【解決手段】孔版印刷技術を利用して、自己保形性を示すような粘度を印刷後に有する少なくとも1種類の粘性体を積層することによって三次元構造体を作成する装置であって、製版された孔版を作成する製版装置と、孔版の穿孔から粘性体を押し出すためのスキージと、孔版印刷に供される孔版とスキージとを用いて孔版印刷する孔版印刷部と、孔版印刷される被印刷物の印刷面の高さが一定に保たれるように被印刷物の印刷面の高さを調整する高さ調整機構と、孔版印刷に供される孔版と、孔版印刷に使用された使用済み孔版と、を含む製版用フィルムを搬送する孔版搬送機構と、を備える。
請求項1に記載の三次元構造体の作成装置において、前記三次元構造体が、組織再生を誘導するための細胞足場によって少なくとも構成されている、三次元構造体の作成装置。
請求項1乃至3のいずれか1つに記載の三次元構造体の作成装置において、前記少なくとも1種類の粘性体のうちの他の粘性体が、再生医療に供される細胞を含む、三次元構造体の作成装置。
請求項1乃至5のいずれか1つに記載の三次元構造体の作成装置において、前記粘性体は、常温のときに大略数100ポアズ乃至10000ポアズの粘度を有する、三次元構造体の作成装置。
請求項1乃至6のいずれか1つに記載の三次元構造体の作成装置において、前記孔版搬送機構は、ロール状に巻回された製版用フィルムを製版及び孔版印刷に供し、孔版印刷されたフィルムをロール状に巻き取って回収する、三次元構造体の作成装置。
請求項1乃至7のいずれか1つに記載の三次元構造体の作成装置において、前記孔版印刷される被印刷物の温度を制御する温度コントローラを備える、三次元構造体の作成装置。
請求項1乃至8のいずれか1つに記載の三次元構造体の作成装置において、孔版印刷前後での粘性体の温度を制御する温度コントローラを備える、三次元構造体の作成装置。
請求項1乃至9のいずれか1つに記載の三次元構造体の作成装置において、前記孔版印刷された粘性体のドット集合体以外の空隙部に補間液体を供給する補間液体供給装置と、前記供給された補間液体を固化させる固化装置と、をさらに備える、三次元構造体の作成装置。
請求項1乃至10のいずれか1つに記載の三次元構造体の作成装置において、孔版印刷すべき或る1層分に対応した粘性体のドット集合体が印刷された中間転写体が、さらに、前記孔版印刷に供される孔版と、前記被印刷物との間に介在配置されている、三次元構造体の作成装置。
請求項1乃至11のいずれか1つに記載の三次元構造体の作成装置において、可溶性及び接着性を持った薄層体が、孔版印刷によって形成される層間に介在配置される、三次元構造体の作成装置。
請求項13に記載の三次元構造体の作成方法において、前記三次元構造体が、組織再生を誘導するための細胞足場によって少なくとも構成されている、三次元構造体の作成方法。
請求項13乃至15のいずれか1つに記載の三次元構造体の作成方法において、前記少なくとも1種類の粘性体のうちの他の粘性体が、再生医療に供される細胞を含む、三次元構造体の作成方法。
請求項13乃至17のいずれか1つに記載の三次元構造体の作成方法において、前記粘性体は、常温のときに大略数100ポアズ乃至10000ポアズの粘度を有する、三次元構造体の作成方法。
請求項13乃至18のいずれか1つに記載の三次元構造体の作成方法において、前記孔版搬送ステップは、孔版搬送機構によって、ロール状に巻回された製版用フィルムを製版及び孔版印刷に供し、孔版印刷されたフィルムをロール状に巻き取って回収する、三次元構造体の作成方法。
請求項13乃至19のいずれか1つに記載の三次元構造体の作成方法において、温度コントローラによって、前記孔版印刷される被印刷物の温度を制御するステップをさらに備える、三次元構造体の作成方法。
請求項13乃至20のいずれか1つに記載の三次元構造体の作成方法において、孔版印刷前後での粘性体の温度を異ならせるよう制御するステップをさらに備える、三次元構造体の作成方法。
請求項13乃至21のいずれか1つに記載の三次元構造体の作成方法において、補間液体供給装置によって、前記孔版印刷された粘性体のドット集合体以外の空隙部に補間液体を供給するステップと、固化装置によって、前記供給された補間液体を固化させるステップと、をさらに備える、三次元構造体の作成方法。
請求項13乃至22のいずれか1つに記載の三次元構造体の作成方法において、孔版印刷すべき或る1層分に対応した粘性体のドット集合体が印刷されているとともに、前記孔版印刷に供される孔版と、前記被印刷物との間に介在配置されている中間転写体を用いて、前記粘性体のドット集合体を前記被印刷物に転写するステップをさらに備える、三次元構造体の作成方法。
請求項13乃至23のいずれか1つに記載の三次元構造体の作成方法において、可溶性及び接着性を持つとともに、孔版印刷によって形成される層間に介在配置される薄層体を、前記被印刷物に接着積層するステップをさらに備える、三次元構造体の作成方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2に開示されたインクジェット技術では、以下の理由により、三次元細胞足場を人工的に作成することは容易ではない。細胞足場材料として、生体適合性や生体吸収性等を有する材料、例えば、コラーゲンなどの天然高分子材料、あるいは、ポリ乳酸やポリグリコール酸やそれらの共重合体などの合成高分子材料が考えられている。細胞足場材料として考えられているこれらの高分子材料は、水のように粘度が非常に小さい液状の材料とは異なり、粘度が非常に高いゲル状の粘性体である。
【0006】
インクジェット技術は、粘度の小さい液状のインクから微細な液滴を作成して、被印字媒体に対して微細な液滴を直接に吹き付けるものである。ヘッドの構造には、ヒータに電圧を印加することで気泡を発生させ、インクを押し出すバブルジェット(登録商標)方式又はサーマルインクジェット方式と、ピエゾ素子の振動によりインクを押し出すピエゾ素子方式がある。
【0007】
インクジェット技術を利用して、微小なノズルを通じてゲル状の粘性体を吐出しようとしても、インクジェットヘッドのインクを押し出す力が微小な為、10センチポアズ(0.1ポアズ)以上の粘性物を吐出することは困難である。また、工業用途ではインク粘度を低下させるためにインクを加熱する手法が用いられるが、生体用の高分子材料を加熱すると、高分子材料の変質が起こってしまう。さらに、インクジェット技術において、粘度の高い材料を吐出できるような微小なノズルを複数個集積化することは、技術的に困難であるため、単一のノズルだけを用いた高粘度用インクジェットヘッドも存在するが、単一ノズルで三次元細胞足場を作成しようとすると、非常に時間がかかってしまう。細胞足場材料が複数種類の構成要素からなる場合、構成要素毎にノズルが必要になるとともに、使用されたノズルが使い捨てになるので、三次元細胞足場を作成するための費用が非常に高くなってしまう。したがって、インクジェット技術を利用して、粘度の高い高分子材料から三次元細胞足場を作成する装置や方法を実現することのハードルは、非常に高い。
【0008】
ところで、印刷技術の1つに孔版印刷技術があり、孔版印刷技術は、樹脂製フィルムと和紙やメッシュを貼り合わせた原紙のフィルム部分に微細な穿孔を開け、スキージを用いて当該穿孔からインクを押し出して印刷する技術である。発明者は、孔版印刷技術が、印刷インクという粘度の高いゲル状の粘性体を扱いながらも、スキージを用いて穿孔からインクを押し出すことで精緻な印刷を可能にする技術であることに着目し、当該孔版印刷技術を利用して三次元細胞足場すなわち三次元構造体を作成できないかと鋭意検討を行った。その結果、発明者は、この発明を完成させるに至った。
【0009】
したがって、この発明の解決すべき技術的課題は、孔版印刷技術を利用して、粘性体から三次元構造体を作成する装置及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記技術的課題を解決するために、この発明によれば、以下の三次元構造体の作成装置及び作成方法が提供される。
【0011】
すなわち、この発明の請求項1に係る三次元構造体の作成装置は、
孔版印刷技術を利用して、自己保形性を示すような粘度を印刷後に有する少なくとも1種類の粘性体を積層することによって三次元構造体を作成する装置であって、
孔版印刷すべき層に対応した穿孔を製版用フィルムに形成した製版された孔版を作成する製版装置と、
孔版の穿孔から粘性体を押し出すためのスキージと、
前記孔版印刷に供される孔版と前記スキージとを用いて前記粘性体を被印刷物に対して孔版印刷するための孔版印刷部と、
孔版印刷される被印刷物の印刷面の高さが一定に保たれるように前記被印刷物の印刷面の高さを調整する高さ調整機構と、
前記孔版印刷に供される孔版と、孔版印刷に使用された使用済み孔版と、を含む製版用フィルムを搬送する孔版搬送機構と、
を備えることを特徴とする。
【0012】
この発明の請求項2に係る三次元構造体の作成装置では、前記三次元構造体が、組織再生を誘導するための細胞足場によって少なくとも構成されていることを特徴とする。
【0013】
この発明の請求項3に係る三次元構造体の作成装置では、前記少なくとも1種類の粘性体のうちの1つの粘性体が、細胞足場材料を含むことを特徴とする。
【0014】
この発明の請求項4に係る三次元構造体の作成装置では、前記少なくとも1種類の粘性体のうちの他の粘性体が、再生医療に供される細胞を含むことを特徴とする。
【0015】
この発明の請求項5に係る三次元構造体の作成装置では、前記少なくとも1種類の粘性体のうちのさらに他の粘性体が、細胞増殖因子を含むことを特徴とする。
【0016】
この発明の請求項6に係る三次元構造体の作成装置では、前記粘性体は、常温のときに大略数100ポアズ乃至10000ポアズの粘度を有することを特徴とする。
【0017】
この発明の請求項7に係る三次元構造体の作成装置では、前記孔版搬送機構は、ロール状に巻回された製版用フィルムを製版及び孔版印刷に供し、孔版印刷されたフィルムをロール状に巻き取って回収することを特徴とする。
【0018】
この発明の請求項8に係る三次元構造体の作成装置では、前記孔版印刷される被印刷物の温度を制御する温度コントローラを備えることを特徴とする。
【0019】
この発明の請求項9に係る三次元構造体の作成装置では、孔版印刷前後での粘性体の温度を制御する温度コントローラを備えることを特徴とする。
【0020】
この発明の請求項10に係る三次元構造体の作成装置では、前記孔版印刷された粘性体のドット集合体以外の空隙部に補間液体を供給する補間液体供給装置と、前記供給された補間液体を固化させる固化装置と、をさらに備えることを特徴とする。
【0021】
この発明の請求項11に係る三次元構造体の作成装置では、孔版印刷すべき或る1層分に対応した粘性体のドット集合体が印刷された中間転写体が、さらに、前記孔版印刷に供される孔版と、前記被印刷物との間に介在配置されていることを特徴とする。
【0022】
この発明の請求項12に係る三次元構造体の作成装置では、可溶性及び接着性を持った薄層体が、孔版印刷によって形成される層間に介在配置されることを特徴とする。
【0023】
この発明の請求項13に係る三次元構造体の作成方法は、
孔版印刷技術を利用して、自己保形性を示すような粘度を印刷後に有する少なくとも1種類の粘性体を積層することによって三次元構造体を作成する方法であって、
a.孔版印刷すべき層に対応した穿孔を製版用フィルムに形成した製版された孔版を作成する製版ステップと、
b.スキージを用いて、前記製版された孔版の穿孔から粘性体を押し出して孔版印刷を行う孔版印刷ステップと、
c.孔版印刷される被印刷物の印刷面の高さが一定に保たれるように前記被印刷物の印刷面の高さを調整する高さ調整ステップと、
d.前記孔版印刷に供される孔版と、孔版印刷に使用された使用済み孔版と、を含む製版用フィルムを搬送する孔版搬送ステップと、
e.上記ステップaからステップdを繰り返す繰り返しステップと、
を備えることを特徴とする。
【0024】
この発明の請求項14に係る三次元構造体の作成方法では、前記三次元構造体が、組織再生を誘導するための細胞足場によって少なくとも構成されていることを特徴とする。
【0025】
この発明の請求項15に係る三次元構造体の作成方法では、前記少なくとも1種類の粘性体のうちの1つの粘性体が、細胞足場材料を含むことを特徴とする。
【0026】
この発明の請求項16に係る三次元構造体の作成方法では、前記少なくとも1種類の粘性体のうちの他の粘性体が、再生医療に供される細胞を含むことを特徴とする。
【0027】
この発明の請求項17に係る三次元構造体の作成方法では、前記少なくとも1種類の粘性体のうちのさらに他の粘性体が、細胞増殖因子を含むことを特徴とする。
【0028】
この発明の請求項18に係る三次元構造体の作成方法では、前記粘性体は、常温のときに大略数100ポアズ乃至10000ポアズの粘度を有することを特徴とする。
【0029】
この発明の請求項19に係る三次元構造体の作成方法では、前記孔版搬送ステップは、孔版搬送機構によって、ロール状に巻回された製版用フィルムを製版及び孔版印刷に供し、孔版印刷されたフィルムをロール状に巻き取って回収することを特徴とする。
【0030】
この発明の請求項20に係る三次元構造体の作成方法では、温度コントローラによって、前記孔版印刷される被印刷物の温度を制御するステップをさらに備えることを特徴とする。
【0031】
この発明の請求項21に係る三次元構造体の作成方法では、孔版印刷前後での粘性体の温度を異ならせるよう制御するステップをさらに備えることを特徴とする。
【0032】
この発明の請求項22に係る三次元構造体の作成方法では、補間液体供給装置によって、前記孔版印刷された粘性体のドット集合体以外の空隙部に補間液体を供給するステップと、固化装置によって、前記供給された補間液体を固化させるステップと、をさらに備えることを特徴とする。
【0033】
この発明の請求項23に係る三次元構造体の作成方法では、孔版印刷すべき或る1層分に対応した粘性体のドット集合体が印刷されているとともに、前記孔版印刷に供される孔版と、前記被印刷物との間に介在配置されている中間転写体を用いて、前記粘性体のドット集合体を前記被印刷物に転写するステップをさらに備えることを特徴とする。
【0034】
この発明の請求項24に係る三次元構造体の作成方法では、可溶性及び接着性を持つとともに、孔版印刷によって形成される層間に介在配置される薄層体を、前記被印刷物に接着積層するステップをさらに備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0035】
請求項1に係る発明では、精緻な印刷を可能にする孔版印刷技術を利用して、高粘度の粘性体を積層することにより、ミクロ構造とマクロ構造とを持った三次元構造体を作成することができるという効果を奏する。
【0036】
請求項2に係る発明では、再生医療分野における三次元構造体としての三次元細胞足場に適用されるという効果を奏する。
【0037】
請求項3に係る発明では、細胞足場材料を含む粘性体によって、組織構造を保持するための骨格としての三次元細胞足場が形成されるという効果を奏する。
【0038】
請求項4に係る発明では、三次元構造体が形成されるのに合わせて、再生医療に供される多種多様な細胞が三次元構造体に播種可能であるという効果を奏する。
【0039】
請求項5に係る発明では、三次元構造体に播種された細胞が増殖・分化するための環境が提供されるという効果を奏する。
【0040】
請求項6に係る発明では、常温のときに大略数100ポアズ乃至10000ポアズという広範囲の粘度を持った粘性体にも対応できるという効果を奏する。100ポアズ以下の低粘度材料には増粘剤を付加して増粘できるが、減粘剤はほとんど存在しないので、高い粘度に対応出来る事は重要である。
【0041】
請求項7に係る発明では、ロール状の製版用フィルムに形成された孔版を連続的に搬送できるため、高精度な位置決めと低コストな搬送とが可能になるという効果を奏する。
【0042】
請求項8に係る発明では、被印刷物の温度を制御することにより、三次元構造体の形状を維持できるという効果を奏する。
【0043】
請求項9に係る発明では、粘性体の温度(すなわち、粘度)を制御することにより、孔版の穿孔から押し出された粘性体のドットを、すでに孔版印刷された被印刷物に積層しやすくなるという効果を奏する。
【0044】
請求項10に係る発明では、補間液体によるレベリングで、その後に続く孔版印刷が容易になるとともに、空隙部にも孔版印刷ができるという効果を奏する。
【0045】
請求項11に係る発明では、高精度に且つ一気に孔版印刷が行われて孔版印刷される各1層の形態安定性を向上させるという効果を奏する。
【0046】
請求項12に係る発明では、薄層体が接着積層時の支持体として機能し、層間に残存した薄層体によって粘性体同士が結びつけられて、三次元構造体の形態が安定化するという効果を奏する。
【0047】
請求項13に係る発明では、精緻な印刷を可能にする孔版印刷技術を利用して、高粘度の粘性体を積層することにより、ミクロ構造とマクロ構造とを持った三次元構造体を作成することができるという効果を奏する。
【0048】
請求項14に係る発明では、再生医療分野における三次元構造体としての三次元細胞足場に適用されるという効果を奏する。
【0049】
請求項15に係る発明では、細胞足場材料を含む粘性体によって、組織構造を保持するための骨格としての三次元細胞足場が形成されるという効果を奏する。
【0050】
請求項16に係る発明では、三次元構造体が形成されるのに合わせて、再生医療に供される多種多様な細胞が三次元構造体に播種可能であるという効果を奏する。
【0051】
請求項17に係る発明では、三次元構造体に播種された細胞が増殖・分化するための環境が提供されるという効果を奏する。
【0052】
請求項18に係る発明では、常温のときに大略数100ポアズ乃至10000ポアズという広範囲の粘度を持った粘性体にも対応できるという効果を奏する。100ポアズ以下の低粘度材料には増粘剤を付加して増粘できるが、減粘剤はほとんど存在しないので、高い粘度に対応出来る事は重要である。
【0053】
請求項19に係る発明では、ロール状の製版用フィルムに形成された孔版を連続的に搬送できるため、高精度な位置決めと低コストな搬送とが可能になるという効果を奏する。
【0054】
請求項20に係る発明では、被印刷物の温度を制御することにより、三次元構造体の形状を維持できるという効果を奏する。
【0055】
請求項21に係る発明では、粘性体の温度(すなわち、粘度)を制御することにより、孔版の穿孔から押し出された粘性体のドットを、すでに孔版印刷された被印刷物に積層しやすくなるという効果を奏する。
【0056】
請求項22に係る発明では、補間液体によるレベリングで、その後に続く孔版印刷が容易になるとともに、空隙部にも孔版印刷ができるという効果を奏する。
【0057】
請求項23に係る発明では、高精度に且つ一気に孔版印刷が行われて孔版印刷される各1層の形態安定性を向上させるという効果を奏する。
【0058】
請求項24に係る発明では、薄層体が接着積層時の支持体として機能し、層間に残存した薄層体によって粘性体同士が結びつけられて、三次元構造体の形態が安定化するという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0060】
以下、図面を参照しながら三次元構造体3の作成装置1及びその作成方法を説明する。なお、説明の都合上、
図2等において矢印で示しているように、製版用フィルム21が略水平方向に搬送されるフィルム搬送方向TをX方向と、フィルム搬送方向Tの紙面直交方向をY方向と、フィルム搬送方向Tと上下に直交する方向をZ方向と、それぞれ、呼ぶ。
【0061】
また、この出願において、粘性体32のドット集合体が被印刷物5の上に付着するということは、粘性体32のドット集合体が基材16上に直接に付着することと、基材16上にすでに付着している、細胞足場材料を含有する粘性体32、細胞を含有する粘性体32、及び細胞増殖因子を含有する粘性体32の上に、それぞれ、同一種類の粘性体32のドット集合体がさらに付着することと、を含む広い概念である。したがって、この出願において、被印刷物5というのは、基材16と、基材16上にすでに付着している粘性体32との両方を指している。
【0062】
まず、
図1乃至3を参照しながら、第1実施形態に係る三次元構造体3の作成装置1及びその作成方法を説明する。
図1は、三次元構造体3の作成装置1のブロック図である。
図2は、第1実施形態に係る三次元構造体3の作成装置1の構成を示す模式図である。
図3は、第1実施形態に係る三次元構造体3の作成方法を説明するフローチャートである。
【0063】
(三次元構造体の作成装置の構成)
この三次元構造体3の作成装置1は、孔版印刷技術を利用して、自己保形性を示すような粘度を印刷後に有する少なくとも1種類の粘性体32のドット集合体を積層することによって三次元構造体3を作成する装置である。三次元構造体3の作成装置1は、基材16が載置されるステージ10と、孔版印刷技術によって粘性体32のドット集合体を被印刷物5上に形成するための孔版印刷機構20と、ステージ10を孔版印刷部30に対して相対的に移動するステージ移動機構12と、ステージ10を昇降するステージ昇降機構(高さ調整機構)14と、を備える。
【0064】
図1に示すように、三次元構造体3の作成装置1は、三次元構造体3を複数の層にスライスして得られる2次元の断層化データを編集するホストCPU、各種データ処理及び装置の各種動作の制御を行うCPU(中央演算処理装置)、及び、各種データを記憶するメモリ等により構成されるコントローラをさらに有する。CPUは、製版装置24、孔版搬送機構40、孔版印刷機構20、スキージ移動機構、ステージ移動機構12及びステージ昇降機構14に接続されていて、製版信号、孔版搬送信号、スキージ駆動信号、ステージ移動(X方向及びY方向)信号及びステージ昇降信号を出力する。CPUが制御部としての役割を果たすことにより、三次元構造体3の作成装置1による三次元構造体3の作成方法が実行される。メモリは、ROM(リードオンリーメモリ)、RAM(ランダムアクセスメモリ)、EEPROM(電気的に消去書き込み可能なメモリ)によって構成される。なお、メモリは、磁気ディスクや光ディスク等の記憶デバイスであってもよい。また、操作パネル上に設けられたスイッチ類、タイマ、カウンタ、各種のモータ、及び各種センサが、I/Oポートを介して、CPUに接続されている。操作パネルを用いて、三次元構造体3の作成条件や設定情報が入力されたり、作成者に必要とされる情報が表示されたりする。操作パネルには、三次元構造体3を作成するための一連の動作を開始するためのスタートボタンが設けられている。
【0065】
孔版印刷機構20は、
図2に示すように、マスターロール22と、製版装置24と、孔版印刷部30と、一対のテンションローラ26,27と、回収ロール23と、孔版搬送機構40と、を備えている。マスターロール22には、孔版印刷に供される製版用フィルム21が巻回されている。製版装置24では、プラテンローラ25によって製版用フィルム21がサーマルヘッド24に押し当てられ、サーマルヘッド24の加熱によって製版用フィルム21に対して穿孔が形成されて製版が行われる。孔版印刷部30では、製版された孔版を用いて孔版印刷が行われる。一対のテンションローラ26,27によって、孔版印刷部30にテンションが与えられる。回収ロール23によって、孔版印刷に使用された使用済み孔版を含む製版用フィルム21が巻き取られて回収される。孔版搬送機構40によって、製版された孔版33と使用済み孔版を含む製版用フィルム21が搬送される。
【0066】
三次元構造体3の作成装置1は、細胞足場(スキャフォールド:Scaffold)となる細胞足場材料(例えば、ゼラチン)を含有する粘性体32を貯蔵するためのタンク(図示しない)と、細胞足場材料を含有する粘性体32を当該タンクから製版された孔版33上でのスキージ31近傍に供給するチューブと、を少なくとも備えている。
【0067】
三次元構造体3は、細胞足場単体として形成することもでき、また、細胞や細胞増殖因子等を含有する細胞足場として形成することもできる。すなわち、三次元構造体3は、少なくとも細胞足場という構成要素を含んでいる。さらに、細胞足場や細胞や細胞増殖因子等のそれぞれが、複数種類の構成要素からなる場合であってもよい。
【0068】
細胞足場の層に加えて細胞の層や細胞増殖因子の層を作成する場合、三次元構造体3の作成装置1は、細胞を含有する粘性体32や細胞増殖因子を含有する粘性体32を入れるための複数のタンクと、複数のスキージ31と、をさらに備える。複数のタンクにおいては、それぞれ、細胞足場材料を含有する粘性体32、細胞を含有する粘性体32、及び細胞増殖因子を含有する粘性体32が別々に貯蔵されている。また、同じ用途の粘性体32であっても、粘性体32が異なる構成要素からなるものには、別個・独立のタンクが割り当てられる。
【0069】
製版用フィルム21としては、2軸延伸された熱可塑性樹脂フィルム単体や、インキ透過性の多孔質支持体やメッシュに対して有機系接着剤を用いて2軸延伸された熱可塑性樹脂フィルムを貼り合わせたものを用いることができる。2軸延伸された熱可塑性樹脂フィルムの代表的な例として、ポリエチレン・テレフタレート、ポリ塩化ビリニデン・塩化ビニル共重合体、又はポリプロピレンなどがある。
【0070】
マスターロール22に巻回された製版用フィルム21は、プラテンローラ25によりサーマルヘッド24に押し当てられて、製版用フィルム21がサーマルヘッド24に対して線状に接触する。サーマルヘッド24の薄膜ヒータは、製版信号によって駆動され、加熱する。その結果、製版用フィルム21には、穿孔が形成されて製版される。マスターロール22から回収ロール23への製版用フィルム21の搬送は、孔版搬送機構40が行う。孔版搬送機構40は、フィルム搬送モータ(例えば、ステッピングモータ)を有して、フィルム搬送モータが回転することにより、製版用フィルム21が
図2でのX方向に移動して、製版された孔版33の位置を位置検出センサで検出しながら、孔版印刷に供される孔版や孔版印刷に使用された使用済み孔版や次の孔版印刷すべき層に対応した他の孔版等の位置がそれぞれ制御される。
【0071】
ステージ移動機構12は、ステージ10を
図2でのX方向に移動するX方向移動機構、及び、Y方向に移動するY方向移動機構を有する。X方向移動機構は、X方向ステージ移動モータ(例えば、ステッピングモータ)にボールねじが接続され、X方向ステージ移動モータが回転することにより、Y方向移動機構がガイドレールに沿って
図2でのX方向に移動する。Y方向移動機構もX方向移動機構と同様の構成となっており、Y方向ステージ移動モータ(例えば、ステッピングモータ)が回転するとボールねじによりステージ10がガイドレールに沿ってY方向に移動する。その結果、ステージ10のX方向の位置及びY方向の位置が独立して高精度に制御される。また、ステージ移動機構12はステージ昇降モータを有するステージ昇降機構14で支持されており、ステージ昇降モータでステージ10が駆動されることにより、ステージ10における基材16の上面17又は被印刷物5の印刷面35の高さを高さ検出センサで検出しながら、ステージ10における印刷面35の高さが制御される。
【0072】
製版用フィルム21上に設けられる孔版印刷部30は、孔版印刷すべき層に対応するように製版された孔版33と、当該製版された孔版33の上面で略水平方向に摺動するように構成されたスキージ31と、製版された孔版33上でのスキージ31近傍に供給された粘性体32と、を含んでいる。
【0073】
細胞足場材料の層が異なる複数種類の構成要素からなる場合、異なる複数種類の構成要素に対応した複数の孔版印刷部30が、製版用フィルム21上において、
図2でのY方向に沿って離間して形成される。また、細胞足場材料の層に加えて細胞の層や細胞増殖因子の層が作成される場合においても、細胞足場材料や細胞や細胞増殖因子がそれぞれ異なる複数種類の構成要素として存在するため、異なる複数種類の構成要素に対応した複数の孔版印刷部30が、製版用フィルム21上において、
図2でのY方向に沿って離間して形成される。さらに、細胞の層や細胞増殖因子の層が異なる複数種類の構成要素からなる場合においても、異なる複数種類の構成要素に対応した複数の孔版印刷部30が、製版用フィルム21上において、
図2でのY方向に沿って離間して形成される。
【0074】
異なる複数種類の構成要素のそれぞれに対応した複数の孔版印刷部30が、製版用フィルム21上に設けられる構成において、ステージ10又は孔版印刷機構20のいずれかがY方向に移動する。
【0075】
スキージ移動機構は、スキージ31を略水平方向(例えば、
図2でのX方向)に移動させるスキージ駆動モータと、スキージ31をZ方向に移動させるスキージ昇降モータと、を備える。孔版印刷時には、スキージ昇降モータを駆動して、スキージ31の下端が製版された孔版33の上面に当接するまでスキージ31を下降させ、製版された孔版33の下面が被印刷物5の印刷面35に押し当てられた状態で、スキージ31を略水平方向(例えば、
図2でのX方向)に移動させる。これによって、製版された孔版33の各穿孔を通じて粘性体32のドットが押し出されて、粘性体32のドット集合体が被印刷物5の上に印刷される。
【0076】
三次元構造体3を作成する場合、実際の組織や臓器等を例えばCT(Computed Tomography)によって複数の層に断層化した2次元の断層化データ、あるいは、造形しようとする三次元構造体3を複数の層にスライスして得られる2次元の断層化データをマクロな情報とし、細胞寸法レベルで得られた微細領域の細胞足場材料や細胞増殖因子の構成知見をミクロな情報としてこれらの情報を混合して使用される。2次元の断層化データは、細胞足場に対応する部分、細胞に対応する部分、細胞増殖因子に対応する部分等のように、複数種類の構成要素についての2次元の断層化データにホストCPUによって編集される。編集された2次元の断層化データは、メモリに保存される。ここで、CTとは、X線を用いたCTに限られず、SPECT(Single Photon Emission CT)、PET(Positron Emission Tomography)、MRI(Magnetic Resonance Imaging)等を含む広義のCTを意味する。各断層化データのうちZ方向での1層分の断層化データに基づいて、その1層分に相当する三次元構造体3の一部分が形成される。そして、各層毎の断層化データに基づいて、層形成を繰り返すことで、三次元構造体3の全体を作成することができる。
【0077】
構成要素についての各層の2次元の断層化データは、CPUによって製版信号に変換されて、製版信号が薄膜ヒータに選択的に入力される。そして、製版信号(すなわち、製版電力)が印加されたサーマルヘッド24の薄膜ヒータが急速に昇温して、薄膜ヒータが個別に加熱されて、局所的に高温になる。すなわち、ドット情報に対応する場所は高温に加熱され、ドット情報に対応しない場所は比較的低温の非加熱部となる。
【0078】
サーマルヘッド24は、プラテンローラ25により製版用フィルム21に対して押し当てられて、製版用フィルム21に対して主走査方向(フィルム搬送方向Tに直交する方向:Y方向)に線状接触している。したがって、サーマルヘッド24における局所的な熱は、製版用フィルム21に対して熱伝導され、熱伝導された局所的な熱は、サーマルヘッド24と接触した製版用フィルム21を局所的に溶融させる。所定時間加熱したあと加熱を止めると、製版用フィルム21が急速に冷却され、熱可塑性樹脂フィルムでの溶融部分が熱収縮をして、熱可塑性樹脂フィルムにドット状の穿孔が形成される。製版用フィルム21においては、ドット情報に対応する各箇所のみにドット状の穿孔が形成され、ドット情報に対応しない箇所には穿孔が形成されない。したがって、ドット情報に応じた微細なドット状の穿孔が主走査方向(Y方向)に形成される。孔版33に形成される穿孔の開口径は、例えば、約20μmである。
【0079】
製版用フィルム21において主走査方向(Y方向)に穿孔を形成したあと、フィルム搬送モータにより高精度に回転の制御されたプラテンローラ25を回動させると、製版用フィルム21は副走査方向(フィルム搬送方向T:X方向)に所定のピッチで搬送される。上記と同様にして、ドット情報に応じた各薄膜ヒータに電力が供給されて、製版用フィルム21上にドット状の穿孔が順次形成され、孔版印刷に供される孔版が作成される。孔版印刷に供される孔版は、フィルム搬送モータにより孔版印刷位置に搬送される。CPUの制御に応じて、製版された孔版33及びステージ10がそれぞれ所定の位置に位置決めされる。ステージ10での印刷面35の高さ位置は、
図2でのZ方向において1層分の孔版印刷が行われている間は固定されるが、次の層を形成するときには、孔版印刷が行われた1層分の高さ分だけ低くなるように制御される。
【0080】
(三次元構造体を作成するための材料)
三次元構造体3の作成装置1においては、孔版印刷技術を利用して、細胞足場材料(生体適合性や生体吸収性等を有する高分子材料)を含有する粘性体32を積層することにより、ミクロ構造とマクロ構造とを持った三次元構造体3(すなわち少なくとも三次元細胞足場を含む)が作成される。基材16としては、例えば、ガラス、樹脂、金属等でできた容器、平板、フィルム、膜等が挙げられる。具体的には、培養用ディッシュ等の培養容器、スライドガラス、ペトリ皿等を用いることができる。
【0081】
三次元構造体3は、少なくとも細胞足場材料を含有する。三次元構造体3は、再生医療に供される細胞をさらに含有することができる。三次元構造体3は、当該細胞とともに細胞増殖因子を含有することができる。
【0082】
細胞足場材料としては、生体組織において細胞外マトリックスを構成する物質を用いることができる。細胞外マトリックスとは、生体組織中の細胞の外側に存在する安定な生体構造物を言い、細胞接着活性を有し、細胞が三次元構造を形成するときの構造支持体として働く。また、細胞外マトリックスは、細胞の形、細胞移動、細胞増殖、細胞内代謝、細胞分化等を調節する作用も有する。細胞足場材料は、三次元細胞足場が完成後に生体内に埋設されると、徐々に分解されて、最終的には細胞から分泌される本来の足場材に置き換わるべきものであるので、生物分解性を有していることが好ましい。細胞外マトリックスを構成する物質として、コラーゲン、エラスチン、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン、糖蛋白質等の高分子材料を挙げることができる。細胞足場材料として、上記の物質及びコラーゲンの変性物であるゼラチンを用いることができる。細胞足場材料は、そのままの状態で使用することができ、例えば、生理食塩水、培地、緩衝液に溶解させた状態で使用することもできる。
【0083】
細胞足場材料は、単一種類の構成要素を用いたり、複数種類の構成要素を用いたりすることができる。複数種類の構成要素からなる場合、各構成要素は、別個・独立したタンクから、製版された孔版33上でのスキージ31近傍に別個・独立して供給される。
【0084】
三次元細胞足場に播種される細胞は、作成しようとする三次元構造体3(すなわち、組織や臓器)に応じて適宜に選択される。例えば、外胚葉、中胚葉又は内胚葉に由来する分化細胞や幹細胞を用いることができる。さらに具体的には、例えば、血管内皮細胞、表皮細胞、平滑筋細胞、骨細胞、軟骨細胞、骨格筋芽細胞、膵実質細胞、膵管細胞、肝細胞、血液細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、骨芽細胞、神経細胞、色素細胞、脂肪細胞等を用いることができる。また、幹細胞としては、表皮幹細胞、毛嚢幹細胞、膵(共通)幹細胞、肝幹細胞、神経幹細胞、網膜幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞などの組織幹細胞、胚性幹細胞(ES細胞)、iPS細胞(induced pluripotent stem cell)等を用いることができる。
【0085】
細胞は、例えば、MEM培地、αMEM培地、DME培地、BME培地、IMEM培地、RPMI培地、ES培地等の通常細胞培養に用いられる培地や生理食塩水、緩衝液等に懸濁した粘性体32として用いられる。
【0086】
複数種類の細胞を含有する三次元構造体3(すなわち、組織)を作成しようとする場合、複数種類の細胞をさらに用いることができる。例えば、血管を形成する場合、血管内皮細胞及び平滑筋細胞を用いることができる。細胞は、生体組織から単離して培養したものや、幹細胞から分化・増殖させたものを用いることができる。複数種類の細胞を用いる場合、それらは、別個・独立したタンクから、製版された孔版33上でのスキージ31近傍に別個・独立して供給される。
【0087】
さらに、細胞を含有する三次元構造体3(すなわち、組織)を作成しようとする場合、細胞増殖因子やサイトカインをさらに用いることができる。細胞増殖因子は、細胞の増殖を促進または制御する物質であり、サイトカインは、細胞から産生され同種の又は異種の細胞に作用する生理活性物質である。細胞増殖因子としては、例えば、血小板由来増殖因子(PDGF)、上皮増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、インシュリン等が挙げられる。また、サイトカインとしては、インターロイキン類、ケモカイン類、コロニー刺激因子などの造血因子、腫瘍壊死因子、インターフェロン類等が挙げられる。この発明においては、これらの細胞の増殖に効果がある物質を総称して細胞増殖因子と呼んでいる。複数種類の細胞増殖因子を用いる場合、それらは、別個・独立したタンクから、製版された孔版33上でのスキージ31近傍に別個・独立して供給される。
【0088】
細胞足場材料を含有する粘性体32、細胞を含有する粘性体32、及び細胞増殖因子を含有する粘性体32のそれぞれは、例えば、常温のときに大略数100ポアズ乃至10000ポアズ(すなわち、数10Pa・s乃至1000Pa・s)の粘度を有するように調整される。そして、これらの粘性体32は、孔版印刷した後に自己保形性を示すような高い粘度を有している。
【0089】
タンクに貯蔵された粘性体32は、タンクに接続されたチューブを介して、製版された孔版33上でのスキージ31近傍に供給される。押し出される粘性体32のドット直径は、製版された孔版33に形成された穿孔の開口径に依存して、例えば、数μm乃至数十μmである。また、押し出される粘性体32のドット高さは、粘性体32の粘度や表面張力に依存して、通常、ドット直径よりも小さくなる。
【0090】
細胞足場材料を含有する粘性体32、細胞を含有する粘性体32、及び細胞増殖因子を含有する粘性体32を貯蔵した各タンクは、約37℃を中心とした所定温度に保たれていることが好ましい。上記粘性体32は、その温度が低下すると粘性が高くなって、押し出される粘性体32のドット集合体が、孔版印刷の際にすでに付着している被印刷物5から分離しにくくなって次の孔版印刷の妨げになるので、被印刷物5よりも高温の所定温度に保つことが望ましい。
【0091】
なお、細胞を含有する粘性体32を使用する場合、製版された孔版33の穿孔から押し出される、細胞を含有する粘性体32のドットには、1個の細胞が含まれていることが望ましい。また、細胞を含有する粘性体32を使用する場合、当該粘性体32を貯蔵するタンクは、細胞の死滅を避けるため、40℃以下の温度に保つことが望ましい。なお、タンクから粘性体32が供給される孔版印刷部30も、タンクと実質的に同じ温度に保つことが望ましい。また、被印刷物5上に付着した粘性体32のドット集合体がスムーズに分離できるように、ステージ10は、温度調節装置19を備えて、ステージ10上に載置された基材16が孔版印刷部30よりも低温に保たれていることが望ましい。
【0092】
したがって、粘性体32が貯蔵されるタンクと、粘性体32が供給される孔版印刷部30と、基材16及び被印刷物5が配置されるステージ10とは、それぞれ、所定の温度に保たれるように、温度コントローラや温度センサを用いて、温度管理されている。
【0093】
(三次元構造体を作成するための方法)
ホストCPUは、三次元構造体3(すなわち少なくとも三次元細胞足場を含む)を構成する構成要素として複数種類の構成要素が存在する場合、全ての構成要素についての全ての層の2次元の断層化データ(ドット情報)を演算する。CPUは、演算された断層化データ(ドット情報)がメモリに読み込まれるように制御する。CPUは、ある構成要素についての第1層目の断層化データ(ドット情報)に基づいて、サーマルヘッド24を加熱することにより、製版用フィルム21の所定の場所にドット状の穿孔を形成し、孔版印刷に供される孔版の製版を行う(
図3におけるステップ#10)。
【0094】
CPUは、製版された孔版33を含む製版用フィルム21が、孔版搬送機構40によって搬送され、製版された孔版33の位置を位置検出センサで検出しながら、製版された孔版33が所定の孔版印刷位置で停止するように制御する。それとともに、CPUは、ステージ10上に載置された基材16が、ステージ昇降機構14によって上昇し、基材16の上面17の高さを高さ検出センサで検出しながら、基材16の上面17が所定の印刷面35の高さ位置で停止するように制御する。また、CPUは、ステージ10上に載置された基材16が、ステージ移動機構12によって、基材16が所定の孔版印刷位置に位置するように制御する。製版された孔版33及びステージ10の位置決めがなされると、CPUは、スキージ31が、製版された孔版33に当接するまで下降したあと、フィルム搬送方向T(X方向)に摺動するように制御する。スキージ31によって製版された孔版33の各穿孔を通じて押し出された粘性体32のドット集合体は、基材16の上に付着して、製版された孔版33から離れる。ある構成要素についての第1層目の断層化データに対応したドット集合体が、基材16の上に付着して孔版印刷される(
図3におけるステップ#11)。また、CPUは、スキージ31が、製版された孔版33から離れるように上昇したあと、フィルム搬送方向T(X方向)の逆方向に移動するように制御する。
【0095】
CPUは、孔版印刷後、ステージ10が、孔版印刷に使用された使用済み孔版から離間するように、一旦、下降するように制御する(
図3におけるステップ#12)。
【0096】
CPUは、使用済み孔版を含む製版用フィルム21が、孔版搬送機構40によってフィルム搬送方向T(X方向)に搬送され、回収ロール23に巻き取られて回収されるように制御する(
図3におけるステップ#13)。そして、ある構成要素についての第1層目の孔版印刷が完了する。なお、三次元構造体3を構成する構成要素として他の構成要素が存在する場合、当該他の構成要素についても、上述したステップ#10乃至ステップ#13と同様の動作が行われる。
【0097】
CPUは、カウンタによる積層数の計数を制御し、CPUは、積層数が所定の数であるか否かを判断する(
図3におけるステップ#14)。CPUは、積層数が所定の数に達しているならば、作成プロセスが終了するように制御する。CPUは、積層数が所定の数に達していないならば、次の第2層目を孔版印刷するべく、ある構成要素についての第2層目の断層化データを読み込むステップに戻るように制御する。以下、上述したステップ#10乃至ステップ#14が繰り返される。
【0098】
なお、第2層目以降の層を孔版印刷するときの被印刷物5(すなわち、基材16上にすでに付着している粘性体32での上面)の印刷面35の高さ位置は、その直前に孔版印刷された層の高さ分を差し引いた高さになるように調整される。したがって、CPUは、孔版印刷を用いて層の形成が行われる毎に、被印刷物5の印刷面35の高さが一定に保たれるように、ステージ10の高さ(すなわち、被印刷物5の印刷面35の高さ)を調整する。
【0099】
CPUは、全ての層についての断層化データに基づいて、ステージ10を各層ごとに所定の高さで下降させて、1層分ずつ、上記で説明した動作を繰り返すように制御する。したがって、第1実施形態においては、孔版印刷技術を用いて粘性体32の微細なドット集合体を押し出すことによって所望のミクロ構造が作成されるとともに、孔版印刷プロセスを繰り返すことによって粘性体32の微細なドット集合体が積層された所望のマクロ構造が作成される。
【0100】
三次元構造体3の作成方法によれば、
図11に示すような、ミクロ構造とマクロ構造とを持った三次元構造体3(すなわち少なくとも三次元細胞足場を含む)を自在に作成することができる。そして、
図10に示すように、三次元細胞足場に対して、細胞や細胞増殖因子を組み入れることによって、種々の人工の組織や臓器や器官を作成することが可能になる。すなわち、三次元構造体3は、例えば、皮膚、血管、心筋、筋肉、角膜、腎臓、心臓、肝臓、臍帯、腸、神経、肺、胎盤、膵臓、脳、関節、骨、軟骨、四肢末梢、網膜等に適用することができる。得られた組織や臓器や器官は、損傷した組織等の補修や移植等に用いることができる。
【0101】
次に、
図1、4A、4B及び5を参照しながら、第2実施形態に係る三次元構造体3の作成装置1及びその作成方法を説明する。なお、第2実施形態の特徴部分を除く他の構成は上述した第1実施形態と同じであるので、第2実施形態の特徴部分については詳細に説明するが、特徴部分以外の他の構成に関する説明を省略する。
図4Aは、第2実施形態に係る三次元構造体3の作成装置1の構成を示す模式図である。
図4Bは、
図4Aに示した三次元構造体の作成装置の動作を説明する模式図である。
図5は、第2実施形態に係る三次元構造体3の作成方法を説明するフローチャートである。
【0102】
第2実施形態は、粘性体32のドットが形成されない空隙部6を補間液体7で埋めることによって、粘性体32の層が形成された印刷面35を平坦化するとともに、空隙部6においてもそれ以降に積層される層の粘性体32のドットが形成できるようにしていることを特徴としている。
【0103】
(補間液体を用いた、三次元構造体の作成装置の構成)
図4Aに示すように、第2実施形態では、三次元構造体3の作成装置1は、補間液体供給装置45及び固化装置49をさらに備えている。補間液体供給装置45は、低粘度で流動性の高い補間液体7を、粘性体32のドットが形成されない空隙部6に対して充填するための装置である。固化装置49は、空隙部6に充填された補間液体7を素早く固化するための装置である。
【0104】
補間液体供給装置45は、粘度の小さい補間液体7を貯蔵するためのタンク46と、孔版印刷機構20で粘性体32の層が印刷された印刷面35において粘性体32の層が形成されない空隙部6に対して微少量の補間液体7を吐出するノズル48と、タンク46とノズル48との間を接続するチューブ47と、を少なくとも備えている。すなわち、補間液体供給装置45は、ノズル48から微少量の補間液体7を特定の場所に向けて吐出するように構成されている。ノズル48から吐出される補間液体7は、水のように低粘度の液体であるので、ノズル48の先端に取り付けられるヘッドとして、例えばピエゾ方式やサーマル方式のインクジェットヘッドが利用可能である。なお、補間液体供給装置45は、被印刷物5の周囲に適量の補間液体7を供給して、皿状の基材16の内側に形成される液溜まりが印刷面35と同じレベルになるように構成してもよい。
図4Bに示すように、補間液体供給装置45は、ステージ10をステージ昇降機構14によって下降させたとき、被印刷物5に向けてX方向に移動することができるように構成されている。また、タンク46の位置を固定し、ノズル48のみをX方向に移動させてもよい。
【0105】
補間液体7としては、三次元構造体3を作成するための粘性体32よりもかなり低粘度の液体が使用可能であり、例えば、水や生理食塩水である。これらの液体は、常温でおおよそ0.01ポアズ(0.001Pa・s)の粘度を有する。なお、低粘度の補間液体7は、流動性を有しているため、液体状態を保って固化するまでの時間を長くする(液体を吐出してから固化するタイミングを遅らす)ことにより、所定の場所以外のところに吐出しても、液面36が平坦になるように流動する。そして、補間液体7の流動によって、液面36(すなわち、粘性体32の層の印刷された印刷面35)が平坦化された後に、補間液体7を固化すればよい。したがって、補間液体供給装置45は、固化タイミングを遅らす制御の場合にはノズル48を正確に位置決めすることを必ずしも要しない。
【0106】
皿状の基材16を囲むように、固化装置49が配置されている。固化装置49は、温度センサによって測定された基材16の温度に基づいて、吐出された補間液体7を素早く固化するような温度(すなわち、凝固点温度以下)に基材16を温度調節する機能を有する。したがって、固化装置49は、所定の固化温度に保たれるように、温度コントローラや温度センサを用いて、温度管理されている。空隙部6を埋めて固化した補間液体7は、次の層を形成するための支持体として機能する。
【0107】
(補間液体を用いて、三次元構造体を作成するための方法)
ホストCPUは、三次元構造体3(すなわち少なくとも三次元細胞足場を含む)を構成する構成要素として複数種類の構成要素が存在する場合、全ての構成要素についての全ての層の2次元の断層化データ(ドット情報)を演算する。CPUは、演算された断層化データ(ドット情報)がメモリに読み込まれるように制御する。また、ホストCPUは、構成要素の粘性体32のドットが形成されない空隙部6に補間液体7を吐出するための全ての層についての2次元の断層化データ(ドット情報)を演算する。CPUは、演算された断層化データ(ドット情報)がメモリに読み込まれるように制御する。CPUは、ある構成要素についての第1層目の断層化データ(ドット情報)に基づいて、孔版印刷に供される孔版の製版を行う(
図5におけるステップ#20)。
【0108】
CPUは、ある構成要素についての第1層目の断層化データに対応して製版された孔版33及びステージ10の位置決めを行い、スキージ31によって製版された孔版33の各穿孔を通じて、粘性体32のドットを押し出すように制御し、それによって、当該データに対応したドット集合体が、基材16の上に付着して孔版印刷される(
図5におけるステップ#21)。
【0109】
CPUは、孔版印刷後、ステージ10が、孔版印刷に使用された使用済み孔版から離間するように、一旦、下降するように制御する(
図5におけるステップ#22)。
【0110】
CPUは、補間液体供給装置45をX方向に移動し、補間液体7についての第1層目の断層化データ(ドット情報)に基づいて、ノズル48から補間液体7を吐出するように制御して、空隙部6への補間液体7の充填が行われる(
図5におけるステップ#23)。
【0111】
CPUは、空隙部6に充填された補間液体7が素早く固化するように、固化装置49の温度制御を行う(
図5におけるステップ#24)。
【0112】
CPUは、使用済み孔版を含む製版用フィルム21が、孔版搬送機構40によってフィルム搬送方向T(X方向)に搬送され、回収ロール23に巻き取られて回収されるように制御する(
図5におけるステップ#25)。そして、ある構成要素についての第1層目の孔版印刷が完了する。なお、三次元構造体3を構成する構成要素として他の構成要素が存在する場合、当該他の構成要素についても、上述したステップ#20乃至ステップ#22と同様の動作が行われる。また、使用済み孔版を含む製版用フィルム21の回収動作は、空隙部6への補間液体7の充填動作が行われる前に実行してもよい。
【0113】
CPUは、カウンタによる積層数の計数を制御し、CPUは、積層数が所定の数であるか否かを判断する(
図5におけるステップ#26)。CPUは、積層数が所定の数に達しているならば、作成プロセスが終了するように制御する。CPUは、積層数が所定の数に達していないならば、次の第2層目を孔版印刷するべく、ある構成要素についての第2層目の断層化データを読み込むステップに戻るように制御する。以下、上述したステップ#20乃至ステップ#26が繰り返される。その後、固化装置49の温度制御を行い、固化していた補間液体7を液化する。そして、液化した補間液体7が除去される。これより、空隙部6を有する三次元構造体3を得ることができる。(
図5におけるステップ#27)
【0114】
CPUは、全ての層についての断層化データに基づいて、ステージ10を各層ごとに所定の高さで下降させて、1層分ずつ、上記で説明した動作を繰り返すように制御する。したがって、第2実施形態においては、空隙部6への補間液体7の補間によって、印刷面35の平坦化と、空隙部6での粘性体32のドット形成と、が可能になる。
【0115】
次に、
図1、6及び7を参照しながら、第3実施形態に係る三次元構造体3の作成装置1及びその作成方法を説明する。なお、第3実施形態の特徴部分を除く他の構成は上述した第2実施形態と同じであるので、第3実施形態の特徴部分については詳細に説明するが、特徴部分以外の他の構成に関する説明を省略する。
図6は、第3実施形態に係る三次元構造体3の作成装置1の構成を示す模式図である。
図7は、第3実施形態に係る三次元構造体3の作成方法を説明するフローチャートである。
【0116】
第3実施形態は、孔版印刷すべき或る1層分に対応した全ての粘性体32のドット集合体が孔版印刷された中間転写体51が、さらに、孔版印刷部30と被印刷物5との間に介在配置されていることを特徴としている。なお、中間転写体51は、孔版印刷すべき或る1層分に対応した全ての粘性体32のドット集合体のうち、一部の粘性体32のドット集合体を複数回に分けて孔版印刷されることとしてもよい。
【0117】
(補間液体及び中間転写体を用いた、三次元構造体の作成装置の構成)
図6に示すように、第3実施形態では、三次元構造体3の作成装置1は、中間転写機構50をさらに備えている。中間転写機構50は、孔版印刷機構20とステージ10との間に配置されており、より詳細には、製版された孔版33を含む製版用フィルム21上に設けられる孔版印刷部30と、ステージ10上に載置される被印刷物5との間に配置されている。中間転写機構50は、中間転写体51の上に形成された或る1層分に対応した全ての粘性体32のドット集合体を、被印刷物5に対して高精度に且つ一気に転写して印刷するための装置である。
【0118】
中間転写機構50は、中間転写ベルト(中間転写体)51と、駆動ローラ52と、従動ローラ53と、支持ローラ54と、一対のテンションローラ56,57と、中間転写ベルト駆動モータと、を備えている。中間転写機構50では、駆動ローラ52、従動ローラ53、支持ローラ54、及び一対のテンションローラ56,57によって、中間転写ベルト(中間転写体)51が張架されている。駆動ローラ52は中間転写ベルト駆動モータによって回動駆動される。
【0119】
支持ローラ54は、孔版印刷部30と対向する位置に配置されている。製版用フィルム21上に設けられる孔版印刷部30の下面は、中間転写ベルト51の上側部分に接触するように構成されている。一対のテンションローラ56,57は、ステージ10上に載置される被印刷物5と対向する位置に配置されている。一対のテンションローラ56,57は、中間転写ベルト51を張架して、大略平坦な転写領域59を形成している。中間転写ベルト51の転写領域59は、被印刷物5の印刷面35に接触するように構成されている。
【0120】
中間転写機構50は、ステージ10に対して昇降自在に支持されていて、中間転写機構昇降モータによってステージ10の昇降とは独立してZ方向に昇降できるように構成されている。CPUは、孔版印刷部30からの粘性体32のドット集合体を中間転写ベルト51に転写するときには、中間転写ベルト51が孔版印刷部30に接触するものの被印刷物5には接触せず、中間転写ベルト51からの粘性体32のドット集合体を被印刷物5に転写するときには、中間転写ベルト51が被印刷物5に接触するものの孔版印刷部30には接触しないように、中間転写機構50の昇降動作を制御する。
【0121】
中間転写ベルト51を用いて粘性体32のドット集合体の転写を行う場合、転写領域59での粘性体32のドット集合体の形態と、被印刷物5と対向する位置での粘性体32のドット集合体の形態と、においては、上下左右が逆さまになる。したがって、このことを考慮した2次元の断層化データ(ドット情報)を用いて、粘性体32のドット集合体が中間転写ベルト51に孔版印刷される。
【0122】
中間転写ベルト51には、一般的な中間転写ベルトとして公知である材料、例えば、ポリイミド、ポリアミドイミド、又はフッ素系樹脂等の樹脂材料、及び、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム、イソプレンゴム、シリコーンゴム、又はフッ素ゴム等のエラストマー材料等が使用可能である。中間転写ベルト51に付着して転写された粘性体32のドット集合体の離型性を高めるために、フッ素系樹脂材料やシリコーン系樹脂材料を中間転写ベルト51の表面に形成してもよい。
【0123】
また、孔版印刷部30と中間転写ベルト51と被印刷物5との三者間での粘性体32のドット集合体の受け渡しを容易にするために、中間転写ベルト51は、孔版印刷部30の温度と被印刷物5の温度との間での中間的な温度を保つように、温度コントローラや温度センサを用いて、温度管理されていてもよい。さらに、中間転写ベルト51は、中間転写ベルト51が孔版印刷部30に接触するときには低温化し、中間転写ベルト51が被印刷物5に接触するときには高温化するように、温度管理されていてもよい。
【0124】
なお、中間転写体51として、中間転写ベルト51の代わりに、中間転写ドラムを用いることもでき、この場合、中間転写ベルト51を張架するための各種のローラ51,52,54,56,57の設置が省略される。
【0125】
(補間液体及び中間転写体を用いて、三次元構造体を作成するための方法)
ホストCPUは、三次元構造体3(すなわち少なくとも三次元細胞足場を含む)を構成する構成要素として複数種類の構成要素が存在する場合、全ての構成要素についての全ての層の2次元の断層化データ(ドット情報)を演算する。CPUは、演算された断層化データ(ドット情報)がメモリに読み込まれるように制御する。また、ホストCPUは、構成要素の粘性体32のドットが形成されない空隙部6に補間液体7を吐出するための全ての層についての2次元の断層化データ(ドット情報)を演算する。CPUは、演算された断層化データ(ドット情報)がメモリに読み込まれるように制御する。CPUは、ある構成要素についての第1層目の断層化データ(ドット情報)に基づいて、孔版印刷に供される孔版の製版を行う(
図7におけるステップ#30)。ここで、中間転写ベルト51を介した孔版印刷を行う場合には、通常の2次元の断層化データ(ドット情報)での上下左右を逆にした2次元の逆断層化データ(逆ドット情報)が用いられる。
【0126】
CPUは、ある構成要素についての第1層目の断層化データに対応して製版された孔版33及びステージ10の位置決めを行い、スキージ31によって製版された孔版33の各穿孔を通じて、粘性体32のドットを押し出すように制御し、それによって、当該データに対応したドット集合体が、中間転写ベルト51の上に付着して孔版印刷される。さらに複数種類の構成要素がある場合、他の構成要素についても、当該他の構成要素の第1層目の断層化データに基づいて、当該データに対応したドット集合体が、当該他の構成要素の中間転写ベルト51の上に付着して孔版印刷される。したがって、中間転写ベルト51の上には、三次元構造体3の第1層に対応した全ての粘性体32のドット集合体が付着して孔版印刷されている(
図7におけるステップ#31)。
【0127】
CPUは、中間転写機構50を下降させ、中間転写ベルト51を移動させて、中間転写ベルト51の上に形成されている第1層に対応した全ての粘性体32のドット集合体が、所定の転写領域59に位置決めされるように、中間転写ベルト51の移動を制御する(
図7におけるステップ#32)。
【0128】
CPUは、中間転写ベルト51の位置決めを行う過程で又は位置決めを行った後に、中間転写ベルト51を加熱して昇温するように制御する(
図7におけるステップ#33)。
【0129】
CPUは、中間転写機構50を下降させて、中間転写ベルト51が基材16に接触するように制御する(
図7におけるステップ#34)。その結果、中間転写ベルト51に付着していた第1層に対応した全ての粘性体32のドット集合体が、基材16の上面17に接触する。
【0130】
CPUは、粘性体32のドット集合体が基材16に接触した後に、中間転写ベルト51を冷却して降温させて、第1層に対応した全ての粘性体32のドット集合体が基材16に転写するように制御する(
図7におけるステップ#35)。その結果、中間転写ベルト51に付着していた第1層に対応した全ての粘性体32のドット集合体が、基材16の上面17に転写される。
【0131】
CPUは、転写完了後、基材16が中間転写ベルト51から離間するように、ステージ10の下降を制御する(
図7におけるステップ#36)。
【0132】
CPUは、補間液体7についての第1層目の断層化データ(ドット情報)に基づいて、ノズル48から補間液体7を吐出するように制御して、空隙部6への補間液体7の充填が行われる(
図7におけるステップ#37)。
【0133】
CPUは、空隙部6に充填された補間液体7が素早く固化するように、固化装置49の温度制御を行う(
図7におけるステップ#38)。
【0134】
CPUは、使用済み孔版を含む製版用フィルム21が、孔版搬送機構40によってフィルム搬送方向T(X方向)に搬送され、回収ロール23に巻き取られて回収されるように制御する(
図7におけるステップ#39)。そして、三次元構造体3についての第1層目の孔版印刷が完了する。また、使用済み孔版を含む製版用フィルム21の回収動作は、中間転写ベルト51に孔版印刷が行われた後に中間転写ベルト51が下降する動作を行うステップ以降のステップにおいて実行してもよい。
【0135】
CPUは、カウンタによる積層数の計数を制御し、CPUは、積層数が所定の数であるか否かを判断する(
図7におけるステップ#40)。CPUは、積層数が所定の数に達しているならば、作成プロセスが終了するように制御する。CPUは、積層数が所定の数に達していないならば、次の第2層目を孔版印刷するべく、三次元構造体3についての第2層目の断層化データを読み込むステップに戻るように制御する。以下、上述したステップ#30乃至ステップ#40が繰り返される。
【0136】
CPUは、全ての層についての断層化データに基づいて、ステージ10を各層ごとに所定の高さで下降させて、1層分ずつ、上記で説明した動作を繰り返すように制御する。したがって、第3実施形態においては、中間転写体51の介在によって、高精度に且つ一気に孔版印刷が行われて孔版印刷される各1層の形態安定性を向上させることが可能になる。
【0137】
次に、
図1、8及び9を参照しながら、第4実施形態に係る三次元構造体3の作成装置1及びその作成方法を説明する。なお、第4実施形態の特徴部分を除く他の構成は上述した第2実施形態と同じであるので、第4実施形態の特徴部分については詳細に説明するが、特徴部分以外の他の構成に関する説明を省略する。
図8は、第4実施形態に係る三次元構造体3の作成装置1の構成を示す模式図である。
図9は、第4実施形態に係る三次元構造体3の作成方法を説明するフローチャートである。
【0138】
第4実施形態は、三次元構造体3を構成する構成要素についての或る層に対応した粘性体32のドット集合体の孔版印刷された薄層体71を、接着積層領域79に搬送するための中間搬送機構60が、さらに、孔版印刷部30と被印刷物5との間に介在配置されていることを特徴としている。
【0139】
(補間液体及び中間搬送機構を用いた、三次元構造体の作成装置の構成)
図8に示すように、第4実施形態では、三次元構造体3の作成装置1は、中間搬送機構60をさらに備えている。中間搬送機構60は、孔版印刷機構20とステージ10との間に配置されており、より詳細には、製版された孔版33を含む製版用フィルム21上に設けられる孔版印刷部30と、ステージ10上に載置される被印刷物5との間に配置されている。中間搬送機構60は、三次元構造体3を構成する構成要素についての或る層に対応した粘性体32のドット集合体の孔版印刷された薄層体71を、接着積層領域79に搬送して、被印刷物5に対して接着・積層するための装置である。
【0140】
中間搬送機構60は、中間搬送ベルト(中間搬送体)61と、駆動ローラ62と、従動ローラ63と、支持ローラ64と、一対のテンションローラ66,67と、中間搬送ベルト駆動モータと、を備えている。中間搬送機構60は、薄層体71を巻回した薄層体ロール72と、薄層体ロール72からの薄層体71を中間搬送ベルト61の上側部分に繰り出す繰り出し機構と、をさらに備えている。中間搬送機構60では、駆動ローラ62、従動ローラ63、支持ローラ64、及び一対のテンションローラ66,67によって、中間搬送ベルト(中間搬送体)61が張架されている。駆動ローラ62は中間搬送ベルト駆動モータによって回動駆動される。
【0141】
支持ローラ64は、孔版印刷部30と対向する位置に配置されている。製版用フィルム21上に設けられる孔版印刷部30の下面は、中間搬送ベルト61の上側部分に接触するように構成されている。一対のテンションローラ66,67は、ステージ10上に載置される被印刷物5と対向する位置に配置されている。一対のテンションローラ66,67は、中間搬送ベルト61を張架して、大略平坦な接着積層領域79を形成している。中間搬送ベルト61によって搬送された薄層体71は、接着積層領域79において、被印刷物5の印刷面35に接触するように構成されている。
【0142】
中間搬送機構60は、ステージ10に対して昇降自在に支持されていて、中間搬送機構昇降モータによってステージ10の昇降とは独立してZ方向に昇降できるように構成されている。CPUは、孔版印刷部30からの粘性体32のドット集合体を中間搬送ベルト61で搬送される薄層体71に孔版印刷するときには、薄層体71が孔版印刷部30に接触するものの中間搬送ベルト61が被印刷物5には接触せず、粘性体32のドット集合体が孔版印刷された薄層体71が被印刷物5に接着・積層するときには、薄層体71が被印刷物5に接触するものの中間搬送ベルト61が孔版印刷部30には接触しないように、中間搬送機構60の昇降動作を制御する。
【0143】
中間搬送ベルト61を用いて薄層体71を搬送する場合、孔版印刷部30に対向する位置にある薄層体71と、被印刷物5に対向する位置にある薄層体71と、においては、上下左右が逆さまになる。したがって、このことを考慮した2次元の逆断層化データ(逆ドット情報)を用いて、粘性体32のドット集合体が薄層体71に付着して孔版印刷される。
【0144】
中間搬送ベルト61には、一般的な搬送ベルトとして公知である材料、例えば、ポリイミド、ポリアミドイミド、又はフッ素系樹脂等の樹脂材料、及び、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム、イソプレンゴム、シリコーンゴム、又はフッ素ゴム等のエラストマー材料等が使用可能である。中間搬送ベルト61で搬送される薄層体71の離型性を高めるために、フッ素系樹脂材料やシリコーン系樹脂材料を中間搬送ベルト61の表面に形成してもよい。
【0145】
例えば、中間搬送ベルト61に多数の微小な吸引孔を形成して、中間搬送ベルト61内に配置されるとともに外部の吸引ファンによって吸引される吸引ボックスで吸引することにより、薄層体71を吸着搬送することができる。薄層体71は、例えばカッターで短く切断されたシート状のもので間欠的に搬送されてもよく、またロール状で連続的に搬送されてもよい。
【0146】
薄層体71は、三次元構造体3を形成した後に薄層体71だけを溶かす液体(例えば、水)で簡単に溶解することができる可溶性と、三次元構造体3を構成する構成要素を含有する粘性体32に対して接着する接着性を有している。薄層体71は、接着積層時の支持体として機能する。薄層体71は、例えば、デンプンやゼラチンからなり、薄層体71の厚みは、例えば、10μmである。
【0147】
また、孔版印刷によって孔版印刷部30から薄層体71への粘性体32のドット集合体の受け渡しを容易にするために、薄層体71を搬送する中間搬送ベルト61は、孔版印刷部30の温度よりも低い温度を保持できるように、温度コントローラや温度センサを用いて、温度管理されていてもよい。
【0148】
なお、中間搬送体61として、中間搬送ベルト61の代わりに、中間搬送ドラムを用いることもでき、この場合、中間搬送ベルト61を張架するための各種のローラ61,62,64,66,67の設置が省略される。
【0149】
(補間液体と薄層体と中間搬送体とを用いて、三次元構造体を作成するための方法)
ホストCPUは、三次元構造体3(すなわち少なくとも三次元細胞足場を含む)を構成する構成要素として複数種類の構成要素が存在する場合、全ての構成要素についての全ての層の2次元の断層化データ(ドット情報)を演算する。CPUは、演算された断層化データ(ドット情報)がメモリに読み込まれるように制御する。CPUは、ある構成要素についての第1層目の断層化データ(ドット情報)に基づいて、孔版印刷に供される孔版の製版を行う(
図9におけるステップ#50)。ここで、薄層体71を介した孔版印刷を行う場合には、通常の2次元の断層化データ(ドット情報)での上下左右を逆にした2次元の逆断層化データ(逆ドット情報)が用いられる。
【0150】
CPUは、薄層体ロール72からの薄層体71を中間搬送ベルト61の上側部分に繰り出し、中間搬送ベルト61で薄層体71をフィルム搬送方向Tに沿って搬送して薄層体71の位置決めを行うように制御する。CPUは、ある構成要素についての第1層目の断層化データに対応して製版された孔版33及びステージ10の位置決めを行い、スキージ31によって製版された孔版33の各穿孔を通じて、粘性体32のドットを押し出すように制御し、それによって、当該データに対応したドット集合体が、中間搬送ベルト61で搬送される薄層体71上に付着して孔版印刷される。さらに、必要に応じて、他の構成要素についても、第1層目の断層化データに基づいて、当該データに対応したドット集合体が、薄層体71上に付着して孔版印刷される。したがって、中間搬送ベルト61で搬送される薄層体71上には、三次元構造体3の第1層に対応した全ての粘性体32のドット集合体が付着して孔版印刷されている(
図9におけるステップ#51)。
【0151】
CPUは、中間搬送機構60を下降させ、中間搬送ベルト61を移動させて、中間搬送ベルト61で搬送されている薄層体71が、所定の接着積層領域79に位置決めされるように、中間搬送ベルト61の移動を制御する(
図9におけるステップ#52)。
【0152】
CPUは、中間搬送機構60を下降させて、中間搬送ベルト61上の薄層体71が基材16に接触するように制御する(
図9におけるステップ#53)。その結果、薄層体71上に形成された粘性体32のドット集合体が、基材16の上面17に付着するとともに接着する。そして、薄層体71が基材16の上に積層される。
【0153】
CPUは、基材16への薄層体71の接着積層を完了した後、基材16が中間搬送ベルト61から離間するように、ステージ10の下降を制御する(
図9におけるステップ#54)。
【0154】
CPUは、被印刷物5の周囲に適量の補間液体7をノズル48から供給して、基材16の内側に形成される液溜まりが印刷面35と同じレベルになるように制御して、空隙部6への補間液体7の充填が行われる(
図9におけるステップ#55)。
【0155】
CPUは、空隙部6に充填された補間液体7が素早く固化するように、固化装置49の温度制御を行う(
図9におけるステップ#56)。
【0156】
CPUは、使用済み孔版を含む製版用フィルム21が、孔版搬送機構40によってフィルム搬送方向T(X方向)に搬送され、回収ロール23に巻き取られて回収されるように制御する(
図9におけるステップ#57)。そして、薄層体71を用いた、三次元構造体3についての第1層目の孔版印刷が完了する。また、使用済み孔版を含む製版用フィルム21の回収動作は、中間搬送ベルト61で搬送された薄層体71に孔版印刷が行われた後に中間搬送ベルト61が下降する動作を行うステップ以降のステップにおいて実行してもよい。
【0157】
CPUは、カウンタによる積層数の計数を制御し、CPUは、積層数が所定の数であるか否かを判断する(
図9におけるステップ#58)。CPUは、積層数が所定の数に達しているならば、作成プロセスが終了するように制御する。CPUは、積層数が所定の数に達していないならば、次の第2層目を孔版印刷するべく、三次元構造体3についての第2層目の断層化データを読み込むステップに戻るように制御する。以下、上述したステップ#50乃至ステップ#58が繰り返される。
【0158】
CPUは、全ての層についての断層化データに基づいて、ステージ10を各層ごとに所定の高さで下降させて、1層分ずつ、上記で説明した動作を繰り返すように制御する。そして、三次元構造体3の作成が完了した後、三次元構造体3に含まれる薄層体71が溶解液によって溶解して除去される。溶解液によって、空隙部6の近傍では薄層体71の一部分が溶解して除去されるものの、粘性体32の近傍では薄層体71の他の部分が残存する。したがって、第4実施形態においては、薄層体71を介した接着積層構造によって、薄層体71が接着積層時の支持体として機能し、層間に残存した薄層体71によって粘性体32同士が結びつけられて、三次元構造体3の形態が安定化する。
【0159】
以上の説明から明らかなように、この発明によれば、従来は作成が困難であった任意形状の三次元構造体3を容易に作成することができる。そして、三次元構造体3は、組織工学、組織や器官の修復又は再生に適している。また、三次元構造体3の作成装置及び作成方法は、ヒトや動物等の生き物全般の組織や器官に限らず、様々な三次元立体物に適用できることは言うまでも無い。本願発明では単にスキージ31と述べているが、製版された孔版33の穿孔から粘性体31を均等に押し出すことのできる押圧手段であれば、狭義のスキージ31だけではなく加圧ローラ等であっても良いことは言うまでもない。