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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-60718(P2015-60718A)
(43)【公開日】2015年3月30日
(54)【発明の名称】信号伝送用フラットケーブル
(51)【国際特許分類】
   H01B 11/00 20060101AFI20150303BHJP
   H01B 11/06 20060101ALI20150303BHJP
   H01B 7/08 20060101ALI20150303BHJP
   H01B 7/17 20060101ALI20150303BHJP
   H01B 7/02 20060101ALI20150303BHJP
【FI】
   H01B11/00 G
   H01B11/06
   H01B7/08
   H01B7/18 D
   H01B7/18 H
   H01B7/02 H
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-193655(P2013-193655)
(22)【出願日】2013年9月19日
(11)【特許番号】特許第5534628号(P5534628)
(45)【特許公報発行日】2014年7月2日
(71)【出願人】
【識別番号】592057385
【氏名又は名称】株式会社湘南合成樹脂製作所
(71)【出願人】
【識別番号】505303668
【氏名又は名称】株式会社テクノ・コア
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100075292
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 卓
(72)【発明者】
【氏名】市毛 敏明
【テーマコード(参考)】
5G309
5G311
5G313
5G319
【Fターム(参考)】
5G309QA09
5G311CA01
5G311CC05
5G311CD03
5G311CE04
5G313AA03
5G313AB05
5G313AC07
5G313AC11
5G313AD08
5G313AE08
5G319EA01
5G319EA02
5G319EB06
5G319EC01
(57)【要約】
【課題】高周波周波数帯域における信号伝送特性の低下を抑止することができる信号伝送用フラットケーブルを提供する。
【解決手段】信号導体1a、1b、接地導体2a、2b、2cおよび電気絶縁基体3をケーブル厚さ方向の上下から被覆する上部電気絶縁薄膜層4および下部電気絶縁薄膜層5を備える。保護遮蔽層8は、金属層6と電気絶縁プラスチック層7からなり、金属層が内側に、電気絶縁プラスチック層が外側に位置するように上部および下部電気絶縁薄膜層の外周を包囲する。保護遮蔽層は、ケーブル長手方向に沿った一方の端縁部10と他方の端縁部11が突き合わされて前記外周を包囲する。また、上部および下部電気絶縁薄膜層4、5と金属層6とが接着により一体化される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面上に互いに平行してケーブル長さ方向に延びる金属薄膜からなる複数の信号導体と、
前記各信号導体のケーブル幅方向の両側に配置された金属薄膜からなる複数の接地導体と、
前記各信号導体および各接地導体が積層された電気絶縁基体と、
前記各信号導体、各接地導体および電気絶縁基体をケーブル厚さ方向の上下から被覆する上部電気絶縁薄膜層および下部電気絶縁薄膜層と、
金属層と電気絶縁プラスチック層からなり、金属層が内側に、電気絶縁プラスチック層が外側に位置するように前記上部電気絶縁薄膜層および下部電気絶縁薄膜層の外周を包囲する保護遮蔽層と、を備え、
前記保護遮蔽層は、ケーブル長手方向に沿った一方の端縁部と他方の端縁部が突き合わされて前記外周を包囲するとともに、前記上部および下部電気絶縁薄膜層と金属層とが接着により一体化されていることを特徴とする信号伝送用フラットケーブル。
【請求項2】
前記保護遮蔽層の一方と他方の両端縁部が突き合わされて形成される突合せ部が、接地導体上に位置することを特徴とする請求項1に記載の信号伝送用フラットケーブル。
【請求項3】
前記突合せ部が、前記保護遮蔽層の一方の端縁部にある接地導体の信号導体と反対側の端部と該接地導体のケーブル幅方向中央部との間の領域上に位置することを特徴とする請求項2に記載の信号伝送用フラットケーブル。
【請求項4】
前記電気絶縁基体のケーブル幅方向の両端部と、各接地導体の信号導体と反対側の端部は、接地導体と保護遮蔽層の金属層が電気的に接触するように、一体的に折り曲げられていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の信号伝送用フラットケーブル。
【請求項5】
上部電気絶縁薄膜の厚さを、電気絶縁基体の厚さと下部電気絶縁薄膜の厚さとを加えた厚さと等しくなるようにして、信号導体および接地導体の上部と下部の絶縁体の厚さを等しくするようにしたことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の信号伝送用フラットケーブル。
【請求項6】
接地導体と信号導体間に形成された空隙内のエアを抜くためのエア抜き孔が該空隙位置に対応する電気絶縁基体の位置に形成されることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の信号伝送用フラットケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄型でかつ優れた電気特性を有する信号伝送用フラットケーブル、特に、携帯電話やノートパソコン等の内部配線に適した信号伝送用フラットケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やノートパソコンのような高密度配線電子機器に使用される信号伝送用フラットケーブルには、狭い空間での配線を可能とするために薄型でかつ高周波帯域での伝送損失が小さいことが要求される。
【0003】
このような信号伝送用フラットケーブルとして、金属薄膜からなる信号導体と、信号導体のケーブル幅方向の両側に配置され、金属薄膜からなる接地導体と、信号導体および接地導体が積層された電気絶縁基体と、これらの信号導体、接地導体および電気絶縁基体をケーブル厚さ方向の上下から被覆する上部電気絶縁薄膜層および下部電気絶縁薄膜層と、金属層の一方面に電気絶縁プラスチック層が積層され、電気絶縁プラスチック層が外側となるようにして上部電気絶縁薄膜層および下部電気絶縁薄膜層の直接外周に設けられた保護遮蔽層とを備えた同軸ケーブルが提案されている(特許文献1)。
【0004】
上記同軸ケーブルでは、保護遮蔽層は、ケーブル横断面において上部電気絶縁薄膜層および下部電気絶縁薄膜層を一括包囲すると共に、ケーブル長手方向において一方の端縁部を他方の端縁部の外側に重ね合わせることにより形成された重ね合わせ部を有している。
【0005】
また、信号導体を複数併設した多芯同軸も多数提案されており、例えば、信号が伝送される中心導体を絶縁フィルムで挟み込み、その絶縁フィルムをさらに外部導体で被覆した角型同軸構造のケーブルを形成した後、それらを複数本並列に束ねることにより高速伝送と耐雑音特性の向上を図ることが行われている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−119198号公報
【特許文献2】特開2003−323824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された信号伝送用フラットケーブルでは、保護遮蔽層は、ケーブル横断面において上部電気絶縁薄膜層および下部電気絶縁薄膜層を一括包囲するとともに、ケーブル長手方向において一方の端縁部が他方の端縁部の外側に重ね合わせることにより形成された重ね合わせ部を有している。そして、上部電気絶縁薄膜層および下部電気絶縁薄膜層と金属層とは、上部電気絶縁薄膜層および下部電気絶縁薄膜層を溶融させることにより接着一体化されており、ケーブルの形崩れを防止できるという特徴がある。
【0008】
しかしながら、この信号伝送用フラットケーブルでは、重ね合わせ部がケーブル幅方向の中央部に形成されており、上部電気絶縁薄膜層および下部電気絶縁薄膜層を保護遮蔽層で一括包囲した状態でケーブルの上下方向に加圧すると、重ね合わせ部の厚さによって上部電気絶縁薄膜層および下部電気絶縁薄膜層が凹み、中央部が他の部分よりも薄くなってしまう。信号導体が位置するケーブル幅方向の中央部は電界強度が最も大きい部分であり、ここで上部電気絶縁薄膜層および下部電気絶縁薄膜層の厚さが変化すると、高周波周波数帯域における信号伝送特性が低下することになる。
【0009】
また、信号導体を複数併設した多芯同軸ケーブルにおいても、ケーブルの形崩れの防止、高周波周波数帯域における信号伝送特性の劣化防止において同様な問題がある。
【0010】
そこで、本発明は、ケーブルの形崩れを防止でき、しかも高周波周波数帯域における信号伝送特性の低下を抑止することができる信号伝送用フラットケーブルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を達成する本発明は、
平面上に互いに平行してケーブル長さ方向に延びる金属薄膜からなる複数の信号導体と、
前記各信号導体のケーブル幅方向の両側に配置された金属薄膜からなる複数の接地導体と、
前記各信号導体および各接地導体が積層された電気絶縁基体と、
前記各信号導体、各接地導体および電気絶縁基体をケーブル厚さ方向の上下から被覆する上部電気絶縁薄膜層および下部電気絶縁薄膜層と、
金属層と電気絶縁プラスチック層からなり、金属層が内側に、電気絶縁プラスチック層が外側に位置するように前記上部電気絶縁薄膜層および下部電気絶縁薄膜層の外周を包囲する保護遮蔽層と、を備え、
前記保護遮蔽層は、ケーブル長手方向に沿った一方の端縁部と他方の端縁部が突き合わされて前記外周を包囲するとともに、前記上部および下部電気絶縁薄膜層と金属層とが接着により一体化されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
このような構成では、保護遮蔽層は、ケーブル長手方向において一方の端縁部が他方の端縁部に重ね合わせることなく突き合わせることにより上部電気絶縁薄膜層および下部電気絶縁薄膜層をケーブル横断面において一括包囲して形成され、かつ上部電気絶縁薄膜層および下部電気絶縁薄膜層と金属層とは、接着一体化されているので、多芯同軸ケーブルの形崩れを防止でき、しかも高周波周波数帯域における信号伝送特性の低下を抑止することができる。
【0013】
また、保護遮蔽層の一方と他方の両端縁部が突き合わされて形成される突合せ部が、接地導体上に位置し、信号導体から離れていることにより、高周波周波数帯域における信号伝送特性の低下を抑止することができる。
【0014】
突合せ部は、好ましくは、保護遮蔽層の一方の端縁部にある接地導体の信号導体と反対側の端部と該接地導体のケーブル幅方向中央部との間の領域上に位置する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の信号伝送用フラットケーブルの一部を横断して示した斜視図である。
図2】(a)〜(e)は、信号伝送用フラットケーブルの製造方法を説明する横断面図である。
図3】(a)、(b)は信号導体と接地導体間の空隙にあるエアを抜く工程を説明する横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に示す実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。
【実施例】
【0017】
図1は本発明の一実施例を示す信号伝送用フラットケーブル100の一部を横断で示した斜視図である。フラットケーブル100は多芯同軸ケーブルとして構成されており、電気絶縁基体3の一方面に金属薄膜からなる2つの信号導体1a、1bと、金属薄膜からなる3つの接地導体2a、2b、2cとが平面上に配置されている。信号導体1a、1bは、互いに平行してケーブル長さ方向Lに延びており、本実施例では2本の信号導体が設けられている。接地導体2b、2aは信号導体1aのケーブル幅方向の左右側にそれぞれ平行に配置されており、接地導体2a、2cは信号導体1bのケーブル幅方向の左右側にそれぞれ平行に配置されている。接地導体2aは信号導体1a、1bに挟まれる形で配置され、各接地導体2a、2b、2cのケーブル幅方向の長さはほぼ等しくなっている。本明細書において、ケーブル幅方向とは、信号伝送用フラットケーブル100が長く延びる図1でLで示したケーブル長手方向と直交する方向で、図1で左右に延びるWで示した方向である。また、ケーブル厚さ方向は、L、Wと直交する図1で上下に延びるDで示した方向である。
【0018】
上部電気絶縁薄膜層4および下部電気絶縁薄膜層5は、信号導体1a、1b、接地導体2a、2b、2cおよび電気絶縁基体3をケーブル厚さ方向の上下から被覆するように設けられている。また、上部電気絶縁薄膜層4および下部電気絶縁薄膜層5の直接外周には、金属層6の一方面に電気絶縁プラスチック層7が積層された保護遮蔽層8が、電気絶縁プラスチック層7が外側となるようにして設けられている。
【0019】
保護遮蔽層8は、ケーブル長手方向において一方の端縁部10が他方の端縁部11に重ね合わせることなく突き合わせることにより上部電気絶縁薄膜層4および下部電気絶縁薄膜層5をケーブル横断面において一周包囲して形成されている。すなわち、保護遮蔽層8は、ケーブル横断面の左上隅付近において端縁部10と端縁部11とがケーブル長手方向に連続して突き合わされて突合せ部12を形成している。突合せ部12は、ケーブル幅方向に見て信号導体1a、1bから離れた位置にあり、左側の接地導体2b上に位置している。保護遮蔽層8は、突合せ部12が可能な限り信号導体1a、1bから離間した位置に形成されるように、突き合わせるのが好ましい。また、突合せ部12がケーブルの幅方向端部に近づくと、突き合せが困難となるので、突合せ部12は、図1に示したように、接地導体2bのケーブル幅方向の幅をXとして、保護遮蔽層8の一方の端縁部10にある接地導体2bの信号導体1aと反対側の端部と接地導体2bのケーブル幅方向中央部との間のX/2の幅の領域上に形成されている。突合せ部12は、図1では、左側の接地導体2b上に位置しているが、右側の接地導体2c上に位置するように、保護遮蔽層8を突き合わせるようにしてもよい。このように、突合せ部12を信号導体1から離間させることにより、信号導体に与える影響が少なくなり、高周波周波数帯域における信号伝送特性の低下を抑止することができる。
【0020】
金属層6と電気絶縁プラスチック層7とを積層一体化した保護遮蔽層8を上部電気絶縁薄膜層4および下部電気絶縁薄膜層5の外周に被覆形成した状態で、保護遮蔽層8の上下方向から加熱加圧(ホットプレス)を施すことにより、上部電気絶縁薄膜層4および下部電気絶縁薄膜層5が軟化溶融されて金属層6と接着一体化され、これによって、保護遮蔽層8の形崩れを防止できる。
【0021】
また、保護遮蔽層8の端縁部10と端縁部11とを重ね合わせることなく突き合わせただけで開口の発生を防止できるので、加熱加圧時における上部電気絶縁薄膜層4および下部電気絶縁薄膜層5の厚さがケーブル幅全体において一定となり、高周波周波数帯域における信号伝送特性の低下を抑止することが可能となる。
【0022】
本実施例においては、接地導体2b、2cと電気絶縁基体3とを積層した端部を下部電気絶縁薄膜層5の端部に折り曲げることにより折り曲げ部9a、9bを形成し、この折り曲げ部9a、9bの接地導体2b、2cを金属層6側に位置させている。従って、接地導体2b、2cと金属層6とは安定した電気的接触がなされるようになり、信号伝送用フラットケーブルの高周波周波数帯域における信号伝送損失の増大を抑止できる。なお、折り曲げ部9は、上部電気絶縁薄膜層4側に形成するようにしてもよい。
【0023】
信号導体1a、1bおよび接地導体2a、2b、2cは、共に良導電性の金属で形成されており、具体的には、産業的に良導電性金属として一般的である銅(導電率:5.76×10ジーメンス/m)を箔状に加工したものを電気絶縁薄膜層4あるいは電気絶縁基体3に積層することにより、または銅を電気絶縁薄膜層4あるいは電気絶縁基体3に蒸着あるいはめっきを施すことにより形成することができ、銅以外の金属としてはアルミニウム(導電率:3.96×10ジーメンス/m)をあげることができる。
【0024】
なお、携帯電話やノートパソコンのように2GHzを越えるような高周波信号が伝送される電子機器では、所謂表皮効果と呼ばれる現象によって数ミクロンの表面層に電流が集中するので、導電率が銅やアルミニウムより小さいニッケルのようなめっき層は伝送損失を増大させることから、このようなめっき層を信号導体1a、1bや接地導体2a、2b、2cの表面に形成しないようにする必要がある。
【0025】
保護遮蔽層8を形成する金属層6は、信号導体1a、1bや接地導体2a、2b、2cと同様に、銅またはアルミニウムのような良導電性の金属で形成することが好ましい。なお、従来の信号伝送用フラットケーブルにおいては金属層6の表面に導電性接着層を形成して上部電気絶縁薄膜層4および下部電気絶縁薄膜層5と金属層6とを接着させていたが、導電性接着層は、前述したように、2GHzを越えるような高周波信号が伝送される電子機器では伝送損失を増大させるので、上部電気絶縁薄膜層4および下部電気絶縁薄膜層5と金属層6との間には導電性接着層は形成しないようにする必要がある。
【0026】
本実施例では、上部電気絶縁薄膜層4の厚さを0.125mm、電気絶縁基体3の厚さを0.025mmとし、下部電気絶縁薄膜層5の厚さを0.100mmとすることにより、信号導体1および接地導体2、2の上部と下部の絶縁体の厚さを等しくして(各々0.125mm)、特性インピーダンスが50Ωの丸型同軸ケーブルと同様の信号伝送特性を有する信号伝送用多芯同軸フラットケーブル100を実現できる。厚さ0.025mmの電気絶縁基体と銅箔とを積層した銅張積層板は市販されており、このような市販品を使用することにより、信号伝送用フラットケーブルのコストダウンをはかることができる。
【0027】
上部電気絶縁薄膜層4および下部電気絶縁薄膜層5は、加熱によって溶融接着する性質を有する熱可塑性樹脂材料からなっており、保護遮蔽層8の外側から加えられる熱によって上部電気絶縁薄膜層4および下部電気絶縁薄膜層5と金属層6とが溶融接着されることにより、上部電気絶縁薄膜層4および下部電気絶縁薄膜層5と保護遮蔽層8とが剥離されにくくなり、保護遮蔽層8の形崩れを防止でき、また、上部電気絶縁薄膜層4および下部電気絶縁薄膜層5と金属層6とは伝送損失の増加要因となる接着剤の介在なしに直接接着されているので、低損失での伝送が可能となる。
【0028】
電気絶縁プラスチック層7は、加熱によって溶融接着する性質を有する熱可塑性プラスチック材料からなっている。このため、保護遮蔽層8は、金属層6を内側、電気絶縁プラスチック層7を外側にして両者を接着剤等の介在物なしで直接積層形成した状態でケーブル横断面において上部電気絶縁薄膜層4および下部電気絶縁薄膜層5を一括包囲することができる。すなわち、保護遮蔽層8は、接着剤等の介在物なしで金属層6と電気絶縁プラスチック層7とを積層したものであり、接着剤が存在しない分だけ薄く形成することができ、薄型の信号伝送用多芯同軸フラットケーブルを実現できる。
【0029】
また、保護遮蔽層8は、ケーブル長手方向において一方の端縁部10と他方の端縁部11とが突き合わされて突合せ部12が形成されている。この場合、金属層6と電気絶縁プラスチック層7とが電気絶縁プラスチック層7の加熱による溶融によって接着一体化されており、端縁部10と端縁部11との突合せ部12およびその近辺において開口が発生しにくくなり、遮蔽効果の低下を抑止することができる。
【0030】
なお、保護遮蔽層8を上部電気絶縁薄膜層4および下部電気絶縁薄膜層5の外周に被覆形成した状態で、保護遮蔽層8の上下方向からホットプレスを行う場合、ホットプレスによって電気絶縁プラスチック層7が変形しないようにするため、または変形しにくくするため、上部電気絶縁薄膜層4および下部電気絶縁薄膜層5と電気絶縁プラスチック層7とは同種の材料を使用すること、または、上部電気絶縁薄膜層4および下部電気絶縁薄膜層5の方が電気絶縁プラスチック層7よりも低温で熱軟化する材料を選択して使用することが好ましい。
【0031】
上部電気絶縁薄膜層4および下部電気絶縁薄膜層5は加熱によって溶融接着する性質を有し、かつ、2GHzを越えるような高周波帯域での誘電率および誘電正接が小さい材料であることが好ましく、このような材料としては、液晶ポリマーやポリテトラフルオロエチレンをあげることができる。
【0032】
液晶ポリマーは、溶融時に光学的異方性を示す熱可塑性樹脂であり、具体的には、全芳香族系もしくは半芳香族系のポリエステル、ポリエステルイミド、ポリエステルアミド、あるいはこれらを含有する樹脂組成物があげられ、なかでも(A)液晶ポリエステルを連続相とし(B)液晶ポリエステルと反応性を有する官能基を有する共重合体を分散相とする液晶ポリエステル樹脂組成物が好ましい。
【0033】
電気絶縁プラスチック層7は、上部電気絶縁薄膜層4および下部電気絶縁薄膜層5と同様に加熱によって溶融接着する性質を有し、かつ、上部電気絶縁薄膜層4および下部電気絶縁薄膜層5と金属層6とを加熱により接着させるときに加えられる熱によっては変形しないまたは変形しにくい性質を有する必要があり、このような材料としては、電気絶縁薄膜層4を液晶ポリマーで形成したときは、液晶ポリマーあるいは極性有機溶媒可溶性ポリアミドイミド樹脂とフッ素系樹脂とを含有するプラスチック組成物をあげることができる。
【0034】
極性有機溶媒可溶性ポリアミドイミド樹脂単独で形成した被膜の誘電率は3.5以上、誘電正接は0.012以上(誘電率、誘電正接はいずれも空洞共振器摂動により周波数1GHzで測定)であるが、極性有機溶媒可溶性ポリアミドイミド樹脂とフッ素系樹脂とを含有するプラスチック組成物で形成した被膜(電気絶縁プラスチック層7)は、誘電率が3.20以下、誘電正接が0.01以下(誘電率、誘電正接はいずれも空洞共振器摂動により周波数1GHzで測定)となり、電気特性が著しく向上する。
【0035】
フッ素系樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体及びテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体等から選ばれた1種又は2種以上が使用される。
【0036】
次に、本実施例の信号伝送用フラットケーブルの製造方法を図2に基づいて説明する。電気絶縁基体3の上面に折り曲げ部9a、9bを考慮して電気絶縁基体3より幅広の幅寸法を有する銅箔Cを積層した銅張積層板を用意し(図2(a))、銅箔Cをエッチングすることにより信号導体1a、1bおよび接地導体2a、2b、2cを形成する(図2(b))。このとき、中央の接地導体2aの中心が電気絶縁基体3の中心3aと一致するように、また接地導体2aと2b間の幅と接地導体2a、2c間の幅が同じ値W1となり、接地導体2a、2b間の中央に信号導体1aの中心が位置し、接地導体2a、2c間の中央に信号導体1bの中心が位置するように、エッチングする。
【0037】
次に、信号導体1a、1bおよび接地導体2a、2b、2cの上部に上部電気絶縁薄膜層4を積層すると共に、電気絶縁基体3の下部に下部電気絶縁薄膜層5を設け(図2(c))、電気絶縁基体3のケーブル幅方向の両端部を接地導体2b、2cのケーブル幅方向端部と一体に折り曲げることにより折り曲げ部9a、9bを形成する(図2(d))。
【0038】
続いて、図2(e)に示すように、上部電気絶縁薄膜層4および下部電気絶縁薄膜層5の外周に保護遮蔽層8を被覆形成し、保護遮蔽層8の上下方向から加熱加圧(ホットプレス)を施すことにより、上部電気絶縁薄膜層4および下部電気絶縁薄膜層5が軟化溶融されて金属層6と接着されて、図1に示すような信号伝送用フラットケーブル100が作製される。
【0039】
本実施例の信号伝送用フラットケーブルは、電気絶縁基体3が金属薄膜である信号導体1a、1bおよび接地導体2a、2b、2cを補強する役目を担っており、電気絶縁基体3と銅箔Cとを積層した銅張積層板の使用は、接地導体2b、2cの取り扱い性を大幅に改善しており、これによって、折り曲げ部9a、9bの形成が容易化される。
【0040】
前記実施例では、電気絶縁基体3のケーブル幅方向の両端部を接地導体2b、2cのケーブル幅方向端部と一体に下部電気絶縁薄膜層5側に折り曲げることにより折り曲げ部9a、9bを形成しているが、上部電気絶縁薄膜層4側に折り曲げることにより折り曲げ部を形成してもよい。この場合、信号導体1a、1bおよび接地導体2a、2b、2cを電気絶縁基体3の上方に設けることにより、折り曲げによって接地導体2b、2cと金属層6とが接触するようにし、かつ、上部電気絶縁薄膜4の厚さが電気絶縁基体3の厚さと下部電気絶縁薄膜5の厚さとを加えた厚さと等しくなるようにして、信号導体1a、1bおよび接地導体2a、2b、2cの上下の絶縁体の厚さを等しくするように構成することが好ましい。
【0041】
本実施例のように、信号伝送用フラットケーブルを多芯同軸ケーブルとした場合、信号導体と接地導体間に多数の空隙が形成され、そこにエアが存在すると、誘電率が大きくなる。従って、図3(a)に示したように、信号導体1aと接地導体2a、2b間の空隙位置並びに信号導体1bと接地導体2a、2c間の空隙位置に対応する電気絶縁基体3の位置にエア抜き孔3bを形成する。そして、図3(b)に示したように、上部電気絶縁薄膜層4をプレスにより信号導体1a、1b並びに接地導体2a、2b、2cに圧着させ、各空隙を密封した後、エア抜きを行う。エア抜きは、図示してないが、各空隙のエアがエア抜き孔3bから抜かれるような装置を用いて行うようにする。エア抜きが行われた段階で下部電気絶縁薄膜層5を下部からプレスして電気絶縁基体3に密着させ、各空隙からエア抜きされた状態を保持させる。その後は、図2(d)、(e)と同様な工程が行われ、エア抜きされた多芯同軸ケーブルが作製される。
【0042】
なお、上述した実施例では、信号導体は2本、接地導体は3本設けられているが、それ以上の複数の信号導体、接地導体を設けるようにしてもよい。その場合、接地導体は信号導体の数+1設けられるが、いずれの本数でも、信号導体、接地導体は電気絶縁基体3の中心線3aを中心に線対称となるように配列し、隣接する接地導体間の距離はいずれも同じで(図2(b)ではW1)、該接地導体間の中央にその間の信号導体の中心が位置するように配列する。また、ケーブルの幅方向の両端縁部には、それぞれ接地導体が位置するように配列する。信号導体が偶数個の場合には、電気絶縁基体3の中心3aの位置には接地導体が位置し、奇数個の場合には中心3aの位置には信号導体が位置する。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、電気絶縁薄膜層と保護遮蔽層との間の剥離発生に起因する保護遮蔽層の形崩れの防止をはかることができるとともに、上部電気絶縁薄膜層4および下部電気絶縁薄膜層5のケーブル幅方向での厚さの変化を抑えることができるので、多芯同軸ケーブルの高周波周波数帯域における信号伝送特性の低下を抑止することができる。
【符号の説明】
【0044】
1a、1b 信号導体
2a、2b、2c 接地導体
3 電気絶縁基体
3a エア抜き孔
4 上部電気絶縁薄膜層
5 下部電気絶縁薄膜層
6 金属層
7 電気絶縁プラスチック層
8 保護遮蔽層
9 折り曲げ部
12 突合せ部
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2014年3月19日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面上に互いに平行してケーブル長さ方向に延びる金属薄膜からなる複数の信号導体と、
前記各信号導体のケーブル幅方向の両側に配置された金属薄膜からなる複数の接地導体と、
前記各信号導体および前記各接地導体が積層された電気絶縁基体と、
前記各信号導体、前記各接地導体および前記電気絶縁基体をケーブル厚さ方向の上下から被覆する上部電気絶縁薄膜層および下部電気絶縁薄膜層と、
金属層と電気絶縁プラスチック層からなり、前記金属層が内側に、前記電気絶縁プラスチック層が外側に位置するように前記上部電気絶縁薄膜層および前記下部電気絶縁薄膜層の外周を包囲する保護遮蔽層と、を備え、
前記保護遮蔽層は、ケーブル長手方向に沿った一方の端縁部と他方の端縁部が突き合わされて前記外周を包囲するとともに、前記上部および下部電気絶縁薄膜層と前記金属層とが接着により一体化されており、
前記保護遮蔽層の一方と他方の両端縁部が突き合わされて形成される突合せ部が、前記信号導体に挟まれない接地導体上に位置することを特徴とする信号伝送用フラットケーブル。
【請求項2】
前記突合せ部が、前記保護遮蔽層の一方の端縁部の下の位置にある、前記信号導体に挟まれない接地導体前記信号導体と反対側の端部と該接地導体のケーブル幅方向中央部との間の領域上に位置することを特徴とする請求項に記載の信号伝送用フラットケーブル。
【請求項3】
前記電気絶縁基体のケーブル幅方向の両端部と、前記保護遮蔽層の両端縁部の下の位置にある、前記信号導体に挟まれない接地導体前記信号導体と反対側の端部は、該端部と前記保護遮蔽層の前記金属層が電気的に接触するように、一体的に折り曲げられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の信号伝送用フラットケーブル。
【請求項4】
前記上部電気絶縁薄膜の厚さを、前記電気絶縁基体の厚さと前記下部電気絶縁薄膜の厚さとを加えた厚さ等しくしたことを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の信号伝送用フラットケーブル。
【請求項5】
前記信号導体に挟まれない接地導体と前記信号導体の間、並びに前記信号導体に挟まれた接地導体と前記信号導体の間に形成された空隙内のエアをそれぞれ抜くためのエア抜き孔が該空隙位置に対応する前記電気絶縁基体の位置に形成されることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の信号伝送用フラットケーブル。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0011】
上記課題を達成する本発明は、
平面上に互いに平行してケーブル長さ方向に延びる金属薄膜からなる複数の信号導体と、
前記各信号導体のケーブル幅方向の両側に配置された金属薄膜からなる複数の接地導体と、
前記各信号導体および前記各接地導体が積層された電気絶縁基体と、
前記各信号導体、前記各接地導体および前記電気絶縁基体をケーブル厚さ方向の上下から被覆する上部電気絶縁薄膜層および下部電気絶縁薄膜層と、
金属層と電気絶縁プラスチック層からなり、前記金属層が内側に、前記電気絶縁プラスチック層が外側に位置するように前記上部電気絶縁薄膜層および前記下部電気絶縁薄膜層の外周を包囲する保護遮蔽層と、を備え、
前記保護遮蔽層は、ケーブル長手方向に沿った一方の端縁部と他方の端縁部が突き合わされて前記外周を包囲するとともに、前記上部および下部電気絶縁薄膜層と前記金属層とが接着により一体化されており、
前記保護遮蔽層の一方と他方の両端縁部が突き合わされて形成される突合せ部が、前記信号導体に挟まれない接地導体上に位置することを特徴とする。