【解決手段】渦巻ばね1は、内端20と、外端22と、内端20と外端22とを渦巻状に連結する渦巻部21と、を備える。渦巻部21は、渦巻部21の長手方向に延在する凸部210aを有する外面210と、凸部210aの内側に配置され長手方向に延在する第一凹部211aと、第一凹部211aに配置され長手方向に延在する第二凹部211bと、を有する内面211と、を有する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の渦巻ばねの実施の形態について説明する。
【0015】
<第一実施形態>
[渦巻ばねの構成]
まず、本実施形態の渦巻ばねの構成について説明する。
図1に、本実施形態の渦巻ばねの側面図を示す。
図2に、
図1のII−II方向断面図を示す。
図1、
図2に示すように、本実施形態の渦巻ばね1は、内端20と、渦巻部21と、外端22と、を備えている。
【0016】
図1に示すように、渦巻ばね1は、長尺帯状のばね材Sにより形成されている。自然状態(無荷重状態)において、渦巻部21は、アルキメデス曲線状を呈している。渦巻部21の延在方向(ばね材Sの長手方向)は、本発明の「長手方向」に対応している。渦巻部21の径方向(ばね材Sの板厚方向)は、「短手方向」に対応している。渦巻部21の軸方向は、「幅方向」に対応している。
【0017】
渦巻部21は、外面210と、内面211と、を備えている。外面210と内面211とは、互いに径方向に背向している。外面210は、内面211の径方向外側に配置されている。使用時においては、内端20は内端固定部材3に、外端22は外端固定部材4に、各々係止されている。内端固定部材3と外端固定部材4との相対的な周方向位置が変化することにより、渦巻ばね1は弾性変形する。
【0018】
図2に示すように、外面210は、凸部210aを備えている。凸部210aは、径方向外側に突出している。凸部210aは、渦巻部21の長手方向(周方向)全長に亘って、配置されている。内面211は、第一凹部211aと、第二凹部211bと、を備えている。第一凹部211aは、径方向外側に没入している。第一凹部211aは、渦巻部21の長手方向全長に亘って、配置されている。第二凹部211bは、第一凹部211aの幅方向(長手方向および短手方向に対して直交する方向)中央に配置されている。第二凹部211bは、径方向外側に没入している。第二凹部211bは、渦巻部21の長手方向全長に亘って、配置されている。
【0019】
図2に示すように、渦巻部21の短手方向の断面において、凸部210a、第一凹部211a、第二凹部211bは、各々、曲率一定の部分円弧状を呈している。このうち、凸部210aの曲率と、第一凹部211aの曲率と、は一致している。また、第二凹部211bの曲率は、第一凹部211aの曲率よりも、大きい。
【0020】
図3に、本実施形態の渦巻ばねの渦巻部の短手方向の断面における最大主応力分布を示す。
図3中、縦軸の「+」は引張側を、縦軸の「−」は圧縮側を、各々示している。
図2に示すように、渦巻部21を巻き締めると(弾性変形させると)、渦巻部21の曲率は大きくなる。このため、外面210には引張応力が、内面211には圧縮応力が、各々発生する。
【0021】
外面210における幅方向の最大主応力分布A1は、幅方向両端が小さく、幅方向中央が大きい、曲線状を呈している。内面211における幅方向の最大主応力分布B1は、幅方向両端が大きく(圧縮応力の絶対値が大きく)、幅方向中央が小さい(圧縮応力の絶対値が小さい)、曲線状を呈している。また、最大主応力分布B1の幅方向中央には、応力極小部B10が配置されている。
図2に示すように、中立軸C1は、外面210と内面211との間において、外面210に近接して配置されている。
【0022】
なお、本明細書において「中立軸」とは、
図2に示す中立軸C1のように、渦巻部21の短手方向の断面において、図心(図形重心)Gを通る、主軸方向(
図2における幅方向)の軸をいう。
【0023】
[渦巻ばねの形状]
次に、本実施形態の渦巻ばねの形状について、従来の渦巻ばね、第一試作品、第二試作品の形状と比較しながら、説明する。
【0024】
(従来の渦巻ばね)
図4に、従来の渦巻ばねの渦巻部の短手方向の断面図を示す。
図5に、同断面における最大主応力分布を示す。
図4に示すように、従来の渦巻ばねの渦巻部の短手方向の断面は、長方形状を呈している。すなわち、断面において、外面410、内面411は、各々直線状を呈している。
図5に示すように、渦巻部を巻き締めると、外面410には引張応力が、内面411には圧縮応力が、各々発生する。外面410における幅方向の最大主応力分布A2は、略直線状を呈している。内面411における幅方向の最大主応力分布B2は、略直線状を呈している。
図4に示すように、中立軸C2は、外面410と内面411との間の略中央に配置されている。
【0025】
(第一試作品)
第一試作品は、本発明の渦巻ばねではない。
図6に、第一試作品の渦巻部の短手方向の断面図を示す。
図7に、同断面における最大主応力分布を示す。
図6に示すように、第一試作品の渦巻部の短手方向の断面は、内面511に凹部511aを有する、長方形状を呈している。すなわち、断面において、外面510は直線状を呈している。一方、内面511の幅方向中央には、長手方向に延在する凹部511aが配置されている。
【0026】
凹部511aを配置すると、中立軸C2と外面410との間の距離D2(
図4参照)よりも、中立軸C3と外面510との間の距離D3を、短くすることができる。このため、
図7に示すように、外面410における最大主応力分布A2(
図5参照)よりも、外面510における幅方向の最大主応力分布A3の方が、幅方向中央が小さくなる。また、内面411における最大主応力分布B2(
図5参照)よりも、内面511における幅方向の最大主応力分布B3の方が、幅方向中央が小さく(圧縮応力の絶対値が小さく)なる。しかしながら、第一試作品の場合、
図7に点線円で示すように、外面510の幅方向両端に発生する応力を、小さくすることはできない。
【0027】
(第二試作品)
第二試作品は、本発明の渦巻ばねではない。
図8に、第二試作品の渦巻部の短手方向の断面図を示す。
図9に、同断面における最大主応力分布を示す。
図8に示すように、第二試作品の渦巻部の短手方向の断面は、C字状を呈している。すなわち、外面610には、長手方向に延在する凸部610aが配置されている。また、内面611には、長手方向に延在する凹部611aが配置されている。
【0028】
凸部610a、凹部611aを配置すると、中立軸C2と外面410との間の距離D2(
図4参照)よりも、中立軸C4と外面610との間の距離D4を、短くすることができる。
【0029】
また、
図9に示すように、外面410における最大主応力分布A2(
図5参照)よりも、外面610における幅方向の最大主応力分布A4の方が、幅方向両端が小さくなる。また、内面411における最大主応力分布B2(
図5参照)よりも、内面611における幅方向の最大主応力分布B4の方が、幅方向両端が大きく(圧縮応力の絶対値が大きく)なる。第二試作品の場合、
図9に点線円で示すように、外面610の幅方向両端に発生する応力を、小さくすることができる。
【0030】
(本実施形態の渦巻ばね)
図2に示すように、内面211は第一凹部211a、第二凹部211bを備えている。このため、中立軸C2と外面410との間の距離D2(
図4参照)よりも、中立軸C1と外面210との間の距離D1を、短くすることができる。しかしながら、内面211に第一凹部211a、第二凹部211bを配置しただけでは、第一試作品(
図6、
図7参照)同様に、外面210の幅方向両端に発生する応力を、小さくすることはできない。
【0031】
この点、外面210は凸部210aを備えている。また、内面211は第一凹部211aを備えている。凸部210a、第一凹部211aは、
図8に示す凸部610a、凹部611a同様の機能を有している。すなわち、凸部210a、第一凹部211aは、外面210の幅方向両端に発生する応力を、小さくする機能を有している。このため、
図3に示すように、外面210における最大主応力分布A1の幅方向両端を、小さくすることができる。
【0032】
このように、本実施形態の渦巻ばね1は、第一試作品(
図6、
図7参照)、第二試作品(
図8、
図9参照)の機能を併有している。このため、従来の渦巻ばね(
図4、
図5参照)と比較して、中立軸C1と外面210との間の距離D1を、短くすることができる。並びに、外面210における幅方向の最大主応力分布A1の最大値を、小さくすることができる。
【0033】
[作用効果]
次に、本実施形態の渦巻ばねの作用効果について説明する。
図2に示すように、本実施形態の渦巻ばね1の渦巻部21の内面211には、第一凹部211aおよび第二凹部211bが配置されている。このため、渦巻部21の中立面(中立軸C1)と、外面210と、の間の距離D1を短くすることができる。したがって、
図3に示すように、巻締め時に外面210に発生する応力を、小さくすることができる。
【0034】
また、渦巻部21の外面210には凸部210aが、内面211には第一凹部211aが、各々配置されている。このため、
図3に示すように、巻締め時に外面210の幅方向両端に発生する応力を、小さくすることができる。
【0035】
このように、本実施形態の渦巻ばね1によると、
図3に示すように、
図4、
図5に示す従来の渦巻ばねと比較して、巻締め時に外面210に発生する応力を小さくすることができる。このため、本実施形態の渦巻ばね1は、軽量化が可能である。
【0036】
また、本実施形態の渦巻ばね1によると、
図2に示すように、凸部210aの曲率と、第一凹部211aの曲率と、は一致している。このため、巻き締め時に、径方向に隣り合う第一凹部211aと凸部210aとを、密着させることができる。したがって、渦巻ばね1を小径化することができる。また、第一凹部211aに対して、凸部210aが、幅方向にずれるのを抑制することができる。
【0037】
<第二実施形態>
本実施形態の渦巻ばねと、第一実施形態の渦巻ばねとの相違点は、第二凹部に摺動部材が配置されている点である。ここでは、相違点についてのみ説明する。
図10に、第二実施形態の渦巻ばねの渦巻部の短手方向の断面図を示す。なお、
図2と対応する部位については同じ符号で示す。
【0038】
図10に示すように、第二凹部211bには、摺動部材70が配置されている。摺動部材70は、本発明の「スペーサ」の概念に含まれる。摺動部材70は、柔軟なフッ素樹脂製であって、長尺の管状を呈している。
【0039】
本実施形態の渦巻ばねと、第一実施形態の渦巻ばねとは、構成が共通する部分に関しては、同様の作用効果を有する。また、本実施形態の渦巻ばねによると、摺動部材70と、外面210(当該摺動部材70の径方向内側に隣り合う外面210)と、の間の摩擦抵抗が小さくなる。このため、渦巻部21の弾性変形が容易になる。また、異音の発生を抑制することができる。また、内面211や外面210に、摩擦抵抗低減のための処理(例えば、表面潤滑処理、潤滑油塗布など)を、施す必要が無くなる。
【0040】
また、摺動部材70は、柔軟である。このため、摺動部材70と、外面210(当該摺動部材70の径方向内側に隣り合う外面210)と、が径方向に当接する際の衝撃を緩和することができる。
【0041】
<その他>
以上、本発明の渦巻ばねの実施の形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に特に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
【0042】
図11に、その他の実施形態(その1)の渦巻ばねの渦巻部の短手方向の断面図を示す。
図12に、その他の実施形態(その2)の渦巻ばねの渦巻部の短手方向の断面図を示す。なお、
図2と対応する部位については同じ符号で示す。
【0043】
図11に示すように、内面211に、幅方向に離間して、一対の平面部211cを配置してもよい。また、断面において、凸部210aの曲率と、第一凹部211aの曲率と、は一致しなくてもよい。
【0044】
図12に示すように、断面において、第二凹部211bは、曲率の異なる複数の曲面から構成されていてもよい。また、第一凹部211aと第二凹部211bとが、曲面状の面取り部を介して、連なっていてもよい。また、内面211に、幅方向に離間して、一対の平面部211cを配置してもよい。同様に、外面210に、幅方向に離間して、一対の平面部210cを配置してもよい。
【0045】
また、凸部210a、第一凹部211aが、曲率の異なる複数の曲面から構成されていてもよい。また、凸部210a、第一凹部211a、第二凹部211bの少なくとも一部が、平面により構成されていてもよい。
【0046】
また、内面211に、さらに凹部(例えば、第三凹部、第四凹部など)を配置してもよい。すなわち、内面211に、互いに曲率の異なる複数の凹部を、径方向に重畳して配置してもよい。
【0047】
また、スペーサの材質は特に限定しない。例えば、ふっ素樹脂(PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(四ふっ化エチレン・六ふっ化プロピレン共重合体)、PFA(四ふっ化エチレンペルフルオロアルコキシビニルエーテル共重合体)など)などを用いることができる。また、スペーサの形状は特に限定しない。中空(管状)でも中実(棒状)でもよい。また、本発明の渦巻ばねの概念には、ぜんまいばね(弾性変形の過程において、常時、径方向に隣り合うばね材S同士が接触している渦巻ばね)が含まれる。
【0048】
自然状態における渦巻部21の形状は特に限定しない。例えば、フェルマー曲線状、リチュース曲線状、クロソイド曲線状、双曲螺旋状、対数螺旋状などであってもよい。ばね材Sの材質は特に限定しない。例えば、硬鋼線、ピアノ線などの炭素鋼線、炭素鋼帯、ステンレス鋼線、ステンレス鋼帯、樹脂などであってもよい。また、ばね材Sは、中実でも中空でもよい。
【実施例】
【0049】
以下、本発明の渦巻ばねに対して行ったFEM(有限要素法)解析の結果について説明する。
図13に、解析条件を示す。
図14に、解析結果を示す。
図14に示すように、解析に用いたモデルは、実施例1(
図2に対応)、比較例1(
図4に対応)、比較例2、参考例1(
図8に対応)の四つである。なお、
図13に示すように、各モデルは、渦巻ばねの渦巻部の一部である。
【0050】
実施例1は、
図2に示す渦巻ばねに対応している。すなわち、渦巻部21の短手方向の断面において、凸部210a、第一凹部211a、第二凹部211bは、各々、曲率一定の部分円弧状を呈している。このうち、凸部210aの曲率と、第一凹部211aの曲率と、は一致している。また、第二凹部211bの曲率は、第一凹部211aの曲率よりも、大きい。短手方向長さL1は、3.14mmである。軸方向長さL2は、9.42mmである。
【0051】
比較例1は、
図4に示す渦巻ばねに対応している。すなわち、渦巻部の短手方向の断面は、長方形状を呈している。外面410、内面411は、各々直線状を呈している。短手方向長さL1は、3.2mmである。軸方向長さL2は、9.0mmである。
【0052】
比較例2の渦巻ばねの渦巻部の短手方向の断面は、外面に凸部710aを有している。凸部710aは、長手方向に延在している。また、内面に凹部711aを有している。凹部711aは、長手方向に延在している。凸部710aの曲率と、凹部711aの曲率と、は異なっている。短手方向長さL1は、3.5mmである。軸方向長さL2は、10.93mmである。
【0053】
参考例1は、
図8に示す渦巻ばねに対応している。すなわち、渦巻部の短手方向の断面は、C字形状を呈している。外面610には、長手方向に延在する凸部610aが配置されている。また、内面611には、長手方向に延在する凹部611aが配置されている。凸部610aの曲率と、凹部611aの曲率と、は一致している。短手方向長さL1は、3.22mmである。軸方向長さL2は、9.55mmである。
【0054】
図13に示すように、解析においては、モデル(渦巻部の一部)の長手方向一端を固定し、長手方向他端に曲げモーメントを入力した。
【0055】
図14の見方を簡単に説明する。「形状」は、モデルの短手方向の断面の形状である。「質量」は、モデルの質量である。曲げモーメントを入力した際にモデルに発生する最大主応力の最大値は、全てのモデルで同等である。
【0056】
図14に示すように、実施例1は、比較例1よりも、質量が22%小さかった。また、比較例2は、比較例1よりも、質量が5%大きかった。また、参考例1は、比較例1よりも、質量が7%大きかった。このように、質量を比較すると、小さい方から、実施例1(91g)、比較例1(117g)、比較例2(123g)、参考例1(125g)の順になった。以上の解析から、実施例1によると、渦巻ばね1を軽量化できることが判った。