(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-67723(P2015-67723A)
(43)【公開日】2015年4月13日
(54)【発明の名称】アントラキノン系色素製剤
(51)【国際特許分類】
C09B 67/20 20060101AFI20150317BHJP
C09B 67/46 20060101ALI20150317BHJP
A23L 1/27 20060101ALI20150317BHJP
C09B 1/08 20060101ALN20150317BHJP
C09B 67/00 20060101ALN20150317BHJP
【FI】
C09B67/20 F
C09B67/46 A
A23L1/27
C09B1/08
C09B67/00 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-203154(P2013-203154)
(22)【出願日】2013年9月30日
(71)【出願人】
【識別番号】390010674
【氏名又は名称】理研ビタミン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤原 和広
(72)【発明者】
【氏名】岡井 武史
【テーマコード(参考)】
4B018
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018MA02
(57)【要約】
【課題】アルミニウムを含有せずに色調を安定化したアントラキノン系色素製剤を提供する。
【解決手段】水溶性マグネシウム塩を含有することを特徴とするアントラキノン系色素製剤。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性マグネシウム塩を含有することを特徴とするアントラキノン系色素製剤。
【請求項2】
更に、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウムの群から選ばれる1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載のアントラキノン系色素製剤。
【請求項3】
アントラキノン系色素がコチニール色素であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のアントラキノン系色素製剤。
【請求項4】
アルミニウムを実質的に含有しないことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアントラキノン系色素製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アントラキノン系色素製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
コチニール色素等のアントラキノン系色素は、高等植物や菌類、昆虫等に存在する色素であり、耐熱性・耐光性に優れることから幅広い食品等の着色に用いられている。特に赤〜ピンク色の発色が良好であるため、このような色調を得る目的で好ましく用いられるが、アントラキノン系色素はpHの影響を受けやすく、酸性域では黄色、アルカリ性域では紫に近い色調へと変化してしまう。また、タンパク質に染着した場合もくすんだ紫〜灰色に変色してしまうため、安定的に赤〜ピンク色の色調を得ることが困難であった。
【0003】
アントラキノン系色素を赤〜ピンク色で安定させる方法として、例えばミョウバン類、有機酸塩類及び炭酸塩類等を安定剤として配合する方法が知られている(特許文献1及び2)。しかし、ミョウバンは、硫酸アルミニウムカリウム等のアルミニウム化合物であることから、過剰摂取による健康被害の可能性が指摘されており、国際的にも摂取量制限に関する議論が進められている。そのため、食品用のアントラキノン系色素においてはミョウバンを使用しない色調の安定化方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭56−139561号公報
【特許文献2】特開平5−331384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、アルミニウムを含有せずに色調を安定化したアントラキノン系色素製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、アントラキノン系色素製剤に水溶性のマグネシウム塩を配合することにより、その色調が安定化されることを見出し、この知見に基づいて本発明を成すに至った。
【0007】
即ち、本発明は、
(1)水溶性マグネシウム塩を含有することを特徴とするアントラキノン系色素製剤、
(2)更に、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウムの群から選ばれる1種又は2種以上を含有することを特徴とする前記(1)に記載のアントラキノン系色素製剤、
(3)アントラキノン系色素がコチニール色素であることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載のアントラキノン系色素製剤、
(4)アルミニウムを実質的に含有しないことを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載のアントラキノン系色素製剤、
からなっている。
【発明の効果】
【0008】
本発明のアントラキノン系色素製剤は、アルミニウムを含有しなくとも安定した色調を呈する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のアントラキノン系色素製剤は、少なくともアントラキノン系色素と、水溶性マグネシウム塩を含有する。
【0010】
本発明で用いられるアントラキノン系色素は、アントラキノン型の炭素骨格を有する化合物であって、一般に色素として使用されるものであれば特に制限はない。こうしたアントラキノン系色素としては、例えばコチニール色素、ラック色素、アカネ色素等が挙げられるが、特にカイガラムシ科エンジムシ(Coccus cacti L.)の乾燥体より、水及び/又はアルコールで抽出することにより得られるカルミン酸を主成分とするコチニール色素が好ましい。
【0011】
コチニール色素の形態としては、色素を含有する水及び/又はアルコール溶液を自体公知の方法で粉末化した色素粉末であることが好ましい。コチニール色素粉末としては、例えばCA−90(商品名;クリスチャンハンセン社製)等が商業的に製造・販売されており、本発明ではこれらを用いることができる。
【0012】
本発明で用いられる水溶性マグネシウム塩としては、食品に使用可能なものであれば特に制限はないが、例えば塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、水酸化マグネシウム及びL−グルタミン酸マグネシウム並びにこれらの水和物等が挙げられる。これらの中でも、入手の容易さや汎用性等の観点から塩化マグネシウム及び硫酸マグネシウム並びにこれらの水和物が好ましい。特に、本発明のアントラキノン色素製剤を粉末製剤とする場合には、製剤の保存安定性の観点から、潮解性が低い硫酸マグネシウムの3水和物等が好ましく用いられる。これら水溶性マグネシウム塩は、1種又は2種以上を任意に組み合わせて用いることができる。
【0013】
本発明のアントラキノン系色素製剤は、色調をより安定にするため、上述のアントラキノン系色素と水溶性マグネシウム塩の他、更にリン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウムの群から選ばれる1種又は2種以上(以下、「本発明に係るリン酸類」ともいう)を含有することがより好ましい。
【0014】
本発明のアントラキノン系色素製剤100質量%中のアントラキノン系色素、水溶性マグネシウム塩及び本発明に係るリン酸類の含有量に特に制限はないが、アントラキノン系色素(色価1500換算)の含有量が通常0.05〜10質量%、好ましくは0.1〜10質量%であり、水溶性マグネシウム塩の含有量が0.5〜80質量%、本発明に係るリン酸類の含有量が0.05〜15質量%であることが好ましい。
【0015】
また、上記の含有量は、水溶性マグネシウム塩の含有量がアントラキノン系色素(色価1500換算)の含有量の10〜150倍量であることが好ましく、本発明に係るリン酸類の含有量がアントラキノン系色素(色価1500換算)の含有量の1〜20倍量であることが好ましい。
【0016】
また、本発明のアントラキノン系色素製剤には、上述のアントラキノン系色素、水溶性マグネシウム塩及び本発明に係るリン酸類の他に、本発明の目的及び効果を妨げない範囲において、従来アントラキノン系色素製剤に使用されているリンゴ酸や酒石酸、クエン酸、乳酸等の有機酸及びこれらの塩類をはじめ、ミョウバン類(例えば、硫酸アルミニウムカリウム、硫酸アルミニウムアンモニウム等)、炭酸塩類、他の着色料、甘味料、酸味料、保存料、酸化防止剤、蛋白、アミノ酸及び糖類等通常色素製剤に使用されている成分を添加しても良い。但し、本発明のアントラキノン系色素製剤は、従来アントラキノン系色素製剤に使用されているアルミニウム化合物であるミョウバン類を含有しなくとも安定した色調を呈することを特徴とするものであるから、アルミニウムを実質的に含有しないことが好ましい。
【0017】
本発明のアントラキノン系色素製剤について「アルミニウムを実質的に含有しない」とは、ミョウバン類を全く含有しないことのみならず、ミョウバン類を含有するが、従来のアントラキノン系色素製剤に比べてミョウバン類の含有量が十分に少ないことをも意味する。より具体的には、アントラキノン系色素製剤中のミョウバン類の含有量(質量%)が、当該製剤中のアントラキノン系色素の含有量未満であること、好ましくは当該製剤中のアントラキノン系色素の含有量の2分の1未満であることをいう。
【0018】
本発明のアントラキノン系色素製剤の調製方法は特に制限されず、自体公知の方法を用いることができる。具体的には、例えばアントラキノン系色素及びその他の成分を混合した溶液又は粉末に、デキストリン、乳糖、粉末水飴等を担体(賦形剤)として配合し、これを粉末状、顆粒状、錠剤状又は丸剤状等に成形してなる乾燥(固形)状態の色素製剤として調製することができる。
【0019】
本発明のアントラキノン系色素製剤の使用対象に特に制限はないが、従来のアントラキノン系色素製剤と同様、食品に対して好ましく用いられる。具体的には、例えばアイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、シャーベット、氷菓等の冷菓類、乳飲料、乳酸菌飲料、清涼飲料、炭酸飲料、果汁飲料、野菜飲料、スポーツ飲料、粉末飲料、アルコール飲料、コーヒー飲料、茶飲料等の飲料類、プリン、ゼリー、ヨーグルト等のデザート類、ケーキ、蒸しケーキ、クッキー、チューインガム、チョコレート、キャンディ、グミ等の洋菓子類、蒸し饅頭、焼き饅頭、大福、団子、煎餅、羊羹等の和菓子類、食パン、菓子パン、惣菜パン、揚げパン、蒸しパン、ベーグル等のパン類、ハム、ソーセージ、ベーコン、ハンバーグ、テリーヌ等の畜肉加工品類、カマボコ、魚肉ソーセージ、なると巻き、竹輪、はんぺん、伊達巻等の水産加工品類、ドレッシング、たれ等の調味料類、ジャム類、スープ類、漬物類といった幅広い食品の着色に使用することができる。
【0020】
本発明のアントラキノン系色素製剤により着色した食品は、従来のアルミニウムを含有するアントラキノン系色素製剤により着色したものに比べてやや青みが多い傾向にあるものの、くすみのないピンク色を呈する。また、上述した食品の中でも、蒸し饅頭や蒸しケーキ、蒸しパン等の蒸し物類を本発明のアントラキノン系色素製剤により着色すると、より鮮明なピンク色を呈する。従って、本発明のアントラキノン系色素製剤は、蒸し物類の着色に好ましく使用することができ、特にイチゴ等をイメージした外観や風味の蒸し物類に好ましく使用することができる。
【0021】
ここで、本発明のアントラキノン系色素製剤が蒸し物類の着色に特に適している理由は必ずしも明らかではないが、例えば、重曹(炭酸水素ナトリウム)や重炭安(炭酸水素アンモニウム)等のアルカリ性剤が膨張剤として蒸し物類に添加されることにより、そのpHが比較的高いこと(例えば、pH7.5以上であること)、蒸し物類の水分量が比較的少ないこと(例えば、水分量が35質量%未満であること)等が色調の安定化に影響していると推測される。
【0022】
なお、蒸し物類等の食品に用いられる膨張剤としては、アルカリ性剤のみからなるもの(単体膨張剤)の他、アルカリ性剤に加えてミョウバン類等の酸性剤を含有するもの(複合膨張剤)があり、この複合膨張剤は、一般的にpHがおよそ中性となるように設定されている。従って、本発明のアントラキノン系色素製剤の使用対象としては、(1)単体膨張剤を添加した食品、(2)単体膨張剤を添加せずに複合膨張剤を添加し、且つpH調製剤等を添加してpHを高めに調整した食品等が好ましい。また、本発明は、色素製剤にアルミニウムを含有しないことをもって、アルミニウムを低減乃至除去した最終製品を提供することを趣旨とするものであるから、使用対象の食品に添加する複合膨張剤についてもミョウバン類を含有しないものを選択することが好ましい。
【0023】
本発明のアントラキノン系色素製剤の使用方法に特に制限はないが、あらかじめアントラキノン系色素製剤に約15〜95℃の水を加えて撹拌・溶解し、色素水溶液を調製した後に、該水溶液を使用対象に添加することが好ましい。添加方法としては、例えば、色素水溶液を使用対象に噴霧又は塗布する、或いは色素水溶液を使用対象に練り込み調製する等、自体公知の方法を任意に採用することができる。また、本発明のアントラキノン系色素製剤の添加量は、使用対象の形態や色素製剤の色価等により異なり一様ではないが、例えば、饅頭等の和菓子製品の生地100質量%に対し、通常0.01〜5.0質量%、好ましくは0.02〜3.0質量%となるように添加することができる。
【0024】
以下に本発明を実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0025】
[コチニール色素製剤の調製]
(1)原材料
1)コチニール色素粉末(商品名:CA−90;クリスチャンハンセン社製;色価1500)
2)硫酸マグネシウム(商品名:硫酸マグネシウム(乾燥);3水和物;赤穂化成社製)
3)硫酸アルミニウムカリウム(商品名:タイエースK−150;大明化学工業社製)
4)リン酸水素二ナトリウム(商品名:リン酸水素二ナトリウム(無水);太平化学産業社製)
5)リンゴ酸ナトリウム(商品名:DL−リンゴ酸ナトリウム;扶桑化学工業社製)
6)デキストリン(商品名:パインデックス#2;松谷化学工業社製)
【0026】
(2)原材料の配合
上記原材料を用いて調製したコチニール色素製剤1〜5の配合割合を表1に示した。この内、製剤1〜3は、本発明に係る実施例であり、硫酸マグネシウムを含有している。また、製剤4は、それら実施例に対する比較例であり、硫酸マグネシウムを含有せず、ミョウバン(硫酸アルミニウムカリウム)を含有する従来品である。また、対照として、製剤5は、硫酸マグネシウム及びミョウバンのいずれも含有していない。
【0027】
【表1】
【0028】
(3)コチニール色素製剤の調製方法
表1に示した原材料の配合割合に基づいて、全ての原材料を均一に混合し、粉末状のコチニール色素製剤1〜5各100gを調製した。
【0029】
[試験例1]
[蒸し饅頭の着色試験]
(1)原材料
1)薄力粉(商品名:日清フラワー;日清製粉社製)
2)上白糖(商品名:上白糖;三井製糖社製)
3)膨張剤(商品名:日清ベーキングパウダー;ミョウバンを含有しない複合膨張剤;日清フーズ社製)
4)pH調整剤(炭酸水素ナトリウム;旭硝子社製)
5)コチニール色素製剤1〜5
6)粒あん(茜丸社製)
【0030】
(2)コチニール色素水溶液の調製
コチニール色素製剤1〜5各20gに90℃の水60gを加え、同温度の温水浴中でマグネチックスターラーを用いて2時間攪拌・溶解し、コチニール色素水溶液を得た。
【0031】
(3)蒸し饅頭の作製
表2に示した配合割合に従い、pH調整剤を予め水の一部に溶解した後、ここに表2記載の残りの原材料を全て加え、ゴムベラで均一になるまで混合して饅頭生地を得た。この饅頭生地100質量部に対し、上記(2)の各コチニール色素水溶液を1.6質量部ずつ加え、ゴムベラで均一になるまで混合して饅頭生地を着色した。
続いて、着色した各饅頭生地23gを使って粒あん37gを包餡し、蒸籠で13分間蒸し、蒸し饅頭1〜5を得た。
【0032】
【表2】
【0033】
ここで、蒸し饅頭1〜5のpHを測定した、具体的には、蒸し饅頭の生地部分を細かく刻み、これに同質量の水を加えて混練して得た混合物について、pHメーター(型式:D−52;堀場製作所社製)を用いて測定した結果、8.2であった。また、蒸し饅頭1〜5について、水分計(型式:MX−50;エーアンドディー社製)を用いて水分量を正確に測定した結果、いずれも25%であった。
【0034】
(4)評価方法及び結果
蒸し饅頭1〜5について着色部分(饅頭生地部分)を目視にて観察し、色調を評価した。結果を表3に示す。
【0035】
【表3】
【0036】
表3の結果から、本発明のコチニール色素製剤1〜3を使用した蒸し饅頭1〜3は、ミョウバンを含有する従来のコチニール色素製剤4を使用した蒸し饅頭4と比べて、青み及び黄みの点で色調がやや異なるが、いずれも鮮やかなピンク色を呈しており、安定した色調であった。これに対し、硫酸マグネシウム及びミョウバンのいずれも含有していないコチニール色素製剤5を使用した蒸し饅頭5ではコチニール色素で着色した食品のイメージとはかけ離れたくすんだ色調となり、商品価値を著しく損ねていた。