【解決手段】ナノ粒子101と、ナノ粒子上に固定化されている、複数の細菌表面認識部位103と、を含み、細菌表面認識部位103を介して細菌を連結捕集する、構造体100。
前記細菌表面認識部位が、前記細菌と相互作用する官能基と、前記細菌との相互作用により光応答性を示す官能基と、を含む、請求項1乃至3いずれか一項に記載の構造体。
前記細菌表面認識部位が、ジピコリルアミン/金属錯体、イミノ二酢酸/金属錯体、フェニルボロン酸基およびグアニジノ基からなる群から選択される一種以上を含む、請求項1乃至4いずれか一項に記載の構造体。
前記ナノ粒子が、シリカナノ粒子、デンドリマー、金コロイドおよび量子ドットからなる群から選択される一種以上を含む、請求項1乃至5いずれか一項に記載の構造体。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には共通の符号を付し、適宜説明を省略する。また、図は概略図であり、実際の寸法比率とは必ずしも一致していない。
【0013】
図1は、本実施形態における構造体の構成を示す断面図である。
図1に示した構造体100は、細菌を連結捕集するように構成されており、ナノ粒子101と、ナノ粒子101上に固定化されている、複数の細菌表面認識部位103と、を含む。構造体100は、細菌を認識して捕集する人工の分子または超分子であって、複数の細菌表面認識部位103を介して細菌を連結捕集する。
【0014】
図2は、構造体100が細菌を連結捕集する様子を模式的に示す図である。
図2において、細菌102に構造体100を添加すると、構造体100に含まれる複数の細菌表面認識部位103がそれぞれ細菌102の表面に結合して細菌102を連結捕集し、複数の構造体100と複数の細菌102とを含む凝集体104が形成される。
【0015】
構造体100の形状は、たとえば粒子状であり、その粒子径は、後述するナノ粒子101の粒子径以上である。細菌102内への取り込みを抑制する観点から、構造体100の粒子径は、たとえば10nm以上、好ましくは20nm以上である。
一方、細菌102をより一層迅速に連結捕集する観点から、構造体100の粒子径は、たとえば300nm以下、好ましくは200nm以下、さらに好ましくは150nm以下である。
【0016】
以下、構造体100の構成要素についてさらに具体的に説明する。
構造体100において、ナノ粒子101は細菌を捕集するための基材として機能する。ナノ粒子101は、ナノメートルオーダーのサイズを有する粒状の材料により構成される。ナノ粒子101は、一種の材料から構成されていても二種以上の材料から構成されていてもよい。
また、ナノ粒子101は、一様な断面構造を有していてもよいし、コア−シェル構造等の複数の異なる構造領域を有していてもよい。また、ナノ粒子101は中空粒子および中実粒子のいずれであってもよく、またゲル粒子等の網目構造を有する粒子であってもよい。
【0017】
ナノ粒子101の具体例として、シリカ、酸化チタン等の金属酸化物またはその他の無機粒子から構成される粒子;
ポリスチレン等の有機材料から構成される粒子;
ポリアミドアミンデンドリマー等のデンドリマー;
金コロイド、銀コロイド等の金属コロイド;ならびに
コロイド状の量子ドット等の半導体結晶から構成される粒子が挙げられる。
さらに具体的には、ナノ粒子101が、シリカナノ粒子、デンドリマー、金コロイドおよび量子ドットからなる群から選択される一種以上を含む構成が挙げられる。
【0018】
また、ナノ粒子101は、たとえば水または水を含む分散媒に分散可能である構成とする。このような材料を用いることにより、細菌102との接触前の構造体100の分散性を向上させるとともに、細菌102との接触による凝集体104の形成を確認しやすくなる。
【0019】
ナノ粒子101の粒子径は、細菌102内への取り込みを抑制する観点から、たとえば10nm以上、好ましくは20nm以上である。
一方、細菌102をより一層迅速に連結捕集する観点から、ナノ粒子101の粒子径は、たとえば300nm以下、好ましくは200nm以下、さらに好ましくは150nm以下である。
なお、ナノ粒子101および構造体100の粒子径は、たとえば数平均であり、複数のナノ粒子101の顕微鏡観察により得られる画像から各粒子の粒子径を測定することにより算出できる。
また、ナノ粒子101の粒子径または構造体100の粒子径は、捕集対象である細菌102の形状、大きさ、性質等に応じて決めることもできる。
【0020】
ナノ粒子101は、発光物質および発色物質からなる群から選択される一種以上を含んでいてもよい。このようなナノ粒子101の具体例として、発光物質および発色物質からなる群から選択される一種以上を内包しているシリカナノ粒子が挙げられる。
また、検出感度をさらに向上させる観点からは、蛍光物質を用いることがさらに好ましく、このときナノ粒子101をたとえば蛍光シリカナノ粒子(FSiNP)とする。
発光物質または発色物質を粒子に内包させると、構造体100が捕集した細菌102をたとえば目視等の視覚により容易に検知することができるため、細菌102の捕集の有無や、捕集した細菌102の存在位置を、より一層簡便で感度良く検知することができる。
【0021】
ナノ粒子101に含ませる発色物質の具体例としては、アクリジンオレンジやテトラキス(4−メチルピリジニウム)ポルフィリンなどが挙げられる。
【0022】
また、ナノ粒子101の粒子内に含ませる発光物質の具体例としては各種蛍光物質が挙げられ、たとえば、
[Ru(bpy)
3]Cl
2(トリス(ビピリジン)ルテニウム(II)錯体)等のビピリジン系金属錯体化合物およびその塩、水和物;
フルオレセインイソチオシアネート(fluorescein isothiocyanate:FITC)等のフルオレセイン;
ピレン;
アントラセン;
ナフタレン;
ローダミン;
4−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール(4-nitrobenz-2-oxa-1,3-diazole:NBD);
クマリン;
Cy色素等のシアニン系化合物;
ポルフィリン;ならびにこれらの誘導体を用いることができる。
【0023】
ナノ粒子101に対する発光物質の割合は、発光の強度に応じて決めることができるが、凝集体104の検出感度を向上させる観点からは、たとえば重量比で0.05%以上、好ましくは0.1%以上とする。
また、凝集体104の検出感度を向上させる観点からは、ナノ粒子101に対する発光物質の割合を重量比でたとえば100%以下、好ましくは80%以下とする。なお、ナノ粒子101が発光物質により構成されていてもよく、このような材料として、量子ドットなどの半導体結晶が挙げられる。
【0024】
また、ナノ粒子101の表面にスペーサーとして機能する物質を固定化し、スペーサーに細菌表面認識部位103が結合していてもよい。スペーサーについては後述する。
【0025】
次に、細菌表面認識部位103について説明する。
細菌表面認識部位103は、細菌102の表面を認識する部位を含む。具体的には、細菌表面認識部位103は、細菌表面の所定の部位、官能基等と物理的または化学的に相互作用する部位であり、細菌表面の特定の部位と特異的に相互作用することが好ましい。
細菌表面認識部位103の具体例として、ジピコリルアミン(dipicolylamine:dpa)/金属錯体、イミノ二酢酸/金属錯体、フェニルボロン酸基およびグアニジノ基からなる群から選択される一種以上を含む構成が挙げられる。
このうち、たとえばdpa/金属錯体を用いることにより、構造体100が細菌表面のリン酸基を認識する構成とすることができる。dpa/金属錯体として、dpa/Cu錯体、dpa/Zn錯体等が挙げられる。
【0026】
構造体100中の細菌表面認識部位103の表面密度は、捕集する細菌102の種類や、細菌表面認識部位103の構成により決めることができる。細菌102を効率よく捕集する観点からは、細菌表面認識部位103の表面密度をたとえば1.0×10
−9mol/m
2以上、好ましくは1.0×10
−8mol/m
2以上とする。また、細菌表面認識部位103の周辺に好適な空間を形成して細菌102との相互作用を生じやすくする観点からは、細菌表面認識部位103の表面密度をたとえば1.0×10
−4mol/m
2以下、好ましくは1.0×10
−5mol/m
2以下とする。
【0027】
また、凝集体104の形成をさらに好感度で簡便に検出する観点からは、細菌表面認識部位103が、細菌102と相互作用する官能基と、細菌102との相互作用により光応答性を示す官能基とを含む構成とすることが好ましい。
光応答性の官能基として、細菌表面に結合して発色、蛍光応答を示す官能基が挙げられる。
細菌表面認識部位103に導入する蛍光物質として、7−ヒドロキシクマリン−3−カルボン酸(7-hydroxycoumarin-3-carboxylic acid:HCC)およびその誘導体;8-(2,2' −ジピコリルアミノメチル) −7−ヒドロキシクマリン−3−カルボン酸((2,2'-dipicolylaminomethyl)-7-hydroxycoumarin-3-carboxylic acid)等が挙げられる。
また、ナノ粒子中の発光または発色物質として前述した例示物質を用いることもできる。このとき、細菌表面認識部位103に導入する蛍光物質として、ナノ粒子中の発光または発色物質と異なる発光または発色波長を有するものを用いることが好ましい。
細菌表面認識部位103において、細菌102との結合部位と光応答性を示す官能基との組み合わせの具体例として、dpa/金属錯体とHCC由来の官能基との組み合わせ、フェニルボロン酸とHCC由来の官能基との組み合わせが挙げられる。
【0028】
また、構造体100において、細菌表面認識部位103が、スペーサーを介してナノ粒子101に固定化された構成としてもよい。スペーサーを設けることにより、ナノ粒子101の外側に空間が形成されるため、細菌表面認識部位103と細菌との相互作用をより効率よく生じさせて、細菌をさらに確実に捕集することができる。
また、スペーサーとして親水性材料を用いることにより、ナノ粒子101の表面が親水性のスペーサー分子で覆われるため、ナノ粒子101の水分散性を高めたり、構造体100が捕集対象である細菌以外の材料に非特異的に吸着することを抑制したりすることができる。
また、スペーサーとして、アルキル鎖やエチレングリコール鎖等の鎖状分子;
アゾベンゼン等を用いてもよい。
【0029】
(構造体の製造方法)
次に、構造体100の製造方法を説明する。
本実施形態において、構造体100の製造方法は、たとえば、
ナノ粒子101を準備するステップと、
ナノ粒子101の表面に細菌表面認識部位103を導入するステップと、
を含む。
【0030】
はじめに、ナノ粒子101を準備するステップについて説明する。ナノ粒子101は、その構成材料に応じて所定の方法で作製または入手することができる。
たとえば、ナノ粒子101として金属または金属酸化物の粒子を用いる場合、化学気相析出法、物理気相析出法等の気相法、金属アルコキシド法、共沈法、逆ミセル法、噴霧法等の溶液法などを用いることができる。
また、ナノ粒子101がシリカ粒子である場合、疎水性溶媒、界面活性剤およびアルキル水溶液により形成される逆ミセル内で、テトラエトキシシラン等の金属アルコキシドを加水分解、重合する逆ミセル法(非特許文献1);および
シリコンアルコキシド、アルコールおよびアンモニア水を室温付近の温度で混合してアルコキシドの加水分解縮合反応によりシリカ微粒子を得るストーバー法等が挙げられる。ナノ粒子101の粒径のばらつきを抑制しつつ分散安定性を向上させる観点からは、逆ミセル法が好ましい。
【0031】
ナノ粒子101が発光物質や発色物質を含む構成とするとき、発光物質または発色物質は、ナノ粒子101の製造工程中に粒子内に含ませてもよいし、粒子の形成後、粒子に内包させたり粒子表面に導入してもよい。
たとえば、ナノ粒子101をシリカナノ粒子とする場合、たとえば前述した逆ミセル法において、疎水性溶媒中にあらかじめ蛍光物質等を添加しておくことにより、得られるシリカ粒子内に蛍光物質を含ませることができる。
【0032】
また、得られた粒子の表面に所定の官能基を導入してもよい。このとき、たとえば、粒子表面を、所定の官能基を有するシランカップリング剤等のカップリング剤で処理する。
粒子表面に導入する官能基は、細菌表面認識部位103またはスペーサーに含まれる官能基との結合に用いることができる。たとえば、細菌表面認識部位103またはスペーサーに含まれる、チオール基、アミノ基、カルボキシル基、アルデヒド基、水酸基等を利用するとき、これらの基との反応に用いられる官能基を有するカップリング剤で粒子を処理する。
さらに具体的には、細菌表面認識部位103またはスペーサーに含まれるカルボキシル基と結合させようとする場合、粒子を3−アミノプロピルエトキシシラン(APS)、3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤の溶液に浸漬し、表面処理する。
また、ナノ粒子101が金コロイド粒子であるとき、たとえば、チオール基および細菌表面認識部位103との結合に用いられる官能基を有するカップリング剤で粒子の表面を処理すると、金−チオール結合により、ナノ粒子101の表面に細菌表面認識部位103との結合に用いられる官能基を導入することができる。
【0033】
一方、細菌表面認識部位103となる物質は、その分子構造に応じて所定の方法で合成または入手することができる。細菌表面認識部位103が蛍光性または発色性の官能基を含む構成とするときは、たとえば細菌表面に結合する官能基と蛍光性または発色性の官能基とを所定の方法で縮合させる。
【0034】
次に、得られたナノ粒子101と細菌表面認識部位103となる物質とを接触させて、ナノ粒子101上に細菌表面認識部位103を導入する。
固定化方法は、固定化反応に用いられる官能基の種類により選択される。たとえば、ナノ粒子101または細菌表面認識部位103の一方に含まれるアミノ基と他方に含まれるカルボキシル基とを用いる場合、4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルフォリニウムクロライドn−ハイドレート(DMT−MM)等のトリアジン系の縮合剤;ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)等のカルボジイミド系の縮合剤、などが用いられる。
なお、固定化の際には必要に応じて、N−ヒドロキシスクシンイミド、p−ニトロフェノール、ペンタフルオロフェノール等の活性エステル類を併用してもよい。
また、ナノ粒子101と細菌表面認識部位103との間にスペーサーを設ける場合には、ナノ粒子101または細菌表面認識部位103の一方とスペーサーの片末端とを結合させた後、ナノ粒子101または細菌表面認識部位103の他方とスペーサーの他末端とを結合させる。
【0035】
以上の手順により、構造体100が得られる。
図3は、得られる構造体100の具体例を示す図である。
図3に示した構造体100は、ナノ粒子101がFSiNPであって、細菌表面認識部位103が蛍光性のHCCと細菌表面のリン酸基との相互作用に用いられるdpaとを有する例(dpa−HCC/FSiNP複合材料)である。
また、
図4は、dpa−HCC/FSiNP複合材料において細菌を認識させる方法を説明する図である。
図3に示したdpa−HCC/FSiNP複合材料中のdpa部分は、
図4に示すように、所定の金属イオン(2価:
図4中の「M
2+」)の錯体とすることにより、細菌表面のリン酸基を認識する官能基となる。
また、dpa−HCC/FSiNP複合材料のように、ナノ粒子101または細菌表面認識部位103の少なくとも一方に蛍光物質または蛍光を発する官能基を設けると、たとえば蛍光強度を測定し、相対値を算出することにより、細菌102の定量的な測定をおこなうことも可能となる。
【0036】
(細菌の捕集および検出)
次に、得られた構造体100を用いて細菌を捕集または検出する方法を説明する。
図2を参照して前述したように、本実施形態における細菌102の捕集方法は、たとえば、構造体100を細菌102に接触させて、細菌102を構造体100とともに凝集させるステップ(ステップ10)を含む。
【0037】
捕集対象である細菌102の形状に制限はなく、球菌、桿菌等とすることができる。
また、細菌102の種類に制限はなく、たとえば
大腸菌等の腸菌、緑膿菌等、その他のグラム陰性菌;および
黄色ブドウ球菌等のブドウ球菌、その他のグラム陽性菌が挙げられる。
【0038】
構造体100を細菌102に接触させるステップにおいて、細菌102の濃度は、凝集体104を効率よく形成する観点から、たとえば10
3個/mL以上とする。また、構造体100と効率よく相互作用させる観点からは、細菌102の濃度をたとえば10
8個/mL以下とする。
また、構造体100を細菌102に接触させるステップにおいて、構造体100の濃度は、凝集体104を効率よく形成する観点から、たとえばFSiNpを基準にすると5μg/mL以上とする。また、細菌102とより安定的に相互作用させる観点からは、構造体100の濃度をたとえばFSiNpを基準にすると100μg/mL以下とする。
【0039】
また、本実施形態において、細菌102の検出方法は、たとえば、
構造体100を細菌102に接触させて、細菌102を構造体100とともに凝集させるステップ(ステップ10)、ならびに
ステップ10における凝集物の形成の有無を検知するステップ(ステップ12)、を含む。
【0040】
細菌102の検出感度は、系内に添加する細菌102および構造体100のそれぞれの濃度、これらの濃度比、構造体100中の細菌表面認識部位103の表面密度等により変化するが、10
5〜10
6個/mLの細菌濃度、またはさらに低濃度においても細菌102を検出することが可能となる。
【0041】
次に、本実施形態の作用効果を説明する。
本実施形態において、構造体100は、細菌表面の官能基を多点で認識して細菌102を連結捕集するように構成されているため、構造体100は、細菌102を認識して捕集することができる新規の人工の分子として用いられる。
そして、本実施形態における細菌102を連結捕集する技術を用いれば、細菌102を大きな固まり(凝集体104)として簡便、迅速に捕集することができる。たとえば、細菌102を10分以内、好ましくは5分以内で凝集させて、捕集することができる。また、細菌102を含む試料に構造体100を添加して凝集体104を形成することにより、細菌102を試料から簡便に分離することも可能となる。
【0042】
また、構造体100を用いることにより、細菌同士を連結させて捕集できるため、細菌102の検出に利用することが可能となる。たとえば、構造体100を用いて凝集体104を形成することにより、染色細菌を肉眼で確認できるようになる。また、未染色の細菌の場合にも、構造体100に蛍光性等を付与することで、その場での目視検出が期待できる。また、蛍光強度を測定することにより、細菌102の濃度の定量をおこなうことも可能となる。
また、構造体100を用いることにより、細菌同士を連結させて捕集できるため、除菌技術として利用することも可能となる。これにより、院内感染予防や食品や飲料水の安全衛生管理などに構造体100を用いることも可能となる。
【0043】
以上、本発明の実施形態について述べたが、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良などは本発明に含まれるものである。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実験例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
(実験例1)
本例では、
図3に示したdpa−HCC/FSiNP複合体を作製した。FSiNP中に含まれる蛍光物質をRu(bpy)
3とした。
【0046】
([Ru
II(bpy)
3]Cl
2・6H
2Oの合成)
以下のスキームに従い、[Ru
II(bpy)
3]Cl
2・6H
2O(以下、「[Ru(bpy)
3]Cl
2・6H
2O」ともいう。)を合成した。
【0047】
【化1】
【0048】
RuCl
3・nH
2O(フルヤ金属社製:Ru含有量40.92%)0.200g(0.76mmol)と2,2'−ビピリジン0.360gを混合し、エチレングリコール20cm
3に溶解した。アルゴンガスを通した後、
図5に示すプログラムでマイクロ波照射を行った。溶液を室温(25℃、以下同じ。)に放冷した後、ヘキサフルオロリン酸アンモニウム飽和水溶液中に注いで橙色の沈殿をろ別し、結晶を得た。この粗結晶をアセトニトリルに溶解し、ジエチルエーテルに少量ずつ滴下し、再結晶により[Ru(bpy)
3](PF
6)
2を得た(収率77.8%、水に難溶)。
【0049】
続いて陰イオン交換樹脂(ダウエックス1−X2)をミニカラムに詰め、イオン交換水、1M塩酸の順に2回ずつ洗浄を繰り返した。再結晶した[Ru(bpy)
3](PF
6)
2 0.04gをアセトニトリル5cm
3、水10cm
3の混合溶液に溶かしカラムに通した。溶液を減圧留去し、水溶性の赤色結晶[Ru(bpy)
3]Cl
2・6H
2Oを得た。収量は0.029g(収率:82.9%)であった。同定は元素分析、FAB−MSにて行った。それぞれの同定結果を表1および表2に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
(FSiNPの合成)
蛍光色素として[Ru(bpy)
3]
2+を包接した蛍光シリカナノ粒子を逆ミセル法(
図6)により合成した。
シクロヘキサン22.5cm
3、Triton X−100 5.4cm
3、1−ヘキサノール5.4cm
3の混合溶液に、0.02M[Ru(bpy)
3]水溶液1.50cm
3を少しずつ加え、超音波ホモジナイザーを用いて分散させた後、スターラーおよびスターラーチップを用いて室温で撹拌した(
図7)。1時間後、テトラエトキシシラン(TEOS)0.60cm
3、30%アンモニア水1.80cm
3を加え、室温で24時間撹拌を続けた。その後、反応液にアセトン1.0cm
3を加えて反応を終了させたところ、赤色透明であった反応液が懸濁した。懸濁液を遠心分離(10000rpm、10min)し、アセトン(2回)、エタノール(2回)、超純水(2回)でデカンテーションし粒子を洗った(
図8)。
【0053】
(FSiNP−APSの合成)
得られた粒子を以下のスキームに沿ってシランカップリング剤処理し、粒子表面にアミノ基を導入した。
【0054】
【化2】
【0055】
合成した蛍光シリカナノ粒子0.060gをメタノール(MeOH)10cm
3中に分散させ、三口フラスコに入れた。これに3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APS)0.24gをMeOH 10cm
3に混合した溶液を加え、撹拌した。さらに酢酸を3.0cm
3、イオン交換水7cm
3を加え、80°Cで加熱還流した。24時間後、溶液の一部を減圧留去し、残りの溶液と粒子の混合溶液を遠心分離し(10000rpm、10min)、デカンテーションにより粒子をMeOH、超純水の順に2回ずつ洗浄した。溶媒を出来る限り取り除いた後、真空乾燥し、デシケーター内で保存した。
【0056】
(dpa−HCCの合成)
以下のスキームに沿って、dpa−HCCを合成した。
【0057】
【化3】
【0058】
アセトニトリル30cm
3に2,2'−ジピコリルアミン(dpa)1.025g(5.04mmol)を溶解後、これに37%ホルムアルデヒド水溶液を0.441cm
3(5.04mmol)を加え、80℃で2時間加熱還流をおこなった。これに7−ヒドロキシクマリン−3−カルボン酸(HCC)1.072g(5.09mmol)をアセトニトリル30cm
3に溶解させたものを加え、激しく攪拌した。添加直後は白濁したが、攪拌をしていくことで黄色へと変化した。2時間攪拌したところ、淡黄色の沈殿物が析出した。溶媒を吸引濾過し、油状の淡黄色の沈殿物を得た。水/クロロホルム溶液で抽出をおこない、水相を取り除き有機層を回収した。回収した有機層をさらに水で2回洗浄した後、100℃で4時間加熱乾燥をおこない、淡黄色の粉末状固体としてdpa−HCCを得た。収量は1.306g、収率は62%であった。同定は
1H NMRと元素分析にておこなった。
1H NMR測定結果およびこれによる同定結果を
図9および表3に示す。また、元素分析による同定結果を表4に示す。
【0059】
【表3】
【0060】
【表4】
【0061】
(dpa−HCC/FSiNPの合成)
以下のスキームに沿って、粒子表面のアミノ基を介してdpa−HCCを粒子に固定化した。
【0062】
【化4】
【0063】
上述した方法で合成したdpa−HCC 42.7mgと、FSiNP−APS 106.0mgを50cm
3三角フラスコにはかり取り、MeOH 30cm
3に分散させ、室温下で攪拌した。DMT−MM(国産化学社製)29.7mgを溶液に加え、室温で16時間攪拌した。溶液の一部を減圧留去し、残りの溶液と粒子の混合溶液を遠心分離(10000rpm、10min)にかけ、デカンテーションにより、粒子をMeOH、精製水の順に2回ずつ洗浄した。溶媒を出来る限り取り除いた後真空乾燥し、デシケーター内で保存した。
【0064】
(実験例2)
本例では、実験例1で得られた粒子を用いて細菌(黄色ブドウ球菌:Staphylococcus aureus(S.a.))の捕集および検出をおこなった。
【0065】
(細菌の培養)
LB寒天培地用試薬の調製は以下の手順でおこなった。すなわち、Bacto-triptone(BD社製)10g、Bacto-yeast-extract(BD社製)5g、NaCl 10gをポリタンクに入れ、全量を1Lとし、室温でよく撹拌した。この溶液をAgar(和光純薬工業社製、細菌培地用)7.5gの入った三角フラスコに500mL加え、同じものをもう1つ調製した。
また、以下の手順でLBプレートを作製した。すなわち、溶液をオートクレーブに1hrかけ、液体滅菌を行った。その後、70〜60℃まで放冷させた。この時、寒天が底に沈殿している場合もあるので軽くゆすった。溶液が冷めないうちにシャーレに入れ、固まらせた。
細菌の培養は以下のようにした。白金耳をアルコール消毒し、炎であぶって殺菌した。冷凍してある黄色ブドウ球菌の表面をつついて一部をとり、プレートの寒天培地を傷つけないように線描した。線描した部分をさらに引き伸ばすように数回おこない、適当な間隔でコロニーが形成できるようにした。これを24hrインキュベートした。
その後、50cm
3のファルコンチューブに10cm
3のLB培地を加えた。これに、培養した細菌の1つのコロニーを爪楊枝でつつき、溶液にとかした。これを24hrインキュベートした。なお、この操作においても、アルコールおよびガスバーナーでの殺菌をおこなった。
培養した溶液(原液)を1/10倍に希釈に、600nmで吸光度測定を行った。換算係数から算出されたS.a.の菌数は3.65×10
9個であった。
【0066】
(dpa−HCC/FSiNPとS.a.との応答評価)
実験例1で得られた構造体の分散液およびその各種金属錯体(以下、これらを「プローブ」ともいう。)とS.a.との応答を見るため、6種類の液体試料を調製した。液体試料の全量は100μL(プローブ50μL+S.a.50μL)であり、そのうち10μを観察に使用した。
(試料1:
図10のA群に使用) dpa−HCC/FSiNP、Buffer、DAPI
(試料2:
図10のB群に使用) Zn−dpa−HCC/FSiNP、Buffer、DAPI
(試料3:
図11のC群に使用) Cu−dpa−HCC/FSiNP、Buffer
(試料4:
図11のD群に使用) Cu−dpa−HCC/FSiNP、Buffer、DAPI
【0067】
試料1〜試料4に配合した成分は、以下の通りである。
Buffer:LB培地から取り出した菌を遠心分離器により沈殿させ、溶液をBuffer(5mM HEPES(pH=7.3)/0.1M NaCl)で洗浄したもの。洗浄は3回行った。
DAPI:4',6-Diamidino-2-phenylindole dihydrochloride、励起波長360nm、蛍光波長460nm。
dpa−HCC/FSiNP:dpa−HCC/FSiNP複合体1mg、5mM HEPES(pH=7.3)、0.1M NaCl
Zn−dpa−HCC/FSiNP:dpa−HCC/FSiNP複合体1mg、5mM HEPES(pH=7.3)、5mM Zn(NO
3)
2、0.1M NaCl
Cu−dpa−HCC/FSiNP:dpa−HCC/FSiNP複合体1mg、5mM HEPES(pH=7.3)、5mM Cu(NO
3)
2、0.1M NaCl
【0068】
S.a.の培地に試料1〜試料4を加えて1時間インキュベートした後の様子を観察した。
結果を
図10および
図11に示す。
図10および
図11中のスケールバーは50μmを示す。
図10のA群およびB群、ならびに、後述する
図11のC群およびD群において、4つの像は、左から順に、微分干渉顕微鏡(Differential interference contrast:DIC)像、FSiNPによる蛍光染色像、(DAPIによる核染色時の)蛍光観察像、および、これらの像のマージ(重ね合わせ)である。
【0069】
図10は、dpa−HCC/FSiNP complex(A群、試料1)とZn−dpa−HCC/FSiNP complex(B群、試料2)の結果を示す図である。
図10より、S.a.にdpa−HCC/FSiNP complexを加えても凝集は見られなかった(A群)。一方、Zn−dpa−HCC/FSiNP complexを添加すると(B群)、凝集が見られた。これは認識部位をM−dpaと金属錯体にすることで、細菌表面のリン酸部位をとらえることができたことを意味する。
【0070】
また、
図11は、Cu−dpa−HCC/FSiNP complexについて結果を示す図である。
図11中のC群は試料3すなわちDAPI染色しなかったもの、D群は試料4すなわちDAPI染色したものであるが、どちらも大きな凝集体を形成した。
また、本発明者の検討により、dpa−HCCを粒子に固定化しない状態での評価において、Cu錯体はZn錯体よりもリン酸誘導体の選択性が高いことが明らかになった。本例において、シリカ粒子に修飾してマクロ構造にしても、同様の傾向が認められる結果となった。
また、
図10および
図11に示したスケールバーは50μmであり、細菌の凝集体はかなり大きいことがわかった。
【0071】
(実験例3)
本例では、実験例2で用いたCu−dpa−HCC/FSiNPとS.a.との相互作用の経時変化を観察した。
実験例2に準じて、S.a.培地に試料3のCu−dpa−HCC/FSiNPを添加し、0〜10min連続撮影をすることにより、複合体の形成の様子を観察した。
その結果、Cu−dpa−HCC/FSiNPの添加前ではS.aはブラウン運動していた。添加後、ある粒経まで凝集するが、凝集により動きが鈍くなり成長しなくなった。変化が見られなくなったため、懸濁すると再び大きな凝集体を形成した。
この結果より、凝集メカニズムとして、Cu−dpa−HCC/FSiNP添加後、細菌はある小規模の集団を形成し、外部刺激によりさらに大きく成長する。この凝集は3次元のネットワークを形成しており、大きく成長しない限り沈殿しないこともわかった。なお、凝集体は大きいものは肉眼でも観察できた。
【0072】
(実験例4)
本例では、実験例2で用いた試料1(dpa−HCC/FSiNP)および試料3(Cu−dpa−HCC/FSiNP complex)において、各試料濃度を固定するとともにS.a.の濃度を変化させて、凝集体の形成の有無を確認した。
S.a.の濃度(細菌数)は、以下の4種とした。
原液:4.6×10
9個(波長600nmで吸光度0.6)
1/10:4.6×10
8個
1/100:4.6×10
7個
1/1000:4.6×10
6個
【0073】
その結果、試料1(dpa−HCC/FSiNP)については、いずれの細菌濃度においても凝集体の形成は認められなかった。
一方、試料3(Cu−dpa−HCC/FSiNP complex)については、すべての細菌濃度において凝集体の形成が認められた。
【0074】
以上の各例の結果は、人工分子が細菌を認識し、細菌同士を連結させて捕集することに成功した世界で最初の報告例と言える。