを用いて、真空容器110の真空度を1×10
−6Pa以下まで下げた。電子線放出源120とアノード電極140(ここではアルミニウム基板)との間に、種々の高圧電源を印加し、電子線を放出させ、その発光特性を調べた。結果を
図4〜
図17に示す。
【0073】
図4は、実施例2の合成物による種々のアノード電圧における波長とエネルギー値との関係を示す図である。
図5は、実施例2の合成物を用いた反射型発光装置の電圧電流特性を示す図である。
図6は、実施例4の合成物による種々のアノード電圧における波長とエネルギー値との関係を示す図である。
図7は、実施例4の合成物を用いた反射型発光装置の電圧電流特性を示す図である。
図8は、実施例5の合成物による種々のアノード電圧における波長とエネルギー値との関係を示す図である。
図9は、実施例5の合成物を用いた反射型発光装置の電圧電流特性を示す図である。
図10は、実施例6の合成物による種々のアノード電圧における波長とエネルギー値との関係を示す図である。
図11は、実施例6の合成物を用いた反射型発光装置の電圧電流特性を示す図である。
図12は、実施例7の合成物による種々のアノード電圧における波長とエネルギー値との関係を示す図である。
図13は、実施例7の合成物を用いた反射型発光装置の電圧電流特性を示す図である。
図14は、実施例8の合成物による種々のアノード電圧における波長とエネルギー値との関係を示す図である。
図15は、実施例8の合成物を用いた反射型発光装置の電圧電流特性を示す図である。
図16は、実施例9の合成物による種々のアノード電圧における波長とエネルギー値との関係を示す図である。
図17は、実施例9の合成物を用いた反射型発光装置の電圧電流特性を示す図である。
【0074】
図4〜
図17によれば、合成物は、電子線の照射により励起されて、300nm以上400nm以下の波長範囲にピークを有する蛍光体であることが分かった。さらに、本発明の蛍光体を用いて、紫外線を発光する発光装置が動作することを確認した。図示しないが、他の実施例についても同様の結果を得た。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の蛍光体は、AlN結晶またはAlNポリタイポイド結晶に少なくともSiが固溶した無機化合物を主成分として含有し、これにより、電子線を照射することにより励起されて、300nm以上400nm以下の波長範囲にピークを有する紫外線を発光する。このような蛍光体を用いた紫外線発光する発光装置を提供できる。紫外線発光装置は、水銀ランプに替わる新しい紫外線発光源として幅広い産業の発展に寄与することが期待できる。
【符号の説明】
【0076】
100 反射型発光装置
110 真空容器
120 電子線放出源
130 蛍光体塗布物
140 アノード電極
150 電子
160 紫外光
170 ゲート電極
200 透過型発光装置
210 透光性基板