【実施例1】
【0011】
実施例1においては、半導体チップの一例として半導体レーザについて説明する。
図1は、実施例1に係る半導体レーザ100の全体構成を示す模式的断面図である。
図1に示すように、半導体レーザ100は、SG−DFB(Sampled Grating Distributed Feedback)領域Aと、CSG−DBR(Chirped Sampled Grating Distributed Bragg Reflector)領域Bと、SOA(Semiconductor Optical Amplifier)領域Cと、光吸収領域Dと、反射防止膜ARと、反射膜HRとを備える。
【0012】
一例として、半導体レーザ100において、フロント側からリア側にかけて、反射防止膜AR、SOA領域C、SG−DFB領域A、CSG−DBR領域B、光吸収領域D、反射膜HRがこの順に配置されている。SG−DFB領域Aは、利得を有しサンプルドグレーティングを備える。CSG−DBR領域Bは、利得を有さずにサンプルドグレーティングを備える。SOA領域Cは、光増幅器として機能する。
【0013】
SG−DFB領域Aは、基板1上に、下クラッド層2、導波路3、上クラッド層4、およびコンタクト層5が積層された構造を有する。導波路3は、光伝搬方向において利得領域31と屈折率可変領域32とが交互に形成された構造を有する。コンタクト層5は、利得領域31と屈折率可変領域32との界面の上方でそれぞれ分離されている。コンタクト層5において、分離された箇所には絶縁膜が形成されている。利得領域31の上方のコンタクト層5上には、利得制御用電極7が形成されている。屈折率可変領域32の上方のコンタクト層5上には、屈折率調整用電極8が形成されている。
【0014】
CSG−DBR領域Bは、基板上1に、下クラッド層2、光導波層19、上クラッド層4、絶縁膜6、および複数のヒータ20が積層された構造を有する。ヒータ20のそれぞれには、電源電極21およびグランド電極22が設けられている。なお、ヒータ20の詳細は後述する。SOA領域Cは、基板1上に、下クラッド層2、光増幅層16、上クラッド層4、コンタクト層17、および電極18が積層された構造を有する。光吸収領域Dは、基板1上に、下クラッド層2、光吸収層13、上クラッド層4、コンタクト層14、および電極15が積層された構造を有する。端面膜11は、AR(Anti Reflection)膜からなる。反射膜12は、HR(High Reflection)膜からなる。
【0015】
SG−DFB領域A、CSG−DBR領域B、SOA領域Cおよび光吸収領域Dにおいて、基板1、下クラッド層2、および上クラッド層4は、一体的に形成されている。導波路3、光導波層19、光吸収層13および光増幅層16は、同一面上に形成されている。SG−DFB領域AとCSG−DBR領域Bとの境界は、導波路3と光導波層19との境界と対応している。
【0016】
基板1、下クラッド層2、光増幅層16および上クラッド層4のSOA領域C側の端面には、端面膜11が形成されている。本実施例では、端面膜11はAR(Anti Reflection)膜である。端面膜11は、半導体レーザ100のフロント側端面として機能する。基板1、下クラッド層2、光吸収層13、および上クラッド層4の光吸収領域D側の端面には、反射膜12が形成されている。反射膜12は、半導体レーザ100のリア側端面として機能する。
【0017】
基板1は、例えば、n型InPからなる結晶基板である。下クラッド層2はn型、上クラッド層4はp型であり、それぞれ例えばInPによって構成される。下クラッド層2および上クラッド層4は、導波路3、光導波層19、光吸収層13および光増幅層16を上下で光閉込めしている。
【0018】
導波路3の利得領域31は、例えば量子井戸構造を有しており、例えばGa
0.32In
0.68As
0.92P
0.08(厚さ5nm)からなる井戸層と、Ga
0.22In
0.78As
0.47P
0.53(厚さ10nm)からなる障壁層が交互に積層された構造を有する。導波路3の屈折率可変領域32は、例えばGa
0.28In
0.72As
0.61P
0.39結晶からなる導波層である。光導波層19は、例えばバルク半導体層で構成することができ、例えばGa
0.22In
0.78As
0.47P
0.53によって構成することができる。本実施例においては、光導波層19は、利得領域31よりも大きいエネルギギャップを有する。
【0019】
光吸収層13は、半導体レーザ100の発振波長に対して、吸収特性を有する材料が選択される。光吸収層13としては、その吸収端波長が例えば半導体レーザ100の発振波長に対して長波長側に位置する材料を選択することができる。なお、半導体レーザ100の発振波長のうち、もっとも長い発振波長よりも吸収端波長が長波長側に位置していることが好ましい。
【0020】
光吸収層13は、例えば、量子井戸構造で構成することが可能であり、例えばGa
0.47In
0.53As(厚さ5nm)の井戸層とGa
0.28In
0.72As
0.61P
0.39(厚さ10nm)の障壁層が交互に積層された構造を有する。また、光吸収層13はバルク半導体であってよく、例えばGa
0.46In
0.54As
0.98P
0.02からなる材料を選択することもできる。なお、光吸収層13は、利得領域31と同じ材料で構成してもよく、その場合は、利得領域31と光吸収層13とを同一工程で作製することができるから、製造工程が簡素化される。
【0021】
光増幅層16は、電極18からの電流注入によって利得が与えられ、それによって光増幅をなす領域である。光増幅層16は、例えば量子井戸構造で構成することができ、例えばGa
0.35In
0.65As
0.99P
0.01(厚さ5nm)の井戸層とGa
0.15In
0.85As
0.32P
0.68(厚さ10nm)の障壁層が交互に積層された構造とすることができる。また、他の構造として、例えばGa
0.44In
0.56As
0.95P
0.05からなるバルク半導体を採用することもできる。なお、光増幅層16と利得領域31とを同じ材料で構成することもできる。この場合、光増幅層16と利得領域31とを同一工程で作製することができるため、製造工程が簡素化される。
【0022】
コンタクト層5,14,17は、例えばp型Ga
0.47In
0.53As結晶によって構成することができる。絶縁膜6は、窒化シリコン(SiN),酸化シリコン(SiO
2)等の絶縁体からなる保護膜である。ヒータ20は、チタンタングステン(TiW)あるいはニッケルクロム(NiCr)等で構成された薄膜抵抗体である。ヒータ20のそれぞれは、CSG−DBR領域Bの複数のセグメントにまたがって形成されている。セグメントの詳細については後述する。
【0023】
利得制御用電極7、屈折率調整用電極8、電極15,18、電源電極21およびグランド電極22は、金等の導電性材料からなる。基板1の下部には、裏面電極10が形成されている。裏面電極10は、SG−DFB領域A、CSG−DBR領域B、SOA領域C,および光吸収領域Dにまたがって形成されている。
【0024】
端面膜11は、1.0%以下の反射率を有するAR膜であり、実質的にその端面が無反射となる特性を有する。AR膜は、例えばMgF
2およびTiONからなる誘電体膜で構成することができる。反射膜12は、10%以上(一例として20%)の反射率を有するHR膜であり、反射膜12から外部に漏洩する光出力を抑制することができる。例えばSiO
2とTiONとを交互に3周期積層した多層膜で構成することができる。なお、ここで反射率とは、半導体レーザ内部に対する反射率を指す。反射膜12が10%以上の反射率を有しているので、外部からリア側端面に入射する迷光に対してもその侵入が抑制される。また、リア側端面から半導体レーザ100に侵入した迷光は、光吸収層13で光吸収される。それにより、半導体レーザ100の共振器部分、すなわち、SG−DFB領域AおよびCSG−DBR領域Bへの迷光の到達が抑制される。
【0025】
回折格子(コルゲーション)9は、SG−DFB領域AおよびCSG−DBR領域Bの下クラッド層2に所定の間隔を空けて複数箇所に形成されている。それにより、SG−DFB領域AおよびCSG−DBR領域Bにサンプルドグレーティングが形成される。SG−DFB領域Aにおいては、回折格子9は、下クラッド層2において、利得領域31下と屈折率可変領域32下とにそれぞれ形成されている。
【0026】
SG−DFB領域AおよびCSG−DBR領域Bにおいて、下クラッド層2に複数のセグメントが設けられている。ここでセグメントとは、回折格子9が設けられている回折格子部と回折格子9が設けられていないスペース部とが1つずつ連続する領域のことをいう。すなわち、セグメントとは、両端が回折格子部によって挟まれたスペース部と回折格子部とが連結された領域のことをいう。回折格子9は、下クラッド層2とは異なる屈折率の材料で構成されている。下クラッド層2がInPの場合、回折格子を構成する材料として、例えばGa
0.22In
0.78As
0.47P
0.53を用いることができる。
【0027】
回折格子9は、2光束干渉露光法を使用したパターニングにより形成することができる。回折格子9の間に位置するスペース部は、回折格子9のパターンをレジストに露光した後、スペース部に相当する位置に再度露光を施すことで実現できる。SG−DFB領域Aにおける回折格子9のピッチと、CSG−DBR領域Bにおける回折格子9のピッチとは、同一でもよく、異なっていてもよい。本実施例においては、一例として、両ピッチは同一に設定してある。また、各セグメントにおいて、回折格子9は同じ長さを有していてもよく、異なる長さを有していてもよい。また、SG−DFB領域Aの各回折格子9が同じ長さを有し、CSG−DBR領域Bの各回折格子9が同じ長さを有し、SG−DFB領域AとCSG−DBR領域Bとで回折格子9の長さが異なっていてもよい。
【0028】
続いて、半導体レーザ100の動作について説明する。まず、図示しない温度制御装置により、半導体レーザ100の温度を所定値に設定する。次に、利得制御用電極7に所定の駆動電流を注入するとともに、屈折率調整用電極8に所定の電気信号を入力する。それにより、屈折率可変領域32の等価屈折率が所定の値に調整される。その結果、SG−DFB領域Aにおいては、ピーク強度が所定の波長間隔を有する離散的な利得スペクトルが生成される。一方、電源電極21には、所定の駆動電流が供給される。それにより、各ヒータ20がCSG−DBR領域Bの光導波層19の等価屈折率が所定の値に調整される。その結果、CSG−DBR領域Bにおいては、ピーク強度が所定の波長間隔を有する離散的な反射スペクトルが生成される。利得スペクトルおよび反射スペクトルの組み合わせにより、バーニア効果を利用して、所望の波長で安定してレーザ発振させることができる。
【0029】
図2(a)は、本実施例におけるCSG−DBR領域Bの一部拡大図である。
図2(a)に示すように、ヒータは回折格子が設けられた光導波路に対応して設けられることが典型的である。別の典型例では回折格子が設けられた利得部(一般にはレーザ活性層に対応する領域)に対応して設けられる場合もある。
図2(b)は、
図2(a)の上面図である。
図1では図示が省略されていたが、
図2(a)に示すように、ヒータ20の表面には、ヒータ20を構成する薄膜抵抗体の表面を保護する絶縁膜40が設けられている。
【0030】
ヒータ20は、絶縁膜6と絶縁膜40とによって挟まれている。ヒータ20が形成されていない領域では、絶縁膜40は、絶縁膜6上に形成されている。ヒータ20と接続される電源電極21およびグランド電極22は、絶縁膜40上にも延在している。典型的には、電源電極21とグランド電極22は断面略T字の形状を有している。ところで、ヒータ20を構成する薄膜抵抗体のうち、電源電極21あるいはグランド電極22との接触部分の近傍には電流の集中する部位ができやすい。しかも、この部位に対応する絶縁膜40の上には電源電極21あるいはグランド電極21が延在していることから、電源電極21あるいはグランド電極22によって生じる応力が印加されている。このように電流集中と応力印加により、薄膜抵抗体のうち、電源電極21あるいはグランド電極22との接触部分の近傍は、他の部分に比べてヒータ20の信頼性が低下する要因が大きい。
【0031】
そこで、本実施例においては、電源電極21およびグランド電極22の近傍における応力緩和の構成を設ける。具体的には、絶縁膜6の厚さをd1とし、電源電極21下およびグランド電極22下の絶縁膜40の厚さをd2とした場合に、厚さd2を厚さd1よりも大きくする。これにより、絶縁膜40上に延在した、電源電極21あるいはグランド電極22からヒータ20に印加される応力が緩和される。その結果、ヒータ20の信頼性の低下が抑制される。なお、一例として、厚さd1は、2000Åであり、厚さd2は、4000Å〜6000Å程度である。厚さd2は、厚さd1の2倍以上、さらには3倍以上であることが好ましい。
【0032】
なお、絶縁膜6,40の材料は、窒化シリコンを用いることが好ましい。絶縁膜6,40に酸素が含まれず、ヒータ20の劣化が抑制されるからである。
【実施例4】
【0035】
図5(a)は、実施例4に係るヒータ20周辺の拡大図である。
図5(b)は、
図5(a)の上面図である。
図5(a)に示すように、実施例3と異なる点は、絶縁膜40が、2層の絶縁膜41,42によって構成されている点である。これら絶縁膜41,42は、異なる成膜工程を経て形成されている。すなわち一旦成膜温度まで昇温した後、常温にまで降温する工程が介在する。これにより、絶縁膜40を一度に全部の厚さだけ成長するよりも、熱履歴が介在する分、ヒータ20に対する応力の抑制が期待できる。これは、電源電極21およびグランド電極22が延在する部分の絶縁膜40の厚みを本発明により大きくしたことによる、ヒータ20上のとりわけ電源電極21およびグランド電極22が延在しない部分における応力対策として有効である。
【0036】
図6(a)〜
図8(b)は、
図5(a)の構成の製造プロセスを表す図である。まず、
図6(a)に示すように、基板1上に、下クラッド層2、光導波層19、上クラッド層4、絶縁膜6を形成する。その後、絶縁膜6上にヒータ20を形成し、パターニングによってヒータ20を所望の形状にする。次に、
図6(b)に示すように、ヒータ20および絶縁膜6の露出部分が覆われるように、絶縁膜41を形成する。絶縁膜41の形成後、徐冷して常温に戻す。必要があれば、チャンバから半導体チップを取り出す。チャンバから取り出す場合には、半導体チップを洗浄してもよい。なお、絶縁膜41の厚さは、2000Å程度である。
【0037】
次に、
図7(a)に示すように、絶縁膜41上に絶縁膜42を形成する。絶縁膜42の厚さは、絶縁膜41の厚さよりも大きいことが好ましい。例えば、絶縁膜42の厚さは、6000Å程度である。次に、
図7(b)に示すように、電源電極21およびグランド電極22を設ける箇所において、エッチングにより絶縁膜41および絶縁膜42に窓を形成する。
【0038】
次に、
図8(a)に示すように、
図7(b)で形成された窓に、メッキにより電源電極21およびグランド電極22を形成する。メッキにより電源電極21およびグランド電極22を形成することから、電源電極21およびグランド電極22は、絶縁膜41,42の窓よりも広がって形成される。それにより、電源電極21およびグランド電極22は、断面略T字状となる。次に、
図8(b)に示すように、電源電極21およびグランド電極22をエッチングマスクとして用いて、ドライエッチングを行う。それにより、電源電極21とグランド電極22との間における絶縁膜42の厚さが低減される。以上の工程により、製造プロセスが完結する。
【0039】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。