【解決手段】回転軸200の周面に密着する筒状部141と、筒状部141から回転軸200の軸線方向におけるシールリング120側に延びる突出部142とを有する、ゴム製のシール部材と、ゴム製のシール部材140と、筒状部141を回転軸200に対して締め付けるドライブリング150と、シールリング120と突出部142とを固定し、ドライブリング150が固定され、コイルスプリング170によって軸線方向に付勢されるケース160と、ケース160と突出部142との間に挟まれ回転軸200の径方向外側に延びる外向きフランジ182と、軸線方向のドライブリング150側に延びる円筒部181とからなるツバ部材180と、を備える。
前記固定部材に設けられた前記軸線方向に延びる取り付け部と、前記締め付け部材に設けられた切欠きとが嵌り合うことにより、前記固定部材と前記締め付け部材とが固定され、前記円筒部が前記切欠きよりも前記回転軸の径方向内側に設けられることを特徴とする請求項1に記載の軸封装置。
【背景技術】
【0002】
軸封装置としてのメカニカルシールは、回転軸側に設けられることで回転軸と共に回転する回転環と、回転軸が挿通される軸孔を有するハウジング側に設けられる静止環とを備えている。そして、回転軸の回転によって、回転環と静止環とが摺動する。また、回転環が静止環に対して回転軸の軸線方向にコイルスプリング等によって付勢されることで、回転環と静止環との摺動面におけるシール性が確保される。
【0003】
また、メカニカルシールにおいて、ゴムベローズ等のゴム製のシール部材を回転軸に密着して設けることにより、回転環と回転軸との間の隙間をシール(二次シール)するものが知られている。このような構成において、流体が密封される密封流体側の流体圧力の上昇を原因として、シール部材が径方向の外側に変形してしまう場合がある。シール部材が径方向の外側に変形すると、回転軸に対する密着性が低下し、シール性能が不安定になってしまう。そこで、特許文献1に示すように、シール部材の径方向の外側への変形量を規制するために規制部材としてのバックアップリング13を用いた構成が採用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献1においては、バックアップリング13の端部が、回転軸の軸線方向においてシール部材側に向いている。そのため、シール部材が径方向の外側へ変形した場合、バックアップリングの端部に接触してシール部材が損傷してしまう虞がある。シール部材が損傷してしまうと、シール性が不安定となってしまう。
【0006】
そこで、本発明は、軸封装置において、回転環と回転軸との間の隙間をシールするシール部材のシール性を安定させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0008】
すなわち、本発明の軸封装置は、
回転軸と、前記回転軸が挿通される軸孔を有するハウジングとの間に設けられ、前記ハウジング内の流体を封じる軸封装置において、
前記回転軸に設けられ、前記回転軸と共に回転する回転環と、
前記ハウジング側に設けられ、前記回転環と摺動する静止環と、
前記回転環を前記静止環に対して前記回転軸の軸線方向に付勢する付勢部材と、
前記回転環に対し前記静止環とは前記軸線方向の反対側に設けられ、前記回転軸の周面に密着する筒状部と、前記筒状部から前記軸線方向における前記回転環側に延びる突出部とを有する、ゴム製のシール部材と、
前記筒状部を前記回転軸に対して締め付ける締め付け部材と、
前記回転軸の軸線方向の一端側において前記回転環と前記突出部とを固定し、他端側において前記締め付け部材が固定される固定部材であって、前記付勢部材によって前記軸線
方向に付勢される固定部材と、
前記固定部材と前記突出部との間に挟まれ前記回転軸の径方向外側に延びる外向きフランジと、前記軸線方向の前記締め付け部材側に延びる円筒部とからなる規制部材と、
を備えることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、規制部材の円筒部によって、シール部材の径方向の外側への変形量が規制される。シール部材の径方向の外側への変形量が規制されると、シール部材と回転軸の周面との密着性が維持され、シール部材のシール性が安定する。
【0010】
また、規制部材の円筒部は、回転軸の軸線方向の締め付け部材側に延びている。そのため、付勢部材の付勢力に抗して回転環側の部材を回転軸に組み付ける際、固定部材を介して付勢力を受けることによりシール部材が変形しても、規制部材の円筒部の端部がシール部材に接触することはない。そのため、規制部材の円筒部の端部がシール部材に接触することを原因とするシール部材の損傷が生じることはない。したがって、組み付け時におけるシール部材の損傷によりシール性が不安定になることもない。
【0011】
また、固定部材に設けられた軸線方向に延びる取り付け部と、締め付け部材に設けられた切欠きとが嵌り合うことにより、固定部材と締め付け部材とが固定され、規制部材の円筒部は切欠きよりも回転軸の径方向内側に設けられると好適である。このような構成により、シール部材の膨出部分が締め付け部材の切欠きに接触することがなく、シール部材の損傷を防止することができる。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明によれば、回転環と回転軸との間の隙間をシールするシール部材のシール性を安定させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施の形態に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0015】
(本実施例)
<本実施例に係るメカニカルシールの構成>
図1を参照して、本実施例に係る軸封装置としてのメカニカルシールの構成について説明する。
図1は、本実施例に係るメカニカルシールの全体構成を示す模式的断面図である。本実施例においては、メカニカルシールを1つ用いたシングルシールについて説明する。しかし、これに限らず、2つのメカニカルシールを用いたダブルシールにも本発明を適用することができる。
【0016】
本実施例に係るメカニカルシール100は、回転軸200と、回転軸200が挿通される軸孔を有するハウジング300との間に設けられ、ハウジング300内の流体を封じる
軸封装置である。
【0017】
本実施例に係るメカニカルシール100は、ハウジング300側に設けられる静止環としてのメイティングリング110と、回転軸200に設けられて回転軸200と共に回転する回転環としてのシールリング120とを備えている。なお、シールリング120は、回転軸200に直接取り付けられる構成でも良いし、円筒状のスリーブなどを介して回転軸200に取り付けられる構成でも良い。
【0018】
シールリング120は大気側(
図1中のB側)に設けられており、メイティングリング110は大気よりも圧力が高い流体が密封される密封流体側(
図1中のA側)に設けられている。回転軸200が回転することにより、メイティングリング110の端面110aと、シールリング120の端面120aとが摺動する。このように互いに摺動する端面110aと端面120aとにより、密封流体側に密封される流体をシール(1次シール)する。
【0019】
また、本実施例に係るメカニカルシール100は、メイティングリング110とハウジング300との隙間をシールする円筒状のカップガスケット130を備えている。カップガスケット130は、内周面側においてメイティングリング110に当接し、外周面側のカップガスケット変形部130aにおいてハウジング300に当接している。
図1中のカップガスケット130近傍の点線は、カップガスケット130をハウジング300に対して当接させる前のカップガスケット変形部130aの形状を表している。
【0020】
さらに、本実施例に係るメカニカルシール100は、シール部材140と、シール部材140を回転軸200に対して締め付ける(抱かせる)締め付け部材としてのドライブリング150と、シールリング120とシール部材140とを固定する固定部材としてのケース160と、を備えている。これらの各部材は一体となって、回転軸200の回転に伴って回転する。
【0021】
シール部材140は、ゴム製の部材から成る。なお、シール部材140としては、蛇腹状で伸縮性に優れたベローズを用いるのが好適である。
図1に示すように、シール部材140は、シールリング120に対しメイティングリング110とは反対側に設けられ、回転軸200の周面に密着する筒状部141と、筒状部141から回転軸200の軸線方向の回転環側(機内側)に延びる突出部142とを有する。
図1中のシール部材140近傍の点線は、シール部材140の筒状部141を回転軸200に対して密着させる前のシール部材変形部141aの形状を表している。ゴム製の部材から成るシール部材140は、回転軸200の変位を許容しつつ、シールリング120と回転軸200との隙間を封止(2次シール)している。
【0022】
ドライブリング150は、シール部材140の筒状部141を回転軸200に対して締め付けている。なお、ドライブリング150は、金属等から成るが、応力に耐え得る部材であればそれに限られるものではない。
【0023】
ケース160は、回転軸200の軸線方向の一端側(
図1中のA側)において、シールリング120とシール部材140の突出部142とを固定し、これら部材間の隙間を封止している。シールリング120とシール部材140の突出部142が接触した状態で、ケース160の一端を折り曲げる加工を行うことにより折り曲げ部161が形成され、シールリング120とシール部材140の突出部142とが固定される。また、シールリング120には外径側の一部に切欠き121があり、この切欠き121にケース160の嵌合部162が嵌合している。そのため、シールリング120がケース160に対して相対的に回転しないように固定されている。
【0024】
また、ケース160に設けられた回転軸200の軸線方向に延びる取り付け部163と、ドライブリング150に設けられた切欠き151とが嵌り合うことにより、ケース160とドライブリング150は固定されている。なお、ケース160は、金属等から成るが、応力に耐え得る部材であればそれに限られるものではない。また、この取り付け部163と切欠き151は周方向に複数設けられていてもよい。
【0025】
ドライブリング150からシール部材側に突出する規制部材としてのツバ部材180が備えられている。このツバ部材180は、シール部材140の径方向の外側への変形量を規制する部材である。ツバ部材180は、シール部材140の筒状部141よりも径方向の外側に位置している。
【0026】
更には、ケース160とシール部材140の突出部142との間にツバ部材180が挟まれる。ツバ部材180は径方向に延びる外向きフランジ182を有し、また、軸線方向に延びる円筒部181は、シール部材140の筒状部141よりも径方向の外側に位置し、また、ツバ部材180の円筒部181はドライブリング150の切欠き151よりも径方向内側、つまり、切欠き151の外周面よりも径方向内側に設けられている。ツバ部材180は、シール部材140の筒状部141の径方向の外側への変形量を円筒部181にて規制する部材である。
【0027】
以上のような構成により、回転環側において、ケース160によって、シールリング120と、シール部材140と、ドライブリング150とが一体化されている。そして、回転軸200の回転力が、シール部材140、ドライブリング150、及びケース160を介して、シールリング120へと伝わり、シールリング120がメイティングリング110に摺動しながら回転する。
【0028】
また、
図1に示すように、本実施例に係るメカニカルシール100は、付勢部材としてのコイルスプリング170を備えている。コイルスプリング170は、ケース160を介して、シールリング120に付勢力を加えるように設けられている。コイルスプリング170の付勢力によって、シールリング120の端面120aとメイティングリング110の端面110aとの面圧が確保され、シール性を確保することができる。また、シールリング120の端面120aとメイティングリング110の端面110aとの摺動によってそれら端面に摩耗が生じても、コイルスプリング170の付勢力により、シールリング120がメイティングリング110に対して軸線方向に追随するため、シール性が確保される。
【0029】
<本実施例に係るメカニカルシールの優れた点>
次に、
図2、
図3を参照して、本実施例に係るメカニカルシール100の優れた点について説明する。
図2は、本実施例に係るメカニカルシールのシール部材付近を示す拡大断面図であって、密封流体側の圧力が高くなった状態を示す図である。
図3は、比較例であるツバ部材を有しないメカニカルシールのシール部材付近を示す拡大断面図であって、密封流体側の圧力が高くなった状態を示す図である。
図3によりツバ部材の効果を説明する。尚、
図3に示す比較例のメカニカルシールは、ツバ部材を有さないことを除いて本実施例のメカニカルシールと同様の構成のため、同一の符号を用いてその説明は省略する。
【0030】
流体が密封される密封流体側(図中のA側)領域の高圧化により、シール部材140の筒状部141が径方向の外側に浮き上がるように弾性変形してしまう場合がある。このような場合、
図3に示すように、シール部材140が径方向外側に膨出し、シール部材140が移動したり、内部流体が漏れたりする恐れがある。そこで、本実施例に係るメカニカルシール100は、規制部材としてのツバ部材180を備えている。
【0031】
このようにツバ部材180を備えることによって、密封流体側の高圧化により、シール部材140の筒状部141が径方向の外側に浮き上がるように変形しようとしても、ツバ部材180の円筒部181がシール部材140の筒状部141の変形量を規制する。そのため、回転軸200とシール部材140の筒状部141との密着性が維持され、シール部材140が大気側に移動することや、大気側に形状が変形することが抑制される。その結果、回転軸200とシール部材140間のシール性が安定し、密封流体側に密封される流体の漏れが抑制される。
【0032】
さらに、本実施例においては、ツバ部材180の円筒部181の端部181aは、軸線方向においてシール部材140の突出部142側(密封流体側)からドライブリング150側(大気側)に向いている。すなわち、ツバ部材180の円筒部181の端部181aは、シール部材140の突出部142と反対側に突出するように向いている。
【0033】
仮に、ツバ部材180の円筒部181の端部181aがシール部材140の突出部142に対向する方向に向いていると、ツバ部材180の円筒部181の端部181aがシール部材140の突出部142に接触して、シール部材140を傷付けてしまう虞がある。その結果、シール部材140が損傷し、シール性能が低下してしまう可能性がある。それは、以下の理由のためである。
【0034】
シールリング120、シール部材140はケース160によって一体化されており、また、ケース160とドライブリング150は回転不能に固定されている。この前述の回転環側の複数の部材(シールリング120、シール部材140、ケース160、ドライブリング150)は、コイルスプリング170を自然長より軸線方向に一定量圧縮させた状態で回転軸200に挿通されて組み込まれる。そのため、組み込み時に、この一体化された回転環側の部材は、静止環側に対して付勢力を受ける。その付勢力によって、ケース160を介して、シール部材140の突出部142は回転軸200の軸線方向に弾性変形をする。その弾性変形により、突出部142とツバ部材180の円筒部181の端部181aとの隙間の距離が縮まる。その結果、突出部142とツバ部材180の円筒部181の端部181aとが接触してしまう場合がある。
【0035】
また、流体が密封される密封流体側の圧力が高くなると、シール部材140が大気側に移動する、又は大気側に形状が変形する場合がある。そのような移動や変形を原因として、シール部材140の突出部142とツバ部材180の円筒部181の端部181aとの距離が縮まり、突出部142とツバ部材180の円筒部181の端部181aとが接触してしまう場合もある。
【0036】
しかしながら、本実施例においては、ツバ部材180の円筒部181の端部181aは、シール部材140の突出部142と反対方向に向いている。したがって、上記のように、ケース160によって一体化された回転環側の部材の組み込み時に、シール部材140の突出部142が軸線方向に弾性変形しても、ツバ部材180の円筒部181の端部181aがシール部材140の突出部142に接触することはない。密封流体側の高圧化により、シール部材140が大気側に移動、又は大気側に形状が変形した場合も同様である。そのため、本実施例に係るメカニカルシール100の構成においては、シール部材140が損傷し、シール性が低下することを抑制することができる。
【0037】
なお、上述したように、ツバ部材180の固定端としての外向きフランジ182は、シール部材140の突出部142とケース160とに挟まれて設けられている。このような構成をしているため、外向きフランジ182の長さを調整することにより、径方向における、ツバ部材180の円筒部181と回転軸200との距離を調整することができる。す
なわち、外向きフランジ182の長さを長くすると、外向きフランジ182と回転軸との距離が近くなり、その分、シール部材140の筒状部141の径方向の外側への変形可能な領域が小さくなるため、変形をより抑制しやすくなる。
【0038】
なお、本実施例において、
図2に示すように、ツバ部材180の外向きフランジ182は、円筒部181の端部から屈曲ではなく湾曲して径方向の外側に延びている。そのため、径方向の外側にシール部材140の筒状部141が変形することにより、外向きフランジ182の湾曲部に接触しても、シール部材140は損傷しにくい。
【0039】
更に、ツバ部材180の円筒部181は切欠き151よりも径方向内側に設けられているため、シール部材140の膨出部分が切欠き151に接触することなく、シール部材140の損傷を防止することが可能となる。