【解決手段】ヘアケア用又は爪ケア用化粧品は、ヘアケア又は爪ケア成分を含む油相と、水相と、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成されたカチオン性の閉鎖小胞体又は水酸基を有するカチオン性の重縮合ポリマー粒子を含み、O/W型エマルションの構造である。閉鎖小胞体又は重縮合ポリマー粒子は、水相と油相との界面に介在することで乳化状態を維持し、O/W型エマルションを構成する。
ヘアケア又は爪ケア成分を含む油相と、水相と、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成されたカチオン性の閉鎖小胞体又は水酸基を有するカチオン性の重縮合ポリマー粒子を含み、O/W型エマルションの構造であるヘアケア用又は爪ケア用化粧品。
前記閉鎖小胞体又は重縮合ポリマー粒子が前記水相と前記油相との界面に介在することで乳化状態を維持し、O/W型エマルションを構成した請求項1記載のヘアケア用又は爪ケア用化粧品。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに特に限定されるものではない。
【0013】
本発明のヘアケア用又は爪ケア用化粧品は、ヘアケア又は爪ケア成分を含む油相と、水相と、カチオン性の閉鎖小胞体又はカチオン性のポリマー粒子とを含み、O/W型エマルション構造であることを特徴とする。本発明において、ヘアケア又は爪ケアとは、毛髪又は爪の保護を意味する。
【0014】
閉鎖小胞体又はポリマー粒子は、表面が親水性の粒子であり、ファンデルワールス力によって水相と油相との界面に介在することで、乳化状態を維持する。この乳化機構は、閉鎖小胞体又はポリマーによる三相乳化機構として公知であり、親水性部分及び疎水性部分をそれぞれ水相及び油相に向け、相間の界面張力を下げることで乳化状態を維持する界面活性剤(両親媒性物質)の乳化機構とは全く異なる。
【0015】
カチオン性の閉鎖小胞体又はポリマー粒子やカチオン性の界面活性剤は毛髪や爪への吸着作用を有する。従来の界面活性剤は、乳化作用を発現するためには油滴表面に配向する活性剤分子と、水相中にフリーで存在する活性剤分子とが一定割合で平衡状態になければならず、かつ、それらが互いに吸脱着をくりかえしている。したがって、フリー状態にある界面活性剤は、それが特にカチオン性であれば毛髪や爪に専ら吸着して奪われ、乳化能力が不足する傾向にある。また、カチオン性の閉鎖小胞体化していない両親媒性物質や粒子化していないカチオン性のポリマーは、毛髪等に吸着はするが、油性成分に対して前述した三相乳化作用は発現しない。これらに対し、本発明を構成するカチオン性の閉鎖小胞体又はカチオン性のポリマー粒子は三相乳化作用を発現し、水系において油性成分に対して安定したO/W型エマルションを形成することができる。因みに、三相乳化は界面活性剤分子による乳化と異なり、油水界面に閉鎖小胞体又はポリマー粒子が介在することで乳化状態が維持されるため、水相中に乳化に寄与しないフリーの閉鎖小胞体又はポリマー粒子が存在する必要はない。そして、吸着作用を有するカチオン性の閉鎖小胞体又はポリマー粒子が油相表面に付着した状態で一体となって毛髪や爪に吸着し、均一に覆うため、毛髪や爪からの内部成分の溶出を抑制する。これによって、本発明は毛髪や爪に対する高い保護力を得ることが可能である。
【0016】
また、カチオン性の閉鎖小胞体又はポリマー粒子やカチオン性の界面活性剤は、上述の通り、毛髪や爪への吸着作用を有する一方、その吸着により毛髪や爪に存在するケラチン等のタンパク質を変性し、刺激を与える。従来のカチオン性界面活性剤によると、上記のように水相に存在するフリーのカチオン性界面活性剤が皮膚に吸着するために刺激性が高い。また、閉鎖小胞体化していない両親媒性物質や粒子化されていないカチオン性ポリマーは、油性成分と独立して存在し、閉鎖小胞体又は粒子状でないことから被接触面との接触面積は広くなり、その分刺激性は高い。これらに対し、本発明を構成するカチオン性の閉鎖小胞体又はポリマー粒子は、粒子状であることから被接触面との接触面積は相対的に狭くなり、毛髪や爪に対する刺激はそれだけ少なくなると予想される。
【0017】
三相乳化作用を得るためには、ノニオン性の両親媒性物質の閉鎖小胞体を利用する場合、これにカチオン性界面活性剤を加え全体としてカチオン化させる方法を採用することができる。この場合は化学的作用によりカチオン化させていることになる。一方、カチオン性のポリマー粒子は、ポリマー分子を構成する部位にカチオン基等を持たせることになる。
【0018】
ヘアケア又は爪ケア成分は、特に限定されないが、例えば、イソノナン酸イソノニル、パルミチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、イソノナン酸トリイソデシル、ステアリン酸ステアリル、モノイソステアリン酸ジグリセリル、水添ジデセン、水添トリデセン、水添テトラデセン、水添ペンタデセン、ラウリル酸メチルヘプチル等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、必要に応じてこれら以外の油剤を使用してもよい。
【0019】
カチオン性の閉鎖小胞体又はポリマーの粒子は、乳化性能に極めて優れる。このため、化粧品におけるヘアケア又は爪ケア成分の量は、0.1〜95質量%の範囲から幅広く選択することができ、使用の目的等に応じて、適宜選択されてよい。
【0020】
カチオン性の閉鎖小胞体又はポリマーの粒子は、乳化性能に極めて優れる。このため、化粧品における水の量は、0.1〜95質量%の範囲から幅広く選択することができ、ヘアケア又は爪ケア成分の種類や量、使用の目的等に応じて、適宜選択されてよい。
【0021】
本発明において、カチオン性の閉鎖小胞体又はポリマーの粒子の他、使用の態様においては界面活性剤や乳化剤を併用して含むこともあるし、含まないこともある。しかし、カチオン性界面活性剤、カチオン性の閉鎖小胞体又はポリマーは、上述の通り、毛髪や爪に対して刺激性を有する。よって、カチオン性界面活性剤、カチオン性の閉鎖小胞体化していない両親媒性物質又は粒子化されてないカチオン性ポリマーを含むような場合は、より刺激を減らすという点からすれば、それらの化粧品に対する重量%は、5重量%以下が好ましく、3重量%以下がより好ましく、1重量%以下がさらに好ましく、含まないのが最も好ましい。
【0022】
本発明における両親媒性物質としては、下記の一般式1で表されるポリオキシエチレン硬化ひまし油の誘導体もしくは一般式2で表されるようなジアルキルアンモニウム誘導体、トリアルキルアンモニウム誘導体、テトラアルキルアンモニウム誘導体、ジアルケニルアンモニウム誘導体、トリアルケニルアンモニウム誘導体、又はテトラアルケニルアンモニウム誘導体のハロゲン塩の誘導体を採用するとよい。
【0024】
式中、エチレンオキシドの平均付加モル数であるEは、3〜100である。Eが過大になると、両親媒性物質を溶解する良溶媒の種類が制限されるため、親水性ナノ粒子の製造の自由度が狭まる。Eの上限は好ましくは50であり、より好ましくは40であり、Eの下限は好ましくは5である。
【0026】
式中、R1及びR2は、各々独立して炭素数8〜22のアルキル基又はアルケニル基であり、R3及びR4は、各々独立して水素又は炭素数1〜4のアルキル基であり、XはF、Cl、Br、I又はCH3COOである。
【0027】
あるいは、リン脂質やリン脂質誘導体等を採用してもよい。リン脂質としては、下記の一般式3で示される構成のうち、炭素鎖長12のDLPC(1,2−Dilauroyl−sn−glycero−3−phospho−rac−1−choline)、炭素鎖長14のDMPC(1,2−Dimyristoyl−sn−glycero−3−phospho−rac−1−choline)、炭素鎖長16のDPPC(1,2−Dipalmitoyl−sn−glycero−3−phospho−rac−1−choline)が採用可能である。
【0029】
また、下記の一般式4で示される構成のうち、炭素鎖長12のDLPG(1,2−Dilauroyl−sn−glycero−3−phospho−rac−1−glycerol)のNa塩又はNH4塩、炭素鎖長14のDMPG(1,2−Dimyristoyl−sn−glycero−3−phospho−rac−1−glycerol)のNa塩又はNH4塩、炭素鎖長16のDPPG(1,2−Dipalmitoyl−sn−glycero−3−phospho−rac−1−glycerol)のNa塩又はNH4塩を採用してもよい。
【0031】
これらをカチオン性界面活性剤等により処理することでカチオン化する。より具体的には以下のような方法が採用できる。
【0032】
両親媒性物質として公知のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(HCO−10)をカチオン界面活性剤(CTABセチルトリメチルアンモニウムブロマイド等)でカチオン化する場合、HCO−10と炭素数14以上の前記カチオン界面活性剤をモル分率XS=0.1以下になるように混合・攪拌した後、HCO−10が所定の濃度になるように蒸留水を加え攪拌することでカチオン化された閉鎖小胞体を得ることができる。カチオン界面活性剤をモル分率0.1以上添加しても、閉鎖小胞体のζ電位はそれ以上変化しないで、カチオン界面活性剤が閉鎖小胞体中に可溶化するだけでなく、水中に溶出する可能性があるので,モル分率0.1がもっともよいと考えられる。
【0033】
閉鎖小胞体を形成する物質をリン脂質に変えた時も、カチオン化閉鎖小胞体の調製方法は同様である。しかし,リン脂質の場合カチオン界面活性剤の可溶化に時間がかかることがあるので、下記の混合結晶を作成してから水に添加する方法をとるとよい。リン脂質にEthanol等の良溶媒を加えVortexで攪拌し、均一に溶解させる。一方でカチオン界面活性剤もまた同様にEthanol溶液を調製する。リン脂質/Ethanol溶液およびカチオン界面活性剤/Ethanol溶液をそれぞれ所定の混合組成になるように混合し、十分攪拌する。乾燥によりEthanolを完全に除去しリン脂質とカチオン界面活性剤の混合固体を作製する。次に、この混合結晶にリン脂質が所定の濃度となるように水を加え、分散することでカチオン化された閉鎖小胞体を得ることができる。
【0034】
また、カチオン性のポリマーは、特に限定されないが、例えば、グアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリド等のカチオン化グアーガム、ヒドロキシエチルセルロースヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドエーテル等のカチオン化セルロース等が挙げられる。なお、粒子とは、重縮合ポリマーが単粒子したもの、又はその単粒子同士が連なったもののいずれも包含する一方、単粒子化される前の凝集体(網目構造を有する)は包含しない。
【0035】
カチオン性の閉鎖小胞体又はポリマー粒子は、エマルション形成前では平均粒子径8nm〜800nm程度であるが、O/W型エマルション構造においては平均粒子径8nm〜500nm程度である。これらの調製方法は、特許第3855203号等に開示される通り、従来公知であるため、省略する。
【0036】
カチオン性の閉鎖小胞体又はポリマー粒子の量は、油相の量に応じて適宜設定されてよく、特に限定されないが、合計で0.0001〜5質量%であってよい。これにより、化粧品の使用前における乳化状態を良好に維持することができる。従来の界面活性剤と異なり、カチオン性の閉鎖小胞体又はポリマー粒子は優れた乳化特性を有するため、5質量%以下(具体的には、4質量%以下、3質量%以下、2質量%以下、1.0質量%以下、0.75質量%以下)という少量でも、毛髪又は爪に十分な保護力を与えることができる。このように、少量で化粧品に十分な保護力を与えるのは、過剰なカチオン性糖ポリマーによる毛髪や爪への刺激を抑制できるという点において好ましい。なお、上記量は、いずれも固形分含量である。
【0037】
ヘアケア又は爪ケア成分の特性を最大化するためには、塗布等の際の外力によりエマルション粒子が十分に壊れ、油相のヘアケア又は爪ケア成分が均一に塗布対象(毛髪、爪)に広がることが望ましい。油相の粒子径が小さすぎると、外力がエマルション粒子に十分に負荷せず、エマルション粒子を十分に壊すことが困難である。そこで、油相の平均粒子径が0.5μm以上であることが好ましく、より好ましくは0.7μm以上、最も好ましくは1.0μm以上である。これにより、塗布対象への広がり(使用感)が向上する。また、製造の容易さと上記効果とのバランスの観点から、油相の平均粒子径は、特に限定されないが、20μm以下、15μm以下、10μm以下であってよい。油相の平均粒子径は、乳化物の粘度が十分に低い(必要に応じ、希釈する)状態で、レーザー回折散乱式粒度分布計(島津製作所 SALD2100)により測定される。
【0038】
毛髪や爪に対する吸着性の指標として、O/W型エマルションのゼータ電位が用いられる。O/W型エマルションを形成する場合、保護効果を与えるためにある程度高いゼータ電位が求められる一方で、ゼータ電位が高すぎるとカチオン性物質による毛髪や爪への刺激性が高くなる。従来のカチオン性界面活性剤によると、その乳化作用を要するために多量のカチオン性界面活性剤が必要となり、その結果、吸着作用に求められるゼータ電位より高いゼータ電位となるため、毛髪や爪に対する刺激が強くなる。しかし、本発明によれば、少量のカチオン性の閉鎖小胞体又はポリマー粒子で安定したO/W型エマルションを形成することができる。そのため、従来のカチオン性界面活性剤よりもカチオン化度を抑えることができ、吸着作用を奏する程度のゼータ電位とすることができるので、毛髪や爪に対する刺激を抑えることができる。O/W型エマルションのゼータ電位は、刺激がより少ないという点において、50mV以下が好ましく、30mV以下がより好ましく、20mV以下が最も好ましい。
【0039】
なお、上記のゼータ電位は最終製品としての化粧品の状態での値を指すものではない。というのは最終製品においては〔表2〕のように、種々の成分が混入されており、それらのほとんどの物がアニオンであるため、製品状態でのゼータ電子は〔表2〕のようにアニオンになるからである。これらのアニオン成分は髪の表面には吸着しない(頭髪表面はアニオンである)。製品中では、アニオン粒子とカチオン粒子は共存しているが、凝集沈殿は起きておらず、安定分散している。
【0040】
すなわち、上記ゼータ電子の値は〔表1〕のように、油相としての流動パラフィンを水系で乳化してそのゼータ電位を計測して得られたものである。界面活性剤による乳化以外は閉鎖小胞体又はポリマー粒子を用いた界面活性作用に依らない、本発明に採用される乳化である。
【0042】
O/W型エマルションのゼータ電位は、ELS−Z(大塚電子(株)製)により測定する。
【0043】
ヘアケア用化粧品は、特に限定されないが、例えば、シャンプー、リンスインシャンプー、コンディショナー、トリートメント、育毛剤、ヘアスプレー、泡状スタイリング剤、ジェル状スタイリング剤、ヘアリキッド、ヘアトニック、ヘアジェル、ヘアカラー、ヘアクリーム、ブリーチ剤、パーマ剤等が挙げられる。爪ケア用化粧品は、特に限定されないが、例えば、マニキュア、ペディキュア等のネイルエナメル、ネイルコート、アンダーネイル、ネイルトップコート等が挙げられる。
【0044】
本発明の化粧品は、従来のヘアケア用又は爪ケア用化粧品に含まれるいずれの公知の成分を含んでもよい。例えば、香料、pH調整剤、保存剤、増粘剤、安定剤、着色剤、抗酸化剤、フレグランス等を含んでもよい。しかし、特にこれに限定されず、含まなくてもよい。
【0045】
化粧品は、カチオン性の閉鎖小胞体又はポリマー粒子を含む分散液と、ヘアケア又は爪ケア成分を含む油性成分とを混合してO/W型エマルションを形成することで調製することができる。水溶性の任意成分は、混合前の分散液に添加してもよく、混合後のエマルションに添加してもよい。
【0046】
なお、本発明の技術は、ヘアケア用又は爪ケア用化粧品以外の化粧品への応用も可能である。具体的な形態は、特に限定されないが、例えば、洗顔料、クレンジング、ボディソープ、ピーリング剤、サンスクリーン、ファンデーション等の化粧品であってもよく、液状、乳液、軟膏、クリーム、ゲル、エアゾール等の剤形であっても構わない。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0048】
<試験例1>
毛髪は水に浸漬するとそのキューティクルが開き、アミノ酸、タンパク質、脂質等が流出し、それによって、毛髪の傷み、乾燥、ツヤ低下、手触りの悪化等が生じる。ここで、毛髪が保護されている場合、キューティクルの開きを抑え、毛髪内部のタンパク質等が保持される。一方、毛髪を水へ浸漬した際に毛髪が保護されていない場合、毛髪内部のタンパク質等が流出することによって水の濁度(OD(公知のランベルト−ベールの法則による濁度))が上昇する。つまり、保護力がある場合、タンパク質等の流出が抑制されるので、保護力がない場合と比較して、濁度に変化はみられない。毛髪のこの性質を利用し、以下の方法によって毛髪保護効果の評価を行った。
【0049】
30ml保管瓶を準備し、表2の処方の実施例1、比較例1〜3の水溶液をそれぞれ別の保管瓶に10ml加えた。なお、その組成成分は標準的なヘアケア化粧品を構成するものを採用した。それぞれの水溶液を加えた保管瓶をそれぞれ2本ずつ準備し、一方にのみ毛髪1束(人毛1.0g)をいれ、他方には毛髪をいれないようにした。これらを、40℃にて24時間静置し、24時間後、それぞれの毛髪からの内部成分溶出量を濁度(OD
600:波長600nmの光で検出した濁度)として測定した。その結果を表3に示す。なお、O/W型エマルションのゼータ電位は、ELS−Z(大塚電子(株)製)により測定した。
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
毛髪あり(A)と毛髪なし(B)の濁度の差(B)−(A)がマイナス値であるのは毛髪内部成分の溶出を示唆し、処方の保護力が低いことを意味する。比較例1は、比較例3(精製水)に比べ、変化率は低いものの、マイナス値であった。また、比較例2は、毛髪あり(A)と毛髪なし(B)とで差がなかった。これらに対し、実施例1は、(B)−(A)がプラス値であったことが確認された。
【0053】
この結果より、比較例1(カチオン性界面活性剤を使用)においては、比較例3(精製水)と比較すると多少の毛髪保護効果はあっても不十分であったと考えられる。また、比較例2(粒子化されていないカチオン性のポリマーを使用)においては、毛髪内部成分の溶出を防ぐか、又は溶出量と処方中のコンディショニング成分の吸着量が同程度であったと考えられる。これらに対し、実施例1(カチオン性のポリマー粒子を使用)は、三相乳化作用とカチオン性ポリマーの吸着作用によって、カチオン性ポリマーの粒子とコンディショニング成分を含む油相が一体となって毛髪や爪に均一に吸着して全体をコートし、毛髪保護効果を発揮することで、毛髪から内部成分が溶出するのを抑制した結果、毛髪あり(A)と毛髪なし(B)の濁度の差(B)―(A)がプラスになったと考えられる。
【0054】
<試験例2>
試験例1において40℃で24時間保持した後の実施例1、比較例1〜3の毛髪を用いて、毛髪に対する保護成分の吸着量の評価を行った。毛髪は水に浸漬するとキューティクルが開き、毛髪内部成分や外部からの浸透・補給成分が溶出する。この性質を利用して、具体的には、毛束を流水で濯ぎ、ドライヤーで乾燥することで毛髪表面に付着した処方成分を除去した後、10mlの精製水に40℃、24時間浸漬した。その後、それぞれの毛髪からの内部成分溶出量を濁度(OD
600)として測定した。その結果を表4に示す。本試験例2は、保護成分の吸着が多いものほど、長時間にわたって毛髪キューティクルの膨潤を防いで毛髪からのタンパク質の溶出を防止できることを確認するものである。すなわち、本試験例2では先の試験例1で溶出し得なかったタンパク質を、さらに過酷な条件を付すことにより強制的に溶出させる試験として位置づけられる。なお、試験例1の結果から、毛髪内部成分の大部分が溶出した場合の濁度変化は0.01オーダーであるため、0.1オーダー以上のプラス値は外部からの浸透・補給、つまり保護成分の吸着を示すものと考えられる。
【0055】
【表4】
【0056】
この結果より、実施例1は比較例1より保護成分が吸着していたことが確認された。このことより、カチオン性のポリマー粒子によって乳化されたヘアケア用成分は、カチオン性界面活性剤によって乳化されたヘアケア用成分と比較して、毛髪に対する保護力及び吸着性において優れていることが示唆された。また、実施例1と比較例2は、吸着量が同程度であることが示唆された。ただし、試験例1において実施例1は比較例2よりも保護効果において優位であったことから、比較例2において乳化はされていないカチオン性ポリマーやヘアケア成分が部分的に吸着し、保護作用が十分に発揮されなかったからだと考えられる。カチオン性のポリマーによってヘアケア用成分が毛髪の一部に吸着し、さらに、タンパク質の溶出量が、実施例1と比較して多かったからだと考えられる。
【0057】
<試験例3>
人体でのタンパク変性は、毛髪、皮膚、爪等の障害(肌荒れ、湿疹、毛髪のパサツキ等)を引き起こす原因である。そこで、人体を卵白に置き換え、カチオン性ポリマーやカチオン性界面活性剤が卵白中のタンパク質に及ぼす作用を調査し、人体への危険性を予測するために、以下の手法でタンパク質変性評価試験を行った。試験の試料として、表2の実施例1、比較例1及び比較例2に加え、カチオン性のポリマー及びカチオン性界面活性剤が含まれてない以外、実施例1、比較例1及び2と同様の処方のもの(比較例4)をコントロールとして用いて評価を行った。
【0058】
実施例1、比較例1、比較例2及び比較例4のそれぞれの水溶液5gと、卵白5gとを混合し、室温で1時間保持した。その後、200gで10分間遠心分離し、生じた固形物質の内、処方中の油分を上方に、変性タンパク質量を、下方沈殿として分離し、沈殿度合いを遠沈管中の沈殿の短・長辺の目視確認にて数値化し、比較例4を基準に算出した。その結果を表5に示す。
【0059】
【表5】
【0060】
実施例1においては、比較例1や比較例2と比べ、タンパク質の変性が少なかったことから、毛髪や皮膚、爪等への刺激性が低いことが推察された。比較例1や比較例2は、遊離のカチオン性ポリマーやカチオン性界面活性剤がタンパク質を変性した結果であり、皮膚への吸着による刺激性が推察された。これらに対し、実施例1は、カチオン性ポリマー粒子の多くが三相乳化により油相に付着して安定化した結果、毛髪や爪に対する刺激が低くなったものであると考えられる。