【実施例】
【0052】
以下において、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
【0053】
第1の実施例(本発明例1〜11及び比較例1〜18)
表1に示す組成のAl合金150kgに、通常の溶湯処理を施して溶解し溶湯調製工程にかけた。次いで、この溶湯を用いて表2に示す鋳造条件で鋳造した。溶湯調製工程では、回転ガス吹込み装置を用いてローター回転数400rpm、気体流量2.5Nm
3/hの条件にて、アルゴンガスを溶湯中に5〜60分間吹き込んだ。アルゴンガスの吹き込み時間(脱ガス時間)を表2に示す。その後、溶湯全体を1時間鎮静保持し除滓して、表2の温度の溶湯を得た。なお、溶湯中の水素ガス量も表2に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
次いで、溶湯調製工程で調製したAl合金溶湯は、表2の予熱温度および水分量に調整された石膏型と、インペラーディスク面に接する面に配置され、表2の温度に調整された銅製冷やし金とで構成される所定空間に加圧注入する低圧鋳造法によりAl合金鋳物を作製した。なお、水分量調整のための石膏型の乾燥条件(乾燥温度及び乾燥時間)を表2に示す。
【0057】
このAl合金鋳物コンプレッサーインペラーは、ディスク直径50mm、高さ40mm、羽根数12枚、羽根先端肉厚0.3mmの形状を有する乗用車ターボチャージャー用コンプレッサーインペラーである。溶湯の注入圧力は100kPaとし、Al合金鋳物全体の凝固が完了するまでこの圧力で加圧保持した。
【0058】
上記Al合金鋳物を石膏型から取り外した後、530℃で8時間の溶体化処理を施し、その後、200℃で20時間の時効処理を施した。以上のようにして、Al合金鋳物製コンプレッサーインペラー試料を作製した。
【0059】
上記のようにして作製した各試料について、羽根部、ボス部及びディスク部における40〜120μmの円相当径を有するポロシティの占有面積率、高温特性(200℃の0.2%耐力値、耐久試験評価)、ならびに、生産性(鋳造歩留評価)を、以下のようにして評価した。
【0060】
1.ポロシティ占有面積率の測定
羽根部、ボス部及びディスク部における、40〜120μmの円相当径を有するポロシティの占有面積率は以下のようにして測定した。試料を羽根部が通る中心線で切断して断面を研磨した。
図2には、コンプレッサーインペラーの中心軸8の片側の研磨断面を示す。このような研磨断面において、羽根部ポロシティ測定断面7、ボス部ポロシティ測定断面5、ならびに、ディスク部ポロシティ測定断面6の各金属組織を光学顕微鏡により倍率100倍で撮像し、画像解析装置に取り込んだ後に円相当径が40μm以上となるポロシティ部のみを抽出した。
【0061】
次いで、40〜120μmのポロシティ占有面積率を求めるため、ポロシティ観察視野面積に対する40〜120μmの円相当径を有するポロシティの総面積の割合を算出した。なお、羽根部におけるポロシティ観察視野面積は0.021mm
2、ボス部におけるポロシティ観察視野面積は0.067mm
2、ディスク部におけるポロシティ観察視野面積は0.022mm
2とした。また、試料研磨断面全域について金属組織を光学顕微鏡により観察し、120μmを超えるポロシティの存在有無と超えるものの円相当径についても調べた。更に、参考までに、10μm以上40μm未満の円相当径を有するポロシティの占有面積率についても、上記と同様に測定した。以上の結果を表3に示す。
【0062】
【表3】
【0063】
2.高温特性
試料の中心軸より丸棒試験片(φ8mm)を採取して、200℃における引張試験より0.2%耐力値を測定した。0.2%耐力値が260MPa以上を合格とした。また、耐久試験(ターボ組み付け、150000rpm×200時間、出側温度200℃)により高温疲労強度を評価した。結果を表3に示す。表3に記載の耐久性試験評価では、試験中に破断した場合を「×」、破断はしなかったが亀裂が発生した場合を「△」、破断も亀裂も発生せず健全な状態のままの場合を「○」とした。なお、△と×における括弧内は、亀裂と破断の発生箇所をそれぞれ示す。
【0064】
3.鋳造歩留評価
各例について1000個の試料を作製して、鋳造歩留評価を行なった。各試料における検査項目は、湯回り及びバリの外観不良検査とした。結果を表3に示す。表3に、全試料のうち各不良品の割合(%)を示す。そして、100%からこれらの不良品割合の合計を差し引いた割合を良品割合(%)とした。良品割合が90%未満である場合を「×」(現行品以下)、90%以上96%未満である場合を「△」(現行品同等)、96%以上100%以下である場合を「○」(現行品より大幅改善)とした。
【0065】
本発明例1〜11では、羽根部・ボス部・ディスク部における40〜120μmの円相当径を有するポロシティの占有面積率が規定範囲内であることから、鋳造歩留も良好で、かつ高温特性も十分に高かった。
【0066】
これに対して比較例1では、石膏温度が高く、羽根部における40〜120μmの円相当径を有するポロシティの占有面積率が高くなった。その結果、耐力値が低く羽根部で破断し、高温特性に劣った。
【0067】
比較例2では、冷やし金の温度が高く、ディスク部における40〜120μmの円相当径を有するポロシティの占有面積率が高くなった。また、バリ不良が多発し鋳造歩留まりが大きく低下した。その結果、耐力値が低くディスク部で亀裂が発生し、高温特性に劣った。
【0068】
比較例3では、石膏型の温度が低く、羽根部における湯回りの外観不良が多発したため、鋳造歩留が大きく低下した。
【0069】
比較例4では、冷やし金の温度が低く、ディスク部における湯回りの外観不良が多発し鋳造歩留が大きく低下した。
【0070】
比較例5では、溶湯温度が低く、羽根部における湯回りの外観不良が多発して鋳造歩留が大幅に低下した。また、ボス部における40〜120μmの円相当径を有するポロシティの占有面積率が高くなり、ボス部にて亀裂が発生して高温特性に劣った。
【0071】
比較例6では、溶湯温度が高く、120μmを超えるポロシティが発生した。その結果、耐力値が低くボス部で破損し、高温特性に劣った。
【0072】
比較例7では、Cu成分が少なく、耐力値が低くディスク部で破損し、高温特性に劣った。
【0073】
比較例8では、Mg成分が少なく、耐力値が低くボス部で亀裂が発生し、高温特性に劣った。
【0074】
比較例9では、Fe成分が少なく、耐力値が低く羽根部で亀裂が発生し、高温特性に劣った。
【0075】
比較例10では、Ni成分が少なく、耐力値が低くディスク部で破損し、高温特性に劣った。
【0076】
比較例11では、Ti成分が少なく、羽根部で破損して高温特性に劣り、また、結晶粒微細化効果が不十分で羽根部における湯回りの外観不良が多発したため鋳造歩留が低下した。
【0077】
比較例12では、Cu成分が多く、高温特性は良好であるが、羽根部における湯回り不良が多発し鋳造歩留が低下した。
【0078】
比較例13では、Mg成分が多く、高温特性は良好であるが、羽根部における湯回り不良が多発し鋳造歩留が低下した。
【0079】
比較例14では、Fe成分が多く、粗大な晶出物相が存在するため、耐力値が低くディスク部で亀裂が発生して高温特性に劣った。
【0080】
比較例15では、Ni成分が多く、粗大な晶出物相が存在するため、耐力値が低く、且つ、ボス部で亀裂が発生し、高温特性に劣った。
【0081】
比較例16では、Ti成分が多く、粗大な晶出物相が存在するためにディスク部で亀裂が発生して高温特性に劣った。
【0082】
比較例17では、溶湯中の水素ガス量が多く、120μmを超えるポロシティが発生した。耐力値が低くボス部で破損し、高温特性に劣った。
【0083】
比較例18では、石膏型の乾燥温度が低いため石膏型中の水分量が多く、羽根部おける40〜120μmの円相当径を有するポロシティの占有面積率が高くなり、羽根部で破損し高温特性に劣った。
【0084】
第2の実施例(本発明例12〜21及び比較例19〜29)
Al合金として、表4に示すものを用いた。ここで、Si、Zn、Mn、Crは不可避的不純物である。このAl合金150kgに、通常の溶湯処理を施して溶解し溶湯調製工程にかけた。次いで、この溶湯を用いて表5に示す鋳造条件で鋳造した。溶湯調製工程では、回転ガス吹込み装置を用いてローター回転数300rpm、気体流量3.0Nm
3/hの条件にて、アルゴンガスを溶湯中に30分間吹き込んだ。その後、溶湯全体を1時間鎮静保持し除滓して、表5の温度の溶湯を得た。なお、溶湯中の水素ガス量も表5に示す。
【0085】
【表4】
【0086】
【表5】
【0087】
次いで、溶湯調製工程で調製したAl合金溶湯は、表5の予熱温度および水分量に調整された石膏型と、インペラーディスク面に接する面に配置され、表5の温度に調整された銅製冷やし金とで構成される所定空間に加圧注入する低圧鋳造法によりAl合金鋳物を作製した。なお、水分量調整のための石膏型の乾燥条件(乾燥温度及び乾燥時間)を表5に示す。
【0088】
このAl合金鋳物コンプレッサーインペラーは、ディスク直径92mm、高さ70mm、羽根数14枚、羽根先端肉厚0.4mmの形状を有するトラックターボチャージャー用コンプレッサーインペラーである。溶湯の注入圧力は100kPaとし、Al合金鋳物全体の凝固が完了するまでこの圧力で加圧保持した。
【0089】
上記Al合金鋳物を石膏型から取り外した後、表5に示す条件で溶体化処理を施し、その後、同じく表5に示す条件で時効処理を施した。以上のようにして、Al合金鋳物製コンプレッサーインペラー試料を作製した。
【0090】
上記のようにして作製した各試料について、羽根部、ボス部及びディスク部における40〜120μm、ならびに、10μm以上40μm未満の円相当径を有するポロシティの占有面積率、120μmを超えるポロシティの存在有無と超えるものの円相当径、高温特性(200℃の0.2%耐力値、耐久試験評価)、生産性(鋳造歩留評価)を、第1の実施例と同じに評価した。結果を表6に示す。
【0091】
【表6】
【0092】
本発明例12〜21では、適正な鋳造条件が採用され、かつ、熱処理が施されているので、羽根部、ボス部及びディスク部における40〜120μmの円相当径を有するポロシティの占有面積率が規定範囲内となった。その結果、高温特性値も十分に高く、かつ、鋳造歩留も良好であった。特に、本発明例12〜15では、好ましい熱処理条件が採用されているため、非常に良好な高温特性値が得られた。
【0093】
これに対して比較例19では、溶湯温度が低く、ボス部における40〜120μmの円相当径を有するポロシティの占有面積率が高くなった。その結果、耐力値が低くボス部で破損し、高温特性に劣った。
【0094】
比較例20では、溶湯温度が高く、かつ、石膏型温度が低かったので、バリ不良が多発し鋳造歩留まりが低下した。
【0095】
比較例21では、石膏型の温度が低く、かつ、冷やし金の温度が低かったので、羽根部における湯周りの外観不良が多発し鋳造歩留が低下した。
【0096】
比較例22では、石膏型の温度が高く、かつ、冷やし金の温度が高かったので、羽根部における40〜120μmの円相当径を有するポロシティの占有面積率が高くなり、羽根部で破損し高温特性に劣った。
【0097】
比較例23では、冷やし金の温度が低く、ディスク部における湯回りの外観不良が多発し鋳造歩留が低下した。
【0098】
比較例24では、冷やし金の温度が高く、バリ不良が多発し鋳造歩留まりが低下した。また、ディスク部における40〜120μmの円相当径を有するポロシティの占有面積率が高くなり、ディスク亀裂が発生し高温特性に劣った。
【0099】
比較例25では、溶湯中水素ガス量が多く、120μmを超える円相当直径を有するポロシティがインペラー内部に存在した。このため、ボス部における40〜120μmの円相当径を有するポロシティの占有面積率が高くなり、耐力値が低くボス部で破損し、高温特性に劣った。
【0100】
比較例26では溶体化処理工程が実施されず、比較例27では時効処理工程が実施されなかった。その結果、いずれも耐力値が低くディスク部で破損し高温特性に劣った。
【0101】
比較例28では、石膏型の乾燥温度が低いため石膏型の水分量が多く、羽根部における40〜120μmの円相当径を有するポロシティの占有面積率が高くなった。その結果、羽根部で破損し高温特性に劣った。
【0102】
比較例29では、石膏型の乾燥時間が短いため石膏型の水分量が多く、羽根部における40〜120μmの円相当径を有するポロシティの占有面積率が高くなった。その結果、羽根部で破損し高温特性に劣った。