【実施例】
【0050】
実施例1および比較例1
本発明のマーカーCCL27およびCXCL9を単独で用いた場合の性能を調べるため、下記のような試験を行った。また、比較のために、好酸球性気道炎症の既知マーカーであるPeriostin、好酸球との関連性が示唆されているEotaxinおよびTARC(CCL17, CC Chemokine Ligand 17)についても同様に試験を行った。
【0051】
(1) 試料の調製
国立病院機構相模原病院より、喘息患者39名の血清試料を入手した。これらの喘息患者について、喀痰を用いてハンセル法による好酸球検査を行った結果、喀痰好酸球が検出された(喀痰好酸球陽性)患者は33名、喀痰好酸球が検出されなかった(喀痰好酸球陰性)患者は6名であった。
【0052】
(2) ELISA測定
上記で得た血清試料を用いて、各マーカーの量を測定するために下記のようにしてELISA測定を行った。
(2-1) CCL27
ELISA測定用キットとしてR&D systems社製 Duoset (DY376)を使用した。
まず、96ウェルELISAプレートに100μLの抗体希釈液(4μg/mL固相抗体,0.05% NaN
3, PBS PH7.4)を添加し、4℃で一晩抗体を固相化した。洗浄バッファー(0.05%Tween20, 0.05% NaN
3, PBS PH7.4)で3回洗浄し、250μLのブロッキングバッファー(1% BSA,0.5% Casein, 0.05% Tween20, 0.05% NaN
3, PBS PH7.4)で、室温で2時間以上ブロッキングした。ELISA Dilution Buffer (1% BSA, 0.5% Casein, 0.05% NaN
3, PBS PH7.4)で4倍希釈した血清を100μL添加し、4℃で一晩反応させた。洗浄バッファーで3回洗浄し100μLの標識抗体液(0.075μg/mL標識抗体, 1% BSA, 0.5% Casein, 0.05% NaN
3, PBS PH7.4)を添加した。2時間室温で反応し、洗浄バッファーで3回洗浄した。100μLのアルカリフォスファターゼ標識ストレプトアビジン液(1:1000希釈Streptavidin-Alkaline Phosphatase [R&D systems AR001 ], 1% BSA,0.5% Casein, 0.05% NaN
3, PBS PH7.4)を添加し、20分間反応させた。洗浄バッファーで3回洗浄し、250μLのALP活性化バッファー(20mM Tris 10mM MgCl pH9.8)で1回洗浄し、基質(CDP-Star Ready-to-use Sapphire II Tropix)を100μL添加し、化学発光検出装置(FLUO star OPTIMA BMG LabTech)で発光シグナルを検出した。
【0053】
(2-2) CXCL9
ELISA測定用キットとしてR&D systems社製 Duoset (DY392)を使用した。
まず、96ウェルELISAプレートに100μLの抗体希釈液(1μg/mL固相抗体, PBS pH7.4)を添加し、4℃で一晩抗体を固相化した。洗浄バッファーで3回洗浄し、250μLのブロッキングバッファーで、室温で2時間以上ブロッキングした。ELISA Dilution Buffer (1% BSA,0.5% Casein, 0.05% NaN
3, PBS pH7.4)にて4倍希釈した血清を100μL添加し、4℃で一晩反応させた。洗浄バッファーで3回洗浄し100μLの標識抗体液(0.2μg/mL標識抗体, 1% BSA,0.5% Casein, 0.05% NaN
3, PBS pH7.4) を添加した。2時間室温で反応し、洗浄バッファーで3回洗浄する。100μLのアルカリフォスファターゼ標識ストレプトアビジン液(1:1000希釈Streptavidin-Alkaline Phosphatase, 1% BSA, 0.05% NaN
3, PBS pH7.4)100μL添加し、20分間反応させた。洗浄バッファーで3回洗浄し、250μLのALP活性化バッファーで洗浄し、基質を添加し、100μLの化学発光検出装置で発光シグナルを検出した。
【0054】
(2-3) Periostin
ELISA測定用キットとしてR&D systems社製 Duoset (DY3548)を使用した。
まず、384ウェルELISAプレートに50μLの抗体希釈液( 1μg/mL固相抗体,PBS pH7.4)を添加し、4℃で一晩抗体を固相化した。洗浄バッファーで3回洗浄し、100μLのブロッキングバッファー(1% BSA,0.5% Casein, 0.05% Tween20, 0.05% NaN
3, PBS pH7.4) で、室温で2時間以上ブロッキングした。ELISA Dilution Buffer (1% BSA,0.5% Casein, 0.05% NaN
3, PBS pH7.4)で100倍希釈した血清を50μL添加し、4℃で一晩反応させた。洗浄バッファーで3回洗浄し50μLの標識抗体液(2μg/mL標識抗体, 1% BSA, 0.5% Casein, 0.05% NaN
3, PBS pH7.4)を添加した。2時間室温で反応し、洗浄バッファーで3回洗浄した。50μLのアルカリフォスファターゼ標識ストレプトアビジン液(1:1000希釈Streptavidin-Alkaline Phosphatase, 1% BSA,0.5% Casein, 0.05% NaN
3, PBS pH7.4)を50μL添加し、20分間反応させた。洗浄バッファーで3回洗浄し、100μLのALP活性化バッファーで洗浄し、50μLの基質を添加し、化学発光検出装置(FLUO star OPTIMA BMG LABTECH)で発光シグナルを検出した。
【0055】
(2-4) Eotaxin
ELISA測定用キットとしてR&D systems社製 Duoset (DY320)を使用した。
まず、96ウェルELISAプレートに100μLの抗体希釈液( 2μg/mL固相抗体, PBS pH7.4)を添加し、4℃で一晩抗体を固相化した。洗浄バッファーで3回洗浄し、250μLのブロッキングバッファーで、室温で2時間以上ブロッキングした。ELISA Dilution Buffer (1% BSA,0.5% Casein, 0.05% NaN
3, PBS pH7.4)で4倍希釈した血清を100μL添加し、4℃で一晩反応させた。洗浄バッファーで3回洗浄し100μLの標識抗体液(0.1μg/mL標識抗体, 1% BSA,0.5% Casein, 0.05% NaN
3, PBS pH7.4)を添加した。2時間室温で反応し、洗浄バッファーで3回洗浄する。100μLのアルカリフォスファターゼ標識ストレプトアビジン液(1:1000希釈Streptavidin-Alkaline Phosphatase, 1% BSA,0.5% Casein, 0.05% NaN
3, PBS pH7.4)を100μL添加し、20分間反応させた。洗浄バッファーで3回洗浄し、250μLのALP活性化バッファーで洗浄し、100μLの基質を添加し、化学発光検出装置で発光シグナルを検出した。
【0056】
(2-5) TARC
ELISA測定用キットとしてR&D systems社製 Duoset (DY364)を使用した。
まず、96ウェルELISAプレートに100μLの抗体希釈液(2μg/mL固相抗体, PBS pH7.4)を添加し、4℃で一晩抗体を固相化した。洗浄バッファーで3回洗浄し、250μLのブロッキングバッファーで、室温で2時間以上ブロッキングした。ELISA Dilution Buffer (1% BSA, 0.05% NaN
3, PBS pH7.4)で4倍希釈した血清を100μL添加し、4℃で一晩反応させた。洗浄バッファーで3回洗浄し100μLの標識抗体液(0.1μg/mL標識抗体, 1% BSA, 0.05% NaN
3, PBS pH7.4)を添加する。2時間室温で反応し、洗浄バッファーで3回洗浄した。100μLのアルカリフォスファターゼ標識ストレプトアビジン液(1:1000希釈Streptavidin-Alkaline Phosphatase, 1% BSA, 0.05% NaN
3, PBS pH7.4)100μL添加し、20分間反応させた。洗浄バッファーで3回洗浄し、250μLのALP活性化バッファーで洗浄し、100μLの基質を添加し、化学発光検出装置で発光シグナルを検出した。
【0057】
(3) ELISA測定結果の解析
各マーカーについて、濃度既知のスタンダードの発光シグナル(RLU)から4-Parameter fitにより検量線を作成した。検体から得られた発光シグナル(RLU)を検量線にあてはめ、血清中のマーカー濃度を算出した。解析には解析ソフトMARS(BGM LABTECH)を使用した。
【0058】
(4) 統計解析
統計解析にはStatFlex Version 6.0 (YUMIT)を使用した。
(4-1) 有意差検定
喀痰好酸球の陽性または陰性に応じて患者群を2群に分け、マンホイットニー検定にて血清中のマーカー濃度差を検定した。検定結果を表1−1にまとめる。
【表1-1】
(4-2) 感度および特異度の算定
ROC曲線を求め喀痰好酸球陽性または陰性のカットオフを設定し感度および特異度を算出した。
カットオフの設定は、ROC曲線において、(感度、1−特異度)が(1、0)である点から最も近いポイント(図中に矢印で表記)に設定した。
(4-3) ROC曲線の比較
各項目間でHanleyの方法によりROC曲線の曲線下面積(AUC)を比較した。
【0059】
CCL27(
図1A)およびCXCL9(
図1B)について得られた解析結果を実施例1として、Periostin(
図1C)、Eotaxin(
図1D)およびTARC(
図1E)について得られた解析結果を比較例1として示す。また、解析結果を下記の表1−2にまとめる。
【0060】
【表1-2】
【0061】
表1−1より、Periostin、Eotaxin、およびTARCについては、喀痰好酸球陽性患者と陰性患者との間のマーカー濃度に有意差が見られない一方、CCL27およびCXCL9については、喀痰好酸球陽性患者と陰性患者との間のマーカー濃度に有意差が見られた。このことから、CCL27およびCXCL9は、喘息患者における喀痰好酸球陽性患者と陰性患者とを判別することが可能なマーカーであることがわかる。
【0062】
また、表1−2の結果から、CCL27およびCXCL9は、感度と特異度の観点から、Periostin、EotaxinおよびTARCよりも優れた性能を有するマーカーであることが明らかとなった。
【0063】
実施例2および比較例2
実施例2において、本発明者は、CCL27およびCXCL9について、好酸球性気道炎症の一次スクリーニング用マーカーとしての性能を調べるために、非喘息健常成人の血清中のマーカー濃度を測定し、実施例1で得られたマーカー濃度を比較および解析する実験を行った。具体的には、非喘息健常成人検体として健常ボランティア12名から得られた血清試料を用いて実施例1と同様にELISAによるマーカー濃度測定を行い、実施例1で用いた血清試料39検体から得られたマーカー濃度のデータと組み合わせて実施例1と同様の統計解析を行った。なお、非喘息健常成人は、喀痰好酸球陰性群に含めて扱った。
【0064】
CCL27(
図2A)およびCXCL9(
図2B)について得られた解析結果を実施例2として、Periostin(
図2C)、Eotaxin(
図2D)およびTARC(
図2E)について得られた解析結果を比較例2として示す。また、解析結果を下記の表2−1および表2−2にまとめる。
【0065】
【表2-1】
【表2-2】
【0066】
表2−1より、PeriostinおよびTARCについては、喀痰好酸球陽性患者と陰性患者との間のマーカー濃度に有意差が見られない一方、CCL27、CXCL9およびEotaxinについては、喀痰好酸球陽性群(喀痰好酸球陽性患者)と陰性群(喀痰好酸球陰性患者および非喘息健常成人)との間のマーカー濃度に有意差が見られた。このことから、CCL27、CXCL9、およびEotaxinは、喀痰好酸球陽性群と陰性群とを判別することが可能なマーカーであることがわかる。
【0067】
また、表2−2の結果から、CCL27およびCXCL9は、感度と特異度の観点から、好酸球性気道炎症の一次スクリーニング用マーカーとして、Periostin、EotaxinおよびTARCよりも優れた性能を有するマーカーであることが明らかとなった。特に、CCL27の特異度は、健常成人を加えた場合に、健常成人を加えない場合(実施例1、
図1A)よりも著しく向上し、その結果AUCも極めて良好なものとなっている(表2および
図2A)。上記の結果から、CCL27は、健常成人および喘息患者の両方を対象とする好酸球性気道炎症の一次スクリーニングなどにおいて特に優れた性能を有するマーカーとして利用できることが示唆された。
【0068】
上記の実施例1および2の結果を総合すると、CCL27およびCXCL9はいずれも公知の好酸球性気道炎症マーカーおよび好酸球関連タンパク質よりも優れた性能を有する好酸球性気道炎症マーカーとして利用することができると考えられる。また、CCL27は、喘息に罹患していない被験者を含めた母集団のなかから好酸球性気道炎症に罹患している疑いのある患者を選抜するためのマーカーとして特に良好な性能を有すると考えられる一方、CXCL9は、喘息に罹患する患者のなかから、好酸球性気道炎症に罹患する患者と罹患していない患者とを判別するためのマーカーとして特に良好な性能を有すると考えられる。
【0069】
実施例3
実施例3において、本発明者は、単独で良好な判別性能を示した本発明のマーカーCCL27とCXCL9とを組み合わせて、更に優れた判別性能が得られるかどうかを調べた。また、本発明のマーカーCCL27とCXCL9にさらにIL-25を組み合わせて、更に優れた判別性能が得られるかどうかを調べた。
【0070】
IL-25濃度のELISA測定は、実施例1においてマーカー濃度のデータを取得したものと同一の血清試料について行い、具体的には下記のようにして行った。
ELISA測定にはPeprotech社製 ELISA development kit (900-K234)を使用した。
まず、ELISAプレートに100μLの抗体希釈液(1μg/mL固相抗体, PBS pH12.0)を添加し、4℃で一晩抗体を固相化した。洗浄バッファーで3回洗浄し、250μLのブロッキングバッファーで、室温で2時間以上ブロッキングした。ELISA Dilution Buffer(1% BSA,0.5% Casein, 0.05% NaN
3, PBS pH7.4)で4倍希釈した血清を100μL添加し、4℃で一晩反応させた。洗浄バッファーで3回洗浄し100μLの標識抗体液(0.25μg/mL標識抗体, 1% BSA,0.5% Casein, 0.05% NaN
3, PBS)を添加した。2時間室温で反応し、洗浄バッファーで3回洗浄した。100μLのアルカリフォスファターゼ標識ストレプトアビジン液(1:1000希釈Streptavidin-Alkaline Phosphatase, 1% BSA, 0.05% NaN
3, PBS pH7.4)100μL添加し、20分間反応させた。洗浄バッファーで3回洗浄し、250μLのALP活性化バッファーで洗浄し、100μLの基質を添加し、化学発光検出装置で発光シグナルを検出した。
【0071】
次に、目的変数を喀痰好酸球測定結果(陽性/陰性)、説明変数を血清中のCCL27およびCXCL9濃度として多重ロジスティックモデルを作成し、各マーカーの量の測定値を代入することで喀痰好酸球測定結果の予測値を取得した(変数指定法)。各血清試料から得られたマーカー濃度について予測値を算出した。喀痰好酸球陽性患者について算出された予測値は、大部分が1.0付近に集中している一方、喀痰好酸球陰性患者について算出された予測値は、0付近〜0.8付近に分布していることがわかる(
図3A)。次いで、算出された予測値に基づいて、ROC解析を行った。感度と特異度が一致するポイントにカットオフを設定し、AUCを算出した結果、カットオフは約0.847(感度および特異度は0.76)、AUCは約0.879であった。設定したカットオフを
図3Aに示す。このカットオフを用いることで、喀痰好酸球陽性喘息患者と陰性患者とを高精度で判別することが可能であることがわかる。
【0072】
更に、目的変数を喀痰好酸球測定結果(陽性/陰性)、説明変数を血清中のCCL27、CXCL9およびIL-25濃度として多重ロジスティックモデルを作成し、各マーカーの量の測定値を代入することで喀痰好酸球測定結果の予測値を取得した(変数指定法)。各血清試料から得られたマーカー濃度について予測値を算出した。喀痰好酸球陽性患者について算出された予測値は、大部分が1.0付近に集中している一方、喀痰好酸球陰性患者について算出された予測値は、0.2付近〜0.85付近に分布していることがわかる(
図3B)。次いで、算出された予測値に基づいて、ROC解析を行った。感度と特異度が一致するポイントにカットオフを設定し、AUCを算出した結果、カットオフは約0.767(感度および特異度は0.88)、AUCは約0.960であった。設定したカットオフを
図3Bに示す。このカットオフを用いることで、喀痰好酸球陽性喘息患者と陰性患者とを高精度で判別することが可能であることがわかる。
【0073】
図3Aと
図1Aおよび1Bとの比較から、本発明のマーカーCCL27およびCXCL9の組合せ(
図3A)は、これらをそれぞれ単独で用いる場合(実施例1)よりも、喀痰好酸球陽性喘息患者と陰性患者とを判別する上で優れた性能を有することが示唆された。
更に、本発明のマーカーに加えて、IL-25を組み合わせた場合(
図3B)には、CCL27およびCXCL9を組み合わせた場合(
図3A)よりも優れた判別性能が得られることが示唆された。