(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-59073(P2015-59073A)
(43)【公開日】2015年3月30日
(54)【発明の名称】炭化珪素単結晶ウェハの内部応力評価方法、及び炭化珪素単結晶ウェハの反りの予測方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/36 20060101AFI20150303BHJP
C30B 23/06 20060101ALI20150303BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B23/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-195011(P2013-195011)
(22)【出願日】2013年9月20日
(71)【出願人】
【識別番号】306032316
【氏名又は名称】新日鉄住金マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100082739
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 勝夫
(74)【代理人】
【識別番号】100087343
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 智廣
(72)【発明者】
【氏名】小島 清
(72)【発明者】
【氏名】中林 正史
(72)【発明者】
【氏名】下村 光太
(72)【発明者】
【氏名】永畑 幸雄
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BE08
4G077DA02
4G077DA18
4G077GA06
4G077GA10
4G077HA06
4G077HA12
4G077SA01
4G077SA04
(57)【要約】
【課題】SiC単結晶ウェハの内部応力を評価する方法、および、ウェハの内部応力を評価して、研磨完了後のSiC単結晶ウェハの反りを予測する方法を提供する。
【解決手段】ラマン散乱光の波数シフト量をSiC単結晶ウェハ面内の2点で測定し、その差分によって内部応力を評価する。また、昇華再結晶法によって製造された炭化珪素単結晶ウェハの反りを事前に予測する方法であって、前記の評価指標を用いてSiC単結晶ウェハの反りを予測する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇華再結晶法によって製造された炭化珪素単結晶ウェハの、主面内の2点で測定されたラマンシフト値の差分による、炭化珪素単結晶ウェハ内部応力の評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載の評価方法であって、中心で測定されたラマンシフト値(A)と外周部で測定されたラマンシフト値(B)とのラマンシフト差(A−B)を用いる評価方法。
【請求項3】
昇華再結晶法によって製造された炭化珪素単結晶ウェハの反りを事前に予測する方法であって、炭化珪素単結晶ウェハを得る際の最終研磨よりも前に測定した、表裏面のいずれか一方の面内の2点のラマンシフト値の差分を用いて、研磨工程完了後のウェハの反りを見積る、炭化珪素単結晶ウェハの反りの予測方法。
【請求項4】
昇華再結晶法により得られた炭化珪素単結晶インゴットをスライスした単結晶薄板の表裏面のいずれか一方の面内の2点で測定されたラマンシフト値の差分を用いる、請求項3に記載の炭化珪素単結晶ウェハの反りの予測方法。
【請求項5】
ラマンシフト値の差分と炭化珪素単結晶ウェハの反りとの関係を予め求めておき、得られた関係式をもとに、ラマンシフト値の差分から炭化珪素単結晶ウェハの反りを予測する、請求項3又は4に記載の炭化珪素単結晶ウェハの反りの予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素単結晶ウェハの内部応力評価方法、及び炭化珪素単結晶ウェハの反りの予測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、2.2〜3.3eVの広い禁制帯幅を有するワイドバンドギャップ半導体であり、その優れた物理的、化学的特性から、耐環境性半導体材料として研究開発が行われている。特に近年は、青色から紫外にかけての短波長光デバイス、高周波電子デバイス、高耐圧・高出力電子デバイス向けの材料としてSiCが注目されており、研究開発は盛んになっている。ところが、SiCは、良質な大口径単結晶の製造が難しいとされており、これまでSiCデバイスの実用化を妨げてきた。
【0003】
従来、研究室程度の規模では、例えば昇華再結晶法(レーリー法)で半導体素子の作製が可能なサイズのSiC単結晶を得ていた。しかしながら、この方法では得られる単結晶の面積が小さく、その寸法、形状、さらには結晶多形(ポリタイプ)や不純物キャリア濃度の制御も容易ではない。一方、化学気相成長(Chemical Vapor Deposition:CVD)を用いて珪素(Si)等の異種基板上にヘテロエピタキシャル成長させることにより、立方晶のSiC単結晶を成長させることも行われている。この方法では大面積の単結晶は得られるが、SiCとSiの格子不整合が約20%もあることなどにより、多くの欠陥(〜10
7/cm
2)を含むSiC単結晶しか成長させることができず、高品質のSiC単結晶は得られていない。
【0004】
そこで、これらの問題点を解決するために、SiC単結晶ウェハを種結晶として用いて昇華再結晶を行う改良型のレーリー法が提案されている(非特許文献1参照)。この改良レーリー法を用いれば、SiC単結晶の結晶多形(6H型、4H型、15R型等)や、形状、キャリア型、及び濃度を制御しながらSiC単結晶を成長させることができる。尚、SiCには200以上の結晶多形(ポリタイプ)が存在するが、結晶の生産性と電子デバイス性能の点で4Hポリタイプが最も優れているとされており、商業生産されるSiC単結晶は4Hであることが多い。また、導電性は、ドーパントとして窒素が扱いやすい点で、単結晶インゴットはn型導電性で育成される場合がほとんどである。ただし、通信デバイス用途では、ドーパント元素を殆ど含まない、抵抗率の高い結晶も製造されている。
【0005】
SiC単結晶インゴットを半導体デバイス製造用SiCウェハとして用いるためには、前記の改良レーリー法等の方法によって製造されたSiC単結晶インゴットを、主として切断及び研磨からなる工程を経て、ウェハ状に加工する必要がある。即ち、ワイヤーソー等の方法により、所望の結晶面が露出するように切断された薄板状のSiC単結晶ウェハは、シリコン等々の他の半導体材料一般について行われている方法と、ほぼ同様な研磨プロセスにより鏡面研磨加工され、このようにして製造されるSiC単結晶ウェハを用いて、各種電子デバイスが作製される。
【0006】
現在、改良レーリー法で作製したSiC単結晶から、口径51mm(2インチ)から100mmのSiC単結晶ウェハが切り出され、電力エレクトロニクス分野等のデバイス作製に供されている。更には150mmウェハの開発成功も報告されており(非特許文献2参照)、100mm又は150mmウェハを用いたデバイスの本格的な商業生産が実現されつつある。
【0007】
ところで、一般的に、所謂「反り」として表現されるウェハの平坦度は、デバイス工程上、非常に重要視されている。何故なら、平坦度の劣る、すなわち反りの大きなウェハは、露光プロセス(リソグラフプロセス)において、ウェハ面内の一部が焦点を外れ、明確なマスク像を形成しなくなるからである。この焦点ずれの現象は、当然ながら、回路が微細であるほど影響が大きい。
【0008】
ここで、もしも、研磨工程が完了する前に、研磨後の製品ウェハの反りを予測できれば、そりの値によって用途選別してウェハを研磨する(デバイス種によって研磨仕様が異なる場合は多い。)、反りの大きさから製品化不可とわかっているウェハは研磨工程に投入しない、あるいは、高温のアニール処理を施し、転位密度が許容される用途向けに振り分ける、などの工程選択が可能となる。これは、ウェハを効率的に製品化することと同時に、高価な研磨工程の無駄を省いて、コストを低下することにも繋がるので、工業的には極めて重大なことである。
【0009】
SiC単結晶ウェハの反りは、一般に、3つの要素から決まる。それは、(i)結晶の内部応力、(ii)切断の精度とウェハ表裏面の加工残留歪、(iii)研磨工程での表裏面の残留歪の除去とその過程、である。(i)は結晶成長の条件と、その後の熱処理によって決定される。(ii)はワイヤーやブレードの運動の精度、および切断行程で表面に付与される加工歪によって決定される。(iii)による反りの変化は、一般にトワイマン効果と言われ、歪の大きい面が凸になるようにウェハが反る。つまり、成長条件、および切断工程と研磨工程の精度やその内容により、ウェハの反りは行程中で異なる経過を辿って、最終的な研磨完了後の製品ウェハの反りに至るのであり、研磨工程内のウェハの反りの大きさと、最終的な研磨が完了したウェハの反りの大きさは、値が一致しないどころか、工程内での反りの変化傾向も一様ではなく、従来、研磨完了前にウェハの反りを予測する技術はなかった。
【0010】
一方、ウェハの反り量を減らす手段として、例えば、以下のような方法が検討されている。特許文献1には、SiC単結晶インゴットから切り出されたウェハを1300℃以上、2000℃以下の温度で焼鈍(アニール)処理することで、インゴットの研削や切断による加工残留応力を取り除いて、ウェハの反り量を低減する技術が報告されている。また、特許文献2には、SiC単結晶のインゴット又はウェハを、炭素及び水素を含む非腐食性ガス雰囲気、又は、これらの非腐食性ガスにアルゴンやヘリウムを混合した雰囲気にて、2000℃超2800℃以下の温度で焼鈍することで、インゴットやウェハの内部応力を緩和して、インゴットの加工時やウェハのデバイスプロセスにおける割れやクラックを防ぐ技術が報告されている。更に、特許文献3には、SiC単結晶インゴットから切り出されたウェハを、10MPa以上0.5MPa以下で加圧しながら800℃以上2400℃で加熱処理することで、ウェハの曲率半径を35m以上にする技術が報告されている。また、反りを低減する研磨、表面仕上げの技術として、特許文献4が提案されており、機械的平面加工あるいは切削加工により生じた加工変質層を気相エッチングにより除去し、SiCウェハの反りを解消する技術が開示されている。
【0011】
特許文献1、2または3は、成長結晶の内部応力を軽減させる点で有効と考えられるが、SiC単結晶に対して外部から2000℃を超える熱負荷を掛けて原子の再配置を行わせることは、新たな結晶欠陥を発生させる結果となり得る。特許文献3の実施例における焼鈍後の結晶の転位密度増加が、その現象を示すものである。さらに特許文献4を含めて共通して言えることは、研磨後のウェハの反りを予測する技術ではないということである。工業的規模の生産においては、すべてのウェハのそりを0に近い小さな値にすることは不可能であり、たとえ反りを小さくする製造技術があるとしても、そりを予測する評価技術も重要であることに変わりはないのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004−131328号公報
【特許文献2】特開2006−290705号公報
【特許文献3】特開2005−93519号公報
【特許文献4】特開2008−227534号広報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Yu. M. Tairov and V. F. Tsvetkov, Journal of Crystal Growth, vols.52 (1981) pp.146-150
【非特許文献2】A. A. Burk et al.,Mater. Sci. Forum,717-720, (2012) pp75-80
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述したように、SiCウェハの反りを予測することは工業的には非常に重要であるが、従来、そりの予測技術は確立されていなかった。
【0015】
本発明は、上記のような課題を解決すべく、為されたものであり、ウェハの内部応力を評価し、研磨が完了したSiC単結晶製品ウェハの反りの値を、研磨工程完了前に予測することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者等は、上述のような問題を解決すべく、前述したSiCウェハの反りの三大要素の考え方に基づいて、反り現象の解明に取り組んだ。その結果、驚くべきことに、ある一定の、高精度な、かつ公知の切断、研磨条件によって作製された研磨完了後のウェハの反り量は、結晶の内部応力値の関数として表せることを見出した。すなわち、結晶の内部応力を測定すれば、ウェハの反りを予測できるわけである。しかしながら、内部応力を如何にして評価するかという問題がある。内部応力の評価方法としては、例えばX線による格子定数の精密測定が一般的に知られているが、この測定を実行するためには、高価な設備と高度な技能も要し、さらに測定時間が長いといった問題もあり、量産工場での検査には適さない。そこで本発明者らは、簡便、かつ短時間でSiCウェハの内部応力を評価する方法を見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0017】
すなわち、本発明は以下の構成より成るものである。
(1)昇華再結晶法によって製造された炭化珪素単結晶ウェハの、主面内の2点で測定されたラマンシフト値の差分による、炭化珪素単結晶ウェハ内部応力の評価方法。
(2)(1)に記載の評価方法であって、中心で測定されたラマンシフト値(A)と外周部で測定されたラマンシフト値(B)とのラマンシフト差(A−B)を用いる評価方法。
(3)昇華再結晶法によって製造された炭化珪素単結晶ウェハの反りを事前に予測する方法であって、炭化珪素単結晶ウェハを得る際の最終研磨よりも前に測定した、表裏面のいずれか一方の面内の2点のラマンシフト値の差分を用いて、研磨工程完了後のウェハの反りを見積る、炭化珪素単結晶ウェハの反りの予測方法。
(4)昇華再結晶法により得られた炭化珪素単結晶インゴットをスライスした単結晶薄板の表裏面のいずれか一方の面内の2点で測定されたラマンシフト値の差分を用いる、(3)に記載の炭化珪素単結晶ウェハの反りの予測方法。
(5)ラマンシフト値の差分と炭化珪素単結晶ウェハの反りとの関係を予め求めておき、得られた関係式をもとに、ラマンシフト値の差分から炭化珪素単結晶ウェハの反りを予測する、(3)又は(4)に記載の炭化珪素単結晶ウェハの反りの予測方法。
【発明の効果】
【0018】
本発名の評価方法を用いれば、研磨を完了したウェハの反り値が事前に予測できるようになることから、炭化珪素単結晶インゴットからスライスしたウェハを効率的に製品化するとともに、生産コストを低下させることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】SiCウェハのラマン散乱光測定データの1例である。
【
図2】SiCの{0008}X線回折データの1例である。
【
図3】ラマン指数と内部応力の関係を示すグラフである。
【
図4】ラマン指数と反りの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について詳しく説明する。
比較的簡便に、かつ短時間で内部応力を測定する手法として、ラマン散乱光のピーク波数の変化、所謂ラマンシフトを用いる方法がある。結晶に内部応力が存在すると原子間距離が変化し、それに伴いラマン散乱光のピーク波数がシフトすることは広く知られた事実である。すなわち、圧縮応力では高波数側にシフトし、引張応力では低波数側にシフトする。
【0021】
しかるに、SiC単結晶は強い共有結合を持ち、応力の差異によるラマンシフトがごく僅かであることから、例えば較正ランプ光の波数ドリフトなどの影響も受け、たとえ測定はできても実用的レベルに耐える値を得ることは難しかった。そこで、本発明者らは、ラマンシフトをウェハ主面内の2点で測定し、その差分(以下、ラマン指数とする)を取ることで、較正ドリフトなどの影響を回避し、ウェハの内部応力を評価できるデータが得られることを見出した。すなわち、通常、精密ラマン測定においては、環境の変化が測定値に大きな影響を与えるが(その代表的なものが上記のような較正用Neランプの波長ピークのドリフトである)、ウェハ面内の2点で測定してその差分を求めれば、Neランプのドリフト等の外乱の影響を排除して、ウェハの内部応力の評価が可能になる。
【0022】
ここで、昇華再結晶法で製造された炭化珪素単結晶ウェハ(以下、単に「ウェハ」と言う場合もある)の内部応力は同心円状に分布している。これは、昇華再結晶法によるSiC単結晶インゴットは、一般に、中心軸に対象の温度勾配環境で製造されることから、その内部応力も中心軸に対象であり、中心から外周部に向かって応力が勾配していると考えられる。そこで、ラマンシフトの測定は中心側と円周部側の2点で行い、その差分を求めることが基本となり、例えば、測定を行う点は、ウェハの中心を基準に、半径方向に2点目をとるようにすればよい。複数の測定点をとり、それらのラマン指数を解析すれば、面内の応力分布を評価することも可能である。通常、ウェハ中心と外周が内部応力の最小、または最大の位置となるため、中心で測定されたラマンシフト値(A)と、外周部で測定されたラマンシフト値(B)の差(A−B)を用いることで、最も簡単かつ的確に、ウェハの内部応力の大きさを表現できる。
【0023】
外周部の測定点の位置は特に限定するものではないが、できるだけエッジに近い方がラマン指数は拡大する。一方で、エッジ近傍は所謂、エッジ除外領域(Edge Exclusion)であり、結晶品質に問題がある場合もあるほか、面取り加工による加工残留歪の影響も無視できない。そこで、外周部の測定点としては、ウェハのエッジより1mm〜10mm程度中心寄りの位置が適当である。測定点の位置によりラマン指数は変化するので、ラマン指数を求めるにあたって測定点の位置は固定することが望ましい。上記により定義された、(A−B)の値を用いることで、研磨が完了したウェハ(製品ウェハ)の反り値を予測することができる。すなわち、ラマンシフト値の差分とウェハの反りとの関係を予め求めておけば、得られた関係式をもとに、ラマンシフト値の差分からウェハの反りを予測することができる。
【0024】
ウェハの反りは、ウェハ面内における高低差で表され、その測定にはいくつかの方法が存在するが、本発明では、光学干渉計を用いて測定した値を言うものとする。光学干渉計は、一般に、コヒーレントな光をウェハ表面に照射して反射させ、ウェハ面内の高さの差を反射光の位相のずれとして観測するものである。この光学干渉計を用いて、基準平面上に拘束力なしで置かれた、周辺部から2mmの領域を除いたSiC単結晶ウェハ面内の、基準平面と垂直方向の高さを測定し、高さの最高点と最低点の差を反りとする。
【0025】
反りを予測するためのラマン測定は、ウェハ加工途中のどの段階で行うこともできる。一般に、SiC単結晶ウェハを得るには、SiC単結晶インゴットをスライスして薄板状のSiC単結晶(単結晶薄板)を切り出す切断工程の後、例えば、その表面の凹凸を除去するためのラッピング、表面の平滑度を上げるダイヤモンドポリッシュ、ウェハ表面の加工歪を除去するCMP(化学的機械的研磨)等の各種研磨処理による研磨工程によって仕上げられる。そのため、研磨工程が完了した後のウェハの反りを事前に予測するには、ウェハを仕上げる研磨工程での最終研磨以前に行うようにすればよいが(最終研磨は製品ウェハに求められる品質によって研磨の種類が変わり、また、表裏面(Si面、C面)で互いに異なる場合もある)、SiC単結晶インゴットからの切断後、つまり、全く研磨加工が為されていない単結晶薄板の状態で、その表裏面のいずれか一方の面内の2点で測定すれば、その後の工程選択の自由度が最大になるため最も望ましい。なお、ラマン測定の装置や条件は特に限定するものでは無いが、分解能は+/-0.05cm
-1程度あることが望ましい。光源も特に限定はしないが、波長532nmのグリーンレーザーを用いるのが一般的である。
【0026】
また、上述したように、SiC単結晶ウェハは、その用途等によって必要な厚みや最終研磨処理の種類が変わる場合があることから、ラマンシフト値の差分とSiC単結晶ウェハの反りとの関係式を得るにあたっては、表裏面(Si面、C面)での各研磨条件と得られるSiC単結晶ウェハの厚みとの組み合わせに応じて、それぞれの関係式を用意しておくのが望ましい。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。
【0028】
(実施例1)
昇華再結晶法によって製造されたSiC単結晶ウェハであって、口径100mmの、<0001>面を主面とするSiC単結晶ウェハ2枚(ウェハ番号11および12)についてラマン指数測定を行い、さらに、X線回折手法を用いて同ウェハの内部応力測定も行った。ウェハは表裏面とも最終的に平均粒径0.5μmのダイヤモンドスラリーでポリッシュされ、鏡面に仕上げられており、研磨後の厚さは約2.3mmである。変形による応力緩和を回避し、精密な測定を行うため、このような厚いウェハを用いた。
【0029】
ラマン指数の測定は次の条件で行った。ラマン測定の光源は532nmのグリーンレーザーであり、これをサンプル表面のφ2μmのスポットに照射した。1つの測定箇所につき、前述の測定光をスポット間隔10μmにて横8列×縦9列の計72点照射し、その平均値をその測定箇所のデータとした。1枚のウェハにつき、1つの測定箇所の中心がウェハの中心であり、もう1つの測定箇所の中心がウェハのエッジ(外周)から2mm離れた位置(ウェハの中心に向かってエッジから2mm離れた位置)となるような2箇所でSiCのラマン散乱光を測定した。そして、SiCのラマン散乱光ピークの波数(波長の逆数)の差分(中心の値−外周2mmの値)をラマン指数とする。
図1に、ラマン散乱光の測定例を示す。Neランプの816cm
-1のピークを散乱光測定のキャリブレーションに用いた。測定時間は1枚のウェハ(2測定箇所)につき4分から6分程度であった。なお、ラマン測定は、下記実施例2、3を含めて、ラマン分光測定器(日本分光社製 NRS-7100、分解能±0.05cm
-1)を用いて行った。
【0030】
X線回折(以下、XRD)は、次の条件で行った。X線源は回転対陰極(銅ターゲット)であり、定格出力は18kWである。X線の入射と検出はウェハの<11−20>方向と平行に行った。ラマン測定の測定点と同じにして、測定するウェハの中心、およびエッジから2mm離れた位置の2箇所で、{00012}、{11−28}、{1−1010}の3つの反射面で精密X線回折を行い、SiCの3つの主面、すなわち{0001}、{11−20}、{1−100}の格子歪を算出した。SiCの弾性率は<0001>方向について433GPa、<0001>に直行する方向は474GPaとして、前述の歪値よりウェハの内部応力値を導出した。X線の入射方向と結晶方位の関係から、例えば結晶方位<1−100>方向の応力はウェハの円周方向応力に相当する。同様に、<0001>は厚さ方向、<11−20>は径方向である。1枚のウェハの2箇所について、前述の3方位の回折測定を実行するために、およそ6時間を要した。
【0031】
ラマン指数と内部応力の測定結果を表1、および
図3に示す。内部応力は円周方向が最も大きく、それ以外の方向の応力の10倍以上であったため、表1には円周方向応力のみ記述する。
表1、および
図3で示した通り、ラマン指数には応力の分布や方向の情報は含まれないが、ラマン指数と内部応力とが対応関係を有することから、ラマン指数によりウェハの内部応力の全体的な大きさは評価可能であることが分かる。なお、ラマン測定、XRDともウェハのSi面、C面の両面で行っており、表1、および
図3ではSi面のデータを用いている。ラマン指数についてのSi面とC面の差は誤差範囲であり、面方位による傾向は見られなかった。XRDについても、円周方向応力に関しての面方位による差は1%未満であり、有意差ではなかった。
【0032】
【表1】
【0033】
(実施例2)
次に、実施例2として、昇華再結晶法により得られた複数のSiC単結晶インゴットより切断された、厚さ500μmの4インチウェハ(単結晶薄板)を16枚用意し、ラマン指数の測定を行った。ラマン測定の位置は実施例1と同様に、中心とエッジから2mmの2点である。なお、SiCのラマン散乱光ピークを測定する際、ラマン分光測定装置の入射レーザービームの焦点深さはウェハ表面から約10μmの深さとなるように調整した。焦点深さがこれより浅いと、スライスによる歪(原子構造の乱れ)により正しいラマンシフトの値を得ることができない。また、焦点深度がこれより深いと、ラマン散乱光がSiCに吸収されてしまうので、十分な信号強度が得られない。
【0034】
その後、ウェハの研磨加工を順次加を進めて行きながら、一つの工程が完了する度に(例えば、ラップ終了時点など)、ラマン指数の測定を行った。すなわち、一般的にスライスされたウェハは、スライスの凹凸を除去するためのラッピング(ラップ)、表面の平滑度を上げるためのダイヤモンドポリッシュ、更にウェハ表面の加工歪を除去するためのCMP(化学的機械的研磨)が行われるが、本発明例においてもそれと同様なプロセスを行いながら、各工程の完了ごとにラマン指数を行ったものである。具体的には、ラッピングについては、10〜1μmサイズのダイヤモンド砥粒を使った両面加工を1〜数時間実施し、ダイヤモンドポリッシュについては、1〜0.1μmのダイヤモンド砥粒を使って3〜5時間実施し、CMP(化学的機械的研磨)については市販されているSiC専用スラリーを使って7〜10時間実施、というフローである。
【0035】
切断からCMP完了までの間に、ウェハのラマン指数は、やや小さくなるような傾向が見られた。これは、ウェハが薄くなって剛性が低くなった結果、内部応力を緩和する方向に変形する(反る)ためと考えられる。しかし、その変化は1枚のウェハだけで見れば誤差に隠れてしまう程度であり、明確ではなかった。すなわち、研磨工程のどの段階であっても、ラマン指数はほぼ一定であり、共通した内部応力の指標として使用できる。
【0036】
ウェハの最終仕上げは、C面がCMP、Si面がダイヤモンドポリッシュ(ダイヤポリッシュ)であり、仕上げ厚みは350μmである。完成したウェハの表面粗さは、CMP処理されたSi面はRaで0.05nm〜0.15nm、ダイヤポリッシュ仕上げのC面は0.2nm〜1.0nm程度であった。反りの測定には、コーニングトロペル社製のトロペルを用い、エッジ除外領域2mmを除いた領域のSORIを基板の反りとした。
【0037】
図4は、縦軸を、上記した条件の研磨が完了したウェハ(製品ウェハ)の反り、横軸を、切断ウェハ(単結晶薄板)のラマン指数として、前述の16枚のウェハのデータをプロットしたものである。ラマン指数と反り値について最小二乗法で線形近似すると、Y(そり)=561X(ラマン指数)−25が得られた。決定計数は0.873であり、良い相関関係であった。
【0038】
また、表裏面(Si面、C面)での最終研磨の種類と製品ウェハの厚みを変えた以外は上記と同様にして、計4種の研磨仕様について調査した結果を表2に示す。やはりラマン指数と反りには線形の相関関係が見られ、それらの決定計数も0.8以上と良好であった。
【0039】
【表2】
【0040】
(実施例3)
実施例3では、実施例2で得られた反りとラマン指数の関係式を用いてウェハの反りを予想し、その後、実際に研磨を行って反りを実測した。
先ず、昇華再結晶法により得られた複数のSiC単結晶インゴットから切り出された、厚さ0.5mmの切断ウェハ(単結晶薄板)64枚の中から、実施例3用に7枚を無作為に抽出し、上記と同様にしてラマン指数の測定を行った。すなわち、測定個所は実施例1と同様に中心とエッジから2mmの2か所であり、測定面はSi面である。その結果を表3に示す。
【0041】
【表3】
【0042】
次に、表3のラマン指数を元に、ウェハの研磨仕様を決定した。先ず、31番のウェハは、今回の7枚の中では最もラマン指数が大きいため、最も反り予想値の小さくなるSi面CMP、C面ラップ、厚さ350μmの仕様とした。このときの反りの予測値は、上記表2に記した式(2)に基づけば17μmであり、この仕様の反りの要求値(40μm以下)を満足する値である。次に、33番、34番のウェハは、今回の7枚の中で最もラマン指数の小さいウェハと、3番目に小さいウェハであるため、反りの大きくなりやすい、Si面CMP、C面ダイヤポリッシュ、厚さ300μm仕様に振り分けた。このときの反りの予想値は33番が51μm、34番が52μmである(いずれも上記表2に記した式(3)による)。同仕様の一般的な要求値(60μm以下)を下回るので、製品化可能と予測した。
【0043】
35番と36番のウェハはラマン指数が大きく異なる。これらのウェハについては、反りの予測値と要求仕様を踏まえて、今回調査した4種の研磨仕様中で最も反りの大きくなりやすいSi面CMP、C面ダイヤポリッシュ、厚さ250μm仕様とした。35番のウェハの反り予測値は173μmであり、同研磨仕様のウェハが投入される、反り基準の緩い(200μm以下)デバイスラインに投入できると見込んだ。一方、36番のウェハの反り予測値は109μmであり、同研磨仕様のウェハが投入される、反り基準の厳しい(150μm以下)デバイスラインに投入できると見込んだ(いずれも予測値は上記表2に記した式(4)による)。
【0044】
残った32番、37番のウェハは、Si面CMP、C面ダイヤポリッシュ、厚さ350μm仕様とした。そりの予測値は、それぞれ、13μm、29μmであり、この仕様の反りの要求値(40μm以下)を満足すると考えた(いずれも予測値は上記表2に記した式(1)による)。
【0045】
これらの用途分け通りに、実際に研磨加工を行った。表4に、反りの予測値と研磨後の反りの実測値をまとめて示す。
【0046】
【表4】
【0047】
表4に示した通り、反りの実測値と予測値の誤差は最大で11μmであり、十分高い精度で予測できていることが示された。7枚のウェハはすべて、それぞれの仕様の反り要求値を満足する値を実現できた。一方、例えば31番のウェハをSi面CMP、C面ダイヤポリッシュ、厚さ300μm仕様で研磨した場合、反りの予測値は86μmとなり(上記表2に記した式(3)で予測)、同様に、37番の場合は82μmとなり、何れも反り過大で不合格となる。本発明の反り予想技術を用いれば、製品ウェハの反りが要求値に入るように、研磨仕様毎に最適なウェハを振り分けることも可能である。