特開2015-57993(P2015-57993A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-57993(P2015-57993A)
(43)【公開日】2015年3月30日
(54)【発明の名称】ペットフード
(51)【国際特許分類】
   A23K 1/18 20060101AFI20150303BHJP
   A23K 1/16 20060101ALI20150303BHJP
   A23K 1/175 20060101ALI20150303BHJP
【FI】
   A23K1/18 A
   A23K1/16 303F
   A23K1/175
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-195268(P2013-195268)
(22)【出願日】2013年9月20日
(71)【出願人】
【識別番号】398008974
【氏名又は名称】日清ペットフード株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076532
【弁理士】
【氏名又は名称】羽鳥 修
(72)【発明者】
【氏名】安田 知代
(72)【発明者】
【氏名】木村 聖二
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 聖一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 れえ子
(72)【発明者】
【氏名】小林 沙織
【テーマコード(参考)】
2B005
2B150
【Fターム(参考)】
2B005AA01
2B150AA06
2B150AB03
2B150AB10
2B150AE05
2B150AE06
2B150AE08
2B150AE09
2B150DC24
2B150DH14
2B150DJ03
(57)【要約】
【課題】血圧降下作用が期待できるペットフードを提供すること。
【解決手段】本発明のペットフードは、アンセリンを含む。本発明のペットフードは、好ましくは、更に粗蛋白質を5〜40%、リンを0.2〜1%及びナトリウムを0.1〜1%含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンセリンを含むペットフード。
【請求項2】
更に、粗蛋白質、リン及びナトリウムを含む請求項1に記載のペットフード。
【請求項3】
前記粗蛋白質を5〜40%、前記リンを0.2〜1%及び前記ナトリウムを0.1〜1%含む請求項1又は2に記載に記載のペットフード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペット(愛玩動物)として飼育される犬、猫等のペットフードに関し、特に、血圧の降下作用が期待できるペットフードに関する。
【背景技術】
【0002】
近年のペットブームによりペットの飼育数は増大しており、それに伴い、ペット類においても、人間と同じように、栄養過多、運動不足、高齢化等に起因する、高血圧、肥満、糖尿病等の疾患が多発している。そこで、ペットによる嗜好性が高くてペット類が好んで摂取し、しかもペットにおける疾患を予防・治療し得るペットフードが求められている。
【0003】
例えば特許文献1には、4−カンペステノンを含む食用油脂組成物が、抗肥満作用を有し高血圧等の予防・改善作用を期待できること、及び、この食用油脂組成物をドッグフードやキャットフード等の動物用飼料に配合できることが記載されている。特許文献1によれば、4−カンペステノンは、カンペステロールを原料に化学的に変換する方法、酵素を用いて変換する方法、植物から抽出・分離する方法の何れかによって入手できるとされている。
【0004】
また特許文献2には、鮒寿司の飯又はその抽出物を含有する血圧降下剤が記載されており、また、この血圧降下剤を動物用飼料に配合できることも記載されている。鮒寿司は、日本国滋賀県の郷土料理であり、フナ〔コイ科コイ亜科フナ属(Carassius)の魚〕を数ヶ月間塩漬けにした後、炊いた飯と一緒に漬け込んで、半年から一年間、桶の中で自然発酵させて製造される。特許文献2記載の血圧降下剤の原材料である鮒寿司の飯は、鮒寿司の副産物であり、米飯、鮒及び塩を原料とする発酵飯である。
さらに特許文献3には、カルノシン、アンセリン、バレニンが血圧上昇抑制効果を有することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−67677号公報
【特許文献2】特開2012−67058号公報
【特許文献3】特開平4−16166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、血圧の降下作用が期待できるペットフードに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、アンセリンを含むペットフードである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のペットフードは、安全且つ効果的にペットの血圧を降下させる作用が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のペットフードはアンセリンを含む。アンセリン(例えば、β−アラニル−1−メチルヒスチジン、β−アラニル−N−メチルヒスチジン)は、ジペプチドの一種(イミダゾールジペプチド類化合物)であり、本発明のペットフードが奏する血圧降下作用の原因物質である。アンセリンは、海洋生物又は鳥類の肉に多く含まれている。アンセリンの給源としては、海洋生物であれば例えば、マグロ、カツオ、サケ、サメなどからなる群より選択される1種以上を用いることができ、鳥類としては例えば、鶏、鴨などからなる群より選択される1種以上を用いることができる。アンセリンは、例えば、これらの給源から水抽出、熱水抽出、アルコール抽出、超臨界抽出等の方法により抽出したエキスを精製することにより得ることができる。
【0010】
アンセリンは、例えば次のようにして得ることができる。先ず、常法に従ってマグロ、カツオ等の給源の肉からエキスを調製し、適宜水を加えて該エキスのブリックス(Bx.)値(屈折糖度計示度)を1〜10%に調整した後、限外濾過膜(分画分子量5,000〜50,000)を用いて高分子タンパク質を除去し、低分子ペプチド画分を回収する。次いで、文献(Suyama et al:Bull. Japan. Soc. Scient. Fish., 33, 141-146, 1967)の方法に従って、適宜濃縮した低分子ペプチド画分を強酸性樹脂を用いたイオン交換クロマトグラフィーに供し、溶出液を回収する。そして、この溶出液を脱塩した後pH調整し、凍結乾燥等により乾燥して得ることができる。また、アンセリンとしては、焼津水産化学工業株式会社製から機能性素材として販売されている商品「マリンアクティブ(登録商標)」を用いることもできる。
【0011】
アンセリンの含有量は、本発明のペットフード中、好ましくは0.001〜10%、更に好ましくは0.01〜1%である。
【0012】
本発明のペットフードは、アンセリンに加えて更に、粗蛋白質、リン及びナトリウムを含むことが好ましい。ペットフードがアンセリンに加えて更にこれら3成分を含むことにより、腎機能が低下しているペットに対しても効果があると考えられる。粗蛋白質の給源としては、例えば、牛肉、豚肉、鶏肉、魚肉、羊肉等の動物の肉に由来する動物性たんぱく質とトウモロコシ、大豆、小麦、ポテト等の植物性たんぱく質等が挙げられる。リンの給源としては、例えば、リン酸カルシウム等が挙げられる。ナトリウムの給源としては、例えば、食塩等が挙げられる。本発明のペットフードの製造に用いられる後述する基本原料は、粗蛋白質、リン及びナトリウムからなる群より選択される1種以上を含むものが好ましい。
【0013】
粗蛋白質の含有量は、本発明のペットフード中、好ましくは5〜40%、更に好ましくは10〜25%である。
リンの含有量は、本発明のペットフード中、好ましくは0.2〜1%、更に好ましくは0.2〜0.6%である。
ナトリウムの含有量は、本発明のペットフード中、好ましくは0.1〜1%、更に好ましくは0.1〜0.5%である。
【0014】
本発明のペットフードは、アンセリンの他に基本原料を用いて製造される。この基本原料としては、この種のペットフードにおいて原料として従来用いられているものを適宜用いることができ、例えば、肉粉、魚粉、穀粉類(小麦粉、トウモロコシ粉、大豆粉、米粉、各種澱粉類)、糟糠類(大豆粕、米ぬか、ふすま、胚芽、麦芽など)、おから、小麦グルテン、油脂類、ビタミン類、ミネラル類、卵製品、ガム類等の増粘剤、ゲル化剤、食塩、調味料、香辛料等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
本発明のペットフードは、水分含量が通常約10%以下のドライタイプでもよく、水分含量が通常約20〜40%程度のセミモイストタイプでもよく、水分含量が通常50%以上のモイストタイプでもよい。
【0016】
本発明のペットフードの形状は特に制限されず、従来のドライタイプ、セミモイストタイプのペットフードと同様の形状にすることができ、例えば、ペレット状、粒状、スティック状、ドーナツ状、星型、ドッグボーン状、勾玉状、偏平丸状、球状、楕円形状、方形状等の所望の形状にすることができる。また、本発明のペットフードのサイズは特に制限されず、給与するペットの種類や年齢に応じたものとすることができる。例えば、ペレット状のものでは、直径を5〜10mm程度、長さを10〜15mm程度にすると、犬又は猫への給餌が容易で、嗜好性にも優れる。
【0017】
本発明のペットフードは、従来のペットフードの製造方法に準じて製造することができる。本発明のペットフード製造方法の一例として、前記基本原料とアンセリン(アンセリンの給源)との混合物を粉砕して原料粉砕物を得、該原料粉砕物を所定形状に成形する工程を有する製造方法が挙げられる。この原料粉砕物の成形は、この種の固形状ペットフードの製造において粉体原料の成形(造粒)に従来用いられている方法を利用して実施することができる。
【0018】
本発明のペットフードは、前記基本原料及びアンセリンを含む所定形状の成形体でもよく、あるいは該成形体の表面を、常温で固形状を呈する油脂(常温固形油脂)で被覆し、更に嗜好性素材で被覆した構成を有するもの(嗜好性素材コーティング成形体)でもよい。嗜好性素材コーティング成形体からなるペットフードは、ペットによる嗜好性に特に優れる。
【0019】
前記嗜好性素材コーティング成形体においては、前記成形体の表面全体が前記常温固形油脂で均一に被覆されていることが好ましい。常温固形油脂としては、常温で固形状を呈する、融点が35℃以上の油脂が好ましく用いられ、融点が35〜50℃の油脂がより好ましく用いられる。常温固形油脂としては、例えば、鶏脂、牛脂又はそれらの混合物を挙げることができる。成形体の表面を常温固形油脂で被覆する方法としては、公知の塗布方法を用いることができ、例えば、常温固形油脂をその融点以上の温度に加熱して溶融し、その溶融した油脂を、滴下法、噴霧法等によって成形体に付着(コーティング)する方法を採用することができる。常温固形油脂の被覆量(付着量)は、被覆対象の成形体の質量に対し、好ましくは0.5〜5%、更に好ましくは1〜3%である。
【0020】
前記嗜好性素材としては、ペットによる嗜好性が高く、これを用いることによって、これを用いない場合に比べてペットフードの摂取量が増加する素材が用いられる。嗜好性素材の種類は、ペットフードの種類(ペットフードを供与するペットの種類)等に応じて異なり得るが、そのうちでも、フィッシュミールパウダー、レバーパウダー(レバー加水分解物粉末)及び酵母エキスパウダーから選ばれる嗜好性パウダーの1種以上が好ましく用いられる。
【0021】
前記嗜好性素材の前記成形体への付着方法、即ち、前記成形体の表面に形成された常温固形油脂層上に前記嗜好性素材を付着させる方法は、特に制限されず、例えば、表面が常温固形油脂で被覆された成形体と嗜好性素材とを混合撹拌する方法、あるいは、表面が常温固形油脂で被覆された成形体に嗜好性素材を散布する方法等を採用することができる。嗜好性素材を成形体に付着させる際の温度としては、成形体の表面に形成した常温固形油脂層が固体状態を呈する温度、一般的には10〜50℃、特に20〜40℃の温度が好ましく採用される。嗜好性素材の被覆量(付着量)は、被覆対象の成形体(常温固形油脂が付着される前の成形体)の質量に対し、好ましくは0.2〜3%、更に好ましくは0.5〜2%である。
【0022】
本発明のペットフードは、犬、猫、ウサギ、モルモット、九官鳥等、家庭で飼育可能な小型の動物用の食餌として適している。
【実施例】
【0023】
本発明を具体的に説明するために実施例を挙げるが、本発明は実施例によって制限されるものではない。
【0024】
〔実施例1〕
基本原料として下記表1に示すものを用意した。基本原料とアンセリンとの混合物を、ターボ工業株式会社製粉砕機「Turbo Mill T−40−4型」を用いて粉砕し、原料粉砕物を得た。この原料粉砕物を用いて、エクストルーダー(ジョーダ鉄工株式会社製「EP−50」)を使用して、エクストルーダーへの原料の供給量60kg/時、エクストルーダーへの給水量13リットル/時、混練温度70℃〜90℃、バレル先端温度100℃〜130℃、バレル先端圧力5〜10バールの条件下に押出成形してストランド状に押し出した後、切断し、それを120℃で乾燥して、水分含量が8%のペレット状の成形体(直径8〜9mm、長さ3〜5mm)を製造した。この成形体の表面に前記常温固形油脂を付着させて、該表面全体を該常温固形油脂で均一に被覆し、更に、前記嗜好性素材を付着させて、目的とするドライタイプのキャットフードを製造した。常温固形油脂の付着量は、被覆対象の成形体の質量に対し3%、嗜好性素材の付着量は、被覆対象の成形体の質量に対し1%であった。
【0025】
〔比較例1〕
アンセリンを用いなかった以外は実施例1と同様にして、ドライタイプのキャットフードを製造した。
【0026】
【表1】
【0027】
〔評価〕
実施例及び比較例のキャットフードについて、乾物あたりの栄養価(%)を評価すると共に、下記方法により血圧降下作用を評価した。その結果を下記表2に示す。キャットフードの栄養価評価において、粗蛋白質、リン、ナトリウムは、それぞれ、ペットフード公正取引協議会の「ペットフードの表示に関する公正競争規約施行規則」に開示の方法(飼料分析基準)に従って分析した。
【0028】
〔キャットフードの血圧降下作用の評価試験〕
国際獣医腎不全研究グループ(IRIS)による分類ステージ1〜2に該当する日本猫7頭(平均年齢8歳、平均体重4.3kg)に対し、6ヶ月にわたってキャットフードを給与して自由に摂取させた。その6ヶ月の試験期間のうち、最初の3ヶ月(対照区)は比較例1のキャットフードのみを給与し、残りの3ヶ月(試験区)は実施例1のキャットフードのみを給与した。試験期間中は毎日、夕方16時にキャットフードを維持給与量(70kcal×体重Kg/日)給与し、翌朝9時に食べ残しのキャットフードを回収した。また試験期間中、水は欠かさず給与した。対照区及び試験区それぞれにおいて、キャットフードの給与開始から1週間ごとに獣医師による猫の血圧測定を実施した。血圧測定には、動物用非観血血圧計BP100D(フクダエム・イー工業株式会社製)を用い、暗所にて猫を安静にし、右前足にカフを装着し、安定した血圧測定値(収縮期血圧、拡張期血圧、平均血圧)が得られるまで繰り返し行い、5回分の測定値の平均値を計測値とした。尚、得られた数値は、各群での平均値及び標準誤差を算出した。各群間の有意差は、バートレット(Brtlett)法(有意水準5%)により等分散性の検定を行い、テューキー(Tukey)法により平均値の比較を行った。有意水準は危険率5%及び1%とした。表2中の血圧降下作用の欄において、*(アスタリスクが1つ)は、対照区(比較例1)と試験区(実施例1)との間における有意差が、有意水準p<0.05で認められたことを示す。
【0029】
【表2】
【0030】
表2から明らかなように、実施例1(試験区)は比較例1(対照区)と比較して、収縮期血圧については15mmHgの低下、拡張期血圧については7mmHgの低下、平均血圧については9mmHgの低下が見られ、特に収縮期血圧については有意に低下していることが確認された。このことから、アンセリンを含む本発明のペットフードは、血圧降下作用が期待できることは明らかである。