【実施例】
【0046】
以下に実施例をあげて、本発明を詳細に説明する。本発明は、以下に例示する実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例で使用するODN1等の番号付けは、実施例以外で使用するODN1等の番号付けとは異なるものである。
【0047】
[
CNVK含有ODNの合成]
次の式V:
【0048】
【化7】
【0049】
で表されるヌクレオチド(
CNVK)を塩基配列中に有するODN(オリゴデオキシリボヌクレオチド)を製造するために、次のスキーム1(Scheme1)にしたがって合成を行った。合成は、特許文献1(国際公開公報WO2009/066447号)に開示された手順にしたがって行った。
【0050】
【化8】
【0051】
上記のように合成した光応答性人工核酸3−cyanovinylcarbazole nucleotideのアミダイト体をアセトニトリルで100 mMに調整し、DNA/RNAシンセサイザー(Applied Biosystems社製、ABI3400)にてODN(オリゴヌクレオチド)を合成した。合成したODN配列を以下の表1に示す。合成後、28%アンモニア水を用いて55℃で8時間脱保護を行った。その後、HPLCにて精製を行い、質量分析により目的配列であることを確認した。
【0052】
【表1】
【0053】
[
CNVKを組み込んだODNによる鎖交換反応の変性PAGE解析]
上記で製造したODN1、ODN2、ODN3を使用して、次のスキーム2(Scheme2)に示す鎖交換反応を行って、その進行を変性PAGE解析で確認した。この実施例で使用するODN1、ODN2、ODN3の番号付けは、本明細書の「課題を解決するための手段」や「発明を実施するための形態」におけるODN1、ODN2、ODN3にそれぞれ相当する。
【0054】
【化9】
Scheme 2
【0055】
13塩基長のODN1は、21塩基長のODN2の3’末端側と相補性ある配列を有しており、二重らせんを形成している。表1のODN2の
CNVKは、スキーム2のなかではXと記載した。二重らせんの中で、ODN2の
CNVK(X)に対しては、ODN1のAが位置している(スキーム2の上段の図参照)。21塩基長のODN3は、ODN2と相補性ある配列を有しており、上記のODN2の5’末端側の相補的配列に塩基対を形成して付着する。ODN2に付着したODN3は、ODN3−ODN2間の塩基対を適宜形成する。このODN3−ODN2間の塩基対は、熱力学的な原理にしたがって、ODN1−ODN2間の塩基対と、あたかも線ファスナーのように、可逆的に置換してゆく(スキーム2の中段の左側の図参照)。可逆的な置換が、Xの5’末端側に隣接する塩基(上記ODN2においてはT)と相補的な位置にある塩基に至ったときに、すなわちXの5’末端側に隣接する塩基と相補的な位置にODN3のTが配置されたときに、366nmの光照射を行うと、ODN2のXと、Xの5’末端側に隣接する塩基と相補的な位置にあるODN3のTとが、光連結される(スキーム2の中段の右側の図参照)。このようにXとTの光連結を介して、ODN2とODN3とが共有結合的に結合されると、この点において、ODN1−ODN2間の塩基対と、ODN3−ODN2間の塩基対との置換は、可逆的ではないものとなり、ODN1−ODN2間の塩基対が、ODN3−ODN2間の塩基対へ置換される反応が、速やかに進行して、結果としてODN1とODN2の二重らせんは、ODN3とODN2の二重らせんに鎖交換される(スキーム2の下段の図参照)。ただし、ODN2のXと連結したODN3のTの相補的な位置にはTがあり、ODN3とODN2の二重らせんは、1箇所だけミスマッチがある。
【0056】
このようなスキーム2の反応を、具体的には次のように行った。
500nM ODN1と500nM ODN2をバッファー(100mM NaCl,50mMカコジル酸ナトリウム)中で70℃で5分間加熱した後、37℃もしくは25℃で1時間以上放置し、アニーリングを行った。その後、ODN3を最終濃度が500nMとなるように加え、すぐUV−LED照射機を用い、366nmのUV照射を37℃もしくは25℃で行った。光照射時間は0,0.1,0.5,1,2,5,10,15秒(s)行った。それぞれのサンプルを変性PAGEによる解析を行い、光架橋を介した鎖交換反応の速度解析を行った。その結果を
図1に示す。
【0057】
図1は、光架橋を介した鎖交換反応の速度解析の変性PAGE解析結果を示す図である。この変性PAGE解析の結果より、鎖交換反応中に光照射を行うことにより、光照射後にクロスリンク体(上記のODN2とODN3のクロスリンク体)のバンドが出現していることが確認できた。鎖交換前は
CNVKのターゲット塩基の位置(すなわち、
CNVKの5’末端側に隣接する塩基と相補的な位置)にはアデニン(A)が来ており、光照射を行ってもクロスリンク体は出現しないが、鎖交換反応が起こると、ターゲット塩基の位置にチミン(T)が来るため、クロスリンク体が出現する。そのためクロスリンク体の出現により鎖交換反応の速度の解析を行うことが出来る。光照射時間によるクロスリンク体の割合変化を
図2にまとめた。
【0058】
図2は、光照射時間によるクロスリンク体の変化を示すグラフである。全てのODNがクロスリンク体(上記のODN2とODN3のクロスリンク体)となった場合を、100%とした。
CNVKを組み込み、光照射を行うことによって、5秒間で約70%以上(25℃)及び75%以上(37℃)の鎖交換反応が進行していた。また、0.5秒間の光照射によっても、55%から65%以上(25℃)、60%から72%以上(37℃)の鎖交換反応が進行していた。25℃よりも37℃のほうが鎖交換反応の進行は早い傾向にあったが、25℃であっても極めて迅速に鎖交換反応が進行していた。
【0059】
[
CNVKを組み込んでいないODNによる鎖交換反応の蛍光解析]
次の表2に示すODN4、ODN5、ODN6を使用して、実験を行った。これらのODNを使用して、次のスキーム3(Scheme3)に示す鎖交換反応を行った。
【0060】
【表2】
【0061】
【化10】
Scheme 3
【0062】
13塩基長のODN4は、5’末端に蛍光色素分子(Cy3)(F)を有しており、21塩基長のODN5は、3’末端に蛍光消光分子(Dabcyl)(Q)を有している。ODN5は、上記のODN2においてXであった位置にTが位置しており、ODN4との配列の相補性は、完全である。これらが二重らせんを形成することによって、蛍光色素分子部位と、蛍光消光分子部位とが近接している場合には、蛍光は観察されない(Scheme3の上段の図参照)。21塩基長のODN3は、ODN5と相補性の塩基配列を有しており、蛍光色素分子及び蛍光消光分子のいずれも有していない。Scheme 2と同様に、ODN3がODN5に付着して(Scheme3の中段の左側の図参照)、熱力学的な原理によって、ODN4−ODN5の塩基対が、ODN3−ODN5の塩基対によって、可逆的に置換されていく(Scheme3の中段の右側の図参照)。この置換が完全に進行すると、ODN3とODN5との二重らせんが形成されて、ODN4が離脱し、蛍光色素分子部位は、蛍光消光分子部位から隔離されて、蛍光発光可能となる(Scheme3の下段の図参照)。ただし、ODN3とODN5の二重らせんは、1箇所だけ、TとTが相補的な位置に置かれており、ミスマッチがある。
【0063】
このスキーム3にしたがった実験を、具体的には次のように行った。
500nM ODN4と500nM ODN5をバッファー(100mM NaCl,50mMカコジル酸ナトリウム)中で70℃で5分間加熱した後、37℃もしくは25℃で1時間以上放置し、アニーリングを行った。その後、ODN3を最終濃度が500nMとなるように加え、蛍光分光光度計を用い、Cy3の蛍光強度の変化を測定した。その結果を
図3に示す。
【0064】
図3は、蛍光測定による鎖交換反応の速度解析の結果を示すグラフである。全てのODNがODN3とODN5の二重らせんとなった場合を、鎖交換率100%とした。
図3の左図は0秒から300秒までの変化を示したグラフであり、このうち0秒から120秒までの変化を拡大して右図のグラフとして示した。
CNVKを用いていないスキーム3の鎖交換反応では、ODN3投入の後に鎖交換反応が70%超に進行するには、約300秒を要した。
【0065】
[光架橋による、鎖交換反応の加速の検討]
光架橋の有無による鎖交換反応の比較を
図4にまとめた。
図4は、光架橋の有無による鎖交換反応のグラフを対比した図である。ここからわかるように、光架橋した場合は、光架橋しない場合と比較して、5秒間で70%以上の鎖交換反応が進行しており、25℃と37℃のいずれの温度であっても、鎖交換反応の進行の圧倒的な加速が確認された。
【0066】
鎖交換反応の立ち上がりの近似曲線の傾きからそれぞれの初速を求め光架橋により、おおよそ何倍加速しているのかを求めた。このように求めた光架橋による鎖交換反応の加速率の対比の結果を、次の表3に示す。
【0067】
【表3】
【0068】
このように、25℃の際には、光架橋があることで鎖交換反応が56倍加速しており、37℃の際も、光架橋があることで鎖交換反応が70倍と大きく加速していることが分かった。
【0069】
[3本目のODN鎖に
CNVKを導入した系による鎖交換反応の変性PAGE解析]
鎖交換反応の開始時点において、形成されている二重らせんには
CNVKが導入されておらず、遊離のODNに
CNVKが導入されている実験系を使用して、鎖交換反応を解析した。実験には、次の表4に示すODN1、ODN6、ODN7を使用した。これらのODNを使用して、次のスキーム4(Scheme4)に示す鎖交換反応を行った。この実施例で使用するODN1、ODN6、ODN7の番号付けは、本明細書の「課題を解決するための手段」や「発明を実施するための形態」におけるODN1、ODN4、ODN5にそれぞれ相当する。
【0070】
【表4】
【0071】
【化11】
Scheme4
【0072】
13塩基長のODN1は、21塩基長のODN6の3’末端側と相補性ある配列を有しており、二重らせんを形成している。二重らせんの形成に参加していない3本目のODN鎖である、21塩基長のODN7は、ODN6と相補性ある配列を有しており、配列中に
CNVK(X)を有している(スキーム4の上段の図参照)。ODN7がODN6の5’末端側の相補的配列に塩基対を形成して付着すると、ODN7−ODN6間の塩基対は、熱力学的な原理にしたがって、ODN1−ODN6間の塩基対と、あたかも線ファスナーのように、可逆的に置換してゆく(スキーム4の中段の左側の図参照)。可逆的な置換が、ODな7のXに至ったときに、すなわちXが、相補的な位置にある塩基の3’末端側に隣接する塩基(ODN6におけるT)と、光連結可能な位置に配置されたときに、366nmの光照射を行うと、ODN7のXと、相補的な位置にある塩基の3’末端側に隣接する塩基(ODN6におけるT)とが、光連結される(スキーム4の中段の右側の図参照)。XとTの光連結を介して、ODN6とODN7とが共有結合的に結合されると、ODN1−ODN6間の塩基対が、ODN7−ODN6間の塩基対へ置換される反応が、速やかに進行して、結果としてODN1とODN6の二重らせんは、ODN7とODN6の二重らせんに鎖交換される(スキーム4の下段の図参照)。
【0073】
このスキーム3にしたがった実験を、具体的には次のように行った。
500nM ODN1と500nM ODN6をバッファー(100mM NaCl,50mMカコジル酸ナトリウム)中で70℃で5分間加熱した後、37℃もしくは25℃で1時間以上放置し、アニーリングを行った。その後、ODN7を最終濃度が500nMとなるように加え、すぐUV−LED照射機を用い、366nmのUV照射を37℃もしくは25℃で行った。光照射時間は0,0.1,0.5,1,5,10,15秒行った。それぞれのサンプルを変性PAGEによる解析を行い、光架橋を介した鎖交換反応の速度解析を行った。その結果を
図5に示す。
【0074】
図5は、光架橋を介した鎖交換反応の速度解析の変性PAGE解析結果を表す図である。この変性PAGE解析の結果より、光照射後にクロスリンク体のバンドが出現していることが確認できた。鎖交換反応中に光照射を行うことにより、クロスリンク体のバンドが出現している。鎖交換によって
CNVKを含むODNが二本鎖を形成し、チミンと架橋することによってクロスリンク体のバンドが出現する。そのため、クロスリンク体の出現により鎖交換反応の速度の解析を行うことができる。光照射時間によるクロスリンク体の割合変化を
図6に示す。
【0075】
図6は、光照射時間によるクロスリンク体の変化を示すグラフである。5秒間の光照射により反応はほぼ定常状態に達していた。光架橋により鎖交換反応が高速に進行していることがわかった。25℃よりも37℃のほうが鎖交換反応の進行は早い傾向にあった。
【0076】
[
CNVKを組み込んでいないODNによる鎖交換反応の蛍光解析]
次の表5に示すODN4、ODN5、ODN8を使用して、実験を行った。これらのODNを使用して、次のスキーム5(Scheme5)に示す鎖交換反応を行った。
【0077】
【表5】
【0078】
【化12】
Scheme5
【0079】
このスキーム5では、スキーム3において使用したODN4、ODN5、ODN3に代えて、ODN4、ODN5、ODN8を使用して、同様の手順で反応を行っている。ODN8は、ODN3の塩基配列の1箇所でTがAに置換した配列を有しており、その結果、ODN5とODN8の二重鎖には、ODN5とODN3の二重鎖に存在していたミスマッチがない。
【0080】
この実験は、具体的には次の手順で行った。
500nM ODN4と500nM ODN5をバッファー(100mM NaCl,50mMカコジル酸ナトリウム)中で70℃で5分間加熱した後、37℃もしくは25℃で1時間以上放置し、アニーリングを行った。その後、ODN8を最終濃度が500nMとなるように加え、蛍光分光光度計を用い、Cy3の蛍光強度の変化を測定した。その結果を
図7に示す。
【0081】
図7は、蛍光測定による鎖交換反応の速度解析の結果のグラフである。
図7の左図のグラフの上側の曲線が37℃、下側の曲線が25℃の結果である。
図7の右図は、左図の横軸の0〜120秒の範囲を拡大したグラフである。
CNVKを用いていない鎖交換反応では25℃では、約300秒で60%近い鎖交換反応が、37℃の場合は30秒で80%近い鎖交換反応が進行していた。光架橋の有無による鎖交換反応の比較を
図8にまとめた。
【0082】
図8は、光架橋の有無による鎖交換反応のグラフの比較である。
図8の左図は25℃、右図は37℃の結果であり、いずれのグラフでも上側の曲線が光架橋ありの場合、下側の曲線が光架橋なしの場合である。光架橋した場合では、秒単位での鎖交換反応の進行が確認され。光架橋していないものとでは圧倒的な加速が確認された。そこで、鎖交換反応の立ち上がりの近似曲線の傾きからそれぞれの初速を求め光架橋により、おおよそ何倍加速しているのかを求めた。光架橋による鎖交換反応の加速率を、次の表6に示す。
【0083】
【表6】
【0084】
この結果から、25℃の際には、光架橋により鎖交換反応が10倍加速しており、37℃の際も13倍と大きく加速していることが分かった。