【実施例】
【0034】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0035】
(比較例1〜2および実施例1〜6:製剤A〜Hの製造および評価)
酢酸カルシウム、クエン酸、フマル酸一ナトリウム、酢酸ナトリウム、グリシン、および精製塩をそれぞれ、表1に示す割合で混合し、製剤A〜Hを得た。なお、得られた製剤A〜Hのそれぞれの1重量%水溶液のpHはそれぞれ表1に示すとおりであった。
【0036】
【表1】
【0037】
次いで、上記で得られた製剤A〜Hの抗菌性試験(MIC試験)を以下のようにして行った。
【0038】
(試験例1:製剤A〜Hの抗菌性試験(MIC試験))
オートクレーブ後、60℃に保温したSPC(Standard Plate Count)培地をシャーレに20mlずつ分注し、直後に比較例1および2、ならびに実施例1〜6で得られた製剤A〜Hを滅菌水に溶解した水溶液を、培地中の各製剤の濃度がそれぞれ0.05(w/v)%、0.1(w/v)%、0.2(w/v)%、0.3(w/v)%、0.4(w/v)%、0.5(w/v)%、0.6(w/v)%、0.7(w/v)%、0.8(w/v)%、0.9(w/v)%、1.0(w/v)%、1.1(w/v)%、1.2(w/v)%、1.3(w/v)%、1.4(w/v)%、および1.5(w/v)%となるように添加して混合し、各培地を冷却することによって試験寒天培地を得た。これらの試験寒天培地上に表2に記載の菌を約100個/μlの密度で含有する菌液をそれぞれ10μlずつ滴下し、35℃にて48時間静置後、滴下した各製剤の培地中濃度((w/v)%)のうち、菌が生育していない各製剤の培地中濃度((w/v)%)を最小発育阻止濃度(MIC)として決定した。結果を表2に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
表2に示すように、実施例1〜6の製剤C〜Hは、従来の日持向上剤に相当する比較例1および2の製剤AおよびBの場合と比較して、MICがいずれも低い値を示しており、各種菌株に対して優れた抗菌効果を有していることがわかる。特に、酢酸カルシウムと酸化ナトリウムとの比率において、酢酸カルシウムの含有量が50%(50重量部)を超えた実施例1、2、5および6の製剤C、D、GおよびHでは、いずれの菌株に対しても生育を顕著に抑制していたことがわかる。
【0041】
(試験例2:製剤BおよびD〜Hの人参煮物での官能評価)
100重量部の水、9重量部の砂糖、11重量部の薄口醤油、3重量部のみりん、1重量部の粉末だしを混合し、これを7つに分け、このうち6つについては比較例2および実施例2〜6で得られた製剤BおよびD〜Hを添加し、残り1つはこれらの製剤を添加しないまま(比較例3)として調味液を作製した。なお、調味液における製剤BおよびD〜Hの濃度は、当該調味液と後述する人参との合計重量に対して各々1重量%となるように設定した。これらの調味液に、それぞれ一口サイズに切った人参を1:1の容量比で合わせて、袋に詰め真空パックした。これらを90℃の熱湯中にて60分加熱した。
【0042】
冷却後、真空パックを開封し、液切りし、それぞれバチルス・スブチリスを10
2CFU/gの割合で植菌し、25℃でこのまま保存した。
【0043】
保存後、人参重量に対して9倍量の滅菌生理食塩水をそれぞれ添加し、人参をストマッカーで潰し、懸濁液を適宜希釈し、混釈法にて菌を培養した。培養条件は35℃にて48時間とし、培養後24時間および48時間にて、カウントした菌数から食品1gあたりの生菌数を決定した。さらに、この人参1重量部に対し、9重量部の生理食塩水を添加したものをストマッカーで潰して懸濁液を得、この懸濁液について上澄みのpH(10%pH)を測定した。
【0044】
また、冷却後の人参を、味覚評価のエキスパートが実際に食し、以下の評価基準にしたがって官能評価を行った。
【0045】
<官能評価基準>
味覚:
◎:酸味を感じなかった。
○:殆ど酸味を感じなかった。
△:やや酸味を感じた。
×:酸味を感じた。
食感:
○:無添加(比較例3)と同等であった。
△:やや硬さがあると感じられた。
×:硬いと感じられた。
【0046】
得られた結果を表3に示す。
【0047】
【表3】
【0048】
表3に示すように、酢酸カルシウム含有量が高い実施例2、4〜6で得られた製剤D、F、GおよびHほど、制菌性が高くなる傾向があり、酢酸カルシウムと酢酸ナトリウムとの混合重量比が1:1を超えて酢酸カルシウム含有量が高まる製剤D(実施例2)、製剤F(実施例4)、製剤G(実施例5)および製剤H(実施例6)は製剤B(比較例2)と比較して2桁分、製剤E(実施例3)と比較しても1桁分、菌の増殖を抑制していたことがわかる。
【0049】
また、味覚および食感について検討すると、酢酸カルシウムの含有量が高い製剤F〜Hほど、一見食感への影響が幾分低下するようにも見えるが、実質的に大きな多少はなく、良好な味覚を呈し、酢酸カルシウムと酢酸ナトリウムとの混合重量比が1:1を超えて酢酸カルシウム含有量が高まる製剤D(実施例2)、製剤F(実施例4)、製剤G(実施例5)および製剤H(実施例6)は製剤B(比較例2)と比較して2桁分、製剤E(実施例3)と比較しても1桁分、菌の増殖を抑制し、実用に充分耐え得るものであることを確認した。また、味覚に対しても特に大きな差異はなく、実用に充分耐え得るものであることを確認した。
【0050】
(試験例3:製剤BおよびD〜Hを用いたハンバーグでの官能評価)
表4に示す割合でハンバーグの具材を混合し、これを7つに分け、このうち6つについては比較例2および実施例2〜6で得られた製剤BおよびD〜Hを各々1重量%の割合で添加し、残り1つはこれらの製剤を添加しないまま(比較例4)としてハンバーグだねを作製した。
【0051】
【表4】
【0052】
得られたハンバーグだねを、それぞれ50gずつ成型し、180℃に設定したオーブンで、13分間焼成した。冷却後、ラクトコッカス・ラクティスを10
2CFU/gの割合で植菌し、30℃で48時間このまま保存した。
【0053】
保存後、ハンバーグ重量に対して9倍量の滅菌生理食塩水をそれぞれ添加し、ハンバーグをストマッカーで潰し、懸濁液を適宜希釈し、混釈法にて菌を培養した。培養条件は35℃にて48時間とし、培養後24時間および48時間にて、カウントした菌数から食品1gあたりの生菌数を決定した。さらに、このハンバーグだね1重量部に対し、9重量部の生理食塩水を添加したものをストマッカーで潰して懸濁液を得、この懸濁液について上澄みのpH(10%pH)を測定した。
【0054】
また、得られたハンバーグを、味覚評価のエキスパートが実際に食し、以下の評価基準にしたがって官能評価を行った。
【0055】
<官能評価基準>
味覚:
◎:酸味を感じなかった。
○:殆ど酸味を感じなかった。
△:やや酸味を感じた。
×:酸味を感じた。
食感:
○:無添加(比較例4)と同等であった。
△:やや違和感があると感じられた。
×:違和感があると感じられた。
【0056】
得られた結果を表5に示す。
【0057】
【表5】
【0058】
表5に示すように、試験例2と同様に、ハンバーグの保存試験においても、酢酸ナトリウムを主成分として用いた製剤B(比較例2)と比較して、酢酸カルシウムを主成分として配合した製剤D〜H(実施例2〜6)はより効果的に菌の増殖を抑制していたことがわかる。特に、酢酸カルシウムと酢酸ナトリウムとの混合重量比が1:1を超えて酢酸カルシウム含有量が高まる製剤D(実施例2)、製剤F(実施例4)、製剤G(実施例5)および製剤H(実施例6)は製剤B(比較例2)と比較して、特に制菌効果が高められていたことがわかる。また、ハンバーグの試験では、実施例2〜6で得られた製剤D〜Hはいずれも味覚および食感は損なわれず、いずれも実用に充分耐え得るものであることを確認した。
【0059】
(比較例5および実施例7〜10:製剤I〜Mの製造および評価)
酢酸カルシウム、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、酢酸ナトリウム、グリシン、および精製塩をそれぞれ、表6に示す割合で混合し、製剤I〜Mを得た。なお、得られた製剤I〜Mのそれぞれの1重量%水溶液のpHはそれぞれ表6に示すとおりであった。
【0060】
【表6】
【0061】
(試験例4:製剤IおよびJ〜Mのボイルしたインゲンでの官能評価)
冷凍インゲンを熱湯中に、冷凍インゲンと熱湯とが容量比で1:3となる割合で投入し、30秒間ボイルした。ボイルしたインゲンを取り出した後、水で冷却し水切りを行った。これを6つに分け、このうち5つについては比較例5および実施例7〜10で得られた製剤IおよびJ〜Mの3重量%水溶液に、ボイルしたインゲンと当該水溶液とが容量比で1:3となるように60分間浸漬し、残り1つはこれらの製剤を添加しない水(比較例6)に同様に浸漬した。それぞれのインゲンを浸漬した液から取り出し、液切りした後、それぞれにバチルス・スブチリスを10
2CFU/gの割合で植菌し、25℃でこのまま保存した。
【0062】
その後、人参の代わりに上記ボイルしたインゲンを用いたこと以外は、試験例1と同様にして菌の培養を行い、培養後24時間および48時間にて、カウントした菌数から食品1gあたりの生菌数を決定した。さらに、このインゲン1重量部に対し、9重量部の生理食塩水を添加したものをストマッカーで潰して懸濁液を得、この懸濁液について上澄みのpH(10%pH)を測定した。また、冷却後のインゲンを、味覚評価のエキスパートが実際に食し、試験例1の官能評価基準にしたがって官能評価を行った(なお、食感の無添加と同等との評価は、比較例6(無添加)の場合を基準にして行った)。
【0063】
得られた結果を表7に示す。
【0064】
【表7】
【0065】
表7に示すように、上記試験例2および3と同様に、ボイルしたインゲンの保存試験においても、酢酸ナトリウムを主成分として用いた製剤I(比較例5)と比較して、酢酸カルシウムを主成分として配合した製剤J〜M(実施例7〜10)はより効果的に菌の増殖を抑制していたことがわかる。特に、酢酸カルシウムと酢酸ナトリウムとの混合重量比が1:1またはそれ以上に酢酸カルシウムを含有する製剤L(実施例9)および製剤M(実施例10)は製剤I(比較例5)と比較して、48時間培養後の菌数が約3桁も低くなっており、菌の増殖を著しく抑制し得たことがわかる。また、味覚および食感の評価において、実施例7〜10で得られた製剤J〜Mはいずれも充分な味覚を呈し、食感においても実用に充分耐え得るものであることを確認した。
【0066】
(試験例5:製剤IおよびJ〜Mのボイルしたブロッコリーでの官能評価)
冷凍ブロッコリーを熱湯中に、冷凍ブロッコリーと熱湯とが容量比で1:3となる割合で投入し、30秒間ボイルした。ボイルしたブロッコリーを取り出した後、水で冷却し水切りを行った。これを6つに分け、このうち5つについては比較例5および実施例7〜10で得られた製剤IおよびJ〜Mの3重量%水溶液に、ボイルしたブロッコリーと当該水溶液とが容量比で1:3となるように60分間浸漬し、残り1つはこれらの製剤を添加しない水(比較例7)に同様に浸漬した。それぞれのブロッコリーを浸漬した液から取り出し、液切りした後、それぞれにバチルス・スブチリスを10
2CFU/gの割合で植菌し、25℃でこのまま保存した。
【0067】
その後、人参の代わりに上記ボイルしたブロッコリーを用いたこと以外は、試験例1と同様にして菌の培養を行い、培養後24時間および48時間にて、カウントした菌数から食品1gあたりの生菌数を決定した。さらに、このブロッコリー1重量部に対し、9重量部の生理食塩水を添加したものをストマッカーで潰して懸濁液を得、この懸濁液について上澄みのpH(10%pH)を測定した。また、冷却後のブロッコリーを、味覚評価のエキスパートが実際に食し、試験例1の官能評価基準にしたがって官能評価を行った(なお、食感の無添加と同等との評価は、比較例7(無添加)の場合を基準にして行った)。
【0068】
得られた結果を表8に示す。
【0069】
【表8】
【0070】
表8に示すように、上記試験例2〜4と同様に、ボイルしたブロッコリーの保存試験においても、酢酸ナトリウムを主成分として用いた製剤I(比較例5)と比較して、酢酸カルシウムを主成分として配合した製剤J〜M(実施例7〜10)はより効果的に菌の増殖を抑制していたことがわかる。特に、酢酸カルシウムと酢酸ナトリウムとの混合重量比が1:1またはそれ以上に酢酸カルシウムを含有する製剤L(実施例9)および製剤M(実施例10)は製剤I(比較例5)と比較して、48時間培養後の菌数が約2桁も低くなっており、菌の増殖を著しく抑制し得たことがわかる。また、味覚および食感の評価において、実施例7〜10で得られた製剤J〜Mはいずれも充分な味覚を呈し、食感においても実用に充分耐え得るものであることを確認した。
【0071】
(試験例5:製剤Oの麺類に対する保存効果と官能評価)
<製剤配合>
比較例8および実施例11の製剤は表9の組成に従って作製した。
【0072】
【表9】
【0073】
(比較例8および実施例11の保存性評価)
酢酸ナトリウムを主成分とした比較例8の製剤、比較例8の酢酸ナトリウムの半分量を酢酸カルシウムに置き換えた実施例11の製剤をそれぞれ作製して、麺へ添加した時の保存性および食味・食感について比較した。
【0074】
(生うどんの保存性向上)
生うどんは、表10の組成に従って製造した。すなわち、500重量部の小麦粉、180重量部の水、10重量部の食塩、5重量部または2.5重量部の表9の製剤を縦型式ミキサーで混合後、ロール式の製麺機にて帯状に成型して熟成後、麺の断面が3mm角になるように麺線にした。同時に表9の製剤を添加しない麺線も作製した。
【0075】
【表10】
【0076】
この麺線をポリチャック袋に各100gづつ封入して、30℃の恒湿恒温庫にて保管して、一般性菌数、カビの発生状態を評価した。
生うどんを30℃保存した場合の菌数(個/g)を表11に示す。2日目では、無添加区に比べ、比較例8および実施例11では3桁菌数が少なく、制菌効果があることが確認された。
【0077】
【表11】
【0078】
実施例11の製剤を0.5%または1.0%添加した生うどんは、比較例8の製剤を添加した生うどんと比較して同様の保存性の効果を示した。
【0079】
(官能試験)
比較例8、実施例11の製剤を添加した、あるいは添加していない生うどんを98℃の熱湯で15分間ボイル後、冷水で1分間水洗して茹でうどんを得た。これをつけ麺用のタレにつけて食味・食感を比較した。
【0080】
<官能評価基準>
食味:
◎:酸味を感じなかった。
○:殆ど酸味を感じなかった。
△:やや酸味を感じた。
×:酸味を感じた。
食感:
◎:無添加より弾力があった。
○:無添加と同等であった。
△:無添加より弾力がなかった。
得られた結果を表12に示す。
【0081】
【表12】
【0082】
表12に示すように、食味・食感の比較では、比較例8に対して実施例11の製剤を添加したうどんは、弾力のある食感を示した。
【0083】
(試験例6:製剤PおよびQのパンに対する保存効果と官能評価)
<製剤配合>
製剤PおよびQの配合を表13に示す。
【0084】
【表13】
【0085】
<食パンの配合と工程>
食パンの配合は表14に示す配合で行い、表15の工程により製造した。
<食パンの配合>
【0086】
【表14】
【0087】
<食パンの製造工程>
【0088】
【表15】
【0089】
<植菌試験>
植菌試験は、制菌剤無添加、製剤P添加、製剤Q添加の各区に対し、アスペルギルス・ニガー(A. niger)またはペニシリウムsp(P. sp.)を10
3および10
4CFU/mLの濃度で、10μl植菌し、恒湿恒温庫にて25℃で保管し、3,4,5日目に食パン上に生育したカビの増殖を観察した。
植菌試験の結果を表16に示す。
【0090】
【表16】
【0091】
<官能評価試験>
官能評価は以下の基準により行った。
<官能評価基準>
酸味・酸臭の評価基準:
◎:酸味(酸臭)を感じなかった。
○殆ど酸味(酸臭)を感じなかった。
△:やや酸味(酸臭)を感じた。
×:酸味(酸臭)を感じた。
食感:
◎:無添加より弾力があった。
○:無添加と同等であった。
△:無添加より弾力がなかった。
※評価基準:
感じる×→少し感じる△→ほぼ感じない●→感じない ○
官能評価の結果を表17に示す。
【0092】
【表17】
【0093】
酢酸カルシウムと酢酸ナトリウム、および有機酸と併用することにより、比較例の酢酸ナトリウムと有機酸の併用区よりもパン生地へのダメージが少なく、酸味、酸臭を低減したカビ抑制剤を試作することができた。