【実施例】
【0044】
以下、実施例によって本発明についてさらに説明するが、以下の実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0045】
実施例1
【0046】
PHAの製造に最適な培地を選択するために、オレイン酸(1%)を炭素源として含む100mLの培地を入れた500mLフラスコ内において、シュードモナス属微生物IPB−B26及びシュードモナス属微生物N−128を30℃で200rpmの撹拌下においてそれぞれ培養した。72時間の培養後、細胞を分析のために採取した。以下の培地について試験を行った。
1.E2培地(Vogel & Borner, 1956, J. Biol. Chem. 218: 97−106)
2.MM培地+0.1%酵母抽出物(Martinez−Blanko et al., 1990, J. Biol. Chem. 265: 7084−7090)
3.通常又は2倍の窒素濃度(0.66g/L又は1.32g/L(NH
4)
2SO
4)を有するC−Y培地(Choi et al., 1994, Appl. Environ. Microbiol. 60: 3245−3254)。
【0047】
結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
N−128及びIPB−B26は各培地内で増殖した。MM+0.1%酵母抽出物を発酵培地として使用した場合、PHA生成量はIPB−B26の方が少なかった。なお、C−Y培地を使用した場合は、IPB−B26のPHA蓄積は54重量%だった。しかしながら、各微生物について、C−Y培地を使用した場合のバイオマス生成量は、他の2種類の培地(E2及びMM+0.1%酵母抽出物)を使用した場合よりも少なかった。C−Y培地中のアンモニウム濃度を2倍に増加させた場合に、シュードモナス属微生物N−128の場合にはバイオマス生成量を3.64g/L(PHA蓄積:約48重量%)に増加させ、シュードモナス属微生物IPB−B26の場合にはバイオマス生成量を5.03g/L(PHA蓄積:約41重量%)に増加させることができた。
【0050】
通常、C−Y(2N)培地及びE2培地を使用した場合には、PHAの収量は最も高くなった。ただし、PHAの収量は同等だったが、バイオマス生成量はE2培地を使用した場合に有意に増加した。従って、E2培地が好ましい培地であると考えられた。
【0051】
実施例2
【0052】
炭素源をオレイン酸(1%)からオクタン酸(20mM)、グリセリン(3%)又は粗製グリセリン(3%)に変更した以外は、実施例1と同様にシュードモナス属微生物N−128及びIPB−B26を培養した(培地:E2培地)。結果を表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
グリセリン及び粗製グリセリンは各微生物に対して良好な基質であったが、オレイン酸を使用した場合に得られたPHA収量は有意に高かった。
【0055】
実施例3
【0056】
オレイン酸及びグリセリンを基質として得られたPHAポリマーを精製し、NMR及びGCMSによって分析した。結果を表3に示す。
【0057】
【表3】
【0058】
オレイン酸を使用して得られた2種類のPHAのうち、シュードモナス属微生物IPB−B26によって生成されたPHAは、シュードモナス属微生物N−128によって生成されたPHAと比較して広範なモノマー組成を有しており、炭素原子数が4〜14の範囲のモノマーを含んでいた。予期せぬことに、炭素原子数が奇数である3−ヒドロキシ吉草酸(3OHC5)が含まれていた。オレイン酸を使用して得られたPHAは、3OHC6(約5モル%)、3OHC8(27〜32モル%)、3OHC10(27〜32モル%)、3OHC12(9〜12モル%)及び3OHC14:1(10〜14モル%)を含んでいた(なお、14:1は総炭素原子数が14であり、二重結合の数が1であることを意味する)。
【0059】
グリセリンを使用して得られたPHAは、オレイン酸を使用して得られたPHAと比較して不飽和モノマー3OHC12:1及び3OHC14:1の含有量が特に異なっていた。主要なモノマー単位は、オレイン酸を使用して得られたPHAと同様に3OHC8(22.1モル%)と3OHC10(42.9モル%)だった。一方、3OHC12:1モノマー含有量(12モル%以下)は増加し、3OHC14:1モノマー含有量(2モル%)は減少した。
【0060】
グリセリンを使用してシュードモナス属微生物IPB−B26を培養すると、有意に低い分子量分布を有するが、同様な多分散指数を有するPHAポリマーが得られた(表4を参照)。
【0061】
【表4】
【0062】
得られたポリマーの熱的特性を表5に示す。
【0063】
【表5】
【0064】
各ポリマーは、モノマー組成は異なるが、同様なガラス転移温度(−48℃以下)及び約297〜300℃の分解温度を有しており(表5)、炭素原子数が5未満の短鎖モノマーの存在はポリマーの熱的挙動に影響を与えていないことを示唆している。
【0065】
実施例4
【0066】
オレイン酸を使用したシュードモナス属微生物IPB−B26の回分発酵
E2培地内において、10g/Lのオレイン酸を基質として使用してシュードモナス属微生物IPB−B26を培養した。撹拌速度は400rpmに設定し、温度は30℃に設定し、空気流量は1L/分に設定し、pO2(酸素分圧)は30%に固定し、カスケード制御によって維持した。
【0067】
播種直後に細胞増殖が開始した。pO
2は最初の4時間で60%減少したにもかかわらず、増殖速度は低下し、培養時間が30時間に達する前に撹拌によってpO
2を調節しなければならなかった。これは、代謝活性が最大であったことを示している。
図1は、シュードモナス属微生物IPB−B26の回分発酵時におけるバイオマス及びPHAの生成速度プロファイル、及びアンモニウム消費量を示す(数値は2回の測定の平均値である)。増殖及びPHA生成曲線によれば、培養時間が30時間から43時間の時にバイオマス及びPHAの生成速度は最大となっている(
図1を参照)。
【0068】
培養時間が43時間となった時にPHA蓄積量は最大(43重量%)に達し、その後110時間までほぼ一定(40〜43重量%)に推移していた。気泡形成の問題は検出されなかった。
【0069】
最も高いバイオマス及びPHAの収量は培養を50時間行った時に得られた(それぞれ5.5g/L及び2.4g/L)。PHAの蓄積は最大で43重量%だった(
図1)。上清のHPLC分析結果では、発酵の終了時点において基質が完全に消費されていなかったことを示しているが、アンモニウムは、PHAの最高収量に関連して36時間の培養後に完全に枯渇した。
【0070】
70時間の培養後、PHAの蓄積をさらに増加させるために0.5%オレイン酸を添加したが、基質は消費されず、PHAの蓄積の変化は検出されなかった。
【0071】
実施例5
オレイン酸を使用したシュードモナス属微生物IPB−B26の半回分発酵
【0072】
微生物−基質の比増殖速度(μ)及びバイオマス転化収率(Y
x/s)は、指数的な流加の設計のために以下の式に従って算出されるパラメータである。
【0073】
【数2】
【0074】
式中、F(t)は培養時の炭素源の流量であり、V
0は培養物の量(3L)であり、Y
x/sはバイオマスの収量であり、X
0は回分培養後の初期バイオマスであり、μ
setは所望の比成長速度である。
【0075】
3g/Lのオレイン酸を含むE2培地内において、シュードモナス属微生物IPB−B26を培養した(撹拌速度:400rpm、空気流量:3L/分、pO
2:カスケード制御を使用して30%に固定)。動力学的パラメータは以下の通りである:μ
set:0.1h
−1、S
o:2.67g/L、Y
X/S:0.89g/g。12時間の初期発酵では3.0g/Lのオレイン酸を使用して回分培養を行い、その後24時間の指数的な流加を行い、最終段階では1g/L/hのオレイン酸を流加した。指数的な流加時には、pHstat制御装置を使用してアンモニウムをNH
4OH(14%v/v)として添加した。さらに、Mg
2+を0.033g MgSO
4/1g オレイン酸の比率で添加した(
図2)。
【0076】
撹拌速度を上昇させると、細胞は直ちに成長を開始した。12時間の初期培養によって炭素源は完全に消費され(
図3)、その後の24時間にわたって指数的な流加を行った。
【0077】
培養時には撹拌速度を800〜1000rpmに維持し、最も成長する段階(24〜40時間の培養時)で撹拌速度を上昇させた。38時間の培養後、指数的な流加及びアンモニウムの添加を停止し、3g/Lのオレイン酸を添加した後、10時間の直線的な流加を行った。直線的な流加後、HPLC分析において、炭素源及び窒素源は完全に消費されておらず、培養時間が68時間となるまで発酵を行った。68時間の培養によって炭素源及び窒素源は完全に消費された(
図3)。しかしながら、44時間から68時間の間にバイオマス及びポリマー生成量の有意な変化は観察されなかった(表6及び
図4)。
【0078】
最も高いバイオマス及びPHAの収量は発酵を48時間行った時に得られた(それぞれ46.2g/L及び25.3g/L)。指数的な流加時には主にバイオマスが生成され、最大のPHA蓄積は直線的な流加の終了時に生じ、48時間の培養後のPHA蓄積は55重量%となった(表6及び
図4)。
【0079】
【表6】
【0080】
発酵過程において酸素の需要が低いこと(
図3の履歴プロットを参照)は、特に発酵の最終段階においてシュードモナス属微生物IPB−B26によって得られた高い細胞密度(OD
550nm:250)を考慮すると顕著である。実際に、pO
2は空気流と撹拌によって完全に制御されていた。気泡形成は、指数的な流加の最終段階で3mLの消泡剤を添加することによって制御することができた。
【0081】
表7に回分法(実施例4)と半回分法の比較を示す。
【0082】
【表7】
【0083】
シュードモナス属微生物IPB−B26は、半回分法を使用して5Lバイオリアクタにおける発酵にアップスケールすることができ、48時間培養後のバイオマス及びPHAの生成量はそれぞれ46.1g/L及び25.3g/Lだった。上記収量は初期培養と比較して10倍に増加しており、環境株であるシュードモナス属微生物IPB−B26の発酵過程におけるPHA生成持続性を示唆している。
【0084】
得られたポリマーのモノマー組成をNMR及びGC−MS分析によって決定した。ポリマーは、C4:0(0.5モル%)、C6:0(5.2モル%)、C8:0(38.7モル%)、C10:0(29.3モル%)、C12:0(14.6モル%)、C14:0(0.8モル%)及びC14:1(10.9モル%)をモノマー単位として含んでいた。C4:0単位は含有量が少ない(0.5モル%)ため、NMR分析によって検出することができなかったが、GC−MS分析によって確認された。得られたモノマー組成は、フラスコ実験において上述した微生物と基質の組み合わせについて報告されているモノマー組成と同様だった。