【解決手段】中空断面構造のマスト本体を備え、マスト本体が中空断面を軸方向に折り畳むための折り目部を有し、折り目部を展開して筒状構造とする伸展形態と、折り目部を折り畳んで扁平断面とする収納形態と、をとることが可能な伸展構造物において、マスト本体は、前記折り目部によって区分される複数のパターン片に分かれ、各パターン片が、折り目部にて形状記憶樹脂を備える連結材にて接合されていることを特徴とする。
中空断面構造のマスト本体を備え、該マスト本体が中空断面を軸方向に折り畳むための折り目部を有し、折り目部を展開して筒状構造とする伸展形態と、折り目部を折り畳んで扁平断面とする収納形態と、をとることが可能な伸展構造物において、
前記マスト本体は、前記折り目部によって区分される複数のパターン片に分かれ、各パターン片が、折り目部にて形状記憶樹脂を備えた連結材にて接合されていることを特徴と伸展構造物。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
図1ないし
図3は、本発明の実施の形態に係る構造物として、伸展構造物1を示す図である。
すなわち、この伸展構造物1は、中空断面構造の筒状のマスト本体10を備え、マスト本体10が中空断面を折り畳むための折り目部fを有し、折り目部fを展開して筒状構造とする伸展形態と(
図1参照)、折り目部12にて軸方向に折り畳んで扁平断面とする収納形態と(
図2参照)、をとることが可能となっている。
【0009】
マスト本体10は、この実施の形態では、伸展形態が中空円筒形状であり、収納形態がマスト本体10を軸方向に折畳んだ形態である。以下、必要に応じて、伸展形態のマスト本体10については、符号の末尾にEを付加し、収納形態のマスト本体10については、符号の末尾にWを付加して説明する。
【0010】
マスト本体10は、折り目部fによって区分される複数のパターン片20に分割され、各パターン片20が、折り目部fにて形状記憶樹脂を備える連結材30にて接合された構成となっており、連結材30の部分が折り目部fとなる。連結材30は、マスト本体10の伸展形態を記憶形状とし、連結材30を構成する形状記憶樹脂のガラス転移点以上に加熱することで収納形態から伸展形態に形状復帰するように構成されている。
【0011】
マスト本体10のパターン片20は台形状パターンで、
図1(B)に展開して模式的に示すように、マスト本体10を軸方向に所定幅毎に帯状に分割する互いに平行の第1分割線L1と、隣り合う3つの第1分割線L1によって区分される帯状の領域を周方向に母線に対して傾斜する斜辺によって平行四辺形状の領域に区分する第2分割線L2と、さらに平行四辺形の長手方向の対角から所定距離ずらした点を結んで2つの台形状パターンに区分する対角線状の第3分割線L3とによって分割されている。第3分割線L3は第2分割線L2よりも傾斜角が大きい。第1分割線L1によって区分される互いに隣り合う帯状領域を周方向に区分する第2分割線L2及び第3分割線L3は、第1分割線L1に対して互いに線対称に傾斜方向が逆向きとなっており、第2分割線L2及び第3分割線L3は、マスト本体10の中心軸線方向には、円筒の母線に対してジグザグ状に折れ曲がる構成となっている。
【0012】
第1分割線L1を挟んで隣り合うパターン片20は、展開した状態では線対称形状で、裏返せば同一形状であるが、円筒面に沿った反り方向が互いに逆向きとなっており、一方を第1パターン片20A、他方を第2パターン片20Bとすると、パターン片20は2種類となる。第1分割線L1によって区分される一方の帯状の領域は一方の第1パターン片20Aによって構成され、他方の帯状の領域は他方の第2パターン片20Bによって構成される。
一つの帯状領域については、一方のパターン片、たとえば第1パターン片20Aを、周方向に交互に180°回転した状態で配列し、周方向に隣り合う長斜辺同士、短斜辺同士
が連結されて円環形状に構成されている。
次いで、次段の帯状領域については、他方の第2パターン片20Bを、周方向に交互に180°回転した状態で配列し、第2パターン片20Bの長斜辺同士、短斜辺同士が連結されて円環形状に構成されている。このとき、前段の第1パターン片20Aの第2パターン片20Bの長辺同士が連結され、さらに第1パターン片20Aと第2パターン片20Bの短片同士が連結される。
【0013】
このように順次円環状形状に積み上げて円筒形状のマスト本体10が構成されている。
上記第1、第2パターン片20A、20Bの連結部が折り目部となるもので、長辺同士の連結部をf1、短辺同士の連結部をf2、長斜辺同士の連結部をf3、短斜辺同士の連結部をf4、とすると、折り目部の山折り、谷折りの関係は次のようになる。
すなわち、マスト本体10の外周側から見た展開状態で説明すると、各第1、第2パターン片20A、20Bの互いに平行の長辺同士の連結部f1が山折り線、短辺同士の連結部f2が谷折り線、短斜辺同士の連結部f3が谷折り線、長斜辺同士の連結部f4が谷折り線である。山折り線は実線、谷折り線は破線で示している。
【0014】
各連結部f1、f2、f3、f4は連結材30によって連結されるが、
図3に分解して示すように、長辺同士の連結部f1、短辺同士の連結部f2が、円環帯状の第1連結材30Aによって連結され、短斜辺同士の連結部f4は第2連結材30Bによって連結され、長斜辺同士の連結部f3が第3連結材30Cによって連結されている。このうち、第1連結材30A、第2連結材30Bはマスト本体10の外周面側から接着固定され、第3連結材30Cは内周面側から接着固定されている。すなわち、第1〜第3連結部材30A,30B,30Cともに、折り畳まれた際に山折りとなる側に接着固定されることになる。これとは逆に、第1連結材30A、第2連結材30Bはマスト本体10の内周面側から接着固定し、第3連結材30Cは外周面側から接着固定してもよい。この場合には、第1〜第3連結部材30A,30B,30Cともに、折り畳まれた際に谷折りとなる側に接着固定されることになる。
このように、本実施の形態では、マスト本体10は、複数のパターン片20Bを連結材30B,30Cを介して周方向に連結した筒状体10Bと、別の複数のパターン片20Aを連結材30B,30Cによって周方向に連結した筒状体10Aが、順次、交互に帯状の連結材30Aを介して軸方向で連結された構成となっている。
この第1連結材30A,第2連結材30B,第3連結材30Cについて、包括的に説明する場合には、連結材30として包括的に説明するものとする。
【0015】
本発明は、折り目部となる連結材30を、形状記憶樹脂を備えた形状記憶部Mとし、第1、第2パターン片20A、20Bは形状記憶機能を有していない。第1パターン片20A、20Bはガラス繊維強化プラスチック(GRFP)等の繊維強化プラスチックによって構成される。
【0016】
連結材30の記憶形状は、マスト本体10の中空円筒形状の伸展形態時の形状であり、各パターン片20A,20Bはマスト本体の曲率半径を有する円弧状のピースであり、連結材30の形状と共に円筒形状の形態を保持する(
図1、
図3参照)。
一方、収納形態のマスト本体10Wは、各パターン片20、21は、軸方向に圧潰され、2つのパターン片20A、20Bが連結材にて折り重なった五芒星形態となっている(
図2参照)。もちろん、五芒星形態に限定されず、四角形、三角形、六角形等多角形状に成形することができる。
【0017】
図4は、パターン片20の組織構成を示している。
ここで、パターン片20は、第1、第2パターン片20A、20Bを包括的に示すものである。パターン片20は、樹脂26の中に炭素繊維等によって構成される繊維性基材2
1を入れて強化した複合材(CFRP)によって構成され、この例では、繊維性基材21として三軸織物組織が使用されている。三軸織物組織は、互いに直交する縦軸と横軸を想定すると、縦軸に対して互いに逆方向に30°で交差する2本の経糸22,23と、横軸方向に延びる一本の横糸24とを交互に絡ませた構成で、六角形状の織り目が形成されている。
【0018】
この例では、繊維性基材21の基材組織としては、三軸織物組織に限定されるものではなく、二軸織物組織でもよいし、四軸以上の多軸織物組織でもよい。また、織物組織に限定されるものではなく、種々の基材を用いることが可能である。さらに、基材21の繊維についても、炭素繊維に限定されるものではなく、ガラス繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維等、ボロン繊維、金属繊維等種々の繊維を利用可能である。
【0019】
一方、連結材30としては、形状記憶樹脂が用いられるが、折り目部12を構成するので、耐屈曲性があり、パターン片20と同等の強度を有する柔軟な複合材が利用される。
形状記憶樹脂としては、ポリウレタンなどの形状記憶ポリマー材料から構成される樹脂組成物である。形状記憶性のあるポリウレタンとしては、例えば2官能及び3官能の液状イソシアネートと、2官能のポリオールと、活性水素基を含む2官能の鎖延長剤とを官能基のモル比で、イソシアネート:ポリオール:鎖延長剤=5.0〜1.0:1.0:2.0〜0.1にて調製した樹脂組成物が挙げられる。また、他の樹脂組成物としては、2官能及び3官能のイソシアネートと、平均分子量100〜550のポリオールとを、官能基のモル比でイソシアネート:ポリオール=0.9〜1.1:1.0にて含むものが挙げられる。
もちろん、形状記憶樹脂20は、このようなウレタン系の樹脂に限定されるものではなく、ポリノルボルネン系、ポリエステル系、ポリオレフィン系、アクリル系、合成ゴム系等種々の材料を使用できる。
【0020】
また、図示例では、連結材30をパターン片20の全長にわたって連結する構成となっているが、パターン片20の全長にわたって接着する必要はなく、部分的に連結するような構成でもよい。
なお、パターン片20は、樹脂26の中に炭素繊維等によって構成される繊維性基材21を入れて強化した複合材(CFRP)によって構成されているので、樹脂に粘性のあるプリプレグの状態でパターン片20を接着することができる。もちろん、接着固定の手段としては、これに限定されるものではなく、種々の手段が適用可能である。
【0021】
図5は、上記伸展構造物1の利用概念図である。
形状記憶樹脂は、ガラス転移温度(Tg)より高い場合にはゴム状態、ガラス転移温度
(Tg)以下ではガラス状態である。
この形状記憶樹脂の特性を利用し、あらかじめ、ガラス転移温度以下の温度で、伸展形態のマスト本体10Eの形状を成形して記憶させておく。具体的には、各パターン片20.21及び連結材30を含めて、ガラス転移温度以下の温度で直線的に延びる断面円形状の長尺体として成形し、伸展形態のマスト本体10Eを成形する(
図5の(I)参照)。
【0022】
次いで、マスト本体10を、連結材30を構成する形状記憶樹脂のガラス転移温度以上の温度に加熱し、マスト本体10を軸方向に圧潰し、収納形態とする(
図5の(II)参照)。この成形は、連結材30が柔軟になっているために、単純に軸方向に圧縮するだけで、簡単にマスト本体10の断面形状を圧潰させることができる。
次に、ガラス転移温度(Tg)以下に冷却し、収納形態のマスト本体10Wの形状を固
定する(
図5の(III)参照)。
【0023】
収納形態のマスト本体10Wを衛星等に組み込み、ロケットにて軌道上へ輸送し、宇宙
空間で、ガラス転移温度以上に加熱すれば、記憶された伸展形態となる。
収納形態のマスト本体10Wは、形状記憶樹脂のガラス転移点を越えると、連結材30を支点にしてパターン片20,20が徐々に円弧状に湾曲するように弾性復帰して立体的に膨らみ、軸方向に徐々に直線的に延びていき(
図5の(VI)参照)、時間をかけて一次元的に伸びた伸展形態のマスト本体10Eに移行する(
図5の(V)参照)。このように、本実施の形態では、連結材30の記憶形状への復帰に加えて、各パターン片20の円弧形状への弾性復元力が相まって、スムースにマスト本体10は円筒形状に復帰する。
【0024】
伸展構造物1としては、従来から、弾性復元力のみで強制的に伸展させるような構造も知られているが、弾性復帰するような構造では、伸展構造物が取り付けられる宇宙構造物に衝撃が作用して振動するおそれがある。これに対して、本発明のように形状記憶樹脂による形状復帰機能を利用すれば、伸展形態への移行が徐々に進行するので、宇宙空間で伸展させた際に、人工衛星等の本体や各部位に衝撃が作用しない。また、その速度は加熱する際の供給熱量によって制御することも可能である。
【0025】
伸展させた後は、ガラス転移温度(Tg)以下に冷却して、運用状態に供する(
図5の(VI)参照)。
このように、単純な加熱により、予め記憶させた伸展形態に回復可能であり、構成を簡素化できる。
マスト本体10の加熱については、特に図示しないが、連結材30を構成する基材自体に電流を流してジュール熱によって発熱させてもよい。また、太陽光(集光・反射光を含む)を利用して加熱するようにしてもよいし、化学熱を利用してもよいし、ガス(反応熱、高温ガス等)を利用してもよく、さらに、輻射熱、ハロゲンランプ等による光線加熱、マイクロ波加熱等種々の加熱方法を採用可能である。また、パターン片20,21の表面には、各種コーティング層を被覆しておくことが好ましい。
【0026】
上記実施の形態によれば、マスト本体10を、折り目部fにおいて分離した複数のパターン片20に分け、各パターン片20を形状記憶された連結材30によって連結するという簡単な構成により、熱を加えるだけで、自立的に収納形態から伸展形態に確実に移行させることができる。また、マスト本体10が伸展する過程が緩やかに進行するので、マスト本体10が内包する搭載物(人工衛星等)に、伸展するマスト本体10が接触し衝撃を生じることがなく、搭載物に影響を与えにくい。
【0027】
さらに、上記実施の形態によれば、伸展構造物1は、軸方向に圧縮する収納形態なので、コンパクトに収納可能である。また、伸展構造物1をスムースに収納形態から伸展形態とすることができる。くわえて、マスト本体10を複数のパターン片20に分割し、パターン片20を連結する連結材30部分を折り目部fとすることで、パターン片20の屈曲性を考慮する必要がなく、パターン片20の材料を選定するにあたり制約が少なくなるというメリットがある。
【0028】
また、本実施の形態の変形例においては、パターン片20を、自由状態にて立体的な筒形状の一部を構成する立体的な形状としておくことにより、連結材30の記憶形状への復帰に加えて、各パターン片20の弾性復元力が加わって、スムースにマスト本体10が伸展形態に復帰できる。
【0029】
一方で、本実施の形態の別の変形例においては、パターン片20として、繊維性基材に樹脂を被覆した複合材によって構成することにより、軽量で強度の高いマスト本体10を構成することができる。また、パターン片20を三軸織物組織とすることで、変形が偏りにくく、荷重分散性がよいので、記憶した形状に復帰しやすいマスト本体10とすることができる。
【0030】
また、マスト本体10の伸展形態への形状回復に、外力による伸展手段を使用することにより、マスト本体10を伸展形態に確実に移行可能とすることができる。
【0031】
また、本実施の形態では、パターン片20が三軸織物組織の繊維性基材21で補強されているので、荷重分散性がよいので、変形が偏りにくく、記憶した形状にも復帰しやすい。また、積層する必要が無いので、重量に対する強度が大きい。また、適度な空隙があるので、柔軟で変形しやすい。さらに、繊維性基材10自体をヒータとして利用するので、加熱機構が簡単な構造で済む。
上記実施の形態では、連結材を、形状記憶樹脂を有する形状記憶部としたが、パターン片と連結材の両方について形状記憶樹脂を用いることができる。また、パターン片を構成するFRPの強化繊維として、形状記憶合金繊維としておき、パターン片の記憶形状を設定しておいてもよい。
また、本実施の形態においては、「形状記憶樹脂」とは、ある温度で折り畳まれた形状を記憶させ、その後、ガラス転移点以上に加熱することで収納形態から伸展形態に形状復帰するように記憶した樹脂をいうが、本発明には、その他の形状記憶樹脂として、ある形状の変化(折り目や縮れなどの変化等)を与えても、水分、熱、電気等を与えることで記憶させた形状に戻るよう加工された 単体あるいは複合材料であり、繊維状、板状等の形
状で用いてもよい。
【0032】
また、上記実施の形態では、立体的な中空筒形状として円筒形状を例にとって説明したが、円筒形状に限らず、たとえば、楕円筒形状や、非円形の異形断面の筒形状とすることが可能であり、また、三角筒、四角筒等の多角筒形状とすることも可能である。また、角形と丸を組み合わせた中空筒形状とすることもできる。
【0033】
また、マスト本体の伸展形態への形状回復に、外力による伸展手段を使用、併用するようにしてもよい。
すなわち、マスト本体の動きとして、(i)断面の動きと、(ii)長手方向の動きがある。
(i)断面の動きは、記憶した中空断面形状を折り畳んで扁平になったものが、中空断面状態に戻る動きとなる。
(ii)長手方向の動きとしては、扁平にさせたマスト本体を、さらにロール状等に収納した収納形態とし、このロール状形態がマスト状形態に戻る(さらに中空状態まで戻る)。
この内、(ii)は、収納形態のマスト本体10Wが、伸びるような動きである。
この長手方向の動きを、材料の形状回復で行うこともできるが、材料の形状回復でない外力を用いる動作、あるいは形状回復力と併用することを想定したものである。外力のみで伸展させる場合は、(i)の断面の動きとして、材料特性から扁平にさせたマスト本体(
伸展した形態)を、外力(モータなど)で収縮させて宇宙に輸送する。その後、外力でこれを送り出し、長く伸ばした後で(もしくは伸ばしながら)、形状回復させて中空状態に戻す。伸展手段としては、送り出し、巻き取り動作を行うように構成すればよい。
さらに、伸展手段の外力と形状回復力を併用する場合は、
図5に示した形状回復力のみによる伸展に加えて、モータ等の外力を加え、外力+材料の形状回復力で伸展させることとなる。
【0034】
なお、本発明の伸展構造物は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることはもちろんである。
たとえば、上記実施の形態では、マスト本体10は、収納形態から伸展形態に変形するものとしているが、伸展形態から収納形態に変形してもよい。すなわち、前記形状記憶樹脂は、マスト本体の収縮形態を記憶形状とし、形状記憶樹脂のガラス転移点以上に加熱することで伸展形態から収縮形態に形状復帰させることができる。
【0035】
上記実施の形態においては、シート状のパターン片20は他のパターン片20と端部で帯状の連結材30を介して連結されているが、連結材30は帯状以外であってもよい。しかし、連結材30が帯状となっていれば、一方向からの加熱によって温度勾配が生じるので、伸展が温度勾配により、帯状の連結材30の長さ方向に向かって進み、伸展が端部から順に他端側へ向かって進むこととなる。したがって、伸展が伸展構造物の端部から端部へと比較的直進して生じるため、たとえば、伸展構造物内に別の物を配置する場合等に、伸展構造物内に配置した物に伸展構造物が触れることなく伸展構造物が直進的に伸展するように構成できる。また、係る効果を最大に発揮するためには、すべての連結材30同士が連結されていることが好ましい。連結材30を均一に加熱すれば、全体的に伸展が進行する。
【0036】
また、上記実施の形態では、マスト本体10は円筒形状としているが、マスト本体10の形状は円筒形状に限られず、どのような形状にも適用できる。たとえば、マスト本体10の形状を多角柱等の円筒以外の筒形状としてもよいし、円錐あるいは角錐等の錐形状としてもよい。また、マスト本体10の形状を筒の長手方向を軸に、軸対称(軸を中心として回転させた対称)形状でなくてもよい。しかし、マスト本体10の形状を筒の長手方向を軸に、軸対称(軸を中心として回転させた対称)形状とすることにより、伸展の力が均等に加わるので、マスト本体10が軸から遠ざかる方向に伸展しやすくなる。
【0037】
また、上記実施の形態に係る伸展構造物は、別発明の観点から、シート状の第1のパターン片および第2のパターン片と、第1のパターン片と第2のパターン片とをそれらの端面方向で接続する連結材とを有し、連結材は、当該第1のパターン片と第2のパターン片とが成す角度を変化させるための形状記憶樹脂を含む構造物と、捉えることもできる。すなわち、構造物全体に形状記憶樹脂を含浸させるのではなく、パターン片を形状記憶樹脂を含む連結材によりつなぎ合わせた構造物である。
上記した本願発明の実施の形態にかかる伸展構造物1は、パターン片20を、形状記憶樹脂を含む連結材30によりつなぎ合わせ、連結材30の部分で折り畳む構造であり、上記した別発明の実施の形態でもある。ただし、この別発明は、伸展構造物に限定されず、伸展構造ではないが、ある形態から違う形態に変形するような構造物にも適用可能である。
【0038】
上記別発明の観点では、マスト本体10を構成するパターン片20の数は2以上であればいくつであってもよい。1のパターン片と連結材とからマスト本体が構成される場合、マスト本体10の大きさと略同じ大きさのパターン片20を作成する必要がある。
したがって、製造設備の大きさが伸展構造物の大きさの限界を決定することになり、伸展構造物を大きくする場合に、それに応じた製造設備が必要となる。しかし、この別発明においては、パターン片20がその端面側で形状記憶樹脂を含む連結材30を介して接続されていることから、パターン片20の大きさも小さく済み、設計や応用の自由度が増えるばかりか、製造コスト的にも従来技術に対して大きく優位である。さらに、パターン片20自体に屈曲特性がなくてもよいことから、パターン片20の材料は、当該伸展構造物1の用途や必要な特性に基づき種々選択することができる。
【0039】
また、シート状のパターン片20に形状記憶樹脂を積層する場合には、パターン片20に形状記憶樹脂を含浸させて焼成する必要があり、パターン片20を焼成可能な加熱炉が必要となるが、パターン片20が他のパターン片20と帯状の連結材30を介して連結されている場合には、パターン片20を焼成する必要がないというメリットがある。さらに、比較的高価な形状記憶樹脂の使用量が少なくなるというメリットもある。そして、パターン片20にさらに別のパターン片20を連結材30により連結する、あるいは、あるパターン片を除去することで、構造物の大きさを変更することができるというメリットがあ
る。
【0040】
また、上記実施の形態では、1以上のパターン片20からなる筒状のマスト(筒状のパターン片から形成された筒形状か、あるいは、2以上のパターン片20が連結材30により連結されてなる筒形状)は、連結材30を介し、別の筒状のマストと、帯状の連結材30を介して軸方向で連結可能に構成されている。斯かる構造により、筒状のマストを軸方向に延長することができる。
すなわち、
図1(A)に即して説明すると、マスト本体10は、複数のパターン片20Bを周方向に連結した筒状体10Bと、別の複数のパターン片20Aを周方向に連結した筒状体10Aとを、帯状の連結材30Aを介して軸方向で交互に連結する構成となっており、筒状体10A、10Bを単位として、マスト本体10を軸方向に延長することができる。
この単位とする筒状体は複数のパターン片である必要はなく、
図6に示すように、筒形状の一つのパターン片20Cによって構成し、このパターン片20Cに連結材30Aを介して別のパターン片20Cを順次連結する構成とすることもできる。
図6の形態では、伸展形態を示しているが、記憶形態は特に限定されない。たとえば、
図6の伸展形態を記憶形状としておいて、他の形態に変形させた状態から形状復帰するようにしてもよいし、他の形態を記憶形状としておいて、伸展形態から他の形態に形状復帰させるようにしてもよい。他の形態は、折り畳んだ収納形態でもよいし、
図6の円形断面から楕円形状、あるいは多角形状等、種々の断面形状に変形させることもできる。要するに、連結材の変形によって、一対のパターン片の成す角度を変化させる構成であればよい。この角度は、単純にパターン片間の傾き角度のみではなく、たとえば、互いに直交する3軸を考えると、この3軸回りの角度が含まれる。
図6の場合は、円形の連結材の外周の一点について、その接線方向に延びる軸と、接線と直交する母線方向に延びる軸と、母線方向と接線方向と直交方向の軸の3軸回りの変形が含まれる。
さらに、図示しないが、ある数のパターン片20によって構成される筒状体に、異なる数のパターン片20が連結されている筒状体を連結してもよい。連結するパターン片の数をマスト本体の一端側と他端側とで変えることにより、伸展速度を変える等の効果を得ることができる。