(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-69920(P2015-69920A)
(43)【公開日】2015年4月13日
(54)【発明の名称】電解質の封止構造及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 14/00 20060101AFI20150317BHJP
H01M 2/08 20060101ALI20150317BHJP
H01L 31/04 20140101ALI20150317BHJP
【FI】
H01M14/00 P
H01M2/08 Z
H01L31/04 Z
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-205371(P2013-205371)
(22)【出願日】2013年9月30日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構最先端研究開発支援プログラム(低炭素社会に資する有機系太陽電池の開発)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119378
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】染井 秀徳
【テーマコード(参考)】
5F151
5H011
5H032
【Fターム(参考)】
5F151AA14
5F151FA04
5F151FA06
5F151GA02
5F151GA03
5H011AA17
5H011FF03
5H011GG04
5H011HH02
5H011JJ03
5H011JJ12
5H011JJ14
5H032AA06
5H032AS06
5H032AS16
5H032BB04
5H032CC04
5H032CC14
5H032CC16
5H032EE04
5H032EE07
5H032EE12
(57)【要約】
【課題】色素増感型太陽電池における電解質の密着性及び長期安定性が向上し得る新たな封止構造及びその製造方法の提供。
【解決手段】対向する一対の基板11〜15と、基板間に封入された流動性電解質31と、前記一対の基板11〜15を互いに貼り合わせるとともに流動性電解質31が封入される領域を確保するように位置する熱可塑性樹脂層21と、基板11〜15と熱可塑性樹脂層31との間のシロキサン含有層22〜23と、を有する、色素増感型太陽電池における電解質の封止構造。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する一対の基板と、
前記基板間に封入された流動性電解質と、
前記一対の基板を互いに貼り合わせるとともに前記流動性電解質が封入される領域を確保するように位置する熱可塑性樹脂層と、
前記基板と熱可塑性樹脂層との間のシロキサン含有層と、
を有する、色素増感型太陽電池における電解質の封止構造。
【請求項2】
前記一対の基板の少なくとも一つは、ガラス又はプラスチックからなる板状体上に透明電極及び発電層をこの順に積層してなるものである請求項1記載の封止構造。
【請求項3】
それぞれ接着面をもつ一対の基板の、各々の接着面にシロキサン含有層を形成して、
前記基板の少なくとも一つについて、その接着面にて形成したシロキサン含有層の上に熱可塑性樹脂層を、流動性電解質を封入し得る領域を確保するように形成し、
各々の接着面どうしを向かい合わせて前記一対の基板を貼り合せ、
前記基板を貼り合せる前または後に、前記一対の基板間に流動性電解質を封入する、
色素増感型太陽電池における電解質の封止構造の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感型太陽電池(以下、「DSSC」ともいう。)における電解質の封止構造及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
DSSCは、増感色素が担持された金属酸化物層を形成した発電電極(負極)と、触媒層が形成された対向電極(正極)とを対向させ、対向させた電極間に電解質を含有した電解液を内包した構造をもつ。DSSCに光が照射されると、金属酸化物層である酸化チタンに吸着した色素が電子励起を起こし、励起電子が酸化チタンの伝導体に注入され、電子が酸化チタンから透明導電膜であるITOやFTOに移動し、電流として取り出すことができる。この時、電解液を二枚の電極間に閉じ込めるための封止構造が必要である。
【0003】
例えば、特許文献1では、スチレンとジエン系炭化水素の共重合体を主体とする熱可塑性エラストマーを含むシール材が開示され、前記エラストマーと必要に応じて充填剤、アクリル系オリゴマー並びにシランカップリング剤を加熱混練したり、これらをともに溶剤に分散させて塗布したりするなどの可能性が示唆されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−306946公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近時、DSSCでは封止構造における密着性および封止性能のさらなる向上が要求されている。そのような要求をかんがみて、本発明は、DSSCにおける封止剤の密着性及び封止性能が向上し得る新たな封止構造及びその製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが鋭意検討した結果、以下の発明を完成した。
本発明の封止構造は、対向する一対の基板を有する。この一対の基板間には流動性電解質が封入されている。この一対の基板は熱可塑性樹脂層によって互いに貼り合わせられ、同時に、流動性電解質が封入される領域が確保されている。この基板と熱可塑性樹脂層との間にはシロキサン含有層が存在する。
好ましくは、一対の基板の少なくとも一つは、ガラス又はプラスチックからなる板状体上に透明電極及び発電層をこの順に積層してなるものである。
本発明の製造方法によれば、まず、それぞれ接着面をもつ一対の基板の、各々の接着面にシランカップリング剤を塗布して乾燥させるなどしてシロキサン含有層を形成させる。この一対の基板の両方又は片方について、その接着面においてシロキサン含有層の上に熱可塑性樹脂層を形成する。このとき、流動性電解質を封入し得る領域を確保するような形状で塗布する。次いで、各々の接着面どうしを向かい合わせて前記一対の基板を貼り合せる。上述のように一対の基板間に確保した領域に、流動性電解質を封入する。流動性電解質の封入は、一対の基板を貼り合わせる前でも後でもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、封止樹脂として一般に硬度が低い熱可塑性樹脂を用いるため、応力緩和によりプラスチック基板のようなフレキシブル基板への対応が可能となる。また、紫外線硬化剤を必要としない熱可塑性樹脂を用いることにより、紫外線硬化剤および紫外線硬化剤の反応後の残渣の電解液中への溶出が抑制され、安定な太陽電池素子を得ることができる。透明導電膜であるITOやFTO表面にシランカップリング処理を行うことにより、処理を行った表面と樹脂に内包される極性置換基の間に強固な結合を形成することにより、電解液の漏洩を抑制しかつ電極基板同士を強固に接着することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図面を適宜参照しながら本発明を詳述する。但し、本発明は図示された態様に限定されるわけでなく、また、図面においては発明の特徴的な部分を強調して表現することがあるので、図面各部において縮尺の正確性は必ずしも担保されていない。
【0010】
本発明によれば、DSSCにおける流動性電解質の封止構造が提供される。DSSCでは電解質は何らかの媒体と共存させて使用するのが一般的である。電解質そのものが流動可能であるか、あるいは、電解質を流動可能な媒体と共存させたものを流動性電解質とよぶ。流動可能な形態としては、例えば、液体(電解液)、ゲル状物、などの形態が特に限定無く挙げられる。流動性電解質の具体的な態様については、DSSCにおける従来技術を適宜援用することができ、いくつかの具体例については後述の実施例で挙げられる。
【0011】
図1は、本発明の封止構造の模式断面図である。本発明の封止構造は、対向する一対の基板を有する。基板は板状であり、流動性電解質の浸透を防ぐものであれば、形態や材質には特に限定は無い。
図1の態様では、片方の基板は透明基板11と透明電極12と発電層15との積層体からなり、対向する他方の基板は触媒層14が形成された電極基板13からなる。図示されるように、一対の基板の片方又は両方は複数の層や膜からなる積層体であってもよい。基板は硬質基板であってもよいし、可撓性をもつ基板(いわゆるフレキシブル基板)であってもよい。
【0012】
一対の基板の少なくとも一つは、ガラス又はプラスチックからなる板状体上に透明電極及び発電層をこの順に積層してなる積層体であることが好ましい。当該好ましい形態は、
図1に示されている。透明基板11としてはガラスやプラスチックからなるものが非限定的に挙げられる。透明電極12としては、ITOやFTOなどが非限定的に挙げられる。透明電極12に隣接して好適に設けられる発電層15としては酸化チタンから構成される多孔質膜や、酸化亜鉛から構成される多孔質膜などが非限定的に挙げられる。
【0013】
他方の基板としては、好ましくは、電極基板13と触媒層14との積層体が挙げられる。電極基板13は好ましくはガラス又はプラスチックからなる板状体に金属膜(電極膜)が形成されたものであり、その上の触媒層14は好ましくは白金の薄膜、導電性高分子、カーボンからなる。
【0014】
一対の基板は熱可塑性樹脂で互いに接着され、基板間に熱可塑性樹脂層21が生成する。本発明で用いる熱可塑性樹脂は、加熱によって軟化して可塑性を示し冷却によって固化する性質をもつ樹脂であり、紫外線による硬化を必要とせず、酸性又はアルカリ性を呈する官能基を側鎖にもつポリマーが好適に用いられる。熱可塑性樹脂の基本骨格は特に限定無く、好ましくはポリオレフィン骨格、ポリオキシアルキレン骨格、セルロース骨格、ポリイミド骨格などが非限定的に挙げられる。側鎖にもつ官能基としては、好適にはカルボキシル基、カルボン酸残基などが非限定的に挙げられる。具体的な樹脂としては、アイオノマー樹脂、ポリエチレングリコール共重合体、メチルセルロース共重合体、エチルセルロース共重合体、ポリフッ化ビニリデン共重合体、ポリメチルメタクリレート共重合体、ポリアクリロニトリル共重合体、ポリオレフィン共重合体、けん化メチルセルロース、けん化エチルセルロース、変性ポリフッ化ビニリデン、けん化ポリメチルメタクリレート、けん化ポリアクリロニトリル、変性ポリオレフィン、変性ポリイミド、変性ポリオレフィン共重合体、変性ポリイミド共重合体、変性ポリアミドイミド、変性ポリテトラフルオロエチレン、けん化ポリビニルアルコール、けん化ポリビニルブチラート等が非限定的に挙げられる。
【0015】
熱可塑性樹脂層21は上述の一対の基板11〜15を互いに貼り合わせるように設けられる。具体的には、片方の基板11・12・15と他方の基板13・14との間に設けられるのが一般的である。熱可塑性樹脂層21は、流動性電解質31が封入される領域を確保し得る位置に設けられるが、貼り合せの強度確保のために流動性電解質31が封入される領域内に配置することもできる。具体的には、流動性電解質31が封入される領域を縁取るような形状で熱可塑性樹脂層21を形成することが挙げられる。
【0016】
色素増感太陽電池における従来の封止剤は硬化後に硬くなる材料が多いため、応力がかかると密着している基板との界面に剥離が生じがちであった。本発明によれば、樹脂自体が柔らかく、極性置換基を有するモノマーを共重合させる、あるいは、変性により極性置換基を導入することで、透明導電膜であるITOやFTO表面への密着性が増大し、信頼性が向上した色素増感太陽電池の提供が可能になった。
【0017】
本発明によれば、基板と熱可塑性樹脂層との間にシロキサン含有層22・23が設けられる。シロキサンはケイ素と酸素を骨格とする物質であり、Si−O−Si結合(シロキサン結合)を持つ。好適には、シロキサン含有層22・23は、珪素原子に1〜3個の有機基が結合し、単独のシロキサン化合物からシロキサン結合が長く連なり高分子となった有機ポリシロキサンまでを含む化合物からなる層である。シロキサン結合においては水素結合を生じるため、基板11〜15との結合性の向上が期待され、また、珪素原子に結合した有機基は上述の熱可塑性樹脂層21との親和性の向上が期待される。よって、封止樹脂としての熱可塑性樹脂と基板との結合力が向上し、流動性電解質31の封止能力の向上が期待される。
【0018】
シロキサン含有層22・23の形成方法は特に限定はなく、好ましくは、シランカップリング剤の塗布・乾燥によりなされる。基板11〜15の貼り合せを意図する面(以下、接着面という。)にシランカップリング剤をアルコールあるいはアルコールと水の混合溶媒に希釈したものを塗布して、それを大気中で乾燥させることにより、シランカップリング剤における加水分解反応と脱水縮合反応が進行し、上述のシロキサン結合が形成してシロキサン含有層が形成される。このとき、透明基板11に隣接する透明電極12の面積は透明基板11よりも小さくてもよく、塗布されたシロキサン含有層22・23が透明基板11に接していても良い。また、同様に電極基板13に隣接する触媒層14の面積は電極基板13よりも小さくてもよく、塗布されたシロキサン含有層22・23が電極基板13に接していても良い。シロキサン含有層22・23の存在は断面のSEM像や化学分析などにより検知することができる。ここで用いるシランカップリング剤としては、アルキルアミンやエポキシ基を有するシランカップリング剤が好ましい。シランカップリング剤に由来するシロキサン含有層の存在により、強固な接着性と流動性電解質の高度な封止性とを両立することができる。
【0019】
したがって、本発明の製造方法によれば、基板11〜15の接着面にシランカップリング剤を塗布してから乾燥させ、乾燥により生成したシロキサン含有層22・23の上に熱可塑性樹脂を塗布する工程が挙げられる。このとき、流動性電解質を封入する領域を確保するような形状で熱可塑性樹脂を塗工する。このとき、熱可塑性樹脂を塗布する部位に関しては、シロキサン含有層22・23の塗布された部分の面積と全く同じ面積であっても良いし、シロキサン含有層22・23の塗布された部分の面積よりも広くあるいは狭くなっても良い。最終的に基板11〜15を貼り合わせることを考慮すれば、熱可塑性樹脂を塗布するのは、一対の基板の両方であってもよいし、一方のみであってもよい。熱可塑性樹脂の塗布の後に、基板11〜15の接着面どうしを向かい合わせて接着を行い、乾燥させることにより熱可塑性樹脂層21を形成させる。流動性電解質31は、上記のいずれかの工程の間か最後に導入すればよい。
【0020】
本発明の製法においては、シランカップリング剤や熱可塑性樹脂の塗工・乾燥方法などや、基板の貼り合わせや流動性電解質の充填方法などについては従来技術を適宜援用することができ、このため、当業者であれば、以上の記載及び請求項の記載にもとづいて、封止性能に優れる封止構造をもつDSSCを得ることができる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に記載された態様に限定されるわけではない。
【0022】
(実施例1)プラスチック/ITO基板のITO表面とチタン基板の表面の接着
一般的なシランカップリング剤として信越シリコーンのKBE−903を用いた。エタノールと水の9:1の混合溶液を用いて、このシランカップリング剤を10倍に希釈した(重量比率、以下、特に明記しない限り同じ。)。プラスチック板上にITO膜を形成してなる基板(プラスチック/ITO基板)のITO表面における、封止を意図する領域に、上記のシランカップリング剤の希釈液を塗布し、室温で30分程度乾燥させた。これとは別に、触媒層を形成した板状のチタン電極を用意し、その表面における封止を意図する領域にも上記のシランカップリング剤の希釈液を塗布し、室温で30分程度乾燥させた。プラスチック/ITO基板のITO表面とチタン電極表面の両方に、シランカップリング剤を塗布した面に対して、封止樹脂として、熱可塑性樹脂である、無水マレイン酸変性ポリプロピレン・1−ブテン共重合樹脂を塗布し、室温で1時間程度乾燥させた。その後、封止樹脂を塗布した部分を互いに対向させた。電解液として、0.6Mのヨウ化1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウム、0.1Mのヨウ化リチウム、0.05Mのヨウ素、0.5Mのt−ブチルピリジンのアセトニトリル溶液を調製した。この電解液を封止樹脂を塗布した部位より内側にスポイトを用いて注液した。その後、封止部を加熱しながら圧着することで電解液を2枚の電極間に封止した。
【0023】
このようにして作製したセルを85℃に加温し、加温前後における封止部の破壊および重量変化を測定した。電解液の溶媒であるアセトニトリルは揮発性が高いので、85℃に加温するとセルを膨張させ、封止部の弱い部分を破壊するおそれがある。封止部が破壊されていたとすれば、揮発した電解液が破壊部分から漏出し重量減少が起こった筈である。実際には、加温後に目視で観測し得る封止部の破壊部分は存在しなかった。また、加温前後における重量減少は0.1%未満であった。
【0024】
(実施例2)プラスチック/ITO基板のITO表面とチタン基板の表面の接着
封止樹脂として熱可塑性樹脂であるポリアミドイミド樹脂を用いたことのほかは実施例1と同じ条件でセルを作製し、85℃の加温を伴う評価を行った。加温後に目視で観測し得る封止部の破壊部分は存在しなかった。また、加温前後における重量減少は0.1%未満であった。
【0025】
(実施例3)プラスチック/ITO基板のITO表面とチタン基板の表面の接着
熱可塑性封止剤として熱可塑性樹脂であるシロキサン変性ポリイミド樹脂を用いたことのほかは実施例1と同じ条件でセルを作製し、85℃の加温を伴う評価を行った。加温後に目視で観測し得る封止部の破壊部分は存在しなかった。また、加温前後における重量減少は0.1%未満であった。
【0026】
(実施例4)プラスチック/ITO基板のITO表面とチタン基板の表面の接着
熱可塑性封止剤として、ポリエチレン骨格と側鎖におけるメタクリル酸残基とをもつアイオノマー樹脂(ハイミラン)を用いたことのほかは実施例1と同じ条件でセルを作製し、85℃の加温を伴う評価を行った。加温後に目視で観測し得る封止部の破壊部分は存在しなかった。また、加温前後における重量減少は0.3%未満であった。
【0027】
(実施例5)色素増感型太陽電池(DSSC)の製造
一般的なシランカップリング剤として信越シリコーンのKBE−903を用いた。エタノールと水の9:1の混合溶液を用いて、このシランカップリング剤を5倍に希釈した。プラスチック板上にITO膜を形成してなるDSSCの基板(プラスチック/ITO基板)のITO表面における、封止を意図する領域に、上記のシランカップリング剤の希釈液を塗布し、室温で30分程度乾燥させた。これとは別に、チタン板にスパッタリングにより白金膜を形成してなる電極(チタン/Pt電極)を用意し、その白金表面における封止を意図する領域にも上記のシランカップリング剤の希釈液を塗布し、室温で30分程度乾燥させた。プラスチック/ITO基板のITO表面とチタン/Pt電極の白金表面の両方に、シランカップリング剤を塗布した面に対して、封止樹脂として、熱可塑性樹脂である、無水マレイン酸変性ポリプロピレン・1−ブテン共重合樹脂を塗布し、室温で1時間程度乾燥させた。その後、封止樹脂を塗布した部分を互いに対向させた。電解液として、0.6Mのヨウ化1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウム、0.1Mのヨウ化リチウム、0.05Mのヨウ素、0.5Mのt−ブチルピリジンのプロピレンカーボネート/エチレンカーボネート溶液を調製した。この電解液を封止樹脂を塗布した部位より内側にスポイトを用いて注液した。その後、封止部を加熱しながら圧着することで電解液を2枚の電極間に封止した。このようにしてDSSCを得た。
【0028】
得られたDSSCは、室温にて2年間経過しても、封止部における破壊は生じていない。
【0029】
実施例1〜5における製造物について断面をSEM観察したところ、接着した一対の基板間に、シロキサン含有層22・23と、熱可塑性樹脂層21に相当する層が異なる層として検知された。基板と熱可塑性樹脂層21との間に位置する層22・23についてエネルギー分散形X線分光器(EDS、EDX)にて化学分析を行ったところ、Si−O−Si結合の存在が確認され、当該層がシロキサン含有層であることが確認された。
【0030】
(比較例1)紫外線硬化型樹脂の使用
封止樹脂としてエポキシ系の紫外線硬化型樹脂を用いたことのほかは実施例5と同じ条件でDSSCを作製し、室温にて経過観察したところ、一週間程度で封止部のいたるところから電解液の漏洩が見られ、プラスチック基板に対する封止剤の密着力不足が露呈した。また、未反応のモノマーや開始剤が電解液中に溶出し、それらによって酸化チタン膜中の色素が脱離することも判明した。
【0031】
(比較例2)プラスチック/ITO基板のITO表面とチタン基板の表面の接着
シランカップリング処理を施さないことのほかは実施例1と同じ条件でセルを作製し、85℃の加温を伴う評価を行った。加温後に目視で容易に観測し得る封止部の破壊が多数存在した。また、加温前後における重量減少は6%であり、電解液が漏出していることが明らかになった。
【0032】
(比較例3)DSSCの製造
シランカップリング処理を施さないことのほかは実施例5と同じ条件でDSSCを作製し、室温にて経過観察したところ、5日程度で封止部から電解液の漏洩が見られ、電極間に気泡が入ることが確認された。無水マレイン酸変性ポリプロピレン・1-ブテン共重合樹脂のような熱可塑性樹脂のみでは、封止性能が低いことが示された。
【符号の説明】
【0033】
11:透明基板 21 :熱可塑性樹脂層
12:透明電極 22・23:シロキサン含有層
13:電極基板 31 :流動性電解質
14:触媒層
15:発電層