特開2015-70908(P2015-70908A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-70908(P2015-70908A)
(43)【公開日】2015年4月16日
(54)【発明の名称】酢酸及び酢酸塩を含む3剤型透析用剤
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/14 20060101AFI20150320BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20150320BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20150320BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20150320BHJP
   A61K 35/14 20150101ALI20150320BHJP
   A61P 7/08 20060101ALI20150320BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20150320BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20150320BHJP
【FI】
   A61M1/14 523
   A61K9/08
   A61K47/02
   A61K47/12
   A61K35/14 Z
   A61P7/08
   A61K47/26
   A61K47/22
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2013-207382(P2013-207382)
(22)【出願日】2013年10月2日
(11)【特許番号】特許第5517322号(P5517322)
(45)【特許公報発行日】2014年6月11日
(71)【出願人】
【識別番号】000237972
【氏名又は名称】富田製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100156845
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 威一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100112896
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 宏記
(72)【発明者】
【氏名】野口 博司
(72)【発明者】
【氏名】明瀬 美智子
(72)【発明者】
【氏名】菊石 純也
(72)【発明者】
【氏名】青山 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】橋本 美名
(72)【発明者】
【氏名】吉本 由典
【テーマコード(参考)】
4C076
4C077
4C087
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB17
4C076DD23
4C076DD25
4C076DD41
4C076DD43
4C076DD60
4C076DD67
4C076FF14
4C077AA05
4C077BB01
4C077BB02
4C077GG09
4C077KK25
4C087AA01
4C087DA02
4C087DA05
4C087MA17
4C087MA66
4C087ZA52
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、透析液中の総酢酸イオン含量を低い値に設定可能で、しかも保存安定性に優れ、酢酸臭を低減でき、更に、必要に応じて、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等の微量金属イオン濃度は一定に維持しつつ、重炭酸イオン濃度を任意に変化させ得る透析液を調製することができる3剤型透析用剤を提供することである。
【解決手段】塩化ナトリウムを含むS剤と、重炭酸ナトリウムを含むB剤と、塩化ナトリウム及び重炭酸ナトリウム以外の電解質成分を含むA剤を含む3剤型透析用剤において、A剤に、酢酸及び酢酸塩を含有させ、且つ酢酸:酢酸塩のモル比が1:0.5〜2を充足させることによって、総酢酸イオン濃度が2mEq/L以上6mEq/L未満となるような重炭酸透析液が調製可能となり、当該A剤中の成分の安定性が優れていることに加え、酢酸臭を低減できる更に、当該3剤型透析用剤によれば、透析液の調製時にS剤、B剤、及びA剤の添加量を調節することによって透析液中の重炭酸イオン濃度及び/又はナトリウム濃度を変化させることもできる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ナトリウムを含むS剤と、重炭酸ナトリウムを含むB剤と、塩化ナトリウム及び重炭酸ナトリウム以外の電解質成分を含むA剤を含む、透析液を調製するための3剤型の透析用剤であり、
前記A剤が、酢酸及び酢酸塩を含み、且つ酢酸:酢酸塩のモル比が1:0.5〜2であり、
総酢酸イオンが2mEq/L以上6mEq/L未満である透析液の調製に使用される、3剤型透析用剤。
【請求項2】
前記A剤における酢酸:酢酸塩のモル比が1:1〜1.5である、請求項1に記載の3剤型透析用剤。
【請求項3】
総酢酸イオンが2mEq/L以上5mEq/L以下である透析液の調製に使用される、請求項1又は2に記載の3剤型透析用剤。
【請求項4】
前記A剤を、最終的に調製される透析液中の各成分濃度の175倍に濃縮した水溶液の状態にした際に、pHが3.9〜4.7を示す、請求項1〜3のいずれかに記載の3剤型透析用剤。
【請求項5】
酢酸塩が酢酸ナトリウムである、請求項1〜4のいずれかに記載の3剤型透析用剤。
【請求項6】
前記A剤が、更に、酢酸、酢酸塩、塩化ナトリウム及び重炭酸ナトリウム以外の生理的に利用可能な電解質成分を含む、請求項1〜5のいずれかに記載の3剤型透析用剤。
【請求項7】
前記電解質として、塩化カリウム、塩化マグネシウム、及び塩化カルシウムを含む、請求項6に記載の3剤型透析用剤。
【請求項8】
前記A剤が、更に、ブドウ糖を含む、請求項1〜7のいずれかに記載の3剤型透析用剤。
【請求項9】
前記A剤が、前記電解質として、更に酢酸塩以外の有機酸塩を含む、及び/又はpH調節剤として酢酸以外の有機酸を含む請求項6〜8のいずれかに記載の3剤型透析用剤。
【請求項10】
前記A剤が固体状である、請求項1〜9のいずれかに記載の3剤型透析用剤。
【請求項11】
前記A剤が固体状であり、且つ前記塩化マグネシウム及び/又は塩化カルシウムが、乾燥物若しくは無水物である、請求項7に記載の3剤型透析用剤。
【請求項12】
前記酢酸及び酢酸塩が混合物として含まれる、請求項10又は11に記載の3剤型透析用剤。
【請求項13】
前記酢酸及び酢酸塩の少なくとも一部が二酢酸アルカリ金属塩の形態で含まれる、請求項10〜12のいずれかに記載の3剤型透析用剤。
【請求項14】
前記二酢酸アルカリ金属塩が、二酢酸ナトリウム及び/又は二酢酸カリウムである、請求項13に記載の3剤型透析用剤。
【請求項15】
前記有機酸塩が、乳酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、及びコハク酸ナトリウムよりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項9に記載の3剤型透析用剤。
【請求項16】
前記有機酸が、乳酸、グルコン酸、グルコノデルタラクトン、クエン酸、リンゴ酸、及びコハク酸よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項9に記載の3剤型透析用剤。
【請求項17】
前記A剤が、酢酸及び酢酸塩の混合物を含む第1原料と、酢酸及び酢酸塩以外の生理的に利用可能な電解質を含む組成物を含む第2原料を含み、
前記A剤中の酢酸塩の全てが前記第1原料に含まれ、又は透析用A剤中の酢酸塩の一部が前記第2原料にも含まれ、且つ
ブドウ糖が前記第2原料の組成物に含まれる、及び/又は第1原料と第2原料とは別にブドウ糖を含む第3原料が含まれる、
請求項10〜16のいずれかに記載の3剤型透析用剤。
【請求項18】
前記第2原料に、電解質として、塩化カリウム、塩化マグネシウム、及び塩化カルシウムを含む、請求項17に記載の3剤型透析用剤。
【請求項19】
前記第2原料に、電解質として、更に酢酸塩以外の有機酸塩が含まれる、請求項17又は18に記載の3剤型透析用剤。
【請求項20】
前記S剤、B剤、及びA剤が、透湿度が0.5g/m2・24h以下の包装容器に収容されてなる、請求項10〜19のいずれかに記載の3剤型透析用剤。
【請求項21】
前記S剤、B剤、及びA剤が、包装容器に、乾燥剤と共に収容されてなる、請求項10〜20のいずれかに記載の3剤型透析用剤。
【請求項22】
用時にS剤、B剤、及びA剤の添加量を調節することによって透析液中の重炭酸イオン濃度及び/又はナトリウム濃度を変化させて使用される、請求項1〜21のいずれか記載の3剤型透析用剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酢酸及び酢酸塩を含む3剤型透析用剤に関する。より具体的には、本発明は、透析液中の総酢酸イオン濃度を6mEq/L未満となるように調製可能で、しかも保存安定性に優れ、酢酸臭を低減でき、更に必要に応じて重炭酸イオン濃度を任意に変化させることができる透析液を調製することができる、3剤型透析用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
透析療法は、腎不全患者の治療法として確立されており、血中電解質成分濃度の調節、尿毒症性物質の除去、酸塩基平衡の是正等を目的として実施されている。この透析治療に用いられる透析液には複数の成分が含まれているが、治療の目的に合致し、かつ生体に対する負担の少ない成分が適切な濃度で配合されるべきである。
【0003】
近年、透析液には酸塩基平衡の是正のために炭酸水素ナトリウムを用いた重炭酸透析液が主流になっており、透析液を中性にするために酸を配合することも必須となっている。また、これらを同一の容器に共存して流通させると、容器内で炭酸ガスを発生して非常に不安定になるため、透析液の調製に使用される透析用剤としてA剤及びB剤の2剤に分けて製造し、使用時に混合することが一般的となっている。
【0004】
通常、A剤には塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、pH調節剤(酸および任意成分としてのバッファー成分)およびブドウ糖が含まれており、B剤には炭酸水素ナトリウムが含まれている。また、不溶性塩の析出を防ぐため、B剤には塩化カルシウムや塩化マグネシウムの配合が禁忌されている。
【0005】
従来、これらA剤及びB剤はポリエチレン容器に充填された液体として使用されていたが、輸送コストや病院内での作業性の悪さ(重量、保管スペ−ス、ポリエチレン容器の廃棄方法など)が問題となり、今日では、用時に水と混合される粉末状の透析用剤が実用化されている。
【0006】
粉末状の透析用剤は、当初は電解質及びpH調節剤を含むA−1剤と、ブドウ糖のみからなるA−2剤、炭酸水素ナトリウムからなるB剤の3剤で構成されていたが、現在ではA−1剤とA−2剤が組み合わされ、A剤及びB剤からなる2剤型が主流となっている。
【0007】
今日では、重炭酸透析用剤は、臨床において透析液として使用する際に以下のような組成並びに濃度となるように処方されている。
【0008】
【表1】
【0009】
透析液は透析治療時に、液体型のA剤、又は粉末型のA剤を溶解して得られるA液、又は粉末型のA−1剤及びA−2剤を溶解して得られるA液と、液体型のB剤、又は粉末型のB剤を溶解して得られるB液を、希釈、混合して用いられているが、前述したように重炭酸透析液では、酸及び炭酸水素ナトリウムの共存によって、時間の経過とともに炭酸ガスが発生し、同時にpHも上昇して不溶性の炭酸カルシウム等を生成してしまうことがある。この現象によって、治療に有効なカルシウム濃度が減少したり、透析装置の配管やホースに結晶が付着したりすることが問題となっている。
【0010】
一方、pH調節剤としては酢酸が長期に渡って使用されてきたが、近年になって酢酸の末梢血管拡張作用や心機能抑制作用、炎症性サイトカインの誘発、酢酸不耐症の患者への負担が問題視されていた。即ち、酢酸は、短時間で代謝されるために生体への蓄積はないが、心機能抑制、末梢血管拡張効果があり、結果的に血圧を低下させる作用を持っている。透析治療は体内の水分を除去するための治療でもあるため、透析中並びに透析後は水分除去による血圧低下が必然的に起こってしまう。それを防止するために除水コントロールや昇圧剤の投与等の対処療法が併用されることが多々ある。これらの作用による症状発現の有無は患者毎に異なることから、透析液に含まれる酢酸の濃度も起因しているとも考えられている。近年になって、このような状況を打開するためのひとつの手法として無酢酸(アセテートフリー)透析という方法が提唱されるようになった。
【0011】
そこで今日では、酢酸の代わりにクエン酸をpH調節剤として配合されたものが市販され、臨床使用されるようになってきている(例えば、特許文献1〜4参照)。しかしながら、クエン酸は強いキレート作用を持つために透析液中のカルシウムの一部分をキレートし、イオン化カルシウム濃度を下げてしまうこと、酢酸よりも強酸であるために濃厚液であるA液のpHが低くなり、溶解装置や透析装置の部品腐食の恐れがあること、逆にA液のpHを高くするために有機酸塩を多く配合すると、クエン酸カルシウムの結晶が析出して組成に影響を及ぼすこと等の問題点を有している。即ち、クエン酸は、アルカリ土類金属とキレートしやすいので、透析液成分中のカルシウムやマグネシウムとキレートする。この作用は特にカルシウムに対して強いのであるが、透析治療においてはカルシウム量の調節が非常に重要であるので、キレートによるイオン化カルシウム濃度の減少は患者のカルシウム収支に大きく影響するという欠点がある。例えば、クエン酸とカルシウムが透析液中でほぼ同濃度(イオン当量比)で含まれていた場合、35%程度のカルシウムがキレートされ、その分だけ透析液中のイオン化カルシウム濃度が減少し、結果的に血中カルシウム濃度のコントロールが困難になってしまう。また、クエン酸も透析により体内に入るため、血中でクエン酸とカルシウムが結合することにより、難溶性のクエン酸カルシウムが生成して血管内に沈着する恐れがあり、またクエン酸とカルシウムが同時に血中に入った後のそれら成分の動態が明確でないことによって、透析患者において重要な体内のカルシウム管理が困難になることも懸念されている。更に、クエン酸によるイオン化カルシウム濃度の低下は心筋や血管平滑筋の弛緩を促し、低血圧を招く点、クエン酸の抗凝固作用により出血傾向の患者には使いにくい点でも問題がある。
【0012】
また、クエン酸は固体であるために通常の取り扱いにおいては扱いやすいが、濃厚液は強酸性であるため、粉末状態で保管していても部分的な吸湿があった場合には塩化水素ガスが発生し易くなり、溶解装置等の部分的な金属腐食や樹脂劣化等を生じさせることもある。例えば、特許文献1は、クエン酸を用いることにより不溶性化合物の生成防止や炭酸カルシウムの沈殿抑制、ブドウ糖の分解を防止できる無酢酸の粉末型透析用剤について記載しているが、これはクエン酸をpH2.2〜2.9という限定された範囲で用いることによって達成されるものである。この限定されたpH範囲では溶解装置や透析装置の腐食の恐れがある点で問題があり、また、クエン酸の強いキレート作用によりイオン化カルシウム濃度が下がって上記のように治療効果に影響を与える恐れもある。
【0013】
そのため、酢酸以外の酸成分としてクエン酸を用いることは最適とは言えず、またクエン酸以外の有機酸として乳酸やリンゴ酸、フマル酸、グルコン酸等の生体に安全な物質の使用も考えられるが、慢性的な使用における透析後の体内での挙動については明確になっていないことから極力使用量を減らすこと、更にはこれら酸成分による透析液調製装置や透析装置への影響も考慮することが重要である。
【0014】
一方、前述するように、クエン酸等は強いキレート作用からイオン化カルシウム濃度を下げてしまうことが懸念されるが、厳密に言えば酢酸もイオン化カルシウム濃度を下げている。おそらく酢酸の代謝が速いことで、臨床上の問題は軽視されてきたが、実際には、pH調節剤として塩酸を用いたものよりも透析液とした時のイオン化カルシウムの濃度は低くなり、酢酸の含量が増えるにつれ、更にイオン化カルシウム濃度は下がる。一般的には知られていないことであるが、酢酸の含量が多いと、クエン酸ほどではないものの透析液中のイオン化カルシウム濃度を下げる要因となることは確かである。このようなことからも酢酸含量は少ない方が望ましいことは明らかである。
【0015】
これまで国内において販売されている酢酸含有の透析用A剤は、液体、固体を問わず、総酢酸含量はすべて8mEq/L以上、かつ酢酸1に対して酢酸ナトリウムの比率が2.2以上となっており、それ未満のものは使用されていない。この条件においてはA液のpHが4.7以上となることから、液体製剤の製造面からみると、透析液調製装置が腐食されにくく、取り扱いやすいというメリットがある。
【0016】
国内で8mEq/L以上の処方になっている理由は過去のアセテート透析液(重炭酸ナトリウムを使用せず酢酸ナトリウムが30mEq/L以上配合されている)から重炭酸透析液に変わった際に、重炭酸のメリットとアセテートのメリット、すなわち直接血液の重炭酸イオンを是正するものと、アセテートの代謝を経てゆっくりと重炭酸イオンを是正することのメリットを兼ね備えた処方としたためである。
【0017】
一方、海外では液体製剤(A液)が主として販売されている。国内においては、酢酸ナトリウムはアルカリ化剤の一部として用いられているが、海外においてはB剤の炭酸水素ナトリウムのみがアルカリ化剤として用いられているため、酢酸ナトリウムは使用されていない。故に、酢酸成分としては主として通常4mEq/L以下となる量の酢酸のみをpH調節剤として用いている。
【0018】
しかしながら、上記のように酢酸ナトリウムが含まれない場合には、A液のpHは3以下となり、透析液調製装置や透析装置の金属部材の腐食や皮膚への強い刺激等の悪影響をもたらす。近年、A液(A剤粉末を溶解して調製したものも含む)のpHが3以下のものが市販されたことにより、透析液調製装置メーカーも腐食に強い耐酸性の素材を部品として用いることによって対応しているが、それら素材は高価であるために経済的に好ましくない。
【0019】
また、酢酸を含む透析液では、液体といえども大量に取り扱う透析施設においては、非常に酢酸臭が強く不快であることより、製造時や使用時に出来るだけ透析用剤が開放系にならないような工夫も必要となってくる。
【0020】
次に国内では透析用剤の粉末化の流れから粉末製剤が主流になり、粉末化に対応した重炭酸透析用剤に関する特許も数多く開示されている。例えば、特許文献5には、粉末状の透析用A剤においては酢酸に対し酢酸ナトリウムの比率(モル比)が1.56〜3.29、好ましくは2.49〜3.29配合すると、酢酸ナトリウムが酢酸を吸着しやすく、揮発しにくいことから、粉末製剤の製造がより容易になることが記載されている。しかしながら、特許文献5が開示する技術でも、最終的に調製される透析液中の総酢酸イオン含量は8mEq/L以上が想定されている。
【0021】
この他にも酢酸に対し酢酸ナトリウムが2倍超5倍以下で配合されるのが通例であり、例えば市販品のリンパックTA−1は2.2倍(酢酸2.5mEq/L:酢酸ナトリウム5.5mEq/L)、キンダリー2Eは3倍(酢酸2mEq/L:酢酸ナトリウム6mEq/L)、ハイソルブFは4.5倍(酢酸2mEq/L:酢酸ナトリウム9mEq/L)、ハイソルブDは5倍(酢酸2mEq/L:酢酸ナトリウム10mEq/L)となっている。過去の処方の変遷は別にしても酢酸に対する酢酸ナトリウムの比率が2倍以下のものが開示されていないのは酢酸臭の問題があったからである。すなわち3倍、4倍と酢酸ナトリウムの比率が上がるほど、粉末製剤としての酢酸臭は低減される。逆に2倍に近づくか、2倍以下になると耐え難いほどの酢酸臭が生じ、実用できるものではなくなる。
【0022】
このように国内外合わせても、酢酸を使用する透析液においては総酢酸イオン含量が4mEq/L以下又は8mEq/L以上のものが使用されるに止まっており、固体状A剤を水に溶解して得られたA液(濃縮液)のpHが4程度となるように設定され、且つ透析液中の総酢酸イオン含量が4〜8mEq/Lになるように設定されている透析用剤は存在していない。
【0023】
唯一、特許文献6において、酢酸と酢酸ナトリウムを使用し、透析液中の総酢酸イオン含量が最大で5mEq/Lが望ましいことが開示されている。しかしながら、特許文献6には、基本濃縮物(炭酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム及び酢酸ナトリウム)と個別濃縮物(ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、塩酸/又は酢酸、ブドウ糖)が開示されており、基本濃縮物と個別濃縮物を合わせた最終透析液では、アセテート/ナトリウムのモル比は0.03以下とある。即ち、透析液中のナトリウム含量が一般的に設定されている140mEq/Lであれば、透析液中の総酢酸イオン含量が4.2mEq/L以下に相当する。更に基本濃縮物に配合する酢酸ナトリウムは、アセテート/ナトリウムとして0.03未満とあり、これからも、透析液中の酢酸イオン含量が4mEq/L程度未満であることが示されている。つまり、特許文献6は、その実態としては、総酢酸イオン含量が4mEq/L程度未満となる透析液の製造に有効となる透析用剤が開示されているに止まっている。
【0024】
更に、特許文献6の透析用剤は、患者個々に選択できる多様な個別濃縮物の提供を可能にするものであり、その酢酸ナトリウムの配合目的は、基本濃縮物の低温時における安定性、保存性の向上である。即ち基本濃縮物中の少量の酢酸ナトリウムは炭酸水素ナトリウムの溶解性を高め、その沈殿物生成を抑制するとある。
【0025】
つまり、特許文献6の透析用剤は、個々の患者に応じた多様な処方透析(カルシウム、マグネシウム、カリウム等)を可能にするものであって、かなり複雑なシステムを要するものであり、酢酸と酢酸塩がそれぞれ異なる製剤に配合されるように設計されているため、一般的なA剤及びB剤からなる2剤型、又はA−1剤、A−2剤、B剤からなる3剤型透析用剤とは、その剤型、透析液の調製法の点で異なっている。また、特許文献6では、透析用剤の酢酸臭を低減するための技術的手段については一切検討されていない。更に、特許文献6の透析用剤では、個別濃縮液とするものは塩酸もしくは酢酸を含み、且つ塩基性成分を含まないために、pHが3以下という強い酸性に晒されることになるため、透析液製造装置の腐食の問題、ブドウ糖等の安定性においても決して良好な製剤であるとは言えない。
【0026】
以上のように、一般的な2剤型透析用剤として汎用されているA剤(電解質、酸、ブドウ糖等)、B剤(炭酸水素ナトリウム)の組み合わせにおいては、透析液中の総酢酸イオン含量が4〜8mEq/Lとなるものは存在せず、ましてや粉末状の透析用剤については強い酢酸臭のために実用的なものはなかった。また従来の3剤型透析用剤として汎用されているA−1剤(電解質・酸)、A−2剤(ブドウ糖)、B剤(炭酸水素ナトリウム)の組み合わせにおいても、上記問題点は全く同様であった。
【0027】
実際、国内、海外合わせても、透析液中の総酢酸イオン含量が8mEq/L未満となるように設定された粉末状の透析用剤を実際の実用化に成功した事例は皆無である。これは粉末状の透析用剤として流動性や安定性、酢酸臭の点で臨床使用に耐え得る製品化が困難であるためと考えられる。例えば、酢酸は、刺激臭がある点において環境への影響が大きい。臨床における透析液調製は一般に臨床工学技士が行うこととなるが、刺激臭に伴う不快感が生じるという点で問題がある。従って、このような問題点についても十分に考慮しつつ、最適な処方を見出す必要がある。
【0028】
近年、透析液中の総酢酸イオン含量が低いほど生理的に望ましく、6mEq/L未満または4mEq/L未満が望ましいとも学会等で報告されており、低い総酢酸イオン含量に設定できる透析用剤の開発が益々強く求められている。このように総酢酸イオン含量を低く抑えることにより、酢酸は他の有機酸よりも代謝速度が速く、また含量も従来品より少ないため、透析中に患者の血中酢酸濃度を殆ど上げることがなく、透析時の血圧低下などの症状発現を抑制でき、安全性が格段に向上すると考えられている。但し、学会等で報告されている総酢酸イオン含量が低い透析液は、総酢酸イオン含量が8mEq/Lに設定された透析用A剤の酢酸及び酢酸ナトリウムの添加量を単にそれぞれ1/2に変更して調製しているため、透析液のpHが必然的に高くなるという欠点がある。このような高pHの透析液では、継続的な使用は患者の血管石灰化を招くことが懸念され、更に透析液調製装置や透析装置へのカルシウム沈着の問題もある。
【0029】
一方、本願の出願人は、微量金属イオン濃度を一定に維持しつつ、患者の病態に応じて、重炭酸イオン濃度を任意に変化させることができる透析液を調製するための3剤型透析用剤、及び当該透析液の調製装置について開発している(特許文献7参照)。このように、重炭酸イオン濃度を任意に変化させることができる3剤型透析用剤であって、且つ透析液中の総酢酸イオン含量を低い値に設定可能であり、しかもA剤の保存安定性に優れ、酢酸臭を低減できる製剤技術を開発できれば、透析患者のみならず、透析療法の従事者に福音をもたらすことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0030】
【特許文献1】特開2003−104869号公報
【特許文献2】国際公開第2005/094918号
【特許文献3】特開平10−087478号公報
【特許文献4】国際公開第2010/112570号
【特許文献5】特開平7−24061号公報
【特許文献6】特開平6−245995号公報
【特許文献7】特許第5099464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0031】
本発明の目的は、透析液中の総酢酸イオン含量を低い値に設定可能で、しかも保存安定性に優れ、酢酸臭を低減でき、更に、必要に応じて、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等の微量金属イオン濃度は一定に維持しつつ、重炭酸イオン濃度を任意に変化させ得る透析液を調製することができる3剤型透析用剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0032】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、塩化ナトリウムを含むS剤と、重炭酸ナトリウムを含むB剤と、塩化ナトリウム及び重炭酸ナトリウム以外の電解質成分を含むA剤を含む3剤型透析用剤において、A剤に、酢酸及び酢酸塩を含有させ、且つ酢酸:酢酸塩のモル比が1:0.5〜2を充足させることによって、総酢酸イオン濃度が2mEq/L以上6mEq/L未満となるような重炭酸透析液が調製可能となり、当該A剤中の成分の安定性が優れていることに加え、酢酸臭を低減できることを見出した。更に、当該3剤型透析用剤によれば、S剤とA剤を同時に溶解し、一般的な2剤型透析剤として使用できることはもちろんであるが、更に特許文献7のように透析液の調製時にS剤、B剤、及びA剤の添加量を調節することによって透析液中の重炭酸イオン濃度及び/又はナトリウム濃度を変化させ得ることも可能になる。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0033】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 塩化ナトリウムを含むS剤と、重炭酸ナトリウムを含むB剤と、塩化ナトリウム及び重炭酸ナトリウム以外の電解質成分を含むA剤を含む、透析液を調製するための3剤型の透析用剤であり、
前記A剤が、酢酸及び酢酸塩を含み、且つ酢酸:酢酸塩のモル比が1:0.5〜2であり、
総酢酸イオンが2mEq/L以上6mEq/L未満である透析液の調製に使用される、3剤型透析用剤。
項2. 前記A剤における酢酸:酢酸塩のモル比が1:1〜1.5である、項1に記載の3剤型透析用剤。
項3. 総酢酸イオンが2mEq/L以上5mEq/L以下である透析液の調製に使用される、項1又は2に記載の3剤型透析用剤。
項4. 前記A剤を、最終的に調製される透析液中の各成分濃度の175倍に濃縮した水溶液の状態にした際に、pHが3.9〜4.7を示す、項1〜3のいずれかに記載の3剤型透析用剤。
項5. 酢酸塩が酢酸ナトリウムである、項1〜4のいずれかに記載の3剤型透析用剤。
項6. 前記A剤が、更に、酢酸、酢酸塩、塩化ナトリウム及び重炭酸ナトリウム以外の生理的に利用可能な電解質成分を含む、項1〜5のいずれかに記載の3剤型透析用剤。
項7. 前記電解質として、塩化カリウム、塩化マグネシウム、及び塩化カルシウムを含む、項6に記載の3剤型透析用剤。
項8. 前記A剤が、更に、ブドウ糖を含む、項1〜7のいずれかに記載の3剤型透析用剤。
項9. 前記A剤が、前記電解質として、更に酢酸塩以外の有機酸塩を含む、及び/又はpH調節剤として酢酸以外の有機酸を含む項6〜8のいずれかに記載の3剤型透析用剤。
項10. 前記A剤が固体状である、項1〜9のいずれかに記載の3剤型透析用剤。
項11. 前記A剤が固体状であり、且つ前記塩化マグネシウム及び/又は塩化カルシウムが、乾燥物若しくは無水物である、項7に記載の3剤型透析用剤。
項12. 前記酢酸及び酢酸塩が混合物として含まれる、項10又は11に記載の3剤型透析用剤。
項13. 前記酢酸及び酢酸塩の少なくとも一部が二酢酸アルカリ金属塩の形態で含まれる、項10〜12のいずれかに記載の3剤型透析用剤。
項14. 前記二酢酸アルカリ金属塩が、二酢酸ナトリウム及び/又は二酢酸カリウムである、項13に記載の3剤型透析用剤。
項15. 前記有機酸塩が、乳酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、及びコハク酸ナトリウムよりなる群から選択される少なくとも1種である、項9に記載の3剤型透析用剤。
項16. 前記有機酸が、乳酸、グルコン酸、グルコノデルタラクトン、クエン酸、リンゴ酸、及びコハク酸よりなる群から選択される少なくとも1種である、項9に記載の3剤型透析用剤。
項17. 前記A剤が、酢酸及び酢酸塩の混合物を含む第1原料と、酢酸及び酢酸塩以外の生理的に利用可能な電解質を含む組成物を含む第2原料を含み、
前記A剤中の酢酸塩の全てが前記第1原料に含まれ、又は透析用A剤中の酢酸塩の一部が前記第2原料にも含まれ、且つ
ブドウ糖が前記第2原料の組成物に含まれる、及び/又は第1原料と第2原料とは別にブドウ糖を含む第3原料が含まれる、
項10〜16のいずれかに記載の3剤型透析用剤。
項18. 前記第2原料に、電解質として、塩化カリウム、塩化マグネシウム、及び塩化カルシウムを含む、項17に記載の3剤型透析用剤。
項19. 前記第2原料に、電解質として、更に酢酸塩以外の有機酸塩が含まれる、項17又は18に記載の3剤型透析用剤。
項20. 前記S剤、B剤、及びA剤が、透湿度が0.5g/m2・24h以下の包装容器に収容されてなる、項10〜19のいずれかに記載の3剤型透析用剤。
項21. 前記S剤、B剤、及びA剤が、包装容器に、乾燥剤と共に収容されてなる、項10〜20のいずれかに記載の3剤型透析用剤。
項22. 用時にS剤、B剤、及びA剤の添加量を調節することによって透析液中の重炭酸イオン濃度及び/又はナトリウム濃度を変化させて使用される、項1〜21のいずれか記載の3剤型透析用剤。
【発明の効果】
【0034】
本発明の3剤型透析用剤は、総酢酸イオン濃度が6mEq/L未満になるように重炭酸透析液を調製できるので、透析時の血圧低下等の症状発現を抑制でき、安全性を格段に向上させることが可能になっており、更には透析液中でイオン化カルシウム濃度が低下するのを効果的に抑制することもできる。また、本発明の3剤型透析用剤におけるA剤は、ブドウ糖等の他の含有成分の安定性の向上、及び酢酸臭の低減が図られており、更には透析液調製装置や透析装置の腐食も抑制できるので、品質の向上、医療現場での使用環境の改善等が図られ、医療現場での操作性が格段に向上している。
【0035】
とりわけ、本発明の3剤型透析用剤におけるA剤について、透析液中の総酢酸イオン濃度が2〜5mEq/Lとなるように設定し、且つ酢酸:酢酸塩のモル比を1:1〜1.5程度に設定することにより、固体状A剤を水に溶解して得られたA液(濃縮液)のpH又は液体状A剤のpHを4.4付近にすることができ、より一層、臨床的に安全で、且つ製造及び品質的にも安定性に優れた3剤型透析用剤を提供することが可能になる。
【0036】
このように、本発明によれば、総酢酸イオン濃度が6mEq/L未満になるように重炭酸透析液を調製でき、従来の透析用剤よりも、臨床的に有用で且つ保存性やハンドリングの点でも優れた3剤型透析用剤を提供できる。
【0037】
また、本発明によれば、特許文献7のように透析液の調製時に必要に応じて、S剤、B剤、及びA剤の添加量を調節することによって透析液中の重炭酸イオン濃度及び/又はナトリウム濃度を自在に変化させることもできる。例えば、本発明によれば、透析液中のカリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等の微量金属イオン濃度を一定に維持しつつ、重炭酸イオン濃度を自在に変化させるとともにpHを至適範囲に制御できるので、患者の病態に適合した代謝性アシドーシスの是正が可能になる。そのため、本発明は、透析患者の死亡や入院リスクを低減させることができ、今後の透析治療において極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本明細書において、数値範囲を示す「〜」の表示は、その左側に付している数値以上且つその右側に付している数値以下であることを示し、例えば数値範囲「X〜Y」の表記はX以上Y以下であることを意味する。
【0039】
本発明は、重炭酸透析液を調製するための3剤型透析用剤であり、塩化ナトリウムを含むS剤と、重炭酸ナトリウムを含むB剤と、塩化ナトリウム及び重炭酸ナトリウム以外の電解質成分を含むA剤を含み、当該A剤が、酢酸及び酢酸塩を含み、且つ酢酸:酢酸塩のモル比が1:0.5〜2であり、総酢酸イオンが2mEq/L以上6mEq/L未満である透析液の調製に使用されることを特徴とする。以下、本発明の3剤型透析用剤について詳述する。
【0040】
S剤
S剤には、塩化ナトリウムが含まれる。S剤には、塩化ナトリウム以外の電解質成分が含まれていないことが望ましく、含有成分が実質的に塩化ナトリウムのみからなるものが好適である。S剤は、固形状又は水溶液のいずれの形態で提供されてもよいが、輸送や保管の容易性の観点から、固形状であることが望ましい。固形状のS剤の形状としては、具体的には、粉末剤、顆粒剤等が挙げられる。本明細書において、固形状のS剤を「固形S剤」、水溶液のS剤を「液状S剤」と表記することもある。
【0041】
液状S剤を採用する場合、液状S剤に含まれる塩化ナトリウムの含量については、例えば8〜32g/100ml、好ましくは26〜32g/100ml、更に好ましくは30〜31g/100mlが挙げられる。
【0042】
S剤を流通時に収容する包装容器については、特に制限されないが、例えば、A剤を収容する包装容器と同様のものが挙げられる。
【0043】
B剤
B剤には、重炭酸ナトリウムが含まれる。B剤には、重炭酸ナトリウム以外の電解質成分が含まれていないことが望ましく、含有成分が実質的に重炭酸ナトリウムのみからなるものが好適である。B剤も、S剤と同様に、固形状又は水溶液のいずれの形態で提供されてもよいが、輸送や保管の容易性の観点から、固形状であることが望ましい。固形状のB剤の形状としては、具体的には、粉末剤、顆粒剤等が挙げられる。本明細書において、固形状のB剤を「固形B剤」、水溶液のB剤を「液状B剤」と表記することもある。
【0044】
液状B剤を採用する場合、液状B剤に含まれる重炭酸ナトリウムの含量は、最終的に得られる透析液において所望の重炭酸イオン濃度を充足させ得る量であればよいが、例えば7〜12g/100ml、好ましくは8〜12g/100ml、更に好ましくは9〜11g/100mlが挙げられる。
【0045】
B剤を流通時に収容する包装容器については、特に制限されないが、例えば、A剤を収容する包装容器と同様のものが挙げられる。
【0046】
A剤
A剤には、塩化ナトリウム及び重炭酸ナトリウム以外の電解質成分が含まれる。また、当該A剤には、電解質成分として、少なくとも酢酸及び酢酸塩が含まれ、且つ酢酸:酢酸塩のモル比が1:0.5〜2である。
【0047】
A剤に含まれる酢酸は氷酢酸であってもよい。また、A剤に含まれる酢酸塩としては、透析液の成分として許容されるものである限り、特に制限されないが、例えば、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム等が挙げられる。これらの酢酸塩の中でも、長年の使用実績による安全性、コストの観点から、好ましくは酢酸ナトリウムが挙げられる。また、これらの酢酸塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0048】
また、A剤が固体状である場合、含まれる酢酸及び酢酸塩は、その少なくとも一部が二酢酸アルカリ金属塩の形態であってもよい。二酢酸アルカリ金属塩とは、酢酸アルカリ金属塩1モルと酢酸1モルが複合化した複合体(MH(C2322;Mはアルカリ金属原子を示す)であり、二酢酸アルカリ金属塩1モルからは、酢酸塩(酢酸アルカリ金属塩)1モルと酢酸1モルが供給されることになる。二酢酸アルカリ金属塩としては、具体的には、二酢酸ナトリウム、二酢酸カリウム等が挙げられる。これらの二酢酸アルカリ金属塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。二酢酸アルカリ金属塩の中でも、好ましくは二酢酸ナトリウムが挙げられる。
【0049】
A剤は、酢酸及び酢酸塩を、酢酸:酢酸塩のモル比が1:0.5〜2を充足するように含有する。このようなモル比を充足することによって、透析液中の総酢酸イオン濃度を6mEq/L未満に設定しても、固体状A剤を水に溶解して得られたA液(濃縮液)のpH又は液体状A剤のpHを3.9〜4.7程度に調製することができ、透析液調製装置や透析装置の腐食を抑制することが可能になる。更に、このようなモル比を充足することによって、A剤の保存安定性を高め、更には酢酸臭の低減を図ることも可能になる。
【0050】
A剤における酢酸と酢酸塩の比率としては、透析用A剤の保存安定性の向上、酢酸臭の低減、及び透析液調製装置や透析装置の腐食を抑制等の作用をより一層効果的に発揮させるという観点から、酢酸:酢酸塩のモル比が、好ましくは1:0.75〜1.75、より好ましくは1:0.75〜1.5、更に好ましくは1:1〜1.5、特に好ましくは1:1〜1.25が挙げられる。ここで、前述するように、二酢酸アルカリ金属塩は、酢酸1モルと酢酸アルカリ金属塩1モルの複合体であるので、酢酸及び酢酸塩の少なくとも一部として二酢酸アルカリ金属塩を使用する場合であれば、二酢酸アルカリ金属塩1モルに由来する酢酸と酢酸塩は、各々1モルとして計算される。即ち、例えば、酢酸及び酢酸塩が二酢酸アルカリ金属塩のみからなる場合には、酢酸:酢酸塩のモル比は1:1になる。また、例えば、酢酸及び酢酸塩が、二酢酸アルカリ金属塩Xモル、酢酸Yモル、及び酢酸塩Zモルからなる場合には、酢酸:酢酸塩のモル比は1:(X+Z)/(X+Y)になる。
【0051】
A剤に含まれる酢酸と酢酸塩の含量については、固体状又は液体状であるかに応じて適宜設定すればよいが、通常、最終的に調製される透析液中の総酢酸イオン含量が2mEq/L以上6mEq/L未満、好ましくは2mEq/L以上5.5mEq/L以下、更に好ましくは2mEq/L以上5mEq/L以下となるように設定される。このように、本発明の透析用A剤によれば、従来の透析用剤では実現できていないレベルにまで透析液中の総酢酸イオン含量を低く設定できるので、透析時に酢酸イオンによって誘発される血圧低下等の症状発現を抑制でき、安全性を格段に向上させることが可能になる。
【0052】
また、A剤には、酢酸及び酢酸塩以外に、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、塩化物イオン、クエン酸イオン、乳酸イオン、グルコン酸イオン、コハク酸イオン、リンゴ酸イオン等の供給源になる電解質成分が1種又は2種以上含まれていてもよい。A剤に含まれる電解質成分(酢酸及び酢酸塩以外)として、少なくとも塩化物イオン、マグネシウムイオン及びカルシウムイオンの供給源になるものが含まれていることが好ましく、これらに加えてカリウムイオンの供給源になるものが更に含まれていることがより好ましい。
【0053】
マグネシウムイオンの供給源としては、マグネシウム塩が挙げられる。A剤に使用されるマグネシウム塩については、透析液の成分として許容されるものである限り、特に制限されないが、例えば、塩化マグネシウム、乳酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、グルコン酸マグネシウム、コハク酸マグネシウム、リンゴ酸マグネシウム等が挙げられる。これらのマグネシウム塩の中でも、塩化マグネシウムは、水に対する溶解度が高いため、マグネシウムの供給源として好適に使用される。これらのマグネシウム塩は、水和物の形態であってもよく、また水和物を乾燥により脱水させた形態であってもよい。また、これらのマグネシウム塩は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0054】
カルシウムイオンの供給源としては、カルシウム塩が挙げられる。A剤に使用されるカルシウム塩としては、透析液の成分として許容されるものである限り、特に制限されないが、例えば、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、クエン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、コハク酸カルシウム、リンゴ酸カルシウム等が挙げられる。これらのカルシウム塩の中でも、塩化カルシウムは、水に対する溶解度が高いため、カルシウムの供給源として好適に使用される。これらのカルシウム塩は、水和物の形態であってもよく、また水和物を乾燥により脱水させた形態であってもよい。また、これらのカルシウム塩は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0055】
ナトリウムイオンの供給源としては、ナトリウム塩が挙げられる。酢酸塩として酢酸ナトリウムを使用する場合には、当該酢酸ナトリウムがナトリウムイオンの供給源となるが、酢酸ナトリウム以外のナトリウム塩も使用することによって、ナトリウムイオンを補充し、透析液に所望のナトリウムイオン濃度を備えさせることができる。ナトリウム塩は、透析液の成分として許容されるものである限り、特に制限されないが、例えば、乳酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム等が挙げられる。これらのナトリウム塩は、水和物の形態であってもよい。また、これらのナトリウム塩は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0056】
カリウムイオンの供給源としては、カリウム塩が挙げられる。A剤に配合されるカリウム塩についても、透析液の成分として許容されるものである限り、特に制限されないが、例えば、塩化カリウム、乳酸カリウム、クエン酸カリウム、グルコン酸カリウム、コハク酸カリウム、リンゴ酸カリウム等が挙げられる。これらのカリウム塩の中でも、塩化カリウムは、塩化物イオンが最も生理的な物質であるため、カリウムの供給源として好適に使用される。これらのカリウム塩は、水和物の形態であってもよい。また、これらのカリウム塩は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0057】
塩化物イオンの供給源としては、塩化物塩が挙げられる。A剤に配合される塩化物塩についても、透析液の成分として許容されるものである限り、特に制限されないが、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化カリウム等が挙げられる。これらの塩化物塩は、水に対する溶解度が高く、しかもカリウム、マグネシウム、又はカリウムの供給源としての役割も果たし得るので、好適に使用される。これらの塩化物塩は、水和物の形態であってもよい。また、これらの塩化物塩は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、pH調節剤としての役割も果たす塩酸を塩化物イオンの供給源として用いることもできる。
【0058】
前述するように、A剤に配合される各電解質成分は水和物の形態であってもよいが、より一層効果的に酢酸臭の低減、及び保存安定性の向上を図るという観点から、無水物の形態であることが好ましい。
【0059】
A剤に配合される電解質成分の種類と組み合わせについては、最終的に調製される透析液に含有させる各イオンの組成に応じて適宜設定されるが、A剤に含まれる電解質成分(酢酸及び酢酸塩以外)の好適な例として、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、及び塩化カリウムの組み合わせが挙げられる。また、電解質成分として、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、及び塩化カリウムを組み合わせて使用する場合、更に有機酸塩(酢酸塩以外)を含んでいてもよい。このような有機酸塩としては、例えば、乳酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム等が挙げられる。これらの有機酸塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0060】
A剤に含まれる各電解質成分の含有量は、最終的に調製される透析液に備えさせる各イオン濃度に応じて適宜設定される。具体的には、A剤に含まれる電解質成分の含有量(酢酸及び酢酸塩以外)は、酢酸塩の種類とその含有量、S剤及びB剤に含有する電解質成分の量等を勘案し、最終的に調製される透析液が下記表2に示す各イオン濃度を満たすように、適宜設定すればよい。
【0061】
【表2】
【0062】
なお、前記表2に示す各イオン濃度は、酢酸塩に由来する各イオンを含むものであり、A剤に含まれる各電解質成分の量は、酢酸塩から供給されるイオンの量も勘案して決定される。また、A剤に含まれるナトリウムの供給源となる電解質成分(酢酸ナトリウム以外)量については、透析用B剤中の炭酸水素ナトリウムから供給されるナトリウム量と、酢酸塩として酢酸ナトリウムを使用する場合には酢酸ナトリウムから供給されるナトリウム量を勘案した上で、前記表2に示すナトリウムイオン濃度を充足するように決定される。
【0063】
例えば、A剤が、酢酸及び酢酸ナトリウムを含み、且つ他の電解質成分として塩化カリウム、塩化マグネシウム、及び塩化カルシウムを含む場合、透析液に含まれる各イオン濃度を前記表1に示す範囲を充足させるには、酢酸と酢酸ナトリウム合計モル数1モル当たり、塩化カリウムが0.08〜1.5モル、好ましくは0.3〜1.25モル;塩化マグネシウムが0〜0.5モル、好ましくは0.05〜0.38モル;塩化カルシウムが0.13〜1.13モル、好ましくは0.25〜0.88モルを満たす比率に設定すればよい。
【0064】
また、A剤には、前述する電解質成分の他に、患者の血糖値の維持の目的で、ブドウ糖を含んでいてもよい。A剤中のブドウ糖の含有量は、最終的に調製される透析液に備えさせるブドウ糖濃度に応じて適宜設定される。具体的には、透析用A剤中のブドウ糖の含有量は、最終的に調製される透析液におけるブドウ糖濃度が0〜2.5g/L、好ましくは1.0〜2.0g/Lとなるように適宜設定すればよい。
【0065】
A剤は、所定の比率で酢酸及び酢酸塩を含有することにより、最終的に調製される透析液のpHも適度な範囲を備えるように調整されているが、更に必要に応じて、別途、pH調節剤を含んでいてもよい。A剤に使用可能なpH調節剤としては、透析液の成分として許容されるものである限り、特に制限されないが、例えば、塩酸、乳酸、グルコン酸等の液状の酸、クエン酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、グルコノデルタラクトン等の固形状の酸、及びこれらのナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム塩等が挙げられる。これらのpH調節剤の中でも、有機酸が好適に使用される。pH調節剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、A剤に、これらのpH調節剤を含有させる場合、その含有量については、後述する、固体状A剤を水に溶解して得られたA液又は液体状A剤のpH、並びに最終的に得られる透析液のpHを充足できるように適宜設定すればよい。
【0066】
A剤の製剤形態については、特に制限されず、固体状又は液体状のいずれであってもよい。本明細書において、固形状の透析用A剤を「固体状A剤」、液体状の透析用A剤を「液体状A剤」と表記することもある。A剤の製剤形態として、省スペース化、作業者の負担軽減という観点からは、好ましくは固体状A剤が挙げられる。
【0067】
固形状A剤の形状については、特に制限されないが、例えば、粉末剤、顆粒剤等が挙げられる。また、固体状A剤における各成分含量については、前述する透析液中の各イオン濃度を充足するように適宜設定すればよい。
【0068】
また、液体状A剤における各成分含量については、特に制限されないが、実用性を考慮すると例えば、最終的に調製される透析液中の各成分濃度の150〜200倍、好ましくは170〜180倍程度に濃縮されていればよい。
【0069】
A剤は、酢酸及び酢酸塩が前述する比率を満たすことにより、固体状A剤を水に溶解して得られたA液又は液体状A剤のpHは4付近になるため、透析液調製装置や透析装置を腐食させることがなく、しかも臨床や製造現場における作業員や在宅透析における患者等の皮膚に触れた場合の安全性も確保されている。
【0070】
固体状A剤を水に溶解して得られたA液又は液体状A剤のpHについて、より具体的には、A剤を最終的に調製される透析液中の各成分濃度の175倍に濃縮した水溶液の状態とした場合(以下、「175倍濃縮A剤溶液」と表記する)に、そのpHが通常3.9〜4.7、好ましくは4.1〜4.4、更に好ましくは4.3程度になるものが挙げられる。ここで、175倍濃縮A剤溶液のpHは、25℃にて測定される値である。
【0071】
A剤がブドウ糖を含有させる場合には、前述するpH範囲を満たすことによって、その安定性を確保することも可能になっている。ブドウ糖は、一般的にはpH3前後が最も安定であるとされているが(食品成分の相互作用、発行者:野間省一、5−15頁、編集者:並木満夫、松下雪郎、1980年5月1日発行)、A剤中にブドウ糖が含まれる場合、酢酸:酢酸塩の比率が1:0.5〜2を満たし、且つ最終的に調製される透析液の総酢酸イオン濃度が6mEq/L以下になるように設定されていることにより、A剤中でブドウ糖が極めて安定に保持されることが確認されている。
【0072】
また、A剤が、前述するpH範囲を満たすことによって、酢酸臭を効果的に低減させることも可能になっている。液体状A剤において、酢酸1モル当たり酢酸塩が2モルよりも多くなる場合には、酢酸臭が増大する傾向を示す。また、固体状A剤においては、酢酸1モル当たり酢酸塩が0.5モルよりも少なく、pHが前述する範囲を下回る場合には、酢酸臭が増大する傾向を示す。
【0073】
A剤として、特に酢酸臭の低減、ブドウ糖の保存安定性等の作用をより一層向上させて発揮させるという観点から、好ましくは、酢酸及び酢酸塩のモル比が1:0.5〜2であり、透析液としたときの総酢酸イオンが2mEq/L以上6mEq/L未満に設定されており、且つ175倍濃縮A剤溶液のpHが3.9〜4.7であるA剤;より好ましくは酢酸及び酢酸塩のモル比が1:0.75〜1.5(更に好ましくは1:1〜1.5)であり、透析液としたときの総酢酸イオンが2mEq/L以上5.5mEq/L以下に設定されており、且つ175倍濃縮A剤溶液のpHが4.1〜4.4であるA剤;特に好ましくは酢酸及び酢酸塩のモル比が1:1〜1.25であり、透析液としたときの総酢酸イオンが2mEq/L以上5mEq/L以下に設定されており、且つ175倍濃縮A剤溶液のpHが4.3程度であるA剤が挙げられる。
【0074】
A剤が固体状A剤である場合、その水分含量を低減させておくことによって、酢酸臭をより一層効果的に低減させ、保存安定性をより一層向上させることが可能になる。
【0075】
A剤の製造方法については、特に制限されず、その製剤形態に応じて適宜設定されるが、以下に、固体状A剤と液体状A剤に分けて、好適な製造方法について説明する。
【0076】
固体状A剤の好適な製造方法としては、酢酸と酢酸塩を混合する第1工程、及び第1工程で得られた混合物を他の配合成分と混合する第2工程を経て製造する方法が挙げられる。
【0077】
前記第1工程において、酢酸と酢酸塩の混合物(以下、第1原料と表記することもある)を予め調製することによって、最終的に得られる固体状A剤の酢酸臭を大幅に軽減することが可能になる。とりわけ無水酢酸ナトリウムを用いた場合に、より効果的に酢酸臭の抑制が可能になるので、固体状A剤の製造において、酢酸として氷酢酸を使用し、酢酸塩として無水酢酸ナトリウムを使用することが好ましい。
【0078】
また、固体状A剤に含まれる酢酸塩の全量を第1工程における混合物の調製に供してもよく、また、固体状A剤に含まれる酢酸塩の一部を第1工程における混合物の調製に供し、残部の酢酸塩は第2工程において混合してもよい。固体状A剤に含まれる酢酸塩の内、第1工程に供される酢酸塩の量については、特に制限されないが、例えば、固体状A剤に含まれる酢酸塩の総量100重量部当たり、第1工程に供される酢酸塩の量が通常20〜100重量部、好ましくは50〜100重量部が挙げられる。
【0079】
更に、固体状A剤に含まれる酢酸の全量を第1工程における混合物の調製に供してもよく、また、固体状A剤に含まれる酢酸の一部を第1工程における混合物の調製に供し、残部の酢酸は第2工程において混合してもよい。固体状A剤に含まれる酢酸は第1工程に供される量が多い程、酢酸臭をより一層効果的に低減させることができ、固体状A剤に含まれる酢酸全量が第1工程に供されることが好ましい。固体状A剤に含まれる酢酸の内、第1工程に供される酢酸の量としては、具体的には、固体状A剤に含まれる酢酸の総量100重量部当たり、第1工程に供される酢酸の量が通常50〜100重量部、好ましくは75〜100重量部、更に好ましくは100重量部が挙げられる。
【0080】
第1工程において、酢酸と酢酸塩の混合方法については特に制限されないが、酢酸臭をより一層効果的に低減させるという観点からは、加熱混合、乾燥、送風、減圧処理等の低水分状態で混合する方法が好適である。
【0081】
第1工程で得られる混合物は水分含量が少なく低湿度環境では、酢酸臭を僅かにしか発しないが、水分含量が多い場合や高湿度環境では強い酢酸臭を発する傾向があるので、製造工程における当該混合物の含有水分量や保管時の湿度を下げることによって、酢酸臭をより一層抑制することが可能になる。例えば、酢酸ナトリウムを50〜150℃程度に加熱して含有水分量を十分に低くし、氷酢酸にはモレキュラーシーブスなどの水分吸着剤を添加することによって含有水分を除去することもできる。これらを60%RH以下、好ましくは50%RH以下、更に好ましくは40%RH以下(ともに25℃の場合)の条件下で混合することによって、酢酸臭の少ない混合物を得ることが可能となる。また、混合時に30〜90℃に加温したり、絶対湿度の低い、例えば1.5g/m3以下の乾燥空気を送風したり、減圧したりする等、余分な水分を除去する手段を用いることによって、或いは混合後、密閉容器内で一時的に保存、又は必要に応じて加温したりすることで更に酢酸臭の抑制効果を向上させることができる。
【0082】
前記第2工程では、第1工程で得られた第1原料を他の配合成分と混合することにより、固体状A剤を調製する。本第2工程における第1工程で得られた混合物と他の配合成分の混合は、単純混合であってもよく、また撹拌造粒、流動層造粒、転動流動層造粒、加圧造粒等の乾式及び湿式造粒法を用いて行ってもよい。
【0083】
前記第2工程において、混合される他の配合成分は、それぞれ個別に前記第1原料と混合されてもよく、また混合される他の配合成分の一部又は全部を含む組成物を予め調製し、当該組成物を前記第1原料と混合してもよい。好ましくは、酢酸と酢酸塩以外の電解質成分と必要に応じて酢酸塩を含む組成物(以下、第2原料と表記することもある)を予め調製し、これを前記第1原料と混合する方法が挙げられる。本発明の透析用A剤に有機酸塩を含有させる場合には、当該有機酸塩は、前記第2原料中に含有させておくことが好ましい。また、本発明の透析用A剤にブドウ糖を含有させる場合には、当該ブドウ糖は、前記第2原料に含有させてもよく、また第1原料及び第2原料とは別に、第3原料として前記第1原料及び第2原料と共に混合してもよい。更に、ブドウ糖は、一部を前記第2原料に含有させ、残部を第3原料として混合してもよい。更に、酢酸の一部を第2工程で混合する場合には、酢酸は、前記第2原料中に混合してもよいが、別途、前記第1原料及び第2原料、必要に応じて混合される第3原料とは別に、第4原料として混合してもよい。また、酢酸以外の有機酸についても、前記第2原料、第3原料、及び第4原料のいずれか少なくとも1つに含有させてもよく、またこれらとは別に、第5原料として混合してもよい。
【0084】
また、前記第2原料として第2工程に供される組成物は、各電解質成分の混合物の状態であればよいが、造粒物の状態であることが好ましい。造粒物の状態の第2原料を製造する方法については、特に制限されないが、例えば、電解質成分として塩化カリウム、塩化カルシウム及び塩化マグネシウムを含む造粒物(第2原料)を製造する場合であれば、塩化カリウムに対して、塩化カルシウム及び塩化マグネシウムの少なくとも一部を水溶液として、必要に応じて残部を粉末として添加し、50〜90℃で加温混合後、必要に応じて他の配合成分(有機酸塩やブドウ糖等)を加えて、さらに加温混合することにより造粒物を形成する方法が挙げられる。また、当該造粒物の形成において、塩化カルシウム及び塩化マグネシウムの水溶液を添加する代わりに、粉末状の塩化カルシウム及び塩化マグネシウムを添加し、その前若しくは後に適量の水を添加してもよい。但し、どのような造粒操作を経たとしても造粒物は十分に乾燥されておくことが好ましい。また、無水物である塩化マグネシウム及び塩化カルシウムを使用してもよく、更にはそれらの水和物を乾燥により脱水したものを用いてもよい。
【0085】
第2工程の好適な具体例として、第1原料(酢酸と酢酸塩の混合物)と、第2原料(酢酸と酢酸塩以外の電解質を含む組成物)と、必要に応じて第3原料(ブドウ糖)と、必要に応じて第4原料(酢酸)と、必要に応じて第5原料(酢酸以外の有機酸)を、低湿度下(60%RH以下、好ましくは50%RH以下、更に好ましくは40%RH以下(ともに25℃の場合))で混合する方法が挙げられる。第2工程における混合時には、前記第1工程と同様に、30〜90℃に加温したり、絶対湿度の低い乾燥空気を送風したり、減圧したりする等、余分な水分を除去する手段を用いることによって、より一層酢酸臭の抑制効果を高めることができる。また、製造される固体状A剤の酢酸臭をより一層低減させるという観点から、第1原料、第2原料、並びに必要に応じて添加される第3原料等は、水分含量が低い状態にしておくことが好ましい。このように水分含量を低減させる方法としては、例えば、第2工程の混合に供される各原料を予め90〜140℃で乾燥し、絶対湿度1.5g/m3以下の冷風により冷却する方法が挙げられる。
【0086】
また、前述するように、二酢酸アルカリ金属塩は、酢酸と酢酸塩の複合体であるので、前記第1原料となる酢酸と酢酸塩の混合物として二酢酸アルカリ金属塩を用いてもよい。また、二酢酸アルカリ金属塩は、市販品であっても、また公知の製法で得られたもの(例えば、酢酸とアルカリ金属水酸化物との反応物、酢酸とアルカリ金属炭酸塩との反応物、酢酸アルカリ金属に酢酸を含浸させたもの等)であってもよい。
【0087】
斯して製造される固体状A剤は、必要に応じて乾燥処理に供した後に包装容器に収容して提供される。固体状A剤の包装に使用される包装容器としては、例えば、フレキシブルバッグやハードボトルが使用される。当該包装容器として、具体的には、シリカ蒸着ラミネート袋やアルミ蒸着ラミネート袋、酸化アルミ蒸着ラミネート袋、アルミラミネート袋、ポリエチレン製ハードボトル等が挙げられる。とりわけ、アルミニウム箔等の金属箔が用いられている包装袋(アルミラミネート袋等)は、透湿度を低くでき、酢酸の揮発及び環境からの吸湿をより効果的に抑制できる。また、これらの包装容器の透湿度については、酢酸臭をより一層有効に低減させるという観点から、好ましくは0.5g/m2・24h(40℃、90%RH)以下、更に好ましくは0.2g/m2・24h(40℃、90%RH)以下が挙げられる。当該透湿度は、JIS Z0208 防湿包装材料の透湿度試験方法(カップ法)に規定の測定方法に準拠して測定される値である。
【0088】
更に、包装容器に収容される固体状A剤の水分含量をより効果的に低減させるために、包装容器内には、固体状A剤と共に、乾燥剤を収容してもよい。乾燥剤としては、特に制限されないが、例えば、ゼオライト、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、シリカゲル、アルミナ等が挙げられる。包装容器に乾燥剤を収容する場合、これら物質が容器を構成するプラスチックの一部(例えば、ポリエチレン層)に配合された容器を用いてもよいし、包装容器内に乾燥剤を収納できるスペース(別室)を設けてもよい。また乾燥剤を不織布等に入れた状態で、固体状A剤に混入しないようにして包装容器に収容してもよい。
【0089】
液体状A剤は、酢酸、酢酸塩、他の電解質、必要に応じてブドウ糖を所定量はかり取り、水に混合して溶解させることにより調製される。また、前述する固体状A剤の所定量を水に溶解させることにより調製することもできる。また、各配合成分を水に溶解させた後に、必要に応じて濾過等の処理に供してもよい。
【0090】
斯して調製された液体状A剤は、包装容器に収容して提供される。液体状A剤の包装に使用される包装容器としては、例えばポリエチレンボトル等のプラスチック容器が挙げられる。
【0091】
透析液の調製
前記S剤、B剤、A剤、及び必要に応じて水を所望量添加・混合する工程を経て、透析液が調製される。
【0092】
発明の透析用剤を用いた透析液の調製において、水は、最終的に得られる透析液の各成分濃度を調整するために、必要に応じて添加される。本発明の3剤型透析用剤から透析液を調製する際に使用される水としては、薬学的に許容される程度に精製されたものであればよく、具体的には、日本薬局方に規定する精製水と品質的に合致するものであればよい。例えば、透析液の調製に使用される水としては、水道水や地下水を、活性炭処理や軟水化処理等で前処理した後に、逆浸透膜ろ過、蒸留、超ろ過等で精製処理したものが挙げられる。また、透析液を調製する際に使用される水は、市販されている精製水や蒸留水であってもよい。
【0093】
また、本発明の3剤型透析用剤によって調製される透析液のpHについては、透析液として許容される範囲を充足する限り、特に制限されないが、透析患者の過剰なアシドーシス是正の危険性を避けるという観点から、好ましくは7.2〜7.6、更に好ましくは7.3〜7.5、特に好ましくは7.3〜7.4が挙げられる。本発明で使用されるA剤は、重炭酸の緩衝作用に加え、酢酸と酢酸塩の供給源が特定の組成を満たすことにより備わる酢酸−酢酸塩の緩衝作用で、前記範囲のpHの透析液を調製可能に設定されている。
【0094】
本発明の3剤型透析用剤によって調製される透析液の重炭酸イオン濃度については、例えば、20〜40mEq/L、好ましくは25〜35mEq/L、更に好ましくは27〜33mEq/Lの範囲内に設定される。また、本発明の3剤型透析用剤によって調製される透析液の総酢酸イオン濃度、その他のイオン濃度については、前述する通りである。
【0095】
本発明の3剤型透析用剤は、重炭酸イオンと共に他の各イオン濃度が経時的に一定に保持された透析液(イオン濃度一定型)を調製することもでき、またカリウム、カルシウム、マグネシウム等のイオン濃度を一定に維持しながら、重炭酸イオン濃度及び/又はナトリウムイオンを自在に変化させた透析液(イオン濃度変動型)を調製することもできる。
【0096】
イオン濃度一定型の透析液の調製
イオン濃度一定型の透析液の調製は、最終的に得られる透析液の全量に対して、S剤、B剤、A剤、及び必要に応じて添加する水の各添加量を一定にして、一括で、或いは断続的又は連続的にこれらを混合することにより行われる。また、イオン濃度一定型の透析液を調製する場合、前記S剤、B剤、及びA剤は、任意の順で混合すればよい。例えば、S剤とA剤を同時に溶解して予め濃厚A液を調製することにより、当該濃厚A液とB剤からなる一般的な2剤型透析剤として、イオン濃度一定型の透析液の調製に使用することもできる。
【0097】
イオン濃度変動型の透析液の調製
イオン濃度変動型の透析液の調製は、S剤、B剤、及びA剤の添加量を適宜調節することによって行われる。例えば、最終的に得られる透析液の全量に対してA剤の添加量の割合を一定に維持しつつ、B剤の添加量を調節することにより、透析液中のカリウム、カルシウム、マグネシウム等の微量金属イオン濃度を一定に維持しながら、重炭酸イオン濃度を自在に変化させることもできる。また、最終的に得られる透析液の全量に対してA剤の添加量の割合を一定に維持しつつ、S剤の添加量を調節することにより、透析液中の微量金属イオン濃度を一定に維持しながら、ナトリウムイオン濃度を自在に変化させることもできる。更に、最終的に得られる透析液の全量に対してA剤の添加量の割合を一定に維持しつつ、S剤及びB剤の添加量を調節することにより、透析液中の微量金属イオン濃度を一定に維持しながら、重炭酸イオン濃度とナトリウムイオン濃度の双方を変化させたり、一方を一定に維持しつつ他方を変化させたりすることもできる。
【0098】
具体的には、透析液中の重炭酸イオン濃度は、前述する範囲内で、患者の病態に応じて個々に設定することができ、例えば、一定値に設定してもよく、透析中に前述する範囲内で変化するように設定してもよい。ここでいう患者の病態には、患者の代謝性アシドーシスの程度や栄養状態、透析中における容態等が含まれる。
【0099】
透析液中の重炭酸イオンの濃度を透析中に変化させる例としては、例えば以下の(1)〜(8)の態様が挙げられる。
(1)透析処置の開始時から終了時にかけて重炭酸イオン濃度を低下させる。
(2)透析処置の開始時から終了時にかけて重炭酸イオン濃度を上昇させる。
(3)透析処置の開始時から途中まで重炭酸イオン濃度を低下させ、その後、終了時まで重炭酸イオン濃度を一定に維持する。
(4)透析処置の開始時から途中まで重炭酸イオン濃度を上昇させ、その後、終了時まで重炭酸イオン濃度を一定に維持する。
(5)透析処置の開始時から途中まで重炭酸イオン濃度を一定に維持し、その後、終了時まで重炭酸イオン濃度を上昇させる。
(6)透析処置の開始時から途中まで重炭酸イオン濃度を一定に維持し、その後、終了時まで重炭酸イオン濃度を低下させる。
(7)透析処置の開始時から途中まで重炭酸イオン濃度を低下させ、その後、終了時まで重炭酸イオン濃度を上昇させる。
(8)透析処置の開始時から途中まで重炭酸イオン濃度を上昇させ、その後、終了時まで重炭酸イオン濃度を低下させる。
これらの重炭酸イオン濃度を変動させる態様はあくまで例示であり、患者の病状や生理状態に応じて、上記(1)〜(8)以外の態様で、透析中に重炭酸イオン濃度を連続的に、段階的に、間欠的に、反復的に変化させ得ることはいうまでもない。
【0100】
また、透析液中のナトリウムイオン濃度は、前述する範囲内で、個々の患者の病態や透析中における容態に応じて一定値に設定したり、前述する範囲内で透析中に変化するように設定してもよい。
【0101】
例えば、低血圧患者や糖尿病などの溢水状態になりやすい患者に対しては、現在広く使われている透析液のナトリウムイオン濃度(140mEq/L)で十分な除水をする事が困難な場合がある。このような患者に対しては、ナトリウム濃度を145〜160mEq/L程度とする高ナトリウム透析液を用いる場合がある。高ナトリウム透析により、血漿浸透圧を上げることで細胞内の水分を効率よく血中に引き出し、循環血漿量の増加させるために透析中の血圧低下防止に有用であると考えられるが、口渇により透析間の体重増加量の増大が問題となるため、透析開始当初のナトリウムイオン濃度を高く設定し、以後段階的にナトリウムイオン濃度を減少させていく方法や、高ナトリウム濃度と正ナトリウム濃度又は低ナトリウム濃度を一定時間ごとで交互に切り替える方法等、患者に応じたナトリウムイオン濃度に変動させることができ、且つ重炭酸イオン濃度も同時に変動させることもできることが、より患者にとって好ましい。
【0102】
3剤型透析用剤を用いてイオン濃度変動型の透析液を調製するための条件については特許文献7において詳細に開示されており、本発明の3剤型透析用剤を用いてイオン濃度変動型の透析液を調製するための詳細条件は、特許文献7の開示内容を参考にして適宜設定すればよい。
【0103】
本発明の3剤型透析用剤を用いた透析液の調製は、B剤、S剤、A剤、及び必要に応じて添加される水を、所定の比率で混合できる透析液調製装置を利用して行うことができる。また、透析液中の重炭酸イオン濃度を経時的に変化させる場合には、B剤の添加量を制御する手段や、S剤とB剤の添加量の比率を制御する手段を有する透析液調製装置を利用すればよく、このような透析装置については特許文献7に示されており、公知である。
【実施例】
【0104】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0105】
試験例1
(1)液体状A剤の調製
塩化カリウム2.61g、塩化カルシウム水和物3.86g、塩化マグネシウム水和物1.78g、ブドウ糖17.50g、氷酢酸(表3に示す所定量)、及び無水酢酸ナトリウム(表3に示す所定量)を水に溶かし、総量を100mLにした透析用液体状A剤を調製した。当該透析用液体状A剤は、最終的に調製される透析液中の各成分濃度の175倍に濃縮した水溶液(カリウムイオン濃度が350mEq/L)の状態のものである。
【0106】
【表3】
【0107】
(2)液体状A剤のpH、揮発酢酸濃度、5−HMF量、及び腐食性の評価
上記で得られた各液体状A剤のpHを測定した。pHはpHメーター(製造元:堀場製作所、型番:F−73)を用いて液温25℃で測定した。
【0108】
上記で得られた各液体状A剤の揮発酢酸濃度を、以下の方法で測定した。具体的には、揮発酢酸濃度については、三角フラスコに各液体状A剤を収容し、15分間静置後に液面上部に酢酸測定用の検知管をセットし、一定量の試料気体を検知管に通気させて、検知管式気体測定器(製造元:GASTEC、型番:GV−100S)で測定した。
【0109】
また、調製直後の各液体状A剤について、ブドウ糖の分解物である5−ヒドロキシメチルフルフラール(以下5−HMFと記載)量を測定した。更に、ポリエチレン製ボトルに各液体状A剤を収容し、40℃且つ相対湿度75%RHで1カ月間保存後に5−HMF量を測定した。5−HMF量については、0.2μmフィルターでろ過した液について分光光度計を用いて、5−HMFの吸収波長(波長284nm)の吸光度を測定した。
【0110】
また、上記で得られた各液体状A剤のステンレスに対する腐食性について、以下の方法で評価した。200mL容の透明スチロール容器に各液体状A剤100mLを入れ、更に40mm×100mmのステンレス(SUS304)プレートのほぼ半分の面積が各液体状A剤に浸漬するように静置し、透明スチロール容器に蓋を載せ、室温で2カ月間放置した。保存2カ月後に、液体状A剤中の鉄濃度を測定した。鉄濃度の測定は、第十六改正日本薬局方の「一般試験法 1.化学的試験法 1.10鉄試験法」で規定されているA法に準じて行った。具体的な測定条件は、以下の通りである。液体状A剤5mLに鉄試験用酢酸・酢酸ナトリウム緩衝液5mL、L−アスコルビン酸溶液(1g→100mL)2mLを加え混和し、30分間放置した。次に、2、2’−ビピリジルのエタノール(95)溶液(0.25g→50mL)1mLを加え、水で正確に50mLとし、混和し、30分間放置し、試料溶液とした。標準溶液には日局鉄標準液(日局0.01mg/mL)2mLを用いた。試料溶液をブランク補正した後、試料溶液及び標準溶液について、分光光度計を用いて、吸収波長(波長522nm)の吸光度を測定し、鉄濃度を算出した。なお、腐食性の評価はn=2で測定を行い、液体状A剤中の鉄濃度の平均値を算出した。
【0111】
得られた結果を表4に示す。表4から明らかなように、酢酸:酢酸ナトリウムのモル比が1:0.5〜2の範囲内である液体状A剤(実施例1〜4)は、pHが3.9以上であり、臨床現場で安全に取り扱うことができ、透析液調製装置や透析装置の腐食の心配がないものであった。一方、酢酸:酢酸ナトリウムのモル比が1:0の液体状A剤(比較例1)では、pHが3未満の強い酸性を示し、取扱い上の十分な安全性が確保できていなかった。
【0112】
酢酸:酢酸ナトリウムのモル比が1:0.5〜2の液体状A剤(実施例1〜4)は、比較例2に比し揮発酢酸濃度が低くなっており、揮発酢酸濃度を格段に低減できていた。
【0113】
また、酢酸:酢酸ナトリウムのモル比が1:0.5〜2の液体状A剤(実施例1〜4)は、ブドウ糖の分解物である5−HMF量が少なく、特に当該モル比が1:0.5〜1.5の場合(実施例1〜3)では5−HMF量が格段に少なくなっており、ブドウ糖の分解が効果的に抑制できていた。従来の透析用A剤(透析液中の総酢酸濃度8mEq/L以上)においては、最終的に調製される透析液中の各成分濃度の175倍に濃縮した際に、輸送コストや病院内での作業性が改善できる反面、塩化ナトリウム及び重炭酸ナトリウム以外の電解質成分及びブドウ糖が高濃度に濃縮されているため、各電解質成分の影響を受けやすく、また酢酸及び酢酸塩の総量が増加すると更にその影響が強くなることによってブドウ糖の分解が促進される傾向を示すが(例えば、比較例2の結果を参照)、実施例1〜4の液体状A剤では、最終的に調製される透析液中の酢酸イオン濃度が6mEq/L未満となるように設定されており、酢酸及び酢酸塩の総量が少ないため、175倍に濃縮された液体状A剤であっても、ブドウ糖の分解が効果的に抑制できていると考えられる。
【0114】
更に、酢酸:酢酸ナトリウムのモル比が1:0の液体状A剤(比較例1)では、保存後の鉄濃度が高く、ステンレスプレートの腐食が進行していた。これに対して、当該モル比が1:0.5〜2の液体状A剤(実施例1〜4)では、保存後の鉄濃度が低い値で維持されており、透析液調製装置や透析装置の腐食を抑制できるものであった。
【0115】
【表4】
【0116】
(3) 重炭酸透析液の調製と評価
上記で得られた各透析用液体状A剤2mLを正確に量り、精製水を加えて300mLとし、ここに透析用S剤(塩化ナトリウム)(表5に示す所定量)、及び透析用B剤(炭酸水素ナトリウム)0.882gを添加し(透析液の重炭酸イオン濃度は30mEq/L)、精製水を加えて正確に350mLとし、重炭酸透析液を調製した。得られた重炭酸透析液(実施例1〜4及び比較例1〜2の透析用液体状A剤使用)には、いずれも、ナトリウムイオン140mEq/L、カリウムイオン2mEq/L、カルシウムイオン3mEq/L、マグネシウムイオン1mEq/Lが含まれている。得られた重炭酸透析液のpH及びイオン化カルシウム濃度を測定した。pHはpHメーター(製造元:堀場製作所、型番:F−73)を用いて液温25℃で測定し、またイオン化カルシウム濃度は血液ガス分析装置cobas b121(製造元:ロシュ・ダイアグノスティックス)を用いて測定した。
【0117】
得られた重炭酸透析液における総酢酸イオン濃度、pH及びイオン化カルシウム濃度を表6に示す。実施例1〜4の透析用液体状A剤を用いて調製した重炭酸透析液は、総酢酸イオン濃度が2mEq/L以上6mEq/L未満であって、透析液として適したpHを保持しており、しかも比較例2に比して、イオン化カルシウム濃度を高く維持することができた。
【0118】
【表5】
【0119】
【表6】
【0120】
試験例2
(1)固体状A剤の調製
塩化カリウム2.61g、塩化カルシウム水和物3.86g、塩化マグネシウム水和物1.78g、さらに水0.53gを加え混合し、150℃で乾燥することにより、電解質組成物を得た。前期電解質組成物とブドウ糖17.50g、酢酸(表7に示す所定量)、二酢酸ナトリウム(表7に示す所定量)、酢酸ナトリウム(表7に示す所定量)を撹拌混合し、透析用固体状A剤を得た。
【0121】
【表7】
【0122】
(2)固体状A剤の評価
(175倍濃縮A剤溶液のpH)
上記で得られた各固体状A剤を精製水に溶解し、最終的に調製される透析液中の各成分濃度の175倍に濃縮した水溶液の状態にして、175倍濃縮A剤溶液を調製した。具体的には、上記で得られた各固体状A剤全量を精製水に溶解して100mLとすることにより、175倍濃縮A剤溶液を調製した。得られた175倍濃縮A剤溶液について、pHメーター(製造元:堀場製作所、型番:F−73)を用いて液温25℃でpHを測定した。
【0123】
(揮発酢酸濃度及び5−HMF量)
各固体状A剤について、得られた各固体状A剤全量を、ポリエチレン製の袋に収容した。更に、これを表8に示す包装袋に収容して密封し、25℃且つ相対湿度60%RH、及び40℃且つ相対湿度75%RHで2カ月間保存した。
【0124】
【表8】
【0125】
保存前、保存2週間後、及び保存1カ月後に、各固体状A剤を収容したポリエチレン製袋内に検知管をセットし、一定量の試料気体を酢酸測定用の検知管に通気させて、検知管式気体測定器(製造元:GASTEC、型番:GV−100S)で揮発酢酸濃度を測定した。
【0126】
また、保存前、保存2週間後、及び保存1カ月後の各固体状A剤を、上記で得られた各固体状A剤全量を精製水に溶解して100mLとすることにより、最終的に調製される透析液中の各成分濃度の175倍に濃縮した175倍濃縮A剤溶液を調製した。得られた175倍濃縮A剤溶液の5−HMF量を上記と同様の方法で測定した。
【0127】
175倍濃縮A剤溶液のpHの測定結果を表9、揮発酢酸濃度の測定結果を表10及び11、5−HMF量の測定結果を表12及び13に示す。
【0128】
酢酸:酢酸塩のモル比が1:0の透析用固体状A剤(比較例3)から調製した175倍濃縮A剤溶液では、pHが2.2付近と低く、強い酸性であって、取扱い上の十分な安全性が確保できておらず、更には透析液調製装置や透析装置の腐食が懸念される処方になっていた。また、比較例3の透析用固体状A剤では、揮発酢酸濃度も1000ppmを超えており、臨床現場では許容できないレベルであった。また、5−HMFの吸収波長である284nmでの吸光度が保存期間中において、他の実施例に比して高めであり、ブドウ糖が安定に保持できていなかった。更に、比較例4の透析用固体状A剤においては、酢酸:酢酸塩のモル比が1:3にも拘らず、揮発酢酸濃度は900ppmと高い値を示していた。
【0129】
これに対して、酢酸:酢酸塩のモル比が1:0.5〜2の範囲内である透析用固体状A剤(実施例5〜8)から調製した175倍濃縮A剤溶液では、pHが3.9以上であり、臨床現場で安全に取り扱うことができ、透析液調製装置や透析装置の腐食の心配がないものであった。また、実施例5〜8の透析用固体状A剤では、揮発酢酸濃度が比較例3及び4よりも低かった。更に、実施例5〜8の透析用固体状A剤から調製した175倍濃縮A剤溶液は、調製後の5−HMFの吸収波長である波長284nmでの吸光度が、比較例3に比べると十分に低い値を示しており、ブドウ糖の分解が十分に抑制できていた。中でも、実施例6〜8(酢酸:酢酸塩=1:1〜2)では、揮発酢酸濃度と波長284nmでの吸光度が顕著に低い値を示していた。
【0130】
【表9】
【0131】
【表10】
【0132】
【表11】
【0133】
【表12】
【0134】
【表13】
【0135】
(3)透析液の調製
前記で調製した175倍濃縮A剤溶液2mLを正確に量り、精製水を加えて約300mLとし、ここに透析用S剤(塩化ナトリウム)(表14に示す所定量)、及び透析用B剤(炭酸水素ナトリウム)0.882gを添加し(透析液の重炭酸イオン濃度は30mEq/L)、精製水を加えて正確に350mLとし、重炭酸透析液を調製した。得られた重炭酸透析液(実施例5〜8及び比較例3〜4の固体状A剤を使用)には、いずれも、ナトリウムイオン140mEq/L、カリウムイオン2mEq/L、カルシウムイオン3mEq/L、マグネシウムイオン1mEq/Lが含まれている。
【0136】
【表14】
【0137】
また、得られた重炭酸透析液(実施例5〜8及び比較例3〜4の固体状A剤を使用)に含まれる総酢酸イオン濃度は表15の通りであり、酢酸:酢酸ナトリウムのモル比が1:0.5〜2の固体状A剤を使用して調製された重炭酸透析液は、総酢酸イオン濃度が2mEq/L以上6mEq/L未満の範囲を充足できることが確認された。
【0138】
【表15】
【0139】
試験例3
(1)固体状A剤の調製
(実施例9)
塩化カリウム2.61g、塩化カルシウム水和物3.86g、塩化マグネシウム水和物1.78g、さらに水0.53gを加え混合し、150℃で乾燥することにより、電解質組成物を得た。また別に氷酢酸0.105kgと無水酢酸ナトリウム0.144kgを混合し、酢酸及び酢酸ナトリウムの混合物を得た。前期電解質組成物とブドウ糖17.50g、二酢酸ナトリウム3.48g、酢酸及び酢酸ナトリウム混合物1.49gを撹拌混合し、透析用固体状A剤を得た。得られた透析用固体状A剤における酢酸:酢酸ナトリウムのモル比は1:1である。
【0140】
(実施例10)
塩化カリウム2.61g、塩化カルシウム水和物3.86g、塩化マグネシウム水和物1.78g、さらに水0.53gを加え混合し、150℃で乾燥することにより、電解質組成物を得た。また別に氷酢酸0.105kgと無水酢酸ナトリウム0.144kgを混合し、酢酸及び酢酸ナトリウムの混合物を得た。前期電解質組成物とブドウ糖17.50g、二酢酸ナトリウム2.49g、酢酸及び酢酸ナトリウム混合物2.49gを撹拌混合し、透析用固体状A剤を得た。得られた透析用固体状A剤における酢酸:酢酸ナトリウムのモル比は1:1である。
【0141】
(実施例11)
塩化カリウム2.61g、塩化カルシウム水和物3.86g、塩化マグネシウム水和物1.78g、さらに水0.53gを加え混合し、150℃で乾燥することにより、電解質組成物を得た。また別に氷酢酸0.105kgと無水酢酸ナトリウム0.144kgを混合し、酢酸及び酢酸ナトリウムの混合物を得た。前期電解質組成物とブドウ糖17.50g、二酢酸ナトリウム0.99g、酢酸及び酢酸ナトリウム混合物3.98gを撹拌混合し、透析用固体状A剤を得た。得られた透析用固体状A剤における酢酸:酢酸ナトリウムのモル比は1:1である。
【0142】
(実施例12)
塩化カリウム2.61g、塩化カルシウム水和物3.86g、塩化マグネシウム水和物1.78g、さらに水0.53gを加え混合し、150℃で乾燥することにより、電解質組成物を得た。また別に氷酢酸0.105kgと無水酢酸ナトリウム0.144kgを混合し、酢酸及び酢酸ナトリウムの混合物を得た。前期電解質組成物とブドウ糖17.50g、酢酸及び酢酸ナトリウム混合物4.97gを撹拌混合し、透析用固体状A剤を得た。得られた透析用固体状A剤における酢酸:酢酸ナトリウムのモル比は1:1である。
【0143】
各透析用固体状A剤(実施例9〜12)について、酢酸及び/又は酢酸塩として添加した成分の種類と添加量、酢酸及び酢酸ナトリウムのモル比を表16に示す。
【0144】
【表16】
【0145】
(2)透析用固体状A剤の長期及び加速安定性の評価
各透析用A剤(実施例9〜12)について、得られた各固体状A剤全量を、ポリエチレン製の袋に収容した。更に、これを表8に示すPET/AL/PE袋に収容して密封し、25℃且つ相対湿度60%RH、及び40℃且つ相対湿度75%RHで2カ月間保存した。
【0146】
保存前、保存2週間後及び1カ月後の各透析用A剤について、試験例2と同様の方法で揮発酢酸濃度を測定した。また、保存前、保存2週間後及び1カ月後の各透析用A剤全量を精製水に溶解して100mLとすることにより、最終的に調製される透析液中の各成分濃度の175倍に濃縮した175倍濃縮A剤溶液を調製し、得られた175倍濃縮A剤溶液のpH及び5−HMF量を試験例2と同様の方法で測定した。
【0147】
得られた結果を表17及び18に示す。この結果から、実施例9〜12の透析用固体状A剤では、長期及び加速試験後であっても、酢酸の揮発とブドウ糖の分解を十分に抑制できており、優れた保存安定性を備えていた。
【0148】
【表17】
【0149】
【表18】
【0150】
試験例4
(1)固体状A剤(実施例13〜15)の調製
塩化カリウム2.61g、塩化カルシウム水和物3.86g、塩化マグネシウム水和物1.78gを加え混合し、電解質組成物を得た。また別に氷酢酸0.105kgと無水酢酸ナトリウム0.144kgを混合し、酢酸及び酢酸ナトリウムの混合物を得た。前期電解質組成物8.25gとブドウ糖17.50g、酢酸及び酢酸塩の混合物(表19に示す所定量)、酢酸ナトリウム(表19に示す所定量)を撹拌混合し、透析用固体状A剤を得た。
【0151】
(2)固体状A剤(実施例16〜18)の調製
塩化カリウム2.61g、無水塩化カルシウム2.91g、無水塩化マグネシウム0.83g、を加え混合し、電解質組成物を得た。また別に氷酢酸0.105kgと無水酢酸ナトリウム0.144kgを混合し、酢酸及び酢酸ナトリウムの混合物を得た。前期電解質組成物6.35gとブドウ糖17.50g、酢酸及び酢酸塩の混合物(表19に示す所定量)、酢酸ナトリウム(表19に示す所定量)を撹拌混合し、透析用固体状A剤を得た。
【0152】
【表19】
【0153】
(3)固体状A剤の評価
(175倍濃縮A剤溶液のpH)
上記で得られた各固体状A剤を用いて、前記試験例2と同様の方法で、175倍濃縮A剤溶液のpH、揮発酢酸濃度及び5−HMF量について測定した。
【0154】
175倍濃縮A剤溶液のpHの測定結果を表20、揮発酢酸濃度の測定結果を表21、5−HMF量の測定結果を表22に示す。
【0155】
酢酸:酢酸ナトリウムのモル比が1:1〜1.5の固体状A剤(実施例13〜18)を使用して得られた175倍濃縮A剤溶液では、いずれもpHが4以上であり、臨床現場で安全に取り扱うことができ、透析液調製装置や透析装置の腐食の心配がないものであった。塩化カルシウム及び塩化マグネシウムとして水和物を使用し、乾燥工程を含まない実施例13〜15では、乾燥工程を含む試験例2の比較例3、4に比して、保存前において揮発酢酸濃度が低くなっていた。また、塩化カルシウム及び塩化マグネシウムとして無水物を使用した実施例16〜18では、これらの水和物を使用し、乾燥工程を含まない実施例13〜15に比して、保存前及び40℃且つ相対湿度75%RHの保存期間中も揮発酢酸量及び5−HMFの吸収波長である波長284nmでの吸光度が低い値を示しており、配合する電解質成分として無水物を使用することによって、より一層効果的に透析用剤の安定性の向上及び酢酸臭の低減が図れることが明らかとなった。
【0156】
【表20】
【0157】
【表21】
【0158】
【表22】
【手続補正書】
【提出日】2014年2月6日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ナトリウムを含むS剤と、重炭酸ナトリウムを含むB剤と、塩化ナトリウム及び重炭酸ナトリウム以外の電解質成分、並びにブドウ糖を含むA剤を含む、透析液を調製するための3剤型の透析用剤であり、
前記A剤が、酢酸及び酢酸塩を含み、且つ酢酸:酢酸塩のモル比が1:0.5〜2であり、且つ前記酢酸塩が酢酸ナトリウム及び/又は酢酸カリウムであり、
総酢酸イオンが2mEq/L以上6mEq/L未満である透析液の調製に使用される、3剤型透析用剤。
【請求項2】
前記A剤における酢酸:酢酸塩のモル比が1:1〜1.5である、請求項1に記載の3剤型透析用剤。
【請求項3】
総酢酸イオンが2mEq/L以上5mEq/L以下である透析液の調製に使用される、請求項1又は2に記載の3剤型透析用剤。
【請求項4】
前記A剤を、最終的に調製される透析液中の各成分濃度の175倍に濃縮した水溶液の状態にした際に、pHが3.9〜4.7を示す、請求項1〜3のいずれかに記載の3剤型透析用剤。
【請求項5】
前記A剤が、更に、酢酸、酢酸塩、塩化ナトリウム及び重炭酸ナトリウム以外の生理的に利用可能な電解質成分を含む、請求項1〜のいずれかに記載の3剤型透析用剤。
【請求項6】
前記電解質として、塩化カリウム、塩化マグネシウム、及び塩化カルシウムを含む、請求項に記載の3剤型透析用剤。
【請求項7】
前記A剤が、前記電解質として、更に酢酸塩以外の有機酸塩を含む、及び/又はpH調節剤として酢酸以外の有機酸を含む請求項5又は6に記載の3剤型透析用剤。
【請求項8】
前記A剤が固体状である、請求項1〜のいずれかに記載の3剤型透析用剤。
【請求項9】
前記A剤が固体状であり、且つ前記塩化マグネシウム及び/又は塩化カルシウムが、乾燥物若しくは無水物である、請求項に記載の3剤型透析用剤。
【請求項10】
前記酢酸及び酢酸塩が混合物として含まれる、請求項8又は9に記載の3剤型透析用剤。
【請求項11】
前記酢酸及び酢酸塩の少なくとも一部が二酢酸アルカリ金属塩の形態で含まれる、請求項8〜10のいずれかに記載の3剤型透析用剤。
【請求項12】
前記二酢酸アルカリ金属塩が、二酢酸ナトリウム及び/又は二酢酸カリウムである、請求項11に記載の3剤型透析用剤。
【請求項13】
前記有機酸塩が、乳酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、及びコハク酸ナトリウムよりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項に記載の3剤型透析用剤。
【請求項14】
前記有機酸が、乳酸、グルコン酸、グルコノデルタラクトン、クエン酸、リンゴ酸、及びコハク酸よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項に記載の3剤型透析用剤。
【請求項15】
前記A剤が、酢酸及び酢酸塩の混合物を含む第1原料と、酢酸及び酢酸塩以外の生理的に利用可能な電解質を含む組成物を含む第2原料を含み、
前記A剤中の酢酸塩の全てが前記第1原料に含まれ、又は透析用A剤中の酢酸塩の一部が前記第2原料にも含まれ、且つ
ブドウ糖が前記第2原料の組成物に含まれる、及び/又は第1原料と第2原料とは別にブドウ糖を含む第3原料が含まれる、
請求項8〜14のいずれかに記載の3剤型透析用剤。
【請求項16】
前記第2原料に、電解質として、塩化カリウム、塩化マグネシウム、及び塩化カルシウムを含む、請求項15に記載の3剤型透析用剤。
【請求項17】
前記第2原料に、電解質として、更に酢酸塩以外の有機酸塩が含まれる、請求項15又は16に記載の3剤型透析用剤。
【請求項18】
前記S剤、B剤、及びA剤が、透湿度が0.5g/m2・24h以下の包装容器に収容されてなる、請求項8〜17のいずれかに記載の3剤型透析用剤。
【請求項19】
前記S剤、B剤、及びA剤が、包装容器に、乾燥剤と共に収容されてなる、請求項8〜18のいずれかに記載の3剤型透析用剤。
【請求項20】
用時にS剤、B剤、及びA剤の添加量を調節することによって透析液中の重炭酸イオン濃度及び/又はナトリウム濃度を変化させて使用される、請求項1〜19のいずれかに記載の3剤型透析用剤。