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特開2015-64342人工皮膚モデルに対し乾燥肌の状態を作製する装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-64342(P2015-64342A)
(43)【公開日】2015年4月9日
(54)【発明の名称】人工皮膚モデルに対し乾燥肌の状態を作製する装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20150313BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20150313BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20150313BHJP
【FI】
   G01N33/50 Q
   G01N33/53 P
   C12M1/34 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-166317(P2014-166317)
(22)【出願日】2014年8月19日
(31)【優先権主張番号】特願2013-174542(P2013-174542)
(32)【優先日】2013年8月26日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301068114
【氏名又は名称】株式会社コスモステクニカルセンター
(71)【出願人】
【識別番号】000226437
【氏名又は名称】日光ケミカルズ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松本 ゆき子
(72)【発明者】
【氏名】正木 仁
【テーマコード(参考)】
2G045
4B029
【Fターム(参考)】
2G045CB09
2G045DA36
2G045DB22
2G045FB03
4B029AA27
4B029BB11
4B029DF10
4B029EA11
(57)【要約】
【課題】in vitroで乾燥肌の状態を再現し、乾燥することで変化する生理学的にパラメーターを評価し、皮膚の乾燥刺激に対する改善作用のある成分の有効性を評価することを特徴とする乾燥刺激装置を提供すること。
【解決手段】エアポンプと乾燥剤の種類を変えることのできる乾燥剤充填カラムと複数の吹き出し口およびこれらをつなぐ接続部位から構成する乾燥装置を用いることで、人工皮膚モデルに対する乾燥刺激を容易に制御することを可能とし、in vitroで乾燥刺激に対する改善作用のある有効成分の評価を可能とする乾燥装置を完成するに至った。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工皮膚モデルに対して、in vitroで乾燥肌の状態を作製することを特徴とする乾燥装置。
【請求項2】
エアポンプと乾燥剤充填カラムと吹き出し口およびこれらをつなぐ接続部位から構成されることを特徴とする請求項1に記載の乾燥装置。
【請求項3】
前記乾燥剤充填カラム内の乾燥剤の種類を変えることで、吹き出す空気の湿度を制御可能にしたことを特徴とする請求項1または2に記載の乾燥装置。
【請求項4】
複数の吹き出し口を設けることで、同時に複数個所に乾燥した空気を吹き付けることを可能にしたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の乾燥装置。
【請求項5】
少なくとも1つの吹き出し口に湿度計を設けることで、吹き出す空気の湿度測定を可能にしたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の乾燥装置。
【請求項6】
滅菌フィルターを設けることで、人工皮膚モデルを滅菌状態に保つことを可能にしたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の乾燥装置。
【請求項7】
流量計を設けることで、吹き出す空気の量を制御可能にしたことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の乾燥装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、in vitroで乾燥肌の状態を作成し、皮膚の乾燥状態に対する改善作用のある成分の有効性の評価も可能にする乾燥装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人体の最外層は、表皮を構成するケラチノサイトの最終産物である角層であり、この角層を通して我々は外界より身体を保護している。また、水に対する表皮バリアー機能は、角層に皮膚内部より供給される水分の喪失を防ぐ働きを担っており、紫外線、乾燥、ストレスなどの外部刺激によりこの機能が低下する。この機能低下がドライスキン発生の一因と考えられている。老人性乾皮症(senile xerosis)やアレルゲンの易浸透性によるアトピー性皮膚炎(atopic dermatitis)も表皮バリアー機能低下に由来する皮膚疾患と考えられており、皮膚の恒常性を維持するためには不可欠な機能である。このように、ドライスキンは日常的に起こりうる皮膚症状であり、多くの臨床例が報告されている。報告の具体例としては、乾燥したヒト皮膚において炎症性サイトカインIL−1αのレセプターアンタゴニストとIL−1αの比(IL−1RA/IL−1α)の上昇が報告されており、即ち乾燥皮膚内部において微弱炎症の発症が報告されている(非特許文献1)。しかしながら、ドライスキンの発生メカニズムについては、未だ不明な点も多く、様々な研究がなされている。
【0003】
これまで、表皮バリアー機能改善あるいは補強を評価する場合、ヒト皮膚、ヘアレスマウス皮膚でのテープストリップによる角層剥離、あるいはアセトン−エーテルによる表皮脂質の除去による表皮バリアー破壊モデルが一般的に用いられてきた(非特許文献2、3)。しかしながら、これらのモデルは倫理的および動物愛護の観点から評価に用いることが困難な状況にある。よって、in vitro乾燥皮膚モデルの開発に対する要求が高まっている。
【0004】
一方、人工皮膚モデルに対して、薬剤処理あるいは紫外線照射を行い評価する方法は一般的であるが、人工皮膚モデルの培養は、5%二酸化炭素存在下、37℃の条件にて、且つ無菌的に行う必要があるため、人工皮膚モデル表面を直接乾燥した空気に曝すことは困難である。この問題を解決し、乾燥による皮膚の応答性を直接的にin vitroで評価する皮膚乾燥刺激評価装置が公開されている(特許文献1)。この皮膚乾燥刺激評価装置の概要は、人工皮膚モデルを収容した培養装置と、乾燥剤を充填した閉塞性チャンバーで構成される乾燥装置である。しかしながら、この装置では、閉塞性チャンバー内の実際の湿度を制御することが困難であった。また、評価をする上で、同時に複数の人工皮膚モデルに対して乾燥刺激を与える場合は、装置が閉塞型であることから着脱が煩雑であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−247284号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Kikuchi K, et al, Dermatology. 207(3) 269-75 (2003)
【非特許文献2】Rissmann R, et al., Arch Dermatol Res. 301(8) 609-13 (2009)
【非特許文献3】Grubauer G, et al., J Lipid Res. 28(6) 746-52 (1987)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の通り、これまでは、人工皮膚モデルに対して乾燥肌の状態を再現し、皮膚の乾燥状態に対する改善作用のある成分の有効性の評価において、湿度の制御および複数の人工皮膚モデルへ乾燥処理が煩雑であった。したがって、本発明は、in vitroで乾燥肌の状態を作製し、皮膚の乾燥状態に対する改善作用のある成分の有効性の評価を簡便に行うことができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、in vitroで乾燥肌の状態を再現することについて鋭意研究した結果、エアポンプと乾燥剤の種類を変えることのできる乾燥剤充填カラムと複数の吹き出し口およびこれらをつなぐ接続部位から構成することで、人工皮膚モデルに対する乾燥肌の状態を作製する装置を見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0009】
本発明に記載の乾燥装置を用いることで、複数の人工皮膚モデルへの乾燥処理および従来困難であった湿度の制御が可能になり、皮膚の乾燥状態に対する改善作用のある成分の有効性評価を、簡便に行うことができる。したがって、乾燥状態に対する改善作用のある成分及び/又は改善作用のある成分を含む外用組成物がもつ作用を直接的に測定できることから、実際の乾燥肌に対する改善作用のある成分及び/又は改善作用のある成分を含む外用組成物の開発を効率よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る、乾燥装置を示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の構成を更に詳細に説明する。
本発明の乾燥装置は、エアポンプと乾燥剤充填カラムと吹き出し口およびこれらをつなぐ接続部位からなるものである。
本発明で用いるエアポンプとしては、吸気した空気を一定に送ることができるものから選択されるべきである。市販されているもののうち、複数の吹き出し口を設けることを考慮した場合、エアポンプから送り出される空気の量を調節できるものの方が望ましい。
【0012】
乾燥剤充填カラムとしては、エアポンプから送り出された空気を通す入口と出口があり、カラム内はエアポンプから送り出された空気のみを通すよう閉塞性を保つことができる素材であればよい。出口から送り出される空気を乾燥剤の種類によって湿度制御することを考慮した場合、カラム内の乾燥剤を交換できるものの方が望ましい。
乾燥剤充填カラムに充填される乾燥剤としては、塩化カルシウム、生石灰、五酸化二リン、酸化アルミニウム、シリカゲル、ゼオライト、塩化マグネシウムまたは塩化ナトリウムから選択されるものであり、特に制限されるものではないが、カラム内の空気の移動を考慮した場合、乾燥剤の形態としては粉末状よりも顆粒状の方が望ましい。
【0013】
接続部位としては、市販されているシリコン製のチューブ、プラスチック製のパイプジョイントなど、エアポンプから送り出される空気のみを通すよう閉塞性を保つことができる素材であればよい。
さらに、滅菌フィルターとしては、市販されているシリンジ接続用メンブレンフィルターを使用し、乾燥充填カラムから送り出される空気はすべてこの滅菌フィルターを通過してから、人工皮膚モデルに吹き付けることができる部位に接続する。空気を通すことを考慮した場合、メンブレンの粗さは、直径0.45μm前後が望ましい。
【0014】
湿度計としては、市販されている温度および湿度データを記録しながら測定できるものを使用し、空気の排出される出口の一つに設置する。
流量計としては、市販されている玉フロータイプの流量計を使用し、送り出される出口直前の一つに接続する。
【0015】
なお、本発明で乾燥肌の状態を作製できる人工皮膚モデルとしては、EPISKINTM−LM、EpiSkinTM−SM、SkinEthicTM−RHE、SkinEthicTM−RHPE(SkinEthic社製)、EPI−200・212・200X・606・606X・201・296、EFT−400・412、MEL−300・312・301・300FT・606、MLNM−FT−A375(MatTek社製)、TESTSKINTM LSE−high、 MATREXTM LDM(TOYOBO社製)、LabCyte EPI−MODEL、LabCyte MELANO−MODEL(J−TEC社製)などが挙げられる。
【0016】
また、皮膚の乾燥状態に対する改善作用のある成分がより効率的に経皮吸収され、有効性がより発現される化粧品又は医薬品を検討するための方法としても利用できるため、化粧品又は医薬品の処方設計や開発を非常に効率的に進めることができる。
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲がこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0017】
人工皮膚モデルを用いた乾燥肌の作製と乾燥状態の確認
1.試験概要
37℃、5%二酸化炭素存在下培養条件にて、人工皮膚モデルに対し、本乾燥装置にて1時間乾燥させた。次いで、人工皮膚モデルの乾燥状態を確認するために、経表皮水分蒸散量TEWL、炎症性サイトカインIL−1α放出量の2種をパラメーターとして測定した。
【0018】
2.試験方法
試験開始する前日に、SkinEthicTM RHE/HTS(24−well plate)(SkinEthic社製)をGrowth Medium培地(SkinEthic社製)を用いて、プレインキュベーションした。SkinEthicTM RHE/HTS(24−well plate)に対して、塩化カルシウムを充填したカラムを接続した乾燥装置にて1時間乾燥した空気を吹き付け、乾燥肌を作製した。さらに、24時間培養後に、サイクロン水分蒸散計(アサヒバイオメド社製)を用いて、経表皮水分蒸散量TEWLを測定した。次いで、培養終了後の培地を用いて、ELISA法によって、IL−1α放出量を測定した。
【0019】
3.試験結果
培養後のSkinEthicTM RHE/HTS(24−well plate)のTEWLの変化を表1に、IL−1α放出量を表2に示した。乾燥した空気を吹き付けることにより、TEWLが増加し、IL−1α放出量が増加した。
本結果より、本乾燥装置は、人工皮膚モデルを用いて乾燥肌を作製し、その乾燥状態を確認できた。

【表1】

【表2】
【実施例2】
【0020】
乾燥剤による乾燥状態の制御試験
1.試験概要
37℃、5%二酸化炭素存在下培養条件にて、人工皮膚モデルに対し、乾燥充填カラム内の乾燥剤の種類を変えて、本乾燥装置にて1時間乾燥させた。次いで、人工皮膚モデルの乾燥状態を確認するために、経表皮水分蒸散量TEWL、炎症性サイトカインIL−1α放出量の2種をパラメーターとして測定した。
【0021】
2.試験方法
試験開始する前日に、SkinEthicTM RHE/HTS(24−well plate)(SkinEthic社製)をGrowth Medium培地(SkinEthic社製)を用いて、プレインキュベーションした。SkinEthicTM RHE/HTS(24−well plate)に対して、塩化カルシウムあるいは塩化マグネシウムあるいは塩化ナトリウムを充填したカラムを接続した乾燥装置にて1時間乾燥した空気を吹き付け、乾燥肌を作製した。さらに、24時間培養後に、サイクロン水分蒸散計(アサヒバイオメド社製)を用いて、経表皮水分蒸散量TEWLを測定した。次いで、培養終了後の培地を用いて、ELISA法によって、IL−1α放出量を測定した。
【0022】
3.試験結果
培養後のSkinEthicTM RHE/HTS(24−well plate)のTEWLの変化を表3に、IL−1α放出量を表4に示した。乾燥剤の違いによって、TEWLの増加およびIL−1α放出量が増加に差異が認められた。
本結果より、本乾燥装置は、人工皮膚モデルを用いて乾燥肌を作製し、その乾燥状態を確認できた。

【表3】
【表4】
【実施例3】
【0023】
別の人工皮膚モデルを用いた乾燥肌の作製と角層水分量による乾燥状態の確認
1.試験概要
37℃、5%二酸化炭素存在下培養条件にて、人工皮膚モデルに対し、本乾燥装置にて1時間あるいは3時間乾燥させた。次いで、人工皮膚モデルの乾燥状態を確認するために、角層水分量、炎症性サイトカインIL−1α放出量の2種をパラメーターとして測定した。
【0024】
2.試験方法
試験開始する前日に、SkinEthicTM RHE(SkinEthic社製)をGrowth Medium培地(SkinEthic社製)を用いて、プレインキュベーションした。SkinEthicTM RHEに対して、塩化カルシウムを充填したカラムを接続した乾燥装置にて1時間あるいは3時間乾燥した空気を吹き付け、乾燥肌を作製した。さらに、24時間培養後に、角層膜厚水分計(アサヒバイオメド社製)を用いて、角層水分量を測定した。次いで、培養終了後の培地を用いて、ELISA法によって、IL−1α放出量を測定した。
【0025】
3.試験結果
培養後のSkinEthicTM RHEの角層水分量の変化を表5に、IL−1α放出量を表6に示した。乾燥した空気を吹き付けることにより、角層水分量が減少し、IL−1α放出量が増加した。
本結果より、本乾燥装置は、人工皮膚モデルを限定することなく乾燥肌を作製し、その乾燥状態としてTEWLだけでなく角層水分量の変化も確認できた。

【表5】

【表6】
【産業上の利用可能性】
【0026】
エアポンプと乾燥剤充填カラムと吹き出し口およびこれらをつなぐ接続部位から構成されることを特徴とする乾燥装置を用いることで、in vitroで乾燥肌の状態を再現し、乾燥によって変化する生理学的なパラメーターを評価し、皮膚の乾燥刺激に対する改善作用のある成分の有効性を容易に評価することが可能である。
【符号の説明】
【0027】
1 エアポンプ
2 乾燥剤充填カラム
3 吹き出し口
4 接続部位
5 パイプジョイント
6 湿度計
7 滅菌フィルター
8 流量計
9 人工皮膚モデル
図1