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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-6961(P2015-6961A)
(43)【公開日】2015年1月15日
(54)【発明の名称】カルシウム含有複合酸化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 45/00 20060101AFI20141212BHJP
   C01G 49/00 20060101ALI20141212BHJP
   C01F 17/00 20060101ALI20141212BHJP
【FI】
   C01G45/00
   C01G49/00 C
   C01F17/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-132088(P2013-132088)
(22)【出願日】2013年6月24日
(71)【出願人】
【識別番号】000108030
【氏名又は名称】AGCセイミケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090918
【弁理士】
【氏名又は名称】泉名 謙治
(74)【代理人】
【識別番号】100082887
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 利春
(72)【発明者】
【氏名】長田 文
(72)【発明者】
【氏名】清水 秋彦
(72)【発明者】
【氏名】名田 大志
【テーマコード(参考)】
4G002
4G048
4G076
【Fターム(参考)】
4G002AA08
4G002AB02
4G002AD04
4G002AE05
4G048AA03
4G048AA05
4G048AB02
4G048AB06
4G048AD03
4G048AE05
4G048AE08
4G076AA02
4G076AA18
4G076AB09
4G076BA39
4G076BD02
4G076CA02
4G076DA30
(57)【要約】
【課題】単相であり、均質組成であるカルシウム含有複合酸化物の製造方法を提供する。
【解決手段】カルシウム含有化合物と、遷移金属元素含有化合物と、クエン酸と、マレイン酸、ギ酸、酢酸、乳酸およびリンゴ酸からなる群から選択される少なくとも一種と、溶媒と、を混合して溶液またはスラリーを調製する工程、得られた溶液またはスラリーを噴霧乾燥する噴霧乾燥工程、および噴霧乾燥により得られた乾燥粉を焼成する焼成工程とを有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウム含有化合物と、遷移金属元素含有化合物と、クエン酸と、マレイン酸、ギ酸、酢酸、乳酸およびリンゴ酸からなる群から選択される少なくとも一種と、溶媒と、を混合して溶液またはスラリーを調製する工程、
前記工程で得られた溶液またはスラリーを噴霧乾燥する噴霧乾燥工程、および
前記工程により得られた乾燥粉を焼成する焼成工程、を有することを特徴とするカルシウム含有複合酸化物の製造方法。
【請求項2】
前記溶液またはスラリーを調製する工程で使用される有機酸のモル数が、カルシウム含有複合酸化物を構成する金属元素の合計モル数に対して0.8〜6倍量である請求項1に記載のカルシウム含有複合酸化物の製造方法。
【請求項3】
(マレイン酸、ギ酸、酢酸、乳酸およびリンゴ酸からなる群から選択される少なくとも一種/クエン酸)のモル比が0.1〜90である請求項1または2に記載のカルシウム含有複合酸化物の製造方法。
【請求項4】
リンゴ酸またはマレイン酸を用いる請求項1〜3のいずれか1項に記載のカルシウム含有複合酸化物の製造方法。
【請求項5】
前記カルシウム含有複合酸化物が、ペロブスカイト型構造、ブラウンミレライト型構造、層状ペロブスカイト型構造、蛍石型構造、またはヨウ化カドミウム型構造と岩塩型構造とからなる層状構造を単相で有する請求項1〜4のいずれか1項に記載のカルシウム含有複合酸化物の製造方法。
【請求項6】
前記遷移金属元素含有化合物が、周期表7〜9族のいずれかの元素、またはランタノイド元素のいずれかの元素を含有する化合物である請求項1〜5のいずれか1項に記載のカルシウム含有複合酸化物の製造方法。
【請求項7】
前記遷移金属元素含有化合物が、鉄含有化合物、コバルト含有化合物、マンガン含有化合物、セリウム含有化合物またはニッケル含有化合物である請求項1〜6のいずれか1項に記載のカルシウム含有複合酸化物の製造方法。
【請求項8】
前記溶媒が水である請求項1〜7のいずれか1項に記載のカルシウム含有複合酸化物の製造方法。
【請求項9】
カルシウム含有化合物が、炭酸カルシウムおよび炭酸水素カルシウムからなる群から選択される一種以上である請求項1〜8のいずれか1項に記載のカルシウム含有複合酸化物の製造方法。
【請求項10】
前記溶液またはスラリーを調製する工程における溶液またはスラリーを調製する温度が30〜100℃である請求項1〜9のいずれか1項に記載のカルシウム含有複合酸化物の製造方法。
【請求項11】
前記焼成工程が粗焼成工程と本焼成工程とからなる場合に、本焼成工程における焼成温度が550〜1300℃である請求項1〜10のいずれか1項に記載のカルシウム含有複合酸化物の製造方法。
【請求項12】
前記カルシウム含有複合酸化物が、下記式(1)、式(2)、式(3)、または式(4)のいずれかで表される請求項1〜11のいずれか1項に記載のカルシウム含有複合酸化物の製造方法。
Ce1−xCa2−δ (1)
(0<x≦0.5、0<δ≦0.25である。)
Ca1−xBiMnO (2)
(0≦x≦0.2である。)
Ca (3)
(Mは、Fe、CoまたはNiである。)
Ca (4)
(Mは、Fe、CoまたはNiである。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単相であり、高度に均質な組成を有するカルシウムと遷移金属元素とを含有する複合酸化物の新規な製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カルシウムを含む複合酸化物は燃料電池、超電導、熱電、触媒などの分野で機能性材料として広く開発されている。
例えば、カルシアとセリアの固溶体であるCe1−xCa2−δは、固体酸化物型燃料電池の固体電解質として使用されている。ペロブスカイト型構造のCaMnOのCaの一部をBi元素で置換したCa1−xBiMnOは、n型の熱電変換材料として、CaCoはp型の熱電変換材料として使用されている。CaFeは、酸化触媒、または排ガス浄化触媒、特に二輪車用排ガス浄化触媒、または燃焼排ガス浄化触媒の有効成分として有用である。
【0003】
特許文献1には、出発原料であるSrCO 、CaCO 、M1 (但し、M1=Sm、Gd、Dy)およびMn を所定の組成になるように配合し、ボールミルで混合した混合粉を、大気中において、1300℃で5時間仮焼し、次いで、得られた仮焼粉を解砕した後、50MPaで金型成形した成形体を、大気中において1550℃で5時間焼結することにより単相の(CaSr1−x−yM1)MnOを得たことが記載されている。
しかし、これは仮焼成粉を成形体にすることにより、仮焼成粉同士の密着性を高めた結果として単相の(CaSr1−x−yM1)MnOが得られたと考えられ、この方法を工業化することは難しい。
【0004】
また、特許文献2には、Bi(Pb)−Sr−Ca−Cu−O系超伝導体の合成方法であって、原料金属化合物をクエン酸と部分的に反応させ、生成した部分クエン酸塩を焼成することを特徴とするスラリー法による複合酸化物の合成方法が記載され、第2図−1と第2図−2には実施例1の合成方法で合成したBi(Pb)−Sr−Ca−Cu−O系超伝導体のEPMAによるBi元素、Pb元素、Sr元素、Ca元素、Cu元素に対する線分析結果が載っている。それによると、Ca元素濃度の変動は、Bi元素、Pb元素、Sr元素、Cu元素それぞれの変動と比較して大きく、Ca元素の均質性が比較的悪いことが分かる。これは、炭酸カルシウムとクエン酸とが反応して生じるクエン酸カルシウムが、水に対し難溶性塩であることに起因すると考えられる。
また、特許文献3には、CaFeの固相法による製造方法と、その触媒活性が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
特許文献1 特開2003−142742号
特許文献2 特開平03−257004号
特許文献3 特開2005−296880号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、固相法やスラリー法により調製された従来のカルシウム含有複合酸化物は、上記のカルシウム含有化合物と遷移金属元素含有化合物とが原理的に完全に均質にはなりにくいという問題を有する。
かくして、本発明の目的は、単相であり、均質な組成を有するカルシウムと遷移金属元素とを含有する複合酸化物の、クエン酸と、マレイン酸、ギ酸、酢酸、乳酸およびリンゴ酸からなる群から選択される少なくとも一種と、溶媒と、を用いた製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の目的を達成すべく鋭意検討したところ、特定の有機酸の溶液を使用し、上記のカルシウム含有化合物を、液中で有機酸と反応させて錯化合物としてほぼ完全溶解せしめ、これを微小液滴状態として噴霧乾燥することにより、従来存在しなかったミクロのレベルにおいても均質な組成を有する新規な微粒子粉末が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明の要旨は、以下のとおりである。
〔1〕カルシウム含有化合物と、遷移金属元素含有化合物と、クエン酸と、マレイン酸、ギ酸、酢酸、乳酸およびリンゴ酸からなる群から選択される少なくとも一種と、溶媒と、を混合して溶液またはスラリーを調製する工程、
前記工程で得られた溶液またはスラリーを噴霧乾燥する噴霧乾燥工程、および
前記工程により得られた乾燥粉を焼成する焼成工程、を有することを特徴とするカルシウム含有複合酸化物の製造方法。
〔2〕前記溶液またはスラリーを調製する工程で使用される有機酸のモル数が、カルシウム含有複合酸化物を構成する金属元素の合計モル数に対して0.8〜6倍量である上記〔1〕に記載のカルシウム含有複合酸化物の製造方法。
〔3〕(マレイン酸、ギ酸、酢酸、乳酸およびリンゴ酸からなる群から選択される少なくとも一種/クエン酸)のモル比が0.1〜90である上記〔1〕または〔2〕に記載のカルシウム含有複合酸化物の製造方法。
〔4〕リンゴ酸またはマレイン酸を用いる上記〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載のカルシウム含有複合酸化物の製造方法。
〔5〕前記カルシウム含有複合酸化物が、ペロブスカイト型構造、ブラウンミレライト型構造、層状ペロブスカイト型構造、蛍石型構造、またはヨウ化カドミウム型構造と岩塩型構造とからなる層状構造を単相で有する上記〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載のカルシウム含有複合酸化物の製造方法。
〔6〕前記遷移金属元素含有化合物が、周期表7〜9族のいずれかの元素、またはランタノイド元素のいずれかの元素を含有する化合物である上記〔1〕〜〔5〕のいずれか1項に記載のカルシウム含有複合酸化物の製造方法。
〔7〕前記遷移金属元素含有化合物が、鉄含有化合物、コバルト含有化合物、マンガン含有化合物、セリウム含有化合物またはニッケル含有化合物である上記〔1〕〜〔6〕のいずれか1項に記載のカルシウム含有複合酸化物の製造方法。
〔8〕前記溶媒が水である上記〔1〕〜〔7〕のいずれか1項に記載のカルシウム含有複合酸化物の製造方法。
〔9〕カルシウム含有化合物が、炭酸カルシウムおよび炭酸水素カルシウムからなる群から選択される一種以上である上記〔1〕〜〔8〕のいずれか1項に記載のカルシウム含有複合酸化物の製造方法。
〔10〕前記溶液またはスラリーを調製する工程における溶液またはスラリーを調製する温度が30〜100℃である上記〔1〕〜〔9〕のいずれか1項に記載のカルシウム含有複合酸化物の製造方法。
〔11〕前記焼成工程が粗焼成工程と本焼成工程とからなる場合に、本焼成工程における焼成温度が550〜1300℃である上記〔1〕〜〔10〕のいずれか1項に記載のカルシウム含有複合酸化物の製造方法。
〔12〕前記カルシウム含有複合酸化物が、下記式(1)、式(2)、式(3)、または式(4)のいずれかで表される上記〔1〕〜〔11〕のいずれか1項に記載のカルシウム含有複合酸化物の製造方法。
Ce1−xCa2−δ (1)
(0<x≦0.5、0<δ≦0.25である。)
Ca1−xBiMnO (2)
(0≦x≦0.2である。)
Ca (3)
(Mは、Fe、CoまたはNiである。)
Ca (4)
(Mは、Fe、CoまたはNiである。)
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、単相であり、高度に均質な組成を有するカルシウムと遷移金属元素とを含有する複合酸化物を得ることができる。本発明の製造方法によって製造されたカルシウム含有複合酸化物は、粒子内に複合酸化物を構成する元素が均質に分布しているため、その複合酸化物の有する本来の機能が十分に発揮されることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ブラウンミレライト型結晶構造の模式図である。
図2】実施例1で作製したCa0.9Bi0.1MnOのX線回折パターン図である。
図3】実施例2で作製したCaFeの倍率3000倍のSEM写真図である。
図4】実施例2で作製したCaFeのEDXによるCaマッピング図である。
図5】実施例2で作製したCaFeのEDXによるFeマッピング図である。
図6】比較例2で作製したCaFeの倍率3000倍のSEM写真図である。
図7】比較例2で作製したCaFeのEDXによるCaマッピング図である。
図8】比較例2で作製したCaFeのEDXによるFeマッピング図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の製造方法は、前記溶液またはスラリーを調製する工程、前記噴霧乾燥工程、および前記焼成工程をこの順で有するのが好ましい。
【0012】
<溶液またはスラリーを調製する工程>
本発明の製造方法の原料化合物には、以下のようなカルシウム含有化合物と遷移金属元素含有化合物とを用いる。カルシウム含有化合物は、カルシウムを含む酸化物、水酸化物、硝酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、酢酸塩またはアルコキシドなどである。
遷移金属元素含有化合物は、遷移金属元素を含む酸化物、水酸化物、硝酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、酢酸塩またはアルコキシドなどである。
ここで遷移金属元素とは、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)のような遷移金属元素や、ランタン(La)、セリウム(Ce)、ガドリニウム(Gd)、サマリウム(Sm)のようなランタノイド元素や、ビスマス(Bi)などのうちいずれか一種以上の元素をいう。
【0013】
なかでも、遷移金属元素がコバルト(Co)を含む場合、すなわち、遷移金属元素含有化合物がコバルト含有化合物を含む場合が好ましい。また、遷移金属元素がマンガン(Mn)を含む場合、すなわち、遷移金属元素含有化合物がマンガン含有化合物を含む場合も好ましい。さらに、遷移金属元素が鉄(Fe)を含む場合、すなわち、遷移金属元素含有化合物が鉄含有化合物を含む場合も好ましい。
遷移金属元素含有化合物が、コバルト含有化合物を含む場合や、鉄含有化合物を含む場合や、マンガン含有化合物を含む場合には、本発明の製造方法で製造したカルシウム含有複合酸化物中のカルシウムと、コバルト、マンガン、鉄などの遷移金属元素の均質性が高いからである。
【0014】
カルシウム含有化合物や、遷移金属元素含有化合物などの原料化合物は1つの元素につき酸化物、水酸化物、硝酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、酢酸塩またはアルコキシドなどから選ばれた任意の一種以上の化合物を元素源として選択することができる。原料化合物のうち遷移金属元素含有化合物は、特に環境的な側面、入手し易さの理由から、炭酸塩、水酸化物または酸化物が好ましく、原料の反応性が高いことから、クエン酸塩等の有機酸塩も好ましい。一方、原料化合物のうちカルシウム含有化合物は、炭酸カルシウムおよび炭酸水素カルシウムとからなる群から選ばれる任意の一種以上の化合物を元素源として選択することが好ましい。特に炭酸カルシウムや炭酸水素カルシウムは、有機酸との反応性が高く、可溶性の有機酸塩を生成するため好ましい。
【0015】
本発明におけう溶液またはスラリーを調製する工程では、溶媒を用いて溶液またはスラリーを調製する。溶媒は、上記の原料化合物を溶解もしくは分散できるものであれば特に制限はないが、安全性、溶解性、不燃性及びコストの観点から、水を主体とする溶媒が好ましく、水のみを溶媒とすることがさらに好ましい。助溶媒としては、アルコール類、ケトン類、グリコール類等が使用できる。前記溶液またはスラリー中の溶媒の含量は30〜90質量%が好ましく、40〜80質量%がさらに好ましい。
【0016】
上記の原料化合物をカルシウムおよび遷移金属元素が目的の組成になるようにそれぞれ秤量する。
一方、有機酸の水溶液を予め調製する。有機酸としては、クエン酸と、マレイン酸、ギ酸、酢酸、乳酸およびリンゴ酸からなる群から選択される少なくとも一種と、を併用することが好ましく、クエン酸と、マレイン酸、乳酸またはリンゴ酸からなる群から選択される少なくとも一種の組み合わせがさらに好ましい。なかでも、クエン酸とリンゴ酸との組み合わせ、またはクエン酸とマレイン酸との組み合わせが特に好ましい。
【0017】
クエン酸と上記クエン酸以外の有機酸とを併用することにより、溶解反応(錯体生成)をより容易に進行させることができるためであり、特に、クエン酸以外の有機酸として、マレイン酸、乳酸およびリンゴ酸からなる群から選択される少なくとも一種を併用した場合にその効果は顕著である。クエン酸とリンゴ酸、またはクエン酸とマレイン酸を併用した場合には、上記のような溶解反応を容易に進行させる効果に加えて、複合酸化物を構成するカルシウム含有化合物が溶解した溶液またはスラリーを安定させる効果もある。すなわち、クエン酸を単独で使用した場合には、カルシウム含有化合物が分散した分散液は、クエン酸投入後から徐々に難溶性の沈殿物を生じ固化してしまうが、クエン酸とリンゴ酸、またはクエン酸とマレイン酸を併用した場合には溶液またはスラリー状態のまま安定である。
クエン酸としては、無水クエン酸、クエン酸一水和物、無水クエン酸とクエン酸一水和物との混合物のいずれもが使用可能である。
【0018】
本発明で使用するクエン酸と、マレイン酸、ギ酸、酢酸、乳酸およびリンゴ酸からなる群から選択される少なくとも一種との合計の使用量は、複合酸化物を構成する遷移金属元素と錯体を形成し、これを十分に溶解することができる量以上であることが好ましい。具体的には、クエン酸と、マレイン酸、ギ酸、酢酸、乳酸およびリンゴ酸からなる群から選択される少なくとも一種との合計使用量は、複合酸化物を構成する遷移金属元素のモル数の合計に対して、0.8〜6倍量が好ましく、0.5〜1.1倍量が特に好ましい。0.8倍量以上であれば、カルシウム含有化合物をほぼ完全に溶解できるので好ましく、6倍量以下であれば、有機酸の使用コストが低減でき、焼成時の炭酸ガスの発生量が少なく、焼成中の有機酸の焼成に伴う酸素濃度の過度な減少を抑止できるので好ましい。
【0019】
クエン酸と、マレイン酸、ギ酸、酢酸、乳酸およびリンゴ酸からなる群から選択される少なくとも一種とのモル比、すなわち(マレイン酸、ギ酸、酢酸、乳酸およびリンゴ酸からなる群から選択される少なくとも一種のモル数)/(クエン酸のモル数)は0.1〜90が好ましい。かかるモル比が0.1〜90であると、カルシウム含有化合物が難溶性の塩を生じないためである。
なかでも、(マレイン酸、ギ酸、酢酸、乳酸およびリンゴ酸からなる群から選択される少なくとも一種のモル数)/(クエン酸のモル数)は0.5〜15がさらに好ましい。かかるモル比が0.5〜15であると、カルシウム含有化合物が水中で安定に存在するためである。
【0020】
複合酸化物を構成するカルシウム含有化合物を、上記した有機酸の水溶液を用いて溶解して溶液化する。複合酸化物を構成する他の遷移金属元素含有化合物は、有機酸の水溶液に溶解しても、溶解しなくても構わない。この溶解反応を行うための装置としては、特に限定するものではないが、例えば撹拌手段、加熱手段、原料化合物の供給手段、有機酸水溶液の供給手段を備え、供給した原料化合物を沈殿させることなく浮遊させ、浮遊状態で有機酸と反応させることができる槽型反応容器が好ましい。撹拌手段としては通常の撹拌機、例えば櫂型撹拌機、プロペラ型撹拌機、タービン型撹拌機等のいずれもが好適に使用される。なお、小規模の反応の場合はフラスコ型容器に撹拌機または回転子を設置して実施してもよい。
【0021】
カルシウム含有化合物および他の遷移金属元素含有化合物の各原料化合物と有機酸水溶液の接触方式は、特に限定するものではないが、溶解反応が化学工学的に固−液異相系反応として把握されるので、反応が効率的に実施され、最終的にカルシウム含有化合物が溶解した溶液またはスラリーが得られるものであれば特に限定するものではない。
【0022】
通常は、まず、反応容器に有機酸水溶液を仕込んでおき、これに撹拌下に原料化合物を添加して反応させる方式が好ましい。
また、最初に原料化合物の一部を含有するスラリーと有機酸の一部を反応させた後に、残りの原料化合物を投入し、その後、残りの有機酸を加えて反応させてもよい。
添加するカルシウム含有化合物や、遷移金属元素含有化合物などの原料化合物は、各原料化合物ごとに順次添加してもよいし、また、予め原料化合物を混合しておき、同時に当該混合した原料化合物を供給して反応させてもよい。さらにこれらの供給方法を組み合わせてもよい。
【0023】
溶液またはスラリーを調製する温度は、ある程度の加熱下において実施することにより、カルシウム含有化合物の溶解反応が促進されるので好ましい。溶液またはスラリーを調製する温度は、30〜100℃が好ましく、30〜80℃がさらに好ましく、50〜80℃が特に好ましい。また、反応時間は、反応温度、有機酸濃度、有機酸や原料化合物の種類、その粒径等によって変わりうるが、通常10分〜10時間、好ましくは30分〜5時間、さらに好ましくは1〜3時間程度である。
本発明の製造方法において、調製される溶液またはスラリー中のカルシウム及び遷移金属元素からなる金属元素の合計含有量は、5〜40質量%が好ましく、5〜20質量%がさらに好ましい。
【0024】
<噴霧乾燥工程>
本発明においては、カルシウム含有化合物が溶液化した溶液またはスラリーを、噴霧乾燥機を用いて乾燥するのが好ましい。噴霧乾燥は熱噴霧乾燥でも、凍結噴霧乾燥でもどちらでもよい。熱噴霧乾燥では、上記の有機酸水溶液でカルシウム含有化合物がほぼ完全に溶解された溶液またはスラリーを、熱気流乾燥機もしくは熱噴霧乾燥機のごとき乾燥装置に供給し乾燥を行う。乾燥装置に供給された溶液は、装置内で、微小液滴となり、これが乾燥用の熱風により流動層を形成し、熱風により搬送されながら極めて短時間で乾燥され乾燥粉末が得られる。結果として、得られた乾燥粉中のカルシウムの均質性が高くなると考えられる。
【0025】
熱噴霧乾燥機を使用する場合の噴霧機としては、回転円板、二流体ノズル、加圧ノズル等を有するものが適宜採用でき、また乾燥用熱風温度は、入口で150〜300℃、出口で100〜150℃程度にすることが好ましい。
【0026】
凍結噴霧乾燥は、上記のカルシウム含有化合物が溶解した溶液またはスラリーを凍結し、凍結した状態で減圧下にて乾燥する方法である。上記のカルシウム含有化合物が溶解した溶液またはスラリーを霧吹きなどの既知の噴霧(スプレー)機で、冷却媒体中に噴霧すると、瞬時に凍結し凍結物となる。噴霧機のノズルの形態は特に限定されず、例えば1流体ノズルでも2流体ノズルでもよい。冷却媒体は、特に限定されず、例えば液体窒素、ドライアイスメタノールなどを使用することができる。カルシウム含有化合物が溶解した溶液またはスラリーを瞬時に凍結させることで、凍結物中に多数の微細な氷粒子が生じ、その凍結物を凍結状態のまま減圧下に保持することで、凍結物中の氷が昇華し、凍結乾燥物となる。減圧時の圧力は、25Pa以下とすることが好ましい。圧力が25Pa以下であると、凍結物中の氷粒子が昇華しやすいからである。
【0027】
かかる熱噴霧乾燥や凍結噴霧乾燥によれば、均質相を形成してカルシウム含有化合物が溶解した溶液またはスラリーは、微小の液滴状態を形成し、各液滴が瞬間的、またはごく短時間に、水分が蒸発除去するか、凍結した氷が昇華除去することにより、原理的にミクロなレベルまで均質な組成の固相が析出した乾燥粉末(混合粉末)が得られる。
【0028】
<焼成工程>
噴霧乾燥させた混合粉末を好ましくは焼成容器に移し、焼成炉にて焼成する。焼成工程は基本的には、粗焼成および本焼成の焼成温度の異なる2つの焼成工程からなるのが好ましいが、粗焼成と本焼成の間にさらに仮焼成を行ってもよく、また順次温度を上げてゆく本焼成のみからなる工程、すなわち、1回の焼成工程のみでもよい。焼成容器の材質は、特に限定されず、例えばムライト、コージェライト等が挙げられる。
焼成炉は、熱源として、電気式またはガス式のシャトルキルンでも、場合によってはローラーハースキルンでもロータリーキルンでもよく、特に限定されない。
【0029】
(粗焼成工程)
粗焼成工程においては、焼成炉の温度を好ましくは20〜200℃/時の昇温速度で目的の焼成温度である好ましくは300〜600℃まで上げる操作を行う。昇温速度を20℃/時以上にすることにより、目的の焼成温度まで達する時間が短くなり、生産性が向上するので好ましい。
また、昇温速度を200℃/時以下にすることにより、各温度での反応物質の化学変化が十分に進行するので好ましい。
粗焼成時の焼成温度は、300〜600℃が好ましく、350〜550℃がより好ましい。300℃以上にすることにより炭素成分が残留しにくくなるので好ましい。また、600℃以下にすることにより本焼成後の生成物中に不純物相が生じにくくなるので好ましい。
【0030】
粗焼成の焼成時間は、4〜24時間が好ましく、8〜20時間がより好ましい。4時間以上にすることにより、炭素成分が残留しにくくなるので好ましい。また、24時間を超えても、生成物に変化はないが、生産性が低下するので24時間以下にすることが好ましい。この粗焼成は一定温度、例えば400℃で8時間保持してもよいし、例えば300℃から400℃にかけて20℃/時で昇温してもよい。
【0031】
粗焼成を行う際の焼成炉の雰囲気は、酸素含有雰囲気であり、空気中(大気中)または酸素濃度が21体積%以下の雰囲気中であることが好ましい。酸素濃度が21体積%を超えると原料混合粉中の炭素成分が燃焼し、部分的に酸化反応が進む結果、生成物の構成元素が局在化する場合があるので、21体積%以下の雰囲気にすることが好ましい。
【0032】
粗焼成を行った後、室温まで降温する。降温速度は、40〜200℃/時が好ましい。降温速度を40℃/時以上にすることにより生産性が向上するので好ましい。また、降温速度を200℃/時以下にすることにより、用いる焼成容器が熱衝撃のために割れてしまう可能性が低下するので好ましい。
【0033】
次いで、粗焼成工程で得られた酸化物を必要に応じて解砕する。解砕にはカッターミル、ジェットミル、アトマイザー等の粉砕機を用い、一般に乾式で行う。なお、焼成容器を変更せず、かつ解砕しない場合には粗焼成工程から降温せずに次の仮焼成工程または本焼工程に移行してもよい。
【0034】
(仮焼成工程)
前記粗焼工程で焼成された粗焼成粉は必要に応じて仮焼成される。仮焼成工程においては、焼成炉の温度を50〜800℃/時、好ましくは50〜400℃/時の昇温速度で目的の仮焼成温度まで上げる。昇温速度を50℃/時以上にすることにより、目的の焼成温度まで達する時間が短くなり、生産性が向上するので好ましい。また、昇温速度が800℃/時以下であると、各温度での反応物質の化学変化が十分に進行するので好ましい。
【0035】
仮焼成の温度は、500〜800℃が好ましく、500〜700℃がより好ましい。500℃以上にすると炭素成分が残留することがないので好ましい。また、800℃以下であると焼成粉が過度に焼結しにくくなるので好ましい。
焼成時間は、4〜24時間が好ましく、8〜20時間がより好ましい。4時間以上であると、炭素成分が残留しにくくなるので好ましい。また、24時間以下であると、生成物に変化はなく、生産性が向上するので好ましい。
【0036】
仮焼成を行う際の焼成炉の雰囲気は、粗焼成時と同様の酸素含有雰囲気が好ましい。仮焼成を所定時間行った後、室温まで降温する。降温速度は、40〜200℃/時が好ましい。40℃/時以上であると生産性が落ちることがないので好ましい。また、200℃/時以下により、用いる焼成容器が熱衝撃のために割れてしまう可能性が低下するので好ましい。
次いで、仮焼成で得られた酸化物を、粗焼成の後に行ったのと同様に必要に応じて解砕する。解砕にはカッターミル、ジェットミル、アトマイザー等の粉砕機を用い、一般に乾式で行なう。
【0037】
(本焼成工程)
粗焼成粉または仮焼成粉は本焼成工程により焼成される。本発明の焼成工程は、粗焼成工程および仮焼成工程をおこなわずに、1回の本焼成工程のみであってよい。本焼成工程は、焼成炉の温度を50〜800℃/時、好ましくは50〜400℃/時の昇温速度で目的の焼成温度まで上げるのが好ましい。昇温速度が50℃/時以上であると、目的の焼成温度まで達する時間が短くなり、生産性が向上するので好ましい。
また、昇温速度が800℃/時以下であると、各温度での反応物質の化学変化が十分に進行せずに、反応物質が不均質な状態で目的の焼成温度に到達することがないため、焼成物中に副生成物を生じないので好ましい。
【0038】
本焼成工程における焼成温度は、550〜1300℃が好ましく、750〜1250℃がより好ましい。550℃以上であり1300℃以下であると、目的とする結晶相が効果的に生成するので好ましい。
焼成時間は、4〜24時間が好ましく、5〜20時間がより好ましい。4時間以上であると、未反応物質が目的とする酸化物中に混在することなく、また、単一の結晶相の生成物が得られるので好ましい。また、24時間以下であると、生成物に変化はなく、生産性が低下することもないので好ましい。
【0039】
本焼成を行う際の焼成炉の雰囲気は、粗焼成または仮焼成時と同様の酸素含有雰囲気中であることが好ましい。本焼成を行った後、室温まで降温する。降温速度は、40〜200℃/時が好ましい。40℃/時以上であると生産性が落ちることがないので好ましい。また、200℃/時以下にすることにより用いる焼成容器が熱衝撃のために割れてしまう可能性が低下するので好ましい。
焼成工程は粗焼成工程と本焼成工程とからなり、本焼成工程の焼成温度が550〜1300℃である場合が好ましく、特に、700〜1300℃が好ましい。焼成工程が粗焼成工程と本焼成工程とからなり本焼成工程の焼成温度が550〜1300℃であると、目的の結晶相単相であり、構成元素の均質性が高い複合酸化物が得られるからである。
【0040】
次いで、本焼成で得られた酸化物を粗焼成の後に行ったのと同様に解砕する。解砕はカッターミル、ジェットミル、アトマイザー等の粉砕機を用い、一般に乾式で行う。解砕後の粉体の体積平均粒径は1〜50μmが好ましい。より好ましくは1〜20μmである。
その後、必要に応じて粒度調整のために湿式でさらに粉砕してもよい。なお、上記の粗焼成終了後に室温まで降温せずに、本焼成を続けて行なってもよい。すなわち、粗焼成、本焼成の2工程を連続して行ってもよい。
【0041】
本発明に係わる製造方法で製造するカルシウム含有複合酸化物の組成は特に限定されない。例えば、CaMnO、CaCoO、CaFeO、CaMnO、CaFe、Ce0.8Ca0.22−δ、CaCoが挙げられる。また、上記の化合物のCaの一部や遷移金属元素の一部を他の元素で置換した化合物(以下、置換体ともいう。)であってもよいし、複合酸化物を構成する酸素原子は過剰に存在していても、欠損していてもよい。
【0042】
カルシウム含有複合酸化物の組成は、遷移金属元素が、コバルトを含むカルシウム含有複合酸化物であるCaCoや、その置換体が好ましい。また、遷移金属元素が、マンガンを含むカルシウム含有複合酸化物であるCaMnOや、その置換体も好ましい。遷移金属元素が、コバルトやマンガンの場合には、本発明の製造方法で製造するカルシウム含有複合酸化物中のカルシウムと、コバルトや、マンガンなどの遷移金属元素の均質性が高いからであるからである。
本発明に係わる製造方法で得られるカルシウム含有複合酸化物は、下記式(1)、式(2)、式(3)、または式(4)のいずれかで表される組成であるのが好ましい。
Ce1−xCa2−δ (1)
(0<x≦0.5、0<δ≦0.25であるのが好ましく、0.1≦x≦0.3、0.005≦δ≦0.15であるのがさらに好ましい。)
Ca1−xBiMnO (2)
(0≦x≦0.2であるのが好ましく、0.1≦x≦0.15であるのがさらに好ましい。)
Ca (3)
(Mは、Fe、CoまたはNiである。)
Ca (4)
(Mは、Fe、CoまたはNiである。)
【0043】
本発明に係わる製造方法で製造するカルシウム含有複合酸化物の結晶構造は特に限定されないが、中でも、ペロブスカイト型構造、ブラウンミレライト型構造、層状ペロブスカイト型構造、蛍石型構造、またはヨウ化カドミウム型構造と岩塩型構造とからなる層状構造を単相で有するものが好ましい。
【0044】
ここで、カルシウム含有複合酸化物が、単相の結晶構造を有するか否かは、カルシウム含有複合酸化物粉末の結晶相をX線回折測定により解析し、得られる回折スペクトルにおいて、不純物相結晶に基づく回折ピークが、目的とする結晶相に基づく回折ピークと共に検出できるか否かにより判別できる。
層状ペロブスカイト型構造とは、組成式ABOで表わされ、ABOで表わされるペロブスカイト型構造からなる層と、AOで表わされる岩塩型構造からなる層とが交互に積層した層状構造のことをいう。
【0045】
ブラウンミレライト型構造とは、組成的にはABOの酸素サイトが一部欠損したABO2.5で表わされ、図1に示すように、中心に金属イオンB存在し、各頂点に酸素イオンが存在する歪んだ8面体と、中心に金属イオンBが存在し、各頂点に酸素イオンが存在する歪んだ4面体とで構成される間僚のうち一部に金属イオンAが存在することを特徴とする結晶構造のことをいう。上記の結晶構造が好ましい理由は、本発明の製造方法でカルシウム含有複合酸化物を製造する場合に、単相、つまり単一の結晶相を有するカルシウム含有複合酸化物を得やすいからである。
【実施例】
【0046】
以下に、本発明の実施例(実施例1〜4)を、比較例(比較例1〜3)と対比して説明する。しかしながら、これら実施例は、本発明の実施の態様の一例であり、本発明がこれらの実施例に限定して解釈されるものではない。なお、以下、「%」は、特に断りなき限り、「質量(または重量)%」である。
【0047】
〔実施例1〕
(1)Ca0.9Bi0.1MnOを形成するように各原料の秤量を行った。
すなわち、Ca源としての炭酸カルシウム(CaCO)(Ca含量39.98%)17.73gと、Bi源としての酸化ビスマス(Bi)(Bi含有量89.49%)4.59gと、Mn源としての炭酸マンガン(MnCO)(Mn含量44.62%)24.19g(原子比で、Ca:Bi:Mnが0.9:0.1:1となるようにする)を秤量した。
次に、500mLビーカー中に150mLの純水を加え、秤量した酸化ビスマスを投入し、マグネットスターラーで撹拌しながら室温で分散させた。
【0048】
(2)上記(1)で作製した酸化ビスマス スラリーに、酸化ビスマス中に含まれるBiのモル数に対して等倍モルのクエン酸一水和物4.13gを投入し、室温で10時間反応させた。
(3)上記(2)で作製したスラリーに、秤量した炭酸カルシウムと、炭酸マンガンとを投入し、撹拌下室温で分散させた。
(4)原料化合物中に含まれるCaとMnのモル数に対してそれぞれ1/3倍モルの合計として、リンゴ酸16.69g、および原料化合物中に含まれるCaとMnのモル数に対してそれぞれ2/3倍、1/2倍モルの合計として、クエン酸一水和物45.42gを投入し、50℃まで加熱し、その温度で2時間反応させ、スラリーを得た。
原料化合物の混合物に含まれる金属元素であるCa、BiおよびMnの合計モル数は0.393モルであり、原料化合物の溶解に用いたリンゴ酸(0.124モル)とクエン酸(0.236モル)の合計のモル数は、0.360モルであった。すなわち、(有機酸の合計モル数)/(金属元素の合計のモル数)は、0.92であり、(リンゴ酸のモル数)/(クエン酸のモル数)は、0.53であった。
【0049】
(5)反応終了後、得られたスラリーをスプレーボトルにて液体窒素中へ噴霧し、凍結乾燥機で乾燥させ、中間生成物である複合有機酸塩の乾燥粉末を得た。なお、凍結乾燥機としては、EYELA社製のDRC−1100型角型ドライチャンバーおよびFDU−2100型凍結乾燥機を使用し、乾燥開始温度:−30℃、乾燥終了温度:25℃、運転時間:18時間の条件で乾燥を行った。
【0050】
なお、別途、炭酸カルシウムが分散した水を媒体とするスラリーを準備し、そこに上記クエン酸一水和物とリンゴ酸との混合物を加えると、一晩放置後も炭酸カルシウムがスラリーの状態で安定に存在することを確認した。しかし、クエン酸とリンゴ酸との混合物に代えてクエン酸のみを使用した場合には、クエン酸投入直後から難溶性の沈殿物を生じ固化してしまった。
【0051】
(6)(粗焼成、本焼成)
(5)で得られた乾燥粉末を大気中において、電気炉で、400℃で10時間焼成し、残存炭素を分解させた(粗焼成)。室温〜400℃までの昇温速度は133℃/時間とし、400℃から室温までの降温速度は100℃/時間とした。
【0052】
得られた粗焼成粉を、大気中において、電気炉で、850℃で6時間焼成し、目的のCa0.9Bi0.1MnO粉末を得た(本焼成)。室温〜700℃までの昇温速度は175℃/時間、さらに850℃までの昇温時間は100℃/時間とし、850℃〜室温までの降温速度は100℃/時間とした。得られた焼成粉末4gを乳鉢で解砕して解砕粉末を得た。
【0053】
(7)(成分分析)
(粒度分布測定)
少量の試料を以下のようにイオン交換水に分散させて試料を調製した。分散剤として、和光純薬社製の二リン酸ナトリウム十水和物を使用した濃度0.24重量%の水溶液を用い、約0.001gの試料と分散液とから全体が10mlとなるように分散液を調製した。測定の直前に180秒間出力30Wの超音波処理を施した。
その結果、得られた解砕粉末の体積平均粒径(D50)は11.5μmであった。
【0054】
(X線回折測定)
前記粉砕粉末の結晶相をX線回折測定により解析した。
使用したX線回折装置はリガク社製のRINT2200Vである。測定条件は、CuKα線を線源とし、管電圧40kV、管電流40mA、スキャン速度2°/分とした。
図2に測定したX線回折パターンを示す。図2より作製したCa0.9Bi0.1MnOは単相のペロブスカイト型構造であることが分かる。
【0055】
〔実施例2〕
(1)CaFeを形成するように各原料の秤量を行った。
すなわち、Ca源としての炭酸カルシウム(CaCO)(Ca含量39.98%)22.13gと、Fe源としてのクエン酸鉄水溶液(Fe(C)aq)(Fe含量8.01%、クエン酸含量46.31%)153.88g(原子比で、Ca:Feが1:1となるようにする)を秤量した。
次に、温度調節器および撹拌機を備えた500mLビーカー中に130mLの純水を加え、秤量した炭酸カルシウムを投入し、撹拌下室温で分散させた。
(2)リンゴ酸の使用量を原料化合物中に含まれるCaのモル数に対して1/3倍モルの0.073モルとして投入後、上記のクエン酸鉄水溶液を加え50℃まで加熱し、その温度で2時間反応させ、スラリーを得た。
クエン酸一水和物の使用量としては、通常、原料化合物中に含まれるCa原子とFe原子とのモル数に対してそれぞれ2/3倍、等倍モルの合計として0.368モルを使用するが、秤量したクエン酸鉄水溶液153.88g中のクエン酸イオンの含量が0.377モルと過剰であるため、クエン酸一水和物を追加しなかった。
【0056】
原料化合物の混合物に含まれる金属元素であるCaおよびFeの合計モル数は0.440モルであり、原料化合物の溶解に用いたリンゴ酸(0.074モル)とクエン酸イオン(0.377モル)の合計のモル数は、0.451モルであった。すなわち、(有機酸の合計モル数)/(金属元素の合計のモル数)は、1.0であり、(リンゴ酸のモル数)/(クエン酸のモル数)は、0.2であった。
反応終了後、得られたスラリーを実施例1と同様の条件の下、凍結乾燥機で乾燥させ、中間生成物である複合有機酸塩の乾燥粉末を得た。
【0057】
(3)(粗焼成、本焼成)
得られた乾燥粉末を大気中において、電気炉で、400℃で10時間焼成し、残存炭素を分解させた(粗焼成)。室温〜400℃までの昇温速度と、400℃から室温までの降温速度は実施例1と同様にした。
【0058】
得られた粗焼成粉を、大気中において、電気炉で、1100℃で6時間焼成し、目的のCaFe粉末を得た(本焼成)。室温〜700℃までの昇温速度は175℃/時間、700〜1000℃までの昇温速度は100℃/時間、さらに1100℃までの昇温速度は67℃/時間とし、1100℃〜室温までの降温速度は100℃/時間とした。得られた焼成粉末を乳鉢で解砕して解砕粉末を得た。
【0059】
(4)(成分分析)
(粒度分布測定)
次に、実施例1と同様に、得られた解砕粉末の粒度分布を測定した。その結果、得られた解砕粉末の体積平均粒径(D50)は8.3μmであった。
(X線回折測定)
前記解砕粉末の結晶相を実施例1と同様にしてX線回折測定により解析した。その結果、作製したCaFeは単相のブラウンミレライト型構造であることが分かった。
(SEMおよびEDX分析)
前記解砕粉末を実施例1と同様にして走査型電子顕微鏡(SEM)およびこれに付随したエネルギー分散X線分光装置(EDX)により分析した。
【0060】
図3は、前記粉末のSEM写真(倍率×3000)である。図4図5はEDXによるCa、Feのマッピング図である。これより、作製したCaFe中のCaとFeとが、比較例2に後述する固相法で作製したCaFe中のCaとFeと比較して均質に分布していることが確認された。
【0061】
〔実施例3〕
(1)(原料化合物の準備および分散)
Ca0.1Ce0.91.95を形成するように各原料の秤量を行った。
すなわち、Ca源としての炭酸カルシウム(CaCO)(Ca含量39.98%)3.75gと、Ce源としての炭酸セリウム(Ce(CO)(Ce含量41.44%)113.75g(原子比で、Ca:Ceが0.1:0.9となるようにする)を秤量した。
次に、温度調節器および撹拌機を備えた500mLビーカー中に150mLの純水を加え、秤量した炭酸カルシウムと炭酸セリウムとを投入し、撹拌下室温で分散させた。
【0062】
(2)(中間生成物および乾燥)
上記の原料スラリー水溶液に、原料化合物中に含まれるCa原子とCe原子のモル数に対してそれぞれ1/3倍モル、6倍モルの合計として、リンゴ酸272.34g、および原料化合物中に含まれるCa原子のモル数に対して2/3倍モルのクエン酸一水和物5.24gを投入し、55℃まで加熱し、その温度で2時間反応させ、スラリーを得た。
原料化合物の混合物に含まれる金属元素であるCaおよびCeの合計モル数は0.374モルであり、原料化合物の溶解に用いたリンゴ酸(2.03モル)とクエン酸(0.025モル)の合計のモル数は、2.055モルであった。すなわち、(有機酸の合計モル数)/(金属元素の合計のモル数)は、5.5であり、(リンゴ酸のモル数)/(クエン酸のモル数)は、81.2であった。
反応終了後、得られたスラリーを実施例1と同様の条件の下噴霧乾燥機で乾燥させ、中間生成物である複合有機酸塩の乾燥粉末を得た。
【0063】
(3)(粗焼成、本焼成)
得られた乾燥粉末を大気中において、電気炉で、400℃で10時間焼成し、残存炭素を分解させた(粗焼成)。室温〜400℃までの昇温速度と、400℃から室温までの降温速度は実施例1と同様にした。
【0064】
得られた粗焼成粉を、大気中において、電気炉で、600℃で6時間焼成し、目的のCa0.1Ce0.91.95粉末を得た(本焼成)。室温〜600℃までの昇温速度は150℃/時間、600℃〜室温までの降温速度は100℃/時間とした。 得られた焼成粉末を乳鉢で解砕して解砕粉末を得た。
【0065】
(4)(成分分析)
(粒度分布測定)
次に、実施例1と同様に、得られた解砕粉末の粒度分布を測定した。その結果、得られた解砕粉末の体積平均粒径(D50)は6.8μmであった。
(X線回折測定)
前記解砕粉末の結晶相を実施例1と同様にしてX線回折測定により解析した。その結果、作製したCa0.1Ce0.91.95は単相の蛍石型構造であることが分かった。
【0066】
〔実施例4〕
リンゴ酸272.34gに代えて、マレイン酸235.80gを使用した以外は、実施例3と同様にしてCe0.9Ca0.11.95の解砕粉を得た。
金属元素の合計のモル数は実施例3と同様に0.374モルであり、使用したマレイン酸とクエン酸の合計モル数は2.055モルであった。したがって(有機酸の合計モル数)/(金属元素の合計のモル数)は5.5であり、(マレイン酸のモル数)/(クエン酸のモル数)は、81.2であった。
次に、実施例1と同様に、得られた解砕粉末の粒度分布を測定した。その結果、得られた解砕粉末の体積平均粒径(D50)は7.2μmであった。
また、前記解砕粉末の結晶相を実施例1と同様にしてX線回折測定により解析した。その結果、作製したCa0.1Ce0.91.95は単相の蛍石型構造であることが分かった。
【0067】
〔比較例1〕
(1)(原料化合物の準備および分散)
Ca0.9Bi0.1MnOを形成するように各原料の秤量を行った。
すなわち、Ca源としての炭酸カルシウム(CaCO)(Ca含量39.98%)5.91gと、Bi源としての酸化ビスマス(Bi)(Bi含有量89.49%)1.53gと、Mn源としての炭酸マンガン(MnCO)(Mn含量44.62%)8.06g(原子比で、Ca:Bi:Mnが0.9:0.1:1となるようにする)を秤量した。
(2)原料化合物の混合
秤量した炭酸カルシウムと、酸化ビスマスと、炭酸マンガンとを0.08Lの容器に移し、粉砕メディアである直径5mmのジルコニアボール100gおよび粉砕媒体であるAK−225AE(旭硝子社製フッ素系溶媒名)50mLとともに20時間をボールミル粉砕した。
(3)(粗焼成、本焼成)
得られた粉砕粉末を大気中において、電気炉で、粗焼成し、次いで本焼成した。粗焼成時、または本焼成時の焼成条件(焼成温度、焼成時間、昇温速度、および降温速度)は実施例1と同様にした。その結果、焼成粉末としてCa0.9Bi0.1MnOを得た。
得られた焼成粉末を乳鉢で解砕して解砕粉末を得た。
次に、実施例1と同様に、得られた解砕粉末の粒度分布を測定した。その結果、得られた解砕粉末の体積平均粒径(D50)は10.5μmであった。
【0068】
(4)(成分分析)
(X線回折測定)
前記解砕粉末の結晶相を実施例1と同様にしてX線回折測定により解析した。その結果、作製したCa0.9Bi0.1MnOはペロブスカイト型構造を有する結晶相の他に、ブラウンミレライト型構造に相当する相を含んでいることを確認した。
【0069】
〔比較例2〕
(1)(原料化合物の準備)
CaFeを形成するように各原料の秤量を行った。
すなわち、Ca源としての炭酸カルシウム(CaCO)(Ca含量39.98%)7.38gと、Fe源としての酸化鉄(Fe)(Fe含量23.88%)17.21g(原子比で、Ca:Feが1:1となるようにする)を秤量した。
(2)原料化合物の混合
秤量した炭酸カルシウムと酸化鉄とを0.08Lの容器に移し、粉砕メディアである直径5mmのジルコニアボール100gおよび粉砕媒体であるAK−225AE60mLとともに20時間をボールミル粉砕した。
(3)(粗焼成、本焼成)
得られた粉砕粉末を大気中において、電気炉で、粗焼成し、次いで本焼成した。粗焼成時、または本焼成時の焼成条件(焼成温度、焼成時間、昇温速度、および降温速度)は実施例2と同様にした。その結果、焼成粉末としてCaFeを得た。 得られた焼成粉末を乳鉢で解砕して解砕粉末を得た。
次に、実施例1と同様に、得られた解砕粉末の粒度分布を測定した。その結果、得られた解砕粉末の体積平均粒径(D50)は9.5μmであった。
【0070】
(4)(成分分析)
(X線回折測定)
前記解砕粉末の結晶相を実施例1と同様にしてX線回折測定により解析した。その結果、作製したCaFeはブラウンミレライト型構造を有する結晶相の他に、Feおよび他の不純物相を含んでいた。
(SEMおよびEDX分析)
前記解砕粉末を実施例2と同様にして走査型電子顕微鏡(SEM)およびこれに付随したエネルギー分散X線分光装置(EDX)により分析した。
【0071】
図6は、前記粉末のSEM写真(倍率×3000)である。図7図8はEDXによる、Ca、Feのマッピング図である。図7図8のマッピング図には測定試料の凹凸を考慮してもCaやFeが偏析している箇所が確認できる。したがって、作製したCaFe中のCaとFeは、実施例2の本発明に係わる方法で作製したCaFe中のCaとFeと比較して不均質に分布していることが分かる。
【0072】
〔比較例3〕
(1)(原料化合物の準備)
Ce0.9Ca0.11.95を形成するように各原料の秤量を行った。
すなわち、Ca源としての炭酸カルシウム(CaCO)(Ca含量39.98%)0.62gと、Ce源としての炭酸セリウム(Ce(CO)(Ce含量41.44%)18.96g(原子比で、Ca:Ceが0.1:0.9となるようにする)を秤量した。
(2)原料化合物の混合
秤量した炭酸カルシウムと炭酸セリウムとを0.08Lの容器に移し、粉砕メディアである直径5mmのジルコニアボール100gおよび粉砕媒体であるAK−225AE60mLとともに20時間をボールミル粉砕した。
(3)(粗焼成、本焼成)
得られた粉砕粉末を大気中において、電気炉で、粗焼成し、次いで本焼成した。粗焼成時、または本焼成時の焼成条件(焼成温度、焼成時間、昇温速度、および降温速度)は実施例3と同様にした。その結果、焼成粉末としてCe0.9Ca0.11.95を得た。得られた焼成粉末を乳鉢で解砕して解砕粉末を得た。
次に、実施例1と同様に、得られた解砕粉末の粒度分布を測定した。その結果、得られた解砕粉末の体積平均粒径(D50)は8.3μmであった。
【0073】
(4)(成分分析)
(X線回折測定)
前記解砕粉末の結晶相を実施例1と同様にしてX線回折測定により解析した。その結果、作製したCa0.1Ce0.91.95は蛍石型構造を有する結晶相の他に、CaCOに相当する不純物相を含んでいることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の製造方法で得られるカルシウム含有複合酸化物は、単相であり、従来の固相法やスラリー法によるものと比較して構成元素の均質性が高いという特徴を有している。したがって、複合酸化物が本来持っている機能を十分に発揮でき、その産業上の利用可能性は大きい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8