【課題】乾式塗布法を使用して燃料電池用触媒層を製造するための装置であって、触媒粉末の塗布率を高めることができ、且つ優れた性能を有する触媒層を形成することができる装置を提供する。また、前記装置を利用した燃料電池用触媒層の製造方法も提供する。
【解決手段】実施形態によれば、触媒および電解質を含む触媒インクを噴霧乾燥して触媒粉末を形成する噴霧乾燥器120を含む触媒インク乾燥部100と、前記触媒インク乾燥部100に連結され、前記触媒粉末をガス透過性の基材204上に堆積させる触媒塗布部200と、前記触媒塗布部200の圧力を調節する圧力調節手段206とを具備することを特徴とする燃料電池用触媒層の製造装置が提供される。
前記触媒塗布部に供給する前記触媒粉末の量を調節する流量調節器を、前記触媒インク乾燥部と前記触媒塗布部の間に設けたことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池用触媒層の製造装置。
前記噴霧乾燥器の外部に、前記噴霧乾燥器の下流側と上流側を連結するように設けられ、前記噴霧乾燥器の下流側に含まれる気相を上流側へ戻すリサイクルラインをさらに具備することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の燃料電池用触媒層の製造装置。
前記基材上に触媒粉末を堆積させる工程の前に、前記触媒粉末を粉砕する工程をさらに含み、前記触媒粉末を堆積させる工程の間、前記触媒塗布部内は負圧に維持されることを特徴とする請求項6に記載の燃料電池用触媒層の製造方法。
前記噴霧乾燥の工程において、前記触媒インクを乾燥するために使用した気体を回収して再利用する工程をさらに含むことを特徴とする、請求項6または7に記載の燃料電池用触媒層の製造方法。
前記触媒粉末を堆積させる工程における前記触媒の担持量を、前記触媒粉末を形成する工程における前記触媒インクの送液量により制御することを特徴とする、請求項6〜11のいずれか1項に記載の燃料電池用触媒層の製造方法。
【背景技術】
【0002】
燃料電池発電システムは、水素等の燃料と空気等の酸化剤を燃料電池本体に供給して、電気化学的に反応させることにより、燃料の持つ化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換して外部へ取り出す発電装置である。この燃料電池発電システムは、比較的小型であるにもかかわらず、高効率で、環境性に優れるという特徴を持つ。また、発電に伴う発熱を温水や蒸気として回収することにより、コージェネレーションシステムとしての適用が可能である。
【0003】
このような燃料電池本体は、電解質の違い等により様々なタイプのものに分類されるが、中でも、電解質に固体高分子電解質膜を用いた固体高分子形燃料電池は、低温動作性や高出力密度等の特徴から、一般家庭用を視野に入れた小型コージェネレーションシステムや電気自動車用の動力源としての用途に適しており、今後、市場規模が急激に拡大することが予想されている。
【0004】
この燃料電池発電システムにおいて、実際に発電機能を担っている燃料電池スタックには、運転に伴う様々な要因により経時的に徐々に電圧が低下し、結果として発電効率が低下するという問題が生じ得る。その要因として、活性化分極の増大、プロトン導電性の低下、ガス拡散性の低下等が挙げられる。
【0005】
活性化分極の増大やプロトン導電性の低下を防ぐため、触媒と電解質のネットワークを確保するように、触媒層に電解質成分を分散させることが好ましい。触媒層に電解質を分散させる方法としては、触媒および電解質を溶媒に分散させた触媒インクを湿式混合する方法が広く採用されている。このように得られた触媒インクを基材上に塗布する際、ガス拡散性の低下を抑制する観点から、気孔率の高い触媒層が得られる乾式塗布法を使用することが好ましい。
【0006】
乾式塗布法では、触媒インクを乾燥させて触媒粉末を作製した後、触媒粉末を基材上に塗布する。触媒粉末の作製と基材への触媒粉末の塗布を別工程で行う場合、触媒粉末の塗布率が低く、高価な触媒を使用する際には大きな問題となっている。また、より高性能の燃料電池を得るためには、触媒活性をより効率的に利用可能であり、且つ均一な触媒層を形成することも求められる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、各図において、同様または類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0012】
(単電池)
まず、燃料電池における単電池の構成について説明する。
【0013】
燃料電池における単電池は、膜電極接合体を燃料極セパレータおよび酸化剤極セパレータでそれぞれ挟持した構造を有する。実際に発電を行う際には、一般的に、単電池を厚み方向に複数個積層して燃料電池スタックとしたものを使用する。
【0014】
図1は、膜電極接合体を示す断面図である。膜電極接合体1は一般的に、電解質膜1cの両面に燃料極1aおよび酸化剤極1bを接合した構造を有する。燃料極1aは、電解質膜1cと接する側から、燃料極触媒層1d、燃料極ガス拡散層1fの順番に積層されたものからなる。一方、酸化剤極1bは、電解質膜1cと接する側から、酸化剤極触媒層1e、酸化剤極ガス拡散層1gの順番に積層されたものからなる。
【0015】
燃料極触媒層1dおよび酸化剤極触媒層1e(以下、両者を合わせて触媒層1d、1eとも称する)は、実際に発電に伴って生じる電気化学反応を担う層である。具体的には、燃料極触媒層1dでは水素の酸化反応が進行し、酸化剤極触媒層1eでは酸素の還元反応が進行する。燃料極触媒層1dおよび酸化剤極触媒層1eは、いずれも、触媒およびプロトン伝導性を有する電解質成分を含有する。以下に説明するが、実施形態に係る触媒層の製造装置を用いて作製する触媒層1d、1eは、触媒および電解質を含む粉末を基材の一方の面に堆積させた構造を有する。
【0016】
燃料極ガス拡散層1fおよび酸化剤極ガス拡散層1gは、多孔質の材料で構成される。燃料極ガス拡散層1fは、例えば、カーボンペーパー1hとカーボン多孔質層1iからなる2層の多孔質層で構成される。同様に酸化剤極ガス拡散層1gは、例えば、カーボンペーパー1jとカーボン多孔質層1kからなる2層の多孔質層で構成される。上述のカーボン多孔質層1i、1kは、例えば、カーボン粉末にポリテトラフルオロエチレン粉末を混合し、得られた混合粉末をカーボンペーパー1h、1i上に乾式塗布した後、ローラーにより圧着して作製することができる。
【0017】
(第1の実施形態)
続いて、上記で説明した触媒層1d、1eの製造装置および製造方法について説明する。
図1は、第1の実施形態に係る触媒層の製造装置を示す概略図である。
【0018】
触媒層製造装置300は、触媒インク乾燥部100と触媒塗布部200から構成される。触媒インク乾燥部100では、触媒および電解質を溶媒に分散させた触媒インク102を噴霧乾燥して触媒粉末を形成する。触媒インク乾燥部100は、触媒インク102を噴霧乾燥するための噴霧乾燥器120を有する。噴霧乾燥器120は、触媒インク102を噴霧する噴霧器108、噴霧された触媒インク102を乾燥する噴霧乾燥チャンバー109、および得られた触媒粉末を回収する触媒回収器112を含む。噴霧器108には、触媒インク102を噴霧器108に供給するための触媒インク送液用ポンプ105が接続される。また、噴霧乾燥チャンバー109には、噴霧器108から噴霧された触媒インク102を乾燥するための気流を提供する乾燥気流用ブロワー110が接続される。
【0019】
噴霧乾燥チャンバー109の下に設けられた触媒回収器112は触媒供給ライン201に繋がっており、この触媒供給ライン201を介して触媒インク乾燥部100と触媒塗布部200が連結されている。触媒塗布部200では、触媒インク乾燥部100で作製された触媒粉末を基材上に堆積させ、触媒層を形成する。触媒塗布部200は触媒塗布チャンバー203を備え、触媒塗布チャンバー203の下端には、基材204を設置するためのステージ205を有する。さらに、触媒塗布チャンバー203には、触媒塗布チャンバー203内の圧力を制御する圧力調節手段206が接続される。
【0020】
触媒インクタンク101に充填された触媒インク102は、触媒インク撹拌器103により撹拌されながら、触媒インク送液ライン104を介して触媒インク送液用ポンプ105に送られる。触媒インク102は、触媒および電解質を含む。触媒としては、直径数nmの白金が主に使用される。その他に、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム等の白金系元素の他、銅、鉄、ニッケル、コバルト、マンガン、バナジウム、モリブテン等の金属、これらの合金、これら金属の酸化物もしくは複酸化物、またはその担持体等を使用することができる。電解質としては、フッ素系または炭化水素系のプロトン伝導性樹脂をディスパージョンに分散させた電解質溶液を使用することができる。フッ素系樹脂としては、デュポン製ナフィオン(登録商標)、旭化成製アシプレックス(登録商標)、旭硝子製フレミオン(登録商標)が挙げられる。
【0021】
触媒インクは、分散剤を含むことが好ましい。分散剤を添加することにより、噴霧乾燥の際のノズルの詰まり等を防ぐことができる。分散剤としては、エタノール、1−プロパノール、2‐プロパノール等を使用することができ、触媒インクに対して5〜70重量%の量で添加することが好ましい。
【0022】
触媒インク送液ポンプ105に達した触媒インク102は、噴霧器108に送られ、噴霧乾燥チャンバー109内に噴霧される。噴霧器108に送液する触媒インク102の量を触媒インク送液ポンプ105で制御することにより、噴霧乾燥により作製する触媒粉末の量を調節することができる。
【0023】
噴霧器108としては、二流体ノズル式のものを使用することが好ましい。二流体ノズルを使用する場合、触媒インクを噴霧乾燥チャンバー109内に噴霧する際に、触媒インクを微粒化するための気体も同時に供給する。微粒化用の気体は、送気ポンプ106から送気ライン107を介して噴霧器108に導入する。二流体ノズルを使用することにより、触媒インクをより微細に且つ触媒を均一に拡散させて噴霧することができる。また、微粒化用の気体を調節することにより、得られる触媒粉末の粒子径を制御することも可能である。触媒インクは、平均噴霧直径が好ましくは20μm以下、より好ましくは5〜10μmの範囲になるように噴霧することが好ましい。ここで、平均噴霧直径とは、噴霧時の液滴の直径の平均値を意味する。微粒化用の気体としては、例えば窒素等を使用することができる。
【0024】
上記のように噴霧された触媒インクの乾燥は、乾燥気流用ポンプ110から噴霧乾燥チャンバー109内に導入される乾燥気流により行う。乾燥気流を、ヒーター111等により加熱してから噴霧乾燥チャンバー109内に導入することにより、触媒インクの乾燥効率を向上させることができる。乾燥気流としては空気を利用することができるが、触媒粉末の酸化反応を抑制するために、窒素を使用することがより好ましい。
【0025】
触媒インク乾燥部100において作製された触媒粉末は、気流と共に、触媒供給ライン201を介して触媒塗布部200に入り、触媒塗布チャンバー203に供給される。このようにして触媒塗布チャンバー203内に放出された触媒粉末を、ステージ205上に支持された基材204の一方の面に堆積させる。
【0026】
触媒粉末を基材204上に堆積させる際、圧力調節手段206により、触媒塗布チャンバー203内の圧力を調節する。例えば、
図2に示すように、ステージ205よりも下流側に圧力調節手段206としての吸引ブロワーを設け、触媒塗布チャンバー203内の気体を吸引して触媒塗布チャンバー203内の圧力を負圧に維持する。あるいは、触媒塗布チャンバー203内に触媒粉末の移動方向と同じ向きのガスの流れを作り、触媒塗布チャンバー203内を正圧に維持してもよい。このように触媒塗布チャンバー203内の圧力を調節するために、ステージ205は通気性を有し、下流に圧力調節弁207を配置した構成とする。触媒供給ライン201上に流量調節器202を設け、触媒塗布チャンバー203に供給する触媒粉末の量を調節することにより、触媒塗布チャンバー203内の圧力をさらに制御してもよい。触媒塗布チャンバー203内を負圧に維持すると、基材204がステージ205に吸引されてしっかりと固定されるため、触媒粉末を塗布する際に都合がよい。従って、触媒塗布チャンバー203内の圧力は、負圧に維持することがより好ましい。
【0027】
基材は、通気性を有する部材であり、触媒層の作製時に触媒粉末が基材を通り抜けることを防ぐため、網目の小さい部材を使用することが好ましい。例えば、カーボンペーパー、カーボン層付カーボンペーパー、ブロッター紙、ステンレス金網等を使用することができる。ガス拡散層を基材として、その上に触媒層を形成してもよい。
【0028】
噴霧乾燥により得た触媒粉末を同一工程で直接基材上に塗布する従来の方法の場合、一旦噴霧状となった触媒粉末を迅速かつ均一に基材上に堆積させることが困難であり、触媒担持量のセル面内におけるバラツキが生じていた。その結果、面内反応不均一化に起因する電池性能低下が問題となっていた。しかし、本実施形態のように噴霧乾燥器120とは別の触媒塗布チャンバー203を使用し、触媒塗布チャンバー203内の圧力を調節することにより、基材204の圧損に応じて触媒粉末を基材204上に均一に堆積させることが可能となる。すなわち、触媒塗布の初期段階に、一旦堆積量の面内分布が生じた場合であっても、堆積量の少ない部分は圧力損失が小さいため、その部分に触媒の堆積が生じやすくなる。その結果として、最終的には面内で均一に触媒が塗布される。触媒層の厚さを均一にすることにより、触媒の量が極端に少ない部分や触媒が無い部分が存在することによる電解質膜へのダメージを防ぐことができる。また、触媒層の面内に電流密度の偏りが生じるのを防ぐことができるため、経時的なガス拡散性能の低下を抑制することが可能となる。その結果として、燃料電池システムの効率低下を抑制し、高性能且つ高耐久性の燃料電池を提供することができる。
【0029】
また、上記実施形態に係る触媒層製造装置によると、触媒インク乾燥部100と触媒塗布部200が連結されているため、触媒粉末の作製と基材への塗布を別工程で行う従来の方法において生じていた触媒粉末の塗布率の低下の問題を解決することができる。さらに、触媒インク乾燥部100と触媒塗布部200の間での触媒のロスを考慮する必要がないため、基材204上への触媒の堆積量を、触媒インク102の送液量により容易に制御することが可能になる。
【0030】
上記実施形態では、噴霧乾燥法を使用して触媒粉末を作製しており、触媒インクを噴霧状にした後に乾燥して触媒粉末を得ている。そのため、触媒インクを乾燥して得た触媒フロッグを粉砕して触媒粉末を得る方法に比べ、触媒インクの乾燥および微細化を容易に行うことができる。噴霧乾燥法を使用して触媒粉末を作製すると、風乾を用いた従来方法よりも、乾燥後の触媒層粉末中における電解質の分散性が向上し、触媒利用率が増大する。その結果、燃料電池の性能を向上させることができる。
【0031】
噴霧乾燥器120の外部には、噴霧乾燥チャンバー109から触媒回収器112へ移動した気相の一部を再利用するためのリサイクルライン115を設けてもよい。リサイクルライン115は、触媒インク乾燥器120の下流側と上流側、すなわち触媒回収器112と噴霧乾燥チャンバー109を連結するように設ける。触媒回収器112へ移動した気相の一部は、凝縮熱交換器113により溶媒が除去され、リサイクルライン115を介して乾燥気流用ポンプ110に戻り、ヒーター111で加熱されて再び触媒インク120を乾燥するために使用される。凝縮熱交換器113で除去された溶媒は、ドレン回収器114に回収される。乾燥粉末を迅速に分離するために、例えば、触媒回収器112をサイクロン集塵器としてもよい。
【0032】
このようにリサイクルライン115を設けることにより、触媒回収器112内の気相を再利用できると共に、触媒回収器112内に気相と共に存在する溶媒を低減することができるため、触媒回収器112内の露点が低下する。その結果、触媒粉末をより乾燥した状態で触媒供給ライン201および触媒塗布部200に導入することができ、触媒塗布率を向上させることができる。
【0033】
上記のように塗布した触媒粉末を基材上に圧着することにより、最終的な触媒層が得られる。例えば、
図3に示すように、触媒圧着ローラー302を使用して触媒粉末301を基材204上に圧着することができる。
【0034】
(第2の実施形態)
図4は、第2の実施形態に係る触媒層の製造装置を示す概略図である。
【0035】
第2の実施形態に係る触媒層製造装置300は、触媒インク乾燥部100と触媒塗布部200を連結する触媒供給ライン201上に、触媒粉末をさらに細かく粉砕するための粉砕器210を配置したことを除き、第1の実施形態と同様である。粉砕器210としては、ジェットミル等を使用することができ、触媒粉末を粉砕できれば特に限定されない。触媒塗布チャンバー203より上流側に粉砕器210を設置することにより、凝集した触媒粉末を微粒子化してから基材204上に堆積させることができる。微粒子化された触媒粉末を使用して触媒層を形成した場合、発電反応の際に触媒をより効率的に利用できるため、触媒利用率が向上する。
【0036】
粉砕器210を使用する場合には、触媒塗布チャンバー203内の圧力は、吸引ブロワー等を用いることにより負圧に維持することが好ましい。粉砕器210を用いる場合には、正圧と比較して、粉砕器を通過する気流の絶対圧力の低下に伴って体積が膨張するため、処理量が増え、粉砕効率が向上する。また、触媒塗布チャンバー203内を負圧とすることで、粉砕器210から触媒インク乾燥部100への触媒粉末の逆流を防止することもできる。
【0037】
なお、図示していないが、第2の実施形態においても、触媒供給ライン201上に流量調節器202を設け、触媒塗布チャンバー203に供給する触媒粉末の量を調節してもよい。
【0038】
(燃料電池発電システム)
次に、上記実施形態に係る触媒層製造装置を用いて作製した触媒層を含む燃料電池を燃料電池発電システムに適用する場合の態様について説明する。固体高分子型燃料電池発電システムは、一般家庭用の小型コージェネレーションシステムを例にとると、都市ガスやLPG等に代表される炭化水素系燃料から水素含有ガスを製造する改質装置、改質装置で製造された水素含有ガスと大気中の空気を燃料極および酸化剤極にそれぞれ供給して起電力を発生させる燃料電池スタック、燃料電池スタックで発生した電気エネルギーを外部負荷に供給する電気制御装置、および発電に伴う発熱を回収する熱利用系等から構成されている。
【0039】
図5は、燃料電池発電システムを示す概略図である。
【0040】
膜電極接合体1を含む燃料電池スタックの燃料極1aには、改質器2における改質反応により生成した水素リッチガスが供給される。電池から排出される燃料排ガスは、改質器2が有するバーナーで燃焼させた後、系外に排出される。一方、酸化剤極1bには空気ブロワー5から空気が供給され、排ガスは熱交換器7で廃熱回収された後、系外に排出される。
【0041】
上記のようにして燃料電池スタックで得られる電気エネルギーは、電気制御装置3を介して外部負荷6へ供給される。その際に得られる熱エネルギーは、冷却水ポンプ9を介して冷却板8を流通する冷媒10により回収され、熱交換器7を介して貯湯槽4に蓄熱される。
【0042】
図5では、簡略化の観点から燃料電池スタックを単電池として示しているが、実際には、燃料電池スタックは単電池を複数積層して構成される。
【実施例】
【0043】
<実施例1>
実施例1に係る膜電極接合体(以下、MEAとも称する)を、以下の方法で作製した。
【0044】
まず、触媒層の基材となるガス拡散層を作製した。燃料極ガス拡散層および酸化剤極ガス拡散層は、それぞれ、カーボンペーパー(厚さ190μm)とカーボン多孔質層の2層の多孔質層で構成した。カーボン多孔質層は、カーボン粉末(アセチレンブラック)に、ポリテトラフルオロエチレン粉末(テフロン(登録商標)6−J)を重量含有率で35%となるように混合した粉体を、カーボンペーパー上に乾式塗布した後、ローラーにより圧着し、360℃で10分間熱処理することにより形成した。
【0045】
続いて、上記のように作製したガス拡散層を基材として使用し、上記第1の実施形態として記載した触媒層製造装置により、ガス拡散層上に酸化剤極触媒層および燃料極触媒層をそれぞれ形成した。触媒インクとしては、触媒粒子に電解質溶液(20% Nafion(登録商標)溶液DE2020)を混合した混合溶液を、固形分10重量%となるように水で希釈し、分散させたものを用いた。触媒インク中には、分散剤としてイソプロピルアルコールを5重量%含有させた。
【0046】
噴霧器としては二流体ノズル式のものを使用し、平均噴霧直径は20μm以下とした。基材上における触媒粉末の担持量は、触媒乾燥チャンバーに供給される触媒インクの送液量により制御した。触媒粉末を基材上に堆積させる間、触媒塗布チャンバー内を負圧に維持した。
【0047】
触媒粉末を基材上に堆積させた後、触媒圧着ローラーを使用して触媒粉末を基材上に圧着し、燃料極および酸化剤極を得た。得られた燃料極および酸化剤極を電解質膜の両側に160℃のホットプレスにより圧着し、MEAを作製した。
【0048】
<実施例2>
触媒インク中に分散剤としてイソプロピルアルコールを70重量%含有させたことを除き、実施例1と同様にMEAを作製した。
【0049】
<比較例1>
実施例1と同じ触媒インクを風乾し、風乾により得られた触媒フロックを粉砕して触媒粉末とし、その触媒粉末を回収した。その後、第1の実施形態として上述した触媒層製造装置における触媒塗布部のみからなる触媒塗布装置で、基材上に触媒層を形成した。基材上への触媒層の堆積方法は実施例1と同様であり、使用した基材も同様である。その後、実施例1と同様にMEAを作製した。
【0050】
<比較例2>
実施例1と同様に触媒インクを噴霧乾燥することにより触媒粉末を作製し、その触媒粉末を回収した。その後、噴霧乾燥装置とは別体の、第1の実施形態として上述した触媒層製造装置における触媒塗布部のみからなる触媒塗布装置で、基材上に触媒層を形成した。基材上への触媒層の堆積方法は実施例1と同様であり、使用した基材も同様である。その後、実施例1と同様にMEAを作製した。
【0051】
<比較例3>
実施例1と同様に触媒インクを噴霧乾燥することにより触媒粉末を作製し、その触媒粉末をそのまま基材上に吹き付けて触媒層を作製した。触媒粉末を基材上に堆積させる間、触媒塗布チャンバー内の圧力は特に調節しなかった。
【0052】
<比較例4>
噴霧器にアトマイザー(回転円盤式)を使用して平均噴霧直径を50μmとしたことを除き、実施例1と同様にMEAを作製した。
【0053】
<比較例5>
触媒インク中に分散剤としてのイソプロピルアルコールを含有させないことを除き、実施例1と同様にMEAを作製した。
【0054】
(触媒層の均一性)
実施例1において、基材上における触媒粉末の担持量を触媒乾燥チャンバーに供給する触媒インクの送液量により制御した結果、塗布回数毎の触媒担持量としては、燃料極1cm
2当たりの目標値0.30mgに対し0.30±0.15mg、酸化剤極1cm
2当たりの目標値0.40mgに対し0.40±0.02mg/cm
2という結果が得られた。また、セル面内の目付け量の分布を断面観察により計測したところ、担持量のバラツキは、電流密度分布の増加による性能低下量をほぼ無視できるレベルである±5%以下となっていることを確認した。
【0055】
上記結果より、基材上における触媒の担持量を触媒乾燥チャンバーに供給する触媒インクの送液量により制御することが可能であり、また、面内方向に均一な触媒層を得られたことがわかる。
【0056】
(膜電極接合体(MEA)の性能評価)
実施例および比較例として作製したMEAの燃料極に改質模擬ガス(燃料組成:75%H2、25%CO2、10ppmCO)を、酸化剤極に空気を、それぞれ燃料利用率80%、酸素利用率60%となるように供給し、電池温度70℃、電流密度300mA/cm
2においてMEAの性能評価試験を実施した。
【0057】
さらに、実施例および比較例の製造方法を使用した場合の触媒塗布率も算出した。触媒塗布率は、実際に基材上に塗布された触媒の量/使用した触媒インク中に含まれる触媒の量とした。
【0058】
上記性能評価および触媒塗布率の結果を、以下の表1にまとめる。触媒質量活性は燃料に水素、酸化剤に空気を使用し、900mVを示す電流値を触媒貴金属重量で割り付けた値を示している。
【表1】
【0059】
実施例1における触媒塗布率は、噴霧乾燥により作製した触媒粉末を一旦回収し、別体の触媒塗布装置で触媒を塗布する比較例3と比較して、著しい改善が見られた。吹きつけ法で行った比較例3については、チャンバー内で触媒粉末が舞ってしまい、基材上に触媒粉末を堆積させることができなかった。
【0060】
また、実施例1のMEAは、比較例1と比較して性能が向上した。各MEAの性能評価結果の詳細を
図6に示す。噴霧乾燥法を適用した実施例1では、風乾による比較例1と比べ、触媒質量活性の向上と関連し、活性化分極の低減がみられている。抵抗分極および拡散分極に関しては、いずれのMEAについてもほぼ一定であった。従って、抵抗分極および拡散分極の値は、MEAの初期性能を示すセル電圧に影響を及ぼさなかったと言える。以上より、噴霧乾燥法の適用により触媒粉末における触媒の分散性が向上し、触媒質量活性が向上したことによりMEAの性能が向上したと考えられる。
【0061】
さらに、実施例1のMEAと比較例4のMEAを比較すると、平均噴霧直径がより小さな実施例1の方がMEAの性能が優れている。これは、触媒粉末を小さくすることにより触媒利用率が高まったためであると考えられる。
【0062】
以上より、実施例1の方法で触媒層を作製すると、触媒塗布率の向上およびMEA性能の向上を同時に達成することが可能である。
【0063】
(触媒インク中の分散剤の影響)
触媒インク中に含まれる分散剤の量のみが異なる実施例1および2、ならびに比較例5について、製造工程およびMEA性能に及ぼす分散剤の影響を比較した。その結果を以下の表2に示す。
【表2】
【0064】
分散剤の量は噴霧後の触媒層の空隙率に影響を及ぼすが、5重量%〜70重量%の範囲であれば、MEAの性能に特に問題はないことを確認することができた。分散剤を省略した場合には、ノズルが詰まる等の不都合が生じ、触媒製造の効率が低下することも分かった。
【0065】
上記実施形態または実施例によれば、乾式塗布法を使用して燃料電池用触媒層を製造する場合において、触媒粉末の塗布率を高めることができ、且つ優れた性能を有する触媒層を作製することができる。
【0066】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。