【解決手段】関節関連の抗原(例えば、II型コラーゲン、HCgp39、およびHSPのうちから選択される関節関連の抗原)に向けられる少なくとも1つのヒトTr1細胞集団を含有する組成物であって、前記関節関連の抗原がHSP、ケラチン、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ、トポイソメラーゼI、カルジオリピン、またはIV型コラーゲンではないことを条件とする組成物。
関節関連の抗原に向けられる少なくとも1つのヒトTr1細胞集団を含有する組成物であって、前記関節関連の抗原がHSP、ケラチン、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ、トポイソメラーゼI、カルジオリピン、またはIV型コラーゲンではないことを条件とする、組成物。
前記関節関連の抗原が、シトルリンに置換した環状および直鎖状のフィラグリンペプチド、II型コラーゲンペプチド、ヒト軟骨糖タンパク質39(HCgp39)ペプチド、ヘテロ核リボヌクレオタンパク質(hnRNP)A2ペプチド、hnRNP B1、hnRNP D、Ro60/52、BiP、ビメンチン、フィブリノゲン、I、IIIおよびV型コラーゲンのペプチド、アネキシンV、グルコース6リン酸イソメラーゼ(GPI)、アセチル−カルパスタチン、アルドラーゼ、snRNP、PARP、Scl−70、Scl−100、陰イオン性ホスファチジルセリン、中性に荷電したホスファチジルエタノールアミン、およびホスファチジルコリンを含むリン脂質抗原、マトリックスメタロプロテアーゼ、フィブリン、アグリカン、並びにそれらの断片、変異体、および混合物を含む群から選択される、請求項1または請求項2のいずれかに記載の組成物。
前記ヒトTr1細胞集団が、シトルリンに置換した環状および直鎖状のフィラグリンペプチド、II型コラーゲンペプチド、ヒト軟骨糖タンパク質39(HCgp39)ペプチド、HSP、ヘテロ核リボヌクレオタンパク質(hnRNP)A2ペプチド、hnRNP B1、hnRNP D、Ro60/52、BiP、ケラチン、ビメンチン、フィブリノゲン、カルジオリピン、I、III、IVおよびV型コラーゲンのペプチド、アネキシンV、グルコース6リン酸イソメラーゼ(GPI)、アセチル−カルパスタチン、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(PDH)、アルドラーゼ、トポイソメラーゼI、snRNP、PARP、Scl−70、Scl−100、陰イオン性ホスファチジルセリン、中性に荷電したホスファチジルエタノールアミン、およびホスファチジルコリンを含むリン脂質抗原、マトリックスメタロプロテアーゼ、フィブリン、アグリカン、並びにそれらの断片、変異体、および混合物のうちから選択される関節関連の抗原に向けられる、請求項8に記載の薬剤または医薬組成物。
前記ヒトTr1細胞集団が、II型コラーゲン、HCgp39、およびHSPのうちから選択される関節関連の抗原に向けられる、請求項8に記載の薬剤または医薬組成物。
その必要がある対象に投与する薬剤または医薬組成物が、前記対象の細胞に自己由来するヒトTr1細胞を含有する、請求項11または12に記載の薬剤または医薬組成物。
有効量の本発明の薬剤または医薬組成物を前記対象に投与することが、関節炎の病態を治療するために使用される1つ以上の治療薬と組み合わせられている、請求項11乃至請求項14のいずれか一項に記載の薬剤または医薬組成物。
有効量の本発明の薬剤または医薬組成物を前記対象に投与することが、コルチコイド、抗TNF、抗インターロイキン、抗Bリンパ球、抗−共刺激分子、免疫寛容薬、抗補体タンパク質、T細胞シグナル伝達分子の阻害剤、細胞遊走の阻害薬、メトトレキサート、レフルノミド、スルファサラジン、ヒドロキシクロロキン、アザチオプリン、メトトレキサート、シクロスポリン、ミノサイクリン、D―ペニシラミンの群から選択される1つ以上の治療薬と組み合わせられている、請求項15に記載の薬剤または医薬組成物。
前記対象が、コルチコイド、抗TNF、抗インターロイキン、抗Bリンパ球、抗−共刺激分子、免疫寛容薬、抗補体タンパク質、T細胞シグナル伝達分子の阻害剤、細胞遊走の阻害薬、メトトレキサート、レフルノミド、スルファサラジン、ヒドロキシクロロキン、アザチオプリン、メトトレキサート、シクロスポリン、ミノサイクリン、D―ペニシラミンの群における1つ以上の治療薬に十分に反応しないか、または十分に反応しないと見込まれる請求項11乃至請求項14のいずれか一項に記載の薬剤または医薬組成物。
【背景技術】
【0002】
およそ4600万人のアメリカ人および1億人のヨーロッパ人が関節炎に侵されており、その数は年々増加すると予想されている。
【0003】
関節リウマチ(RA)は、炎症性サイトカイン、例えば腫瘍壊死因子α(TNFα)、インターロイキン1(IL-1)の過剰産生と、抗炎症性サイトカイン、例えばIL−10、IL−11の不足とを引き起こす免疫システムのアンバランスさに特徴付けられる。RAは、軟骨組織の破壊、骨びらん、それに続く関節の変形を進行させる滑膜炎に特徴付けられる。RAの初期症状は、関節の炎症、腫脹、移動困難、および痛みである。炎症過程においては、多形核細胞、マクロファージ、およびリンパ球が関与する。マクロファージがプロスタグランジンおよび細胞毒素の放出を刺激する一方、活性化されたTリンパ球は細胞毒素および炎症性サイトカインを産生する。血管作用性物質(ヒスタミン、キニン、およびプロスタグランジン)が炎症部位に放出され、炎症した関節に伴って浮腫、温感、紅斑、および痛みを引き起こす。RAの末期では、炎症細胞により産生された酵素が骨および軟骨組織を消化させ得る。長期間におよぶ損傷は、結果として慢性疼痛、機能損失、変形、関節の能力障害を生じさせ、平均余命の短縮さえ生じさせる。世界中のRAの羅患率は、常に総人口の1.0%である。
【0004】
若年性関節リウマチ(JRA)として以前から知られている若年性特発性関節炎(JIA)は、小児における持続性関節炎の最も一般的な種類である。JIAは時に若年性慢性関節炎(JCA)と呼ばれることもあるが、この用語はJIAとしては的確ではなく、慢性の小児期の関節炎の全ての種類を包含しているわけではない。JIAは、16歳未満の子供に6週間以上にわたり関節の炎症および硬直を引き起こす関節炎である。JIAの3つの主な種類は、少関節型JIA、多関節型JIA、および全身型JIAである。少関節型(または小関節型)JIAは、疾患の最初の6ヶ月間に5以下の関節を侵す。多関節型JIAは、疾患の最初の6ヶ月間に5以上の関節を侵す。この亜型は、首および下顎の侵襲を含み得るとともに、小関節が大抵侵される。全身型JIA(スチル病)は、関節炎、発熱、およびサーモンピンクの発疹に特徴付けられる。全身型JIAは、発熱および発疹が現れたり消えたりするため、診断が困難であり得る。全身型JIAは、内臓器官の合併症があるかもしれず、漿膜炎(例えば心膜炎)に至るかもしれない。
【0005】
強直性脊椎炎(AS;ベヒテレフ病/ベヒテレフ症候群/マリー・シュトリュンペル病/マリー・シュトリュンペル病/脊椎関節炎としても知られる)は、まず脊椎および仙腸関節を侵し、最終的に脊椎の融着を引き起こす慢性、有痛性、変性、炎症性の関節炎であり、遺伝的素因の可能性がある自己免疫性脊椎関節症の群の一員である。完全に融着すると、竹様脊柱として知られる脊椎の完全な強直の状態に至る。
【0006】
乾癬性関節炎(関節性乾癬または乾癬性関節症でもある)は炎症性関節炎の一種であり、およそ5〜7%の人々が侵されて慢性的に皮膚病態の乾癬を被る。乾癬性関節炎の治療は、関節リウマチの治療と類似する。乾癬性関節炎を伴った患者のうち80%を上回る患者は、爪の凹窩に特徴付けられる乾癬性の爪病変、または、より極端には爪それ自体の損失(爪甲剥離症)を有する。
【0007】
関節炎の病態の最近の治療のほとんどは、滑膜の細胞増殖および軟骨びらんを促進すると想定される免疫異常の修正を目的とする。関節炎の現在の治療は、例えばアスピリン、イブプロフェン、ナプロキセンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)として分類される、痛みおよび炎症の制御のための第一選択薬を含む。第二の治療はコルチコステロイド、並びに疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)、例えばペニシリナミン、シクロホスファミド、金塩、アザチオプリン、レバミソール、メトトレキサート、レフルノミド、シクロスポリン、エタネルセプト、およびスルファサラジンなどを含む。
【0008】
痛みの制御は、関節炎を治療するのに重要な部分である。鎮痛薬は、一時的な鎮痛を提供するにすぎない。それらは、炎症の低減も疾患の進行遅延もしない。アセトアミノフェン(タイレノール)が最も一般的に使用される鎮痛薬である。より激痛用には、麻薬性鎮痛薬も処方され得る。
【0009】
コルチコステロイドは、副腎皮質で産生されるホルモンであるコルチゾールと密接に関係する。コルチコステロイドを用いた関節リウマチの治療は、利益/不利益の得失評価の点で問題となる。コルチコステロイドは、腫脹および炎症を迅速に低減するその能力ゆえに、非常に強力な薬としてみなされている。しかし、コルチコステロイドは、潜在的に深刻で持続性の副作用を引き起こし得ることがよく知られている。それゆえ、それらは、時間とともに徐々に用量を減らすか、または漸減させながら、常に可能な限り短い期間にわたり、可能な限り最小有効量で、軽減のために全身的または特定の関節内に局所的に、特定の状況下においてのみ使用される。
【0010】
NSAIDは、コルチコステロイドと区別される。NSAIDは低用量では痛みを低減させ、高用量では炎症を軽減させる。ほとんどのNSAIDは、酵素シクロオキシゲナーゼの阻害剤であり、非選択的にシクロオキシゲナーゼ−1(COX−1)およびシクロオキシゲナーゼ−2(COX−2)の両方を阻害する。シクロオキシゲナーゼは、アラキドン酸由来のプロスタグランジンおよびトロンボキサンの形成を触媒する律速酵素である。とりわけ、プロスタグランジンは、炎症過程においてメッセンジャー分子として機能する。COX−1は、多くの正常な生理的過程を調節する「ハウスキーピング」の役割を伴って恒常的に発現する酵素である。NSAIDの有害作用は主に、プロスタグランジンが保護的役割を果たす腎臓および消化管におけるそれらのCOX−1阻害に関連する。COX−2は、ほとんどの組織で発現率が低いか、または発現が検出できない酵素であるが、サイトカイン、増殖因子、腫瘍プロモータによる細胞活性化に反応して直ちに誘発され得る。NSAIDの治療効果は、COX−2の阻害に起因する。選択的なCOX−2阻害薬であるコキシブ(セレコキシブ、ロフェコキシブ、バルデコキシブ、パレコキシブ、エトリコキシブ)は、胃保護のプロスタグランジンを乱すことなく抗炎症作用を有すると考えられたが、臨床適用において心血管リスクの増加が認められ、その結果いくつかのコキシブ(ロフェコキシブおよびバルデコキシブ)が世界中で使用中止となった。
【0011】
NSAIDが日常的な炎症を減少させる一方で、より強力な医薬であるDMARDは、通常、炎症性関節炎に起因する複数の関節における持続性の炎症を伴う患者に、6週間以上にわたって必要とされる。DMARDは、持続性の炎症を助ける原動力である生物学的過程を減速させる。DMARDは、遅効性の抗リウマチ薬である。最速効性のDMARDはメトトレキサートであり、これは利益が認められるまでに通常は4〜6週間かかる。残りのDMARDは、効果が得られるまでに3〜6ヶ月、または一層長い期間でさえかかり得る。DMARDは免疫システムを抑制するので、長期間の使用によって重篤な有害作用が生じ得る。単一薬剤として、または他のDMARDと組み合わせるかのいずれかとして、メトトレキサートがRAのための有効な治療法として登場した。メトトレキサートの毒性プロファイルは十分に確立されており、重篤かつ時には致死的である、肝臓病、間質性肺炎、および血球減少を含む。
【0012】
近年のRA治療における最も興奮する進歩は、生物学的DMARDの開発である。RAの病理発生におけるTNF−αの鍵的な役割の解明により、このサイトカインの活性を遮蔽する標的治療法の開発に至った。抗TNF治療に加え、特に免疫関連疾患の過程に関与する分子(IL−1)または細胞(B細胞およびT細胞)に対する、他のいくつもの生物学的DMARDが開発されてきた。従来のDMARDを上回る生物学的DMARDの潜在的な利点は、病理発生に非常に関与する標的分子の高度に特異的な遮蔽、臨床行為の即時開始、最小化された非特異的毒性、長い投与間隔(毎週皮下に投与するか、または毎月静脈内に投与する)、長期にわたる免疫調節効果の可能性、および改善された生活の質を含む。関節炎に使用される生物学的DMARDは、炎症性サイトカインを遮蔽し、B細胞を特異的に枯渇させ、T細胞の活性化を選択的に阻害するものを含む。
【0013】
広範な薬剤が利用可能であるが、炎症性関節炎のための成功する治療法は、未だに大きなアンメット・メディカル・ニーズである。生物学的DMARDは、この疾患を減速させるか、または止めさえする最も有望なルートを提供するものの、患者の一部に対してしか機能しない。最も有効な抗TNF治療でさえ、RA患者の少なくとも3分の1が反応しない。
【0014】
本発明では、出願人は、関節関連の抗原に向けられるTr1細胞の使用に基づいた関節炎のための、代替的治療法の提供を目的とする。
【発明を実施するための形態】
【0039】
定義
本明細書で使用される「Tr1細胞」という用語は、静止状態(at rest)でCD4+CD25−FoxP3−の表現型を有し、活性化されると高レベルのIL−10および有意なレベルのTGF−βを分泌できる細胞を言う。Tr1細胞は、独特なサイトカインプロファイルにより一部特徴付けられる。これらは、高レベルのIL−10、有意なレベルのTGF−β、および中間レベルのIFN−γを産生するが、IL−4またはIL−2はほとんど、もしくは全く産生しない。サイトカイン産生は典型的に、抗CD3+抗CD28抗体またはインターロイキン2、PMA+イオノマイシンのような、Tリンパ球のポリクローナル活性化因子を用いて活性化した後の細胞の培養物において評価される。代替的に、サイトカイン産生は、抗原提示細胞により提示される特異的T細胞抗原を用いて活性化した後の細胞の培養物において評価される。高レベルのIL−10とは、少なくとも約500pg/ml、典型的には約1000、2000、4000、6000、8000、1万、1万2000、1万4000、1万6000、1万8000、もしくは2万pg/ml、またはそれを上回る量に相当する。有意なレベルのTGF−βとは、少なくとも約100pg/ml、典型的には約200、300、400、600、800、もしくは1000pg/ml、またはそれを上回る量に相当する。中間レベルのIFN−γとは、0pg/ml〜少なくとも400pg/mlの間、典型的には約600、800、1000、1200、1400、1600、1800、もしくは2000pg/mlまたはそれを上回る量を含む濃度に相当する。IL−4またはIL−2がほとんど、もしくは全くないとは、約500pg/ml未満、好ましくは約250、100、75、もしくは50pg/mlまたはそれより少ない量に相当する。
【0040】
本明細書で使用される「抗原」という用語は、本発明の細胞が調節するように使用されるため、または本発明の任意の方法の使用のためのタンパク質またはペプチドを言う。一実施形態では、「抗原」という用語は、目的の抗原と配列相同性、もしくは目的の抗原と構造的相同性、またはそれらの組み合わせを共有する、合成由来の分子または天然由来の分子を言い得る。一実施形態では、抗原はミメトープであり得る。抗原の「断片」とは、より短いペプチドのような、抗原の任意のサブセットを言う。抗原の「変異体」とは、抗原全体またはその断片のどちらかに実質的に類似する分子を言う。変異体の抗原は、当技術分野で周知の方法を使用して、変異体のペプチドを直接化学合成することにより、便利に調製され得る。
【0041】
本明細書で使用される「対象」という用語は、ヒトを言う。
【0042】
本明細書で使用される「有効量」という用語は、有益な、または所望の臨床結果(例えば、臨床的病態の改善)を生じさせるに十分な量を言う。
【0043】
本明細書で使用される「クローン」または「クローン集団」という用語は、唯一の分化細胞に由来する分化細胞の集団を言う。
【0044】
本明細書で使用される「治療」または「治療する」という用語は、通常、治療される個体の自然経過を変えようとする臨床的介入を言い、臨床病理の過程中に行われ得る。望ましい効果とは、症状を軽減させ、いかなる直接的もしくは間接的な疾患の病理学的事象も抑制、減少、または阻害し、疾患進行率を低下させ、疾患の状態を改善もしくは緩和させ、寛解もしくは改善された予後を生じさせることを含むが、これらに限定されるものではない。本発明の内容においては、炎症性関節炎の臨床症状の任意の改善とともに患者の健康の任意の改善、特に以下の少なくとも1つにより表される改善を言う:関節の低減した腫脹および圧痛、関節における痛みの減少、改善した運動性、関節および周辺組織の悪化の緩徐化、疾患の急性発作間の寛解期間の増加、急性発作の時間の長さの短縮、重篤な疾患発生の防止、など。
【0045】
本明細書で使用される「関節炎」という用語は、腱、靭帯、および筋肉とともに、身体における他の器官のような関節周囲の組織における慢性炎症(関節に発症するが、主に自己免疫過程に起因することは問わない)を言う。好ましくは、治療される炎症性関節炎は、関節リウマチ(RA)、若年性特発性関節炎(JIA)、強直性脊椎炎、乾癬性関節炎、および化膿性関節炎である。好ましい治療標的は関節リウマチである。
【0046】
本発明
本発明は、その必要がある対象における関節炎の病態を治療する方法に関し、関節関連の抗原に向けられるヒトTr1細胞を含有する組成物を前記対象に投与することを含む。
【0047】
本発明によれば、「ヒトTr1細胞集団」とは、本明細書の定義において先に説明したTr1細胞に相当し、CD4+CD25+制御性T細胞もしくはFoxP3+制御性T細胞(天然または従来のTreg)、TGF−β分泌Th3細胞、または制御性NKT細胞を含まない。
【0048】
本発明によれば、「関節関連の抗原」という用語は、関節に存在する免疫原性ペプチドを言う。
【0049】
本発明の一実施形態では、前記免疫原性ペプチドは、安静時の関節に存在し得る。
【0050】
別の実施形態では、前記免疫原性ペプチドは、炎症関節に存在し得る。
【0051】
関節関連の抗原の例は、シトルリンに置換した環状および直鎖状のフィラグリンペプチド、II型コラーゲンペプチド、ヒト軟骨糖タンパク質39(HCgp39)ペプチド、ヘテロ核リボヌクレオタンパク質(hnRNP)A2ペプチド、hnRNP B1、hnRNP D、Ro60/52、HSP60、HSP65、HSP70、およびHSP90、BiP、ケラチン、ビメンチン、フィブリノゲン、I、III、IVおよびV型コラーゲンのペプチド、アネキシンV、グルコース6リン酸イソメラーゼ(GPI)、アセチル−カルパスタチン、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(PDH)、アルドラーゼ、トポイソメラーゼI、snRNP、PARP、Scl−70、Scl−100、陰イオン性カルジオリピン、ホスファチジルセリン、中性に荷電したホスファチジルエタノールアミン、およびホスファチジルコリンを含むリン脂質抗原、マトリックスメタロプロテアーゼ、フィブリン、アグリカンを含むがこれらに限定されるものではない。
【0052】
好ましい実施形態では、前記ヒトTr1細胞は、II型コラーゲン、HCgp39、HSPタンパク質から選択される関節関連の抗原に向けられる。
【0053】
より好ましい実施形態では、前記組成物は、II型コラーゲンに向けられるヒトTr1細胞を含有する。II型コラーゲンに向けられるヒトTr1細胞は、II型コラーゲンの245〜273断片(IAGAPGFPGPRGPPGPQGATGPLGPKGQT、配列番号1) に存在するエピトープに向けられていてもよく、HLA−DR1またはHLA−DR4のどちらかの対象に関連してもよい。
【0054】
別のより好ましい実施形態では、前記組成物は、HCgp39に向けられるヒトTr1細胞を含有する。HCgp39に向けられるヒトTr1細胞は、以下のHCgp39のエピトープに向けられる:PTFGRSFTLASSE(配列番号2)、RSFTLASSETGVG(配列番号3)、VGYDDQESVKSKV(配列番号4)、SQRFSKIASNTQSR(配列番5)、FGRSFTLAS(配列番号6)、FTLASSETG(配列番号7)、YDDQESVKS(配列番号8)、およびFSKIASNTQ(配列番号9)。
【0055】
別のより好ましい実施形態では、前記組成物は、HSP60、HSP70、およびHSP90のようなHSPタンパク質に向けられるヒトTr1細胞を含有する。
【0056】
理論に拘束されることを望むものではないが、出願人は、関節関連の抗原に向けられる注入されたTr1細胞集団が、関節に存在する抗原によりin vivoで活性化され、関節炎の病態を制御できるであろうと想定する。それ故、Tr1細胞を刺激するため、Tr1細胞が向けられる抗原を注入する必要がない。
【0057】
本発明は、関節関連の抗原に向けられる少なくとも1つのヒトTr1細胞集団を含有する組成物に関し、前記ヒトTr1細胞集団はHSP、IV型コラーゲン、ケラチン、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ、トポイソメラーゼI、およびカルジオリピンに向けられる細胞ではないことを条件とする。
【0058】
好ましい実施形態では、前記組成物は、II型コラーゲンおよびHCgp39から選択される、関節関連の抗原に向けられるヒトTr1細胞集団を含有する。
【0059】
より好ましい実施形態では、前記組成物は、II型コラーゲンに向けられるヒトTr1細胞集団を含有する。
【0060】
別のより好ましい実施形態では、前記組成物はHCgp39に向けられるヒトTr1細胞集団を含有する。
【0061】
本発明の一実施形態では、ヒトTr1細胞は:
a)対象から前駆細胞集団を単離するステップと、
b)IL−10の存在下で、前記前駆細胞を培養することにより樹状細胞集団を取得するステップと、
c)関節関連の抗原の存在下で、ステップb)の細胞を、前記対象から単離したCD4+Tリンパ球集団と接触させ、前記抗原に向けられるCD4+T細胞の分化によりTr1細胞集団にするステップと、
d)ステップc)のTr1細胞集団を回収するステップと、により取得され得る。
ステップb)では、IL−10は、培地中に50〜250U/ml、好ましくは100U/ml存在する。Tr1細胞を取得するための前記方法は、Wakkachら(Immunity 2003 May;18(5):605−17)に説明されている。
【0062】
前記方法はまた、デキサメタゾンおよびビタミンD3、またはステップb)のDCの代わりに、寛容化もしくは未熟DCを使用して実行してもよい。
【0063】
本発明の別の実施形態では、ヒトTr1細胞は:
a)対象から単離した関節関連の抗原に向けられるCD4+T細胞集団を、適切な量のIFN−αを用いた培地で培養するステップと、
b)Tr1細胞集団を回収するステップと、により取得され得る。
【0064】
IFN−αは、好ましくは5ng/mlで培地に存在する。ステップa)では、培地は適切な量のIL−10、好ましくは100U/mlをさらに含有し得る。
【0065】
ステップb)では、Tr1細胞集団は、増殖できるようにIL−15を含有する培地で培養され、IL−15は培地中、好ましくは5ng/mlである。Tr1細胞を取得するための前記方法は、米国特許第6746670号に説明されている。
【0066】
本発明のさらに別の実施形態では、ヒトTr1細胞は、
a)人工抗原提示細胞により提示された関節関連の抗原の存在下で、CD4+T細胞集団をin vitroで活性化させるステップと、
b)少なくとも10%のTr1細胞を含有する活性化させたCD4+T細胞を回収するステップと、により取得され得る。
【0067】
好ましくは、人工抗原提示細胞は、HLA II系分子およびヒトLFA−3分子を発現し、共刺激分子B7−1、B7−2、B7−H1、CD40、CD23、およびICAM−1を発現しない。
【0068】
Tr1細胞を取得するための前記工程は、国際公開第02/092793号に説明されている。
【0069】
本発明のさらに別の実施形態では、ヒトTr1細胞は、
a)関節関連の抗原および適切な量のIL−10の存在下で、CD4+T細胞集団をin vitroで活性化させるステップと、
b)Tr1細胞集団を回収するステップと、により取得され得る。
【0070】
好ましくは、IL−10は培地中、100U/mlで存在する。前記方法は、Grouxら(Nature 1997,389(6652):737−42)に説明されている。
【0071】
本発明のさらに別の実施形態では、ヒトTr1細胞は、
a)関節関連の抗原を用いて、白血球集団または末梢血単核球(PBMC)集団を刺激するステップと、
b)刺激した集団から、関節関連の抗原−特異的Tr1細胞集団を回収するステップと、
c)前記関節関連の抗原−特異的Tr1細胞集団を随意に拡大するステップと、により取得され得る。
【0072】
白血球は、その重要性、その分布、その数、その寿命、およびその可能性により特徴付けられる数種類の細胞を包含する。これらの種類は以下の通りである:多核白血球または顆粒白血球であり、その中には好酸球性、好中球性、および好塩基球性の白血球、並びに単核細胞、または末梢血単核球(PBMC)が見出され、これは巨大な白血球であり、免疫システム(リンパ球および単球)の主要な細胞型にある。白血球またはPBMCは、当技術分野で公知の、任意の方法により末梢血液から分離することができる。有利には、PBMCの分離には遠心分離、好ましくは密度勾配遠心分離、好ましくは非連続的な密度勾配遠心分離が使用され得る。代替手段は特異的モノクローナル抗体の使用である。ある実施形態では、PBMCは典型的に、標準的な手順を使用して、フィコール・ハイパックの手段により全血産物から単離される。別の実施形態では、PBMCは、白血球除去の手段により回収される。
【0073】
前記方法は、国際公開第2007/010406号に説明されている。
【0074】
さらに別の実施形態では、ヒトTr1細胞は、
a)白血球集団または末梢血単核球細胞(PBMC)集団を、関節関連の抗原の存在下で間葉系幹細胞を用いて培養するステップと、
b)Tr1細胞集団を回収するステップと、により取得し得る。
【0075】
前記方法はまた、PBMCまたは白血球の代わりに、ナイーブT細胞またはメモリーT細胞を用いて実行することもできる。
【0076】
そうして取得したTr1細胞集団は、インターロイキン−2およびインターロイキン−4のようなサイトカインの存在下で、培養によりさらに拡大し得る。代替的に、インターロイキン−15およびインターロイキン−13もまた、Tr1細胞拡大培養に使用し得る。
【0077】
先に説明した方法では、ヒトTr1細胞は、国際公開第2005/000344号に説明される同定方法により特徴付けられ得る。Tr1細胞の前記同定方法は、CD4分子、並びにCD18および/またはCD11a、およびCD49bを含有する群の分子をコードする遺伝子の発現産物の、同時存在性を検出することに基づく。Tr1細胞は、ELISA、フローサイトメトリー、または前記マーカーに対する抗体を用いた免疫親和性の方法により、同定および/または精製できる。
【0078】
Tr1細胞はまた、フローサイトメトリーまたは電磁ビーズを使用して、ポジティブ選択またはネガティブ選択により濃縮することができる。そのような方法はまた、国際公開第2005/000344号に説明されている。
【0079】
本発明の別の実施形態では、関節関連の抗原に向けられるTr1細胞は、国際公開第2006/108882号に説明されている、in vitroにおける方法により拡大され得る。前記方法は:
a)35℃より下の温度T1、培地Mfにおいて、昆虫フィーダー細胞のようなフィーダー細胞を培養するステップであって、前記温度T1によりフィーダー細胞の増殖が可能となり、前記フィーダー細胞が次の細胞表面タンパク質:
―CD3/TCR複合体、
―CD28タンパク質、
―IL−2受容体、
―CD2タンパク質、および
―IL−4受容体
と相互作用する因子を発現するステップと、
b)ステップa)で取得した、その培地Mfから除去した、またはその培地Mf以外のフィーダー細胞を、培地Mpに包含されたTr1細胞集団と接触させるステップであって、前記培地Mpが、Tr1細胞集団、フィーダー細胞、および培地Mpを包含する混合物を取得するために、ステップa)で記載した因子を最初から包含していない前記ステップと、
c)ステップb)で取得した混合物を、少なくとも35℃の温度T2で培養するステップであって、Tr1細胞集団が増殖し、フィーダー細胞が増殖しないように前記温度を選択する前記ステップと、
d)そのように拡大したTr1細胞集団を回収するステップと、を含む。
【0080】
先に言及した細胞表面タンパク質と相互作用する因子の例は:
―修飾された抗CD3抗体であって、CD3重鎖の抗CD3細胞質内ドメインが膜貫通ドメインと置換された、前記修飾された抗CD3抗体と、
―CD80またはCD86タンパク質と、
―フィーダー細胞から分泌されたIL−2と、
―CD58タンパク質と、
―IL−4およびIL−13を含有する群から選択されるインターロイキンと、を含む。
【0081】
本発明の好ましい実施形態では、関節関連の抗原に向けられる前記Tr1細胞は、T細胞をクローニングするために、従来の方法を使用してクローニングしてよい。
【0082】
本発明の好ましい実施形態では、関節関連の抗原に向けられる少なくとも1つのヒトTr1細胞集団、または関節関連の抗原に向けられるヒトTr1細胞の少なくとも1つのクローンを含有する組成物は、保存のために凍結されてよい。
【0083】
本発明好ましい実施形態では、前記関節関連の抗原は、シトルリンに置換した環状および直鎖状のフィラグリンペプチド、II型コラーゲンペプチド、ヒト軟骨糖タンパク質39(HCgp39)ペプチド、ヘテロ核リボヌクレオタンパク質(hnRNP)A2ペプチド、hnRNP B1、hnRNP D、Ro60/52、BiP、ビメンチン、フィブリノゲン、I、III、およびV型コラーゲンのペプチド、アネキシンV、グルコース6リン酸イソメラーゼ(GPI)、アセチル−カルパスタチン、アルドラーゼ、snRNP、PARP、Scl−70、Scl−100、中性に荷電したホスファチジルエタノールアミンおよびホスファチジルコリン、マトリックスメタロプロテアーゼ、フィブリン、アグリカン、並びにそれらの断片、変異体、および混合物を含む群から選択される。
【0084】
好ましくは、前記関節関連の抗原は、組み換え抗原または合成抗原である。
【0085】
好ましくは、前記関節関連の抗原は、II型コラーゲン、並びにその断片、変異体、および混合物である。
【0086】
好ましくは、前記関節関連の抗原は、HCgp39、並びにその断片、変異体、および混合物である。
【0087】
本明細書における関節関連の抗原の「変異体」という用語は、天然の抗原とほぼ同一であり、同様の生物学的活性を共有する抗原を言う。天然の抗原とその変異体との極めて小さな違いは、例えば、アミノ酸置換、欠失、および/または付加にあり得る。そのような変異体は、例えば、アミノ酸残基が、類似する側鎖を有するアミノ酸残基と置換される、保存的な(conservative)アミノ酸置換を包含する。類似する側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当技術分野で定義されており、塩基性側鎖(例えばリジン、アルギニン、およびヒスチジン)酸性側鎖(例えばアスパラギン酸およびグルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐側鎖(例えばスレオニン、バリン、イソロイシン)、および芳香族性側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を含む。
【0088】
本発明の別の目的は、関節関連の抗原に向けられる少なくとも1つのヒトTr1細胞集団を含有する薬剤を提供することである。
【0089】
本発明はまた、1つ以上の薬学的に許容される担体と組み合わせて、関節関連の抗原に向けられる少なくとも1つのヒトTr1細胞集団を含有する薬剤を提供することを目的とする。
【0090】
好ましい実施形態によれば、前記ヒトTr1細胞集団はヒトTr1クローン集団である。
【0091】
好ましい実施形態によれば、前記関節関連の抗原は、シトルリンに置換した環状および直鎖状のフィラグリンペプチド、II型コラーゲンペプチド、ヒト軟骨糖タンパク質39(HCgp39)ペプチド、HSP、ヘテロ核リボヌクレオタンパク質(hnRNP)A2ペプチド、hnRNP B1、hnRNP D、Ro60/52、BiP、ケラチン、ビメンチン、フィブリノゲン、カルジオリピン、I、III、IVおよびV型コラーゲンのペプチド、アネキシンV、グルコース6リン酸イソメラーゼ(GPI)、アセチル−カルパスタチン、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(PDH)、アルドラーゼ、トポイソメラーゼI、snRNP、PARP、Scl−70、Scl−100、陰イオン性ホスファチジルセリン、中性に荷電したホスファチジルエタノールアミン、およびホスファチジルコリンを含むリン脂質抗原、マトリックスメタロプロテアーゼ、フィブリン、アグリカン、並びにそれらの断片、変異体、および混合物から選択される。
【0092】
より好ましい実施形態によれば、本発明の薬剤または医薬組成物は、II型コラーゲン、HCgp39、およびHSPから選択される、関節関連の抗原に向けられる少なくとも1つのヒトTr1細胞集団またはクローンを含有する。
【0093】
好ましくは、前記組成物は、II型コラーゲンに向けられるヒトTr1細胞を含有する。II型コラーゲンに向けられるヒトTr1細胞は、II型コラーゲンの245〜273断片(IAGAPGFPGPRGPPGPQGATGPLGPKGQT、配列番号1)に存在するエピトープに向けられていてもよく、HLA−DR1またはHLA−DR4のどちらかの対象に関連してもよい。
【0094】
別のより好ましい実施形態では、前記組成物は、HCgp39に向けられるヒトTr1細胞を含有する。HCgp39に向けられるヒトTr1細胞を含有する前記組成物は、以下のHCgp39のエピトープに向けられ得る:PTFGRSFTLASSE(配列番号2)、RSFTLASSETGVG(配列番号3)、VGYDDQESVKSKV(配列番号4)、SQRFSKIASNTQSR(配列番5)、FGRSFTLAS(配列番号6)、FTLASSETG(配列番号7)、YDDQESVKS(配列番号8)、およびFSKIASNTQ(配列番号9)。
【0095】
別のより好ましい実施形態では、前記組成物は、HSP60、HSP65、HSP70、HSP90のようなHSPタンパク質に向けられるヒトTr1細胞を含有する。
【0096】
本明細書における薬学的に許容される有用な担体は、従来の担体である。Remington’s Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed. (1980)では、本発明の組成物の医薬品送達のための適した組成物および製剤を説明している。一般的に、担体の特質は、用いられる投与方法によって決まる。例えば、非経口的な製剤は、ビヒクルとして、水、生理食塩水、平衡塩類溶液、水溶性ブドウ糖、ゴマ油、グリセリン、エタノール、それらの組み合わせなどのような、薬学的および生理学的に許容される液体を含んだ注射液を通常は含む。担体および組成物は無菌にすることができ、製剤は投与方法に適合する。生物学的に中性の担体に加え、投与される医薬組成物は、湿潤剤または乳化剤、保存剤、およびpH緩衝剤など、例えば酢酸ナトリウムまたはソルビタンモノラウラートのような無毒性の補助物質を少量包含することができる。組成物は溶液、懸濁液、および乳剤にできる。
【0097】
本発明は、関節炎の病態を治療する薬剤または医薬組成物の調製に、関節関連の抗原に向けられる少なくとも1つのヒトTr1細胞集団を含有する組成物を使用することに関する。
【0098】
本発明の目的は、関節炎の病態を治療するためか、または関節炎の病態を治療において使用するための、本明細書で先に説明した薬剤または医薬組成物である。
【0099】
前記関節炎の病態は、関節リウマチ、多発性軟骨炎、化膿性関節炎、脊椎関節症または強直性脊椎炎、若年性特発性関節炎(JIA)、乾癬性関節炎、並びに全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、強皮症、皮膚筋炎、多発性筋炎、リウマチ性多発筋痛症、線維筋痛症、サルコイドーシス、および血管炎のような関節炎に関連する疾患を含むが、これらに限定されるものではない。
【0100】
好ましい実施形態によれば、前記ヒトTr1細胞集団は、ヒトTr1クローン集団である。
【0101】
好ましい実施形態によれば、前記1つのヒトTr1細胞集団またはクローンは、シトルリンに置換した環状および直鎖状のフィラグリンペプチド、II型コラーゲンペプチド、ヒト軟骨糖タンパク質39(HCgp39)ペプチド、HSP、ヘテロ核リボヌクレオタンパク質(hnRNP)A2ペプチド、hnRNP B1、hnRNP D、Ro60/52、BiP、ケラチン、ビメンチン、フィブリノゲン、カルジオリピン、I、III、IVおよびV型コラーゲンのペプチド、アネキシンV、グルコース6リン酸イソメラーゼ(GPI)、アセチル−カルパスタチン、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(PDH)、アルドラーゼ、トポイソメラーゼI、snRNP、PARP、Scl−70、Scl−100、陰イオン性ホスファチジルセリン、中性に荷電したホスファチジルエタノールアミン、およびホスファチジルコリンを含むリン脂質抗原、マトリックスメタロプロテアーゼ、フィブリン、アグリカン、並びにそれらの断片、変異体、および混合物から選択される関節関連の抗原に向けられる。
【0102】
より好ましい実施形態によれば、前記少なくとも1つのヒトTr1細胞集団またはクローンは、II型コラーゲン、HCgp39、およびHSPから選択される関節関連の抗原に向けられる。
【0103】
好ましくは、ヒトTr1細胞またはクローンは、II型コラーゲンに向けられる。II型コラーゲンに向けられるヒトTr1細胞またはクローンは、II型コラーゲンの245〜273断片(IAGAPGFPGPRGPPGPQGATGPLGPKGQT、配列番号1)に存在するエピトープに向けられていてもよく、HLA−DR1またはHLA−DR4のどちらかの対象に関連してもよい。
【0104】
別のより好ましい実施形態では、ヒトTr1細胞またはクローンは、HCgp39に向けられる。HCgp39に向けられるヒトTr1細胞またはクローンは、以下のHCgp39のエピトープに向けられ得る:PTFGRSFTLASSE(配列番号2)、RSFTLASSETGVG(配列番号3)、VGYDDQESVKSKV(配列番号4)、SQRFSKIASNTQSR(配列番5)、FGRSFTLAS(配列番号6)、FTLASSETG(配列番号7)、YDDQESVKS(配列番号8)、およびFSKIASNTQ(配列番号9)。
【0105】
別のより好ましい実施形態では、ヒトTr1細胞またはクローンは、HSP60、HSP65、HSP70、HSP90のようなHSPタンパク質に向けられる。
【0106】
好ましい実施形態では、本発明は、関節リウマチを治療する薬剤または医薬組成物の調製に、本明細書で先に記載した組成物を使用することに関する。
【0107】
別の好ましい実施形態では、本発明は、乾癬性関節炎を治療する薬剤または医薬組成物の調製に、本明細書で先に記載した組成物を使用することに関する。
【0108】
別の好ましい実施形態では、本発明は、強直性脊椎炎を治療する薬剤または医薬組成物の調製に、本明細書で先に記載した組成物を使用することに関する。
【0109】
別の好ましい実施形態では、本発明は、若年性特発性関節炎を治療する薬剤または医薬組成物の調製に、本明細書で先に記載した組成物を使用することに関する。
【0110】
本発明の目的はまた、その必要がある対象における関節炎の病態、好ましくは関節リウマチ、若年性特発性関節炎、乾癬性関節炎、または強直性脊椎炎を治療するための方法であり、本明細書で先に説明した有効量の薬剤、または本明細書で先に説明した有効量の医薬組成物を前記対象に投与することを含む。
【0111】
組成物は、非経口的な、筋肉内、静脈内、腹腔内への注射、鼻腔内吸入、肺吸入、皮内、関節内、くも膜下内への注入用に製剤され得る。本発明の一実施形態では、本発明の薬剤または医薬組成物は、治療される関節内に注射され得る。
【0112】
好ましくは、本発明の薬剤または医薬組成物は、関節内、腹腔内、または静脈内への注射か、患者のリンパ節への直接注射、好ましくは静脈内注射により投与され得る。
【0113】
関節炎の病態の治療において有効な、関節関連の抗原に向けられるTr1細胞の量は炎症の特性によって決まり、標準の臨床技術によって決定することができる。製剤に用いられる的確な量は、投与経路、および疾患または障害の重篤度によって決まるであろうし、医師の判断および各個人の環境に応じて決定されるべきである。有効用量は、in vitroまたは動物モデル試験システムから導かれる用量反応曲線から推定することができる。
【0114】
本発明の一実施形態では、10
4/kg〜10
9/kgの細胞を対象に投与する。好ましくは、10
5/kg〜10
7/kgの細胞、より好ましくは、約10
6/kgの細胞を対象に投与する。
【0115】
本発明の一実施形態では、対象は、対象の臨床状態における低下によりフレアーアップが起こったとき、または、例えばX線撮影または磁気共鳴断層撮影により炎症性病変が可視化されたとき、薬剤を投与される。
【0116】
本発明の一実施形態では、対象は、本発明の薬剤または医薬組成物を1回投与される。
【0117】
本発明の第二実施形態では、対象は、本発明の薬剤または医薬組成物を月に1回投与される。
【0118】
本発明の第三実施形態では、対象は、本発明の薬剤または医薬組成物を3ヶ月に1回投与される。
【0119】
本発明の第四実施形態では、対象は、本発明の薬剤または医薬組成物を一年に1回から2回投与される。
【0120】
本発明の別の実施形態では、その必要がある対象に投与する薬剤または医薬組成物は、前記対象の細胞が自己由来であるヒトTr1細胞を含む。
【0121】
これは、Tr1細胞がその由来する対象に投与されるか、またはTr1細胞の産生のために使用する前駆体がTr1細胞を投与する対象に由来することを意味する。
【0122】
本発明はまた、その必要がある対象の関節炎の病態を治療するための工程に関し、前記工程は:
―前記対象の血液試料を採取するステップと、
―関節関連の抗原に向けられるTr1細胞を取得するステップと、
―関節関連の抗原に向けられる前記Tr1細胞をクローニングするステップと、
―先のステップで取得したTr1クローンをさらに拡大するステップと、
―そうして取得したTr1クローンを前記対象に、好ましくは静脈内注射により注射するステップと、を含む。
【0123】
好ましくは、関節関連の抗原に向けられるTr1クローンのクローニングおよび拡大は、以下の方法:
a)35℃より下の温度T1、培地Mfで、昆虫フィーダー細胞のようなフィーダー細胞を培養するステップであって、前記温度T1によりフィーダー細胞の増殖が可能となり、前記フィーダー細胞が次の細胞表面タンパク質:
―CD3/TCR複合体、
―CD28タンパク質、
―IL−2受容体、
―CD2タンパク質、
―IL−4受容体
と相互作用する因子を発現するステップと、
b)ステップa)で取得した、その培地Mfから除去した、またはその培地Mf以外のフィーダー細胞を、培地Mpに包含されたTr1細胞集団と接触させるステップであって、前記培地Mpが、Tr1細胞集団、フィーダー細胞、および培地Mpを包含する混合物を取得するために、ステップa)で記載した因子を最初から包含していない前記ステップと、
c)ステップb)で取得した混合物を、少なくとも35℃の温度T2で培養するステップであって、Tr1細胞集団が増殖し、フィーダー細胞が増殖しないように前記温度を選択する前記ステップと、
d)そのように拡大されたTr1細胞集団を回収するステップと、を用いて実行される。
【0124】
先に言及した細胞表面タンパク質と相互作用する因子の例は:
―修飾された抗CD3抗体であって、CD3重鎖の抗CD3細胞質内ドメインが膜貫通ドメインと置換された、前記修飾された抗CD3抗体と、
―CD80またはCD86タンパク質と、
―フィーダー細胞から分泌されたIL−2と、
―CD58タンパク質と、
―IL−4およびIL−13を含有する群から選択されるインターロイキンと、を含む。
【0125】
本発明の別の実施形態では、その必要がある対象における関節炎の病態を治療するための方法は、関節炎の病態を治療するために使用される1つ以上の治療薬と組み合わせて、有効量の本発明の薬剤または医薬組成物を前記対象に投与することを含む。
【0126】
本発明は、本発明の医薬組成物または薬物を使用することに関し、有効量の本発明の薬剤または医薬組成物を前記対象に投与することは、関節炎の病態を治療するために使用される1つ以上の治療薬と組み合わせられている。
【0127】
関節炎の病態を治療するために一般に使用される治療薬の例は以下が挙げられる:
―コルチコイド(プレドニゾン)、
―インフリキシマブ、アダリムマブ、エタネルセプトのような抗TNF;
―アナキンラ、AMG108、イグラチモド、アクテムラのような抗インターロイキン
―リツキシマブ、エピラツズマブのような抗Bリンパ球;
―アバタセプト、ベリムマブのような抗−共刺激分子;
―LJP394またはTV−4710のような免疫寛容薬(Bリンパ球表面のDNA受容体に向けられる合成分子);
―エクリズマブのような抗補体タンパク質;
―CP690550のようなT細胞シグナル伝達分子の阻害薬
―ケモカイン受容体の拮抗薬(マラビロク、INCB3284)のような、細胞遊走の阻害薬、
―レフルノミド、
―スルファサラジン、
―ヒドロキシクロロキン、
―アザチオプリン、
―メトトレキサート、
―シクロスポリン、
―ミノサイクリン、
―D―ペニシラミン、
―メトトレキサート+スルファサラジン、メトトレキサート+ヒドロキシクロロキン、メトトレキサート+アザチオプリン、メトトレキサート+インフリキシマブ、メトトレキサート+レフルノミド、メトトレキサート+エタネルセプト、シクロスポリン+ヒドロキシクロロキン、シクロスポリン+メトトレキサート、メトトレキサート+スルファサラジン+ヒドロキシクロロキン、のようなそれらの併用療法。
【0128】
本発明の好ましい実施形態では、その必要がある対象における関節炎の病態を治療するための方法は、コルチコイド、抗TNF、抗インターロイキン、抗Bリンパ球、抗−共刺激分子、免疫寛容薬、抗補体タンパク質、T細胞シグナル伝達分子の阻害薬、細胞遊走の阻害薬、メトトレキサート、レフルノミド、スルファサラジン、ヒドロキシクロロキン、アザチオプリン、メトトレキサート、シクロスポリン、ミノサイクリン、D―ペニシラミンの群において選択される、1つ以上の治療薬と組み合わせて、有効量の本発明の薬剤または医薬組成物を前記対象に投与することを含む。
【0129】
本発明は、その必要がある対象における関節炎の病態を治療するために本発明の医薬組成物または薬物の使用することに関し、有効量の本発明の薬剤または医薬組成物を前記対象に投与することは、コルチコイド、抗TNF、抗インターロイキン、抗Bリンパ球、抗−共刺激分子、免疫寛容薬、抗補体タンパク質、T細胞シグナル伝達分子の阻害剤、細胞遊走の阻害薬、メトトレキサート、レフルノミド、スルファサラジン、ヒドロキシクロロキン、アザチオプリン、メトトレキサート、シクロスポリン、ミノサイクリン、D―ペニシラミンの群から選択される、1つ以上の治療薬と組み合わせられている。
【0130】
別の実施形態では、本発明はまた、関節炎の病態の治療の方法に関し、本発明の薬剤または医薬組成物をその必要がある対象に投与し、前記対象とは、コルチコイド、抗TNF、抗インターロイキン、抗Bリンパ球、抗−共刺激分子、免疫寛容薬、抗補体タンパク質、T細胞シグナル伝達分子の阻害剤、細胞遊走の阻害薬、メトトレキサート、レフルノミド、スルファサラジン、ヒドロキシクロロキン、アザチオプリン、メトトレキサート、シクロスポリン、ミノサイクリン、D―ペニシラミンの群における1つ以上の治療薬に、十分に反応しないか、または十分に反応しないと見込まれる対象である。
【0131】
本発明は、本発明の医薬組成物または薬物を使用することに関し、前記対象とは、コルチコイド、抗TNF、抗インターロイキン、抗Bリンパ球、抗−共刺激分子、免疫寛容薬、抗補体タンパク質、T細胞シグナル伝達分子の阻害剤、細胞遊走の阻害薬、メトトレキサート、レフルノミド、スルファサラジン、ヒドロキシクロロキン、アザチオプリン、メトトレキサート、シクロスポリン、ミノサイクリン、D―ペニシラミンの群における1つ以上の治療薬に、十分に反応しないか、または十分に反応しないと見込まれる対象である。
【0132】
「不十分な反応」、「十分に反応しない」、または「十分に反応しないと見込まれる」とは、対象が関わる限りにおいて、治療薬が無効であり、毒性があり、耐容性に乏しかった、またはそのように見込まれることを指す、対象の実際の反応または可能性のある反応を言う。
【0133】
実施例
以下の説明では、詳細なプロトコルが与えられていない全ての実験は、標準的なプロトコルに従って行っている。
【0134】
本発明の好ましい実施形態を実証するために以下の実施例が含まれる。当業者には、発明者により見出された技術を示している実施例で開示される技術が、本発明の実施において十分に機能し、従ってその実施のための好ましい様式を構築していると考え得ることが理解されるべきである。しかし、本開示を踏まえると、当業者は、開示される特定の実施形態において多くの変更を成すことができ、また、本発明の精神および範囲から逸脱することなく同様の結果または類似の結果をさらに得られることを理解すべきである。
【0135】
実験手順
Tr1細胞の単離
健常な患者または深刻な関節リウマチの患者から血液試料を採取し、密度勾配遠心分離法により白血球を分離した。次いで、この抗原に向けられるTr1細胞の特異的増殖を誘発するために、II型コラーゲンの存在下で細胞を培養した。培養の13日後、限界希釈法により細胞集団をクローニングした。次いで、II型コラーゲンに対するその特異性、および特徴的なTr1サイトカイン産生プロファイルについてクローンを評価した。
【0136】
サイトカイン分析
抗原特異性の判定のため、抗原提示細胞(4.10
5)の存在下、および特異的抗原(II型コラーゲン)の存在下または非存在下で刺激した、Tr1細胞クローンの48時間後の上清についてサンドイッチELISAを行った。サイトカイン産生プロファイルの決定のため、II型コラーゲンTr1細胞クローンを抗CD3+抗CD28モノクローナル抗体で刺激し、48時間後に上清を収集した。抗IL−4(11B11)、抗IL−10(2A5)、抗IFNγ(XGM1.2)、ビオチン抗IL−4(24G2)、抗IL−10(SXC1)、抗IFNγ(R4−6A2)(Pharmingen Becton Dickinson)を使用してELISAを行った。
【0137】
抑制研究
抑制研究のため、段階付けた量のII型コラーゲン特異的Tr1クローンを、自己由来CD4陽性Tリンパ球を用いて共培養した。共培養物を、抗CD3+抗CD28モノクローナル抗体を用いて刺激した。別の手段として、II型コラーゲン特異的クローンの上清を、抗CD3+抗CD28モノクローナル抗体で刺激した、CD4陽性Tリンパ球に添加した。3日後、RocheのWST−1増殖キットを使用して細胞増殖の総計を評価した。
【0138】
結果
図1は、抗原の存在または非存在下で、II型コラーゲンに特異的な2つの別々のTr1細胞集団のIL−10産生を示す。結果は、II型コラーゲンの刺激がIL−10の産生の増加を誘発することを示す。これらの結果は、II型コラーゲンに対する細胞集団の特異性を実証している。
【0139】
II型コラーゲンに特異的なこれらのTr1細胞集団のサイトカイン分泌プロファイルをさらに決定するため、抗CD3+抗CD28モノクローナル抗体の存在下で細胞を刺激した。IL−4、IL−10、およびIFNγの産生を測定するため、48時間後の上清についてELISAを行った。
図2は、後者のII型コラーゲン特異的集団について観測したサイトカイン分泌プロファイルが、Tr1サイトカイン分泌プロファイル、すなわちIL−10の高い産生、IFNγの低い産生、およびIL−4の無産生と一致することを示す。
【0140】
次いで、これらII型コラーゲンTr1集団の抑制活性を評価した。抗CD3+抗CD28モノクローナル抗体の存在下で、自己由来CD4+T細胞を用いて、Tr1細胞を共培養した。刺激の3日後、細胞増殖を測定した。
図3は、2つのTr1集団の結果を示し、これらの細胞の抑制活性を裏付ける。
【0141】
図4は、抗CD3+抗CD28抗体を用いてin vitroで刺激したII型コラーゲン特異的クローンのサイトカイン産生プロファイルを示す。
【0142】
このクローンは、抗TNF−α抗体を含む、従来の関節リウマチ治療では治りにくい関節リウマチ患者の末梢血液から作り出された。
【0143】
IL−4非存在下でのIL−10の高い産生およびIFNγの産生は、Tr1細胞の独自性を特徴付けている。
【0144】
この活性化したクローンの上清は、in vitroにおいてCD4+Tリンパ球の増殖を抑制することができる(
図5)。この実験において、IL−10およびTGFβ両方の同時遮断により増殖が回復し、Tr1クローンの抑制活性が、これら2つのサイトカインに媒介されることを示している。
【0145】
従って、この実験により、II型コラーゲン特異的Tr1細胞は、従来の関節リウマチ治療では治りにくい患者から単離することができ、これらのTr1細胞が、IL−1およびTGFβを介してCD4+T細胞増殖を抑制できることが確認される。
【0146】
次に、II型コラーゲン特異的Tr1細胞の効果を、コラーゲンで誘発した関節炎のマウスモデルでin vivoで評価した。
【0147】
ウシのII型コラーゲン(5μg/ml)を用いて、7日間にわたり、IL−10(50ng/ml)および抗IL−4(10μg/ml)の存在下、トランスジェニックTBCマウス(II型コラーゲンに特異的なT細胞受容体を発現する)に由来するマウスの脾細胞を活性化させた。
【0148】
0日目に、完全フロイントアジュバントに含めたII型コラーゲン(100μg)の皮下投与により、DBA−1マウスに関節炎を誘発させ、次に、21日目に、不完全フロイントアジュバントに含めたII型コラーゲン(100μg)を注射して第2免疫を行った。
【0149】
関節の腫脹および炎症の数を測定することにより、疾患の重症度を評価した。II型コラーゲンに特異的な同系のTr1細胞(150万)を、19日目に、静脈内に注射した。
【0150】
図6は、コラーゲンで誘発した関節炎のマウスモデルにおいて、II型コラーゲン特異的Tr1細胞の静脈内投与により、重篤な関節炎の進行が阻害されることを示す。