【実施例】
【0049】
〔実施例1〕
台所で使用する環境を想定し、本発明の熱線型半導体式ガス検知器X(本発明例1〜4)の性能(有機ガス耐久性)を調べた。導入するガスは、トルエン250ppm+OMCTS(シリコーンガス)5ppmを有する混合ガスとした。比較センサ(比較例1〜5)についても同様の試験を行った。
【0050】
各本発明例および各比較例の構成の詳細は表1に示した。
本発明例1〜4において、第一吸着部31は活性炭を使用し、第二吸着部32は活性炭またはシリカアルミナの何れか或いは両方を使用し、開口面積はガス導入口20の開口面積の8%とした(本発明例1,3,4:
図3(a)、本発明例2:
図3(b))。
【0051】
また、比較例1,2,5では第二吸着部32を設けず、比較例1〜4では制限通気口40を設けなかった。比較例3,4では、第一吸着部31および第二吸着部32の間にガス導入口20と同径(3.5mm)の通気口41を形成した。また、比較例1,2は筐体を二重筐体構造とせずに単一の筐体のみの構造とした。さらに、比較例6は、特許文献2に記載のように、制限通気口40と同径のピンホール42を設けた流入制限板60を設けた構成とした(比較例1:
図5(a)、比較例2:
図5(b)、比較例3:
図5(c)、比較例4:
図6(d)、比較例5:
図6(e)、比較例6:
図6(f))。
【0052】
【表1】
【0053】
結果を
図7に示した。
シリコーンガス以外の高濃度VOC(揮発性有機化合物)ガス共存下では、第一吸着部31(活性炭)への多量のトルエンガスの吸着で、第一吸着部31の吸着能力が低下する。そのため、比較例1の構造では、第一吸着部31におけるシリコーンガスの吸着能力が低下することにより、100日程度でメタンの検知感度がなくなり、ガス検知素子10が早期に被毒するものと認められた。
比較例1の活性炭量を2倍に増加させた比較例2の場合でも、180日程度でメタンの検知感度がなくなり、ガス検知素子10が比較的早期に被毒するものと認められた。
比較例3の場合は、第二吸着部32を備えるが制限通気口40を備えていないため、ガス検知素子10へのシリコーンガスの流入は低減されず、比較例1の結果と同程度であった。
比較例4の場合は、空隙部Sを設けるが制限通気口40を備えていないため、ガス検知素子10へのシリコーンガスの流入は低減されず、比較例1の結果と同程度であった。
比較例5の場合は制限通気口40を備えるが第二吸着部32を備えないため、制限通気口40による有機ガスの低減効果があったとしても第二吸着部32の吸着効果を期待できない。そのため、ガス検知素子10へのシリコーンガスの流入はそれほど低減されず、比較例1の結果と同程度であった。
比較例6の場合は、筐体を二重構造とせず、流入制限板60を筐体50に設けた構成としたため、流入制限板60と筐体50との間に隙間が存在し、当該隙間からガス検知素子10へのシリコーンガスの流入が起ったと考えられ、比較例1の結果と同程度であった。
【0054】
一方、本発明例1においては、第一吸着部31、第二吸着部32および制限通気口40を備えるため、180日経過後もメタンの検知感度の低下は17%(2500/3000ppm)程度であり、シリコーン耐久性が各比較例に比べて大幅に向上したと認められた。これは、第一吸着部31をシリコーンガスが通過した場合でも、制限通気口40によってシリコーンガスの流入が低減され、さらに第二吸着部32によってシリコーンガスが吸着されるため、ガス検知素子10に到達するシリコーンガスが極めて少なくなるためである。
本発明例1の第二吸着部32の量を半分に減じた本発明例2においては、180日経過後もメタンの検知感度の低下は37%(1900/3000ppm)程度であり、シリコーン耐久性が各比較例に比べて大幅に向上したと認められた。後述の実施例2において示すように、吸着剤の量を増加させると被検知ガスに対する応答性が低下するので、優れた応答性のためには、吸着剤の量が少ないほうが好ましい。本発明例2のように、第二吸着部32の量を第一吸着部31より少なくすることで、良好な応答性とシリコーン耐久性を実現することができる。
本発明例3では第二吸着部32を活性炭に替えてシリカアルミナを適用したが、180日経過後もメタンの検知感度の低下は27%(2200/3000ppm)程度であり、シリコーン耐久性が各比較例に比べて大幅に向上したと認められた。
本発明例4では第二吸着部32を活性炭およびシリカアルミナを適用したが、180日経過後もメタンの検知感度の低下は10%(2700/3000ppm)程度であり、シリコーン耐久性が各比較例に比べて大幅に向上したと認められた。
特に本発明例4のように第二吸着部32を活性炭およびシリカアルミナとすることで、メタンの検知感度の低下を最も効果的に抑制することができるものと認められた。
【0055】
本発明のセンサでは、制限通気口40による有機ガスの低減効果により、第二吸着部32の有機ガス吸着の負担が軽減できるため、第二吸着部32の吸着剤の量を適宜減量することができる。
【0056】
〔実施例2〕
被検知ガス(メタンガス)に対するガス応答性を調べた。
上述した本発明例1,比較例1,比較例2のセンサ、および、ガス導入口20の開口径を1.5mmに減じた以外は比較例1と同等の構成を有する比較例7(
図6(g))のセンサを使用した。
【0057】
ガス応答性は、メタンガスの90%応答に要する時間を測定することにより評価した。当該時間は45秒以内であれば良好な応答性を有すると判断した。結果を表2に示した。
尚、良好な応答性の判断基準を45秒以内とした根拠は、以下の通りである。即ち、JIA規格で家庭用都市ガス警報器の応答は60秒以内であることが規定されている。警報器にセンサを搭載した場合には、センサ単体での応答よりも時間がかかる傾向にある。従って、センサ単体で45秒以内に応答しなければ、警報器に搭載した場合に、上記JIA規格を満たさない可能性があるため、良好な応答性の判断基準を45秒以内とした。
【0058】
【表2】
【0059】
その結果、シリコーン耐久性向上のために比較例1の活性炭量を増加させた比較例2の場合では、メタンガスに対するガス応答がかなり遅くなった(48秒)。また、比較例7のようにガス導入口20の面積を縮小させた場合では、さらに応答性の低下が著しかった(62秒)。
【0060】
一方、本発明例1においては、活性炭総重量(第一吸着部31,第二吸着部32)が比較例1と同量の場合でも、ガス導入口20の面積が十分に広く、かつ制限通気口40を介した第二吸着部32の量が少量であるため、応答性は比較例2や比較例7に比べて速くなった(20秒)。
【0061】
本発明のセンサでは、優れたメタンガス応答性を有するものと認められた。
【0062】
〔実施例3〕
有機ガス耐久性と制限通気口40の開口率との関係を調べた。
上述した本発明例1の制限通気口40の開口率を変化させ、有機ガス(シリコーン)に対する耐久性を評価した。判定基準は、初期警報設定濃度の1/3(1000ppm:警報濃度下限値)以上を有する場合が良好な応答性を有すると判断した。結果を
図8に示した。
【0063】
その結果、開口率が33%以下の場合に初期警報設定濃度の1/3以上を有することが判明し、警報濃度の低下は少なくなるものと認められた。
【0064】
〔実施例4〕
ガス応答性と制限通気口40の開口率との関係を調べた。
上述した本発明例1の制限通気口40の開口率を変化させ、被検知ガスに対する応答性を評価した。判定基準は、90%応答に要する時間が45秒以内であれば良好な応答性を有すると判断した。結果を
図9に示した。
【0065】
その結果、開口率が5%以上の場合に、90%応答に要する時間が45秒以内となり、優れた応答性を示すものと認められた。
【0066】
〔実施例5〕
有機ガス耐久性と空隙部Sの容積率との関係を調べた。当該空隙部Sの容積率とは、筐体内部の内容積に対する空隙部Sの相対容積率である(電極支持台部分は除く)。
図4に示した本発明のガス検知器Xにおいて、制限通気口40の開口率を8%および18%とした二つの本発明例4において、空隙部Sの容積率を変化させてシリコーン耐久性を調べた。判定基準は、初期警報設定濃度の1/3(1000ppm:警報濃度下限値)以上を有する場合が良好な応答性を有すると判断した。結果を
図10に示した。
【0067】
その結果、二つの本発明例4において、空隙部Sの容積率を増加させると、特に9%以上では、初期警報設定濃度の2/3(2000ppm)以上を維持するため、シリコーン耐久性が向上するものと認められた。これは、第一吸着部31を通過したシリコーンガスが空隙部Sによって希釈され、その下流の制限通気口40へ流入するシリコーンガス濃度がさらに低減するためである。
【0068】
〔実施例6〕
実施例5における本発明例4において、空隙部Sの容積率を変化させて被検知ガス(メタンガス)に対する応答性を調べた。ガス応答性は、90%応答に要する時間を測定することにより評価した。当該時間は45秒以内であれば良好な応答性を有すると判断した。結果を
図11に示した。
【0069】
その結果、空隙部Sの容積率が増加するほどガス応答は遅くなるが、本発明例1の開口率5%(実施例4:90%応答に要する時間が45秒程度)のときよりも、空隙部Sが容積率26%以下を有する本発明例4の開口率8%および18%のときの方が、ガス応答性が優れている。
よって、空隙部Sを設けた本発明例4の場合は、開口率は8%以上、かつ33%以下(実施例3)で、空隙部Sの容積率は9%以上(実施例5)、26%以下が好ましい。