【実施例】
【0017】
図1は本発明の一実施例を示す信号伝送用フラットケーブル100の一部を横断で示した斜視図である。フラットケーブル100は多芯同軸ケーブルとして構成されており、電気絶縁基体3の一方面に金属薄膜からなる2つの信号導体1a、1bと、金属薄膜からなる3つの接地導体2a、2b、2cとが平面上に配置されている。信号導体1a、1bは、互いに平行してケーブル長さ方向Lに延びており、本実施例では2本の信号導体が設けられている。接地導体2b、2aは信号導体1aのケーブル幅方向の左右側にそれぞれ平行に配置されており、接地導体2a、2cは信号導体1bのケーブル幅方向の左右側にそれぞれ平行に配置されている。接地導体2aは信号導体1a、1bに挟まれる形で配置され、各接地導体2a、2b、2cのケーブル幅方向の長さはほぼ等しくなっている。本明細書において、ケーブル幅方向とは、信号伝送用フラットケーブル100が長く延びる
図1でLで示したケーブル長手方向と直交する方向で、
図1で左右に延びるWで示した方向である。また、ケーブル厚さ方向は、L、Wと直交する
図1で上下に延びるDで示した方向である。
【0018】
上部電気絶縁薄膜層4および下部電気絶縁薄膜層5は、信号導体1a、1b、接地導体2a、2b、2cおよび電気絶縁基体3をケーブル厚さ方向の上下から被覆するように設けられている。また、上部電気絶縁薄膜層4および下部電気絶縁薄膜層5の直接外周には、金属層6の一方面に電気絶縁プラスチック層7が積層された保護遮蔽層8が、電気絶縁プラスチック層7が外側となるようにして設けられている。
【0019】
保護遮蔽層8は、ケーブル長手方向において一方の端縁部10が他方の端縁部11に重ね合わせることなく突き合わせることにより上部電気絶縁薄膜層4および下部電気絶縁薄膜層5をケーブル横断面において一周包囲して形成されている。すなわち、保護遮蔽層8は、ケーブル横断面の左上隅付近において端縁部10と端縁部11とがケーブル長手方向に連続して突き合わされて突合せ部12を形成している。突合せ部12は、ケーブル幅方向に見て信号導体1a、1bから離れた位置にあり、左側の接地導体2b上に位置している。保護遮蔽層8は、突合せ部12が可能な限り信号導体1a、1bから離間した位置に形成されるように、突き合わせるのが好ましい。また、突合せ部12がケーブルの幅方向端部に近づくと、突き合せが困難となるので、突合せ部12は、
図1に示したように、接地導体2bのケーブル幅方向の幅をXとして、保護遮蔽層8の一方の端縁部10にある接地導体2bの信号導体1aと反対側の端部と接地導体2bのケーブル幅方向中央部との間のX/2の幅の領域上に形成されている。突合せ部12は、
図1では、左側の接地導体2b上に位置しているが、右側の接地導体2c上に位置するように、保護遮蔽層8を突き合わせるようにしてもよい。このように、突合せ部12を信号導体1から離間させることにより、信号導体に与える影響が少なくなり、高周波周波数帯域における信号伝送特性の低下を抑止することができる。
【0020】
金属層6と電気絶縁プラスチック層7とを積層一体化した保護遮蔽層8を上部電気絶縁薄膜層4および下部電気絶縁薄膜層5の外周に被覆形成した状態で、保護遮蔽層8の上下方向から加熱加圧(ホットプレス)を施すことにより、上部電気絶縁薄膜層4および下部電気絶縁薄膜層5が軟化溶融されて金属層6と接着一体化され、これによって、保護遮蔽層8の形崩れを防止できる。
【0021】
また、保護遮蔽層8の端縁部10と端縁部11とを重ね合わせることなく突き合わせただけで開口の発生を防止できるので、加熱加圧時における上部電気絶縁薄膜層4および下部電気絶縁薄膜層5の厚さがケーブル幅全体において一定となり、高周波周波数帯域における信号伝送特性の低下を抑止することが可能となる。
【0022】
本実施例においては、接地導体2b、2cと電気絶縁基体3とを積層した端部を下部電気絶縁薄膜層5の端部に折り曲げることにより折り曲げ部9a、9bを形成し、この折り曲げ部9a、9bの接地導体2b、2cを金属層6側に位置させている。従って、接地導体2b、2cと金属層6とは安定した電気的接触がなされるようになり、信号伝送用フラットケーブルの高周波周波数帯域における信号伝送損失の増大を抑止できる。なお、折り曲げ部9は、上部電気絶縁薄膜層4側に形成するようにしてもよい。
【0023】
信号導体1a、1bおよび接地導体2a、2b、2cは、共に良導電性の金属で形成されており、具体的には、産業的に良導電性金属として一般的である銅(導電率:5.76×10
7ジーメンス/m)を箔状に加工したものを電気絶縁薄膜層4あるいは電気絶縁基体3に積層することにより、または銅を電気絶縁薄膜層4あるいは電気絶縁基体3に蒸着あるいはめっきを施すことにより形成することができ、銅以外の金属としてはアルミニウム(導電率:3.96×10
7ジーメンス/m)をあげることができる。
【0024】
なお、携帯電話やノートパソコンのように2GHzを越えるような高周波信号が伝送される電子機器では、所謂表皮効果と呼ばれる現象によって数ミクロンの表面層に電流が集中するので、導電率が銅やアルミニウムより小さいニッケルのようなめっき層は伝送損失を増大させることから、このようなめっき層を信号導体1a、1bや接地導体2a、2b、2cの表面に形成しないようにする必要がある。
【0025】
保護遮蔽層8を形成する金属層6は、信号導体1a、1bや接地導体2a、2b、2cと同様に、銅またはアルミニウムのような良導電性の金属で形成することが好ましい。なお、従来の信号伝送用フラットケーブルにおいては金属層6の表面に導電性接着層を形成して上部電気絶縁薄膜層4および下部電気絶縁薄膜層5と金属層6とを接着させていたが、導電性接着層は、前述したように、2GHzを越えるような高周波信号が伝送される電子機器では伝送損失を増大させるので、上部電気絶縁薄膜層4および下部電気絶縁薄膜層5と金属層6との間には導電性接着層は形成しないようにする必要がある。
【0026】
本実施例では、上部電気絶縁薄膜層4の厚さを0.125mm、電気絶縁基体3の厚さを0.025mmとし、下部電気絶縁薄膜層5の厚さを0.100mmとすることにより、信号導体1および接地導体2、2の上部と下部の絶縁体の厚さを等しくして(各々0.125mm)、特性インピーダンスが50Ωの丸型同軸ケーブルと同様の信号伝送特性を有する信号伝送用多芯同軸フラットケーブル100を実現できる。厚さ0.025mmの電気絶縁基体と銅箔とを積層した銅張積層板は市販されており、このような市販品を使用することにより、信号伝送用フラットケーブルのコストダウンをはかることができる。
【0027】
上部電気絶縁薄膜層4および下部電気絶縁薄膜層5は、加熱によって溶融接着する性質を有する熱可塑性樹脂材料からなっており、保護遮蔽層8の外側から加えられる熱によって上部電気絶縁薄膜層4および下部電気絶縁薄膜層5と金属層6とが溶融接着されることにより、上部電気絶縁薄膜層4および下部電気絶縁薄膜層5と保護遮蔽層8とが剥離されにくくなり、保護遮蔽層8の形崩れを防止でき、また、上部電気絶縁薄膜層4および下部電気絶縁薄膜層5と金属層6とは伝送損失の増加要因となる接着剤の介在なしに直接接着されているので、低損失での伝送が可能となる。
【0028】
電気絶縁プラスチック層7は、加熱によって溶融接着する性質を有する熱可塑性プラスチック材料からなっている。このため、保護遮蔽層8は、金属層6を内側、電気絶縁プラスチック層7を外側にして両者を接着剤等の介在物なしで直接積層形成した状態でケーブル横断面において上部電気絶縁薄膜層4および下部電気絶縁薄膜層5を一括包囲することができる。すなわち、保護遮蔽層8は、接着剤等の介在物なしで金属層6と電気絶縁プラスチック層7とを積層したものであり、接着剤が存在しない分だけ薄く形成することができ、薄型の信号伝送用多芯同軸フラットケーブルを実現できる。
【0029】
また、保護遮蔽層8は、ケーブル長手方向において一方の端縁部10と他方の端縁部11とが突き合わされて突合せ部12が形成されている。この場合、金属層6と電気絶縁プラスチック層7とが電気絶縁プラスチック層7の加熱による溶融によって接着一体化されており、端縁部10と端縁部11との突合せ部12およびその近辺において開口が発生しにくくなり、遮蔽効果の低下を抑止することができる。
【0030】
なお、保護遮蔽層8を上部電気絶縁薄膜層4および下部電気絶縁薄膜層5の外周に被覆形成した状態で、保護遮蔽層8の上下方向からホットプレスを行う場合、ホットプレスによって電気絶縁プラスチック層7が変形しないようにするため、または変形しにくくするため、上部電気絶縁薄膜層4および下部電気絶縁薄膜層5と電気絶縁プラスチック層7とは同種の材料を使用すること、または、上部電気絶縁薄膜層4および下部電気絶縁薄膜層5の方が電気絶縁プラスチック層7よりも低温で熱軟化する材料を選択して使用することが好ましい。
【0031】
上部電気絶縁薄膜層4および下部電気絶縁薄膜層5は加熱によって溶融接着する性質を有し、かつ、2GHzを越えるような高周波帯域での誘電率および誘電正接が小さい材料であることが好ましく、このような材料としては、液晶ポリマーやポリテトラフルオロエチレンをあげることができる。
【0032】
液晶ポリマーは、溶融時に光学的異方性を示す熱可塑性樹脂であり、具体的には、全芳香族系もしくは半芳香族系のポリエステル、ポリエステルイミド、ポリエステルアミド、あるいはこれらを含有する樹脂組成物があげられ、なかでも(A)液晶ポリエステルを連続相とし(B)液晶ポリエステルと反応性を有する官能基を有する共重合体を分散相とする液晶ポリエステル樹脂組成物が好ましい。
【0033】
電気絶縁プラスチック層7は、上部電気絶縁薄膜層4および下部電気絶縁薄膜層5と同様に加熱によって溶融接着する性質を有し、かつ、上部電気絶縁薄膜層4および下部電気絶縁薄膜層5と金属層6とを加熱により接着させるときに加えられる熱によっては変形しないまたは変形しにくい性質を有する必要があり、このような材料としては、電気絶縁薄膜層4を液晶ポリマーで形成したときは、液晶ポリマーあるいは極性有機溶媒可溶性ポリアミドイミド樹脂とフッ素系樹脂とを含有するプラスチック組成物をあげることができる。
【0034】
極性有機溶媒可溶性ポリアミドイミド樹脂単独で形成した被膜の誘電率は3.5以上、誘電正接は0.012以上(誘電率、誘電正接はいずれも空洞共振器摂動により周波数1GHzで測定)であるが、極性有機溶媒可溶性ポリアミドイミド樹脂とフッ素系樹脂とを含有するプラスチック組成物で形成した被膜(電気絶縁プラスチック層7)は、誘電率が3.20以下、誘電正接が0.01以下(誘電率、誘電正接はいずれも空洞共振器摂動により周波数1GHzで測定)となり、電気特性が著しく向上する。
【0035】
フッ素系樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体及びテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体等から選ばれた1種又は2種以上が使用される。
【0036】
次に、本実施例の信号伝送用フラットケーブルの製造方法を
図2に基づいて説明する。電気絶縁基体3の上面に折り曲げ部9a、9bを考慮して電気絶縁基体3より幅広の幅寸法を有する銅箔Cを積層した銅張積層板を用意し(
図2(a))、銅箔Cをエッチングすることにより信号導体1a、1bおよび接地導体2a、2b、2cを形成する(
図2(b))。このとき、中央の接地導体2aの中心が電気絶縁基体3の中心3aと一致するように、また接地導体2aと2b間の幅と接地導体2a、2c間の幅が同じ値W1となり、接地導体2a、2b間の中央に信号導体1aの中心が位置し、接地導体2a、2c間の中央に信号導体1bの中心が位置するように、エッチングする。
【0037】
次に、信号導体1a、1bおよび接地導体2a、2b、2cの上部に上部電気絶縁薄膜層4を積層すると共に、電気絶縁基体3の下部に下部電気絶縁薄膜層5を設け(
図2(c))、電気絶縁基体3のケーブル幅方向の両端部を接地導体2b、2cのケーブル幅方向端部と一体に折り曲げることにより折り曲げ部9a、9bを形成する(
図2(d))。
【0038】
続いて、
図2(e)に示すように、上部電気絶縁薄膜層4および下部電気絶縁薄膜層5の外周に保護遮蔽層8を被覆形成し、保護遮蔽層8の上下方向から加熱加圧(ホットプレス)を施すことにより、上部電気絶縁薄膜層4および下部電気絶縁薄膜層5が軟化溶融されて金属層6と接着されて、
図1に示すような信号伝送用フラットケーブル100が作製される。
【0039】
本実施例の信号伝送用フラットケーブルは、電気絶縁基体3が金属薄膜である信号導体1a、1bおよび接地導体2a、2b、2cを補強する役目を担っており、電気絶縁基体3と銅箔Cとを積層した銅張積層板の使用は、接地導体2b、2cの取り扱い性を大幅に改善しており、これによって、折り曲げ部9a、9bの形成が容易化される。
【0040】
前記実施例では、電気絶縁基体3のケーブル幅方向の両端部を接地導体2b、2cのケーブル幅方向端部と一体に下部電気絶縁薄膜層5側に折り曲げることにより折り曲げ部9a、9bを形成しているが、上部電気絶縁薄膜層4側に折り曲げることにより折り曲げ部を形成してもよい。この場合、信号導体1a、1bおよび接地導体2a、2b、2cを電気絶縁基体3の上方に設けることにより、折り曲げによって接地導体2b、2cと金属層6とが接触するようにし、かつ、上部電気絶縁薄膜4の厚さが電気絶縁基体3の厚さと下部電気絶縁薄膜5の厚さとを加えた厚さと等しくなるようにして、信号導体1a、1bおよび接地導体2a、2b、2cの上下の絶縁体の厚さを等しくするように構成することが好ましい。
【0041】
本実施例のように、信号伝送用フラットケーブルを多芯同軸ケーブルとした場合、信号導体と接地導体間に多数の空隙が形成され、そこにエアが存在すると、誘電率が大きくなる。従って、
図3(a)に示したように、信号導体1aと接地導体2a、2b間の空隙位置並びに信号導体1bと接地導体2a、2c間の空隙位置に対応する電気絶縁基体3の位置にエア抜き孔3bを形成する。そして、
図3(b)に示したように、上部電気絶縁薄膜層4をプレスにより信号導体1a、1b並びに接地導体2a、2b、2cに圧着させ、各空隙を密封した後、エア抜きを行う。エア抜きは、図示してないが、各空隙のエアがエア抜き孔3bから抜かれるような装置を用いて行うようにする。エア抜きが行われた段階で下部電気絶縁薄膜層5を下部からプレスして電気絶縁基体3に密着させ、各空隙からエア抜きされた状態を保持させる。その後は、
図2(d)、(e)と同様な工程が行われ、エア抜きされた多芯同軸ケーブルが作製される。
【0042】
なお、上述した実施例では、信号導体は2本、接地導体は3本設けられているが、それ以上の複数の信号導体、接地導体を設けるようにしてもよい。その場合、接地導体は信号導体の数+1設けられるが、いずれの本数でも、信号導体、接地導体は電気絶縁基体3の中心線3aを中心に線対称となるように配列し、隣接する接地導体間の距離はいずれも同じで(
図2(b)ではW1)、該接地導体間の中央にその間の信号導体の中心が位置するように配列する。また、ケーブルの幅方向の両端縁部には、それぞれ接地導体が位置するように配列する。信号導体が偶数個の場合には、電気絶縁基体3の中心3aの位置には接地導体が位置し、奇数個の場合には中心3aの位置には信号導体が位置する。