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特開2015-63721真空アーク蒸着法、真空アーク蒸着装置および真空アーク蒸着法を用いて製造された薄膜ならびに物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-63721(P2015-63721A)
(43)【公開日】2015年4月9日
(54)【発明の名称】真空アーク蒸着法、真空アーク蒸着装置および真空アーク蒸着法を用いて製造された薄膜ならびに物品
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20150313BHJP
【FI】
   C23C14/24 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-197243(P2013-197243)
(22)【出願日】2013年9月24日
(71)【出願人】
【識別番号】591029699
【氏名又は名称】日本アイ・ティ・エフ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 健治
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 尚登
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029AA02
4K029BA60
4K029BD04
4K029CA04
4K029DB03
4K029DB08
4K029DD06
(57)【要約】
【課題】大口径の陰極を用いた場合でも、陰極表面において陰極材料を均一に消耗させて陰極の利用効率を向上させることができ、コーティングコストの低減を図ることができる真空アーク蒸着技術を提供する。
【解決手段】アーク放電によって陰極材料を蒸発させることにより、基材上に成膜を行う真空アーク蒸着法であって、陰極に電流を導入するための電流導入端子を複数箇所に配置して、陰極材料に放電電流を流すことによりアーク放電を行って、基材上に蒸着膜を形成する真空アーク蒸着法。アーク放電によって陰極材料を蒸発させることにより、基材上に成膜を行う真空アーク蒸着装置であって、陰極に電流を導入するための電流導入端子が複数箇所に配置されており、陰極材料に放電電流を流すことによりアーク放電を行って、基材上に蒸着膜を形成するように構成されている真空アーク蒸着装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アーク放電によって陰極材料を蒸発させることにより、基材上に成膜を行う真空アーク蒸着法であって、
陰極に電流を導入するための電流導入端子を複数箇所に配置して、前記陰極材料に放電電流を流すことによりアーク放電を行って、前記基材上に蒸着膜を形成する
ことを特徴とする真空アーク蒸着法。
【請求項2】
前記電流導入端子を、前記電流導入端子の中心が略正多角形の頂点に一致するように配置することを特徴とする請求項1に記載の真空アーク蒸着法。
【請求項3】
前記電流導入端子が、面状に形成された電流導入端子であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の真空アーク蒸着法。
【請求項4】
アーク放電によって陰極材料を蒸発させることにより、基材上に成膜を行う真空アーク蒸着法であって、
陰極に電流を導入するための電流導入端子として、リング状の形状またはリング状の一部が欠けた形状を有する帯状に形成された1つの電流導入端子を配置して、前記陰極材料に放電電流を流すことによりアーク放電を行って、前記基材上に蒸着膜を形成する
ことを特徴とする真空アーク蒸着法。
【請求項5】
アーク放電によって陰極材料を蒸発させることにより、基材上に成膜を行う真空アーク蒸着法であって、
陰極に電流を導入するための電流導入端子として、略正多角形状の周縁部に沿った形状または略正多角形状の周縁部に沿った形状の一部が欠けた形状を有する帯状に形成された1つの電流導入端子を配置して、前記陰極材料に放電電流を流すことによりアーク放電を行って、前記基材上に蒸着膜を形成する
ことを特徴とする真空アーク蒸着法。
【請求項6】
アーク放電によって陰極材料を蒸発させることにより、基材上に成膜を行う真空アーク蒸着装置であって、
陰極に電流を導入するための電流導入端子が複数箇所に配置されており、前記陰極材料に放電電流を流すことによりアーク放電を行って、前記基材上に蒸着膜を形成するように構成されている
ことを特徴とする真空アーク蒸着装置。
【請求項7】
前記電流導入端子が、前記電流導入端子の中心が略正多角形の頂点に一致するように配置されていることを特徴とする請求項6に記載の真空アーク蒸着装置。
【請求項8】
前記電流導入端子が、面状に形成された電流導入端子であることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の真空アーク蒸着装置。
【請求項9】
アーク放電によって陰極材料を蒸発させることにより、基材上に成膜を行う真空アーク蒸着装置であって、
陰極に電流を導入するための電流導入端子として、リング状の形状またはリング状の一部が欠けた形状を有する帯状に形成された1つの電流導入端子が配置されており、前記陰極材料に放電電流を流すことによりアーク放電を行って、前記基材上に蒸着膜を形成するように構成されている
ことを特徴とする真空アーク蒸着装置。
【請求項10】
アーク放電によって陰極材料を蒸発させることにより、基材上に成膜を行う真空アーク蒸着装置であって、
陰極に電流を導入するための電流導入端子として、略正多角形状の周縁部に沿った形状または略正多角形状の周縁部に沿った形状の一部が欠けた形状を有する帯状に形成された1つの電流導入端子が配置されており、前記陰極材料に放電電流を流すことによりアーク放電を行って、前記基材上に蒸着膜を形成するように構成されている
ことを特徴とする真空アーク蒸着装置。
【請求項11】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の真空アーク蒸着法を用いて基材上に成膜されていることを特徴とする薄膜。
【請求項12】
請求項11に記載の薄膜を備えていることを特徴とする物品。
【請求項13】
請求項12に記載の物品が使用されていることを特徴とする製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は真空アーク蒸着法、真空アーク蒸着装置および真空アーク蒸着法を用いて製造された薄膜ならびに物品に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマCVD法、真空蒸着法、スパッタリング法、真空アーク蒸着法等、プラズマを用いた表面処理法は、工具、金型、摺動材等の表面に耐摩耗性皮膜を形成する手法として広く用いられており、機械部品や電子部品等の分野で広く利用されている。
【0003】
中でも、真空アーク蒸着法は、陽極と陰極の間にアーク放電を生じさせ、陰極材料を蒸発させて基材に蒸着するという成膜方法であり、プラズマ密度が高いだけでなく、イオン化率も他のスパッタリング法などの場合には1%以下であるのに対して、60〜70%と遥かに高い。
【0004】
このため、膜応力の制御がしやすく、また表面処理用基材と所望の膜との間の界面に混合層を有効に形成して極めて密着性の高い膜を形成させることができるという特徴があり、また、生産性にも優れているため、切削工具、摺動部品等への利用が多くなっている(例えば、特許文献1)。
【0005】
真空アーク蒸着装置の基本的な構成を図5に示す。図5に示すように、真空アーク蒸着装置は、真空チャンバー1、陰極2、基材3、電源4、7、バッキングプレート6、電流導入端子8、および基材ホルダー9を備えている。ここで、電源4は基材ホルダー9を介して基材3に負電位を印加する電源であり、電源7はバッキングプレート6に保持された陰極2に電流導入端子8を介して負電位を印加する電源である。なお、これらの電源としては直流電源またはパルス電源が用いられる。また、真空チャンバー1は接地電位に保たれている。
【0006】
上記の構成の真空アーク蒸着装置を用いての成膜は以下のように行われる。まず、電源7により負電位が与えられた陰極2と接地された真空チャンバー1との間にアーク放電を起こさせてプラズマ5を形成し、陰極2の表面から陰極材料を蒸発させてイオン化させる。イオン化された陰極材料は、負電位にバイアスされた基材3の表面に打ち込まれ、基材3上に成膜される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−92380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような真空アーク蒸着法において、近年、コスト低減を目指して、陰極をより大口径にして成膜を行うことが試みられたが、大口径の陰極表面において陰極材料の消耗を均一に保つことが難しいために陰極の利用効率が低下して、却ってコーティングコストの上昇を招く恐れがあった。
【0009】
そこで、本発明は、大口径の陰極を用いた場合でも、陰極表面において陰極材料を均一に消耗させて陰極の利用効率を向上させることができ、コーティングコストの低減を図ることができる真空アーク蒸着技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、従来の真空アーク蒸着技術において、大口径の陰極を用いた場合、陰極表面において陰極材料の消耗を均一に保つことが難しくなる原因について、種々の実験に基づいて鋭意検討を行った。その結果、従来の真空アーク蒸着技術では、大口径の陰極を用いた場合、アークスポットを正確に制御することができないため、陰極材料の均一な消耗を図ることが困難となっていたことが分かった。
【0011】
即ち、大口径の陰極を用いる場合には、磁場を用いてより正確にアークスポットを制御する必要があるため、陰極の裏側中心位置近傍に磁場発生機構が配置されることがある。図6は、このような磁場発生機構の配置の一例を説明する図であり、磁場発生機構11が陰極2の裏側中心位置近傍に配置されて、回転することにより、アークスポットが正確に制御されるようになっている。なお、図6において、(a)は側面図、(b)は(a)のA−A’矢視図である。
【0012】
しかしながら、このように磁場発生機構11を陰極2の裏側中心位置近傍に配置した場合には、図5の場合と異なり、図7に示すように、電源7から陰極2に負電位を印加するための電流導入端子8を、バッキングプレート6や陰極2の中央近傍に配置することができなくなる。
【0013】
このように電流導入端子が陰極の中央近傍に配置されていない場合、放電電流が電流導入端子に流れる際に発生する磁場が陰極表面に漏れる。そして、この漏れた磁場が強いと、アークスポットを制御するために磁場発生機構により形成された磁場に影響を及ぼし、電流導入端子の付近で磁場の局所的な変化を生じさせる。具体的には、2つの磁場が干渉することにより、アークスポットを制御するための磁場が局所的に弱められて、アークスポットの速度が他の箇所に比べて遅くなり、その箇所における陰極材料の消耗が激しくなる。
【0014】
この結果、アークスポットの制御が不正確になり、陰極表面において陰極材料の均一な消耗を図ることが困難となって、陰極の利用効率が低下する。
【0015】
そこで、本発明者は、放電電流によって、電流導入端子の付近に発生して陰極の表面側に漏れる磁場を弱くして、磁場発生機構により形成される磁場に及ぼす影響を小さくする方法について、種々の実験を行って鋭意検討した。
【0016】
その結果、電流導入位置である電流導入端子を複数箇所に配置することにより、電流導入端子の付近に発生して陰極の表面側に漏れる磁場を弱くすることができ、磁場発生機構により形成される磁場に及ぼす影響を小さくすることができ、アーク放電時、アークスポットを正確に制御することができることを見出した。
【0017】
即ち、電流導入端子を複数箇所に配置することにより、電流導入端子が1箇所の場合に比べて、電流導入端子1箇所当たりに流れる放電電流が小さくなる。それに合わせて、放電電流により電流導入端子付近に発生する磁場も弱くなり、陰極表面に漏れる磁場も弱くなる。この結果、磁場発生機構により形成される磁場に及ぼす影響が小さくなって、アークスポットを制御するために磁場に生じる局所的な変化が小さくなるため、アークスポットをほぼ正確に制御することができ、陰極表面において陰極材料を略均一に消耗させることができる。
【0018】
そして、電流導入端子は多く配置されているほど、磁場発生機構により形成される磁場に及ぼす影響を小さくすることができ、陰極表面をより均一に消耗させることができ、陰極の利用効率をより向上させることができることが分かった。
【0019】
また、これら複数の電流導入端子の配置については、陰極表面に漏れた磁場が磁場発生機構により形成される磁場に及ぼす影響を小さくすることができる限り、対称性、非対称性に限定されないことが分かった。
【0020】
次に、本発明者は、上記した複数の電流導入端子のより好ましい配置箇所について検討を行った。
【0021】
その結果、単に複数箇所に電流導入端子を配置するのではなく、正四角形や正五角形などの正多角形の頂点に配置した場合、各電流導入端子の付近に発生して陰極の表面側に漏れる磁場が、空間的に均一になり、アークスポットを制御するために磁場に生じる局所的な変化をより小さくさせることができるため、アークスポットの制御においてより好ましいことが分かった。
【0022】
具体的には、例えば、電流導入端子を正四角形の頂点に配置する場合には、陰極の中心を通り互いに直交する2つの直線に対して対称な位置に電流導入端子を配置すればよい。なお、上記した「正多角形」は、厳密な正多角形に限定されず、略正多角形であってもよい。
【0023】
そして、電流導入端子を配置するに際しては、電流導入端子を点状に配置するのではなく、円状や弧状などの一定の大きさの面積を有する面状に形成された電流導入端子を配置することが好ましい。面積が大きい面状に形成された電流導入端子を配置した場合、電流導入端子と陰極との接触面積を増やすことができるため、電流導入端子付近に発生する磁場がさらに弱くなって、陰極表面に漏れる磁場がさらに弱くなる。この結果、磁場発生機構により形成される磁場に及ぼす影響がさらに小さくなる。
【0024】
また、電流導入端子の面積をさらに広げて陰極表面を広く覆うように、帯状に電流導入端子が形成されている場合には、1つの電流導入端子であっても電流導入端子と陰極との接触面積を増やすことができるため、複数箇所に電流導入端子を配置する必要がなくなると共に、電流導入端子から陰極表面に漏れ出る磁場を弱くすることができる。また、電流導入端子をこのような大面積で形成することにより、陰極表面において磁場が均一に漏れるため、磁場発生機構により形成される磁場に及ぼす影響を一層小さくすることができる。このような帯状に形成された電流導入端子としては、リング状の形状またはリング状の一部が欠けた形状の電流導入端子や、略正多角形状の周縁部に沿った形状または略正多角形状の周縁部に沿った形状の一部が欠けた形状の電流導入端子を挙げることができる。
【0025】
請求項1〜12に記載の発明は、この知見に基づくものであり、
請求項1に記載の発明は、
アーク放電によって陰極材料を蒸発させることにより、基材上に成膜を行う真空アーク蒸着法であって、
陰極に電流を導入するための電流導入端子を複数箇所に配置して、前記陰極材料に放電電流を流すことによりアーク放電を行って、前記基材上に蒸着膜を形成する
ことを特徴とする真空アーク蒸着法である。
【0026】
そして、請求項2に記載の発明は、
前記電流導入端子を、前記電流導入端子の中心が略正多角形の頂点に一致するように配置することを特徴とする請求項1に記載の真空アーク蒸着法である。
【0027】
請求項3に記載の発明は、
前記電流導入端子が、面状に形成された電流導入端子であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の真空アーク蒸着法である。
【0028】
請求項4に記載の発明は、
アーク放電によって陰極材料を蒸発させることにより、基材上に成膜を行う真空アーク蒸着法であって、
陰極に電流を導入するための電流導入端子として、リング状の形状またはリング状の一部が欠けた形状を有する帯状に形成された1つの電流導入端子を配置して、前記陰極材料に放電電流を流すことによりアーク放電を行って、前記基材上に蒸着膜を形成する
ことを特徴とする真空アーク蒸着法である。
【0029】
請求項5に記載の発明は、
アーク放電によって陰極材料を蒸発させることにより、基材上に成膜を行う真空アーク蒸着法であって、
陰極に電流を導入するための電流導入端子として、略正多角形状の周縁部に沿った形状または略正多角形状の周縁部に沿った形状の一部が欠けた形状を有する帯状に形成された1つの電流導入端子を配置して、前記陰極材料に放電電流を流すことによりアーク放電を行って、前記基材上に蒸着膜を形成する
ことを特徴とする真空アーク蒸着法である。
【0030】
また、請求項6に記載の発明は、
アーク放電によって陰極材料を蒸発させることにより、基材上に成膜を行う真空アーク蒸着装置であって、
陰極に電流を導入するための電流導入端子が複数箇所に配置されており、前記陰極材料に放電電流を流すことによりアーク放電を行って、前記基材上に蒸着膜を形成するように構成されている
ことを特徴とする真空アーク蒸着装置である。
【0031】
そして、請求項7に記載の発明は、
前記電流導入端子が、前記電流導入端子の中心が略正多角形の頂点に一致するように配置されていることを特徴とする請求項6に記載の真空アーク蒸着装置である。
【0032】
請求項8に記載の発明は、
前記電流導入端子が、面状に形成された電流導入端子であることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の真空アーク蒸着装置である。
【0033】
請求項9に記載の発明は、
アーク放電によって陰極材料を蒸発させることにより、基材上に成膜を行う真空アーク蒸着装置であって、
陰極に電流を導入するための電流導入端子として、リング状の形状またはリング状の一部が欠けた形状を有する帯状に形成された1つの電流導入端子が配置されており、前記陰極材料に放電電流を流すことによりアーク放電を行って、前記基材上に蒸着膜を形成するように構成されている
ことを特徴とする真空アーク蒸着装置である。
【0034】
請求項10に記載の発明は、
アーク放電によって陰極材料を蒸発させることにより、基材上に成膜を行う真空アーク蒸着装置であって、
陰極に電流を導入するための電流導入端子として、略正多角形状の周縁部に沿った形状または略正多角形状の周縁部に沿った形状の一部が欠けた形状を有する帯状に形成された1つの電流導入端子が配置されており、前記陰極材料に放電電流を流すことによりアーク放電を行って、前記基材上に蒸着膜を形成するように構成されている
ことを特徴とする真空アーク蒸着装置である。
【0035】
次に、請求項11に記載の発明は、
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の真空アーク蒸着法を用いて基材上に成膜されていることを特徴とする薄膜である。
【0036】
これらの真空アーク蒸着法を用いることにより、前記したように、陰極の利用効率を向上させて極めて安価にコーティングを行うことが可能となるため、コーティングコストが安価な薄膜を提供することができる。
【0037】
次に、請求項12に記載の発明は、
請求項11に記載の薄膜を備えていることを特徴とする物品である。
【0038】
コーティングコストが安価な薄膜が基材上に形成されているため、機械部品、自動車部品、金型などの物品を安価に提供することができる。
【0039】
次に、請求項13に記載の発明は、
請求項12に記載の物品が使用されていることを特徴とする製品である。
【0040】
安価な機械部品、自動車部品、金型などの物品が使用されているため、機械、自動車、その他のシステムなどの製品を安価に提供することができる。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、大口径の陰極を用いた場合でも、陰極表面において陰極材料を均一に消耗させて陰極の利用効率を向上させることができ、コーティングコストの低減を図ることができる真空アーク蒸着技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】本発明の一実施の形態に係る真空アーク蒸着装置の構成を示す図である。
図2】本発明の一実施の形態に係る真空アーク蒸着装置の陰極の一例を模式的に示す図である。
図3】本発明の他の実施の形態に係る真空アーク蒸着装置の陰極を模式的に示す図である。
図4】本発明のさらに他の実施の形態に係る真空アーク蒸着装置の陰極を模式的に示す図である。
図5】真空アーク蒸着装置の基本的な構成を示す図である。
図6】磁場発生機構の配置の一例を説明する図である。
図7】従来の真空アーク蒸着装置に大口径の陰極を配置したときの様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明を実施の形態に基づいて説明する。
【0044】
1.真空アーク蒸着装置
はじめに、本実施の形態に係る真空アーク蒸着装置について説明する。図1は、本実施の形態に係る真空アーク蒸着装置の構成を示す図であり、真空チャンバー1、陰極2、基材3、電源4、7、バッキングプレート6、電流導入端子8、および基材ホルダー9を備えており、電源4、7として直流電源またはパルス電源が用いられる点では、図5に示した従来の真空アーク蒸着装置の構成と基本的に同じ構成である。なお、図1に示す真空アーク蒸着装置には、アークスポットの速度および位置制御を行うために、図示しない磁場発生機構が陰極2の裏側中心位置近傍に配置されている。また、図示していないターボ分子ポンプ、ロータリーポンプなどの排気系およびガス導入系に配置されている。さらに、必要に応じて、図示してないトリガーなどが配置されている場合もある。
【0045】
本実施の形態に係る真空アーク蒸着装置は、陰極2に電流導入端子8が複数箇所に設けられている点で、図5に示した真空アーク蒸着装置と相違している。
【0046】
具体的には、例えば、図2に示すように、端子番号1〜4の4箇所に電流導入端子8が配置されている。
【0047】
これにより、前記したように、電流導入端子8が1箇所に配置されている場合に比べて1箇所当たりに流れる放電電流が小さくなり、電流導入端子8付近に発生する磁場が弱くなる。この結果、陰極2表面に漏れる磁場も弱くなり、アークスポットを制御するための磁場に対する影響が小さくなる。
【0048】
また、電流導入端子8が正四角形の頂点に配置されていることにより、放電電流により陰極2表面に漏れる磁場は空間的に均一化され、アークスポットの制御における局所的な磁場の変化を充分に緩和させることができる。この結果、成膜に際して、陰極2の表面が均一に消耗されて、陰極2の利用効率が高くなり、極めて安価なコーティングを実現することが可能となる。
【0049】
さらに、電流導入端子8が正四角形に配置された図2に限らず、正三角形や正五角形などの正多角形の頂点に配置されている場合、放電電流により陰極2表面に漏れる磁場は空間的に均一化される。このとき、空間的に均一化される程度は、電流導入端子8の個数が多いほど大きくなり、陰極2の利用効率がさらに高くなり、極めて安価なコーティングを実現することが可能となる。
【0050】
なお、電流導入端子8の形状は、図2に示すような円形状に限定されず、図3(a)や図3(b)に示すような一定の大きさの面積を有する面状に形成されていてもよい。なお、図3(a)では円弧状に形成された電流導入端子8が等間隔に配置されており、図3(b)では長方形状に形成された電流導入端子8が放射状に配置されている。
【0051】
このように面積が大きく広がった形状の電流導入端子8を配置することにより、電流導入端子8と陰極2との接触面積を増やすことができるため、より陰極表面に漏れる磁場をさらに弱くさせることができる。この結果、アークスポットの制御における局所的な磁場の変化をより充分に緩和させることができ、より確実に陰極2の表面を均一に消耗させて、利用効率をより高めることができる。
【0052】
そして、電流導入端子の面積をさらに広げて、例えば、図4(a)に示すようなリング状、図4(b)に示すような正四角形状の周縁部に沿った形状、図4(c)に示すようなリング状で一部が欠けた形状、図4(d)に示すような正四角形の周縁部に沿った形状の一部が欠けた形状等の帯状に形成されていてもよい。このような電流導入端子8を形成することにより、電流導入端子と陰極との接触面積を増やすことができ、電流導入端子から陰極表面に漏れ出る磁場を弱くすることができる。そして、複数箇所に電流導入端子を配置する必要がなくなる。
【0053】
なお、図1においては、電流導入端子8がバッキングプレート6を介して配置されているが、バッキングプレート6を支持するフランジ等を介して配置されていてもよい。
【0054】
2.真空アーク蒸着方法
次に、上記の構成の真空アーク蒸着装置を用いた真空アーク蒸着方法について、図1に基づいて説明する。
【0055】
まず、前記したターボ分子ポンプ、ロータリーポンプなどの排気系を用いて真空チャンバー1内を所定の真空度まで真空排気する。その後、ガス導入系により、窒素ガスや酸素ガスなどを導入し、バッキングプレート6に保持・固定された陰極2と真空チャンバー1との間に、電源7によってアーク放電を開始させ、プラズマ5を形成し、陰極2から陰極材料を蒸発させ、電源4によって負電位にバイアスされた基材3に成膜する。
【0056】
このとき、電源7により印加される負電位は、正四角形の頂点に配置された複数の電流導入端子8から分散されて導入されるため、前記したように、電流導入端子8付近に発生する磁場が弱くかつ空間的に均一になり、アークスポットが適切に制御される。この結果、成膜に際して、陰極2の表面が均一に消耗されて、陰極2の利用効率が高くなり、極めて安価なコーティングを実現することができる。
【0057】
3.真空アーク蒸着方法によって形成される薄膜および薄膜形成で製造される物品
上記した真空アーク蒸着方法においては、陰極材料の種類、成膜時に導入されるガスの種類によって種々の薄膜を成膜することができる。具体的には、例えば陰極にTiを用い、導入ガスに窒素、酸素を用いた場合には、それぞれTiN、TiOの薄膜が成膜され、また、陰極にCrを用い、導入ガスに窒素を用いた場合には、CrNの薄膜が形成される。そして、陰極にCを用い、ガスを導入しないで蒸着を行った場合には、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)を成膜することができる。
【0058】
このような成膜技術を適用することにより、優れた品質の機械部品、自動車部品、金型などの物品を安価に製造することができる。また、これらの物品が使用されている機械、自動車、その他のシステムを安価に提供することができる。
【実施例】
【0059】
以下に実施例に基づき本発明をより具体的に説明する。
【0060】
1.成膜
(比較例1)
図1に示した真空アーク蒸着装置において、陰極2として、直径152mmφ、厚み12mmのTi製陰極を用い、窒素ガスを導入してSKH51製基材上にTiNを成膜した。
【0061】
なお、このとき、窒素ガスの導入量は300CCM、成膜室の真空度は5.2Pa、アーク電流(放電電流)は150A、蒸発源の運転時間は800minとし、電流導入端子を図2に示した端子番号2の1箇所のみとして成膜を行った。
【0062】
(比較例2)
電流導入端子を図2に示した端子番号4の1箇所のみとしたこと以外は比較例1と同様にして成膜を行った。
【0063】
(実施例)
電流導入端子を図2に示した端子番号1〜4の4箇所としたこと以外は比較例1と同様にして成膜を行った。なお、このとき、電流導入端子1箇所当たりに流れるアーク電流は150/4Aとなる。
【0064】
2.評価方法および評価結果
成膜終了後、各比較例および実施例毎に、端子番号1〜4の各電流導入端子近傍の陰極2の厚みを測定し、消耗量(厚みの減少量)を求めた。評価結果をまとめて表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
表1より、比較例1、比較例2では陰極が偏って消耗することが確認できた。具体的には、比較例1では電流導入端子である端子番号2近傍の消耗量が1.6mmと最大で、端子番号2から最も離れた端子番号4近傍で0.8mmと最小であり、端子番号1、3は中間の1.1mmであった。
【0067】
また、比較例2では電流導入端子である端子番号4近傍の消耗量が1.8mmと最大で、端子番号4から最も離れた端子番号2近傍で0.9mmと最小であり、端子番号1、3はそれぞれ中間の1.5mm、1.0mmであった。
【0068】
この結果から、電流導入端子が配置された近傍において、陰極の消耗が著しく激しいことが確認できた。これは、前記したように電流導入端子付近の放電電流によって発生した磁場が陰極表面に漏れ、その結果、アークスポットを制御している磁場と干渉して磁場を弱め、アークスポットの速度が遅くなることによって陰極の消耗が激しくなったものと考えられる。
【0069】
これに対して、電流導入端子を端子番号1〜4の4箇所とした実施例では、各端子近傍の消耗量が1.1〜1.3mmの範囲内にあり、陰極表面が略均一に消耗されている。この結果から、電流導入端子を複数箇所に配置することにより、陰極が略均一に消耗されて、陰極の利用効率を向上させることができることが確認された。
【0070】
以上、本発明を実施の形態に基づき説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0071】
1 真空チャンバー
2 陰極
3 基材
4、7 電源
5 プラズマ
6 バッキングプレート
8 電流導入端子
9 基材ホルダー
11 磁場発生機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7