【課題】本発明は、Leibniz Institute DSMZにDSM26198として寄託されているシュードモナス属微生物に関する。また、本発明は、中鎖PHA及び長鎖PHAの製造方法であって、炭素源を含む培地内において前記微生物を培養し、PHAを前記微生物から単離することを含む方法に関する。
【解決手段】前記微生物は、PHAを高収量で生成することができる。また、本発明の微生物は、不飽和脂肪酸及び/又は芳香属変性脂肪酸を得られるPHAに効率的に取り込む貴重な能力を有する。従って、本発明の微生物によって化学的に多様なPHAを製造することができ、PHAを新たな用途・分野において使用することが可能となる。
前記培地には、好ましくは約8〜30mMの範囲、特に約10〜20mMの範囲のアンモニウムモル濃度で、窒素がアンモニウム塩として存在する、請求項2〜5のいずれか1項に記載の方法。
前記方法はフラスコ振盪法又は回分法であり、前記培地中の炭素/窒素(C/N)比が、約20〜45の範囲、好ましくは約25〜35の範囲である、請求項2〜6のいずれか1項に記載の方法。
前記回分段階において、前記炭素源を培地に添加した後、前記炭素源が完全に消費される時間にわたって培養を維持し、好ましくは、前記初期回分段階を12〜22時間、より好ましくは12〜15時間維持する、請求項8に記載の方法。
請求項2〜12のいずれか1項に記載の方法によって得られるPHAであって、好ましくは不飽和部分及び/又は芳香族部分を含み、より好ましくは5〜20モル%の飽和モノマー、30〜70モル%の不飽和モノマー及び20〜60モル%の芳香族モノマーを含むPHA。
遺伝子バンク(NCBI)に寄託番号JN651419(phaC1)又はJN216884(phaC2)として寄託されているPHA合成酵素、その類似体又はそれらの混合物の、PHA、好ましくは炭素−炭素二重結合及び/又は芳香族部分を含むPHAの製造のための使用。
【背景技術】
【0002】
PHAは、再生可能資源から製造される生分解性・生体適合性熱可塑性材料(ポリマー)(3−ヒドロキシ脂肪酸のポリエステル)であり、広範な工業及び生物医学的用途を有する(非特許文献1)。PHAは様々な微生物によって合成され、従来の石油化学系プラスチックの代替として使用することにより、プラスチック廃棄物の有害性から環境を保護できる可能性を有するため、広く研究されている。
【0003】
PHAは、側鎖長及び生合成経路の違いによって2つのグループに分けることができる。(R)−3−ヒドロキシブチル酸単位のホモポリマーであるPHB等の短い側鎖を有するPHAは結晶性熱可塑性物質であり、長い側鎖を有するPHAはより高い弾性を有する。前者は約90年前から知られている(非特許文献2)が、後者の材料は比較的最近発見された(非特許文献3)。ただし、それ以前に、(R)−3−ヒドロキシ酪酸単位と、より長い側鎖を有し、炭素原子数が5〜16の(R)−3−ヒドロキシ酸単位を含む、微生物起源のPHAが同定されていた(非特許文献4)。
(R)−3−ヒドロキシ酪酸と、炭素原子数が5〜16の1種以上の長側鎖ヒドロキシル酸単位のコポリマーを生成する多くの微生物が確認されている(非特許文献5〜11及び特許文献1)。これらのコポリマーは、PHB−co−HX(Xは、炭素原子数が6以上の3−ヒドロキシアルカノエート、アルカノエート又はアルケノエートである)と呼ばれる。特定の二成分コポリマーの有用な例は、PHB−co−3−ヒドロキシヘキサノエート(PHB−co−3HH)である(非特許文献12及び13及び特許文献2)。
【0004】
PHAは、生分解性熱可塑性物質及びバイオポリマーのための再生可能資源としての利用可能性を有するために広く研究され、商業的に開発・販売されている(非特許文献14)が、PHAの製造コストは従来の石油化学系プラスチックよりもはるかに高く、PHAのより広範な使用への大きな障害となっている(非特許文献15)。
上述したように、多くの微生物(Alcaligenes eutrophus、Alcaligenes latus、Azotobacter vinlandii、Pseudomonas acitophila、Pseudomonas oleovarans、Eschericha coli、Rhodococcus eutropha、Chromobacterium violaceum、Chromatium vinosum、Alcanivorax borkumensis等)がPHAを生成する。
公知の全てのPHA生成微生物は細胞内でPHAを生成し、PHA顆粒内にPHAを蓄積する(非特許文献16)。PHAの製造が石油化学系プラスチックと比較して高価で不利なものとなる大きな要因は、PHAを高い収量で生成し、PHAが蓄積された微生物の細胞から生成したPHAを回収することが困難であることである。
PHAの総製造コストを減少させるために、一般的にi)適切な溶媒、ii)PHAの次亜塩素酸塩抽出及び/又はiii)非PHA細胞物質の消化による細胞破壊(非特許文献17)を目的とする、効率的な回収方法の開発が必要であると考えられていた。
【0005】
工業規模では、利用可能な微生物は比較的少量のPHAを生成するため、これらの微生物によるPHAの製造は経済的に現実的ではない。公知の方法は、PHAの製造時に大量の水を必要とすると共に、PHAの回収のために大量の化学試薬及び/又は酵素を必要とする。これらは、製造コストを減少させるための障害となっている。従って、PHAを製造するための代替的な方法の提供が至急必要とされている。
【0006】
近年では、微生物により多くのPHAを生成させるためにPHA生成微生物の遺伝子改変を行う方法が開発されている。特許文献3では、遺伝子をノックアウトすることで遺伝子改変が行われ、PHA生成のための中間体にPHA合成酵素に対して競合的に作用する微生物が開示されている。この微生物により、中間体に作用するPHA合成酵素を妨げる酵素(微生物)を枯渇させることによって、中間体をPHAに転化させることが可能となる。
【0007】
別の方法として、野生型ではPHAを生成することができない大腸菌等の微生物にPHA合成酵素を導入する方法が知られている(非特許文献18)。この方法では、大腸菌LS1298株においてデカノエートを炭素源として使用した場合に、最大で細胞乾燥重量(CDW)の約15%のPHAの蓄積が観察されている。
【0008】
さらに別の方法では、PHAデポリメラーゼ遺伝子のノックアウトによってPHAの生成量を増加させており、P.putida KT2440を用いた場合のPHAの収量は約4g/L(CDW)であり、最大でCDWの80%となっている(非特許文献19)。
【0009】
しかしながら、これらの微生物によるPHAの生成量は、PHAの生成に必要な資源と比較して依然として相対的に少ない。また、遺伝子改変された微生物の使用を制限している国もあり、これらの微生物の使用において問題が生じる。これらの国では、特に、PHAを高い収量で生成できる野生型の(遺伝子改変されていない)微生物が有利である。
【0010】
PHAを生成するほとんどの微生物は、PHAの生成のための炭素源として飽和脂肪酸しか使用することができない。炭素原子数が6〜約20の分子鎖長を有する直鎖脂肪酸等の通常の基質から生成するPHAは、通常、−30〜−50℃の範囲のポリマーのガラス転移温度を有する。そのため、得られるPHAの有用性は、このようなガラス転移温度に適した用途に制限される。PHAに取り込むために、対応する微生物に使用することができる基質の範囲を広げることができれば、そのような微生物を使用して得られるPHAの特性を大きく多様化することができる。特に、微生物が入手可能であって、炭素源を取り込み様々な特性を有するPHAを生成することが可能な場合には、PHAを従来の石油化学系プラスチックの代替として使用できる用途の範囲が大きく変化することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第4,876,331号
【特許文献2】米国特許第5,292,860号
【特許文献3】欧州特許出願公開第1 913 135 A1号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Williams & Peoples, 1996, Chemtech. 26: 38−44
【非特許文献2】Lemoigne & Roukhelman, 1925, Ann. Des Fermentation, 527−536
【非特許文献3】deSmet et al., 1983, J. Bacteriol. 154: 870−878
【非特許文献4】Wallen & Rohweder, 1974, Environ. Sci. Technol. 8: 576−579
【非特許文献5】Steinbuchel & Wiese, 1992, Appl. Microbiol. Biotechnol. 37: 691−697
【非特許文献6】Valentin et al., 1992, Appl. Microbiol. Biotechnol. 36: 507−514
【非特許文献7】Valentin et al., Appl. Microbiol. Biotechnol. 1994, 40: 710−716
【非特許文献8】Abe et al., 1994, Int. J. Biol. Macromol. 16: 115−119
【非特許文献9】Lee et al., 1995, Appl. Microbiol. Biotechnol. 42: 901−909
【非特許文献10】Kato et al., 1996, Appl. Microbiol. Biotechnol. 45: 363−370
【非特許文献11】Valentin et al., 1996, Appl. Microbiol. Biotechnol. 46: 261−267
【非特許文献12】Brandl et al., 1989, Int. J. Biol. Macromol. 11: 49−55
【非特許文献13】Amos & McInerey, 1991, Arch. Microbiol. 155: 103−106
【非特許文献14】Hrabak, 1992, FEMS Microbiol. Rev. 103: 251−256
【非特許文献15】Choi & Lee, 1997, Bioprocess Eng. 17: 335−342
【非特許文献16】Steinbuchel, 1991, Biomaterials, pp. 123−213
【非特許文献17】Lee, 1996, Biotech. Bioeng. 49: 1−14
【非特許文献18】Qi et al., 2007, FEMS Microbiol. Lett. 157: 155−162
【非特許文献19】Cai et al., 2009, Bioresource Techn. 100: 2265−2270
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明において使用する「中鎖PHA」とは、炭素原子数が5〜13のヒドロキシル酸単位((R)−3−ヒドロキシ酸単位)を意味する。「長鎖PHA」とは、1モノマーあたり少なくとも14個の炭素原子を含むPHAを意味する。
【0020】
本願発明者は、研究過程において、本発明の発酵用の培地が微生物のPHA生産性に大きな影響を与えることを見出した。複数の産生培地を試験した結果、0.1%酵母抽出物で変性したMM培地(Martinez−Blanko et al., 1990, J. Biol. Chem. 265: 7084−7090を参照)に、炭素源として10−ウンデセノエートを添加した培地で培養した場合にPHA生産性が最も低かった。
同一条件下において、R2A培地(Reasoner & Geldreich(1985, Appl. Environ. Microbiol. 49: 1−7))を使用した場合にはPHA収量が有意に増加し、C−Y培地(Choi et al.(1994, Appl. Environ. Microbiol. 60: 1245−1254))を使用した場合に最も高いPHA収量が得られた。この培地を使用した場合のPHA収量は、MM培地を使用した場合のPHA収量の4倍を超えた。
従って、本発明を実施する際には、Choi et al.に記載されたC−Y培地を使用することが好ましい。
【0021】
バイオマス及びPHAの収量をさらに向上させるために、培地中の窒素(N)及び炭素(C)含有量を変更した。C−Y培地(5mM硫酸アンモニウム及び27mM 10−ウンデセノエート)を使用する場合を好ましい標準条件として、窒素源及び炭素源について2種類の異なる濃度で評価を行った。窒素源濃度及び炭素源濃度を2倍に増加させ、C/Nモル比を30に維持することにより、PHA収量をさらに2倍を超えて増加させることができた。従って、本発明の別の好適な実施形態では、窒素源濃度及び炭素源濃度を増加させた変性C−Y培地を使用する。
【0022】
本発明の方法において、PHAの製造のために使用する炭素源は特に限定されない。本発明の方法では、PHAの製造のために通常使用される炭素源を本発明の微生物と共に使用することができ、例えば、グリセリン、糖、ピルビン酸エステル、炭素原子数が4〜20の脂肪酸、特に好ましくは炭素原子数が8〜18の脂肪酸等の従来の脂肪酸を使用することができる。
なお、脂肪酸又はそれらの混合物を炭素源として使用した場合に最も高い収量(mg/L)のPHAが得られている。従って、本発明の好ましい方法では、少なくとも1種の炭素原子数が4〜20の脂肪酸、好ましくは炭素原子数が8〜18の脂肪酸を含む炭素源を使用する。本発明において使用する好ましい飽和脂肪酸は、酪酸、吉草酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、カプリル酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ヘプタデカン酸、ステリアン酸及びアラキン酸である。
【0023】
また、本発明の微生物には、オレイン酸や10−ウンデセン酸等の不飽和脂肪酸を基質として使用することができる。従って、本発明の実施形態では、炭素源として1以上の不飽和部分、好ましくは1つの不飽和部分を含む脂肪酸を使用することが好ましい。
代表的な不飽和脂肪酸としては、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、リノール酸、リノエライジン酸、α−リノール酸、アラキドン酸、エイコサペンタエノン酸及びウンデセン酸が挙げられる。
【0024】
また、本発明の微生物であるシュードモナス属微生物IPB−A36は、芳香族部分を含むカルボン酸をPHAに取り込むことができる。従って、本発明に係る好ましい方法では、炭素源は芳香族部分を含む少なくとも1種のカルボン酸を含むことができる。カルボン酸は、上述した脂肪酸と組み合わせて使用してもよく、単独の基質として使用してもよい。
【0025】
芳香族部分を含むカルボン酸は、好ましくは脂肪酸であり、より好ましくはω−アリール置換脂肪酸であり、最も好ましくはω−フェニル置換脂肪酸である。前記脂肪酸は、脂肪酸鎖に4〜10個の炭素原子を含むことが好ましい。そのような脂肪酸の好ましい例としては、4−フェニル酪酸、5−フェニル吉草酸、6−フェニルヘキサン酸、7−フェニルヘプタン酸、8−フェニルオクタン酸、9−フェニルオクタン酸及び10−フェニルデカン酸が挙げられる。予期せぬことに、発酵に使用する濃度のカルボン酸は微生物に対して無毒であることが判明した。
【0026】
芳香族部分を含むカルボン酸と脂肪酸の混合物を使用する場合には、芳香族部分を含むカルボン酸は、少なくとも1種の炭素原子数が4〜14の脂肪酸との混合物として使用し、混合物の約5〜45%を占めることが好ましい。芳香族部分を含むカルボン酸の濃度が上記の範囲よりも高い場合には、芳香族部分を含むカルボン酸が炭素源混合物の約5〜45%を占める場合と比較して、PHA生成量(g/L、重量%)の点においてPHAの収量が大きく低下する。芳香族部分を含むカルボン酸の濃度が上記範囲である場合には、総PHA生成量及び細胞乾燥重量に対する含有量の両方の点においてPHAの収量は芳香族部分を含むカルボン酸を使用しない発酵と同等である。
【0027】
上述したカルボン酸に加えて、ツベルクロステアリン酸又は7−メチル−7−ヘキサデカン酸等の分岐状カルボン酸をPHAに取り込むこともできる。
【0028】
好適な実施形態において、分岐状カルボン酸は、好ましくは少なくとも4個の炭素原子、さらに好ましくは少なくとも5個の炭素原子によってカルボン酸部分と隔てられた炭素原子において分岐し、カルボン酸部分に近い炭素原子は無置換であることが好ましい。
【0029】
培地中の炭素源は、上述した炭素源の1種のみを含んでいてもよく、上述したカルボン酸の2種以上の混合物を含んでいてもよい。好ましくは、少なくとも1種の飽和脂肪酸及び/又は不飽和脂肪酸と、少なくとも1種の1以上の不飽和部分を含むカルボン酸との混合物を使用する。この場合、各炭素源を別々に添加するか、各炭素源を混合物として添加することができる。発酵において2種以上の炭素源、特に、カルボン酸を含む飽和、不飽和及び芳香族部分の混合物を使用する利点は、得られるPHAの特性を正確に微調整することができることである。
【0030】
また、炭素源の混合物は、発酵の開始時にのみ添加するか、発酵時に数回にわたって添加するか、発酵時に連続的に流加することができる。炭素源の混合物を連続的に流加する場合には、実質的な組成ドリフトを生じることなく(すなわち、発酵開始時に形成されたPHAは、発酵中に形成されたPHAと同一の組成を有する)、炭素源をPHAに取り込むことができるという利点が得られる。従って、本発明の方法では、炭素源を連続的に流加することが好ましい。
【0031】
本発明の方法がフラスコ振盪法又は回分法である場合には、培地中の炭素/窒素(C/N)比は、約20〜45の範囲であることが好ましく、さらに約25〜35の範囲であることが好ましい。C/N比が20未満又は45を超える場合には、C/N比が好ましい範囲である場合と比較してPHA収量が低かった。
【0032】
本発明の一実施形態では、炭素源は、培養の開始時に培養混合物に一括添加する。炭素源を例えば2回(培養開始時と培養中)に分けて添加した場合には、炭素源を一括添加した場合と比較してPHAの収量(g/L、重量%)が一般的に低かった。
【0033】
フラスコ振盪法又は回分法を使用する場合には、炭素源は、培養混合物中の炭素源の濃度が約20〜60mMの範囲、特に約45〜55mMの範囲となるように培養混合物に添加することが好ましい。培養混合物中の炭素源の濃度が20mM未満となるように炭素源を添加した場合には、炭素源の濃度を上記範囲として発酵させた場合と比較してPHAの収量が低かった。炭素源の濃度が60mMを超えると、培養環境が微生物に対して毒性となり、増殖に悪影響を与える。
【0034】
本発明の方法のさらなる重要なパラメータは培地中の窒素含有量である。すなわち、窒素は微生物のための重要な栄養分であり、PHAの生成には炭素が過剰であり、例えば窒素が不足する条件が通常有利である。本発明の好ましい方法では、硫酸アンモニウム又は水酸化アンモニウム等のアンモニウム塩を窒素源として使用する。
【0035】
本発明の好ましい方法では、培地中のアンモニウムイオン(NH
4+)濃度は、約8〜30mMの範囲であることが好ましく、特に約10〜20mMの範囲であることが好ましい。なお、微生物の増殖とPHAの生成に最も大きな影響を与えるのは窒素源の実際の濃度ではなく、C/N比である。
【0036】
微生物は酸素を消費してカルボン酸を3−ヒドロキシカルボン酸に転化させるため、発酵中の酸素濃度も本発明において重要である。本発明を実施する際には、培地中の酸素分圧(pO
2)を約25〜45%にすることが好ましく、約30%に維持することがより好ましい。なお、%はモル%であり、酸素分圧は培地に溶解した気体の全量に基づいて算出する。
【0037】
本発明では、培養時間は特に限定されない。当業者には明らかなように、培養の間、PHAの生成量はある段階で最大に達し、その後PHA含有量は低下するか、変化しない。当業者は、微生物においてPHAの蓄積量が最大となる時間を容易に決定することができると思われる。
回分法においては、約40時間経過後であって約100時間経過前にPHA蓄積量が最大に達した。従って、培養は48〜96時間行うことが好ましく、60〜84時間行うことがより好ましく、約72時間行うことが最も好ましい。
【0038】
本発明の微生物において、PHA生成のための最適な温度は約30℃である。従って、本発明の方法は、約15〜45℃で行うことが好ましく、約20〜40℃の温度で行うことがより好ましい。
【0039】
本発明の一実施形態では、上述した回分法とは異なり、発酵開始後に指数的に増加する量の炭素を添加する半回分法によって培地に炭素源を供給する。指数的に増加する炭素量の算出からのパラメータは以下の式に基づいて算出した。
【0041】
式中、F(t)は培養時の炭素源の流量であり、V
0は培養物の量であり、Y
x/sはバイオマスの収量であり、X
0は回分培養後の初期バイオマスであり、μ
setは所望の比増殖速度であり、S
0は供給材料中の基質濃度である。
【0042】
本発明の方法におけるμ
setは、約0.05〜0.1h
−1の範囲であることが好ましく、約0.06〜0.085h
−1の範囲であることがより好ましい。
【0043】
上述した半回分法により、最大収量に達するまでの発酵時間を大きく減少させることができ、最適なPHA濃度に達するまでの発酵時間を約40〜48時間の範囲まで減少させることができた。これは、約72時間後に最適なPHA濃度が得られる従来の回分法に対する大きな利点である。
【0044】
上述した方法では、指数的に増加する量の炭素源を添加する前に、炭素源を培地に添加した後、炭素源が完全に消費される時間にわたって培養を維持する回分段階によって発酵を開始させることが好ましい。本発明を実施する際には、初期回分段階は約12〜22時間行うことが好ましい。半回分法の初期段階は約12〜15時間行うことが好ましい。
【0045】
半回分法では、炭素源の初期添加において、培地中の炭素源濃度を約10〜20mMの範囲とすることが好ましく、約12〜17mMの範囲とすることがより好ましい。この範囲は、指数的な流加の工程を開始する前に最適な初期培養が行われるように決定したものである。
【0046】
回分法又は半回分法における発酵混合物の撹拌速度は、酸素圧力を上記範囲に維持するために十分な撹拌速度であれば特に限定されない。適当な撹拌速度は発酵条件に応じて異なるが、通常は約200〜1400rpmの範囲である。
【0047】
予期せぬことに、本発明の微生物は、最初に形成された複数のPHA顆粒を発酵時に単一の顆粒に融合させることが判明した。
【0048】
PHAを微生物から単離する際には、非塩素化溶媒、好ましくは炭素原子数が3〜8のケトンでPHAを抽出することが好ましい。非塩素化溶媒には、クロロホルムやジクロロメタン等の従来の塩素化溶媒と比較して、廃棄物処理の手間及びコストを大きく減少できるという利点がある。本発明の実施において使用することができるケトンとしては、アセトン、2−メチルエチルケトン、ジエチルケトン、2−メチルプロピルケトン等が挙げられる。PHAの単離に使用するために最も好ましいケトンはアセトンである。
【0049】
PHAは、約60℃未満で抽出することが好ましく、約20〜40℃の温度で抽出することがより好ましい。予期せぬことに、本発明の微生物を上記の温度範囲で抽出することによって、より高い温度で抽出した場合と実質的に同一のPHA収量が得られることが判明した。これは、高い炭素濃度における単一のPHA顆粒の形成並びに発酵過程の終了時に観察される微生物の細胞壁の崩壊の直接的な結果であると考えられる。
従って、本発明の微生物では、従来の微生物の発酵における複数の顆粒と比較してPHAが溶媒に容易に接触する。また、約0.5〜5時間の抽出後に、実質的に同一の収量の抽出されたPHAを得ることができた。従って、溶媒による抽出は、約1〜3時間行えばよく、約1時間行うことがより好ましい。
【0050】
本発明の別の態様は、上述した方法によって得られるPHAに関する。上述した方法では、芳香族部分及び/又は不飽和部分を含むカルボン酸を取り込むことを含む。上述した方法によって得られるPHAが、5〜20モル%の飽和モノマー、30〜70モル%の不飽和モノマー及び20〜60モル%の芳香族モノマーを含むことがより好ましい。
【0051】
また、本発明の別の態様は、中鎖PHA又は長鎖PHAの製造方法における上述した微生物の使用に関する。上記方法の好適な実施形態は、上述した中鎖PHA又は長鎖PHAの製造方法に関して上述した好適な実施形態と同じである。
【0052】
また、本発明の別の態様は、遺伝子バンク(NCBI)に寄託番号JN651419(phaC1)又はJN216884(phaC2)として寄託されているPHA合成酵素又はその類似体の、PHAの製造のための使用に関する。PHA合成酵素又はその類似体は、単独又はそれらの混合物として使用することができる。
本発明における「類似体」とは、PHA合成酵素と少なくとも約80%の配列相同性を有し、より好ましくは少なくとも約90%の配列相同性を有し、さらに好ましくは少なくとも約95%の配列相同性を有し、最も好ましくは少なくとも約98%の配列相同性を有するものであって、適切な条件下でPHAを合成し、不飽和カルボン酸及び/又は芳香族部分を含むカルボン酸をPHAに取り込むことができる点においてPHA合成酵素と同等な特性を有するペプチド又はタンパク質を意味する。好適な実施形態である前記使用としては、1以上の不飽和炭素−炭素二重結合及び芳香族部分(好ましくはフェニル部分)を含むPHAの製造のための使用がある。
【実施例】
【0053】
以下、実施例によって本発明についてさらに説明するが、以下の実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0054】
実施例1
【0055】
PHAの製造に最適な培地を選択するために、500mLフラスコ(培養物:100mL)内において、10−ウンデセノエート(27mM)を炭素源として使用して、シュードモナス属微生物IPB−A36を3種類の異なる培地(MM+0.1%YE培地、R2A培地、C−Y培地)中において30℃、200rpmで培養した。
【0056】
【表1】
【0057】
C−Y培地を使用した場合に最も良い結果が得られた。この場合のバイオマス及びPHAの蓄積はそれぞれ1.69g/L及び48.8重量%であった。
【0058】
実施例2
【0059】
バイオマス及びPHAの収量を向上させるために、窒素(N)及び炭素(C)含有量を変更した。実験は、200mLの培養物を入れた1Lフラスコ内において30℃、200rpmで行った。2種類の異なる窒素源濃度(N及び2N)及び炭素源濃度(27mM及び54mM)について評価した。C−Y培地中における窒素源濃度及び炭素源濃度の標準条件としては、(NH
4)
2SO
4の濃度を0.66g/L(5mM)(N)とし、炭素源の濃度を27mMとした。2Nの場合には、(NH
4)
2SO
4の濃度を1.32g/L(10mM)とした。
【0060】
【表2】
【0061】
表2から明らかなように、54mMのC11:1及び1.32g/Lの(NH
4)
2SO
4を使用した場合に最も良い結果が得られ、窒素源濃度及び炭素源濃度を2倍に増加させ、C/Nモル比を30に維持することにより、PHAの収量は2倍に増加した。
【0062】
27mMのC11:1、27+27mMのC11:1又は54mMのC11:1と0.66g/Lの(NH
4)
2SO
2を使用した発酵によって得られたサンプルを顕微鏡で観察した。
図1は、初期段階及び72時間の培養後における顆粒形成に対する炭素源の影響を示す。27mMの基質を培養物に供給した場合には数個の顆粒(
図1の1A及び1B)が観察されたが、炭素源濃度がより高い場合(
図1の2A、2B、3A及び3B)には、細胞のほとんどは細胞質空間全体を占める単一の大きな顆粒のみを含んでいた。観察された形態は、顆粒のサイズが細胞の融解に寄与する可能性を示唆している。
【0063】
また、顆粒形成に対する窒素源濃度の影響も調べた。1.32g/Lの(NH
4)
2SO
4を使用した場合には、1細胞あたりに複数の大きな顆粒が観察され、微生物細胞は、初期発酵段階で通常のC−Y培地で培養したものより良好に見えた。全体として、良好なPHAの蓄積が観察され、画像は表2に示す量的結果と良好に一致していた。72時間の培養時における顆粒形成過程の変化は、顆粒のサイズが後半の工程におけるPHAの回収に明確な影響を及ぼし得ることを示唆している。
【0064】
実施例3
【0065】
20mLのC−Y培地を入れた100mLフラスコ内において、異なる基質を使用してシュードモナス属微生物IPB−A36を30℃、200rpmで培養し、PHA構造に対する補助基質の影響を調べた。10−ウンデセノエートを使用したPHA生成を対照として使用し、2種類の異なる芳香族基質(5−フェニルバレレート(5−PheVal)及び8−フェニルオクタノエート(8−PheOct))及び不飽和/芳香族基質の組み合わせを評価した(表3)。
【0066】
微生物細胞に対する毒性について、芳香族基質について最初に試験を行った。表3は、単一の炭素源としての5−フェニルバレレート又は8−フェニルオクタノエート内で培養した場合に微生物が増殖し、PHAが蓄積できたことを示している。しかしながら、5−フェニルバレレート又は8−フェニルオクタノエートを使用した場合にはPHAの収量はそれぞれ15〜18重量%及び7重量%と低かった。芳香族基質を10−ウンデセノエート(14mM又は27mM)と共に使用した場合には、PHAの収量は40〜50重量%に増加した。
【0067】
【表3】
【0068】
5−フェニルバレレートを10−ウンデセノエート(27mM)と組み合わせて使用した場合には、シュードモナス属微生物IPB−A36は2〜5%の芳香族モノマーを含むPHAポリマーを蓄積した。上記数値は低いものだが、得られたポリマーの熱的特性における大きな変化が観察された。
【0069】
NMR分光法及びGC−MSによってPHAを調べた。結果を表4に示す。
【0070】
【表4】
【0071】
NMR分析結果は、10〜12%の飽和モノマー(3−ヒドロキシオクタノエート及び3−ヒドロキシデカノエート)の存在を示している。これらの飽和モノマーの存在は、微生物がβ−酸化に加えて他の代謝経路(例えば、脂肪酸のデノボ合成)を使用してポリヒドロキシアルカン酸を合成した結果であることが考えられる。2mMの5−フェニルバレレートを10−ウンデセノエートと共に流加にて使用した場合には、芳香族モノマーの相対的な割合は26モル%に達し、5mMの5−フェニルバレレートを使用した場合には、芳香族モノマーの相対的な割合は53モル%に増加した。
【0072】
5mMの8−フェニルバレレートを10−ウンデセノエートと共に流加にて使用した場合には、芳香族モノマーの割合は23モル%、不飽和モノマーの割合は65モル%、飽和(C8:0及びC10:0)モノマーの割合は12モル%となった。
【0073】
生成したPHAのさらなる分析データを表5に示す。
【0074】
【表5】
【0075】
異なる基質の組み合わせを使用してシュードモナス属微生物IPB−A36によって生成されたポリマーは同様な分子量分布を示した。ただし、シュードモナス属微生物IPB−A36 C11:1(14mM)+5PheVal(5mM)の場合には、分子量は有意に低くなり、PDIは最も高かった。表6に示すDSC分析結果も、分析した残りのPHAポリマーと比較した場合に上記ポリマーの異なる挙動を示唆している。
【0076】
【表6】
【0077】
実施例4
【0078】
C−Y培地又はC−Y(2N)培地内において、オレイン酸(1%)を基質として使用してシュードモナス属微生物IPB−A36を培養した。C−Y(2N)培地を使用した場合に最大のバイオマス(CDW:4.5g/L)及びPHA(2.1g/L)の収量が得られたが、PHAの蓄積(〜50重量%)は両方の条件において同様だった。
【0079】
GC−MS及びNMR分析によれば、得られたPHAポリマーは、8モル%の3OHC6:0、44.2モル%の3OHC8:0、24.5モル%の3OHC10:0、10.7モル%のC3OHC12:0及び12.6モル%の3OHC14:1(3OHC=3−ヒドロキシカルボン酸、14:1の最初の数字(14)は総炭素原子数であり、14:1の2番目の数字(1)は二重結合の数である)からなるものだった。上記ポリマーのその他の特性を表7に示す。
【0080】
【表7】
数値はGPC(ユニバーサルキャリブレーション)で測定した。M
p:ピーク最大値の分子量、M
n:数平均分子量、M
w:質量平均分子量、PDI:多分散指数、T
g:ガラス転移温度、T
g,c:冷却温度、Δc
p:Tgにおける熱容量の変化、T
d:融点、ΔH
d:融解エンタルピー。全てのデータは、2回目の加熱又は1回目の冷却時にDSCによって得た。
【0081】
実施例5
【0082】
C−Y(2N)培地内において、シュードモナス属微生物IPB−A36を半回分法で培養した(撹拌速度:400rpm、空気流量:3L/分、酸素分圧(pO
2):30%(培地に溶解し全気体に対する値、カスケード制御を使用して維持))。動力学的パラメータを算出し、0.075h
−1のμ
setを選択した。NH
4+を流加するために外部ポンプを使用した。計算に従って、炭素源が完全に消費されるように初期回分操作を15時間まで行った後、44時間の指数的な流加を行った。
【0083】
15時間の初期培養によって炭素源は完全に消費され(HPLC分析で検出)、指数的な流加を開始した。培養物はすぐに反応し、高い代謝活性のために酸素の需要が増加した。撹拌速度を最大(900rpm)まで増し、純酸素を供給した。培養過程の最後まで空気に混合する純酸素の割合を増加させる必要があり、28モル%に達した。
【0084】
バイオマス及びPHAの生成に関するデータを表8にまとめた。表8に示すデータは、40時間の培養後に微生物の増殖が停止したが、蓄積は継続したことを示しており、窒素消費に関して生じ得る問題を示唆している。
【0085】
【表8】
【0086】
PHA(重量%)の蓄積は発酵の初期段階でより高く、発酵過程にわたって45〜60重量%に達した。注目すべきことに、上記培養条件下では、シュードモナス属微生物IPB−A36は増殖するよりも多くのPHA(7.41g/L)の合成を行い、PHAを含まない残りのバイオマスは約4.5g/Lだった。
【0087】
実施例6
【0088】
実施例5と実質的に同様の条件により、C−Y(2N)培地内において、シュードモナス属微生物IPB−A36を改良した半回分法で培養した(撹拌速度:400rpm、空気流量:3L/分、pO
2:カスケード制御を使用して30%に固定)。動力学的パラメータを再度算出し、0.075h
−1のμ
setに固定した。14時間の初期回分発酵では2.5g/LのC11:1を使用して回分培養を行い、その後45時間の指数的な流加を行った。
【0089】
14時間の初期培養によって炭素源は完全に消費され(HPLC分析で検出)、指数的な流加を開始した。回分培養における増殖過程は予想よりも早く、10時間の培養後終了した。指数的な流加を開始した直後に培養物は反応し、必要な撹拌及び高い代謝活性による酸素消費量が劇的に増加した。撹拌速度を1400rpmまで増加させ、pO
2を30%に維持するために60%の純酸素を含む混合気体が必要だった。
【0090】
アンモニウムの流加はポリマーの蓄積に直接的な影響を与えた。PHAの蓄積は、最も増殖する段階(24〜36時間の培養時)で大きく減少した(
図2A、参照)。培地内のアンモニウム含有量を約400mg/L(約22mM)に維持して微生物を増殖させた(
図2B)。36時間の培養後にPHAの蓄積が再び開始した。これはアンモニウム消費量の減少によって示された。
【0091】
42時間の培養後、気泡形成の増加が観察された。培養を45時間で終了した。微生物によって生成されたPHAを単離したところ、細胞乾燥重量は22.5g/Lであり、PHA収量は8.9g/Lだった。
【0092】
実施例7
【0093】
PHA回収におけるPHA顆粒合体の影響を溶媒抽出法によって評価した。2種類の異なる溶媒(アセトン及びクロロホルム)内において、異なる抽出温度(室温及び80℃)及び異なる抽出時間(1時間及び3時間)によりPHAの抽出を行った。(i)細胞質に沿って分布する複数の顆粒形成及び(ii)微生物細胞全体を占める単一の大きな顆粒の形成において観察される2種類の異なる形態を評価するために、2種類の異なる培養条件を選択した。
【0094】
C−Y培地内において、2種類の異なる炭素源濃度((a)27mMのC11:1、(b)27+27mMのC11:1(24時間の培養後に27mMのC11:1を添加))においてシュードモナス属微生物IPB−A36を30℃、200rpmで培養した。72時間の培養後に細胞を採取し、凍結乾燥した後、上述した異なる抽出条件で抽出した。40mgの凍結乾燥バイオマス試料を抽出管に入れ、対応する溶媒に再懸濁させて抽出した。PHA回収率を表9にまとめた。
【0095】
【表9】
【0096】
各抽出条件下において、クロロホルムを抽出溶媒として使用した場合に最も高いPHA回収率が得られた。27mMのC11:1を炭素源とした場合:44〜48%、27+27mMのC11:1を炭素源とした場合:58〜60%であった。
【0097】
クロロホルム(3時間、80℃)による典型的な抽出におけるPHA回収率を最大(100%)とみなし、2種類の顆粒形態間に何らかの差があるか否かを評価するための相対的なPHA回収率を算出するための対照とした。抽出時間にかかわらず、クロロホルムによる室温での抽出は、2種類の顆粒形態間でわずかな差(約5%)を示した。27mMのC11:1を使用した場合(複数の顆粒)の相対的なPHA回収率は95%であり、27+27mMのC11:1を使用した場合(単一の大きな顆粒)の相対的なPHA回収率は100%だった。クロロホルムを80℃で使用した場合には、相対的なPHA回収率(相対%)の差はみられなかった。アセトンを溶媒として使用した場合には、クロロホルム(95〜100相対%)を使用した場合よりも相対的なPHA回収率は低く(85〜95相対%)、2種類の顆粒形態間でわずかな差(5〜8相対%)が検出された。相対的なPHA回収率の5〜8%の上昇がみられた。