【解決手段】エアシャフト本体部15の多孔質焼結層112の外周面1121から圧縮空気fを供給してラジアル軸受隙間60内に気体膜を形成するとともに、ラジアル軸受隙間60の端部から排出された圧縮空気f1をスラスト軸受隙間61a、61bに供給し、スラスト軸受隙間61a、61b内にも気体膜を形成する。ここで、ラジアル軸受隙間60から排出される圧縮空気f1が急増した場合、この圧縮空気f1の一部f2は、ラジアル軸受隙間60とスラスト方向に重なるスラスト軸受面131内の領域に設けられた吸気口135に流入し、貫通穴134で適度な絞り効果が付与された後、排気口136から外部へ排出される。これにより、スラスト軸受隙間61bに流入する圧縮空気f1の増減を抑制し、スラスト軸受隙間61bの急激な圧力変化を減衰させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の静圧気体軸受装置では、所望の性能を発揮できるように環状溝を設計することが難しいという問題がある。すなわち、上述したように、環状溝は、スラスト軸受面からスラスト軸受隙間に噴出した気体の圧力溜りとして機能するとともに、スラスト軸受隙間の急激な気圧変化を減衰させるダンパとしても機能するものであるが、環状溝の溝幅、深さ等の寸法を適切な値に設計しないと、スラスト軸受隙間の気圧変化によって生じた環状溝内の気圧変化の影響で、却って自励振動が大きくなる可能性がある。
【0007】
また、特許文献1に記載の静圧気体軸受装置では、ラジアル軸受面およびスラスト軸受面のそれぞれに気体を噴出する仕組みを設ける必要があるため、構造が複雑化する。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、回転体を、簡易な構造で、より安定して非接触状態で支持することが可能な静圧気体軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明では、回転体の両端面をスラスト方向に貫通するエアシャフト用挿入穴に、このエアシャフト用挿入穴の内径よりも小さい外径を有するエアシャフトを挿入するとともに、一対のスラストプレートにより回転体をスラスト方向両側から非接触状態で挟み込む。また、回転体の内周面(シャフト挿入穴の側壁)と対面するエアシャフトの外周面から気体を噴出して、回転体の内周面とエアシャフトの外周面との間のラジアル軸受隙間内に気体膜を形成させるとともに、この気体をラジアル軸受隙間の両端部から排出させ、回転体の端面とこの端面に対面するスラストプレートの端面に形成されたスラスト軸受面との間のスラスト軸受隙間内にも気体膜を形成する。さらに、ラジアル軸受隙間とスラスト方向に重なるスラスト軸受面内の環状領域に、外部への排気口に繋がる流路の吸気口を設け、ラジアル軸受隙間から排出される気体が急増した場合に気体の一部をこの流路から排出することにより、スラスト軸受隙間に流入する気体の増減を抑制して、スラスト軸受隙間の急激な圧力変化を減衰させる。
【0010】
例えば、本発明は、両端面をスラスト方向に貫通するエアシャフト用挿入穴が形成された回転体を非接触状態で支持する静圧気体軸受装置であって、
前記エアシャフト用挿入穴の内径よりも小さい外径を有し、当該エアシャフト用挿入穴に挿入されるエアシャフトと、
前記エアシャフト用挿入穴に前記エアシャフトが挿入された前記回転体を、前記スラスト方向において前記両端面側から非接触で挟み込む一対のスラストプレートと、を有し、
前記エアシャフトは、
ラジアル軸受隙間を介して前記回転体の前記エアシャフト用挿入穴の内周面と対面し、当該ラジアル軸受隙間に気体を噴出する外周面を有し、
前記一対のスラストプレートの各々は、
スラスト軸受隙間を介して前記回転体の前記端面と対面する一方の端面にスラスト軸受面を有し、
前記一対のスラストプレートの少なくとも一方は、
前記スラスト軸受面において前記ラジアル軸受隙間と前記スラスト方向に重なる環状領域に設けられた吸気口と、当該吸気口に流入した気体を外部へ排出する排気口と、を備えた流路を有する。
【0011】
ここで、前記流路は、前記吸気口から前記スラストプレートの他方の端面まで前記スラスト方向に貫通する貫通穴であってもよい。あるいは、前記スラスト軸受面に形成され、前記環状領域内から前記スラストプレートの側面まで続くラジアル方向の溝であってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、エアシャフトの外周面から噴出した気体によってラジアル軸受隙間内に気体膜が形成されるとともに、ラジアル軸受隙間の端部から排出された気体によってスラスト軸受隙間内にも気体膜が形成される。このため、スラスト軸受面からスラスト軸受隙間に気体を噴出する仕組みを設ける必要がない。また、ラジアル軸受隙間から排出される気体が急増した場合に、この気体の一部は、ラジアル軸受隙間とスラスト方向に重なるスラスト軸受面内の環状領域に設けられた吸気口に流入し、流路により適度な絞り効果が付与された後、排気口から外部へ排出される。このため、スラスト軸受隙間に流入する気体の増減を抑制して、スラスト軸受隙間の急激な圧力変化を減衰させることができ、これにより、回転体の自励振動を防止できる。したがって、本発明によれば、回転体を簡易な構造で、より安定した状態にて非接触状態で支持することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
まず、本実施の形態に係る静圧気体軸受装置の全体構造について説明する。ここでは、軸心O方向に長尺な回転体、例えば光ファイバ、カーボン繊維等の線材を送るプーリ2の非接触状態での支持に適した両持ちタイプのエアベアリングユニット4を一例に挙げる。
【0016】
図1は、本実施の形態に係るエアベアリングユニット4の、プーリ2の組み付け前の状態における外観図である。また、
図2は、本実施の形態に係るエアベアリングユニット4の、プーリ2の組み付け後の状態における側面図である。
【0017】
図示するように、本実施の形態に係るエアベアリングユニット4は、着脱可能なプーリ2と、プーリ2を回転可能に非接触状態で支持するエアシャフトユニット1と、エアシャフトユニット1を両端支持する2台のシャフトホルダ3A、3Bと、を備えている。
【0018】
後述するように、エアシャフトユニット1は、スラストプレート12、エアシャフト本体部15およびロッド部115が軸心O方向に連続して一体的に形成されたエアシャフト11と、エアシャフト本体部15を介してスラストプレート12に対向配置されたスラストプレート13と、スラストプレート13をロッド部115に固定するためのナット14と、の組立体である(
図4参照)。また、プーリ2は、軸心O方向に形成されたエアシャフト挿入用穴22内にエアシャフト11をロッド部115側から挿入して、エアシャフト本体部15上にプーリ2を保持させた後、ロッド部115をスラストプレート13に挿入し、さらにロッド部115のネジ部1151にナット14を螺合して、ロッド部115にスラストプレート13を装着することにより、エアシャフトユニット1に非接触状態で回転可能に組み付けられる。
【0019】
一方、2台のシャフトホルダ3A、3Bは、例えば石定盤等の台座上に、エアシャフトユニット1の長さに応じた間隔で対向するように配置されて固定される。各シャフトホルダ3A、3Bは、軸心Oが台座に対してほぼ平行に向けられたエアシャフトユニット1の両端部にそれぞれ配置されたスラストプレート12、13を、プーリ2の最大径に応じた高さの位置で保持する。
【0020】
各シャフトホルダ3A、3Bは、それぞれ、例えば、台座にボルトで固定されるフランジ35付き下側ブロック材33と、下側ブロック材33の上面331に載せられた上側ブロック材32と、下側ブロック材33の上面331と上側ブロック材32の底面321との間隔t1を調整するための2本のボルト34と、を有している。下側ブロック材33の上面331と上側ブロック材32の底面321にはそれぞれ断面半円形状の溝が厚さt2方向に形成されており、これらの溝が対向することにより所定の高さの位置にシャフト固定穴31が形成されている。2本のボルト34は、シャフト固定穴31の軸心Oと直交する垂直方向の両側の位置において、上側ブロック材32のボルト穴322を介して下側ブロック材33のネジ穴332に締結されている。
【0021】
対向配置された2台のシャフトホルダ3A、3Bのシャフト固定穴31に、エアシャフト本体部15の両端部にそれぞれ配置されたスラストプレート12、13が挿入され、シャフトホルダ3A、3Bをそれぞれ2本のボルト34が締め付けることによって、下側ブロック材33と上側ブロック材32との間隔t1が狭まり、エアシャフト本体部15の両端部にそれぞれ配置されたスラストプレート12、13が固定されることにより、エアシャフトユニット1自体も固定される。これにより、エアシャフトユニット1に組み付けられたプーリ2は、所定の高さの位置で軸心O方向回りに非接触状態で回転可能に保持される。
【0022】
なお、本実施の形態では、フランジ35付き下側ブロック材33と上側ブロック材32との間隔t1を2本のボルト34で調整する2台のシャフトホルダ3A、3Bを用いているが、エアシャフト本体部15およびその両端部にそれぞれ配置されたスラストプレート12、13を有するエアシャフトユニット1を、スラストプレート12、13で保持可能な構造であれば、どのようなタイプのシャフトホルダを用いてもよい。
【0023】
つぎに、プーリ2、およびこのプーリ2を軸心O回りに回転可能に非接触状態で支持するエアシャフトユニット1の詳細を説明する。
【0024】
図3(A)は、プーリ2の正面図であり、
図3(B)は、
図3(A)に示すプーリ2のA−A断面図である。
【0025】
図示するように、支持対象のプーリ2は、例えば直径r2よりも軸心O方向に長尺な略円柱形状からなるプーリ本体部20を有しており、その外周面23には、周方向に線材がかけられる。また、プーリ本体部20には、軸心Oが通過する位置に、両端面25A、25Bを貫通するエアシャフト挿入用穴22が形成されており、このエアシャフト挿入用穴22内に、エアシャフト11の多孔質焼結層112で外周面を覆われたエアシャフト本体部15がスライド可能に挿入される。また、エアシャフト挿入用穴22の両端部にはテーパー26が形成されている(
図5参照)。
【0026】
プーリ本体部20の両端面25A、25Bには、エアシャフト挿入用穴22を囲む位置にボス24A、24Bがそれぞれ形成されている。各ボス24A、24Bの端面241A、241Bは平坦に仕上げられている。プーリ2を組み付けた状態(
図2の状態)のエアベアリングユニット4において、一方のボス24Aの端面241Aは、わずかな間隔(スラスト軸受隙間)をおいて、スラストプレート12の一方の端面(エアシャフト11の段差面)であるスラスト軸受面121に対向し、他方のボス24Bの端面241Bは、わずかな間隔(スラスト軸受隙間)をおいてスラストプレート13の一方の端面であるスラスト軸受面131に対向している(
図2参照)。
【0027】
なお、図示したように、プーリ本体部20の両端部には、外周面23から径方向外側に張り出した環状のフランジ部21が形成されていてもよい。
【0028】
図4は、エアシャフトユニット1の部品展開図である。
【0029】
図示するように、エアシャフトユニット1は、スラストプレート12、エアシャフト本体部15およびロッド部115が軸心O方向に連続して一体的に形成されたエアシャフト11と、エアシャフト本体部15を介してスラストプレート12に対向配置されたスラストプレート13と、スラストプレート13をロッド部115に固定するためのナット14と、を備えている。エアシャフト本体部15は、プーリ2のエアシャフト挿入用穴22内に挿入され、プーリ2を軸心O回りに回転可能かつラジアル方向(径方向)に非接触状態で支持する。スラストプレート12、13は、プーリ2をスラスト方向(軸方向)に非接触状態で支持する。また、スラストプレート13は、エアシャフト11のロッド部115側からプーリ2が抜け落ちるのを阻止する。
【0030】
図5(A)は、エアシャフト11の正面図であり、
図5(B)は、
図5(A)に示すエアシャフト11のB−B断面図であり、
図5(C)は、エアシャフト11の底面図であり、
図5(D)は、エアシャフト本体部15の拡大部分断面図である。
【0031】
図示するように、エアシャフト11は、スラストプレート12、エアシャフト本体部15およびロッド部115が軸心O方向に連続して一体的に形成された段付き円柱形状部材である。エアシャフト本体部15は、バックメタル部111と、バックメタル部111の外周面1142全体を覆うように形成された多孔質焼結層112と、を備えている。
【0032】
スラストプレート12は、プーリ2のボス24A、24Bの外径とほぼ同径に形成されており、エアシャフト本体部15は、スラストプレート12よりも小径に形成されており、そして、ロッド部115は、エアシャフト本体部15よりもさらに小径に形成されている。
【0033】
スラストプレート12は、一方の端面(エアシャフト本体部15が連結されている側の端面)であるスラスト軸受面121が一方のシャフトホルダ3Aのシャフト固定穴31から他方のシャフトホルダ3B側に突き出す位置まで一方のシャフトホルダ3Aのシャフト固定穴31内に挿入される(
図2参照)。この状態で一方のシャフトホルダ3Aの2本のボルト34が締め付けられ、これにより、エアシャフト11のスラストプレート12側の端部が一方のシャフトホルダ3Aのシャフト固定穴31内に固定される。
【0034】
また、スラストプレート12の他方の端面(エアシャフト本体部15が連結されている側の端面と反対側の端面)122には、この端面122からスラストプレート12の内部を通過してエアシャフト本体部15のバックメタル部111の内部に至る通気路116が形成されている。この端面122における通気路116の開口部(給気口)117には、ポンプの給気管41を連結するためのカプラ40(
図2参照)をねじ込むネジ部118が形成されている。
【0035】
上述したように、エアシャフト本体部15のバックメタル部111の外周面1142の全域に、通気性を有する多孔質焼結層112が形成されている。また、この外周面1142には、多孔質焼結層112との境界部に位置する複数の環状溝1143が周方向に形成されており、各環状溝1143の溝底には、それぞれ、通気路116に繋がる孔1144が形成されている。これにより、給気口117に連結されたポンプの給気管41からの給気が開始されると、ポンプから送られてきた圧縮空気が、通気路116および孔1144を介して、バックメタル部111の外周面1142に位置する周方向の各環状溝1143に供給され、多孔質焼結層112内の細孔を通過して、エアシャフト本体部15の外周面である多孔質焼結層112の外周面1121からプーリ2のエアシャフト挿入用穴22の内周面221に向かって噴出する。
【0036】
なお、エアシャフト本体部15のバックメタル部111の外周面1142に位置する環状溝1143の本数およびレイアウトは、多孔質焼結層112の外周面1121全域から圧縮空気が均一に噴出するように適宜定めればよい。例えば、エアシャフト本体部15の長さ(多孔質焼結層112の幅)t4等に応じた本数の環状溝1143を、バックメタル部111の軸心O方向にほぼ等間隔で配置してもよい。また、エアシャフト本体部15の中央位置(エアシャフト本体部15の一方の端から軸心O方向にt4/2だけ中央側の位置)からスラストプレート12側およびロッド部115側に離れた位置等、ラジアル軸受隙間60全体の圧力を高く維持可能な位置に環状溝1143を形成してもよい。
【0037】
多孔質焼結層112が形成されたエアシャフト本体部15は、プーリ2のエアシャフト挿入用穴22内に挿入される。多孔質焼結層112を含めたエアシャフト本体部15の外径R1は、プーリ2のエアシャフト挿入用穴22の内径r1(
図3参照)よりも所定の寸法だけ小さく設計されている。このため、エアシャフト本体部15がプーリ2のエアシャフト挿入用穴22内に挿入されると、このエアシャフト挿入用穴22の内周面221と、エアシャフト本体部15のバックメタル部111の外周面1142上に形成された多孔質焼結層112の外周面1121との間に、ラジアル軸受隙間60が形成される(
図7参照)。そして、ポンプからエアシャフト11への給気開始後、エアシャフト本体部15の多孔質焼結層112から噴出する圧縮空気により、このラジアル軸受隙間60に高圧の空気膜が形成される。この空気膜の圧力によってプーリ2およびエアシャフト11間のラジアル方向の荷重が支えられる。
【0038】
エアシャフト本体部15の長さt4は、プーリ2の両端面25A、25Bのボス24A、24Bの端面241A、241B間の距離(プーリ2の長さ)t3よりも所定の寸法だけ大きく設計されている。このため、ポンプからエアシャフト11への給気開始後、エアシャフト本体部15に挿入されたプーリ2の一方のボス24Aの端面241Aと、スラストプレート12のスラスト軸受面121との間には、ラジアル軸受隙間60と繋がるスラスト軸受隙間61aが形成される。同様に、プーリ2の他方のボス24Bの端面241Bと、エアシャフト本体部15の端面(エアシャフト本体部15およびロッド部115の外径差により形成された段差面)1141に接触するスラストプレート13のスラスト軸受面131との間にも、ラジアル軸受隙間60と繋がるスラスト軸受隙間61bが形成される(
図7参照)。
【0039】
ロッド部115は、後述するスラストプレート13のエアシャフト挿入用穴133内に挿入される。また、このロッド部115の先端には、ナット14と螺合するネジ部1151が形成されている(
図4参照)。
【0040】
図6(A)は、スラストプレート13の正面図であり、
図6(B)は、
図6(A)に示すスラストプレート13のC−C断面図である。
【0041】
図示するように、スラストプレート13は、スラストプレート12の外径とほぼ同じ外径の円筒形状であり、軸心Oが通過する位置に、一方の端面であるスラスト軸受面131および他方の端面132を貫通するエアシャフト挿入用穴133が形成されている。このエアシャフト挿入用穴133には、エアシャフト11のロッド部115が挿入される。
【0042】
また、ラジアル軸受隙間60と軸心O方向(スラスト方向)において重なるスラスト軸受面131の領域、つまり、スラスト軸受面131において、内径が多孔質焼結層112で覆われたエアシャフト本体部15の外径R1より大きく、かつ外径がプーリ2のエアシャフト挿入用穴22の内径r1より小さい環状領域145(
図7参照)には、軸心O方向における一方の端面であるスラスト軸受面131およびスラスト軸受面131と対向する他方の端面132を貫通する微細な貫通穴134が形成されている。この貫通穴134は、一方の端面であるスラスト軸受面131側の環状領域145に吸気口135を備えるとともに、他方の端面132側に排気口136を備えており、ラジアル軸受隙間60から排出された圧縮空気の一部を吸気口135に取り込んで排気口136から排出する流路として機能する。
【0043】
さて、上記構成を有するエアシャフトユニット1は、以下のように組み立てられる。
【0044】
まず、エアシャフトユニット1にプーリ2が組み付けられる。具体的には、エアシャフト11の多孔質焼結層112が形成されたエアシャフト本体部15がプーリ2のエアシャフト挿入用穴22内に位置するように、スラストプレート12が一体的に形成されたエアシャフト11をロッド部115側からプーリ2のエアシャフト挿入用穴22に挿入し、それから、エアシャフト11のロッド部115をスラストプレート13のシャフト挿入用穴133に挿入する。この状態で、ロッド部115の先端に形成されたネジ部1151にナット14が締結されると、スラストプレート13は、スラスト軸受面131が、エアシャフト本体部15およびロッド部115の外径差により形成される段差面(エアシャフト本体部15のロッド部115側の端面)1141に接触した位置で固定される。
【0045】
その後、このようにしてプーリ2が組み付けられたエアシャフトユニット1の軸心Oを台座に対してほぼ平行に向けた状態で、その両端(スラストプレート12、13)が、所定の間隔で対向配置された2台のシャフトホルダ3A、3Bに固定される(
図1、
図2参照)。具体的には、スラストプレート12のスラスト軸受面121が一方のシャフトホルダ3Aのシャフト固定穴31から他方のシャフトホルダ3B側に突き出すように、スラストプレート12が一方のシャフトホルダ3Aのシャフト固定穴31内に挿入されるとともに、スラストプレート13のスラスト軸受面131が他方のシャフトホルダ3Bのシャフト固定穴31から一方のシャフトホルダ3A側に突き出すように、スラストプレート13が他方のシャフトホルダ3Bのシャフト固定穴31内に挿入される。この状態で各シャフトホルダ3A、3Bの2本のボルト34の締め付けにより、スラストプレート12、13がそれぞれシャフトホルダ3A、3Bのシャフト固定穴31内に固定される。
【0046】
上述したように、エアシャフト11のエアシャフト本体部15の長さt4は、プーリ2の長さt3よりも所定の寸法だけ長いため、プーリ2の一方のボス24Aの端面241Aとスラストプレート12のスラスト軸受面121との間にスラスト軸受隙間61aが形成され、プーリ2の他方のボス24Bの端面241Bとスラストプレート13のスラスト軸受面131との間にスラスト軸受隙間61bが形成される。これらのスラスト軸受隙間61a、61b内には、ラジアル軸受隙間60から排気された圧縮空気が流入し、高圧の空気膜が形成される。この空気膜の圧力によってプーリ2のスラスト方向の荷重が支えられる。
【0047】
つぎに、エアシャフトユニット1への給気中におけるプーリ2の支持状態について説明する。
【0048】
図7は、エアシャフトユニット1への給気中におけるプーリ2の支持状態を模式的に示した図である。
【0049】
図示するように、プーリ2を組み付けた状態(
図2の状態)のエアベアリングユニット4において、ポンプの給気管(不図示)をエアシャフト11のスラストプレート12に設けられた給気口117に連結し、ポンプからの圧縮空気fの供給を開始すると、この圧縮空気fは、スラストプレート12およびエアシャフト本体部15のバックメタル部111内の通気路116およびバックメタル部111内の孔1144を介して、バックメタル部111の外周面1142に位置する各環状溝1143に供給され、エアシャフト本体部15の多孔質焼結層112の外周面1121からラジアル軸受隙間60内に噴出する。このため、ラジアル軸受隙間60内に高圧の空気膜が形成され、その圧力によってプーリ2のラジアル方向の荷重が支えられる。これにより、プーリ2のラジアル方向への移動が拘束される。
【0050】
さらに、ラジアル軸受隙間60内の圧縮空気fは、エアシャフト本体部15の多孔質焼結層112の外周面1121に沿って、スラストプレート12のスラスト軸受面121側およびスラストプレート13のスラスト軸受面131側に向かって流れてゆき、ラジアル軸受隙間60から排出される。そして、プーリ2の一方のボス24Aの端面241Aとスラストプレート12のスラスト軸受面121との間のスラスト軸受隙間61a、および、プーリ2の他方のボス24Bの端面241Bとスラストプレート13のスラスト軸受面131との間のスラスト軸受隙間61bに流入する。
【0051】
スラスト軸受隙間61a、61bに流入した圧縮空気f1は、プーリ2の各ボス24A、24Bの外周に向かって放射状に流れて行き、最終的に外部(大気圧)に排出される。各スラスト軸受隙間61a、61b内の圧力は、ラジアル軸受隙間60から排気された圧縮気体f1が流入するプーリ2のボス24A、24Bの内周側において高くなっており、ボス24A、24Bの外周に向かうにしたがって徐々に減少する。このため、スラスト軸受隙間61a、61b内には平均圧力の高い空気膜が形成されていることとなり、その圧力によってプーリ2のスラスト方向の荷重が支えられる。これにより、スラスト方向へのプーリ2の移動が拘束される。
【0052】
ラジアル軸受隙間60とスラスト軸受隙間61a、16bとの交差部には、プーリ2のエアシャフト挿入用穴22の両端部に形成されたテーパー部26によって、圧縮空気流入側となるラジアル軸受隙間60および圧縮空気排出側となるスラスト軸受隙間61a、61bよりも圧縮空気の通過面積が大きい領域62が形成されている。この領域62が圧縮空気の圧力溜りとして機能する。このため、エアベアリングユニット4の軸受剛性および負荷容量が向上する。
【0053】
ところで、プーリ2の自励振動は、つぎのようにして発生する。一方のスラスト軸受隙間61aの圧力が上昇すると、他方のスラスト軸受隙間61bが狭まる方向にプーリ2が押され、これにより、プーリ2が軸心Oに沿ってスラストプレート13のスラスト軸受面131へ近付く方向に移動する。その結果、他方のスラスト軸受隙間61bが狭くなって圧力が上昇し、他方のスラスト軸受隙間61bが広がる方向にプーリ2が押し戻されることになり、これにより、プーリ2が軸心Oに沿ってスラストプレート13のスラスト軸受面131から離れる方向に移動する。これが繰り返されることにより、プーリ2がスラスト方向に振動する。
【0054】
ここで、ラジアル軸受隙間60から排出される圧縮空気fが急増した場合、この圧縮空気fの一部f2は、ラジアル軸受隙間60とスラスト方向(軸心O方向)に重なるスラスト軸受面131の領域に設けられた吸気口135に流入し、貫通穴134により適度な絞り効果が付与された後、排気口136から外部(大気圧)へ排出される。このため、ラジアル軸受隙間60から排出される圧縮空気fが急増した場合に、スラスト軸受隙間61bに流入する圧縮空気f1の急増を抑制して、スラスト軸受隙間61b内の急激な圧力変動、特に、ラジアル軸受隙間60とスラスト軸受隙間61a、16bとの交差部62に形成される圧力溜まり内の急激な圧力変動を減衰させることができ、これにより、プーリ2の自励振動を防止できる。
【0055】
なお、貫通穴134の直径は、吸気口135に流入した圧縮空気f2に適度な絞り効果を付与して、排気口136から外部へ排出することができる値に設計される。この値は、ラジアル軸受隙間60の厚さs2、スラスト軸受隙間61a、61bの厚さs1、スラストプレート12、13(スラスト軸受面121、131)の外径、エアシャフト本体部15(多孔質焼結層112の外周面1121)の長さ、および多孔質焼結層112の外周面1121から噴出する圧縮空気の流量等に依存する。好ましくは、スラスト軸受面131において、内径が多孔質焼結層112で覆われたエアシャフト本体部15の外径R1より大きく、かつ外径がプーリ2のエアシャフト挿入用穴22の内径r1より小さい環状領域145内に流路として機能する貫通穴134の吸気口135が収まるように、ラジアル軸受隙間60の厚さs2以下に設計される。また、プーリ2の自励振動を防止するための手段として、流路として機能する貫通穴134の一つの設置では不十分である場合には、ラジアル軸受隙間60とスラスト方向に重なるスラスト軸受面131の環状領域145に、複数の吸気口135が周方向に並ぶように、複数の貫通穴134を形成してもよいし、あるいは、スラストプレート12にもスラストレート13と同様の流路としての貫通穴134を形成してもよい。また、貫通穴134の排気口136にタップを設けてチューブ、スピードコントローラ、サイレンサ等の流量調節手段を接続することによって、吸気口135に流入した圧縮空気f2に適度な絞り効果を付与するようにしてもよい。この場合、貫通穴134の直径の設計自由度が向上する。
【0056】
以上、本発明の実施の形態について説明した。
【0057】
本実施の形態に係るエアベアリングユニット4では、プーリ2のエアシャフト挿入用穴22の内周面221に対向するエアシャフト本体部15の多孔質焼結層112の外周面1121からラジアル軸受隙間60に圧縮空気fが供給され、このラジアル軸受隙間60から排気される圧縮空気f1が、プーリ2の端面241Aとスラストプレート12の端面121との間に形成されるスラスト軸受隙間61a、およびプーリ2の端面241Bとスラストプレート13の端面131との間に形成されるスラスト軸受隙間61bに、それぞれ導入されるので、ラジアル軸受隙間60内の空気膜の圧力およびスラスト軸受隙間61a、61b内の空気膜の圧力により、プーリ2のラジアル方向の荷重およびスラスト方向の荷重を非接触で支えることができる。このため、動力損失がほとんど発生しないので、プーリ2を安定した状態で高速に回転させることができる。また、ラジアル軸受隙間60から排気される圧縮空気f1をスラスト軸受隙間61a、61b内の空気膜の形成に利用しているため、スラスト軸受面121、131からスラスト軸受隙間61a、61bに圧縮空気を噴出する仕組みを設ける必要がない。したがって、高速回転するプーリ2を保持するエアベアリングユニット4の構造を簡略化することができるとともに、エアベアリングユニット4の製造コストの低減を図ることができる。
【0058】
また、本実施の形態に係るエアベアリングユニット4では、ラジアル軸受隙間60から排出される圧縮空気が急増した場合に、この圧縮空気の一部が、ラジアル軸受隙間60とスラスト方向に重なるスラスト軸受面131内の環状領域145に設けられた吸気口135に流入し、貫通穴134により適度な絞り効果が付与された後、排気口136から外部へ排出される。このため、スラスト軸受隙間61bに流入する圧縮空気の急増を抑制して、スラスト軸受隙間61bの急激な圧力変化を減衰させることができ、これにより、プーリ2の自励振動を防止できる。したがって、プーリ2をより安定的に非接触状態で支持することができる。
【0059】
また、本実施の形態に係るエアベアリングユニット4では、ラジアル軸受隙間60とスラスト軸受隙間61a、16bとの交差領域62(プーリ2のエアシャフト挿入用穴22の両端部に形成されたテーパー部26)が圧縮空気の圧力溜りとして機能するため、エアベアリングユニット4の軸受剛性および負荷容量を向上させることができる。そして、上述の貫通穴134が、この圧力溜まりを外部(大気圧)とつなぐ位置に形成されているため、この圧力溜まりの急激な圧力変動が抑制される。このため、圧力溜まりに起因するプーリ2の自励振動の発生が防止される。
【0060】
また、本実施の形態に係るエアベアリングユニット4では、エアシャフトユニット1がその両端部で保持されているため、長尺なプーリ2を保持するためにエアシャフト11を長尺化させても、エアシャフト11の、自重による撓みを抑制することができる。このため、わずかなラジアル軸受隙間60をおいて対向する、プーリ2のエアシャフト挿入用穴22の内周面221とエアシャフト11のエアシャフト本体部15の多孔質焼結層112の外周面1121との接触を防止することができる。このため、支持対象のプーリ2を軸心O方向に長くしても、このプーリ2を安定して非接触状態で支持することができる。
【0061】
また、本実施の形態に係るエアベアリングユニット4では、エアシャフト11側に多孔質焼結層112が形成されているため、支持対象のプーリ2には、エアシャフト11を挿入するためのエアシャフト挿入用穴22が形成されていれば足り、特別な部位が形成されている必要がない。このため、交換部品であるプーリ2の製造コストを低減することができると共に、ランニングコストも削減することができる。
【0062】
なお、本実施の形態に係るエアベアリングユニット4において、例えば、
図8(A)および
図8(B)に示すスラストプレート13の変形例13Aのように、軸心O方向(スラスト方向)においてラジアル軸受隙間60と重なるスラスト軸受面131内の環状領域145に、吸気口135としての環状溝137を形成し、この環状溝137の溝底1371およびスラストプレート13Aの他方の端面132を貫通するように貫通穴134を形成してもよい。この環状溝137は、ラジアル軸受隙間60とスラスト軸受隙間61a、61bとの交差領域62とともに、圧縮空気の圧力溜りとして機能して、エアベアリングユニット4の軸受剛性および負荷容量をさらに向上させる。なお、環状溝137は、好ましくは、エアシャフト11の多孔質焼結層112で覆われたエアシャフト本体部15の外径R1よりも内径が大きく、かつプーリ2のエアシャフト挿入用穴22の内径r1よりも外径が小さくなるように設計される。
【0063】
また、本実施の形態に係るエアベアリングユニット4では、ラジアル軸受隙間60から排出される圧縮空気の一部を外部に排出する流路として、スラストプレート13において、一方の端面であるスラスト軸受面131内の、ラジアル軸受隙間60とスラスト方向に重なる環状領域145に吸気口135を備えるとともに、他方の端面132に排気口136を備える貫通穴134を設けて、ラジアル軸受隙間60から排出された気体の一部を吸気口135に取り込んで排気口136から排出する場合を例にとり説明したが、本発明はこれに限定されない。このような流路は、ラジアル軸受隙間60とスラスト方向に重なるスラスト軸受面131内の環状領域145に設けられた吸気口と、この吸気口に流入した圧縮空気を外部へ排出する排気口と、を備えたものであればよい。
【0064】
例えば、
図9(A)および
図9(B)に示すスラストプレート13の変形例13Bのように、ラジアル軸受隙間60とスラスト方向に重なるスラスト軸受面131内の環状領域145からスラストプレート13の外周面141まで続くラジアル方向の溝138が、このような流路としてスラスト軸受面131に形成されていてもよい。この場合、スラスト軸受面131の内周側に位置する溝138の一方の端部139が吸気口142となり、スラストプレート13の外周面141において開口する溝138の他方の端部140が排気口143となる。そして、ラジアル軸受隙間60から排出される圧縮空気が急増した場合に、この圧縮空気の一部が吸気口142に流入し、溝138により適度な絞り効果が付与された後、排気口143から外部へ排出される。また、この溝138は、ラジアル軸受隙間60とスラスト軸受隙間61a、61bとの交差領域62とともに、圧縮空気の圧力溜りとして機能し、エアベアリングユニット4の軸受剛性および負荷容量をさらに向上させる。
【0065】
また、本実施の形態に係るエアベアリングユニット4では、段付き円柱形状のエアシャフト11を用いているが、このエアシャフト11を例えば円筒状部材を利用した中空構造としてもよい。
【0066】
また、本実施の形態に係るエアベアリングユニット4では、エアシャフトユニット1の給気口117に圧縮空気を供給することにより、多孔質焼結層112の外周面1121からラジアル軸受隙間60に圧縮空気を供給する多孔質絞りタイプのエアベアリングを利用しているが、本発明は多孔質焼結層112の外周面1121からラジアル軸受隙間60に圧縮空気を供給することができるものであれば、オリフィス絞りタイプ、自成絞りタイプ等のエアベアリングを利用してもよい。
【0067】
以上、本実施の形態では、長尺なプーリ2を支持するエアベアリングユニット4を例に挙げたが、長尺なプーリ2以外の回転体を支持するものでもよい。例えば、通常のプーリを複数支持するものであってもよい。