【課題】波長1064nm以上の波長域もしくは1064nm未満の波長域において、テルビウム・ガリウム・ガーネット(TGG)単結晶を越えるファラデー回転角を備え、大型化を実現できる光アイソレータ用単結晶、その製造方法、光アイソレータ及びこれを用いた光加工器の提供。
(上記式中、p、q、r及びsは下記式を満たす。2.95≦p≦2.971.94≦q≦1.970.05≦r≦0.212.95≦s≦2.98)で表される単結晶。前記単結晶は、融液成長法によって製造される。光加工器100は、レーザ光源11と、レーザ光源11から出射されるレーザ光Lの光路P上に配置され、前記単結晶を有する光アイソレータ10とを備え、レーザ光源11から出射されたレーザ光Lが光アイソレータ10を通って出射され、その出射光により被加工体Qを加工することができる。
  酸化テルビウム、酸化アルミニウム、酸化スカンジウム及び酸化ルテチウムを含む粉末原料を加熱溶解し、得られた融液から融液成長法によって、請求項1に記載の単結晶を得ることを特徴とするアイソレータ用単結晶の製造方法。
【背景技術】
【0002】
  従来より、光アイソレータは光通信に用いられてきているが、近年の光加工器の発展により光加工器にも光アイソレータが必要となってきた。その際、対応が求められる波長は、主にNd:YAGレーザの1064nmである。この波長に適した材料として、近年、テルビウム・ガリウム・ガーネット(TGG:Tb
3Ga
5O
12)単結晶が開発され実用化されている(非特許文献1)。
【0003】
  しかしながら、TGGは、原料成分である酸化ガリウムの蒸発が激しいことから結晶の大型化が難しく、このことが、コストが下がらない原因となっていた。ゆえに、TGGよりも大きなファラデー回転角(ベルデ定数)を持ち、低コストで生産可能な材料の開発が望まれていた(非特許文献1)。
【0004】
  上記TGGの課題を解決すべく、テルビウム・アルミニウム系ガーネット(TAG:Tb
3Al
5O
12)単結晶の育成に関して開発がすすめられている。TAGの育成法としては、過冷却状態のるつぼ内融液に基板結晶を着け、その表面に膜状に結晶を成長させる溶融成長法(LPE法)による製造方法が知られている(非特許文献2)。
【0005】
  また、テルビウム・スカンジウム・アルミニウム・ガーネット(TSAG:Tb
3Sc
2Al
3O
12)単結晶の育成についても研究が行われており、TSAG単結晶は、大型化に優位との報告もある(特許文献1)。
 
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
  しかし、非特許文献2に記載のTAGは、TGGよりも大きなベルデ定数を持つためTGGよりも優れるとされる反面、非調和溶融組成を持つ(非特許文献1)ため大型の結晶育成が困難であり、実用に至っていない。
【0009】
  また特許文献1に記載のTSAGは、TGGより大きなベルデ定数を有し、TAGに比べて大型の単結晶を育成できるものの、TGGに比べると、単結晶の大型化が困難であった。
【0010】
  従って、現状ではTGGだけが市場で利用されている状況にある。
【0011】
  本発明は、このような従来の実情に鑑みて考案されたものであり、TGG単結晶を越えるファラデー回転角を備え、十分な大型化を実現できる単結晶、その製造方法、光アイソレータ及びこれを用いた光加工器を提供することを目的とする。
 
【課題を解決するための手段】
【0012】
  本発明の単結晶は、下記式
Tb
pSc
qLu
rAl
sO
12
(上記式中、p、q、r及びsは下記式を満たす。
2.95≦p≦2.97
1.94≦q≦1.97
0.05≦r≦0.21
2.95≦s≦2.98)
で表される単結晶である。
【0013】
  この単結晶は、波長1064nm以上の波長域又は1064nm未満の波長域において、TGG単結晶を越えるファラデー回転角を備え、十分な大型化を実現することも可能である。さらにこの単結晶は、特に短波長域(400〜700nm)においては、TGG単結晶と異なり、透過率の低下を十分に抑制することができる。
【0014】
  また本発明は、酸化テルビウム、酸化アルミニウム、酸化スカンジウム及び酸化ルテチウムを含む粉末原料を加熱溶解し、得られた融液から融液成長法によって、上述した単結晶を得ることを特徴とする単結晶の製造方法である。
【0015】
  また本発明は、上記単結晶を有する光アイソレータである。この光アイソレータは、上記単結晶を有しており、上記単結晶は、上述したように、1064nm以上の波長域においても、短波長域(400〜700nm)においても、TGG単結晶を越えるファラデー回転角を備えることが可能である。このため、本発明の光アイソレータは、様々な発振波長のレーザ光源を備えた光加工器の光アイソレータとして使用することが可能であり、極めて高い汎用性を有する。
【0016】
  さらに本発明は、レーザ光源と、前記レーザ光源から出射されるレーザ光の光路上に配置される光アイソレータとを備える光加工器であって、前記光アイソレータが、上記光アイソレータである光加工器である。
【0017】
  この光加工器によれば、単結晶として、上記単結晶を用いることで、TGGよりもファラデー回転角を大きくすることが可能となる。このため、TGGを用いた場合よりも光アイソレータを小型化することが可能となる。その結果、TGGを光アイソレータに用いた場合よりも、光加工器を小型化することが可能となる。
【0018】
  ここで、前記レーザ光源の発振波長は1064nmであると好適である。
【0019】
  あるいは、前記レーザ光源の発振波長は400〜700nmであってもよい。上記単結晶は、短波長域(400〜700nm)においても、TGG単結晶を越えるファラデー回転角を備え、透過率の低下を十分に抑制することもできる。このため、光加工器におけるレーザ光源の発振波長が400〜700nmであっても光アイソレータによる出力の低下が十分に防止される。
 
【発明の効果】
【0020】
  本発明の単結晶は、波長1064nm以上の波長域のみならず波長1064nm未満の波長域においても、TGGを超えるファラデー回転角を実現できる。ゆえに、本発明によれば、例えばNd:YAGレーザを用いた光加工器の光アイソレータに好適な単結晶が実現される。また、本発明の単結晶は、大型化を実現することも可能となる。さらに本発明の単結晶は、短波長域(400〜700nm)においては、TGG単結晶と異なり、透過率の低下を十分に抑制することもできる。
【0021】
  本発明の単結晶の製造方法によれば、上記テルビウム・アルミニウム系ガーネット型単結晶を容易に育成することができる。ゆえに、本発明に係る製造方法は、単結晶の量産に貢献することができる。
 
 
【発明を実施するための形態】
【0023】
  以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
 
【0024】
  図1は、本発明の光アイソレータの一実施形態を示す概略図である。
図1に示すように、光アイソレータ10は、偏光子1と、検光子2と、偏光子1と検光子2との間に配置されるファラデー回転子3とを備えている。ここで、偏光子1及び検光子2は、それらの透過軸同士が互いに非平行となるように、例えば45°の角度をなすように配置されている。
 
【0025】
  ファラデー回転子3には、例えば偏光子1から検光子2に向かう方向、即ち光Lの入射方向に沿って磁束密度Bが印加されるようになっており、ファラデー回転子3は、磁束密度Bの印加により、偏光子1を通過した光Lについて、その偏光面を回転させて、検光子2の透過軸を通過させるようになっている。
 
【0026】
  ここで、ファラデー回転子3について詳細に説明する。
 
【0027】
  ファラデー回転子3は、下記式
Tb
pSc
qLu
rAl
sO
12
(上記式中、p、q、r及びsは下記式を満たす。
2.95≦p≦2.97
1.94≦q≦1.97
0.05≦r≦0.21
2.95≦s≦2.98)
で表される単結晶で構成されている。
 
【0028】
  この単結晶は、波長1064nm、あるいはそれよりも長い波長域において、TGG単結晶を越えるファラデー回転角を備え、十分な大型化を実現することも可能である。さらにこの単結晶は、短波長域(400〜700nm)においても、TGG単結晶を越えるファラデー回転角を備え、透過率の低下を十分に抑制することもできる。このように、本発明の単結晶によれば、広い波長域において、TGGよりも高いファラデー回転角を得ることができる。従って、本発明の単結晶は、極めて高い汎用性を有する。
 
【0029】
  次に、上記ファラデー回転子3の製造方法について説明する。
 
【0030】
  まずファラデー回転子3を構成するガーネット型単結晶を育成する結晶引上げ炉について
図2を参照しながら説明する。
図2は、上記ガーネット型単結晶を、結晶引上げ炉を用いて育成する工程を示す図である。
 
【0031】
  図2に示すように、結晶引上げ炉20は、イリジウム製のルツボ21と、ルツボ21を収容するセラミック製の内側保温材22Aと、内側保温材22Aを包囲するように設けられる外側保温材22Bと、内側保温材22Aと外側保温材22Bとの間に設けられる高周波コイル23とを主として密閉ハウジング24中に備えている。高周波コイル23は、ルツボ21に誘導電流を生じさせ、ルツボ21を加熱するためのものである。また結晶引上げ炉20は、内側保温材22Aを載置するための載置台25と、載置台25を支持する支持部26とを備えており、ルツボ21は、ルツボ21の位置を調整するための位置調整台27を介して載置台25上に配置されている。なお、
図2において、符号29は、種結晶を示しており、矢印Aは、種結晶29の回転方向、即ち育成結晶30の回転方向を示し、矢印Cは、育成結晶30の引上げ方向を示す。
 
【0032】
  次に、上記結晶引上げ炉20を用いた上記単結晶の育成方法について説明する。
 
【0033】
  まずTb
4O
7粉末、Al
2O
3粉末、Sc
2O
3粉末及びLu
2O
3粉末を含む粉末原料を用意する。上記粉末原料は、例えば上記Tb
4O
7粉末、Al
2O
3粉末、Sc
2O
3粉末及びLu
2O
3粉末を湿式混合した後、乾燥させることにより得ることができる。
 
【0034】
  粉末原料中のTb
4O
7粉末、Al
2O
3粉末、Sc
2O
3粉末及びLu
2O
3粉末の配合率は、育成すべき単結晶の組成に基づいて決定する。このとき、Tb
4O
7粉末、Al
2O
3粉末、Sc
2O
3粉末及びLu
2O
3粉末の配合率は、例えば次の通りにすればよい。
 
【0035】
  即ち、Tb
4O
7粉末の配合率は通常、粉末原料のモル数を基準(100モル%)として、18〜30モル%とする。
 
【0036】
  Al
2O
3粉末の配合率は通常、粉末原料のモル数を基準として、35〜55モル%とする。
 
【0037】
  Lu
2O
3粉末の配合率は通常は、粉末原料のモル数を基準として、0モル%より大きく、10モル%以下とする。
 
【0038】
  Sc
2O
3粉末の配合率は通常、粉末原料のモル数を基準として、0モル%よりも大きく35モル%とする。
 
【0039】
  なお、Lu
2O
3粉末は、Sc
2O
3粉末とLu
2O
3粉末との合計モル数に対し、0.5〜30モル%の範囲となるように配合されることが好ましい。この場合、より良質の結晶を得ることができる。特に、Lu
2O
3粉末は、Sc
2O
3粉末とLu
2O
3粉末との合計モル数に対し2.5〜10モル%の範囲となるように配合されることがさらに好ましい。この場合、結晶形状制御性および結晶性ともに良質となり、全体が透明な結晶が得られる。言い換えると、Lu
2O
3粉末を、Sc
2O
3粉末とLu
2O
3粉末との合計モル数に対し2.5モル%未満の割合で配合する場合に比べて、結晶全体でクラックが発生しにくくなる。一方、Lu
2O
3粉末を、Sc
2O
3粉末とLu
2O
3粉末との合計モル数に対し10モル%を超える割合で配合する場合に比べて、結晶形状が一定となりやすく直径変動が小さくなり、より透明な結晶が得られる。なお、ここで言う「モル%」とは、ScとLuとの合計原子数に対するLuの原子数の割合である。
 
【0040】
  そして、上記粉末原料をルツボ21に詰めた後、高周波コイル23に電流を印加する。すると、ルツボ21が加熱され、ルツボ21内で粉末原料が室温から所定の温度まで加熱される。ここで、所定の温度は、粉末原料を溶解させることが可能な温度である。こうして粉末原料が溶解され、融液28が得られる。続いて、融液28を融液成長法によって成長させる。具体的には、まず棒状の結晶引き上げ軸、即ち種結晶29を用意する。そして、種結晶29の先端を融液28に漬けた後、種結晶29を所定の回転数で回転させながら、所定の引上げ速度で引き上げる。
 
【0041】
  このとき、種結晶29としては、例えばイットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)などのガーネット型単結晶を用いる。
 
【0042】
  種結晶29の回転数は、好ましくは3〜50rpmとし、より好ましくは3〜10rpmとする。
 
【0043】
  種結晶29の引き上げ速度は、好ましくは0.1〜3mm/hとし、より好ましくは0.5〜1.5mm/hとする。
 
【0044】
  種結晶29の引上げは、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。不活性ガスとしては、Ar、窒素などを用いることができる。種結晶29を不活性ガス雰囲気下にするためには、密閉ハウジング24中に不活性ガスを所定の流量で導入しながら排出すればよい。
 
【0045】
  こうして種結晶29を引き上げると、種結晶29の先端に、上記式で表されるバルク状の育成結晶30を得ることができる。このとき、育成結晶30を容易に作製することができ、育成結晶30の大型化を実現することができる。
 
【0046】
  次に、本発明の光加工器について
図3を参照しながら詳細に説明する。なお、
図3において、
図1と同一又は同等の構成要素については同一符号を付し、重複する説明を省略する。
 
【0047】
  図3は、本発明の光加工器の一実施形態を示す概略図である。
図3に示すように、光加工器100は、レーザ光源11と、レーザ光源11から出射されるレーザ光Lの光路P上に配置される光アイソレータ10とを備えている。この光加工器100によれば、レーザ光源11から出射されたレーザ光Lが光アイソレータ10を通って出射され、その出射光により被加工体Qを加工することが可能となっている。
 
【0048】
  ここで、光アイソレータ10に用いられる単結晶は、上述したように、波長1064nm以上の波長域において、TGG単結晶を越えるファラデー回転角を備え、十分な大型化を実現することも可能である。
 
【0049】
  従って、レーザ光源11としては、発振波長が1064nmのNd:YAGレーザ、発振波長が1080nmのYbドープファイバレーザを用いることが好適である。
 
【0050】
  なお、光アイソレータ10に用いられる単結晶は、短波長域(400〜700nm)においても、TGG単結晶を超えるファラデー回転角を示す。このため、このような単結晶を用いる場合、レーザ光源11としては、発振波長が400〜700nmであるレーザ光源を用いることもできる。このようなレーザ光源11としては、例えば発振波長が405nmのGaN系半導体レーザや、発振波長が700nmのチタンサファイアレーザなどが挙げられる。なお、このように、短波長域の発振波長を有するレーザ光源11を備えた光加工器100によれば、被加工体Qの切断部が熱によって損傷を受けることがなくなるため、切断面を滑らかにすることができる。また上記単結晶は、TGG単結晶の場合と異なり、短波長域(400〜700nm)においても、透過率の低下を十分に抑制することができる。このため、光加工器100におけるレーザ光源11の発振波長が400〜700nmであっても光アイソレータ10による出力の低下は十分に防止される。
 
【0051】
  本発明は、上記実施形態に限られるものではない。例えば上記実施形態では、レーザ光源11の発振波長として、1064nm以上、または400〜700nmの範囲を挙げているが、これらに限定されるものではない。レーザ光源の発振波長は、700〜1064nmの範囲内、例えば800nm付近、又は1030〜1080nmであってもよい。
 
【0052】
  また上記実施形態では、単結晶は、光加工器の光アイソレータに使用されているが、光アイソレータに限らず、ファラデー回転子を使用しファラデー回転角の変化を計測することで磁界の変化を観測する光磁界センサなどにも適用可能である。
 
【実施例】
【0053】
  以下、本発明の内容を、実施例を挙げてより具体的に説明するが、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0054】
  (実施例1)
  まず、純度99.99%の酸化テルビウム(Tb
4O
7)原料粉末と、純度99.99%の酸化アルミニウム(Al
2O
3)原料粉末と、純度99.99%の酸化スカンジウム(Sc
2O
3)原料粉末と、純度99.99%の酸化ルテチウム(Lu
2O
3)原料粉末とを準備した。
【0055】
  そして、上記各原料粉末を湿式混合して混合粉末を得た。このとき、Lu
2O
3原料粉末は、Sc
2O
3原料粉末及びLu
2O
3原料粉末の合計モル数を基準(100モル%)として2.5モル%の割合で含まれるようにした。次いで、上記混合粉末を乾燥させ、最終原料(粉末原料)としてIrるつぼに投入した。るつぼの形状は円筒形であり、直径約は60mm、高さは約60mmであった。
【0056】
  そして、粉末原料を室温から1950℃まで加熱して溶解させることにより融液を得た。次いで、この融液に、YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)からなる3mm×3mm×70mmの角棒状の種結晶の先端を着け、種結晶を、10rpmの回転数で回転させながら、種結晶を1時間当たり1mmの速度で引き上げ、バルク状の結晶を育成した。こうして直径約2.5cm、長さ約12cmの透明な単結晶(結晶A)を得た。
【0057】
  このとき、結晶の育成はArガス雰囲気で行い、Arガスの流量は3.3×10
−5m
3/sとした。
【0058】
  こうして得られた結晶AについてX線回折を行ったところ、Tb
3Al
5O
12のピークが確認された。
【0059】
  さらに、上記結晶Aについて、ICP(誘導結合プラズマ)による化学分析を行い、単結晶の組成(Tb、Sc、Al、Lu及びOの原子数比)を確認した。ICPによる化学分析は、具体的には以下のようにして行った。即ちまず結晶Aの直胴部下端から50mgを切り出して切出片を得た。次に、白金ルツボに切出片を入れ、続いて、4ホウ酸リチウム250mgを加えた。続いて、この白金ルツボを高温加熱炉に収容して1030℃で2時間加熱し、切出片を融解させた。その後、白金ルツボを放冷した後、50mlのビーカーに切出片を入れ、さらにHCl20mlを加えた。次いで、ビーカーをホットプレート上に配置して緩やかに加熱し、切出片からHCl中に各元素成分(Tb、Sc、Al及びLu)を溶解させた。このとき、ビーカー内に得られた溶液を50mlにメスアップし、この溶液について、ICPによる化学分析を行った。この結果、下記式:
Tb
2.97Sc
1.96Lu
0.05Al
2.97O
12
で表される単結晶が得られていることが確認された。
【0060】
  (実施例2)
  混合粉末を得る際、Lu
2O
3原料が、Sc
2O
3原料粉末及びLu
2O
3原料粉末の合計モル数を基準として5モル%の割合で含まれるようにしたこと以外は実施例1と同様にして直径約2.5cm、長さ約12cmの透明な単結晶(結晶C)を得た。
【0061】
  この結晶CについてX線回折を行ったところ、Tb
3Al
5O
12のピークが確認された。
【0062】
  さらに、上記結晶Cについて、実施例1と同様にしてICP(誘導結合プラズマ)による化学分析を行った。その結果、下記式:
Tb
2.96Sc
1.97Lu
0.13Al
2.95O
12
で表される単結晶が得られていることが確認された。
【0063】
  (実施例3)
  混合粉末を得る際、Lu
2O
3原料粉末がSc
2O
3原料粉末及びLu
2O
3原料粉末の合計モル数を基準として10モル%の割合で含まれるようにしたこと以外は実施例1と同様にして直径約2.5cm、長さ約12cmの透明な単結晶(結晶E)を得た。
【0064】
  この結晶EについてX線回折を行ったところ、Tb
3Al
5O
12のピークが確認された。
【0065】
  さらに、上記結晶Eについて、実施例1と同様にしてICP(誘導結合プラズマ)による化学分析を行った。その結果、下記式:
Tb
2.95Sc
1.94Lu
0.21Al
2.98O
12
で表される単結晶が得られていることが確認された。
【0066】
  (比較例1)
  比較例として、Fujian Castech Crystals社製Tb
3Ga
5O
12(TGG)を使用した。
【0067】
  [特性評価]
  (ファラデー回転角)
  上記のようにして得られた実施例1〜3及び比較例1の単結晶について、633nm、1064nm及び1303nmの波長におけるファラデー回転角を測定した。
【0068】
  このとき、ファラデー回転角の測定は以下のようにして行った。即ちまず偏光子と検光子との間に単結晶を配置しない状態で検光子を回転させて消光状態にした。次に、実施例1〜3及び比較例1の単結晶を、W[mm]×H[mm]×L[mm]=3.5mm×3.5mm×12mmとなるように角棒状に切り出し、これを、偏光子と検光子との間に配置し、単結晶の長手方向に沿って0.42Tの磁束密度を印加した状態で光を入射し、再度検光子を回転させて消光状態にした。そして、偏光子と検光子との間に単結晶を挟む前の検光子の回転角と、単結晶を挟んだ後の検光子の回転角との差を算出し、この角度差をファラデー回転角とした。このとき、ファラデー回転角は、光源の波長を633nm、1064nmおよび1303nmのそれぞれについて測定した。そして、こうして測定したファラデー回転角に基づいて、ファラデー回転角比率を算出した。ここで、ファラデー回転角比率は、各実施例のファラデー回転角とTGGのファラデー回転角とに基づいて、下記式:
【数1】
により算出した。ここで、TGGのファラデー回転角と、ファラデー回転角比率の算出対象となる単結晶のファラデー回転角は、同一波長の値を用いた。結果を
図4〜
図6に示す。
図4〜
図6はそれぞれ、実施例1〜3の単結晶におけるファラデー回転角比率と波長との関係を示すグラフである。
図4〜
図6においてはそれぞれ、実施例1〜3の単結晶におけるファラデー回転角比率と波長との関係については実線で示し、比較例1のTGGのファラデー回転角比率(=1)と波長との関係を破線にて併記した。
【0069】
  (透過率)
  上記のようにして得られた実施例1〜3及び比較例1の単結晶を、W[mm]×H[mm]×L[mm]=3.5mm×3.5mm×12mmとなるように角棒状に切り出し、この切り出した結晶について、広い波長域(200〜1400nm)における透過率を測定した。結果を
図7〜
図9に示す。
図7〜
図9はそれぞれ、実施例1〜3の単結晶における透過率と波長との関係、即ち透過スペクトルを示すグラフである。
図7〜9においてはそれぞれ、比較例1のTGGの透過スペクトルの結果も併記した。なお、
図7〜
図9において、実施例1〜3の透過スペクトルは実線で、比較例1の透過スペクトルは破線で示した。
【0070】
  図4〜
図9に示す結果より、以下の点が明らかとなった。
(1)実施例1〜3の単結晶は、評価した3つの波長のいずれにおいても、ファラデー回転角がTGGに比べて大きかった。
(2)実施例1〜3の単結晶はいずれも、ほぼ全波長域に亘って、TGG以上の透過率を有していた。特に、400〜700nmの波長域において、波長が短くなるほど、比較例1(TGG)の透過率が急減するのに対して、実施例1〜3の単結晶は、波長400nmでも700nmにおける透過率と同レベルの値が観測された。即ち、実施例1〜3の光アイソレータでは、400〜700nmの範囲においても高い透過率が維持された。
(3)実施例1〜3の単結晶はいずれも、直径約2.5cm、長さ約12cmの大型で且つ透明な単結晶を得ることができた。
【0071】
  以上の結果より、本発明の単結晶は、波長1064nm、あるいはそれよりも長い波長域において、TGGを超えるファラデー回転角を得ることができる。ゆえに、本発明は、Nd:YAGレーザを用いた光加工機の光アイソレータ用単結晶として好適である。さらに本発明の単結晶によれば、短波長域(400〜700nm)においても、TGG単結晶を越えるファラデー回転角を備え、透過率の低下を十分に抑制することもできる。従って、本発明の単結晶によれば、広い波長域において、TGGよりも高いファラデー回転角を得ることができる。従って、本発明の単結晶は、極めて高い汎用性を有する。
【0072】
  また本発明に係る単結晶は、十分な大型化を実現することができる。このため、得られた単結晶から、多数の単結晶を切り出すことができ、光アイソレータの価格を低下させることができる。
【0073】
  さらに、本発明に係る単結晶は、長波長域(1064nm以上)に加えて短波長域(400〜700nm)においても、TGGを越える高い透過率を保持しており、ファラデー回転角もTGGより大きい。ゆえに、本発明に係る単結晶は、短波長域(400〜700nm)においても、TGGよりも優れた光アイソレータとして機能し、短波長レーザ用の光アイソレータとしても有効に機能し得る。