【背景技術】
【0002】
天ぷらは、魚介、野菜等の具材に溶いた小麦粉の衣を付着させて揚げたものである。従来天ぷら衣は花咲が良いことが強く望まれているが、衣の花咲きは、衣をつけて具材を揚げている途中で、箸の先に溶いた小麦粉の衣をつけて具材の上になするようにし、また揚げ油に散らし、それを天ぷらの周囲に花の様に付着させる等の技が必要であり、家庭や大量生産の製造工程では再現することが難しかった。また天ぷらは、サクサクとした食感であることが望まれているが、時間の経過と共に、衣のへたりが起きてしまうという問題があった。
【0003】
時間が経過してもサクサクとした食感を維持し、また花咲きを良くするための従来技術としては、有機酸若しくはその塩及び有機酸モノグリセリドを含有することを特徴とする揚げ物用衣材(特許文献1参照)が開示されている。また、時間が経過してもサクサクとした食感を維持するための従来技術としては、10℃における固体脂含有量が15%〜35%であり、15℃における固体脂含有量が0〜10%である食用油脂100重量部に対し、グリセリン脂肪酸モノエステル及びグリセリン有機酸脂肪酸モノエステルのうち1種類以上を合計0.1〜5重量部を配合して成るバッター用油脂組成物(特許文献2参照)、小麦粉を主成分とする天ぷら粉中、分離大豆蛋白質を1〜10重量%、グリセリン有機酸エステルを0.1〜1.0重量%、硬化油粉末を1〜10重量%、トレハロースを1〜10重量%含有することを特徴とする天ぷら粉組成物(特許文献3参照)、油相中にリン脂質を6〜30質量%(油相基準)及び極度硬化油脂を1〜10質量%(油相基準)含有し、且つ、該油相のSFCが、10〜40℃の全ての温度において2〜25%であり、油相含量が80〜100質量%であることを特徴とするバッター用油脂組成物(特許文献4参照)等が開示されている。
【0004】
しかし未だ十分納得のいくものが得られていないのが実情であり、さらに好ましい方法が要望されていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、花咲きが良く、時間が経過してもサクサクした食感が維持されている天ぷら衣が得られる天ぷら衣用品質改良剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決する為に鋭意研究を重ねた結果、天ぷら粉に、極度硬化油とグリセリン有機酸脂肪酸エステルを溶融混合して得られた粉末状油脂を加えることで上記課題を解決すること見出した。本発明者は、これらの知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
1.極度硬化油とグリセリン有機酸脂肪酸エステルを溶融混合した後、粉末化して得られる粉末状油脂を含有することを特徴とする天ぷら衣用品質改良剤、
2.上記1に記載の天ぷら衣用品質改良剤を含有することを特徴とする天ぷら衣材、
3.上記2に記載の天ぷら衣材を用いた天ぷら、
4.上記1に記載の天ぷら衣用品質改良剤を用いることを特徴とする天ぷら衣の品質改良方法、
からなっている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の天ぷら衣用品質改良剤を用いることにより、花咲きが良く、時間が経過してもサクサクとした食感が維持されている天ぷら衣が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に用いられる極度硬化油は、菜種油、大豆油、パーム油、ハイエルシン菜種油、綿実油、椰子油、牛脂、豚脂等の動植物油脂を水素添加(硬化)させ、ヨウ素価を10以下、好ましくは5以下、より好ましくは0〜2としたものである。極度硬化油としては、菜種極度硬化油、大豆極度硬化油、パーム極度硬化油、ハイエルシン菜種極度硬化油、綿実極度硬化油、椰子極度硬化油、牛脂極度硬化油、豚脂極度硬化油等が挙げられる。これらの油脂は、一種類で用いても良いし、二種類以上を任意に組み合わせて用いても良い。
【0010】
本発明に用いられるグリセリン有機酸脂肪酸エステルは、通常グリセリンモノ脂肪酸エステルと有機酸との反応、若しくはグリセリンと有機酸と脂肪酸との反応等自体公知の方法により得ることができる。
【0011】
本発明に用いられるグリセリン有機酸脂肪酸エステルとしては、例えば、グリセリン酢酸脂肪酸エステル(食品添加物)、グリセリン乳酸脂肪酸エステル(食品添加物)、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル(食品添加物)、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル(食品添加物)、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル(食品添加物)等が挙げられ、好ましくはグリセリンクエン酸脂肪酸エステルである。グリセリン有機酸脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、食用可能な動植物油脂を起源とする脂肪酸であれば特に制限はないが、例えば炭素数6〜24の直鎖状の飽和脂肪酸(例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等)または不飽和脂肪酸(例えば、パルミトオレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、γ−リノレン酸、α−リノレン酸、アラキドン酸、リシノール酸、縮合リシノール酸等)が挙げられ、好ましくは炭素数12〜22の直鎖状の飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸である。
【0012】
上記グリセリンクエン酸脂肪酸エステルの製法の概略を以下に例示する。即ち、グリセリンモノ脂肪酸エステルを溶融し、これにクエン酸(無水)を加え、温度約100〜120℃で約50〜100分間反応する。グリセリンモノ脂肪酸エステルとクエン酸(無水)との比率はモル比で約1:1が好ましい。さらに、反応中は生成物の着色を防止するために、反応器内を例えば窒素等の不活性ガスで置換する方が好ましい。得られたグリセリンモノ脂肪酸エステルとクエン酸(無水)との反応物は、グリセリンクエン酸脂肪酸エステルの他に、クエン酸、未反応のグリセリンモノ脂肪酸エステル、その他を含む混合物である。
【0013】
上記グリセリンクエン酸脂肪酸エステルは市販されているものを用いることができ、例えば、ポエムK−30(理研ビタミン社製;グリセリンクエン酸ステアリン酸エステル)、ポエムK−37V(理研ビタミン社製;グリセリンクエン酸オレイン酸エステル)等の市販の製品を用いることができる。
【0014】
本発明に用いられる極度硬化油とグリセリン有機酸脂肪酸エステルの天ぷら衣用品質改良剤100質量%中の配合割合は、極度硬化油約70〜99質量%、好ましくは約75〜95質量%であり、グリセリン有機酸脂肪酸エステル約1〜30質量%、好ましくは約5〜25質量%である。グリセリン有機酸脂肪酸エステルの割合が上記範囲内であると、天ぷら衣用品質改良剤の製造時のハンドリングが良く、天ぷら衣の花咲が良く、時間が経過してもサクサクとした食感が維持され好ましい。
【0015】
本発明の天ぷら衣用品質改良剤には、本発明の目的を阻害しない範囲で他の任意の成分を含んでも良い。例えば、酸化防止剤、流動化剤等が挙げられる。流動化剤としては、例えば、第三リン酸カルシウム、軽質無水ケイ酸、二酸化ケイ素、酸化チタン、タルク等が挙げられる。
【0016】
本発明において溶融混合とは、極度硬化油とグリセリン有機酸脂肪酸エステルを溶融して液状にし、混合することである。溶融温度としては極度硬化油とグリセリン有機酸脂肪酸エステルのいずれもが溶融する温度以上であれば特に制限はないが、好ましくは約70〜100℃である。
【0017】
本発明において粉末化とは、溶融混合で得られた溶融液を粉末にする方法であれば特に制限はないが、例えば噴霧冷却する方法、冷却して固体状にした後に粉砕する方法等があり、好ましくは噴霧冷却する方法である。
【0018】
上記噴霧冷却する方法とは、溶融混合で得られた溶融液を−196〜20℃、好ましくは−30〜20℃の温度条件で噴霧しながら冷却することである。噴霧冷却は、例えば、一般的な噴霧冷却装置を使用し、該溶融液を例えば液体窒素、または冷凍機で冷やされた風で充填された塔内に噴霧することにより実施される。液体窒素または冷凍機で冷やされた風は塔内の上段、中段及び下段のいずれから注入しても良く、また2箇所以上から注入しても良い。噴霧には加圧式噴霧ノズルや回転円盤式噴霧ノズル等が用いられる。噴霧された溶融液は冷却されて粉末となって塔下部またはサイクロンで捕集される。得られる粒子の平均粒子径は、好ましくは約50〜500μm、より好ましくは約100〜400μmである。
【0019】
本発明の天ぷら衣用品質改良剤を含有する天ぷら衣材も、本発明の形態の1つである。天ぷら衣材の、天ぷら衣用品質改良剤以外の原材料としては、通常天ぷら衣材に用いられる原材料を用いることができる。例えば薄力小麦粉、中力小麦粉、米粉等の穀粉類;澱粉、熱処理澱粉、化工澱粉等の澱粉類;脱脂粉乳;卵粉、グルテン、脱脂粉乳等の蛋白質;乳化剤(グリセリン有機酸脂肪酸エステル以外);糖類、膨張剤、増粘剤、着色料、食塩、調味料、香辛料等が挙げられ、これらは一種類または二種類以上を組み合わせて添加配合することができる。
【0020】
天ぷら衣材中の天ぷら衣用品質改良剤の配合量は、例えば天ぷら衣用品質改良剤を除いた天ぷら衣材100質量部に対して好ましくは約0.1〜5質量部であり、より好ましくは約0.2〜3質量部である。
【0021】
本発明の天ぷら衣材の製造方法に特に制限はないが、天ぷら衣用品質改良剤及び通常天ぷら衣材に用いられる原材料とを均一に混合することにより製造され得る。製造に使用される混合装置は特に制限はないが、リボンミキサー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、レーディゲミキサー、V型混合機等の公知の混合装置を用いることができる。
【0022】
本発明の天ぷら衣材を用いる天ぷらも本発明の形態の1つである。天ぷらの具材に特に制限はないが、例えば、エビ、イカ、キス、穴子等の魚介類;さつまいも、玉ねぎ、人参、かぼちゃ、しし唐、茸等の野菜類;鶏肉、豚肉等の畜肉類等が挙げられる。また天ぷらには、数種の細かい具材を水で溶いた衣材でまとめて揚げたかき揚げをも含む。
天ぷらの製造方法は特に制限はなく、具材を衣液にくぐらせた後、加熱した油で揚げることにより製造され得る。衣液は、例えば天ぷら衣材100質量部に対して水を約50〜300質量部、好ましくは約150〜200質量部を加えて混練して作製する。
【0023】
以下に本発明を実施例で説明するが、これは本発明を単に説明するだけのものであって、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0024】
≪天ぷら衣用品質改良剤の作製≫
(1)原材料
パーム極度硬化油(商品名:パーム極度硬化油;不二製油社製)
菜種極度硬化油(商品名:菜種極度硬化油;横関油脂工業社製)
乳化剤A:グリセリンクエン酸ステアリン酸エステル(商品名:ポエムK−30;理研ビタミン社製)
乳化剤B:グリセリンクエン酸オレイン酸エステル(商品名:ポエムK−37V;理研ビタミン社製
乳化剤C:グリセリン脂肪酸エステル(商品名:ポエムDO−100V;理研ビタミン社製)
乳化剤D:ソルビタン脂肪酸エステル(商品名:ポエムO−80V;理研ビタミン社製)
乳化剤E:プロピレングリコール脂肪酸エステル(商品名:ポエムPO−100V;理研ビタミン社製)
【0025】
(2)天ぷら衣用品質改良剤の配合
上記原材料を用いて作製した天ぷら衣用品質改良剤の配合を表1に示した。
【0026】
【表1】
【0027】
(3)天ぷら衣用品質改良剤の作製方法
[実施例1〜3、比較例2〜4]
表1の150倍量の極度硬化油と各種乳化剤を約90〜100℃で溶融混合し、得られた溶融液を、液体窒素を注入して塔内温度を−20〜10℃に調整した加圧式噴霧乾燥装置(型式:KC;大川原製作所社製)の塔内に、加圧ノズルにより噴霧し、冷却固化した粉末を塔下部またはサイクロンで回収し、20メッシュの篩い(目開き0.85mm)にかけ、天ぷら衣用品質改良剤(実施例品1〜3、比較例品2〜4)約14.5kgを得た。
【0028】
[比較例1]
パーム極度硬化油15kgを約90〜100℃で溶融し、得られた溶融液を、液体窒素を注入して塔内温度を−20〜10℃に調整した加圧式噴霧乾燥装置(型式:KC;大川原製作所社製)の塔内に、加圧ノズルにより噴霧し、冷却固化した粉末を塔下部またはサイクロンで回収し、20メッシュの篩い(目開き0.85mm)にかけ、パーム極度硬化油の粉末約14.5kgを得た。また、乳化剤A50gをフードミル(型式:HL2053;日本フィリップス社製)を使用して粉砕し、42メッシュの篩い(目開き0.355mm)にかけ、乳化剤Aの粉末約49.5gを得た。得られたパーム極度硬化油の粉末90gと乳化剤Aの粉末10gをビニール袋に入れて1分間混合し、天ぷら衣用品質改良剤(比較例品1)100gを得た。
【0029】
[比較例5]
表1の150倍量のパーム極度硬化油を約90〜100℃で溶融し、液体窒素を注入して塔内温度を−20〜10℃に調整した加圧式噴霧乾燥装置(型式:KC;大川原製作所社製)の塔内に、加圧ノズルにより噴霧し、冷却固化した粉末を塔下部またはサイクロンで回収し、20メッシュの篩い(目開き0.85mm)にかけ、天ぷら衣用品質改良剤(比較例品5)約14.5kgを得た。
【0030】
[比較例6]
表1の0.5倍量の乳化剤Aをフードミル(型式:HL2053;日本フィリップス社製)を使用して粉砕し、42メッシュの篩い(目開き0.355mm)にかけ、天ぷら衣用品質改良剤(比較例品6)約49.5gを得た。
【0031】
≪天ぷら衣材の作製≫
(1)原材料
薄力小麦粉(商品名:バイオレット;日清製粉社製)
コーンスターチ(商品名:コーンスターチCD−Y;サンエイ糖化社製)
膨張剤(商品名:天ぷら用;オリエンタル酵母工業社製)
天ぷら衣用品質改良剤(実施例品1〜3、比較例品1〜6)
【0032】
(2)天ぷら衣材の配合
上記原材料を用いて作製した天ぷら衣材の配合を表2に示した。
【0033】
【表2】
【0034】
(3)天ぷら衣材の作製方法
上記表1の原材料を等倍量ビニール袋に入れて1分間混合して天ぷら衣材(試作品1〜13)を得た。
【0035】
≪天ぷら衣の評価≫
(1)天ぷらの作製
ステンレス製ボールに得られた試作品1〜13を全量と水150gを加え、泡立て器でさっくりと混ぜて衣液を調整した。さつまいもを1cm×1cm×4cmに切断したものを天ぷらの具材として用いた。さつまいもを調整した衣液にくぐらせ、175℃の油で3分30秒間油揚げしてさつまいもの天ぷら(試験区1〜13)を得た。
【0036】
(2)天ぷら衣の評価方法・評価項目
得られた天ぷらの衣の花咲き性を目視にて確認し、揚げた直後の天ぷらの衣の食感、及び揚げた後室温で3時間保管した天ぷらの衣の食感について官能評価を行った。各評価項目について下記表3に示す評価基準に従い10名のパネラーでおこなった。結果はそれぞれ10名の評点の平均値として求め、下記基準にて記号化した。結果を表4に示す。
記号化
◎: 平均値2.5以上
○: 平均値1.5以上2.5未満
△: 平均値0.5以上1.5未満
×: 平均値0.5未満
【0037】
【表3】
【0038】
【表4】
結果より、実施例品1〜3を含有する天ぷら衣材(試作品1〜6)を用いた天ぷら(試験区1〜6)の衣は、花咲き性、揚げ直後の食感、3時間後の食感が非常に良好であった。一方比較例品2を含有する天ぷら衣材(試作品8)を用いた天ぷら(試験区8)の衣は、3時間後の食感が良くなかった。比較例品1、3〜6を含有する天ぷら衣材(試作品7、9〜12)を用いた天ぷら(試験区7、9〜12)の衣は、花咲性及び3時間後の食感が良くなかった。