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  • 特開2015066893-グラビア印刷機及びグラビア印刷方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-66893(P2015-66893A)
(43)【公開日】2015年4月13日
(54)【発明の名称】グラビア印刷機及びグラビア印刷方法
(51)【国際特許分類】
   B41F 9/10 20060101AFI20150317BHJP
   B41M 1/10 20060101ALI20150317BHJP
【FI】
   B41F9/10
   B41M1/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-205187(P2013-205187)
(22)【出願日】2013年9月30日
(71)【出願人】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】松田 正義
(72)【発明者】
【氏名】鳩場 聖二郎
(72)【発明者】
【氏名】宇高 保
【テーマコード(参考)】
2C034
2H113
【Fターム(参考)】
2C034AA22
2C034CA07
2H113AA01
2H113BA03
2H113DA57
2H113EA22
(57)【要約】
【課題】印刷時におけるスジ及びかすれの発生が抑制されたグラビア印刷機、及び印刷時におけるスジ及びかすれの発生が抑制されたグラビア印刷方法を提供する。
【解決手段】インキパンのインキをグラビア版胴の版面に転移させてインキングを行い、ドクターブレードにより前記版面上の余分なインキを掻き取った後、前記版面の微小な凹部に詰まったインキを被印刷基材に転移させるグラビア印刷機であって、前記ドクターブレードが、前記被印刷基材側から順に配置された第一のドクターブレード及び第二のドクターブレードを含み、前記第二のドクターブレードのJIS L 1096:2010で規定される剛軟度が2.5×10−5N以下であることを特徴とする、グラビア印刷機。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インキパンのインキをグラビア版胴の版面に転移させてインキングを行い、ドクターブレードにより前記版面上の余分なインキを掻き取った後、前記版面の微小な凹部に詰まったインキを被印刷基材に転移させるグラビア印刷機であって、
前記ドクターブレードが、前記被印刷基材側から順に配置された第一のドクターブレード及び第二のドクターブレードを含み、
前記第二のドクターブレードのJIS L 1096:2010で規定される剛軟度が2.5×10−5N以下であることを特徴とする、グラビア印刷機。
【請求項2】
グラビア印刷機を用いて、
インキパンのインキをグラビア版胴の版面に転移させてインキングを行う工程と、
ドクターブレードにより前記版面上の余分なインキを掻き取る工程と、
前記版面の微小な凹部に詰まったインキを被印刷基材に転移させる工程とを有する、グラビア印刷方法であって、
前記ドクターブレードが、前記被印刷基材側から順に配置された第一のドクターブレード及び第二のドクターブレードを含み、前記インキを掻き取る工程において、前記第二のドクターブレード、前記第一のドクターブレードの順で前記版面上の余分なインキを掻き取り、
前記第二のドクターブレードのJIS L 1096:2010で規定される剛軟度が2.5×10−5N以下であることを特徴とする、グラビア印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラビア印刷機及びグラビア印刷方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
グラビア印刷は、版胴のセルと呼ばれる微小な凹部に詰まったインキを被印刷基材に印圧をかけて転移させる印刷方法である。一般的なグラビア印刷は、低粘度で流動性のグラビアインキをインキパン中に満たし、当該流動するグラビアインキ中に円筒状のグラビア版胴を、その下半の一部がインキ液中に浸漬するようにして回転させる。回転に伴い版胴面に連れて上昇するインキをドクターブレードで掻き取りして、印刷に必要なインキのみがセル中に残るようにした後、版胴と圧胴の接触する間に印刷紙を通し、両者間の印圧により、セル中に残ったインキを印刷紙に転移させるのがグラビア印刷方法である(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−253586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のグラビア印刷機による印刷方法では、粘性の低いインキを用いた場合には、ドクターブレードでインキを十分に掻き取ることができず、インキがドクターブレード上に乗り上げてしまい、乗り上げた過剰なインキやその乾燥物の影響により、印画物にスジやかすれが発生する等の不具合が生じるという問題が発生した。
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、印刷時におけるスジ及びかすれの発生が抑制されたグラビア印刷機、及び印刷時におけるスジ及びかすれの発生が抑制されたグラビア印刷方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るグラビア印刷機は、インキパンのインキをグラビア版胴の版面に転移させてインキングを行い、ドクターブレードにより前記版面上の余分なインキを掻き取った後、前記版面の微小な凹部に詰まったインキを被印刷基材に転移させるグラビア印刷機であって、
前記ドクターブレードが、前記被印刷基材側から順に配置された第一のドクターブレード及び第二のドクターブレードを含み、
前記第二のドクターブレードのJIS L 1096:2010で規定される剛軟度が2.5×10−5N以下であることを特徴とする。
【0006】
本発明に係るグラビア印刷方法は、グラビア印刷機を用いて、
インキパンのインキをグラビア版胴の版面に転移させてインキングを行う工程と、
ドクターブレードにより前記版面上の余分なインキを掻き取る工程と、
前記版面の微小な凹部に詰まったインキを被印刷基材に転移させる工程とを有する、グラビア印刷方法であって、
前記ドクターブレードが、前記被印刷基材側から順に配置された第一のドクターブレード及び第二のドクターブレードを含み、前記インキを掻き取る工程において、前記第二のドクターブレード、前記第一のドクターブレードの順で前記版面上の余分なインキを掻き取り、
前記第二のドクターブレードのJIS L 1096:2010で規定される剛軟度が2.5×10−5N以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、印刷時におけるスジ及びかすれの発生が抑制されたグラビア印刷機、及び印刷時におけるスジ及びかすれの発生が抑制されたグラビア印刷方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明に係るグラビア印刷機の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係るグラビア印刷機は、インキパンのインキをグラビア版胴の版面に転移させてインキングを行い、ドクターブレードにより前記版面上の余分なインキを掻き取った後、前記版面の微小な凹部に詰まったインキを被印刷基材に転移させるグラビア印刷機であって、
前記ドクターブレードが、前記被印刷基材側から順に配置された第一のドクターブレード及び第二のドクターブレードを含み、
前記第二のドクターブレードのJIS L 1096:2010で規定される剛軟度が2.5×10−5N以下であることを特徴とする。
なお、本発明において前記剛軟度は、具体的には、前記JIS規格の8.22.1 A法(剛軟度(ガーレ法))に準拠した方法により測定することができる。
【0010】
本発明に係るグラビア印刷方法は、グラビア印刷機を用いて、
インキパンのインキをグラビア版胴の版面に転移させてインキングを行う工程と、
ドクターブレードにより前記版面上の余分なインキを掻き取る工程と、
前記版面の微小な凹部に詰まったインキを被印刷基材に転移させる工程とを有する、グラビア印刷方法であって、
前記ドクターブレードが、前記被印刷基材側から順に配置された第一のドクターブレード及び第二のドクターブレードを含み、前記インキを掻き取る工程において、前記第二のドクターブレード、前記第一のドクターブレードの順で前記版面上の余分なインキを掻き取り、
前記第二のドクターブレードのJIS L 1096:2010で規定される剛軟度が2.5×10−5N以下であることを特徴とする。
【0011】
図1は、本発明に係るグラビア印刷機の一例を模式的に示す断面図である。図1に示すグラビア印刷機では、版胴1(グラビアシリンダー)の下面の一部がインキパン8中に満たされたインキ9に浸漬するようにして、版胴1を矢印の方向に回転させ、インキ9を版胴1の版面1sに転移させてインキングを行った後、第二のドクターブレード7、第一のドクターブレード6の順に版面1s上の余分なインキを掻き取る。次いで、対向して配置された版胴1と圧胴2との接触面間に被印刷基材3を通し、版胴1と圧胴2間の圧力(印圧)により、版胴1の版面1sの微小な凹部に詰まったインキを被印刷基材3に転移させることにより、印刷を行う。
【0012】
従来のグラビア印刷機を用いたグラビア印刷方法では、粘性の低いインキを用いた場合には、ドクターブレードでインキを十分に掻き取ることができず、インキがドクターブレード上に乗り上げてしまい、乗り上げた過剰なインキやその乾燥物の影響により、印画物にスジやかすれが発生する等の不具合が生じていた。具体的には、例えば、インキがドクターブレード上に乗り上げると、その後インキが乾燥してできた乾燥物が、ドクターブレード上から版面に落下し、版胴により運ばれて被印刷基材に付着したり、ドクターブレード上にインキの乾燥物が堆積することにより、ドクターブレードの刃先が分厚くなり、版面上のインキがドクターブレードによって過剰に掻き取られること等により、熱転写シートにスジやかすれが発生する場合があった。
これに対し、本発明に係るグラビア印刷機及びグラビア印刷方法は、ドクターブレードにより前記版面上の余分なインキを掻き取る際に、まず、上記特定の剛軟度を有する第二のドクターブレードで版面のインキを掻き取った後、さらに、従来一般的に用いられているドクターブレードである第一のドクターブレードで、再度版面のインキを掻き取ることにより、上記の問題を解決することができる。すなわち、本発明では、相対的に柔らかい第二のドクターブレードにより、ある程度の量のインキを掻き取った後、相対的に硬い第一のドクターブレードにより再度インキを掻き取るという、段階的なインキの掻き取りを行い、さらに、第二のドクターブレードの剛軟度を上記特定値以下とすることにより、第二のドクターブレードで掻き取られるインキの量を適度な量とすることができるため、粘性の低いインキを用いた場合であっても、第一のドクターブレード上へのインキの乗り上げを抑制し、且つ版面上のインキを十分に掻き取ることができ、印画表面が良好になると考えられる。
なお、本発明において、粘性が低いインキとは、ザーンカップ(東洋精機社、No.2)により測定した粘度秒数が30秒以下のものをいう。
ここでいう粘度秒数とは、ザーンカップ(東洋精機社製、ZAHN VISCOSIMETER Cup No.2)に塗工液を満たし、その液が落ち始めてから、液の流れが切れるまでの時間である。粘度秒数が大きいほど、粘度が高い。また、本発明において、上記の粘度秒数の測定は、25℃、60%RHの環境下で行なった値である。
【0013】
本発明に係るグラビア印刷機は、図1に示すように、被印刷基材3側から順に配置された第一のドクターブレード6及び第二のドクターブレード7を含む。第一のドクターブレード6及び第二のドクターブレード7は、各々第一のドクターホルダー6h及び第二のドクターホルダー7hによってグラビア印刷機に固定された第一のドクター装置6d及び第二のドクター装置7dとして、グラビア印刷機に備えられる。ドクターホルダーとしては、従来公知のものを適宜選択して使用することができる。
【0014】
前記第一のドクターブレードとしては、例えば、150μm〜300μmの厚さを有しており、ステンレス等の鋼や、セラミック、プラスチック等を用いて形成されたドクターブレード等、従来のドクターブレードを使用できる。鋼やセラミック製の場合には、100μm程度の厚さであっても好適に用いられる。なお、前記第一のドクターブレードは、ドクターブレード本体が鋼からなっている場合には、使用するインキの種類に応じて、ドクターブレード本体の全面に、Ni−P粒子およびSiC粒子を混入させたニッケルめっき、Ni−P粒子およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子を混入させたニッケルめっき、Ni−P粒子を混入させたニッケルめっき、またはクロムめっきが施されていることが好ましい。
第一のドクターブレードのJIS L 1096:2010で規定される剛軟度は、特に限定されないが、40×10−5N以上であることが好ましい。
【0015】
前記第二のドクターブレードは、JIS L 1096:2010で規定される剛軟度が2.5×10−5N以下である。本発明においては、ドクターブレードとして、従来のドクターブレードに加え、さらに、被印刷基材側とは反対側(インキパン側)に、前記上限値以下の剛軟度を有する第二のドクターブレードを備えることにより、印刷時におけるスジ及びかすれの発生を抑制することができる。前記第二のドクターブレードの前記剛軟度が2.5×10−5Nよりも大きいと、第二のドクターブレードでインキを掻き取る際に、インキを掻き取りすぎてしまい、却って印刷時におけるスジ及びかすれが発生してしまう。
前記第二のドクターブレードの前記剛軟度は、スジ及びかすれの発生をさらに抑制し、印刷の均一性を向上する点から、1.5×10−5N以下であることが好ましい。一方、柔らかすぎると版面のインキを掻きもらしすぎて、本発明の効果が得られ難い恐れがあるという点から、0.25×10−5N以上であることが好ましく、更に0.3×10−5N以上であることが好ましい。
【0016】
前記第二のドクターブレードの材質及び厚みは、前記剛軟度が前記上限値以下となるように適宜選択することができる。
前記第二のドクターブレードの材質としては、例えば、樹脂、金属等が挙げられ、中でも樹脂が好適に用いられ、より具体的には、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリビニルクロリド樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアセトアセタール樹脂等のポリビニルアセタール樹脂等が挙げられる。中でも、化学的安定性が高く、且つ、前記剛軟度を満たす材料を選択しやすい、ポリエチレンテレフタレート等ポリエステル樹脂のフィルム乃至シートが好適に用いられ、特にポリエチレンテレフタレートフィルム乃至シートが好適に用いられる。また、前記金属としては、例えば、セラミック、鋼等が挙げられる。
前記第二のドクターブレードの厚みは、前記剛軟度が2.5×10−5N以下となるように、材質に応じて適宜選択すればよいが、20〜300μmの範囲内であることが好ましい。前記第二のドクターブレードの材質が前記金属の場合は、厚みは100μm未満の中から適宜選択することが好ましい。
前記第二のドクターブレードの前記剛軟度が前記上限値以下となるための好ましい材質と厚みの組み合わせとしては、例えば、厚み30〜250μmのポリエステル系樹脂製ドクターブレード等を挙げることができる。
【0017】
前記第一のドクターブレード6と前記第二のドクターブレード7の配置は、被印刷基材3側から順に第一のドクターブレード6及び第二のドクターブレード7が配置されていれば特に限定されないが、スジ及びかすれの発生をさらに抑制し、印刷の均一性を向上する点から、図1に示す本発明に係るグラビア印刷機の断面図において、被印刷基材3とグラビア版胴1との接触中心4と版胴1の軸中心5を結ぶ直線10とグラビア版胴に対する第一のドクターブレードの刃先の版面接触位置P1と版胴1の軸中心5を結ぶ直線11とがなす角αが、10度から90度の範囲内になるように、第一のドクターブレードが配置され、被印刷基材3とグラビア版胴1との接触中心4と版胴1の軸中心5を結ぶ直線10とグラビア版胴1に対する第二のドクターブレードの刃先の版面接触位置P2と版胴1の軸中心5を結ぶ直線12とがなす角βが、前記角αよりも大きく、且つ90度から180度の範囲内になるように、第二のドクターブレードが配置されてなることが好ましい。また、前記角αが20度から50度の範囲内になるように、第一のドクターブレードが配置され、前記角βが100度から150度の範囲内になるように、第二のドクターブレードが配置されてなることが、より好ましい。
【0018】
また、スジ及びかすれの発生をさらに抑制し、印刷の均一性を向上する点から、第一のドクターブレード及び第二のドクターブレードの配置は、前記角度αと前記角度βの角度の差(β−α)が10〜170度であることが好ましく、90〜120度であることがより好ましい。
【0019】
第二のドクターブレード7の版面1sに対する接触角度(ドクター角)θbは、特に限定されないが、通常30〜80度であり40〜70度であることがより好ましい。
第二のドクターブレード7の版面1sに対する接触圧(ドクター圧)は、特に限定されないが、10N/cm未満で適宜設定されることがより好ましい。
第一のドクターブレード6の版面1sに対する接触角度(ドクター角)θaは、特に限定されないが、通常30〜70度である。また、第一のドクターブレード6の版面1sに対する接触圧(ドクター圧)は、特に限定されないが、通常10〜30N/cmである。
なお、印刷に伴い第一のドクター装置6d及び第二のドクター装置7d自体が動いて、第一のドクターブレード6及び第二のドクターブレード7が一定範囲で版面を左右に平行して動く構造にされていてもよい。この場合、第一のドクターブレード6及び第二のドクターブレード7の揺動幅は各々通常、50mm 〜100mm程度である。
【0020】
本発明に係るグラビア印刷機に用いるインキとしては、従来グラビア印刷において用いられるインキを用いることができ、特に限定されない。本発明に用いられるインキは、例えば、色材およびバインダを含有するものであっても良い。色材としては、例えば、有機顔料およびカーボンブラック等を挙げることができる。バインダとしては、例えば、アクリル系樹脂およびポリエステル樹脂等の樹脂を挙げることができる。また、必要に応じて他の成分を含むものであっても良い。そのような他の成分としては、例えば、無機物であるシリカやタルク、および有機物であるワックス粒子やアクリル粒子等を挙げることができる。
本発明においては、粘性が低いインキ、すなわち、ザーンカップ(東洋精機社、No.2)により測定した粘度秒数が30秒以下のインキを用いる場合に、特に印刷時におけるスジ及びかすれを抑制する効果を顕著に発揮することができる。このようなインキとしては、例えば、溶剤として水を含む水系インキ、特に固形分濃度が30%以下の水系インキ等が挙げられる。
【0021】
本発明に係るグラビア印刷機においては、上述したドクターブレード以外の構成要素、例えば図1に示すグラビア印刷機の場合は、版胴1、圧胴2、被印刷基材3、インキパン8、インキ9、については、特に限定されず、従来グラビア印刷機に用いられているものと同様のものを用いることができ、例えば、特開2007−253586号公報に記載されているものを用いることができる。また、本発明に係るグラビア印刷機は、本発明の効果を損なわない範囲において、図1に示す構成要素以外のものを備えていてもよく、例えば、版胴へのインキの付着を良好にするためのファニッシャローラや、均一のインキ粘度とインキ量を維持するためのインキ循環撹拌装置等を備えていてもよい。
【0022】
本発明に係るグラビア印刷方法は、上述した本発明に係るグラビア印刷装置を用いて行うことができる。発明に係るグラビア印刷方法において、印刷速度は特に限定されず、通常100〜1000m/分の範囲内であるが、印刷速度が200〜400m/分の範囲内である場合に、特にスジ及びかすれの抑制効果を顕著に発揮することができる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明について実施例を示して具体的に説明する。これらの記載により本発明を制限するものではない。なお、各実施例及び各比較例において用いた第一のドクターブレード及び第二のドクターブレードの剛軟度は、JIS L 1096:2010の8.22.1 A法(剛軟度(ガーレ法))で規定される方法に準じて、ガーレー式剛柔度計(東洋精機社製)を用い、長さ3.5インチ、幅1インチの試料について測定したものである(以下、単に、剛軟度という)。また、各実施例及び各比較例の説明において使用する符号は、図1に対応するものである。
【0024】
[実施例1]
実施例1のグラビア印刷機として、図1に示すようなグラビア印刷機を準備した。すなわち、実施例1のグラビア印刷機は、外径D:1800mmの版胴1(版面のメッシュ:格子300L/インチ)を備え、第一のドクターブレード6として、厚さ100μmのセラミック製ドクターブレード(剛軟度55×10−5N)を、第二のドクターブレード7として、厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)製ドクターブレード(剛軟度1.1×10−5N)を備えるものであった。
第一のドクターブレード6は、被印刷基材3とグラビア版胴1との接触中心4と版胴1の軸中心5を結ぶ直線10とグラビア版胴に対する第一のドクターブレードの刃先の版面接触位置P1と版胴1の軸中心5を結ぶ直線11とがなす角αが、30度になるように配置され、ドクター角θaは30度、ドクター圧は25N/cmであった。
第二のドクターブレード7は、被印刷基材3とグラビア版胴1との接触中心4と版胴1の軸中心5を結ぶ直線10とグラビア版胴1に対する第二のドクターブレードの刃先の版面接触位置P2と版胴1の軸中心5を結ぶ直線12とがなす角βが、120度になるように配置され、ドクター角θbは45度であった。
【0025】
[実施例2]
実施例1において、第二のドクターブレードとして、厚さ200μmのPET製ドクターブレード(剛軟度2.1×10−5N)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2のグラビア印刷機を得た。
【0026】
[実施例3]
実施例1において、第二のドクターブレードとして、厚さ50μmのPET製ドクターブレード(剛軟度0.25×10−5N)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3のグラビア印刷機を得た。
【0027】
[比較例1]
実施例1において、第二のドクターブレードを用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1のグラビア印刷機を得た。
【0028】
[比較例2]
実施例1において、第二のドクターブレードとして厚さ100μmのスチール製ドクターブレード(剛軟度800×10−5N)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2のグラビア印刷機を得た。
【0029】
[比較例3]
実施例1において、第二のドクターブレードとして厚さ300μmのPET製ドクターブレード(剛軟度3.3×10−5N)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例3のグラビア印刷機を得た。
【0030】
[比較例4]
実施例1において、第二のドクターブレードとして厚さ100μmのセラミック製ドクターブレード(剛軟度55×10−5N)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例4のグラビア印刷機を得た。
【0031】
<評価>
各実施例及び各比較例で得られたグラビア印刷機を用い、インキとして下記組成のインキ(粘度:ザーンカップ(東洋精機社、No.2)により測定した粘度秒数が20秒)を用いて、下記条件でグラビア印刷を行い、印画物(熱転写シート)を得た。得られた印画物の印画表面を目視で観察し、シート面質について評価した。評価結果を表1に示す。
[インキの組成]
水性ポリエステル樹脂(バイロナールMD−1500 東洋紡社製)(固形分30%) 100質量部
水 50質量部
2−プロパノール(IPA) 50質量部
[印刷条件]
印刷方式:ダイレクトグラビア方式
印刷速度:400m/min
被印刷基材:材質PET、厚さ6μm
【0032】
[評価基準]
A:印画表面にかすれ及びスジがない
B:印画表面にかすれ及びスジが若干見えるが、完全にインクが抜けていないスジであり、品質には問題ないレベル
C:印画表面にかすれ及びスジがあり、完全にインクが抜けているスジであり、印画物に支障があるレベル
【0033】
【表1】
【0034】
(結果のまとめ)
実施例1〜3のグラビア印刷機は、ドクターブレードとして、被印刷基材側から順に配置された第一のドクターブレード及び第二のドクターブレードを備え、第二のドクターブレードのJIS L 1096:2010で規定される剛軟度が2.5×10−5N以下であったため、粘性の低いインキを用いた場合であっても、得られた印画物は、印画表面にかすれ及びスジがないか(実施例1)、スジが若干あっても、完全にインクが抜けていないスジであり、品質には問題ないレベルであった(実施例2、3)。
一方、比較例1のグラビア印刷機は、第二のドクターブレードを備えていなかったため、得られた印画物にかすれ及びスジがあり、印画物に支障があるレベルであった。
比較例2〜4のグラビア印刷機は、第二のドクターブレードの前記剛軟度が大きすぎたため、得られた印画物にかすれ及びスジがあり、印画物に支障があるレベルであった。
【符号の説明】
【0035】
1 版胴
2 圧胴
3 被印刷基材
6 第一のドクターブレード
6h 第一のドクターホルダー
6d 第一のドクター装置
7 第二のドクターブレード
7h 第二のドクターホルダー
7d 第二のドクター装置
8 インキパン
9 インキ
図1