【解決手段】フィルム基材1上に金属酸化物層が設けられたガスバリアフィルム4であり、当該金属酸化物層は、金属酸化物の蒸着層2上に、金属原子の少なくとも1箇所に長鎖アルキル基が結合した、下記一般式(I)で表される金属アルコキシドからなる金属酸化物ポリマーのゾルゲルコーティング層3を設けてなる。
フィルム基材上に金属酸化物層が設けられたガスバリアフィルムであって、前記金属酸化物層は、金属酸化物の蒸着層上に、金属原子の少なくとも1箇所に長鎖アルキル基が結合した、下記一般式(I)で表される金属アルコキシドからなる金属酸化物ポリマーのゾルゲルコーティング層を設けてなることを特徴とするガスバリアフィルム。
一般式(I)
R1nM(OR2)m
(式中、R1は炭素数8〜30を含むアルキル基、R2は炭素数1〜4のアルキル基、Mは金属原子、nおよびmはそれぞれ1〜3の整数であって、且つ金属原子Mとの結合数を表す。)
フィルム基材上に金属酸化物層が設けられたガスバリアフィルムの製造方法であって、前記金属酸化物層は、金属酸化物の蒸着層上に、金属原子の少なくとも1箇所に長鎖アルキル基が結合した、下記一般式(I)で表される金属アルコキシドからなる金属酸化物ポリマーのゾルゲルコーティング層を設けることを特徴とするガスバリアフィルムの製造方法。
一般式(I)
R1nM(OR2)m
(式中、R1は炭素数8〜30を含むアルキル基、R2は炭素数1〜4のアルキル基、Mは金属原子、nおよびmはそれぞれ1〜3の整数であって、且つ金属原子Mとの結合数を表す。)
【背景技術】
【0002】
太陽電池や有機EL(エレクトロルミネッセンス)などの精密な電子部材を内蔵する製品において、水蒸気の製品内部への進入は内容物の変質や電子部材の損傷により製品寿命の短縮を引き起こす原因となるため、水蒸気の進入を高度に防止するガスバリア性部材が求められており、中でもフレキシブル性や軽量性を有する製品においては高性能なガスバリアフィルムが求められている。
【0003】
現在、ガスバリアフィルムの代表的なものとして、主に包装用途で広く使用されているポリ塩化ビニリデンを主成分としたフィルムがあるが、このガスバリアフィルムは上記の電子部材用途で要求されるガスバリア性に対して十分な性能を有しているとは言えず、また、フィルムの加熱焼却処理で有害な塩素系ガスを発生させるといった問題も抱えており使用は控えられつつある。
【0004】
一方で、上記の電子部材用途の要求レベルを満たすことのできる程の高度なガスバリア性を有するフィルムとして、酸化ケイ素等の金属酸化物を真空蒸着法により蒸着させた層を有するフィルムが知られている。しかし、この金属酸化物の蒸着層はその製造過程で異物の混入等によりピンホールやクラック等の欠陥を生じる場合が多く、欠陥が生じるとその箇所から水蒸気等のガスが透過するため、本来蒸着層が保有する高度なガスバリア性を十分に発揮できないという課題を抱えている。さらにこの蒸着層は屈曲、延展等の物理的要因に対して脆く、製品作製後も取り扱いの条件によっては欠陥が発生する場合がある。
【0005】
よって、上記の蒸着層の高度なガスバリア性を十分に発現させるためにはピンホールやクラック等の欠陥の発生を抑制する方法が重要となる。
【0006】
従来の下記特許文献1によれば、蒸着層の製造過程で大気に開放せず連続的に成膜化することにより、異物、塵埃等が蒸着層中に混入することを防止しクラックの発生を抑制している。さらに蒸着層に欠陥が生じた場合であっても、蒸着層を積層させることにより、上層蒸着層が下層蒸着層の欠陥を塞ぎガスバリア性の低下を抑える効果が得られると同時に、積層させた上層蒸着層に欠陥が生じた場合であっても下層蒸着層の欠陥箇所と異なればガスバリア性を維持することができるとしている。しかし、高価な設備が必要であることや積層化により製造工程が増加することから、生産面およびコスト面から最適な方法とは言えない。
【0007】
また、蒸着層は屈曲、延展、擦れ等の物理的要因に脆弱であり容易に欠陥を生じることから、下記特許文献2では、エチレン/ビニルアルコール系共重合体から成る塗料を用いて蒸着層上にコーティングを施し、蒸着層を保護する層を設けることにより、耐屈曲性に優れたガスバリアフィルムを開示している。しかし、すでに欠陥が生じている蒸着層を補修する効果は無く、また、エチレン/ビニルアルコール系共重合体は高温高湿下では水蒸気バリア性を十分に発揮することができないことから、蒸着層を含むフィルムのガスバリア性(特に水蒸気バリア性)を改善することには繋がらない。
【0008】
そこで、金属アルコキシドの加水分解物を主成分としたコーティング剤を蒸着層上に塗布することで、蒸着層に生じたピンホールやクラック等の欠陥を直接補修、補強したガスバリア性積層フィルムが提案されている。
【0009】
例えば、下記特許文献3では、高分子樹脂組成物からなる基材上に、無機化合物からなる蒸着層を第1層とし、水溶性高分子と、1種以上の例えば金属アルコキシド及びその加水分解物を含む水溶液、或いは水/アルコール混合溶液を主剤とするコーティング剤を塗布し、加熱乾燥してなるガスバリア性被膜を第2層として積層してなるガスバリア性積層フィルムが提案されている。しかし、前記ガスバリア性積層フィルムは、コーティング剤に水溶性高分子を必須成分としていることから、特に高温高湿下では、水の浸入により前記ガスバリア性皮膜が膨潤することにより、水蒸気バリア性を十分に発揮することができない。
【0010】
そのため、下記特許文献4では、水溶性高分子とテトラアルコキシシラン又はその加水分解生成物に疎水性有機官能基を含むトリアルコキシシラン又はその加水分解生成物とを含有させた溶液を無機酸化物層上に塗布し、得られた塗膜を乾燥させることにより形成された透明ガスバリアフィルムが提案されている。これにより、高温高湿下であっても膨潤を生じ難く、耐水性に優れた透明ガスバリアフィルムが得られるとしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記特許文献4に開示されている透明ガスバリアフィルムは、テトラアルコキシシラン又はその加水分解生成物に対する疎水性有機官能基を含むトリアルコキシシラン又はその加水分解生成物の混合割合によっては、十分な耐水性を獲得することができない。さらには、疎水性有機官能基がガスバリアの孔となりガスバリア性が低下する可能性もある。また、上記特許文献3または4に開示されている製法に従うと、コーティング剤に含まれる大量の水によりゲル化しやすくなるため、溶液安定性に欠ける恐れがある。
以上のとおり、従来の特許文献に開示されている技術では、蒸着層の高度なガスバリア性を十分に発現させるという技術課題を解決することができない。
【0013】
そこで、本発明は、電子部材用途の要求レベルを満たすことのできるガスバリア性(特に水蒸気バリア性)に優れたガスバリアフィルム及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究の結果、以下の構成を有する発明を完成するに至った。
すなわち、上記課題を解決するため、以下の構成を有する発明を提供する。
【0015】
(構成1の発明)
フィルム基材上に金属酸化物層が設けられたガスバリアフィルムであって、前記金属酸化物層は、金属酸化物の蒸着層上に、金属原子の少なくとも1箇所に長鎖アルキル基が結合した、下記一般式(I)で表される金属アルコキシドからなる金属酸化物ポリマーのゾルゲルコーティング層を設けてなることを特徴とするガスバリアフィルム。
一般式(I)
R
1nM(OR
2)m
(式中、R
1は炭素数8〜30を含むアルキル基、R
2は炭素数1〜4のアルキル基、Mは金属原子、nおよびmはそれぞれ1〜3の整数であって、且つ金属原子Mとの結合数を表す。)
【0016】
(構成2の発明)
前記ゾルゲルコーティング層の表面の水に対する接触角が80°以上であることを特徴とする構成1に記載のガスバリアフィルム。
【0017】
(構成3の発明)
前記金属酸化物ポリマーの重量平均分子量が200以上100万以下の範囲であることを特徴とする構成1又は2に記載のガスバリアフィルム。
(構成4の発明)
前記ゾルゲルコーティング層の膜厚は、0.01μm〜5.0μmの範囲であることを特徴とする構成1乃至3のいずれかに記載のガスバリアフィルム。
【0018】
(構成5の発明)
フィルム基材上に金属酸化物層が設けられたガスバリアフィルムの製造方法であって、前記金属酸化物層は、金属酸化物の蒸着層上に、金属原子の少なくとも1箇所に長鎖アルキル基が結合した、下記一般式(I)で表される金属アルコキシドからなる金属酸化物ポリマーのゾルゲルコーティング層を設けることを特徴とするガスバリアフィルムの製造方法。
一般式(I)
R
1nM(OR
2)m
(式中、R
1は炭素数8〜30を含むアルキル基、R
2は炭素数1〜4のアルキル基、Mは金属原子、nおよびmはそれぞれ1〜3の整数であって、且つ金属原子Mとの結合数を表す。)
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、フィルム基材上に金属酸化物層が設けられたガスバリアフィルムであって、前記金属酸化物層が、金属酸化物の蒸着層上に、金属原子の少なくとも1箇所に長鎖アルキル基が結合した、特定の金属アルコキシドからなる金属酸化物ポリマーのゾルゲルコーティング層を設けることにより、電子部材用途の要求レベルを満たすことのできるガスバリア性(特に水蒸気バリア性)に優れたガスバリアフィルム及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明に係るガスバリアフィルムは、フィルム基材上に金属酸化物層が設けられたガスバリアフィルムであって、前記金属酸化物層は、金属酸化物の蒸着層上に、金属原子の少なくとも1箇所に長鎖アルキル基が結合した、下記一般式(I)で表される金属アルコキシドからなる金属酸化物ポリマーのゾルゲルコーティング層を設けてなることを特徴とするガスバリアフィルムである。
一般式(I)
R
1nM(OR
2)m
(式中、R
1は炭素数8〜30を含むアルキル基、R
2は炭素数1〜4のアルキル基、Mは金属原子、nおよびmはそれぞれ1〜3の整数であって、且つ金属原子Mとの結合数を表す。)
【0022】
図1は、本発明のガスバリアフィルムの一実施形態を示す概略断面図である。
図1に示される一実施形態によれば、本発明に係るガスバリアフィルム4は、フィルム基材1上に金属酸化物層が設けられ、当該金属酸化物層は、金属酸化物の蒸着層2上に、金属原子の少なくとも1箇所に長鎖アルキル基が結合した、上記一般式(I)で表される金属アルコキシドからなる金属酸化物ポリマーのゾルゲルコーティング層3を設けてなる構成となっている。
【0023】
すなわち、本発明の一実施の形態は、フィルム基材1上に、金属酸化物の蒸着層2、金属アルコキシドからなる金属酸化物ポリマーのゾルゲルコーティング層3を設けたガスバリアフィルム4であり、金属原子の少なくとも1箇所に長鎖アルキル基が結合した特定の金属アルコキシドからなる金属酸化物ポリマーを、金属酸化物の蒸着層2上に設けることを特徴としている。
以下、上記ガスバリアフィルムを構成する各要素について詳しく説明する。
【0024】
(フィルム基材)
本発明のガスバリアフィルムの基材として用いられるフィルムは、無機物を蒸着できるフィルムであれば特に制限はなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリエチレン、ポリイミド、ポリプロピレン、アクリル系樹脂、ポリスチレン、セルロースアセテート、ポリ塩化ビニルのフィルムないしシート等が挙げられる。これらの中でも優れたガスバリア性、透明性等の特性を有する蒸着フィルムが得られることにより、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリプロピレンが好ましい。また、フィルム基材は、一軸延伸または二軸延伸されていてもよく、その表面をコロナ処理や低温プラズマ処理等の表面処理がされていてもよい。
【0025】
(金属酸化物の蒸着層)
本発明において、フィルム基材上に設けられる金属酸化物の蒸着層に含まれる金属酸化物としては、例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化鉛、酸化カルシウム等の無機金属酸化物が挙げられる。金属酸化物は単独で用いられてもよく、2種以上の混合物として用いてもよい。これらの金属酸化物の中でも特に、透明性、ガスバリア性および基材との密着性の観点から、酸化ケイ素または酸化アルミニウムを用いることが好ましい。この金属酸化物の蒸着層の膜厚としては、使用する金属酸化物の種類によっても異なるため特に制限はないが、例えば、10Å〜1000Å程度の範囲で形成させることが好適である。
【0026】
フィルム基材への金属酸化物の蒸着方法としては、特に限定されず、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンスプレーディング法等の物理気相成長法(PVD法)、あるいはプラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法、光化学気相成長法等の化学気相成長法(CVD法)等の公知の方法を用いることができる。ただし、生産性等を考慮すれば、現時点では真空蒸着法が最も好適である。
【0027】
(金属酸化物ポリマーのゾルゲルコーティング層)
本発明において、金属酸化物の蒸着層上に設けるゾルゲルコーティング層は、下記一般式(I)で表される少なくとも1種類以上の金属アルコキシドを水および有機溶媒中で酸もしくは塩基触媒下、加水分解反応および縮合反応、すなわちゾルゲル法を経て生成させた金属酸化物のポリマーを主成分とするゾルゲルコーティング塗工液を金属酸化物の蒸着層上に塗工・乾燥することにより形成することができる。
一般式(I)
R
1nM(OR
2)m
(式中、R
1は炭素数8〜30を含むアルキル基、R
2は炭素数1〜4のアルキル基、Mは金属原子、nおよびmはそれぞれ1〜3の整数であって、且つ金属原子Mとの結合数を表す。)
【0028】
上記金属アルコキシドは、アルコキシドの部分加水分解物およびアルコキシドの加水分解縮合物のどちらかを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、アルコキシドの部分加水分解物としては、アルコキシ基のすべてが加水分解されている必要はなく、1個以上が加水分解されているもの、および、それらの混合物であってもよく、さらに、加水分解縮合物としては、部分加水分解アルコキシドの2量体以上のものを使用することができる。
【0029】
また、上記一般式(I)において、Mで表される金属原子としては、例えばケイ素、チタン、アルミニウム、ジルコニウム等が挙げられるが、なかでもケイ素が好適である。ケイ素は、良好なバリア性を示すコーティング層が得られ、またゾルゲルコーティング塗工液の安定性が良いからである。
【0030】
また、上記一般式(I)において、R
1で表される炭素数8〜30のアルキル基としては、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−ノナデシル基、n−エイコシル基、n−ヘンエイコシル基、n−ドコシル基、n−トリコシル基、n−テトラコシル基、n−ペンタコシル基、n−ヘキサコシル基、n−ヘプタコシル基、n−オクタコシル基、n−ノナコシル基、n−トリアコンチル基等を挙げることができる。また、炭素数については、たとえば10〜30が好ましく、16〜30がより好ましい。炭素数が30を超えると、塗工液が分離する可能性が高くなる。
さらに、上記一般式(I)において、R
2で表される炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基等を挙げることができる。なお、本発明において、同一分子中にこれらアルキル基R
1が複数含まれる場合、それらは同一であっても、異なっていてもよい。また、アルキル基R
2についても同様である。
【0031】
上記ゾルゲル法で使用する触媒としては、酸触媒を用いてもよく、塩基触媒を用いてもよい。酸触媒としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸等が挙げられる。また、塩基触媒としては、反応溶液の均一性の保持の観点から第3級アンモニウム化合物を使用することが好ましい。
【0032】
上記ゾルゲル法で使用する有機溶媒としては、水と一部もしくは全てと相溶する溶媒であれば使用することができ、例えば、メタノール、エタノール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ノルマルブタノール、セカンダリーブタノール、ジメチルホルムアルデヒド、ジメチルスルホキシド、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトニトリル等を使用することができる。
【0033】
上記ゾルゲル法で使用する水の量としては、特に制限はないが、中でも金属アルコキシドのモル数に対して、1〜2倍のモル数の範囲にあることが好ましい。これにより、蒸着層の欠陥を補修することに好適な金属酸化物のポリマーを生成することが容易となる。
【0034】
本発明においては、上記ゾルゲル法によって生成する金属酸化物のポリマーの重量平均分子量を200以上100万以下の範囲に調整することが好ましい。金属酸化物ポリマーの重量平均分子量が200未満であると造膜性に欠ける。一方、金属酸化物ポリマーの重量平均分子量が100万を超えると、ゾルゲルコーティング塗工液中に金属酸化物ポリマーのゲル化物が発生するため、塗工したゾルゲルコーティング層に欠陥が生じやすくなり、十分なガスバリア性が発現できないとともに、金属酸化物の蒸着層の補修効果(金属酸化物の蒸着層に生じた欠陥を補修する効果)も得られにくい。
本発明において、ガスバリア性の観点から、上記金属酸化物ポリマーのより好ましくは重量平均分子量が200以上10万以下の範囲であり、さらに好ましくは重量平均分子量が200以上1万以下の範囲である。
なお、本発明においては、上記金属酸化物ポリマーの重量平均分子量は、光散乱光度計による測定によって得られる値をいうものとする。
【0035】
上記金属酸化物のポリマーの分子量を調整する方法としては以下の方法が挙げられる
すなわち、金属アルコキシドの種類、金属アルコキシドを2種以上併用する場合の組み合わせ、ゾルゲル法における水の量(金属アルコキシドのモル数に対して、1〜2倍のモル数)や有機溶媒の量(金属アルコキシドのモル数に対して、0〜20倍のモル数)、酸もしくは塩基触媒の添加量(金属アルコキシドのモル数に対して、0.01〜0.1倍のモル数)、反応時間(10分以上)、反応温度(0〜80℃)を適宜調整することで、ゾルゲル法によって生成する金属酸化物のポリマーの分子量を調整することができる。
【0036】
上記ゾルゲルコーティング塗工液中の金属酸化物ポリマーの固形分濃度として、具体的には0.01wt%〜30wt%であることが好ましく、0.05wt%〜15wt%であることがより好ましく、0.5wt%〜5wt%であることがさらに好ましい。
【0037】
上記ゾルゲルコーティング塗工液は、本発明の効果を損なわない範囲で必要に応じて添加剤を加えることができ、例えば、レベリング剤、溶液安定化剤、難燃剤、可塑剤、表面処理剤、カップリング剤、着色剤等が挙げられる。
【0038】
なお、上記ゾルゲルコーティング塗工液中に、造膜性の向上の目的で水溶性又はアルコール性高分子(例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、エチレンービニルアルコール共重合体、デンプン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウムなど)を含有させると、特に高温高湿下での水蒸気バリア性を十分に発揮することができなくなるため、上記水溶性又はアルコール性高分子を含有しないことが望ましい。
【0039】
上記ゾルゲルコーティング塗工液の塗工方法としては、例えば、グラビアコート、スプレーコート、スピンコート、ディッピング法、バーコート、ダイコート、スクリーン印刷法等の公知の方法を使用することができる。
【0040】
上記ゾルゲルコーティング塗工液は1回または複数回の塗布で、乾燥膜厚が例えば0.01〜5.0μmのゾルゲルコーティング層塗布膜を形成することができる。ゾルゲルコーティング層の膜厚が上記範囲内であることにより、上記ゾルゲルコーティング層の成膜時にクラック等が発生することを効果的に防止することができ、良好なガスバリア性を維持することができる。また、上記ゾルゲルコーティング層の膜厚が上記範囲内であることにより、ゾルゲルコーティング層の成膜の際、ゾルゲルコーティング層の速乾性を高めることができ、製造工程上有利となる。
本発明において、上述の効果を十分に発現させる観点からは、ゾルゲルコーティング層の膜厚は、好ましくは0.1〜1.0μmの範囲である。
【0041】
また、上記ゾルゲルコーティング塗工液を塗工して得られた塗布膜の乾燥条件としては、金属酸化物の蒸着層を設けた基材フィルムの物性および形状を損なわない範囲であればよい。具体的には50〜200℃、好ましくは70〜150℃の温度で、0.005〜60分間、好ましくは0.01〜10分間、加熱および乾燥することによりゾルゲルコーティング層が形成される。
【0042】
本発明においては、上記ゾルゲルコーティング層は、金属アルコキシドに疎水性有機官能基を導入し、長鎖アルキル基もしくは長鎖アルコキシ基が緻密に一定方向に配向した自己組織化層であるため、疎水性有機官能基がガスバリアの孔となりガスバリア性が低下することはなく、優れたガスバリア性(特に水蒸気バリア性)が発現、維持される。
【0043】
また、本発明においては、上記ゾルゲルコーティング層の表面の水に対する接触角が80°以上であることが好ましい。
【0044】
以上説明したように、本発明によれば、フィルム基材上に金属酸化物層が設けられたガスバリアフィルムであって、前記金属酸化物層が、金属原子の少なくとも1箇所に長鎖アルキル基もしくは長鎖アルコキシ基が結合した、特定の金属アルコキシドからなる金属酸化物ポリマーのゾルゲルコーティング層を設けることにより、特に電子部材用途の要求レベルを満たすことのできるガスバリア性(特に水蒸気バリア性)に優れたガスバリアフィルムを得ることができる。
【実施例】
【0045】
以下に本発明について実施例及び比較例を挙げて具体的に説明する。以下の実施例及び比較例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0046】
[実施例1]
<基材フィルム作製>
延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製の商品名称ルミラーS10、厚さ12μm)の一方の面に、SiOを蒸発源として、5×10
−5Torrの真空下で、電子線加熱方式による真空蒸着法により厚さ400Åのケイ素酸化物蒸着層を形成し、ガスバリア性基材フィルムとした。
<ゾルゲルコーティング塗工液の調製>
エタノール1.15g中にオクチルトリエトキシシラン1.38gと0.3Nの塩酸を0.18g加えた後、30分撹拌して金属酸化物(ケイ素酸化物)ポリマーを生成させ、当該金属酸化物ポリマーを主成分とするゾルゲルコーティング塗工液を調製した。
ゾルゲルコーティング塗工液中に生成した金属酸化物ポリマーの重量平均分子量は10000であった。なお、重量平均分子量(Mw)は光散乱光度計により測定を行った。
<ゾルゲルコーティング層形成工程>
上記基材フィルムのケイ素酸化物蒸着層上に、上記ゾルゲルコーティング塗工液を乾燥後膜厚が0.1μmとなるように塗布し、100℃で1分間乾燥させることによりゾルゲルコーティング層を形成させ、ガスバリアフィルムを得た。
なお、上記ゾルゲルコーティング層の表面の水に対する接触角は81°であった。
【0047】
[実施例2]
ゾルゲルコーティング塗工液の調製は、オクチルトリエトキシシランをデシルトリメトキシシランとした以外は実施例1と同様にして調製を行った。
ゾルゲルコーティング層は実施例1と同様にして形成させ、ガスバリアフィルムを得た。
なお、上記ゾルゲルコーティング層の表面の水に対する接触角は87°であった。
【0048】
[実施例3]
ゾルゲルコーティング塗工液の調製は、オクチルトリエトキシシランをヘキサデシルトリメトキシシランとした以外は実施例1と同様にして調製を行った。
ゾルゲルコーティング層は実施例1と同様にして形成させ、ガスバリアフィルムを得た。
なお、上記ゾルゲルコーティング層の表面の水に対する接触角は105°であった。
【0049】
[実施例4]
ゾルゲルコーティング塗工液の調製は、オクチルトリエトキシシランをトリアコンチルトリメトキシシランとした以外は実施例1と同様にして調製を行った。
ゾルゲルコーティング層は実施例1と同様にして形成させ、ガスバリアフィルムを得た。
なお、上記ゾルゲルコーティング層の表面の水に対する接触角は115°であった。
【0050】
[比較例1]
ゾルゲルコーティング塗工液の調製は、オクチルトリエトキシシランをメチルトリエトキシシランとした以外は実施例1と同様にして調製を行った。
ゾルゲルコーティング層は実施例1と同様にして形成させ、ガスバリアフィルムを得た。
なお、上記ゾルゲルコーティング層の表面の水に対する接触角は64°であった。
【0051】
[比較例2]
ゾルゲルコーティング塗工液の調製は、オクチルトリエトキシシランをヘキシルトリエトキシシランとした以外は実施例1と同様にして調製を行った。
ゾルゲルコーティング層は実施例1と同様にして形成させ、ガスバリアフィルムを得た。
なお、上記ゾルゲルコーティング層の表面の水に対する接触角は78°であった。
【0052】
[比較例3]
ゾルゲルコーティング層は形成させずに上記基材フィルムそのものをガスバリアフィルムとした。
【0053】
<評価>
得られた上記各実施例および各比較例のガスバリアフィルムの水蒸気バリア性(透湿度)を下記の基準で評価した。
(測定条件)
ガス透過試験機(GTRテック株式会社製GTR−WVNC型)を用いて、JIS K7129Cに準拠して、40℃、90%RHの高温高湿下、1atmの差圧法にて測定した。
(評価基準)
◎:透湿度が5×10
−3g/m
2/day未満
○:透湿度が5×10
−3g/m
2/day以上1×10
−2g/m
2/day未満
△:透湿度が1×10
−2g/m
2/day以上1g/m
2/day未満
×:透湿度が1g/m
2/day以上
以上の結果を纏めて下記表1に示した。
【0054】
【表1】
【0055】
上記表1の結果から、本発明の実施例のガスバリアフィルムによれば、高温高湿下でも良好な水蒸気バリア性が得られることがわかる。また、特に炭素数16〜30の疎水性有機官能基を導入することにより、優れた水蒸気バリア性が発現される。
一方、金属酸化物蒸着層上に金属酸化物ポリマーのゾルゲルコーティング層を設けても、導入する有機官能基の炭素数が8未満であると(比較例1、2)、これら有機官能基がガスバリアの孔となりガスバリア性が低下してしまうものと考えられ、良好なガスバリア性が発揮されない。また、ゾルゲルコーティング層を設けない比較例3のガスバリアフィルムにおいても良好なガスバリア性は得られない。