【実施例】
【0046】
以下に、本発明の実施例(実施例1〜4)を、比較例(比較例1〜3)と対比して説明する。しかしながら、これら実施例は、本発明の実施の態様の一例であり、本発明がこれらの実施例に限定して解釈されるものではない。なお、以下、「%」は、特に断りなき限り、「質量(または重量)%」である。
【0047】
〔実施例1〕
(1)Ca
0.9Bi
0.1MnO
3を形成するように各原料の秤量を行った。
すなわち、Ca源としての炭酸カルシウム(CaCO
3)(Ca含量39.98%)17.73gと、Bi源としての酸化ビスマス(Bi
2O
3)(Bi含有量89.49%)4.59gと、Mn源としての炭酸マンガン(MnCO
3)(Mn含量44.62%)24.19g(原子比で、Ca:Bi:Mnが0.9:0.1:1となるようにする)を秤量した。
次に、500mLビーカー中に150mLの純水を加え、秤量した酸化ビスマスを投入し、マグネットスターラーで撹拌しながら室温で分散させた。
【0048】
(2)上記(1)で作製した酸化ビスマス スラリーに、酸化ビスマス中に含まれるBiのモル数に対して等倍モルのクエン酸一水和物4.13gを投入し、室温で10時間反応させた。
(3)上記(2)で作製したスラリーに、秤量した炭酸カルシウムと、炭酸マンガンとを投入し、撹拌下室温で分散させた。
(4)原料化合物中に含まれるCaとMnのモル数に対してそれぞれ1/3倍モルの合計として、リンゴ酸16.69g、および原料化合物中に含まれるCaとMnのモル数に対してそれぞれ2/3倍、1/2倍モルの合計として、クエン酸一水和物45.42gを投入し、50℃まで加熱し、その温度で2時間反応させ、スラリーを得た。
原料化合物の混合物に含まれる金属元素であるCa、BiおよびMnの合計モル数は0.393モルであり、原料化合物の溶解に用いたリンゴ酸(0.124モル)とクエン酸(0.236モル)の合計のモル数は、0.360モルであった。すなわち、(有機酸の合計モル数)/(金属元素の合計のモル数)は、0.92であり、(リンゴ酸のモル数)/(クエン酸のモル数)は、0.53であった。
【0049】
(5)反応終了後、得られたスラリーをスプレーボトルにて液体窒素中へ噴霧し、凍結乾燥機で乾燥させ、中間生成物である複合有機酸塩の乾燥粉末を得た。なお、凍結乾燥機としては、EYELA社製のDRC−1100型角型ドライチャンバーおよびFDU−2100型凍結乾燥機を使用し、乾燥開始温度:−30℃、乾燥終了温度:25℃、運転時間:18時間の条件で乾燥を行った。
【0050】
なお、別途、炭酸カルシウムが分散した水を媒体とするスラリーを準備し、そこに上記クエン酸一水和物とリンゴ酸との混合物を加えると、一晩放置後も炭酸カルシウムがスラリーの状態で安定に存在することを確認した。しかし、クエン酸とリンゴ酸との混合物に代えてクエン酸のみを使用した場合には、クエン酸投入直後から難溶性の沈殿物を生じ固化してしまった。
【0051】
(6)(粗焼成、本焼成)
(5)で得られた乾燥粉末を大気中において、電気炉で、400℃で10時間焼成し、残存炭素を分解させた(粗焼成)。室温〜400℃までの昇温速度は133℃/時間とし、400℃から室温までの降温速度は100℃/時間とした。
【0052】
得られた粗焼成粉を、大気中において、電気炉で、850℃で6時間焼成し、目的のCa
0.9Bi
0.1MnO
3粉末を得た(本焼成)。室温〜700℃までの昇温速度は175℃/時間、さらに850℃までの昇温時間は100℃/時間とし、850℃〜室温までの降温速度は100℃/時間とした。得られた焼成粉末4gを乳鉢で解砕して解砕粉末を得た。
【0053】
(7)(成分分析)
(粒度分布測定)
少量の試料を以下のようにイオン交換水に分散させて試料を調製した。分散剤として、和光純薬社製の二リン酸ナトリウム十水和物を使用した濃度0.24重量%の水溶液を用い、約0.001gの試料と分散液とから全体が10mlとなるように分散液を調製した。測定の直前に180秒間出力30Wの超音波処理を施した。
その結果、得られた解砕粉末の体積平均粒径(D50)は11.5μmであった。
【0054】
(X線回折測定)
前記粉砕粉末の結晶相をX線回折測定により解析した。
使用したX線回折装置はリガク社製のRINT2200Vである。測定条件は、CuKα線を線源とし、管電圧40kV、管電流40mA、スキャン速度2°/分とした。
図2に測定したX線回折パターンを示す。
図2より作製したCa
0.9Bi
0.1MnO
3は単相のペロブスカイト型構造であることが分かる。
【0055】
〔実施例2〕
(1)Ca
2Fe
2O
5を形成するように各原料の秤量を行った。
すなわち、Ca源としての炭酸カルシウム(CaCO
3)(Ca含量39.98%)22.13gと、Fe源としてのクエン酸鉄水溶液(Fe(C
6H
5O
7)aq)(Fe含量8.01%、クエン酸含量46.31%)153.88g(原子比で、Ca:Feが1:1となるようにする)を秤量した。
次に、温度調節器および撹拌機を備えた500mLビーカー中に130mLの純水を加え、秤量した炭酸カルシウムを投入し、撹拌下室温で分散させた。
(2)リンゴ酸の使用量を原料化合物中に含まれるCaのモル数に対して1/3倍モルの0.073モルとして投入後、上記のクエン酸鉄水溶液を加え50℃まで加熱し、その温度で2時間反応させ、スラリーを得た。
クエン酸一水和物の使用量としては、通常、原料化合物中に含まれるCa原子とFe原子とのモル数に対してそれぞれ2/3倍、等倍モルの合計として0.368モルを使用するが、秤量したクエン酸鉄水溶液153.88g中のクエン酸イオンの含量が0.377モルと過剰であるため、クエン酸一水和物を追加しなかった。
【0056】
原料化合物の混合物に含まれる金属元素であるCaおよびFeの合計モル数は0.440モルであり、原料化合物の溶解に用いたリンゴ酸(0.074モル)とクエン酸イオン(0.377モル)の合計のモル数は、0.451モルであった。すなわち、(有機酸の合計モル数)/(金属元素の合計のモル数)は、1.0であり、(リンゴ酸のモル数)/(クエン酸のモル数)は、0.2であった。
反応終了後、得られたスラリーを実施例1と同様の条件の下、凍結乾燥機で乾燥させ、中間生成物である複合有機酸塩の乾燥粉末を得た。
【0057】
(3)(粗焼成、本焼成)
得られた乾燥粉末を大気中において、電気炉で、400℃で10時間焼成し、残存炭素を分解させた(粗焼成)。室温〜400℃までの昇温速度と、400℃から室温までの降温速度は実施例1と同様にした。
【0058】
得られた粗焼成粉を、大気中において、電気炉で、1100℃で6時間焼成し、目的のCa
2Fe
2O
5粉末を得た(本焼成)。室温〜700℃までの昇温速度は175℃/時間、700〜1000℃までの昇温速度は100℃/時間、さらに1100℃までの昇温速度は67℃/時間とし、1100℃〜室温までの降温速度は100℃/時間とした。得られた焼成粉末を乳鉢で解砕して解砕粉末を得た。
【0059】
(4)(成分分析)
(粒度分布測定)
次に、実施例1と同様に、得られた解砕粉末の粒度分布を測定した。その結果、得られた解砕粉末の体積平均粒径(D50)は8.3μmであった。
(X線回折測定)
前記解砕粉末の結晶相を実施例1と同様にしてX線回折測定により解析した。その結果、作製したCa
2Fe
2O
5は単相のブラウンミレライト型構造であることが分かった。
(SEMおよびEDX分析)
前記解砕粉末を実施例1と同様にして走査型電子顕微鏡(SEM)およびこれに付随したエネルギー分散X線分光装置(EDX)により分析した。
【0060】
図3は、前記粉末のSEM写真(倍率×3000)である。
図4と
図5はEDXによるCa、Feのマッピング図である。これより、作製したCa
2Fe
2O
5中のCaとFeとが、比較例2に後述する固相法で作製したCa
2Fe
2O
5中のCaとFeと比較して均質に分布していることが確認された。
【0061】
〔実施例3〕
(1)(原料化合物の準備および分散)
Ca
0.1Ce
0.9O
1.95を形成するように各原料の秤量を行った。
すなわち、Ca源としての炭酸カルシウム(CaCO
3)(Ca含量39.98%)3.75gと、Ce源としての炭酸セリウム(Ce
2(CO
3)
3)(Ce含量41.44%)113.75g(原子比で、Ca:Ceが0.1:0.9となるようにする)を秤量した。
次に、温度調節器および撹拌機を備えた500mLビーカー中に150mLの純水を加え、秤量した炭酸カルシウムと炭酸セリウムとを投入し、撹拌下室温で分散させた。
【0062】
(2)(中間生成物および乾燥)
上記の原料スラリー水溶液に、原料化合物中に含まれるCa原子とCe原子のモル数に対してそれぞれ1/3倍モル、6倍モルの合計として、リンゴ酸272.34g、および原料化合物中に含まれるCa原子のモル数に対して2/3倍モルのクエン酸一水和物5.24gを投入し、55℃まで加熱し、その温度で2時間反応させ、スラリーを得た。
原料化合物の混合物に含まれる金属元素であるCaおよびCeの合計モル数は0.374モルであり、原料化合物の溶解に用いたリンゴ酸(2.03モル)とクエン酸(0.025モル)の合計のモル数は、2.055モルであった。すなわち、(有機酸の合計モル数)/(金属元素の合計のモル数)は、5.5であり、(リンゴ酸のモル数)/(クエン酸のモル数)は、81.2であった。
反応終了後、得られたスラリーを実施例1と同様の条件の下噴霧乾燥機で乾燥させ、中間生成物である複合有機酸塩の乾燥粉末を得た。
【0063】
(3)(粗焼成、本焼成)
得られた乾燥粉末を大気中において、電気炉で、400℃で10時間焼成し、残存炭素を分解させた(粗焼成)。室温〜400℃までの昇温速度と、400℃から室温までの降温速度は実施例1と同様にした。
【0064】
得られた粗焼成粉を、大気中において、電気炉で、600℃で6時間焼成し、目的のCa
0.1Ce
0.9O
1.95粉末を得た(本焼成)。室温〜600℃までの昇温速度は150℃/時間、600℃〜室温までの降温速度は100℃/時間とした。 得られた焼成粉末を乳鉢で解砕して解砕粉末を得た。
【0065】
(4)(成分分析)
(粒度分布測定)
次に、実施例1と同様に、得られた解砕粉末の粒度分布を測定した。その結果、得られた解砕粉末の体積平均粒径(D50)は6.8μmであった。
(X線回折測定)
前記解砕粉末の結晶相を実施例1と同様にしてX線回折測定により解析した。その結果、作製したCa
0.1Ce
0.9O
1.95は単相の蛍石型構造であることが分かった。
【0066】
〔実施例4〕
リンゴ酸272.34gに代えて、マレイン酸235.80gを使用した以外は、実施例3と同様にしてCe
0.9Ca
0.1O
1.95の解砕粉を得た。
金属元素の合計のモル数は実施例3と同様に0.374モルであり、使用したマレイン酸とクエン酸の合計モル数は2.055モルであった。したがって(有機酸の合計モル数)/(金属元素の合計のモル数)は5.5であり、(マレイン酸のモル数)/(クエン酸のモル数)は、81.2であった。
次に、実施例1と同様に、得られた解砕粉末の粒度分布を測定した。その結果、得られた解砕粉末の体積平均粒径(D50)は7.2μmであった。
また、前記解砕粉末の結晶相を実施例1と同様にしてX線回折測定により解析した。その結果、作製したCa
0.1Ce
0.9O
1.95は単相の蛍石型構造であることが分かった。
【0067】
〔比較例1〕
(1)(原料化合物の準備および分散)
Ca
0.9Bi
0.1MnO
3を形成するように各原料の秤量を行った。
すなわち、Ca源としての炭酸カルシウム(CaCO
3)(Ca含量39.98%)5.91gと、Bi源としての酸化ビスマス(Bi
2O
3)(Bi含有量89.49%)1.53gと、Mn源としての炭酸マンガン(MnCO
3)(Mn含量44.62%)8.06g(原子比で、Ca:Bi:Mnが0.9:0.1:1となるようにする)を秤量した。
(2)原料化合物の混合
秤量した炭酸カルシウムと、酸化ビスマスと、炭酸マンガンとを0.08Lの容器に移し、粉砕メディアである直径5mmのジルコニアボール100gおよび粉砕媒体であるAK−225AE(旭硝子社製フッ素系溶媒名)50mLとともに20時間をボールミル粉砕した。
(3)(粗焼成、本焼成)
得られた粉砕粉末を大気中において、電気炉で、粗焼成し、次いで本焼成した。粗焼成時、または本焼成時の焼成条件(焼成温度、焼成時間、昇温速度、および降温速度)は実施例1と同様にした。その結果、焼成粉末としてCa
0.9Bi
0.1MnO
3を得た。
得られた焼成粉末を乳鉢で解砕して解砕粉末を得た。
次に、実施例1と同様に、得られた解砕粉末の粒度分布を測定した。その結果、得られた解砕粉末の体積平均粒径(D50)は10.5μmであった。
【0068】
(4)(成分分析)
(X線回折測定)
前記解砕粉末の結晶相を実施例1と同様にしてX線回折測定により解析した。その結果、作製したCa
0.9Bi
0.1MnO
3はペロブスカイト型構造を有する結晶相の他に、ブラウンミレライト型構造に相当する相を含んでいることを確認した。
【0069】
〔比較例2〕
(1)(原料化合物の準備)
Ca
2Fe
2O
5を形成するように各原料の秤量を行った。
すなわち、Ca源としての炭酸カルシウム(CaCO
3)(Ca含量39.98%)7.38gと、Fe源としての酸化鉄(Fe
2O
3)(Fe含量23.88%)17.21g(原子比で、Ca:Feが1:1となるようにする)を秤量した。
(2)原料化合物の混合
秤量した炭酸カルシウムと酸化鉄とを0.08Lの容器に移し、粉砕メディアである直径5mmのジルコニアボール100gおよび粉砕媒体であるAK−225AE60mLとともに20時間をボールミル粉砕した。
(3)(粗焼成、本焼成)
得られた粉砕粉末を大気中において、電気炉で、粗焼成し、次いで本焼成した。粗焼成時、または本焼成時の焼成条件(焼成温度、焼成時間、昇温速度、および降温速度)は実施例2と同様にした。その結果、焼成粉末としてCa
2Fe
2O
5を得た。 得られた焼成粉末を乳鉢で解砕して解砕粉末を得た。
次に、実施例1と同様に、得られた解砕粉末の粒度分布を測定した。その結果、得られた解砕粉末の体積平均粒径(D50)は9.5μmであった。
【0070】
(4)(成分分析)
(X線回折測定)
前記解砕粉末の結晶相を実施例1と同様にしてX線回折測定により解析した。その結果、作製したCa
2Fe
2O
5はブラウンミレライト型構造を有する結晶相の他に、Fe
2O
3および他の不純物相を含んでいた。
(SEMおよびEDX分析)
前記解砕粉末を実施例2と同様にして走査型電子顕微鏡(SEM)およびこれに付随したエネルギー分散X線分光装置(EDX)により分析した。
【0071】
図6は、前記粉末のSEM写真(倍率×3000)である。
図7と
図8はEDXによる、Ca、Feのマッピング図である。
図7や
図8のマッピング図には測定試料の凹凸を考慮してもCaやFeが偏析している箇所が確認できる。したがって、作製したCa
2Fe
2O
5中のCaとFeは、実施例2の本発明に係わる方法で作製したCa
2Fe
2O
5中のCaとFeと比較して不均質に分布していることが分かる。
【0072】
〔比較例3〕
(1)(原料化合物の準備)
Ce
0.9Ca
0.1O
1.95を形成するように各原料の秤量を行った。
すなわち、Ca源としての炭酸カルシウム(CaCO
3)(Ca含量39.98%)0.62gと、Ce源としての炭酸セリウム(Ce
2(CO
3)
3)(Ce含量41.44%)18.96g(原子比で、Ca:Ceが0.1:0.9となるようにする)を秤量した。
(2)原料化合物の混合
秤量した炭酸カルシウムと炭酸セリウムとを0.08Lの容器に移し、粉砕メディアである直径5mmのジルコニアボール100gおよび粉砕媒体であるAK−225AE60mLとともに20時間をボールミル粉砕した。
(3)(粗焼成、本焼成)
得られた粉砕粉末を大気中において、電気炉で、粗焼成し、次いで本焼成した。粗焼成時、または本焼成時の焼成条件(焼成温度、焼成時間、昇温速度、および降温速度)は実施例3と同様にした。その結果、焼成粉末としてCe
0.9Ca
0.1O
1.95を得た。得られた焼成粉末を乳鉢で解砕して解砕粉末を得た。
次に、実施例1と同様に、得られた解砕粉末の粒度分布を測定した。その結果、得られた解砕粉末の体積平均粒径(D50)は8.3μmであった。
【0073】
(4)(成分分析)
(X線回折測定)
前記解砕粉末の結晶相を実施例1と同様にしてX線回折測定により解析した。その結果、作製したCa
0.1Ce
0.9O
1.95は蛍石型構造を有する結晶相の他に、CaCO
3に相当する不純物相を含んでいることを確認した。