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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-68788(P2015-68788A)
(43)【公開日】2015年4月13日
(54)【発明の名称】熱拡散率を測定する方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/18 20060101AFI20150317BHJP
【FI】
   G01N25/18 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2013-205374(P2013-205374)
(22)【出願日】2013年9月30日
(71)【出願人】
【識別番号】000110804
【氏名又は名称】ニチアス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】特許業務法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大村 高弘
【テーマコード(参考)】
2G040
【Fターム(参考)】
2G040AB08
2G040BA27
2G040CA01
2G040EA02
2G040EC04
(57)【要約】
【課題】高い精度で熱拡散率を測定することができる方法及び装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る周期加熱法により熱拡散率を測定する方法は、試験体(10)の周期加熱面(11)から温度波吸収面(12)に向けて温度波を伝播させること;前記周期加熱面における第一温度波を測定すること;前記周期加熱面と前記温度波吸収面との間の前記試験体の内部の所定位置(14)における第二温度波を測定すること;前記第一温度波と前記第二温度波との振幅比又は位相差から前記試験体の熱拡散率を得ること;を含み、前記試験体の前記周期加熱面又は前記温度波吸収面と、前記周期加熱面又は前記温度波吸収面に対向して配置されるヒータ(110,120)との間において、前記周期加熱面又は前記温度波吸収面の前記温度を測定するための温度センサ(310,330)を、前記ヒータと接触させることなく配置した状態で、前記第一温度波及び前記第二温度波を測定する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期加熱法により熱拡散率を測定する方法であって、
試験体の周期加熱面から温度波吸収面に向けて温度波を伝播させること;
前記周期加熱面における第一温度波を測定すること;
前記周期加熱面と前記温度波吸収面との間の前記試験体の内部の所定位置における第二温度波を測定すること;
前記第一温度波と前記第二温度波との振幅比又は位相差から前記試験体の熱拡散率を得ること;
を含み、
前記試験体の前記周期加熱面及び/又は前記温度波吸収面と、前記周期加熱面及び/又は前記温度波吸収面に対向して配置されるヒータとの間において、前記周期加熱面及び/又は前記温度波吸収面の前記温度を測定するための温度センサを、前記ヒータと接触させることなく配置した状態で、前記第一温度波及び前記第二温度波を測定する
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記周期加熱面及び/又は前記温度波吸収面と前記ヒータとの間に接触防止部材を配置し、前記温度センサを前記ヒータと接触させることなく配置した状態で、前記第一温度波及び前記第二温度波を測定する
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記温度センサを、前記試験体の前記周期加熱面及び/又は前記温度波吸収面に形成された、前記温度センサを収容可能な溝内に配置し、前記温度センサを前記ヒータと接触させることなく配置した状態で、前記第一温度波及び前記第二温度波を測定する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記温度センサの厚さは、前記試験体の厚さの10分の1以下である
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記温度センサの厚さは、前記接触防止部材の厚さの10分の1以下である
ことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項6】
周期加熱法により熱拡散率を測定するための装置であって、
試験体の周期加熱面から温度波吸収面に向けて温度波を伝播させるために、前記周期加熱面に対向して配置される周期加熱ヒータ;
前記試験体の前記温度波吸収面の温度を所定の一定値に維持するために、前記温度波吸収面に対向して配置される温度波吸収ヒータ;
前記周期加熱面における第一温度波を測定するための第一温度センサ;
前記周期加熱面と前記温度波吸収面との間の前記試験体の内部の所定位置における第二温度波を測定するための第二温度センサ;及び
前記温度波吸収面の温度を測定するための第三温度センサ;
を有し、
前記試験体の前記周期加熱面及び/又は前記温度波吸収面と、前記周期加熱ヒータ及び/又は前記温度波吸収ヒータとの間において、前記第一温度センサ及び/又は前記第三温度センサは、前記周期加熱ヒータ及び/又は前記温度波吸収ヒータと接触することなく配置されている
ことを特徴とする装置。
【請求項7】
前記試験体の前記周期加熱面及び/又は前記温度波吸収面と、前記周期加熱ヒータ及び/又は前記温度波吸収ヒータとの間に配置された接触防止部材を有し、
前記第一温度センサ及び/又は前記第三温度センサは、前記周期加熱ヒータ及び/又は前記温度波吸収ヒータと接触することなく配置されている
ことを特徴とする請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記試験体の前記周期加熱面及び/又は前記温度波吸収面と、前記周期加熱ヒータ及び/又は前記温度波吸収ヒータとの間において、前記第一温度センサ及び/又は前記第三温度センサは、前記周期加熱面及び/又は前記温度波吸収面に形成された溝内に配置され、前記周期加熱ヒータ及び/又は前記温度波吸収ヒータと接触することなく配置されている
ことを特徴とする請求項6又は7に記載の装置。
【請求項9】
前記第一温度センサ及び/又は前記第三温度センサの厚さは、前記試験体の厚さの10分の1以下である
ことを特徴とする請求項6乃至8のいずれかに記載の装置。
【請求項10】
前記第一温度センサ及び/又は前記第三温度センサの厚さは、前記接触防止部材の厚さの10分の1以下である
ことを特徴とする請求項7に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱拡散率を測定する方法及び装置に関し、特に、周期加熱法により熱拡散率を測定する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試験体の熱伝導率を測定するための方法としては、定常法である保護熱板(Guarded Hot Plate:GHP)法や熱流計法の他に、非定常法である周期加熱法がある。
【0003】
周期加熱法においては、試験体の表面から内部に、一次元方向に温度波を伝播させ、当該表面で測定される温度波と、当該内部で測定される温度波と、の振幅比又は位相差から、当該試験体の熱拡散率を求め、さらに、当該熱拡散率と、別途測定された当該試験体の密度及び比熱とから当該試験体の熱伝導率を求める(特許文献1、特許文献2、非特許文献1、非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−227010号公報
【特許文献2】特開2000−055846号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】大村高弘;熱物性, 21(2), 2007, 86-96
【非特許文献2】大村高弘、坪井幹憲;熱物性, 13(4), 1999, 264-270
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の周期加熱法においては、十分に高い精度で熱拡散率を測定することが難しかった。
【0007】
すなわち、従来、試験体の表面の温度を測定するための温度センサを、当該表面を加熱するヒータと接触させて配置した場合には、当該温度センサによる測定結果と、当該表面の実際の温度との間にずれが生じ、その結果、測定誤差を生じることがあった。
【0008】
具体的に、例えば、従来市販されている一般的な熱拡散率測定装置においては、試験体の周期加熱面における温度波を測定する温度センサは、当該周期加熱面に対向して配置され当該周期加熱面に温度波を与える周期加熱ヒータの内部に組み込まれていた。
【0009】
このため、温度センサは、試験体の周期加熱面に実際に与えられた温度波ではなく、周期加熱ヒータが発生させた温度波を測定することになり、測定誤差が生じていた。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであって、高い精度で熱拡散率を測定することができる方法及び装置を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る方法は、周期加熱法により熱拡散率を測定する方法であって、試験体の周期加熱面から温度波吸収面に向けて温度波を伝播させること;前記周期加熱面における第一温度波を測定すること;前記周期加熱面と前記温度波吸収面との間の前記試験体の内部の所定位置における第二温度波を測定すること;前記第一温度波と前記第二温度波との振幅比又は位相差から前記試験体の熱拡散率を得ること;を含み、前記試験体の前記周期加熱面及び/又は前記温度波吸収面と、前記周期加熱面及び/又は前記温度波吸収面に対向して配置されるヒータとの間において、前記周期加熱面及び/又は前記温度波吸収面の前記温度を測定するための温度センサを、前記ヒータと接触させることなく配置した状態で、前記第一温度波及び前記第二温度波を測定することを特徴とする。本発明によれば、高い精度で熱拡散率を測定する方法を提供することができる。
【0012】
また、前記方法において、前記周期加熱面及び/又は前記温度波吸収面と前記ヒータとの間に接触防止部材を配置し、前記温度センサを前記ヒータと接触させることなく配置した状態で、前記第一温度波及び前記第二温度波を測定することとしてもよい。この場合、前記温度センサの厚さは、前記接触防止部材の厚さの10分の1以下であることとしてもよい。
【0013】
また、前記方法において、前記温度センサを、前記試験体の前記周期加熱面及び/又は前記温度波吸収面に形成された、前記温度センサを収容可能な溝内に配置し、前記温度センサを前記ヒータと接触させることなく配置した状態で、前記第一温度波及び前記第二温度波を測定することとしてもよい。また、前記方法において、前記温度センサの厚さは、前記試験体の厚さの10分の1以下であることとしてもよい。
【0014】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る装置は、周期加熱法により熱拡散率を測定するための装置であって、試験体の周期加熱面から温度波吸収面に向けて温度波を伝播させるために、前記周期加熱面に対向して配置される周期加熱ヒータ;前記試験体の前記温度波吸収面の温度を所定の一定値に維持するために、前記温度波吸収面に対向して配置される温度波吸収ヒータ;前記周期加熱面における第一温度波を測定するための第一温度センサ;前記周期加熱面と前記温度波吸収面との間の前記試験体の内部の所定位置における第二温度波を測定するための第二温度センサ;及び前記温度波吸収面の温度を測定するための第三温度センサ;を有し、前記試験体の前記周期加熱面及び/又は前記温度波吸収面と、前記周期加熱ヒータ及び/又は前記温度波吸収ヒータとの間において、前記第一温度センサ及び/又は前記第三温度センサは、前記周期加熱ヒータ及び/又は前記温度波吸収ヒータと接触することなく配置されていることを特徴とする。本発明によれば、高い精度で熱拡散率を測定する装置を提供することができる。
【0015】
また、前記装置は、前記試験体の前記周期加熱面及び/又は前記温度波吸収面と、前記周期加熱ヒータ及び/又は前記温度波吸収ヒータとの間に配置された接触防止部材を有し、前記第一温度センサ及び/又は前記第三温度センサは、前記周期加熱ヒータ及び/又は前記温度波吸収ヒータと接触することなく配置されていることとしてもよい。この場合、前記第一温度センサ及び/又は前記第三温度センサの厚さは、前記接触防止部材の厚さの10分の1以下であることとしてもよい。
【0016】
また、前記装置において、前記試験体の前記周期加熱面及び/又は前記温度波吸収面と、前記周期加熱ヒータ及び/又は前記温度波吸収ヒータとの間において、前記第一温度センサ及び/又は前記第三温度センサは、前記周期加熱面及び/又は前記温度波吸収面に形成された溝内に配置され、前記周期加熱ヒータ及び/又は前記温度波吸収ヒータと接触することなく配置されていることとしてもよい。また、前記装置において、前記第一温度センサ及び/又は前記第三温度センサの厚さは、前記試験体の厚さの10分の1以下であることとしてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高い精度で熱拡散率を測定する方法及び装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】周期加熱法により試験体の熱拡散率を測定する原理を示す説明図である。
図2】周期加熱法において試験体を伝播する温度波の例を示す説明図である。
図3】本実施形態に係る熱拡散率測定装置の一例について、その主な構成を断面視で示す説明図である。
図4】本実施形態に係る熱拡散率測定装置の他の例について、その主な構成を断面視で示す説明図である。
図5】本実施形態に係る熱拡散率測定装置のさらに他の例について、その主な構成を断面視で示す説明図である。
図6A】本実施形態における温度センサの配置の一例を示す説明図である。
図6B】本実施形態における温度センサの配置の他の例を示す説明図である。
図6C】本実施形態における温度センサの配置のさらに他の例を示す説明図である。
図7】本実施形態に係る実施例1において熱伝導率を測定した結果を示す説明図である。
図8】本実施形態に係る実施例2において熱伝導率を測定した結果を示す説明図である。
図9】本実施形態に係る実施例3において熱伝導率を測定した結果の一例を示す説明図である。
図10】本実施形態に係る実施例3において熱伝導率を測定した結果の他の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の一実施形態について説明する。なお、本発明は、本実施形態に限られるものではない。
【0020】
まず、本実施形態に係る熱拡散率測定方法(本方法)及び熱拡散率測定装置(本装置)の概要について説明する。図1は、周期加熱法により試験体の熱拡散率を測定する原理を示す説明図である。図2は、周期加熱法において試験体を伝播する温度波の一例を示す説明図である。図3は、本装置の一例の主な構成を断面視で示す説明図である。
【0021】
本方法は、周期加熱法により熱拡散率を測定する方法であって、試験体10の周期加熱面11から温度波吸収面12に向けて温度波を伝播させること;当該周期加熱面11における第一温度波T1を測定すること;当該周期加熱面11と当該温度波吸収面12との間の当該試験体10の内部の所定位置14における第二温度波T2を測定すること;当該第一温度波T1と当該第二温度波T2との振幅比又は位相差から当該試験体10の熱拡散率を得ること;を含む。
【0022】
本装置100は、周期加熱法により熱拡散率を測定するための装置であって、試験体10の周期加熱面11から温度波吸収面12に向けて温度波を伝播させるために、当該周期加熱面11に対向して配置される周期加熱ヒータ110;当該試験体10の当該温度波吸収面12の温度を所定の一定値に維持するために、当該温度波吸収面12に対向して配置される温度波吸収ヒータ120;当該周期加熱面11における第一温度波T1を測定するための第一温度センサ310;当該周期加熱面11と当該温度波吸収面12との間の当該試験体10の内部の所定位置14における第二温度波T2を測定するための第二温度センサ320;当該温度波吸収面12の温度を測定するための第三温度センサ330;
を有する。
【0023】
ここで、周期加熱法について説明する。周期加熱法においては、試験体10の周期加熱面11から内部に、一次元方向(図1に示す矢印Dの指す方向)に温度波を伝播させ、当該周期加熱面11で測定される第一温度波T1(図2に示すθsin(ωt)で近似される温度波)と、当該内部の所定の位置14で測定される第二温度波T2(図2に示すθsin(ωt+φ)で近似される温度波)との振幅比A(=θ/θ:振幅の減衰率を示す比率)又は位相差φから、当該試験体10の熱拡散率を求める。なお、試験体10の内部を伝播する温度波は、次第に減衰するため、第二温度波T2の振幅θは、第一温度波T1の振幅θより小さい。
【0024】
また、試験体10の周期加熱面11と反対側の温度波吸収面12(温度波が伝播する一次元方向における周期加熱面11と反対側の試験体10の表面)の温度T3は、図2に示すように、所定の一定値θに維持されていると仮定する。
【0025】
すなわち、周期加熱法においては、試験体10の周期加熱面11から温度波吸収面12への一次元方向の熱流を仮定する。具体的に、例えば、図1に示すように、この一次元方向(矢印Dの指す方向)にx軸を設定し、試験体10の厚さ(周期加熱面11と温度波吸収面12との距離)がdであるとすると,当該x軸の原点(x=0)の位置に当該試験体10の温度波吸収面12が配置され、x=dの位置に当該試験体10の周期加熱面11が配置される。
【0026】
ここで、原点の温度(温度波吸収面12の温度)は所定の一定値に維持され、x=dの位置の温度(周期加熱面11の温度)は、sin(ωt+η)で表される周期(ωは角振動数[s−1]、t時間[s]、ηは任意の位相[rad]である。)で変化していると仮定する。
【0027】
そして、上述のとおり、試験体10の周期加熱面11に第一温度波T1が与えられ、当該試験体10の内部の所定位置14に第二温度波T2が到達し、当該試験体10の温度波吸収面12の温度は所定の一定値θに維持されるという条件の下で一次元の熱伝導方程式を解くと、x=dの位置(周期加熱面11)で測定される第一温度波T1と、任意の位置x=x(d>x>0)(例えば、試験体10の内部の所定位置14)で測定される第二温度波T2と、の振幅比A(=θ/θ)(θは第一温度波T1の振幅であり、θは第二温度波T2の振幅である。)及び位相差φは、それぞれ下記の式(I)及び式(II)により求められる。
【数1】
【数2】
【0028】
上記式(I)、(II)において、kは下記の式(III)で表され、iは虚数単位である。また、下記式(III)において、ωは、下記の式(IV)で表される角振動数であり、κは熱拡散率[m/s]である。また、下記式(IV)において、fは周期[s]である。
【数3】
【数4】
【0029】
こうして、試験体10の周期加熱面11における第一温度波T1と、当該試験体10の内部の所定位置14における第二温度波T2とを比較することにより得られた振幅比A又は位相差φに基づき、当該試験体10の熱拡散率κが求められる。
【0030】
すなわち、まず振幅比Aを上記式(I)に代入してkを求め、次いで当該kの値を上記式(III)に代入して、試験体10の熱拡散率κ[m/s]が得られる。同様に、位相差φ[rad]を上記式(II)に代入してkを求め、当該kの値を上記式(III)に代入して、試験体10の熱拡散率κ[m/s]が得られる。
【0031】
さらに、試験体10の熱伝導率λ[W/(m・K)]は,上述のようにして得られた熱拡散率κ[m/s]と、別途測定された当該試験体10の密度ρ[kg/m]及び比熱c[J/(kg・K)]とを下記の式(V)に代入することにより求められる。
【数5】
【0032】
本装置100は、上述のような周期加熱法により試験体10の熱拡散率を測定する本方法において好ましく使用される。本装置100は、図3に示すように、周期加熱ヒータ110及び温度波吸収ヒータ120を有している。周期加熱ヒータ110は、試験体10の周期加熱面11に温度波を与えるよう当該周期加熱面11を加熱する。
【0033】
図3に示す例において、周期加熱ヒータ110には、直流電源200と、ファンクションジェネレーター210とが接続されている。直流電源200は、周期加熱ヒータ110に直流電流を供給する。ファンクションジェネレーター210は、周期加熱ヒータ110が発生させる温度波の周期及び振幅を設定する装置である。周期加熱ヒータ110は、ファンクションジェネレーター210によって設定された周期及び振幅を有する温度波を、直流電源200を介して発生させる。
【0034】
温度波吸収ヒータ120は、試験体10の温度波吸収面12の温度が所定の一定値θに維持されるよう当該温度波吸収面12の加熱を調節する。
【0035】
また、本装置100は、試験体10の側面13(図1及び図3に示すように、周期加熱面11と温度波吸収面12とをつなぐ試験体10の表面)の温度を所定範囲内に維持するために、当該側面13に対向して配置される周囲ヒータ130を有している。周囲ヒータ130は、試験体10の側面13の温度が所定範囲内に維持されるよう当該側面13の加熱を調節する。
【0036】
周囲ヒータ130の配置は、当該周囲ヒータ130が側面13に対向して配置されれば特に限られないが、図3に示す例において、当該周囲ヒータ130は、隙間Gを介して当該側面13に対向して配置されている。この隙間Gは、気体(例えば、空気)が充填された空間であることとしてもよいし、真空であることとしてもよい。周囲ヒータ130の形状は特に限られないが、当該周囲ヒータ130は、例えば、試験体10の側面13を囲む筒状のヒータ(例えば、円筒ヒータ)であることとしてもよい。
【0037】
周期加熱ヒータ110、温度波吸収ヒータ120及び周囲ヒータ130は、それぞれ試験体10の周期加熱面11、温度波吸収面12及び側面13を加熱できるヒータであれば特に限られないが、例えば、電熱ヒータ、ランプヒータ又はレーザー照射装置である。
【0038】
また、本装置100は、第一温度センサ310、第二温度センサ320及び第三温度センサ330とを有している。第一温度センサ310、第二温度センサ320及び第三温度センサ330は、図1及び図3に示すように、温度波が伝播される一次元方向において直線的に配置されることが好ましい。
【0039】
すなわち、第一温度センサ310、第二温度センサ320及び第三温度センサ330は、例えば、周期加熱面11から温度波吸収面12に引いた仮想的な垂線上に配置されることが好ましく、当該垂線を中心とする半径5mm以下の当該周期加熱面11に平行な仮想的な円内に配置されることとしてもよい。
【0040】
温度波吸収ヒータ120は、第三温度センサ330による温度波吸収面12の温度の測定結果に基づいて、当該温度波吸収面12の温度が所定の一定値に維持されるよう、当該温度波吸収面12の加熱を調節する。
【0041】
また、図3に示す例において、本装置100は、周囲ヒータ130による加熱を調節するための第四温度センサ340を有している。この例において、第四温度センサ340は、試験体10の側面13に対向する、周囲ヒータ130の表面と接触して配置されている。周囲ヒータ130は、第四温度センサ340による温度の測定結果に基づいて、当該周囲ヒータ130の出力(当該周囲ヒータ130による加熱)を調節する。
【0042】
第一温度センサ310、第二温度センサ320、第三温度センサ330及び第四温度センサ340は、例えば、熱電対又は白金抵抗体である。
【0043】
なお、第一温度センサ310、第二温度センサ320、第三温度センサ330及び第四温度センサ340の厚さが、試験体10の厚さに比べて無視できないくらい大きい場合には、当該温度センサを介した熱損失によって温度波が歪み、測定の誤差が生じる。このため、第一温度センサ310、第二温度センサ320、第三温度センサ330及び第四温度センサ340の厚さは、例えば、試験体10の厚さdの10分の1以下であることが好ましい。
【0044】
すなわち、例えば、第一温度センサ310、第二温度センサ320、第三温度センサ330及び第四温度センサ340が、筐体を有する熱電対である場合には、当該筐体の厚さ(熱電対が円筒状の筐体を有する場合には、当該筐体の直径)が試験体10の厚さdの10分の1以下であることが好ましい。
【0045】
また、図3に示す例において、本装置100は、温度波吸収ヒータ120の試験体10と反対側に配置された冷却装置140を有する。冷却装置140は、温度波が温度波吸収面12に効率よく吸収されるように、温度波吸収ヒータ120を冷却する。冷却装置140は、例えば、冷媒を含む冷却タンクである。
【0046】
また、図3に示す例において、本装置100は、周期加熱ヒータ110の試験体10と反対側に配置された補助ヒータ150を有する。補助ヒータ150は、周期加熱ヒータ110からの熱損失を低減させるよう当該周期加熱ヒータ110を保温する。補助ヒータ150は、例えば、電熱ヒータである。
【0047】
また、図3に示す例において、本装置100は、周囲ヒータ130と補助ヒータ150との間に配置された断熱材160を有する。この断熱材160は、試験体10の周囲の熱的安定性を確保する。また、図3に示す例において、本装置100は、冷却装置140の周囲に配置された断熱材170を有する。この断熱材170は、試験体10の周囲の熱的安定性を確保する。また、図3に示す例においては、上述した測定系が金属板180(例えば、ステンレス板)の上に配置されるとともに、筐体190(例えば、ベルジャー)により覆われている。
【0048】
測定の対象となる試験体10は、周期加熱ヒータ110と温度波吸収ヒータ120との間に配置されるものであれば特に限られない。具体的に、試験体10は、例えば、断熱材、断熱材と他の部材との積層体、プラスチック、金属、木材、石膏ボード及びセメントからなる群より選択されることとしてもよい。より具体的に、断熱材は、例えば、繊維質断熱材、多孔質断熱材又は真空断熱材であることとしてもよい。
【0049】
繊維質断熱材は、例えば、ロックウール断熱材、グラスウール断熱材、アルミナ系繊維質断熱材(例えば、アルミナファイバーウール断熱材)、及びアルミナシリカ系繊維質断熱材からなる群より選択されることとしてもよい。
【0050】
多孔質断熱材は、例えば、無機多孔質断熱材(例えば、ケイ酸カルシウム断熱材)又は発泡樹脂断熱材(例えば、発泡ゴム成形体、発泡ポリウレタン成形体又は発泡スチロール成形体)からなる群より選択されることとしてもよい。
【0051】
断熱材と他の部材との積層体は、例えば、当該断熱材と、当該断熱材に積層された金属部材及び/又はガラス部材とを有する積層体であることとしてもよい。
【0052】
また、本方法においては、後述のとおり、比較的高い温度(例えば、800℃以上)で比較的低い熱伝導率を示す試験体10の熱拡散率を高い精度で測定することができる。そこで、例えば、試験体10は、例えば、1000℃において0.5W/(m・K)以下の熱伝導率を有することとしてもよく、1000℃において0.3W/(m・K)以下の熱伝導率を有することとしてもよく、1000℃において0.2W/(m・K)以下の熱伝導率を有することとしてもよい。なお、試験体10の熱伝導率の下限値は特に限られないが、例えば、当該試験体10は、1000℃において0.01W/(m・K)以上の熱伝導率を有することとしてもよい。
【0053】
試験体10の形状は、周期加熱ヒータ110と温度波吸収ヒータ120との間に配置されるものであれば特に限られないが、例えば、平板状であることが好ましい。試験体10が平板状である場合には、周期加熱面11と温度波吸収面12とは略平行に配置される。
【0054】
試験体10は、1つの試験体からなることとしてもよいし、温度波が伝播する方向に積層された2つ以上の同質の試験体からなることとしてもよい。すなわち、試験体10は、例えば、1つの板状断熱材であることとしてもよいし、2つ以上の同一種類の板状断熱材が積層してなる積層体であることとしてもよい。
【0055】
試験体10が2つ以上の試験体を積層してなる場合、隣接する2つの試験体の間に隙間が形成されると、当該2つの試験体の間に気体(空気)の層が形成され、測定結果が気体の熱伝導率の影響を受け、誤差が生じる。
【0056】
このため、試験体10が2つ以上の試験体を積層してなる場合、温度波が伝播する方向に隣接する一対の当該試験体において、一方の試験体の表面と、当該表面に対向する他方の試験体の表面との間には、例えば、0.5mm以上の隙間を形成しないことが好ましい。
【0057】
そして、本方法においては、まず、試験体10の周期加熱面11から温度波吸収面12に向けて温度波を伝播させる。すなわち、周期加熱面11に対向する周期加熱ヒータ110によって、所定の周期及び所定の振幅を有する温度波を発生させる。その結果、試験体10の周期加熱面11には、周期加熱ヒータ110が発生させた温度波に対応する温度波が与えられる。
【0058】
本方法において、周期加熱面11に与えられ、試験体10の内部を伝播する温度波は、完全に減衰することはなく、温度波吸収面12に到達する。すなわち、周期加熱ヒータ110は、試験体10の温度波吸収面12に到達する温度波を、当該試験体10の周期加熱面11に与える。
【0059】
また、周期加熱ヒータ110は、振幅の中心が所定温度である温度波を発生させる。振幅の中心の温度は、特に限られないが、例えば、−190〜1500℃の範囲内の所定温度であることとしてもよく、25〜1500℃の範囲内の所定温度であることとしてもよく、700〜1500℃の範囲内の所定温度であることとしてもよく、800〜1500℃の範囲内の所定温度であることとしてもよい。本方法においては、このような比較的高い温度(例えば、700〜1500℃又は800〜1500℃)においても、試験体10の熱拡散率を高い精度で測定することができる。
【0060】
なお、例えば、試験体10の1000℃における熱拡散率を測定する場合には、周期加熱面11における温度波の振幅の中心温度と、温度波吸収面12における所定の一定温度との算術平均値が1000℃となるような条件で測定を行う。
【0061】
また、温度波の振幅が大きすぎる場合には、例えば、試験体10の周囲の気体(試験体10の側面13と接している気体(隙間Gに充填されている気体))、当該気体と接している周囲ヒータ130、熱損失を防ぐために配置されている断熱材160,170等の他の部材の温度が周期的に変化して別の温度波が形成されてしまう。
【0062】
そして、この別の温度波が試験体10の側面13から当該試験体10の内部へ侵入し、周期加熱面11から温度波吸収面12に向けて伝播している本来の温度波と重なり、測定誤差が生じる。
【0063】
このため、周期加熱ヒータ110で発生させる温度波の振幅は、例えば、1〜10℃の範囲内の所定値であることが好ましく、1〜5℃の範囲内の所定値であることがより好ましく、2〜4℃の範囲内の所定値であることが特に好ましい。
【0064】
また、周期加熱ヒータ110で発生させる温度波は、例えば、所定温度±10℃の範囲内で変化することが好ましく、所定温度±5℃の範囲内で変化することが好ましく、所定温度±2℃の範囲内で変化することが好ましい。
【0065】
温度波の振幅が上記の適切な範囲内であることにより、試験体10に温度波を適切に伝播させることができ、測定精度を高めることができる。なお、例えば、温度波の振幅の中心の温度が1000℃であり、当該振幅が5℃である場合、当該温度波は、1000±5℃の範囲内(995℃〜1005℃)で周期的に変化する。
【0066】
また、温度波の周期が長すぎる場合、試験体10の温度が、当該試験体10内の当該温度波が伝播する方向における全ての位置でほぼ均一に変化してしまい、当該試験体10の内部を当該温度波が伝播するという状態を形成することができなくなり、測定誤差が生じる。一方、温度波の周期が短すぎる場合、当該温度波が試験体10の内部を伝播する間に、当該温度波が途中で完全に減衰して消滅してしまい、測定誤差が生じる。
【0067】
このため、周期加熱ヒータ110で発生させる温度波の周期は、例えば、1〜120分の範囲内の所定値であることが好ましく、15〜100分の範囲内の所定値であることがより好ましく、30〜60分の範囲内の所定値であることが特に好ましい。温度波の周期が上記の適切な範囲内であることにより、試験体10に温度波を適切に伝播させることができ、測定精度を高めることができる。
【0068】
また、温度波の振幅の中心の温度が一定とならず、時間の経過とともに上昇又は下降する場合(温度波がドリフトする場合)には、当該温度波が歪んでしまうため、周期加熱面11における第一温度波T1と、試験体10の内部の所定位置14における第二温度波T2との振幅比又は位相差を正確に測定できなくなり、測定誤差が生じる。
【0069】
このため、例えば、試験体10を伝播する、連続する3周期分の温度波(例えば、第一温度センサ310及び/又は第二温度センサ320により測定される)において、各1周期分の温度波の振幅の中心温度の平均値と、当該3周期分の温度波の振幅の中心温度の平均値との差分が、±2℃以内であることが好ましく、±1℃以内であることがより好ましく、±0.2℃以内であることが特に好ましい。
【0070】
また、例えば、試験体10を伝播する、連続する3周期分の温度波において、各1周期分の温度波の振幅の中心温度の平均値の、当該3周期分の振幅の中心温度の平均値に対する変化率(当該各1周期分の平均値から当該3周期分の平均値を減じた値を、当該3周期分の平均値で除して得られた値に、100を乗じて算出される変化率)が、±2%以内であることが好ましく、±0.5%以内であることがより好ましく、±0.2%以内であることが特に好ましい。このように温度波のドリフトを抑制することにより、温度波の振幅比又は位相差を正確に測定することができ、熱拡散率の測定精度を高めることができる。
【0071】
また、本方法においては、試験体10の周期加熱面11から温度波吸収面12に向けて温度波を伝播させている間、当該温度波吸収面12の温度を、所定の一定値となるよう調節する。
【0072】
すなわち、温度波吸収面12の温度が所定の一定値となるよう、温度波吸収ヒータ120による当該温度波吸収面12の加熱を調節する。このとき、温度波吸収ヒータ120は、第三温度センサ330による温度波吸収面12の温度の測定結果に基づき、温度波吸収面12の加熱を調節する。
【0073】
具体的に、温度波吸収ヒータ120は、温度波吸収面12の温度が所定の一定値を下回った場合には、その出力を上げて当該温度波吸収面12の加熱を強め、当該温度波吸収面12の温度を上昇させる。
【0074】
また、温度波吸収ヒータ120は、温度波吸収面12の温度が所定の一定値を上回った場合には、その出力を下げて当該温度波吸収面12の加熱を弱め、当該温度波吸収面12の温度を低下させる。なお、温度波吸収面12の加熱を弱める場合、上述した冷却装置140を作動させて、温度波吸収ヒータ120を冷却することとしてもよい。
【0075】
温度波吸収面12の温度が調節されるべき所定の一定値は、例えば、周期加熱面11における温度波の振幅の中心温度より、0〜20℃の範囲内の所定値だけ低い又は高い温度であることとしてもよく、当該振幅の中心温度より、0〜10℃の範囲内の所定値だけ低い又は高い温度であることとしてもよく、当該振幅の中心温度より、0〜5℃の範囲内の所定値だけ低い又は高い温度であることとしてもよい。すなわち、温度波吸収面12の温度が調節されるべき所定の一定値は、例えば、周期加熱面11における温度波の振幅の中心温度±20℃の範囲内の所定の一定値であることとしてもよく、当該中心温度±10℃の範囲内の所定の一定値であることとしてもよく、中心温度±5℃の範囲内の所定の一定値であることとしてもよい。
【0076】
また、本方法においては、上述のとおり、上記式(I)〜(III)を使って熱拡散率κを求める。この測定原理は、試験体10の一方の表面(周期加熱面11)の温度を周期的に変化させ、且つその反対側の表面(温度波吸収面12)の温度を一定にするという条件で熱伝導方程式を解いて得られる解を使うというものであるが、実際には、温度波吸収面12の温度を完全に一定にすることは不可能である。このため、温度波吸収面12における温度の変動をどの程度まで抑えることができるかが、測定精度に大きく影響する。
【0077】
この点、温度波吸収面12の温度は、所定の一定値±0.5℃の範囲内に維持することが好ましく、所定の一定値±0.2℃の範囲内に維持することがより好ましく、所定の一定値±0.05℃の範囲内に維持することが特に好ましい。温度波吸収面12の温度を上記のように所定の一定値又はその極近傍の温度に維持することにより、測定精度を高めることができる。
【0078】
また、温度波吸収面12と温度波吸収ヒータ120との間に他の部材を配置すると、周期加熱面11から伝播してきた温度波が、当該温度波吸収面12で効率よく吸収されず(消滅せず)、測定誤差が生じることがある。
【0079】
そこで、温度波吸収面12と温度波吸収ヒータ120との間には他の部材を配置せず、当該温度波吸収面12と温度波吸収ヒータ120とを接触させることとしてもよい。なお、温度波吸収面12の温度を測定するための第三温度センサ330は、例えば、当該温度波吸収面12と接触して配置されることとしてもよい。この場合、第三温度センサ330は、温度波吸収ヒータ120と接触することなく配置されることとしてもよい。
【0080】
また、本方法においては、試験体10の周期加熱面11から温度波吸収面12に向けて温度波を伝播させている間、当該試験体10の側面13の温度を、所定範囲内となるよう調節する。
【0081】
すなわち、側面13の温度が所定範囲内となるよう、周囲ヒータ130による当該側面13の加熱を調節する。このとき、周囲ヒータ130は、第四センサ340が温度を測定した結果に基づき、試験体10の側面13の加熱を調節する。
【0082】
具体的に、周囲ヒータ130は、測定温度が所定範囲を下回った場合には、その出力を上げて当該側面13の加熱を強め、当該側面13の温度を上昇させる。また、周囲ヒータ130は、測定温度が所定範囲を上回った場合には、その出力を下げて当該側面13の加熱を弱め、当該側面13の温度を低下させる。
【0083】
側面13の温度が調節されるべき所定範囲は、例えば、周期加熱面11における温度波の振幅の中心温度と温度波吸収面12の所定の一定温度との算術平均値±50℃の範囲であることが好ましく、当該算術平均値±20℃の範囲であることがより好ましく、当該算術平均値±5℃の範囲であることが特に好ましい。
【0084】
また、本方法においては、試験体10の周期加熱面11から温度波吸収面12に向けて温度波を伝播させている間、当該試験体10の側面13の温度を調節するための周囲ヒータ130の温度を、所定の範囲内となるよう調節することとしてもよい。
【0085】
すなわち、上述のとおり、周囲ヒータ130の温度が周期的に変化すると、周期加熱面11から温度波吸収面12に向けて伝播している本来の温度波と異なる別の温度波が形成され、測定誤差が生じる。
【0086】
このため、周囲ヒータ130の温度の変化は可能な限り抑えることが好ましい。そこで、周囲ヒータ130の温度を、所定の範囲内、すなわち所定の一定値及びその近傍に維持する。
【0087】
具体的に、図3に示すように、第四温度センサ340を、試験体10の側面13に対向する、周囲ヒータ340の表面に配置し、当該第四温度センサ340による温度の測定結果に基づき、当該測定される温度が所定の範囲内となるよう、当該周囲ヒータ130の出力(当該周囲ヒータ130による加熱)を調節する。
【0088】
周囲ヒータ130の温度が調節されるべき所定範囲は、例えば、周期加熱面11における温度波の振幅の中心温度と温度波吸収面12の所定の一定温度との算術平均値±50℃の範囲であることが好ましく、当該算術平均値±20℃の範囲であることがより好ましく、当該算術平均値±5℃の範囲であることが特に好ましい。
【0089】
次に、本方法においては、試験体10の周期加熱面11における第一温度波T1と、当該試験体10の内部の所定位置14における第二温度波T2とを測定する。すなわち、周期加熱ヒータ110から周期加熱面11に与えられた温度波T1を第一温度センサ310によって測定するとともに、当該周期加熱面11から試験体10の内部の所定位置14に伝播された第二温度波T2を第二温度センサ320によって測定する。
【0090】
そして、本方法においては、上述のようにして測定された第一温度波T1と第二温度波T2との振幅比又は位相差から試験体10の熱拡散率を得る。すなわち、上述のとおり、第一温度波T1の振幅θと、第二温度波T2の振幅θとから振幅比A(=θ/θ)を求め、上記の式(I)と式(III)とから熱拡散率κを求める。また、第一温度波T1と第二温度波T2との位相のずれから位相差φを求め、上記の式(II)と式(III)とから熱拡散率κを求める。
【0091】
ここで、本実施形態において特徴的なことの一つは、本装置100において、試験体10の周期加熱面11及び/又は温度波吸収面12と、周期加熱ヒータ110及び/又は温度波吸収ヒータ120との間において、第一温度ヒータ310及び/又は第三温度ヒータ330は、当該周期加熱ヒータ110及び/又は温度波吸収ヒータ120と接触することなく配置され、本方法においては、試験体100の周期加熱面11及び/又は温度波吸収面12と、当該周期加熱面11及び/又は温度波吸収面12に対向して配置される当該ヒータとの間において、当該周期加熱面11及び/又は温度波吸収面12の温度を測定するための当該温度センサを、当該ヒータと接触させることなく配置した状態で、第一温度波T1及び第二温度波T2を測定することである。
【0092】
すなわち、例えば、従来市販されている一般的な熱拡散率測定装置においては、試験体の周期加熱面及び温度波吸収面の温度を測定する温度センサは、当該周期加熱面及び温度波吸収面のそれぞれに対向して配置されるヒータの内部に組み込まれていた。このため、温度センサは、実際には、試験体の周期加熱面及び温度波吸収面の温度ではなく、ヒータの温度を測定しており、測定誤差が生じていた。
【0093】
これに対し、本発明においては、試験体10の周期加熱面11及び/又は温度波吸収面12の温度を測定するための温度センサを、当該周期加熱面11及び/又は温度波吸収面12に対向して配置されたヒータと接触させることなく配置することにより、当該周期加熱面11及び/又は温度波吸収面12の温度を正確に測定することができ、高い精度で当該試験体10の熱拡散率を測定することができる。
【0094】
具体的に、例えば、本装置100において、試験体10の周期加熱面11と、周期加熱ヒータ110との間において、第一温度センサ310は、当該周期加熱ヒータ110と接触することなく配置され、本方法においては、試験体100の周期加熱面11と、周期加熱ヒータ110との間において、第一温度センサ310を、当該周期加熱ヒータ110と接触させることなく配置した状態で、第一温度波T1及び第二温度波T2を測定する。
【0095】
すなわち、例えば、従来市販されている一般的な熱拡散率測定装置においては、試験体の周期加熱面における温度波を測定する温度センサは、当該周期加熱面に対向して配置され当該周期加熱面に温度波を与える周期加熱ヒータの内部に組み込まれていた。このため、温度センサは、試験体の周期加熱面に実際に与えられた温度波ではなく、周期加熱ヒータが発生させた温度波を測定しており、測定誤差が生じていた。
【0096】
これに対し、本発明においては、試験体10の周期加熱面11における温度波を測定するための第一温度センサ310を、当該周期加熱面11に対向して配置された周期加熱ヒータ110と接触させることなく配置することにより、当該周期加熱面11に実際に与えられた温度波を正確に測定することができ、高い精度で当該試験体10の熱拡散率を測定することができる。
【0097】
さらに、本装置100において、第一温度センサ310は、周期加熱ヒータ110と接触することなく周期加熱面11と接触して配置され、本方法においては、第一温度センサ310を周期加熱ヒータ110と接触することなく周期加熱面11と接触して配置した状態で、第一温度波T1及び第二温度波T2を測定することとしてもよい。
【0098】
この場合、第一温度センサ310によって、試験体10の周期加熱面11に実際に与えられた温度波をより正確に測定することができ、より高い精度で当該試験体10の熱拡散率を測定することができる。
【0099】
また、例えば、本装置100において、試験体10の温度波吸収面12と、温度波吸収ヒータ120との間において、第三温度センサ330は、当該温度波吸収ヒータ120と接触することなく配置され、本方法においては、試験体100の温度波吸収面12と、温度波吸収ヒータ120との間において、第三温度センサ330を、当該温度波吸収ヒータ120と接触させることなく配置した状態で、第一温度波T1及び第二温度波T2を測定することとしてもよい。
【0100】
すなわち、例えば、従来市販されている一般的な熱拡散率測定装置においては、試験体の温度波吸収面の温度を測定する温度センサは、当該温度波吸収面に対向して配置され当該温度波吸収面の加熱を調節する温度波吸収ヒータの内部に組み込まれていた。このため、温度センサは、試験体の温度波吸収面の実際の温度ではなく、温度波吸収ヒータの温度を測定しており、測定誤差が生じていた。
【0101】
これに対し、本発明においては、試験体10の温度波吸収面12の温度を測定するための第三温度センサ330を、当該温度波吸収面12に対向して配置された温度波吸収ヒータ120と接触させることなく配置することにより、当該温度波吸収面12の実際の温度を正確に測定することができ、高い精度で当該試験体10の熱拡散率を測定することができる。
【0102】
さらに、本装置100において、第三温度センサ330は、温度波吸収ヒータ120と接触することなく温度波吸収面12と接触して配置され、本方法においては、第三温度センサ330を温度波吸収ヒータ120と接触することなく温度波吸収面12と接触して配置した状態で、第一温度波T1及び第二温度波T2を測定することとしてもよい。
【0103】
この場合、第三温度センサ330によって、試験体10の温度波吸収面12の温度をより正確に測定することができ、より高い精度で当該試験体10の熱拡散率を測定することができる。
【0104】
なお、本発明においては、第一温度センサ310及び第三温度センサ330のそれぞれを周期加熱ヒータ110及び温度波吸収ヒータ120と接触させることなく配置することとしてもよいし、第一温度センサ310を周期加熱ヒータ110と接触させることなく配置し、且つ第三温度センサ330を温度波吸収ヒータ120と接触させることなく配置することとしてもよい。
【0105】
また、第一温度センサ310及び第三温度センサ330のそれぞれを周期加熱面12及び温度波吸収面12と接触させて配置することとしてもよいし、第一温度センサ310及び第三温度センサ330の一方のみを周期加熱面12及び温度波吸収面12の一方のみと接触させて配置することとしてもよい。
【0106】
また、本装置100は、試験体10の周期加熱面11及び/又は温度波吸収面12と、周期加熱ヒータ110及び/又は温度波吸収ヒータ120との間に配置された接触防止部材400を有し、第一温度センサ310及び/又は第三温度センサ330は、当該周期加熱ヒータ110及び/又は温度波吸収ヒータ120と接触することなく配置されており、本方法においては、当該周期加熱面11及び/又は温度波吸収面12と当該ヒータとの間に接触防止部材400を配置し、当該温度センサを当該ヒータと接触させることなく配置した状態で、第一温度波T1及び第二温度波T2を測定することとしてもよい。
【0107】
この場合、第一温度センサ310及び/又は第三温度センサ330は、周期加熱面11及び/又は温度波吸収面12と接触防止部材400との間に配置されることとしてもよい。また、第一温度センサ310及び/又は第三温度センサ330は、周期加熱面11及び/又は温度波吸収面12に接触して配置されることとしてもよい。また、第一温度センサ310及び/又は第三温度センサ330は、その一部又は全部が接触防止部材400の内部に配置されていることとしてもよい。
【0108】
すなわち、例えば、非常に硬い材料から構成された試験体10の表面に凹凸が形成されており、当該表面に対向して配置されたヒータが当該表面と接触して配置されている場合には、当該ヒータは当該表面の一部のみと接触することとなり、当該試験体10の表面内で温度の分布が生じ、また、当該表面における温度波の波形に歪みが生じ、当該表面の実際の温度を正確に測定することができず、測定誤差を生じる。
【0109】
これに対し、本発明においては、試験体10の表面と、当該表面に対向して配置されるヒータとの間に接触防止部材400を配置して、温度センサを当該ヒータと接触させることなく配置することにより、当該表面の温度をより正確に測定することができ、極めて高い精度で当該試験体10の熱拡散率を測定することができる。
【0110】
接触防止部材400は、試験体10の表面とヒータとの間において、当該表面と当該ヒータとの隙間を埋めるよう配置されるものであれば特に限られないが、例えば、柔軟性を有することが好ましい。すなわち、接触防止部材400は、例えば、周期加熱面11及び/又は温度波吸収面12に追従して変形する柔軟性、及び/又は周期加熱ヒータ110及び/又は温度波吸収ヒータ120の表面に追従して変形する柔軟性を有することが好ましい。
【0111】
具体的に、接触防止部材400としては、例えば、織布、不織布、紙等の繊維体(具体的に、例えば、セラミックスペーパー、紙、布)、多孔質体(具体的に、例えば、スポンジ)、樹脂成形体、ゴム成形体及び粉体からなる群より選択される1つ以上であることとしてよい。接触防止部材400の厚さは特に限られないが、例えば、1〜5mmの範囲内であることとしてもよい。
【0112】
具体的に、本装置100は、図3に示すように、試験体10の周期加熱面11と、周期加熱ヒータ110との間に配置された接触防止部材400を有し、第一温度センサ310は、当該周期加熱ヒータ110と接触することなく配置されており、本方法においては、当該周期加熱面11と当該周期加熱ヒータ110との間に接触防止部材400を配置し、当該第一温度センサ310を当該周期加熱ヒータ110と接触させることなく配置した状態で、第一温度波T1及び第二温度波T2を測定することとしてもよい。
【0113】
試験体10の周期加熱面11と周期加熱ヒータ110との間に接触防止部材400を配置し、且つ第一温度センサ310を当該周期加熱ヒータ110と接触させることなく配置することにより、当該周期加熱面11における温度波をより正確に測定することができ、極めて高い精度で当該試験体10の熱拡散率を測定することができる。
【0114】
なお、図3に示す例において、第一温度センサ310は、試験体10の周期加熱面11と接触防止部材400との間に配置されている。また、第一温度センサ310は、試験体10の周期加熱面11(より具体的には、後述する溝500の内面)と接触して配置されている。また、第一温度センサ310は、その一部又は全部が接触防止部材400の内部に配置されていてもよい。
【0115】
ここで、図4には、試験体10の周期加熱面11と周期加熱ヒータ110との間に接触防止部材400を配置する態様の他の例を示す。この図4に示す例においては、試験体10の周期加熱面11には、後述する、第一温度センサ310を収容する溝500(図3参照)は形成されず、第一温度センサ310は、周期加熱ヒータ110と接触することなく配置されている。
【0116】
図4に示す例において、第一温度センサ310は、試験体10の周期加熱面11と接触防止部材400との間に配置されている。また、第一温度センサ310は、試験体10の周期加熱面11と接触して配置されている。また、第一温度センサ310は、その一部又は全部が接触防止部材400の内部に配置されている。
【0117】
また、本装置100は、同様に、試験体10の温度波吸収面12と、温度波吸収ヒータ120との間に配置された接触防止部材400を有し、第三温度センサ330は、当該温度波吸収ヒータ120と接触することなく配置されており、本方法においては、当該温度波吸収面12と当該温度波吸収ヒータ120との間に接触防止部材400を配置し、当該第三温度センサ330を当該温度波吸収ヒータ120と接触させることなく配置した状態で、第一温度波T1及び第二温度波T2を測定することとしてもよい。
【0118】
試験体10の温度波吸収面12と、温度波吸収ヒータ120との間に接触防止部材400を配置し、且つ第三温度センサ330を当該温度波吸収ヒータ120と接触させることなく配置することにより、当該温度波吸収面12の温度をより正確に測定することができ、極めて高い精度で当該試験体10の熱拡散率を測定することができる。
【0119】
なお、第三温度センサ330は、試験体10の温度波吸収面12と接触防止部材400との間に配置されることとしてもよい。また、第三温度センサ330は、試験体10の温度波吸収面12と接触して配置されることとしてもよい。また、第三温度センサ330は、その一部又は全部が接触防止部材400の内部に配置されていてもよい。
【0120】
また、本装置100においては、試験体10の周期加熱面11及び/又は温度波吸収面12と、周期加熱ヒータ110及び/又は温度波吸収ヒータ120との間において、第一温度センサ310及び/又は第三温度センサ330は、当該周期加熱面11及び/又は温度波吸収面12に形成された溝500内に配置され、当該周期加熱ヒータ110及び/又は温度波吸収ヒータ120と接触することなく配置されていることとしてもよく、本方法においては、当該温度センサを、当該試験体10の当該周期加熱面11及び/又は温度波吸収面12に形成された、当該温度センサを収容可能な溝500内に配置し、当該温度センサを当該ヒータと接触させることなく配置した状態で、第一温度波T1及び第二温度波T2を測定することとしてもよい。この場合、第一温度センサ310及び/又は第三温度センサ330は、その一部が接触防止部材400の内部に配置されていることとしてもよい。
【0121】
第一温度センサ310及び/又は第三温度センサ330を、周期加熱面11及び/又は温度波吸収面12に形成された溝500内に配置して、当該第一温度センサ310及び/又は第三温度センサ330を周期加熱ヒータ110及び/又は温度波吸収ヒータ120と接触させることなく配置することにより、当該周期加熱面11及び/又は温度波吸収面12の温度をより正確に測定することができ、極めて高い精度で試験体10の熱拡散率を測定することができる。なお、第一温度センサ310及び/又は第三温度センサ330が配置される溝500は、例えば、試験体10の周期加熱面11及び/又は温度波吸収面12の一部を削り取ることにより形成することができる。
【0122】
具体的に、本装置100においては、図3に示すように、試験体10の周期加熱面11と、周期加熱面ヒータ110との間において、第一温度センサ310は、当該周期加熱面11に形成された溝500内に配置され、当該周期加熱ヒータ110と接触することなく配置されていることとしてもよく、本方法においては、当該第一温度センサ310を、当該試験体10の当該周期加熱面11に形成された、当該第一温度センサ310を収容可能な溝500内に配置し、当該第一温度センサ310を当該周期加熱ヒータ110と接触させることなく配置した状態で、第一温度波T1及び第二温度波T2を測定することとしてもよい。
【0123】
試験体10の周期加熱面11に形成された溝500に第一温度センサ310を配置し、当該第一温度センサ310を周期加熱ヒータ110と接触させることなく配置することにより、当該周期加熱面11における温度波をより正確に測定することができ、極めて高い精度で当該試験体10の熱拡散率を測定することができる。
【0124】
なお、図4に示す例において、第一温度センサ310は、試験体10の周期加熱面11と接触防止部材400との間に配置されている。また、第一温度センサ310は、試験体10の周期加熱面11と接触して配置されている。また、第一温度センサ310は、その一部が接触防止部材400の内部に配置されていてもよい。
【0125】
ここで、図5には、試験体10の周期加熱面11に形成された溝500内に第一温度センサ310を配置する態様の他の例を示す。この図5に示す例においては、試験体10の周期加熱面11と周期加熱ヒータ110との間に接触防止部材400(図3図4参照)は配置されず、第一温度センサ310は、当該周期加熱ヒータ110と接触することなく配置されている。
【0126】
図5に示す例において、第一温度センサ310は、試験体10の周期加熱面11と周期加熱ヒータ110との間に配置されている。また、第一温度センサ310は、試験体10の周期加熱面11(より具体的には、溝500の内面)と接触して配置されている。
【0127】
また、本装置100においては、同様に、試験体10の温度波吸収面12と、温度波吸収ヒータ120との間において、第三温度センサ330は、当該温度波吸収面12に形成された溝500内に配置され、当該温度波吸収ヒータ120と接触することなく配置されていることとしてもよく、本方法においては、当該第三温度センサ330を、当該試験体10の当該温度波吸収面12に形成された、当該第三温度センサ330を収容可能な溝500内に配置し、当該第三温度センサ330を当該温度波吸収ヒータ120と接触させることなく配置した状態で、第一温度波T1及び第二温度波T2を測定することとしてもよい。
【0128】
試験体10の温度波吸収面12に形成された溝500に第三温度センサ330を配置し、当該第三温度センサ330を温度波吸収ヒータ120と接触させることなく配置することにより、当該温度波吸収面12における温度をより正確に測定することができ、極めて高い精度で当該試験体10の熱拡散率を測定することができる。
【0129】
また、本装置100においては、試験体10の周期加熱面11及び/又は温度波吸収面12と、周期加熱ヒータ110及び/又は温度波吸収ヒータ120との間に配置された接触防止部材400を有するとともに、第一温度センサ310及び/又は第三温度センサ330は、当該周期加熱面11及び/又は温度波吸収面12に形成された溝500内に当該周期加熱ヒータ110及び/又は温度波吸収ヒータ120と接触することなく配置されており、本方法においては、当該周期加熱面11及び/又は温度波吸収面12と当該ヒータとの間に接触防止部材400を配置するとともに、当該温度センサを、当該試験体10の当該周期加熱面11及び/又は温度波吸収面12に形成された、当該温度センサを収容可能な溝500内に当該ヒータと接触させることなく配置した状態で、第一温度波T1及び第二温度波T2を測定することとしてもよい。
【0130】
このように、試験体10の周期加熱面11及び/又は温度波吸収面12の温度を測定するための第一温度センサ310及び/又は第三温度センサ330を、当該周期加熱面11及び/又は温度波吸収面12に形成された溝500内に配置するとともに、当該周期加熱面11及び/又は温度波吸収面12と、周期加熱ヒータ110及び/又は温度波吸収ヒータ120との間に接触防止部材400を配置して、当該第一温度センサ310及び/又は第三温度センサ330を当該周期加熱ヒータ110及び/又は温度波吸収ヒータ120と接触させることなく配置することにより、当該周期加熱面11及び/又は温度波吸収面12の温度をより正確に測定することができ、極めて高い精度で当該試験体10の熱拡散率を測定することができる。
【0131】
具体的に、本装置100は、図3に示すように、試験体10の周期加熱面11と、周期加熱ヒータ110との間に配置された接触防止部材400を有するとともに、第一温度センサ310は、当該周期加熱面11に形成された溝500内に当該周期加熱ヒータ110と接触することなく配置されており、本方法においては、当該周期加熱面11と当該周期加熱ヒータ110との間に接触防止部材400を配置するとともに、当該第一温度センサ310を、当該試験体10の当該周期加熱面11に形成された、当該第一温度センサ310を収容可能な溝500内に当該周期加熱ヒータ110と接触させることなく配置した状態で、第一温度波T1及び第二温度波T2を測定することとしてもよい。
【0132】
このように、試験体10の周期加熱面11における温度波を測定するための第一温度センサ310を、当該周期加熱面11に形成された溝500内に配置するとともに、当該周期加熱面11と周期加熱ヒータ110との間に接触防止部材400を配置して、当該第一温度センサ310を当該周期加熱ヒータ110と接触させることなく配置することにより、当該周期加熱面11における温度波をより正確に測定することができ、極めて高い精度で当該試験体10の熱拡散率を測定することができる。
【0133】
ここで、図6A及び図6Bには、図3と同様、周期加熱面11と接触するよう接触防止部材400を配置するとともに、第一温度センサ310を、当該周期加熱面11に形成された溝500内に配置する例を拡大して示す。図6Aに示す例においては、第一温度センサ310の全部が溝500内に配置されている。一方、図6Bに示す例においては、第一温度センサ310の一部が溝500内に配置され、当該第一温度センサ310の他の一部は接触防止部材400の内部に配置されている。
【0134】
図6Cには、図4と同様、周期加熱面11と接触するよう接触防止部材400を配置するとともに、周期加熱面11には溝500を形成することなく、第一温度センサ310を当該周期加熱面11に配置する例を拡大して示す。図6Cに示す例において、第一温度センサ310は周期加熱面11と接触して配置されるとともに、その一部又は全部が接触防止部材400の内部に配置されている。
【0135】
接触防止部材400を配置することにより、第一温度センサ310と周期加熱ヒータ310との接触を効果的に防止することができる。ただし、例えば、第一温度センサ310の全部が接触防止部材400の内部に配置される場合には、当該第一温度センサ310は、当該接触防止部材400自体の温度を測定することとなる。
【0136】
この点、周期加熱面11に溝500を形成して当該溝500内に第一温度センサ310の一部又は全部を配置することで、当該溝500を形成しない場合に比べて、当該周期加熱面11の温度をより正確に測定することができる。ただし、例えば、溝500が深すぎる場合には、当該溝500内に配置された第一温度センサ310により測定される温度は、必ずしも周期加熱面11の温度と一致しなくなる。
【0137】
したがって、周期加熱面11に形成される溝500の深さは、第一温度センサ310の厚さ以下であることが好ましい。また、溝500内に配置された第一温度センサ310は、その一部のみが接触防止部材400と接触することとしてもよい。この場合、第一温度センサ310の一部のみが接触防止部材400内に配置され、他の部分は当該溝500内に配置されることとしてもよい。
【0138】
また、本装置100は、同様に、試験体10の温度波吸収面12と、温度波吸収ヒータ12との間に配置された接触防止部材400を有するとともに、第三温度センサ330は、当該温度波吸収面12に形成された溝500内に当該温度波吸収ヒータ12と接触することなく配置されており、本方法においては、当該温度波吸収面12と当該温度波吸収ヒータ12との間に接触防止部材400を配置するとともに、当該第三温度センサ330を、当該試験体10の当該温度波吸収面12に形成された、当該第三温度センサ330を収容可能な溝500内に当該温度波吸収ヒータ120と接触させることなく配置した状態で、第一温度波T1及び第二温度波T2を測定することとしてもよい。
【0139】
このように、試験体10の温度波吸収面12の温度を測定するための第三温度センサ330を、当該温度波吸収面12に形成された溝500内に配置するとともに、当該温度波吸収面12と温度波吸収ヒータ120との間に接触防止部材400を配置して、当該第三温度センサ330を当該温度波吸収ヒータ120と接触させることなく配置することにより、当該温度波吸収面12の温度をより正確に測定することができ、極めて高い精度で当該試験体10の熱拡散率を測定することができる。
【0140】
また、第一温度センサ310及び/又は第三温度センサ330の厚さ(当該温度センサが筐体を有する熱電対である場合には当該筐体の厚さ)(当該温度センサが円筒状の筐体を有する熱電対である場合には当該筐体の直径)は、試験体10の厚さの10分の1以下であることが好ましい。
【0141】
すなわち、例えば、第一温度センサ310及び/又は第三温度センサ330の厚さが、試験体10の厚さに比べて無視できないくらい大きい場合(例えば、試験体10の厚さが10mmである場合に、温度センサの厚さが2mmである場合)には、当該試験体10の温度を測定している位置が不明確となり、測定誤差が生じる。
【0142】
これに対し、第一温度センサ310及び/又は第三温度センサ330の厚さが試験体10の厚さの10分の1以下であることにより、当該試験体10の所望の位置の温度を正確に測定することができる。
【0143】
また、試験体10の周期加熱面11及び/又は温度波吸収面12と、周期加熱ヒータ110及び/又は温度波吸収ヒータ120との間に接触防止部材400を配置する場合、第一温度センサ310及び/又は第三温度センサ330の厚さは、当該接触防止部材400の厚さの10分の1以下であることが好ましい。
【0144】
次に、本実施形態に係る具体的な実施例について説明する。
【実施例1】
【0145】
アルミナ−シリカ系繊維質断熱材を試験体10として使用し、周期加熱法により、周期加熱面11と周期加熱ヒータ110との間に接触防止部材400を配置した場合、及び当該接触防止部材400を配置しない場合のそれぞれについて、当該試験体10の熱拡散率を測定し、さらに当該熱拡散率から当該試験体10の熱伝導率を求めた。接触防止部材400としては、アルミナ繊維製のフリース(厚さ5mm)を使用した。
【0146】
接触防止部材400を配置する場合には、図6Bに示すように、周期加熱面11に溝500を形成し、円筒形の筐体を有する熱電対である第一温度センサ310の半分を当該溝500内に配置し、残りの半分を接触防止部材400の内部に配置し、当該第一温度センサ310は周期加熱ヒータ110と接触することなく配置された。
【0147】
一方、接触防止部材400を配置しない場合には、第一温度センサ310は、周期加熱面11と周期加熱ヒータ110との間において、当該周期加熱面11及び周期加熱ヒータ110の両方と接触して配置された。
【0148】
図7には、測定結果を示す。図7に示すように、接触防止部材400を配置しない場合には、当該接触防止部材400を配置する場合よりも低い値の熱伝導率が得られた。これは、接触防止部材400を配置せず、第一温度センサ310を周期加熱ヒータ110と接触させて配置した場合には、当該第一温度センサ310で測定される温度波が、実際に周期加熱面11に与えられた温度波とは異なっていたことによるものと考えられた。
【0149】
これに対し、接触防止部材400を配置し、第一温度センサ310を周期加熱ヒータ110と接触させることなく配置した場合には、実際に周期加熱面11に与えられた温度波に基づき、より高い精度で熱伝導率を測定できたと考えられた。
【実施例2】
【0150】
シリカ粒子の圧縮成形体からなる断熱材を試験体10として使用し、周期加熱法により、当該試験体10の周期加熱面11に形成した溝500に第一温度センサ310を配置した場合、及び周期加熱面に当該溝500を形成しない場合のそれぞれについて、当該試験体の熱拡散率を測定し、さらに当該熱拡散率から当該試験体10の熱伝導率を求めた。
【0151】
溝500を形成する場合には、図6Aに示すように、円筒形の筐体を有する熱電対である第一温度センサ310は、その全体が周期加熱面11に形成された溝500内に配置され、周期加熱ヒータ110と接触することなく配置された。
【0152】
一方、溝500を形成しない場合、第一温度センサ310は、周期加熱面11と周期加熱ヒータ110との間において、当該周期加熱面11及び周期加熱ヒータ110の両方と接触して配置された。
【0153】
図8には、測定結果を示す。図8に示すように、溝500を形成しない場合には、当該溝500を形成した場合よりも低い値の熱伝導率が得られた。これは、溝500を形成せず、第一温度センサ310を周期加熱ヒータ110と接触させて配置した場合には、当該第一温度センサ310で測定される温度波が、実際に周期加熱面11に与えられた温度波とは異なっていたことによるものと考えられた。
【0154】
これに対し、第一温度センサ310を周期加熱面11に形成された溝500内に配置し、周期加熱ヒータ110と接触させることなく配置した場合には、実際に当該周期加熱面11に与えられた温度波に基づき、より高い精度で熱伝導率を測定できたと考えられた。
【実施例3】
【0155】
図3に示すように、試験体10の周期加熱面11と周期加熱ヒータ110との間に配置された接触防止部材400を有するとともに、第一温度センサ310が当該周期加熱面11に形成された溝500内に当該周期加熱ヒータ110と接触することなく配置されている本装置100を使用する本方法により試験体10の熱拡散率を測定し、さらに当該熱拡散率から当該試験体10の熱伝導率を求めた。
【0156】
接触防止部材400としては、アルミナ繊維製のフリース(150mm×100mm、厚さ5mm)を使用した。周期加熱ヒータ110、温度波吸収ヒータ120及び周囲加熱ヒータ130としては、電熱ヒータを使用した。第一温度センサ310、第二温度センサ320、第三温度センサ330及び第四温度センサ340としては、直径が試験体10の厚さの10分の1以下であり、且つ高熱容量部材400の厚さの10分の1以下である円筒状の筐体を有する熱電対を使用した。
【0157】
また、図示はしていないが、温度波吸収面12と温度波吸収ヒータ120との間に、隙間を空けて2枚のアルミナ板を配置するとともに、当該2枚のアルミナ板に挟まれた当該隙間に第三温度センサ330を配置した。
【0158】
また、周囲ヒータ130は、予め出力を所定値±0.05%の範囲に制限して使用した。また、周期加熱面11と、試験体10の内部の所定位置14とで測定された温度波は、その一周期分の測定値を最小二乗法により三角関数に近似し、当該近似により得られた温度波の位相差から、当該試験体10の熱拡散率を測定した。
【0159】
まず、試験体10としてアルミナ−シリカ系繊維質断熱材(150mm×100mm、厚さ30mm)1枚を使用し、当該試験体10の100℃、200℃、400℃、600℃、800℃、1000℃、1200℃、1400℃及び1500℃における熱拡散率を測定し、当該熱拡散率から熱伝導率を求めた。周期加熱ヒータ110で発生させた温度波の振幅は3℃であり、周期は60分であった。試験体10の温度波吸収面12の温度は、所定値±0.05℃の範囲内に維持された。また、試験体10を伝播する、連続する3周期分の温度波において、各1周期分の温度波の振幅の中心温度の平均値と、当該3周期分の温度波の振幅の中心温度の平均値との差分は、±2℃以内であった。また、比較のため、この試験体10の熱伝導率をGHP法によっても測定した。
【0160】
また、試験体10として繊維補強セメント板(150mm×100mm、厚さ20mm)2枚を使用し、当該試験体10の100℃、300℃及び500℃における熱拡散率を測定し、当該熱拡散率から熱伝導率を求めた。周期加熱ヒータ110で発生させた温度波の振幅は2℃であり、周期は60分であった。試験体10の温度波吸収面12の温度は、所定値±0.05℃の範囲内に維持された。また、試験体10を伝播する、連続する3周期分の温度波において、各1周期分の温度波の振幅の中心温度の平均値と、当該3周期分の温度波の振幅の中心温度の平均値との差分は、±2℃以内であった。また、比較のため、この試験体10の熱伝導率をGHP法によっても測定した。
【0161】
図9及び図10に、アルミナ−シリカ系繊維質断熱材及び繊維補強セメント板の熱伝導率を周期加熱法で測定した結果をそれぞれ示す。図9及び図10において、横軸は熱伝導率を測定した温度(℃)(周期加熱面11における温度波の振幅の中心温度と、温度波吸収面12の所定の一定温度との算術平均値)を示し、縦軸は各温度で測定された熱伝導率(W/(m・K))を示す。また、図9及び図10において、丸印は周期加熱法を使用した本方法で測定した結果を示し、四角印はGHP法で測定した結果を示している。
【0162】
図9及び図10に示すように、本装置100を使用した本方法による測定結果は、GHP法による測定結果とほぼ一致した。すなわち、本装置100を使用した本方法によれば、広い温度範囲において高い精度で熱拡散率及び熱伝導率を測定できることが確認された。
【符号の説明】
【0163】
10 試験体、11 周期加熱面、12 温度波吸収面、13 側面、14 試験体内部の所定位置、100 熱拡散率測定装置、110 周期加熱ヒータ、120 温度波吸収ヒータ、130 側面ヒータ、140 冷却装置、150 補助ヒータ、160,170 断熱材、180 金属板、190 筐体、200 直流電源、210 ファンクションジェネレータ、310 第一温度センサ、320 第二温度センサ、330 第三温度センサ、340 第四温度センサ、400 接触防止部材、500 溝。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9
図10