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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-61076(P2015-61076A)
(43)【公開日】2015年3月30日
(54)【発明の名称】冷却装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/34 20060101AFI20150303BHJP
【FI】
   H01L23/34 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-188882(P2014-188882)
(22)【出願日】2014年9月17日
(31)【優先権主張番号】1358934
(32)【優先日】2013年9月17日
(33)【優先権主張国】FR
(71)【出願人】
【識別番号】507362786
【氏名又は名称】コミサリア ア エナジー アトミック エ オックス エナジーズ オルタネティヴ
(71)【出願人】
【識別番号】506327715
【氏名又は名称】エス テ マイクロエレクトロニクス エス アー
(71)【出願人】
【識別番号】506172311
【氏名又は名称】エス テ マイクロエレクトロニクス クロル 2 エス アー エス
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】モンフレイ ステファン
(72)【発明者】
【氏名】ロスティス サンドリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】メートル クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】コクシャギナ オルガ
(72)【発明者】
【氏名】コロネル フィリップ
【テーマコード(参考)】
5F136
【Fターム(参考)】
5F136CB07
5F136CB11
5F136CB27
5F136CC12
5F136FA01
5F136FA02
5F136FA03
5F136FA04
5F136FA13
5F136FA16
5F136FA51
(57)【要約】
【課題】局所的に冷却能力を向上させることができる冷却装置を提供する。
【解決手段】集積回路チップを冷却する冷却装置は、第1基板201と、熱膨張率の異なる物質からなる層205及び207の積層体を介して、前記第1基板201に積層された第2基板203と、前記第1基板201に形成された複数の溝209が互いに接続されてなる第1ネットワーク、及び前記第2基板203に形成された複数の溝211が互いに接続されてなる第2ネットワークを有するマイクロパイプネットワークと、2層構造の弁体221を有するバルブ218とを備え、前記マイクロパイプネットワークの一部は、前記バルブ218を介して接続先に接続されている。
【選択図】図2D
【特許請求の範囲】
【請求項1】
集積回路チップを冷却する冷却装置において、
第1基板と、
熱膨張率の異なる物質からなる2層の積層体を介して、前記第1基板に積層された第2基板と、
前記第1基板に形成された複数の溝が互いに接続されてなる第1ネットワーク、及び前記第2基板に形成された複数の溝が互いに接続されてなる第2ネットワークを有するマイクロパイプネットワークと、
2層構造の弁体を有するバルブと
を備え、
前記マイクロパイプネットワークの一部は、前記バルブを介して接続先に接続されていること
を特徴とする冷却装置。
【請求項2】
前記弁体は、前記バルブの温度変化により変形するように構成されていること
を特徴とする請求項1に記載の冷却装置。
【請求項3】
前記バルブは、弁体の変形に応じて大きさを変える開口を有しており、
前記弁体は更に、前記バルブの温度が所定の閾値まで上昇した場合、第1形状から、前記開口の大きさが前記第1形状のときよりも大きい第2形状へと変形するように構成されていること
を特徴とする請求項1又は2に記載の冷却装置。
【請求項4】
前記弁体は更に、前記バルブの温度が前記閾値よりも小さい第2閾値以下に降下した場合、前記第2形状から前記第1形状に変形するように構成されていること
を特徴とする請求項3に記載の冷却装置。
【請求項5】
前記弁体における前記第1形状から前記第2形状への変形は不可逆であること
を特徴とする請求項3に記載の冷却装置。
【請求項6】
前記弁体は、前記積層体からなること
を特徴とする請求項1から5までの何れか一つに記載の冷却装置。
【請求項7】
前記積層体における各層は、チタン窒化物、チタン、アルミニウム、銅、鉄、金、タングステン、白金、鉄−ニッケル系合金、シリコン酸化物、又は各物質の何れかからなる合金の群から選択されること
を特徴とする請求項6に記載の冷却装置。
【請求項8】
前記弁体は、部分円板形状をなすこと
を特徴とする請求項1から7までの何れか一つに記載の冷却装置。
【請求項9】
前記マイクロパイプネットワークは、前記第2基板を貫通し、前記第1ネットワーク及び第2ネットワークを接続する複数の孔を有していること
を特徴とする請求項1から8までの何れか一つに記載の冷却装置。
【請求項10】
前記複数の孔の一部は、前記第1ネットワーク及び第2ネットワークを直接接続するようにしてあること
を特徴とする請求項9に記載の冷却装置。
【請求項11】
前記複数の孔の一部は、前記バルブを介して前記第1ネットワーク及び第2ネットワークを接続していること
を特徴とする請求項9に記載の冷却装置。
【請求項12】
前記複数の孔は、フレア状をなしていること
を特徴とする請求項9から11までの何れか一つに記載の冷却装置。
【請求項13】
前記弁体は、双安定性を有すること
を特徴とする請求項1から12までの何れか一つに記載の冷却装置。
【請求項14】
前記弁体は、漸次的に変形するように構成されていること
を特徴とする請求項1から12までの何れか一つに記載の冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集積回路チップを冷却する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、ポンプによって液体が循環するマイクロパイプのネットワークを備える冷却装置が開示されている。
【0003】
非特許文献2には、この種の他の装置が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】ナバス カーン(Navas Khan)等著、「電気及び流体の相互接続のためのSi貫通電極(TSV)を用いた3次元実装(3-D Packaging With Through-Silicon Via (TSV) for Electrical and Fluidic Interconnections)」、イーシーティーシー2009(ECTC 2009)、2009年、p.1153−1158
【非特許文献2】ビン シー(Bing Shi)等著、「マイクロ流体冷却及びサーマルTSVを用いたハイブリッド3次元IC冷却システム(Hybrid 3-D IC Cooling System Using Micro-Fluidic Cooling and Thermal TSVs)」、アイトリプルイー コンピュータソサエティ アニュアルシンポジウム オン ブイエルエスアイ(IEEE Computer Society Annual Symposium on VLSI)、2012年、p.33−38
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また一方、様々な集積回路チップ、特には動作中に発した熱を放散する量が場所によって異なる集積回路チップを効率的に冷却可能であり、かつシンプルで小型で構成が容易な装置が必要とされている。
【0006】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、局所的に冷却能力を向上させることができる冷却装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願にあっては、集積回路チップを冷却する冷却装置は、マイクロパイプネットワークと、2層構造の弁体を有するバルブとを備える。マイクロパイプネットワークの一部は、バルブを介して接続先に接続されている。
【0008】
本願にあっては、弁体はバルブの温度変化により変形するように構成されている。
【0009】
本願にあっては、バルブは、弁体の変形に応じて大きさを変える開口を有している。弁体は更に、バルブの温度が所定の閾値まで上昇した場合、第1形状から開口の大きさが第1形状のときよりも大きい第2形状へと変形するように構成されている。
【0010】
本願にあっては、弁体は更に、バルブの温度が当該閾値よりも小さい第2閾値以下に降下した場合、第2形状から第1形状に変形するように構成されている。
【0011】
本願にあっては、弁体における第1形状から第2形状への変形は不可逆である。
【0012】
本願にあっては、弁体は熱膨張率の異なる物質からなる2層の積層体からなる。
【0013】
本願にあっては、当該積層体における各層は、チタン窒化物、チタン、アルミニウム、銅、鉄、金、タングステン、白金、鉄−ニッケル系合金、シリコン酸化物、又は各物質の何れかからなる合金の群から選択される。
【0014】
本願にあっては、弁体は部分円板形状をなしている。
【0015】
本願にあっては、第1基板と、熱膨張率の異なる物質からなる2層の積層体を介して、当該第1基板に積層された第2基板とを備える。また、マイクロパイプネットワークは、第1基板に形成された複数の溝が互いに接続されてなる第1ネットワーク、及び前記第2基板に形成された複数の溝が互いに接続されてなる第2ネットワークを有する。
【0016】
本願にあっては、第2基板を貫通し、第1ネットワーク及び第2ネットワークを接続する複数の孔を有している。
【0017】
本願にあっては、複数の孔の一部は、第1ネットワーク及び第2ネットワークを直接接続している。
【0018】
本願にあっては、複数の孔の一部は、バルブを介して第1ネットワーク及び第2ネットワークを接続している。
【0019】
本願にあっては、複数の孔はフレア状をなしている。
【0020】
本願にあっては、弁体は双安定性を有する。
【0021】
本願にあっては、弁体は漸次的に変形するように構成されている。
【0022】
上述の内容と、他の特徴及び効果とは、添付図面を参照して本発明を限定するものではない以下の特定の実施形態内にて詳細に説明する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、局所的に冷却能力を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1A】冷却装置の一例を示す断面図である。
図1B】冷却装置の一例を示す断面図である。
図2A】本実施形態における冷却装置を示す断面図である。
図2B】本実施形態における冷却装置を示す断面図である。
図2C】本実施形態における冷却装置を示す断面図である。
図2D】本実施形態における冷却装置を示す断面図である。
図3A】本実施形態における冷却装置の弁体の詳細を示す図である。
図3B】本実施形態における冷却装置の弁体の詳細を示す図である。
図4】他の実施形態における冷却装置を示す断面図である。
図5A】本実施形態における冷却装置の製造方法を示す断面図である。
図5B】本実施形態における冷却装置の製造方法を示す断面図である。
図5C】本実施形態における冷却装置の製造方法を示す断面図である。
図5D】本実施形態における冷却装置の製造方法を示す断面図である。
図5E】本実施形態における冷却装置の製造方法を示す断面図である。
図5F】本実施形態における冷却装置の製造方法を示す断面図である。
図5G】本実施形態における冷却装置の製造方法を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
明瞭化のために、添付の図面においては、同様の要素には同様の参照番号を付す。また、添付の図面においては、縮尺は正確なものではない。また、以下の記載において、「略」の語は、「10%以内に」を意味する。更に、頂部、上方、上部、下方、垂直、水平、横等の方向に関する語は、対応する図面中の横断面図に示されるように配された装置に対して適用される。即ち、使用されるときには、装置は異なる方向を有し得ることを理解されたい。
【0026】
図1A及び1Bは、集積回路チップICを冷却するための冷却装置100の一例を示す断面図である。図1Aは、図1Bの1A−1A線から見た冷却装置100及び集積回路チップICの横断面図である。図1Bは、図1Aの1B−1B線から見た冷却装置100の平面断面図である。
【0027】
冷却装置100は、例えばシリコン、シリコン酸化物、アルミニウム窒化物からなる基板101を備える。基板101は、例えば、数マイクロメートルから数ミリメートルの厚さを有する。基板101は、下面側において、複数の溝103が相互に接続されたネットワークを有する。複数の溝103は、基板101の表面において規則的に分布している。また、溝103は基板101の厚さよりも小寸の深さで、当該基板101中に延設されている。一例として、溝103は、1〜500μmの深さを有しており、1〜100mm以上の延設長さを有している。また、冷却装置100は、基板101の下面側において、蓋105を備える。蓋105は例えば、平板状をなして基板101の下面に設けられ、基板101の下面側の溝103を密閉する。蓋105は例えば、シリコン、金属(例えば銅)、ガラス、又はプラスチック(例えばPMMA(poly methyl methacrylate))等からなる。蓋105の厚さは、数マイクロメートルから数ミリメートルの範囲内であってもよい。溝103及び蓋105夫々の壁は、冷却液が流れることができるマイクロパイプが相互に接続されたマイクロパイプネットワークを規定する。この例において、冷却装置100のマイクロパイプネットワークは、冷却液が内部に流入することができる流入口INと、冷却液が外部に流出することができる流出口OUTとを備える。冷却装置100は、マイクロパイプネットワークの流入口INから流出口OUTまでの冷却液の流れを循環するために図示しないポンプを備えてもよい。以上の例において、蓋105の下面に配された集積回路チップIC(図1A参照)は冷却される。
【0028】
この例において、冷却装置100によって取り除くことができる集積回路チップICの発熱量は、冷却される面の全ての位置について略同じである。しかしながら、実際には、集積回路チップには、動作中における発した熱を放散する量が異なる2つの領域が存在し得る。この場合においては、冷却装置100によって提供される冷却は適切でない。実際に、集積回路チップの最も高温となる領域を十分に冷却するように冷却装置100が製造された場合、当該集積回路チップの最も低温となる領域が必要以上に冷却される。このことは特に、装置内で冷却液を循環するポンプの不必要な電力消費をもたらす。
【0029】
発した熱を放散する量が異なる複数の領域を備える集積回路チップの冷却の効率を向上するために、冷却面に対向するマイクロパイプの分布を修正することもできる。集積回路チップの最も低温となる領域に対向するマイクロパイプの密度よりも、当該集積回路チップの最も高温となる領域に対向するマイクロパイプの密度を高くすることが例として挙げられる。
【0030】
しかしながら、そのような解決策は冷却装置を設計する段階で、集積回路チップの熱挙動が判明している必要があり、特には高温となる位置が事前に判明している必要がある。その場合、冷却装置は特定のタイプの集積回路チップに特有のものとなり、経済的でない。また、いくつかのタイプの集積回路チップでは、動作中に高温となる位置が変わる場合がある。その場合、このような冷却装置は冷却の効率が低下する。
【0031】
図2A図2Dは、本実施形態における集積回路チップICを冷却する冷却装置200を示す断面図である。図2Aは、図2B、2C、及び2Dの2A−2A線から見た冷却装置200及び集積回路チップICの横断面図である。図2Bは、図2A及び2Dの2B−2B線から見た冷却装置200の平面断面図である。図2Cは、図2A及び2Dの2C−2C線から見た冷却装置200の平面断面図である。図2Dは、図2A、2B、及び2Cの2D−2D線から見た冷却装置200及び集積回路チップICの横断面図である。
【0032】
本実施形態において、冷却装置200は、積層された2つの基板201及び203を備える。基板201及び203は、例えば熱膨張率の異なる金属等の異なる材料で形成された2つの層205及び207の積層体により隔てられている。層205及び207夫々の材料は例えば、チタン窒化物、チタン、アルミニウム、銅、鉄、金、タングステン、白金、鉄−ニッケル系合金、シリコン酸化物、又はこれらの金属の何れかの合金から選択される。2つの層205及び207夫々は、例えば0.1〜10μmの厚さを有している。基板201及び203は、特定の例に限定されないが、例えばシリコン又はシリコン酸化物からなる。更に一般的には、基板201及び203は、溝を形成可能な任意の半導体、導電体又は絶縁体からなる。本実施形態においては、基板203が基板201に載置されている例が示されている。
【0033】
基板201は、複数の溝209が互いに接続されたネットワークを備える。複数の溝209は、基板201における層205及び207の対向面側、即ち図2A及び2D中の上面側に形成されており、例えば基板表面において規則的に分布している。また、溝209は基板201の厚さよりも小寸の深さで、当該基板201中に延設されている。
【0034】
基板203は、複数の溝211が互いに接続されたネットワークを備える。複数の溝211は、基板203における層205及び207の対向面とは反対側、即ち図2A及び2D中の上面側に形成されており、例えば基板表面において規則的に分布している。また、溝211は基板203の厚さよりも小寸の深さで、当該基板203中に延設されている。
【0035】
溝209及び211は、例えば溝209のネットワークの少なくとも一部が、溝211のネットワークの一部と対向するように配される。即ち、溝209のネットワークの一部は、溝211のネットワークの一部を図2A及び2D中の方向において垂直投影するように配されている。本実施形態においては、基板201に形成された全ての溝209が、基板203に形成された溝211に対向するように設けられているが、この特定の例には限定されない。
【0036】
冷却装置200において、溝211の底から基板203の下部を貫通するように孔が設けられ、溝209の手前における基板203の層205及び207側が出現している。これらの孔の一部は、図2C及び2Dにおいて213の参照番号が付されている。孔213は、層205及び207の積層体を貫通し、溝209のネットワークに連通する。これらの孔の他部は、図2C及び2Dにおいて215の参照番号が付されている。孔215は、層205及び207の積層体が延設端に出現しているが、貫通していない。孔213及び215は、例えば基板203において略垂直に延びている。
【0037】
各孔215の底では、層205及び207の積層体の一部が、当該孔215の先にあり、当該積層体における一部は参照番号217が付されている。積層体の一部217は、少なくとも一つの開口219を備える。開口219は、比較的幅が狭いスロットであり、例えば20nm〜1μmの幅であり、積層体の一部217において少なくとも一つのバイメタル等からなる2層構造の弁体211を定める。本実施形態において、各弁体221は、周囲温度において初期には略平らであり、その詳細は図3A及び3Bを参照して後述する。また、各弁体221は、層205及び207間での熱膨張率が異なるため、周囲温度よりも高い閾値T1を超える場合には湾曲による変形が可能となる。
【0038】
冷却装置200は更に、基板203における層205及び207の対向面と反対側、即ち図2A及び2D中の上面側に蓋223を備える。蓋223は例えば、平板状をなして基板203の上面に設けられ、基板203の上面側の溝211を密閉する。蓋223は例えば、シリコン、ガラス、金属、プラスチック、又は溝211を密閉可能な他の任意の絶縁体、半導体、若しくは導電体等からなる基板であってもよい。一例として、蓋223の材料は、ポリエチレン、PVC(polyvinyl chloride)等のポリマーからなる。
【0039】
溝209及び211の壁、孔213及び215の壁、並びに蓋223の壁は、液体又は気体の状態の冷却流体を搬送することが可能なマイクロパイプが互いに接続されたマイクロパイプネットワークを規定する。冷却流体は例えば、水、イソプロピルアルコール等のアルコール、ガリウム等の液体金属、スリーエムカンパニー(3M company)から「Novec 7500 Engineered Fluid」の商品名で市販されているような特定の液体である。更に、冷却流体は想定される他のものであってもよい。例えば、冷却流体は、混和性を有する又は有さない複数の液体の混合物であってもよく、液体、気体、及び/又は固体(ゲルであってもよい)の相間で平衡な流体であってもよい。また、冷却流体は、相が変化することによって熱を放出することができるもの(例えばヒートパイプ型)であってもよい。一例として、マイクロパイプネットワークの構成物は、横断面において1〜1000μmの寸法を有している。従って、冷却装置200において、孔213及び215は例えば、直径が1〜1000μmの略円形の断面を有する円筒形状の孔である。また、溝209及び211は例えば、辺長が1〜1000μmの略正方形又は矩形の断面を有する。
【0040】
本実施形態において、冷却装置200のマイクロパイプネットワークは、冷却流体が内部に流入することができる流入口INと、冷却流体が外部に流出することができる流出口OUTとを備える。冷却装置200は、マイクロパイプネットワークの流入口INから流出口OUTまでの冷却流体の流れを循環するために図示しないポンプを備えてもよい。以上の例において、基板201の下面に配された集積回路チップIC(図2A及び2D参照)は冷却される。
【0041】
冷却装置200において、孔215の延設端に位置する層205及び207の積層体の一部217夫々は、マイクロパイプネットワークにおける2つのマイクロパイプを接続するバルブ218を各規定する。各バルブ218の開口219は、自身が備える一又は複数の弁体221の形状に依存する。各バルブ218は、少なくとも2つの状態を有し得る。第1の状態は、バルブ218の一又は複数の弁体221が開口219を略完全に閉じている形状をなし、2つのマイクロパイプ間において当該バルブ218を介して流れる冷却流体が存在しないか、無視できる量だけ流れる状態である。本明細書では、第1の状態を閉状態とも称する。第2の状態は、バルブ218の一又は複数の弁体221が、当該バルブ218を通って無視できない量の冷却流体を流れさせることができる開口219の大きさを有するような形状となっている状態であり、本明細書では第2の状態を開状態とも称する。バルブ218は、冷却装置200のマイクロパイプネットワークにおいて規則的に分布していてもよい。
【0042】
図3A及び3Bは、本実施形態における図2A〜2Dにおける冷却装置200のバルブ218の詳細を示す図である。特には、図3A及び3Bは、図2Dにおいて破線で示される冷却装置200におけるF3部分の拡大図であり、バルブ218が含まれる。図3Aは、閉状態のバルブ218の平面図である。図3Bは、図3Aの3B−3B線から見た断面図であり、横断面図である。図3B上部には閉状態のバルブ218が示され、図3B下部には開状態のバルブ218が示されている。
【0043】
図3A及び図3B上部に示されるように、本実施形態におけるバルブ218は4つの弁体221を備え、閉状態の場合には各弁体221が略平坦である。各弁体221は、断面が略四半円となるような部分円板形状をなし、孔215の底に配された層205及び207の積層体の一部217に形成されている。即ち、当該積層体の一部217はバルブ218を含んでいる。4つの弁体221は、積層体の一部217の中心と略同じ中心を有する十字状のスロットとして開口219が形成されることにより、当該積層体の一部217内に設けられている。
【0044】
層205及び207の材料間では熱膨張率が異なることに起因して、加熱の影響下での弁体221は、図3B下部に示されるように湾曲形状となることができる。そのため、弁体221は、閉状態のときの開口219よりも大きい開口219を規定する。その結果、バルブ218は開状態となる。本実施形態においては、バルブ218が開状態のとき、自由端を有する湾曲形状をなしている。即ち、バルブ218の中央に向かって延びる弁体221の先端は、弁体221が固定されている位置よりも上方にあり、弁体221において断面の弧に相当する部分は、層205及び207に連なっている。その結果、各弁体221の自由端は、閉状態のときよりもバルブ218の中央から離れる。換言すると、本実施形態において、バルブ218が閉状態から開状態に変化した場合、弁体221は花弁が開いたようになる。
【0045】
冷却装置200は、以下のように動作する。
【0046】
冷却対象の集積回路チップICに電源が投入されておらず、発熱がない又はごく少量の初期状態において、冷却装置200の全てのバルブ218は例えば、全て閉状態である。冷却流体は、マイクロパイプネットワークの流入口IN及び流出口OUT間を、溝209及び211と孔213を通って流れてもよい。一方、冷却流体はバルブ218を通らないか、通るとしてもごく少量だけである。従って、冷却流体は、孔215によって規定されるマイクロパイプを流れないか、流れるとしてもごく少量だけである。
【0047】
集積回路チップICが動作するとき、当該集積回路チップICは熱を発し、発した熱は冷却流体によって部分的に排出される。集積回路チップICが発した熱は、冷却装置200のバルブ218を加熱する。集積回路チップICの特定の領域が他の領域に比べて発熱量が多い場合もある。従って、各バルブ218は異なる温度となり得る。
【0048】
バルブ218の温度が閾値T1に到達した場合、当該バルブ218は、開状態に切り替わる。冷却流体は、当該バルブ218の上側に位置する孔215によって規定されるマイクロパイプ内を流れることができる。その結果、集積回路チップICによって熱せられた冷却流体を、対応する領域にあるマイクロパイプネットワークによって、より多く排出することができる。換言すると、バルブ218の開口219は、開状態のバルブ218の領域に関して局所的に冷却装置200の冷却能力を向上させる。
【0049】
集積回路チップICは、発した熱を放散する量が場所によって異なる場合、通常の動作で定常状態のときに高温となる領域と低温となる領域とがある。このとき、バルブ218を開くための閾値T1は例えば、集積回路チップICが高温となる領域の上方に配されたバルブ218が開状態であり、当該領域よりも低温となる領域の上方に配されたバルブ218が閉状態であるような温度である。一例として、閾値T1は、70〜90℃の範囲内の温度となり得る。
【0050】
本実施形態における第1の実施例としては、弁体221の変形は可逆である。即ち、開状態のバルブ218の温度が閾値T1よりも小さい閾値T2まで降下した場合、当該バルブ218が閉状態となる。この第1の実施例は、動作中の集積回路チップICにおいて高温となる位置が移動するような場合に好適である。実際に、このような場合には、冷却装置200は、集積回路チップICが高温となる領域の移動に従い、異なる領域における局所的な冷却能力を自動的に調節することができる。閾値T2は例えば、30〜70℃の範囲内の温度である。この第1の実施例では、層205及び207の組は、例えば、チタン及び金、アルミニウム及びシリコン酸化物、チタン及びアルミニウム、タングステン及びアルミニウム、又はタングステン及び金の各組における何れかからなる。
【0051】
本実施形態における第2の実施例としては、弁体221の変形は不可逆である。即ち、バルブ218は、一度でも開状態となった場合には、当該バルブ218の温度が降下したときであっても閉状態とはならない。この第2の実施例は、動作中の集積回路チップICにおいて高温となる位置が移動しない場合に好適である。この第2の実施例では、冷却装置200のマイクロパイプネットワークは、集積回路チップICが最初に動作するときに自動的に設定されるが、その後の当該集積回路チップICにおける動作の停止/再開の各時点で再設定されない。冷却装置200の各弁体221が高々1回作動するだけであり、機械的摩耗のリスクを抑制することができるという利点がある。この第2の実施例では、層205及び207の組は、例えば、チタン及び銅、タングステン及び銅、又はシリコン酸化物及び銅の各組における何れかからなる。
【0052】
2層構造の弁体221は双安定性を有していてもよい。即ち、弁体221は、閾値T1まで加熱された場合に閉状態から開状態へと迅速に切り替わるものであってもよい。また、上記第1の実施例においては、弁体221は、閾値T2まで冷却された場合に開状態から閉状態に迅速に切り替わるものであってもよい。
【0053】
変形例としては、弁体221の変形は漸次的であってもよい。この場合には、各バルブ218は、弁体221の温度によって、閉状態と開状態との間に複数の中間状態が設けられていてもよい。
【0054】
図4は、他の実施形態における冷却装置400の横断面図であり、図2Dに対応している。
【0055】
図4に示される冷却装置400は、図2A〜2Dに示される冷却装置200と多くの部分で共通している。以下では、冷却装置400と冷却装置200との間で異なる部分についてのみを主として説明する。
【0056】
冷却装置200は、全長に亘り、軸長方向に沿って略直線に延びる孔213及び215を備えていたが、冷却装置400は、これらと形状が異なる孔413及び415を備えていることが、当該冷却装置200及び400間の主な違いである。図4に示されるように、孔413は層205及び207の積層体を貫通することで、当該積層体が介されずに溝211を溝209に直接接続している。バルブ218は、溝211を溝209に接続する孔415の底に配されている。
【0057】
他の実施形態において孔413及び415は、軸長方向の一側に向かって、冷却流体の流れを促進することができる形状を有している。他の実施形態においては図4に示されるように、孔413及び415は、フレア状をなしており、例えば円形断面を有するテーパ状をなしている。他の実施形態において、冷却装置400の流入口IN及び流出口OUTは、マイクロパイプネットワークの下部に配されている。即ち、溝209と同程度の位置に配されている。冷却装置400は、流入口IN近傍に、一又は複数のフレア状の孔413を備える。当該孔413は、溝209側から溝211側に向かって先細になっている。当該孔413は、流入口IN近傍の溝209から溝211へ冷却流体が流れることを促進する。また、他の実施形態における冷却装置400は、流出口OUT近傍にも一又は複数の孔413を備え、当該孔413は、溝211側から溝209側に向かって先細になっている。当該孔413は、溝211から流出口OUT近傍の溝209へ冷却流体が流れることを促進する。このようなフレア状の孔413が設けられることにより、マイクロパイプネットワーク全体に冷却流体を流通させ易くし、流入口INから流出口OUTまで冷却流体を流れ易くする。更に他の実施形態において、孔415は、溝209側から溝211側に向かって先細になっているフレア状をなしている。孔415は、対応するバルブ218が開状態である場合に、溝209から溝211への冷却流体の流れを促進する。変形例としては、冷却流体の望ましい流路次第で、孔415の一部または全部が溝211側から溝209側に向かって先細になっていてもよい。但し、孔413及び415の形状は、上述の形状に限定されないことを理解されたい。より一般的には、孔413及び415は、冷却流体の流れを促進することができる形状であれば、公知の形状であってもよい。更には、冷却流体が流れ易くなるような図示しない被膜がマイクロパイプネットワークの溝209若しくは211の壁面又は孔413若しくは415の周面に適宜被覆されてもよい。
【0058】
図5A〜5Gは、図2A〜2Dと図3A及び3Bとに関連して示された冷却装置200の製造工程の例を概略的に示す横断面図である。図5A、5B、5C、及び5Dには、図2Aと同様の側から見たときの横断面が示されている。図5E、5F、及び5Gには、図2Dと同様の側から見たときの横断面が示されている。
【0059】
図5Aは、溝209のネットワークを基板201の表面に形成する工程を示している。溝209は、例えばエッチング又は他の適した方法の何れかによって形成される。図示しないマスクは、エッチングされる基板201の領域を定めるために用いられる。
【0060】
図5Bは、基板203の表面上に層205及び207を積層する工程を示している。図5Bに示されるように、層207は基板203の表面を被覆する。層205は、層207における基板203と対向する面と反対側の面を被覆する。層207及び205は例えば、蒸着又は他の適した方法の何れかによって連続して形成される。
【0061】
図5Cは、基板201における溝209が形成されている側の面が、層205の外面と対向するように、基板203が基板201に載置される工程が示されている。
【0062】
図5Dは、基板203における層205及び207が積層された面と反対側の面に溝211のネットワークを形成する工程を示している。溝211は、例えばエッチング又は他の適した方法の何れかによって形成される。図示しないマスクは、エッチングされる基板203の領域を定めるために用いられる。
【0063】
図5Eは、複数の孔501を形成する工程を示している。複数の孔501は例えば、基板203の全面に規則的に分布し、溝211の底から延びて基板203の下部を貫通し層207を貫通することなく露出させる。孔501は、例えばエッチング又は他の適した方法の何れかによって形成される。図示しないマスクは、エッチングされる基板203の領域を定めるために用いられる。なお、図5Eは、図5Dの5E−5E線から見た横断面図である。
【0064】
図5Fは、孔501の一部の底に配された層205及び207の積層体を略完全に取り除いて貫通することにより、冷却装置200の孔213(図2C及び2D参照)を形成する工程を示している。また、図5Fは、孔501の他部の底に配された層205及び207に開口219を形成することで、バルブ218の2層構造の弁体221を形成する工程を示している。即ち、孔501の他部は、冷却装置200の孔215に対応している。孔213のために孔501の底を全開する工程と、孔215のために孔501の底に開口219を形成する工程とは、同時に又は連続して行われる。層205及び207の積層体の開口219は、例えばエッチングによって形成されてもよい。図示しないコンフォーマルマスク又は他のマスクは、エッチングによって取り除かれる層205及び207の領域を設定する。変形例として、層205及び207の開口219はマスクを用いずに形成されてもよく、例えばレーザエッチングにより形成されてもよい。
【0065】
図5Gは、基板203の上面に蓋223を載置する工程を示している。蓋223は、例えば、ベンゾシクロブテン(BCB)等を含有する接着剤等のポリマー接着剤によって、基板203の上面に貼り付けられる。
【0066】
なお、図5F及び5Gは、図5Dの5E−5E線から見た断面図である。
【0067】
上述のように本実施形態及び他の実施形態の冷却装置200及び400は、マイクロパイプネットワークが集積回路チップの熱挙動に従い自動的に設定される。そのため、本実施形態及び他の実施形態の冷却装置200及び400は、従来の冷却装置と比べ、各種の様々な集積回路チップに好適である。
【0068】
特定の実施形態について記載してきたが、種々の変更、修正、改良が当業者に容易に想起される。
【0069】
特には、記載された実施形態は、図3A及び3Bに関連して記載されたバルブ218の2層構造の弁体221における形状及び配置について、特定の例に限定されない。より一般的には、上述の弁体221の形状及び/又は配置が異なる弁体を用いることによって、本願の所望の動作を得ることは、当業者の能力の範囲内である。例えば、2層構造の弁体211は、矩形状であってもよいし、三角形状であってもよいし、中心角が45度よりも小さい又は大きい角度の部分円板形状であってもよい。更には、各バルブ218は、4つ以外の数の弁体211を備えていてもよい。
【0070】
また、マイクロパイプネットワークは、各実施形態において上述した配置に限定されない。記載された各実施形態は、他のマイクロパイプネットワークの配置にも好適である。マイクロパイプネットワークは2層構造の弁体211を有するバルブ218を備え、当該弁体211は、自身が開いたときに冷却装置200及び400の冷却能力を局所的に調節することができるため、例えば、当該マイクロパイプネットワークに含まれる溝の段数は問わない。当該溝の段数は、2段よりも多くてもよいし、少なくてもよい。また一例として、マイクロパイプネットワークは、複数の冷却流体の流入口を有していてもよいし、複数の冷却流体の流出口を有していてもよい。更には、上述した集積回路チップを冷却する原理に基づいて、集積回路チップの両側に冷却流体を搬送することができるマイクロパイプネットワークを備える冷却装置が提供されてもよい。
【0071】
また、変形例として、冷却する電子部品は、冷却装置200及び400と別体の集積回路チップに配されている必要はなく、冷却装置200及び400の基板201又は蓋223に形成されていてもよい。
【0072】
また、記載された各実施形態は、上述の寸法及び材料の例に限定されない。
【0073】
以上のような変更、修正、および改良も本願の開示の一部であり、本発明の技術思想の範囲内に属するものである。実施形態は1つの例に過ぎず、本発明を、実施形態の内容に限定する意図はない。本発明は、特許請求の範囲及びその均等の意味により示される。
【符号の説明】
【0074】
200,400 冷却装置
201,203 基板
205,207 層
209,211 溝
213,215,413,415 孔
218 バルブ
219 開口
221 弁体
IC 集積回路チップ
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図5G