【課題】本発明の目的は、透析液中の総酢酸イオン含量を低い値に設定可能で、しかもブドウ糖等の保存安定性に優れ、酢酸臭を低減できる、重炭酸透析液の調製に使用される固形透析用A剤を提供することである。
【解決手段】重炭酸透析液の調製に使用される固体状の透析用A剤において、ブドウ糖、酢酸及び酢酸塩を含み、酢酸及び酢酸塩の少なくとも一部が二酢酸アルカリ金属塩であり、且つ酢酸:酢酸塩のモル比を1:0.5〜2に設定することによって、総酢酸イオン濃度が2mEq/L以上6mEq/L未満となるような重炭酸透析液が調製可能となり、透析用A剤中の成分の安定性が優れていることに加え、酢酸臭を低減できる。
透析用A剤を、最終的に調製される透析液中の各成分濃度の35倍に濃縮した水溶液の状態にした際に、pHが3.9〜4.6を示す、請求項1〜4のいずれかに記載の透析用A剤。
前記電解質として、更に酢酸塩以外の有機酸塩を含む、及び/又はpH調節剤として酢酸及び酢酸塩以外の有機酸塩及び/又は有機酸を含む、請求項7〜9のいずれかに記載の透析用A剤。
二酢酸アルカリ金属塩が、酢酸と、酢酸アルカリ金属塩、アルカリ金属塩の水酸化物、炭酸アルカリ金属塩、又は重炭酸アルカリ金属塩との反応によって得られる、請求項1〜10のいずれかに記載の透析用A剤。
【背景技術】
【0002】
透析療法は、腎不全患者の治療法として確立されており、血中電解質成分濃度の調節、尿毒症性物質の除去、酸塩基平衡の是正等を目的として実施されている。この透析治療に用いられる透析液には複数の成分が含まれているが、治療の目的に合致し、かつ生体に対する負担の少ない成分が適切な濃度で配合されるべきである。
【0003】
近年、透析液には酸塩基平衡の是正のために炭酸水素ナトリウムを用いた重炭酸透析液が主流になっており、透析液を中性にするために酸を配合することも必須となっている。また、これらを同一の容器に共存して流通させると、容器内で炭酸ガスを発生して非常に不安定になるため、透析液の調製に使用される透析用剤としてA剤及びB剤の2剤に分けて製造し、使用時に混合することが一般的となっている。
【0004】
通常、A剤には塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、pH調節剤(酸および任意成分としてのバッファー成分)、及びブドウ糖が含まれており、B剤には炭酸水素ナトリウムが含まれている。また、不溶性塩の析出を防ぐため、B剤には塩化カルシウムや塩化マグネシウムの配合が禁忌とされている。
【0005】
従来、これらA剤及びB剤はポリエチレン容器に充填された液体として使用されていたが、輸送コストや病院内での作業性の悪さ(重量、保管スペ−ス、ポリエチレン容器の廃棄方法など)が問題となり、今日では、用時に水と混合される粉末状の透析用剤が実用化されている。
【0006】
粉末状の透析用剤は、当初は電解質及びpH調節剤を含むA−1剤と、ブドウ糖のみからなるA−2剤、炭酸水素ナトリウムからなるB剤の3剤で構成されていたが、現在ではA−1剤とA−2剤が組み合わされ、A剤及びB剤からなる2剤型が主流となっている。
【0007】
今日では、重炭酸透析剤は、臨床において透析液として使用する際に以下のような組成並びに濃度となるように処方されている。
【0008】
【表1】
【0009】
透析液は透析治療時に、液体型のA剤、又は粉末型のA剤を溶解して得られるA液、又は粉末型のA−1剤及びA−2剤を溶解して得られるA液と、液体型のB剤、又は粉末型のB剤を溶解して得られるB液を、希釈、混合して用いられているが、前述したように重炭酸透析液では、酸及び炭酸水素ナトリウムの共存によって、時間の経過とともに炭酸ガスが発生し、同時にpHも上昇して不溶性の炭酸カルシウム等を生成してしまうことがある。この現象によって、治療に有効なカルシウム濃度が減少したり、透析装置の配管やホースに結晶が付着したりすることが問題となっている。
【0010】
一方、pH調節剤としては酢酸が長期に渡って使用されてきたが、近年になって酢酸の末梢血管拡張作用や心機能抑制作用、炎症性サイトカインの誘発、酢酸不耐症の患者への負担が問題視されていた。即ち、酢酸は、短時間で代謝されるために生体への蓄積はないが、心機能抑制、末梢血管拡張効果があり、結果的に血圧を低下させる作用を持っている。透析治療は体内の水分を除去するための治療でもあるため、透析中並びに透析後は水分除去による血圧低下が必然的に起こってしまう。それを防止するために除水コントロールや昇圧剤の投与等の対処療法が併用されることが多々ある。これらの作用による症状発現の有無は患者毎に異なることから、透析液に含まれる酢酸の濃度も起因しているとも考えられている。近年になって、このような状況を打開するためのひとつの手法として無酢酸(アセテートフリー)透析という方法が提唱されるようになった。
【0011】
そこで今日では、酢酸の代わりにクエン酸をpH調節剤として配合されたものが市販され、臨床使用されるようになってきている(例えば、特許文献1〜4参照)。しかしながら、クエン酸は強いキレート作用を持つために透析液中のカルシウムの一部分をキレートし、イオン化カルシウム濃度を下げてしまうこと、酢酸よりも強酸であるために濃厚液であるA液のpHが低くなり、溶解装置や透析装置の部品腐食の恐れがあること、逆にA液のpHを高くするために有機酸塩を多く配合すると、クエン酸カルシウムの結晶が析出して組成に影響を及ぼすこと等の問題点を有している。即ち、クエン酸は、アルカリ土類金属とキレートしやすいので、透析液成分中のカルシウムやマグネシウムとキレートする。この作用は特にカルシウムに対して強いのであるが、透析治療においてはカルシウム量の調節が非常に重要であるので、キレートによるイオン化カルシウム濃度の減少は患者のカルシウム収支に大きく影響するという欠点がある。例えば、クエン酸とカルシウムが透析液中でほぼ同濃度(イオン当量比)で含まれていた場合、35%程度のカルシウムがキレートされ、その分だけ透析液中のイオン化カルシウム濃度が減少し、結果的に血中カルシウム濃度のコントロールが困難になってしまう。また、クエン酸も透析により体内に入るため、血中でクエン酸とカルシウムが結合することにより、難溶性のクエン酸カルシウムが生成して血管内に沈着する恐れがあり、またクエン酸とカルシウムが同時に血中に入った後のそれら成分の動態が明確でないことによって、透析患者において重要な体内のカルシウム管理が困難になることも懸念されている。更に、クエン酸によるイオン化カルシウム濃度の低下は心筋や血管平滑筋の弛緩を促し、低血圧を招く点、クエン酸の抗凝固作用により出血傾向の患者には使いにくい点でも問題がある。
【0012】
また、クエン酸は固体であるために通常の取り扱いにおいては扱いやすいが、濃厚液は強酸性であるため、粉末状態で保管していても部分的な吸湿があった場合には塩化水素ガスが発生し易くなり、溶解装置等の部分的な金属腐食や樹脂劣化等を生じさせることもある。例えば、特許文献1は、クエン酸を用いることにより不溶性化合物の生成防止や炭酸カルシウムの沈殿抑制、ブドウ糖の分解を防止できる無酢酸の粉末型透析剤について記載しているが、これはクエン酸をpH2.2〜2.9という限定された範囲で用いることによって達成されるものである。この限定されたpH範囲では溶解装置や透析装置の腐食の恐れがある点で問題があり、また、クエン酸の強いキレート作用によりイオン化カルシウム濃度が下がって上記のように治療効果に影響を与える恐れもある。
【0013】
そのため、酢酸以外の酸成分としてクエン酸を用いることは最適とは言えず、またクエン酸以外の有機酸として乳酸やリンゴ酸、フマル酸、グルコン酸等の生体に安全な物質の使用も考えられるが、慢性的な使用における透析後の体内での挙動については明確になっていないことから極力使用量を減らすこと、更にはこれら酸成分による透析液調製装置や透析装置への影響も考慮することが重要である。
【0014】
一方、前述するように、クエン酸等は強いキレート作用からイオン化カルシウム濃度を下げてしまうことが懸念されるが、厳密に言えば酢酸もイオン化カルシウム濃度を下げている。おそらく酢酸の代謝が速いことで、臨床上の問題は軽視されてきたが、実際には、pH調節剤として塩酸を用いたものよりも透析液とした時のイオン化カルシウムの濃度は低くなり、酢酸の含量が増えるにつれ、更にイオン化カルシウム濃度は下がる。一般的には知られていないことであるが、酢酸の含量が多いと、クエン酸ほどではないものの透析液中のイオン化カルシウム濃度を下げる要因となることは確かである。このようなことからも酢酸含量は少ない方が望ましいことは明らかである。
【0015】
これまで国内において販売されている酢酸含有の透析用A剤は、液体、固体を問わず、総酢酸含量はすべて8mEq/L以上、かつ酢酸1に対して酢酸ナトリウムの比率が2.2以上となっており、それ未満のものは使用されていない。この条件においてはA液のpHが4.6以上となることから、液体製剤の製造面からみると、透析液調製装置が腐食されにくく、取り扱いやすいというメリットがある。
【0016】
国内で8mEq/L以上の処方になっている理由は過去のアセテート透析剤(重炭酸ナトリウムを使用せず酢酸ナトリウムが30mEq/L以上配合されている)から重炭酸透析剤に変わった際に、重炭酸のメリットとアセテートのメリット、すなわち直接血液の重炭酸イオンを是正するものと、アセテートの代謝を経てゆっくりと重炭酸イオンを是正することのメリットを兼ね備えた処方としたためである。
【0017】
一方、海外では液体製剤(A液)が主として販売されている。国内においては、酢酸ナトリウムはアルカリ化剤の一部として用いられているが、海外においてはB剤の炭酸水素ナトリウムのみがアルカリ化剤として用いられているため、酢酸ナトリウムは使用されていない。故に、酢酸成分としては主として通常4mEq/L以下となる量の酢酸のみをpH調節剤として用いている。
【0018】
しかしながら、上記のように透析液に酢酸ナトリウムが含まれない場合には、A液のpHは3以下となり、透析液調製装置や透析装置の金属部材の腐食や皮膚への強い刺激等の悪影響をもたらす。近年、A液(A剤粉末を溶解して調製したものも含む)のpHが3以下のものが市販されたことにより、透析液調製装置メーカーも腐食に強い耐酸性の素材を部品として用いることによって対応しているが、それら素材は高価であるために経済的に好ましくない。
【0019】
また、酢酸を含む透析液では、液体といえども大量に取り扱う透析施設においては、非常に酢酸臭が強く不快であることより、製造時や使用時に出来るだけ透析剤が開放系にならないような工夫も必要となってくる。
【0020】
次に国内では透析剤の粉末化の流れから粉末製剤が主流になり、粉末化に対応した重炭酸透析剤に関する特許も数多く開示されている。例えば、特許文献5には、粉末状の透析用A剤においては酢酸に対し酢酸ナトリウムの比率(モル比)が1.56〜3.29、好ましくは2.49〜3.29配合すると、酢酸ナトリウムが酢酸を吸着しやすく、揮発しにくいことから、粉末製剤の製造がより容易になることが記載されている。しかしながら、特許文献5が開示する技術でも、最終的に調製される透析液中の総酢酸イオン含量は8mEq/L以上が想定されている。
【0021】
この他にも酢酸に対し酢酸ナトリウムが2倍超5倍以下で配合されるのが通例であり、例えば市販品のリンパックTA−1は2.2倍(酢酸2.5mEq/L:酢酸ナトリウム5.5mEq/L)、キンダリー2Eは3倍(酢酸2mEq/L:酢酸ナトリウム6mEq/L)、ハイソルブFは4.5倍(酢酸2mEq/L:酢酸ナトリウム9mEq/L)、ハイソルブDは5倍(酢酸2mEq/L:酢酸ナトリウム10mEq/L)となっている。過去の処方の変遷は別にしても酢酸に対する酢酸ナトリウムの比率が2倍以下のものが開示されていないのは酢酸臭の問題があったからである。すなわち3倍、4倍と酢酸ナトリウムの比率が上がるほど、粉末製剤としての酢酸臭は低減される。逆に2倍に近づくか、2倍以下になると耐え難いほどの酢酸臭が生じ、実用できるものではなくなる。
【0022】
このように国内外合わせても、酢酸を使用する透析液においては総酢酸イオン含量が4mEq/L以下又は8mEq/L以上のものが使用されるに止まっており、固体状A剤を水に溶解して得られたA液(濃縮液)のpHが4程度となるように設定され、且つ透析液中の総酢酸イオン含量が4〜8mEq/Lになるように設定されている透析用剤は存在していない。
【0023】
唯一、特許文献6において、酢酸と酢酸ナトリウムを使用し、透析液中の総酢酸イオン含量が最大で5mEq/Lが望ましいことが開示されている。しかしながら、特許文献6には、基本濃縮物(炭酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム及び酢酸ナトリウム)と個別濃縮物(ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、塩酸/又は酢酸、ブドウ糖)が開示されており、基本濃縮物と個別濃縮物を合わせた最終透析液では、アセテート/ナトリウムのモル比は0.03以下とある。即ち、透析液中のナトリウム含量が一般的に設定されている140mEq/Lであれば、透析液中の総酢酸イオン含量が4.2mEq/L以下に相当する。更に基本濃縮物に配合する酢酸ナトリウムは、アセテート/ナトリウムとして0.03未満とあり、これからも、透析液中の酢酸イオン含量が4mEq/L程度未満であることが示されている。つまり、特許文献6は、その実態としては、総酢酸イオン含量が4mEq/L程度未満となる透析液の製造に有効となる透析用剤が開示されているに止まっている。
【0024】
更に、特許文献6の透析用剤は、患者個々に選択できる多様な個別濃縮物の提供を可能にするものであり、その酢酸ナトリウムの配合目的は、基本濃縮物の低温時における安定性、保存性の向上である。即ち基本濃縮物中の少量の酢酸ナトリウムは炭酸水素ナトリウムの溶解性を高め、その沈殿物生成を抑制するとある。
【0025】
つまり、特許文献6の透析用剤は、個々の患者に応じた多様な処方透析(カルシウム、マグネシウム、カリウム等)を可能にするものであって、かなり複雑なシステムを要するものであり、酢酸と酢酸塩がそれぞれ異なる製剤に配合されるように設計されているため、一般的なA剤及びB剤からなる2剤型透析用剤とは、その剤型、透析液の調製法の点で異なっている。また、特許文献6では、透析用剤の酢酸臭を低減するための技術的手段については一切検討されていない。更に、特許文献6の透析用剤では、個別濃縮液とするものは塩酸もしくは酢酸を含み、且つ塩基性成分を含まないために、pHが3以下という強い酸性に晒されることになるため、透析液製造装置の腐食の問題、ブドウ糖等の安定性においても決して良好な製剤であるとは言えない。
【0026】
以上のように、一般的な2剤型透析用剤として汎用されているA剤(電解質、酸、ブドウ糖等)、B剤(炭酸水素ナトリウム)の組み合わせにおいては、透析液中の総酢酸イオン含量が4〜8mEq/Lとなるものは存在せず、ましてや粉末状の透析用剤については強い酢酸臭のために実用的なものはなかった。
【0027】
実際、国内、海外合わせても、透析液中の総酢酸イオン含量が8mEq/L未満となるように設定された粉末状の透析用剤を実際の実用化に成功した事例は皆無である。これは粉末状の透析用剤として流動性や安定性、酢酸臭の点で臨床使用に耐え得る製品化が困難であるためと考えられる。例えば、酢酸は、刺激臭がある点において環境への影響が大きい。臨床における透析液調製は一般に臨床工学技士が行うこととなるが、刺激臭に伴う不快感が生じるという点で問題がある。更に、酢酸はブドウ糖の分解要因にもなるため、酢酸を使用し且つブドウ糖を含む透析用剤では、ブドウ糖の安定性に十分に配慮した処方設計が求められる。従って、このような問題点についても十分に考慮しつつ、最適な処方を見出す必要がある。
【0028】
近年、透析液中の総酢酸イオン含量が低いほど生理的に望ましく、6mEq/L未満または4mEq/L未満が望ましいとも学会等で報告されており、低い総酢酸イオン含量に設定できる透析用剤の開発が益々強く求められている。このように総酢酸イオン含量を低く抑えることにより、酢酸は他の有機酸よりも代謝速度が速く、また含量も従来品より少ないため、透析中に患者の血中酢酸濃度を殆ど上げることがなく、透析時の血圧低下などの症状発現を抑制でき、安全性が格段に向上すると考えられている。但し、学会等で報告されている総酢酸イオン含量が低い透析液は、総酢酸イオン含量が8mEq/Lに設定された透析用A剤の酢酸及び酢酸ナトリウムの添加量を単にそれぞれ1/2に変更して調製しているため、透析液のpHが必然的に高くなるという欠点がある。このような高pHの透析液では、継続的な使用は患者の血管石灰化を招くことが懸念され、更に透析液調製装置や透析装置へのカルシウム沈着の問題もある。
【0029】
一方、前述したように酢酸臭を低減するための方法として、酢酸ナトリウムに酢酸を添加あるいは噴霧添加することによって酢酸を酢酸ナトリウムに吸着させ、発生する酢酸臭を低減させる方法が開示されている。また同様にして作製したナトリウムジアセテートを透析用剤成分として混合したり、酢酸ナトリウムでコーティングされた電解質成分に酢酸を添加したりすることによって電解質成分の表面上に二酢酸ナトリウムを形成させる方法も開示されている(特許文献5、7〜9)。しかしながら、いずれの場合においても、酢酸に対して酢酸ナトリウムが当量比で2を超えて含まれており、2以下の場合には触れられておらず、更にこれらの方法では、酢酸雰囲気下での乾燥が必要等、製造上の手間が懸念される。また、特許文献8及び9には、酢酸に対して酢酸ナトリウムを当モル以上で使用されることが開示されているが、当モルの場合の具体的な製法は記載されておらず、実質的には当量比で3以上という酢酸がより揮発しにくい条件が採用されている。更に、これらの特許文献でも、透析液中の総酢酸イオン含量が4〜8mEq/Lになるようには設計されておらず、低酢酸透析用剤に適用できる製剤技術を開示するものではない。
【0030】
このような従来技術を背景として、透析液中の総酢酸イオン含量を低い値に設定可能で、しかもブドウ糖等の保存安定性に優れ、酢酸臭を低減でき、透析液調製装置や透析装置の腐食を抑制できて、実用可能な透析用剤、及びにその製法の開発が切望されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0032】
本発明の目的は、透析液中の総酢酸イオン含量を低い値に設定可能で、しかもブドウ糖等の保存安定性に優れ、酢酸臭を低減できる、重炭酸透析液の調製に使用される固形透析用A剤、及びそれを用いた低酢酸透析用剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0033】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、重炭酸透析液の調製に使用される固体状の透析用A剤において、ブドウ糖と共に酢酸及び酢酸塩を含み、酢酸及び酢酸塩の少なくとも一部が二酢酸アルカリ金属塩であり、且つ酢酸:酢酸塩のモル比を1:0.5〜2に設定することによって、総酢酸イオン濃度が2mEq/L以上6mEq/L未満となるような重炭酸透析液が調製可能となり、透析用A剤中のブドウ糖等の成分の安定性が優れていることに加え、酢酸臭を低減できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0034】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 重炭酸透析液の調製に使用される固体状の透析用A剤であって、
ブドウ糖、酢酸及び酢酸塩を含み、酢酸及び酢酸塩の少なくとも一部が二酢酸アルカリ金属塩であり、
酢酸:酢酸塩のモル比が1:0.5〜2であり、且つ
総酢酸イオンが2mEq/L以上6mEq/L未満である透析液の調製に使用される、透析用A剤。
項2. 二酢酸アルカリ金属塩が、二酢酸ナトリウム及び/又は二酢酸カリウムである、項1に記載の透析用A剤。
項3. 酢酸:酢酸塩のモル比が1:1〜1.5である、項1又は2に記載の透析用A剤。
項4. 総酢酸イオンが2mEq/L以上5mEq/L以下である透析液の調製に使用される、項1〜3のいずれかに記載の透析用A剤。
項5. 透析用A剤を、最終的に調製される透析液中の各成分濃度の35倍に濃縮した水溶液の状態にした際に、pHが3.9〜4.6を示す、項1〜4のいずれかに記載の透析用A剤。
項6. 前記酢酸塩が酢酸ナトリウムである、項1〜5のいずれかに記載の透析用A剤。
項7. 更に、酢酸及び酢酸塩の供給源以外の生理的に利用可能な電解質を含む、項1〜6のいずれかに記載の透析用A剤。
項8. 前記電解質として、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、及び塩化カルシウムを含む、項7に記載の透析用A剤。
項9. 前記塩化マグネシウム及び/又は塩化カルシウムが、乾燥物又は無水物である、項8に記載の透析用A剤。
項10. 前記電解質として、更に酢酸塩以外の有機酸塩を含む、及び/又はpH調節剤として酢酸及び酢酸塩以外の有機酸塩及び/又は有機酸を含む、項7〜9のいずれかに記載の透析用A剤。
項11. 二酢酸アルカリ金属塩が、酢酸と、酢酸アルカリ金属塩、アルカリ金属塩の水酸化物、炭酸アルカリ金属塩、又は重炭酸アルカリ金属塩との反応によって得られる、項1〜10のいずれかに記載の透析用A剤。
項12. 少なくとも一部が二酢酸アルカリ金属塩である酢酸及び酢酸塩を含む第1原料と、酢酸及び酢酸塩以外の生理的に利用可能な電解質を含む組成物からなる第2原料を含み、
透析用A剤中の酢酸及び酢酸塩の全てが前記第1原料に含まれ、又は透析用A剤中の酢酸及び酢酸塩の一部が前記第2原料にも含まれ、且つ
ブドウ糖が前記第2原料の組成物に含まれる、及び/又は第1原料と第2原料とは別にブドウ糖を含む第3原料が含まれる、
項1〜11のいずれかに記載の透析用A剤。
項13. 水分含量が1.1重量%以下である、項1〜12のいずれかに記載の透析用A剤。
項14. 水分含量が1.0重量%以下である、項1〜13のいずれかに記載の透析用A剤。
項15. 透湿度が0.5g/m
2・24h以下の包装容器に収容されてなる、項1〜14のいずれかに記載の透析用A剤。
項16. 包装容器に、乾燥剤と共に収容されてなる、項1〜15のいずれかに記載の透析用A剤。
項17. 項1〜16のいずれかに記載の透析用A剤と、炭酸水素ナトリウムを含む透析用B剤を含む、2剤型透析用剤。
【発明の効果】
【0035】
本発明の透析用A剤は、総酢酸イオン濃度が6mEq/L未満になるように重炭酸透析液を調製できるので、透析時の血圧低下等の症状発現を抑制でき、安全性を格段に向上させることが可能になっており、更には透析液中でイオン化カルシウム濃度が低下するのを効果的に抑制することもできる。また、本発明の透析用A剤は、ブドウ糖等の他の含有成分の安定性の向上、及び酢酸臭の低減が図られており、更には透析液調製装置や透析装置の腐食も抑制できるので、品質の向上、医療現場での使用環境の改善等が図られ、医療現場での操作性が格段に向上している。
【0036】
とりわけ、本発明の透析用A剤において、透析液中の総酢酸イオン濃度が2〜5mEq/Lとなるように設定し、且つ酢酸:酢酸塩のモル比が1:1〜1.5程度になるように設定することにより、透析用A剤を水に溶解して得られたA液(濃縮液)のpHを4.3付近にすることができ、より一層、臨床的に安全で、且つ製造及び品質的にも安定性に優れた重炭酸透析用剤を提供することが可能になる。
【0037】
このように、本発明によれば、総酢酸イオン濃度が6mEq/L未満になるように重炭酸透析液を調製でき、従来の固体状又は液体状の透析用A剤よりも、臨床的に有用で且つ保存性やハンドリングの点でも優れた透析用A剤を提供できる。
【0038】
また、本発明によれば、当該透析用A剤と、炭酸水素ナトリウムを含む透析用B剤を組み合わせて2剤型透析用剤として提供することにより、透析液調製装置や透析装置に悪影響を与えることなく、優れた安全性、品質、操作性をもって、総酢酸イオン濃度が6mEq/L未満になる重炭酸透析液を調製することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本明細書において、数値範囲を示す「〜」の表示は、その左側に付している数値以上且つその右側に付している数値以下であることを示し、例えば数値範囲「X〜Y」の表記はX以上Y以下であることを意味する。
【0040】
1.透析用A剤
本発明の透析用A剤は、重炭酸透析液の調製に使用される固体状の透析用A剤であって、ブドウ糖、酢酸及び酢酸塩を含み、酢酸及び酢酸塩の少なくとも一部が二酢酸アルカリ金属塩であり、酢酸:酢酸塩のモル比が1:0.5〜2であり、且つ総酢酸イオンが2mEq/L以上6mEq/L未満である透析液の調製に使用されることを特徴とする。以下、本発明の透析用A剤について詳述する。
【0041】
<酢酸及び酢酸塩>
本発明の透析用A剤は、酢酸及び酢酸塩を含有し、且つ当該酢酸及び酢酸塩の少なくとも一部が二酢酸アルカリ金属塩の形態になっている。このように、酢酸及び酢酸塩の少なくとも一部が二酢酸アルカリ金属塩であることによって、酢酸臭を効果的に抑制することができる。なお、二酢酸アルカリ金属塩とは、酢酸アルカリ金属塩1モルと酢酸1モルが複合化した複合体(MH(C
2H
3O
2)
2;Mはアルカリ金属原子を示す)であり、二酢酸アルカリ金属塩1モルからは、酢酸塩(酢酸アルカリ金属塩)1モルと酢酸1モルが供給されることになる。
【0042】
本発明で使用される二酢酸アルカリ金属塩としては、具体的には、二酢酸ナトリウム、二酢酸カリウム等が挙げられる。これらの二酢酸アルカリ金属塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。二酢酸アルカリ金属塩の中でも、好ましくは二酢酸ナトリウムが挙げられる。
【0043】
また、本発明の透析用A剤において、酢酸及び酢酸塩は、後述するモル比を充足することを限度として、二酢酸アルカリ金属塩以外の形態の酢酸及び/又は酢酸塩が含まれていてもよい。当該酢酸は氷酢酸であってもよい。また、酢酸塩としては、透析液の成分として許容されるものである限り、特に制限されないが、例えば、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等が挙げられる。これらの酢酸塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、これらの酢酸塩は無水酢酸塩であってもよい。
【0044】
本発明の透析用A剤において、二酢酸アルカリ金属塩1モルは酢酸1モルと酢酸アルカリ金属塩1モルからなる複合体である。即ち、酢酸及び酢酸塩の総量当たり、二酢酸アルカリ金属塩が占める割合については、特に制限されてないが、より一層効果的に酢酸臭を低減させるという観点から、酢酸及び酢酸塩の総物質量当たり、二酢酸アルカリ金属塩由来の酢酸及び酢酸塩の量が5〜100モル%、好ましくは20〜100モル%、更に好ましくは50〜100モル%である。
【0045】
ここで、酢酸と酢酸アルカリ金属塩の総物質量をWモル、そのうちの二酢酸アルカリ金属塩をXモルとすると、総物質量W中の二酢酸アルカリ金属塩由来の酢酸及び酢酸塩の割合は、(2X/W)×100(モル%)となる。例えば、酢酸及び酢酸塩の総物質量100モルの中に5モルの二酢酸アルカリ金属塩が含まれていたとすると、酢酸及び酢酸塩の総物質量の10モル%が二酢酸アルカリ金属塩由来の酢酸及び酢酸塩となる。
【0046】
本発明の透析用A剤は、酢酸:酢酸塩のモル比が1:0.5〜2を充足するように設定される。このようなモル比を充足することによって、透析液中の総酢酸イオン濃度を6mEq/L未満に設定しても、酢酸−酢酸塩の緩衝作用により透析液が適度なpHを備えさせることが可能になる。また、このようなモル比を充足することによって、透析用A剤を水に溶解して得られたA液(濃縮液)のpHを3.9〜4.6程度に調製することができ、透析液調製装置や透析装置の腐食を抑制することが可能になる。更に、このようなモル比を充足することによって、透析用A剤中のブドウ糖等の保存安定性を高め、更には酢酸臭の低減を図ることが可能になる。
【0047】
本発明の透析用A剤における酢酸と酢酸塩のモル比としては、透析用A剤のブドウ糖等の保存安定性の向上、酢酸臭の低減等の作用をより一層効果的に発揮させるという観点から、酢酸:酢酸塩のモル比が、好ましくは1:0.75〜1.75、より好ましくは1:0.75〜1.5、更に好ましくは1:1〜1.5、特に好ましくは1:1〜1.25が挙げられる。
【0048】
ここで、前述するように、二酢酸アルカリ金属塩は、酢酸1モルと酢酸アルカリ金属塩1モルの複合体であるので、二酢酸アルカリ金属塩1モルに由来する酢酸と酢酸塩は、各々1モルとして計算される。即ち、例えば、酢酸及び酢酸塩の供給源が二酢酸アルカリ金属塩のみからなる場合には、酢酸:酢酸塩のモル比は1:1になる。また、例えば、酢酸及び酢酸塩の供給源が、二酢酸アルカリ金属塩Xモル、酢酸Yモル、及び酢酸塩Zモルからなる場合には、酢酸:酢酸塩のモル比は1:(X+Z)/(X+Y)になる。
【0049】
本発明の透析用A剤中の酢酸及び酢酸塩の供給源の含量については、最終的に調製される透析液中の総酢酸イオン含量が2mEq/L以上6mEq/L未満、好ましくは2mEq/L以上5.5mEq/L以下、更に好ましくは2mEq/L以上5mEq/L以下となるように設定される。このように、本発明の透析用A剤によれば、酢酸−酢酸塩の緩衝作用により透析液が適度なpHを備えさせつつ、従来の2剤型の透析用剤では実現できていないレベルにまで透析液中の総酢酸イオン含量を低く設定できるので、透析時に酢酸イオンによって誘発される血圧低下等の症状発現を抑制でき、安全性を格段に向上させることが可能になる。
【0050】
<ブドウ糖>
本発明の透析用A剤には、前述する酢酸と酢酸塩の他に、患者の血糖値の維持の目的で、ブドウ糖が含まれる。本発明の透析用A剤では、前記特定の酢酸と酢酸塩を特定の比率で含むことにより、ブドウ糖の分解が抑制され、その安定性の向上が図られている。
【0051】
本発明の透析用A剤中のブドウ糖の含有量は、最終的に調製される透析液に備えさせるブドウ糖濃度に応じて適宜設定される。具体的には、透析用A剤中のブドウ糖の含有量は、最終的に調製される透析液におけるブドウ糖濃度が0〜2.5g/L、好ましくは1.0〜2.0g/Lとなるように適宜設定すればよい。
【0052】
<他の配合成分>
本発明の透析用A剤には、前述する酢酸、酢酸塩、及びブドウ糖の他に、透析液に使用される生理的に利用可能な電解質が含まれていてもよい。このような電解質としては、例えば、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、塩化物イオン、クエン酸イオン、乳酸イオン、グルコン酸イオン、コハク酸イオン、リンゴ酸イオン等の供給源となり得るものが挙げられる。本発明の透析用A剤に含まれる電解質(酢酸及び酢酸塩以外)として、少なくともナトリウムイオン、塩化物イオン、マグネシウムイオン及びカルシウムイオンの供給源になるものが含まれていることが好ましく、これらに加えてカリウムイオンの供給源になるものが更に含まれていることがより好ましい。
【0053】
マグネシウムイオンの供給源としては、マグネシウム塩が挙げられる。本発明の透析用A剤に使用されるマグネシウム塩については、透析液の成分として許容されるものである限り、特に制限されないが、例えば、塩化マグネシウム、乳酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、グルコン酸マグネシウム、コハク酸マグネシウム、リンゴ酸マグネシウム等が挙げられる。これらのマグネシウム塩の中でも、塩化マグネシウムは、水に対する溶解度が高いため、マグネシウムの供給源として好適に使用される。これらのマグネシウム塩は、水和物及び/又は乾燥物もしくは無水物の形態であってもよい。また、これらのマグネシウム塩は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0054】
カルシウムイオンの供給源としては、カルシウム塩が挙げられる。本発明の透析用A剤に使用されるカルシウム塩としては、透析液の成分として許容されるものである限り、特に制限されないが、例えば、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、クエン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、コハク酸カルシウム、リンゴ酸カルシウム等が挙げられる。これらのカルシウム塩の中でも、塩化カルシウムは、水に対する溶解度が高いため、カルシウムの供給源として好適に使用される。これらのカルシウム塩は、水和物及び/又は乾燥物もしくは無水物の形態であってもよい。また、これらのカルシウム塩は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0055】
ナトリウムイオンの供給源としては、ナトリウム塩が挙げられる。酢酸及び酢酸塩として二酢酸ナトリウム及び/又は酢酸ナトリウムを使用する場合には、当該二酢酸ナトリウム及び酢酸ナトリウムがナトリウムイオンの供給源となるが、二酢酸ナトリウム及び酢酸ナトリウム以外のナトリウム塩も使用することによって、ナトリウムイオンを補充し、透析液に所望のナトリウムイオン濃度を備えさせることができる。ナトリウム塩は、透析液の成分として許容されるものである限り、特に制限されないが、例えば、塩化ナトリウム、乳酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム等が挙げられる。これらのナトリウム塩の中でも、塩化ナトリウムは、最も生理的な物質であるため、ナトリウムの供給源として好適に使用される。これらのナトリウム塩は、水和物及び/又は乾燥物もしくは無水物の形態であってもよい。また、これらのナトリウム塩は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0056】
カリウムイオンの供給源としては、カリウム塩が挙げられる。酢酸及び酢酸塩として二酢酸カリウム及び/又は酢酸カリウムを使用する場合には、当該二酢酸カリウム及び/又は酢酸カリウムがカリウムイオンの供給源となるが、二酢酸カリウム及び酢酸カリウム以外のカリウム塩も使用することによって、カリウムイオンを補充し、透析液に所望のカリウムイオン濃度を備えさせることができる。カリウム塩についても、透析液の成分として許容されるものである限り、特に制限されないが、例えば、塩化カリウム、乳酸カリウム、クエン酸カリウム、グルコン酸カリウム、コハク酸カリウム、リンゴ酸カリウム等が挙げられる。これらのカリウム塩の中でも、塩化カリウムは、塩化物イオンが最も生理的な物質であるため、カリウムの供給源として好適に使用される。これらのカリウム塩は、水和物の形態であってもよい。これらのカリウム塩は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0057】
塩化物イオンの供給源としては、塩化物塩が挙げられる。本発明の透析用A剤に配合される塩化物塩についても、透析液の成分として許容されるものである限り、特に制限されないが、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化カリウム等が挙げられる。これらの塩化物塩は、水に対する溶解度が高く、しかもナトリウム、カリウム、マグネシウム、又はカリウムの供給源としての役割も果たし得るので、好適に使用される。これらの塩化物塩は、水和物及び/又は乾燥物もしくは無水物の形態であってもよい。また、これらの塩化物塩は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、pH調節剤としての役割も果たす塩酸を塩化物イオンの供給源として用いることもできる。
【0058】
前述するように、透析用A剤に配合される各電解質成分は水和物の形態であってもよいが、より一層効果的に酢酸臭の低減、及びブドウ糖等の保存安定性の向上を図るという観点から、無水物の形態であることが好ましい。
【0059】
本発明の透析用A剤に配合される電解質の種類と組み合わせについては、最終的に調製される透析液に含有させる各イオンの組成に応じて適宜設定されるが、A剤に含まれる電解質(酢酸及び酢酸塩以外)の好適な例として、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、及び塩化カリウムの組み合わせが挙げられる。また、電解質として、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、及び塩化カリウムを組み合わせて使用する場合、更に有機酸塩(二酢酸アルカリ金属塩及び酢酸塩以外)を含んでいてもよい。このような有機酸塩としては、例えば、乳酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム等が挙げられる。これらの有機酸塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0060】
A剤に含まれる各電解質の含有量は、最終的に調製される透析液に備えさせる各イオン濃度に応じて適宜設定される。具体的には、A剤に含まれる電解質成分の含有量(酢酸及び酢酸塩以外)は、酢酸塩の種類とその含有量、B剤として処方される重炭酸ナトリウム量等を勘案し、最終的に調製される透析液が下記表2に示す各イオン濃度を満たすように、適宜設定すればよい。
【0062】
なお、前記表2に示す各イオン濃度は、酢酸塩に由来する各イオンを含むものであり、本発明の透析用A剤に含まれる各電解質の量は、酢酸及び酢酸塩の供給源から供給される各イオンの量も勘案して決定される。また、本発明の透析用A剤に含まれるナトリウムの供給源となる電解質(二酢酸ナトリウム及び酢酸ナトリウム以外)量については、酢酸及び酢酸塩として二酢酸ナトリウム及び/又は酢酸ナトリウムを使用する場合であれば、透析用B剤中の炭酸水素ナトリウムから供給されるナトリウム量と、二酢酸ナトリウム及び/又は酢酸ナトリウムから供給されるナトリウム量を勘案した上で、前記表2に示すナトリウムイオン濃度を充足するように決定される。
【0063】
例えば、本発明の透析用A剤において、少なくとも一部が二酢酸ナトリウムである酢酸及び酢酸ナトリウムを用い、且つ他の電解質として、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、及び塩化カルシウムを用いる場合、透析液に含まれる各イオン濃度を前記表1に示す範囲を充足させるには、例えば、酢酸と酢酸ナトリウム合計モル数1モル当たり、塩化ナトリウムが13〜65モル、好ましくは20〜60モル;塩化カリウムが0.08〜1.5モル、好ましくは0.3〜1.25モル;塩化マグネシウムが0〜0.5モル、好ましくは0.05〜0.38モル;塩化カルシウムが0.13〜1.13モル、好ましくは0.25〜0.88モルを満たす比率に設定すればよい。
【0064】
本発明の透析用A剤には、酢酸及び酢酸塩のモル比が所定範囲に設定されていることにより、最終的に調製される透析液のpHが適度な範囲を備えるように調整されているが、更に必要に応じて、別途、pH調節剤を含んでいてもよい。本発明の透析用A剤に別途使用可能なpH調節剤としては、透析液の成分として許容されるものである限り、特に制限されないが、例えば、クエン酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、グルコノデルタラクトン等の固形状の酸、及びこれらのナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム塩等が挙げられる。これらのpH調節剤の中でも、有機酸が好適に使用される。pH調節剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、本発明の透析用A剤に、これらのpH調節剤を含有させる場合、その含有量については、後述する、透析用A剤を水に溶解して得られたA液、及び最終的に得られる透析液のpHを充足できるように適宜設定すればよい。
【0065】
<製剤形態>
本発明の透析用A剤は、固体状である限り、その製剤形態については特に制限されないが、例えば、粉末剤、顆粒剤等が挙げられる。
【0066】
<pH>
本発明の透析用A剤は、酢酸及び酢酸塩の供給源から供給される酢酸及び酢酸塩が前述する比率を満たすことにより、透析用A剤を水に溶解して得られたA液のpHは4付近になるため、透析液調製装置や透析装置を腐食させることがなく、しかも臨床や製造現場における作業員や在宅透析における患者等の皮膚に触れた場合の安全性も確保されている。
【0067】
本発明の透析用A剤を水に溶解して得られたA液のpHについて、より具体的には、透析用A剤を最終的に調製される透析液中の各成分濃度の35倍に濃縮した水溶液の状態とした場合(以下、「35倍濃縮A剤溶液」と表記する)に、そのpHが通常3.9〜4.6、好ましくは3.9〜4.5、更に好ましくは4.3程度になるものが挙げられる。ここで、35倍濃縮A剤溶液のpHは、25℃にて測定される値である。
【0068】
本発明の透析用A剤が、前述するpH範囲を満たすことによって、ブドウ糖の安定性を確保することが可能になっている。ブドウ糖は、一般的にはpH3前後が最も安定であるとされているが(食品成分の相互作用、発行者:野間省一、5−15頁、編集者:並木満夫、松下雪郎、1980年5月1日発行)、前述するpH範囲で極めて安定に保持されることが確認されている。
【0069】
更に、発明の透析用A剤が、前述するpH範囲を満たすことによって、酢酸臭を効果的に低減させることも可能になっている。透析用A剤において、酢酸1モルに対して当酢酸塩が0.5モルよりも少なく、pHが前述する範囲を下回る場合には、酢酸臭が増大する傾向を示す。
【0070】
<好適な態様>
本発明の透析用A剤として、保存安定性、酢酸臭の低減、透析液調製装置や透析装置の腐食抑制等の作用をより一層向上させて発揮させるという観点から、好ましくは酢酸及び酢酸塩のモル比が1:0.5〜2であり、透析液としたときの総酢酸イオンが2mEq/L以上6mEq/L未満に設定されており、且つ35倍濃縮A剤溶液のpHが3.9〜4.6である透析用A剤;より好ましくは酢酸及び酢酸塩のモル比が1:0.75〜1.5(更に好ましくは1:1〜1.5)であり、透析液としたときの総酢酸イオンが2mEq/L以上5.5mEq/L以下に設定されており、且つ35倍濃縮A剤溶液のpHが4.1〜4.4である透析用A剤;特に好ましくは酢酸及び酢酸塩のモル比が1:1〜1.25であり、透析液としたときの総酢酸イオンが2mEq/L以上5mEq/L以下に設定されており、且つ35倍濃縮A剤溶液のpHが4.3程度である透析用A剤が挙げられる。
【0071】
<水分含量>
本発明の透析用A剤の水分含量については、特に制限されず、保存安定性、酢酸臭の低減等の観点から適宜設定すればよい。本発明の透析用A剤の水分含量の一例として、好ましくは1.1重量%以下、更に好ましくは1.0重量%以下が挙げられる。このような範囲にまで水分含量を低減させると、酢酸臭をより一層効果的に低減させ、ブドウ糖等の保存安定性をより一層向上させることが可能になる。
【0072】
<製造方法及び包装>
本発明の透析用A剤の製造方法については、特に制限されず、その製剤形態に応じて適宜設定されるが、以下に、好適な製造方法について説明する。
【0073】
本発明の透析用A剤の製造方法の好適な製造方法としては、少なくとも一部が二酢酸アルカリ金属塩である酢酸及び酢酸塩を含む第1原料を得る第1工程と、当該第1原料をブドウ糖及び他の配合成分と混合する第2工程を経て製造する方法が挙げられる。
【0074】
本発明で使用される二酢酸アルカリ金属塩は、公知の手法で製造したものを使用してもよく、また市販品を使用してもよい。
【0075】
二酢酸アルカリ金属塩の製造方法としては、酢酸とアルカリ金属水酸化物を反応させる方法、酢酸とアルカリ金属炭酸塩及び/又はアルカリ金属重炭酸塩を反応させる方法等が知られている。なお、ここで例示した二酢酸アルカリ金属塩の製造方法は、あくまでも例示であり、本発明で使用される二酢酸アルカリ金属塩は、前記で例示した製造方法で得られたものに限定されない。なお、通常、酢酸の揮発の抑制や酢酸臭の低減を図るためには、酢酸に対して当量比で2以上のできるだけ多くの酢酸ナトリウムを用い、酢酸ナトリウムに酢酸を吸着あるいは含浸させる形態を取らせることが好ましいとされているが、これらの形態をとったとしても水分を吸うことによって酢酸が揮発(脱離)してしまう。つまり、高湿度な環境下で製造または保存すると、酢酸の揮発や刺激臭の発生は起こりやすくなるのである。そしてその影響は、酢酸に対する酢酸ナトリウムの当量比が小さくなればなるほど大きくなる。
【0076】
透析用A剤に含まれる二酢酸アルカリ金属塩は第1工程における第1原料の製造に供すればよい。また、透析用A剤において、二酢酸アルカリ金属塩以外の形態の酢酸及び/又は酢酸塩が含まれる場合には、二酢酸アルカリ金属塩以外の形態の酢酸及び/又は酢酸塩は、これらの全量を第1工程における第1原料の調製に供してもよく、またこれらの一部を第1工程における第1原料の調製に供し、残部を第2工程において混合してもよい。二酢酸アルカリ金属塩以外の形態の酢酸は酢酸臭の原因になるので、酢酸は全量が二酢酸アルカリ金属塩の形態で含まれていることが好ましいが、二酢酸アルカリ金属塩以外の形態の酢酸が含まれる場合には、当該酢酸は第1原料に含まれていることが好ましい。
【0077】
二酢酸ナトリウムは水分含量が少なく低湿度環境では、酢酸臭を僅かにしか発しないが、水分含量が多い場合や高湿度環境では強い酢酸臭を発する傾向があるので、第1工程で得られる第1原料の水分量や保管時の湿度を下げることによって、酢酸臭を抑制することが可能になる。例えば、60%RH以下、好ましくは50%RH以下、さらに好ましくは40%RH以下(ともに25℃の場合)の条件下で第1原料を調製することによって、酢酸臭の少ない第1原料を得ることが可能となる。また、第1原料の調製時に30〜90℃に加温したり、絶対湿度の低い、例えば1.5g/m
3以下の乾燥空気を送風したり、減圧したりする等、余分な水分を除去する手段を用いることによって、或いは第1原料の調製後、密閉容器内で一時的に保存、又は必要に応じて加温したりすることで更に酢酸臭の抑制効果を向上させることができる。
【0078】
前記第2工程では、第1工程で得られた第1原料をブドウ糖及び他の配合成分と混合することにより、固形透析用A剤を調製する。本第2工程における第1工程で得られた第1原料と他の配合成分の混合は、単純混合であってもよく、また撹拌造粒、流動層造粒、転動流動層造粒、加圧造粒等の乾式及び湿式造粒法を用いて行ってもよいが、水分の存在により酢酸の揮発が増長されることから、水分を用いない方法が好ましい。
【0079】
前記第2工程において、混合される他の配合成分は、それぞれ個別に前記第1原料と混合されてもよく、また混合される他の配合成分の一部又は全部を含む組成物を予め調製し、当該組成物を前記第1原料と混合してもよい。好ましくは、酢酸及び酢酸塩以外の電解質と、必要に応じて酢酸及び/又は酢酸塩を含む組成物(以下、第2原料と表記することもある)を予め調製し、これを前記第1原料と混合する方法が挙げられる。本発明の透析用A剤に有機酸塩を含有させる場合には、当該有機酸塩は、前記第2原料中に含有させておくことが好ましい。また、ブドウ糖は、前記第2原料に含有させてもよく、また第1原料及び第2原料とは別に、第3原料として前記第1原料及び第2原料と共に混合してもよい。更に、ブドウ糖は、一部を前記第2原料に含有させ、残部を第3原料として混合してもよい。更に、酢酸(二酢酸アルカリ金属塩以外の形態)を第2工程で混合する場合には、酢酸(二酢酸アルカリ金属塩以外の形態)は、前記第2原料中に混合してもよいが、別途、前記第1原料及び第2原料、必要に応じて混合される第3原料とは別に、第4原料として混合してもよい。また、酢酸以外の有機酸についても、前記第2原料、第3原料、及び第4原料のいずれか少なくとも1つに含有させてもよく、またこれらとは別に、第5原料として混合してもよい。
【0080】
また、前記第2原料として第2工程に供される組成物は、混合物の状態であればよいが、水分含量を考慮すると、造粒物の状態であることが好ましい。造粒物の状態の第2原料を製造する方法については、特に制限されないが、例えば、電解質として塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム及び塩化マグネシウムを含む造粒物(第2原料)を製造する場合であれば、塩化ナトリウム及び塩化カリウムの混合物に対して、塩化カルシウム及び塩化マグネシウムの水溶液を添加し、50〜90℃で加温混合後、必要に応じて他の配合成分(有機酸塩やブドウ糖等)を加えて、さらに加温混合することにより造粒物を形成する方法が挙げられる。また、当該造粒物の形成において、塩化カルシウム及び塩化マグネシウムの水溶液を添加する代わりに、粉末状の塩化カルシウム及び塩化マグネシウムを添加し、その前若しくは後に適量の水を添加してもよい。ただし、どのような造粒操作を経たとしても造粒物は十分に乾燥されておくことが好ましい。なお、第2原料を混合物の状態で用いる場合には、無水の塩化カルシウムや無水の塩化マグネシウムを用いることが好ましい。
【0081】
第2工程の好適な具体例として、第1原料と、第2原料と、必要に応じて第3原料と、必要に応じて第4原料と、必要に応じて第5原料を、低湿度下(60%RH以下、好ましくは50%RH以下、更に好ましくは40%RH以下(ともに25℃の場合))で混合する方法が挙げられる。第2工程における混合時には、30〜90℃に加温したり、絶対湿度の低い乾燥空気を送風したり、減圧したりする等、余分な水分を除去する手段を用いることによって、より一層酢酸臭発生の抑制効果を高めることができる。また、製造される透析用A剤の酢酸臭をより一層低減させるという観点から、第1原料、第2原料、並びに必要に応じて添加される第3原料等は、水分含量が低い状態にしておくことが好ましい。このように水分含量を低減させる方法としては、例えば、第2工程の混合に供される各原料を予め90〜140℃で乾燥し、絶対湿度1.5g/m
3以下の冷風により冷却する方法が挙げられる。
【0082】
斯して製造される透析用A剤は、前述する水分含量になるように、必要に応じて乾燥処理に供した後に包装容器に収容して提供される。透析用A剤の包装に使用される包装容器としては、例えば、フレキシブルバッグやハードボトルが使用される。当該包装容器として、具体的には、シリカ蒸着ラミネート袋やアルミ蒸着ラミネート袋、酸化アルミ蒸着ラミネート袋、アルミラミネート袋、ポリエチレン製ハードボトル等が挙げられる。とりわけ、アルミニウム箔等の金属箔が用いられている包装袋(アルミラミネート袋等)は、透湿度を低くでき、酢酸の揮発と環境による吸湿をより効果的に抑制できる。また、これらの包装容器の透湿度については、酢酸臭をより一層有効に低減させるという観点から、好ましくは0.5g/m
2・24h(40℃、90%RH)以下、更に好ましくは0.2g/m
2・24h(40℃、90%RH)以下が挙げられる。当該透湿度は、JIS Z0208 防湿包装材料の透湿度試験方法(カップ法)に規定の測定方法に準拠して測定される値である。
【0083】
更に、包装容器に収容される透析用A剤の水分含量をより効果的に低減させるために、包装容器内には、透析用A剤と共に、乾燥剤を収容してもよい。乾燥剤としては、特に制限されないが、例えば、ゼオライト、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、シリカゲル、アルミナ等が挙げられる。包装容器に乾燥剤を収容する場合、これら物質が容器を構成するプラスチックの一部(例えば、ポリエチレン層)に配合された容器を用いてもよいし、包装容器内に乾燥剤を収納できるスペース(別室)を設けてもよい。また乾燥剤を不織布等に入れた状態で、固体状A剤に混入しないようにして包装容器に収容してもよい。
【0084】
2.透析用剤
本発明は、更に、前記透析用A剤と、炭酸水素ナトリウムを含む透析用B剤を含む、2剤タイプの透析用剤を提供する。
【0085】
本発明の透析用剤に使用される透析用B剤は、重炭酸ナトリウム以外の電解質成分が含まれていないことが好ましく、含有成分が実質的に重炭酸ナトリウムのみからなるものが好適である。
【0086】
また、透析用B剤は、固体状又は液体状のいずれであってもよいが、輸送や保管の容易性の観点から、好ましくは固体状が挙げられる。
【0087】
透析用B剤が液体状である場合、液体状の透析用B剤に含まれる重炭酸ナトリウムの含量は、最終的に調製される透析液において所望の重炭酸イオン濃度を充足させ得る量であればよいが、例えば4〜8g/100mL、好ましくは6〜8g/100mLが挙げられる。
【0088】
本発明の透析用剤において、透析用B剤の使用量については、前記透析用A剤中の酢酸及び酢酸ナトリウムの比率、総酢酸イオン量及び、透析液のpH等を考慮すると、最終的に調製される透析液における重炭酸イオン濃度が25〜35mEq/Lとなるように設定することが好ましい。特に、透析患者のアシドーシスの是正及び透析液の総アルカリ量を適切な範囲に制御するという観点から、透析用B剤の使用量として、更に好ましくは最終的に調製される透析液における重炭酸イオン濃度が27〜33mEq/Lとなる量が挙げられる。
【0089】
本発明の透析用剤は、重炭酸透析液を調製するために使用される。具体的には、透析用A剤と、透析用B剤を、所定量の水(好ましくは精製水)に混合し希釈させることによって透析液が調製される。本発明の透析用剤を用いて透析液を調製する際に、透析用A剤は、必要に応じて、透析用A剤を適量の水に溶解させてA液(濃縮液)を調製し、これを透析液の調製に使用してもよい。更に、透析用B剤が固体状である場合にも、必要に応じて、固体状のB剤を適量の水に溶解させてB液(濃縮液)を調製し、これを透析用A剤及び所定量の水と混合してもよい。
【0090】
また、本発明の透析用剤によって調製される透析液のpHについては、透析液として許容される範囲を充足する限り、特に制限されないが、透析患者の過剰なアシドーシス是正の危険性を避けるという観点から、好ましくは7.2〜7.6、更に好ましくは7.3〜7.5、特に好ましくは7.3〜7.4が挙げられる。本発明の透析用A剤は、重炭酸の緩衝作用に加え、酢酸と酢酸塩の供給源が特定の組成を満たしており、前記範囲のpHの透析液を調製可能に設定されている。
【実施例】
【0091】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0092】
試験例1
(1)透析用A剤の調製
(実施例1)
先ず、塩化ナトリウム11.15kg、塩化カリウム0.261kg、塩化カルシウム水和物0.386kg、及び塩化マグネシウム水和物0.178kgを加熱混合し、さらに水0.178kgを加えて造粒し、130℃で乾燥することにより電解質組成物を得た。次いで、前記電解質組成物239.4g、二酢酸ナトリウム4.97g、氷酢酸2.10g、及びブドウ糖52.5gを撹拌混合し透析用A剤を得た。得られた透析用A剤における酢酸:酢酸ナトリウムのモル比は1:0.5である。
【0093】
(実施例2)
先ず、塩化ナトリウム11.05kg、塩化カリウム0.261kg、塩化カルシウム水和物0.386kg、及び塩化マグネシウム水和物0.178kgを加熱混合し、さらに水0.178kgを加えて造粒し、130℃で乾燥することにより電解質組成物を得た。次いで、前記電解質組成物237.4g、二酢酸ナトリウム9.95g、及びブドウ糖52.5gを撹拌混合し透析用A剤を得た。得られた透析用A剤における酢酸:酢酸ナトリウムのモル比は1:1である。
【0094】
(実施例3)
先ず、塩化ナトリウム10.94kg、塩化カリウム0.261kg、塩化カルシウム水和物0.386kg、及び塩化マグネシウム水和物0.178kg及び無水酢酸ナトリウム0.144kgを加熱混合し、さらに水0.178kgを加えて造粒し、130℃で乾燥することにより電解質組成物を得た。次いで、前記電解質組成物238.2g、二酢酸ナトリウム9.95g、及びブドウ糖52.5gを撹拌混合し透析用A剤を得た。得られた透析用A剤における酢酸:酢酸ナトリウムのモル比は1:1.5である。
【0095】
(実施例4)
先ず、塩化ナトリウム10.84kg、塩化カリウム0.261kg、塩化カルシウム水和物0.386kg、及び塩化マグネシウム水和物0.178kgを加熱混合し、さらに水0.178kgを加えて造粒し、130℃で乾燥することにより電解質組成物を得た。次いで、前記電解質組成物233.3g、二酢酸ナトリウム9.95g、無水酢酸ナトリウム5.74g、及びブドウ糖52.5gを撹拌混合し透析用A剤を得た。得られた透析用A剤における酢酸:酢酸ナトリウムのモル比は1:2である。
【0096】
(実施例5)
先ず、塩化ナトリウム10.99kg、塩化カリウム0.261kg、塩化カルシウム水和物0.386kg、及び塩化マグネシウム水和物0.178kg及び乳酸ナトリウム(70%)0.140kgを加熱混合し、さらに水0.178kgを加えて造粒し、130℃で乾燥することにより電解質組成物を得た。次いで、前記電解質組成物238.3g、二酢酸ナトリウム9.95g、及びブドウ糖52.5gを撹拌混合し透析用A剤を得た。得られた透析用A剤における酢酸:酢酸ナトリウムのモル比は1:1である。
【0097】
(実施例6)
先ず、塩化ナトリウム11.10kg、塩化カリウム0.261kg、塩化カルシウム水和物0.386kg、及び塩化マグネシウム水和物0.178kg及び無水酢酸ナトリウム0.072kgを加熱混合し、さらに水0.178kgを加えて造粒し、130℃で乾燥することにより電解質組成物を得た。次いで、前記電解質組成物239.9g、二酢酸ナトリウム4.97g、無水クエン酸2.24g、及びブドウ糖52.5gを撹拌混合し透析用A剤を得た。得られた透析用A剤における酢酸:酢酸ナトリウムのモル比は1:1.5である。
【0098】
(比較例1)
先ず、塩化ナトリウム11.25kg、塩化カリウム0.261kg、塩化カルシウム水和物0.386kg、及び塩化マグネシウム水和物0.178kgを加熱混合し、さらに水0.178kgを加えて造粒し、130℃で乾燥することにより電解質組成物を得た。次いで、前記電解質組成物241.5g、氷酢酸4.20g、及びブドウ糖52.5gを撹拌混合し透析用A剤を得た。得られた透析用A剤における酢酸:酢酸ナトリウムのモル比は1:0である。
【0099】
(比較例2)
先ず、塩化ナトリウム10.64kg、塩化カリウム0.261kg、塩化カルシウム水和物0.386kg、及び塩化マグネシウム水和物0.178kg及び無水酢酸ナトリウム0.574kgを加熱混合し、さらに水0.178kgを加えて造粒し、130℃で乾燥することにより電解質組成物を得た。次いで、前記電解質組成物240.7g、氷酢酸4.20g、無水酢酸ナトリウム5.74g、及びブドウ糖52.5gを撹拌混合し透析用A剤を得た。得られた透析用A剤における酢酸:酢酸ナトリウムのモル比は1:3である。
【0100】
各透析用A剤(比較例1、2、実施例1〜6)について、酢酸及び/又は酢酸塩として添加した成分の種類と添加量、酢酸及び酢酸ナトリウムのモル比を表3に示す。
【0101】
【表3】
【0102】
(2)透析用A剤の評価
(透析用A剤の揮発酢酸濃度及び水分含量)
上記で得られた各透析用A剤について、揮発酢酸濃度を測定した。揮発酢酸濃度は、各透析用A剤をシリカ蒸着ラミネート袋に表4に示す所定量を収容し、当該透析用A剤の上部に検知管をセットし、一定量の試料気体を検知管に通気させて検知管式気体測定器(製造元:GASTEC、型番:GV-100S)で測定した。
【0103】
更に、実施例2〜4の透析用A剤については、水分含量をカールフィッシャー水分計(製造元:平沼産業、型番:AVQ−6)を用いて測定した。
【0104】
(35倍濃縮A剤溶液のpH及び5−HMF量)
また、上記で得られた各透析用A剤を精製水に溶解し、最終的に調製される透析液中の各成分濃度の35倍に濃縮した水溶液の状態にして、35倍濃縮A剤溶液を調製した。具体的には、各透析用A剤を、表4に示す所定量を精製水に溶解して500mLとすることにより、35倍濃縮A剤溶液を調製した。
【0105】
【表4】
【0106】
得られた35倍濃縮A剤溶液のpH、及びブドウ糖の分解物である5−ヒドロキシメチルフルフラール(以下5−HMFと記載)量を測定した。pHはpHメーター(製造元:堀場製作所、型番:F−73)を用いて液温25℃で測定した。また、5−HMF量については、0.2μmフィルターでろ過した液について分光光度計を用いて、5−HMFの吸収波長(波長284nm)の吸光度を測定した。
【0107】
また、調製後の35倍濃縮A剤溶液10mLを正確に量り、精製水を加えて約300mLとし、ここに透析用B剤(炭酸水素ナトリウム)0.94gを添加し(透析液の重炭酸イオン濃度は32mEq/L)、精製水を加えて正確に350mLとし、重炭酸透析液を調製した。得られた重炭酸透析液(実施例1〜6及び比較例1、2の透析用A剤使用)には、いずれも、ナトリウムイオン140mEq/L、カリウムイオン2mEq/L、カルシウムイオン3mEq/L、マグネシウムイオン1mEq/Lが含まれている。
【0108】
得られた重炭酸透析液のpH及びイオン化カルシウム濃度を測定した。pHはpHメーター(製造元:堀場製作所、型番:F−73)を用いて液温25℃で測定し、またイオン化カルシウム濃度は血液ガス分析装置cobas b121(製造元:ロシュ・ダイアグノスティックス)を用いて測定した。
【0109】
(結果)
透析用A剤の揮発酢酸濃度及び水分含量を測定した結果、並びに35倍濃縮A剤溶液のpH及び5−HMF量(284nmの吸光度)を測定した結果を表5に示す。また、得られた各重炭酸透析液について、含有する総酢酸イオン濃度、pHの測定結果、及びイオン化カルシウム濃度の測定結果を表6に示す。
【0110】
酢酸:酢酸塩のモル比が1:0の透析用A剤(比較例1)から調製した35倍濃縮A剤溶液では、pHが2.6付近と低く、強い酸性であって、取扱い上の十分な安全性が確保できておらず、更には透析液調製装置や透析装置の腐食が懸念される処方になっていた。また、比較例1の透析用A剤では、揮発酢酸濃度も1000ppmを超えており、臨床現場では許容できないレベルであった。更に、比較例1の透析用A剤から調製した35倍濃縮A剤溶液では、5−HMFの吸収波長である284nmでの吸光度が調製後においても既に他の実施例に比して高めであり、ブドウ糖が安定に保持できていなかった。また、二酢酸ナトリウムを含まない比較例2の透析用A剤においては、酢酸:酢酸塩のモル比が1:3にも拘らず、揮発酢酸濃度は900ppmと高い値を示していた。
【0111】
これに対して、二酢酸ナトリウムを含み、酢酸:酢酸塩のモル比が1:0.5〜2の範囲内である透析用A剤(実施例1〜6)から調製した35倍濃縮A剤溶液では、pHが3.9以上であり、臨床現場で安全に取り扱うことができ、透析液調製装置や透析装置の腐食の心配がないものであった。また実施例1〜6の透析用A剤から調製した35倍濃縮A剤溶液は、調製後の5−HMFの吸収波長である波長284nmでの吸光度が、比較例1に比べると低い値を示しており、ブドウ糖の分解が十分に抑制できていた。更に、実施例1〜6の透析用A剤では、揮発酢酸濃度が比較例1及び比較例2よりも低い値であった。中でも、実施例2〜6(酢酸:酢酸塩=1:1〜2)では、波長284nmでの吸光度と揮発酢酸濃度が顕著に低い値を示していた。
【0112】
更に、実施例1〜6の透析用A剤から調製した重炭酸透析液では、総酢酸イオン濃度が2mEq/L以上6mEq/L未満であって、透析液として適したpHを保持していた。イオン化カルシウム濃度について、実施例6は、含有するクエン酸のキレート作用によって、低濃度となっていたが、実施例1〜5では十分に高く維持することができていた。
【0113】
【表5】
【0114】
【表6】
【0115】
(3)透析用A剤の長期安定性の評価
各透析用A剤(実施例1〜6及び比較例1、2)について、表7に示す所定量を、ポリエチレン製の袋に収容した。更に、これを表8に示す包装袋に収容して密封し、25℃、相対湿度60%RHで2カ月間保存した。
【0116】
【表7】
【0117】
【表8】
【0118】
保存前、保存2週間後、保存1カ月後、及び保存2カ月後に、各透析用A剤を収容したポリエチレン製袋内に検知管をセットし、一定量の試料気体を酢酸測定用の検知管に通気させて、検知管式気体測定器(製造元:GASTEC、型番:GV−100S)で揮発酢酸濃度を測定した。
【0119】
また、保存2週間後、保存1カ月後、及び保存2カ月後の各透析用A剤を、前記表4に示す各所定量を精製水に溶解して500mLとすることにより、最終的に調製される透析液中の各成分濃度の35倍に濃縮した35倍濃縮A剤溶液を調製した。得られた35倍濃縮A剤溶液の5−HMF量を上記と同様の方法で測定した。
【0120】
保存前後で透析用A剤の揮発酢酸濃度を測定した結果を表9、保存前後の透析用A剤を用いて調製した35倍濃縮A剤溶液の5−HMF量を測定した結果を表10に示す。
【0121】
この結果、保存前の比較例1の透析用A剤では、揮発酢酸濃度及び5−HMF量が高く、酢酸の揮発とブドウ糖の分解を抑制できていなかった。また、比較例2も保存前の揮発酢酸濃度が高値を示しており、臨床現場では許容できないレベルであった。一方、実施例2〜6の透析用A剤では、保存2カ月後であっても、酢酸の揮発とブドウ糖の分解を十分に抑制できていた。また、本試験結果から、透析用A剤を保存する包装体に乾燥剤を添加しておくことにより、酢酸の揮発とブドウ糖の分解をより一層有効に抑制できることも明らかとなった。
【0122】
【表9】
【0123】
【表10】
【0124】
試験例2
(1)透析用A剤の調製
(実施例7)
先ず、塩化ナトリウム11.05kg、塩化カリウム0.261kg、塩化カルシウム水和物0.386kg、及び塩化マグネシウム水和物0.178kgを加熱混合し、さらに水0.178kgを加えて造粒し、130℃で乾燥することにより電解質組成物を得た。次いで、前記電解質組成物237.4g、二酢酸ナトリウム9.95g、及びブドウ糖52.5gを撹拌混合し透析用A剤を得た。得られた透析用A剤における酢酸:酢酸ナトリウムのモル比は1:1である。
【0125】
(実施例8)
先ず、塩化ナトリウム11.05kg、塩化カリウム0.261kg、塩化カルシウム水和物0.386kg、及び塩化マグネシウム水和物0.178kgを加熱混合し、さらに水0.178kgを加えて造粒し、130℃で乾燥することにより電解質組成物を得た。また、別に氷酢酸0.105kgと無水酢酸ナトリウム0.144kgを混合し、酢酸/酢酸ナトリウム混合物を得た。前記電解質組成物237.4g、二酢酸ナトリウム6.96g、酢酸/酢酸ナトリウム混合物2.98g及びブドウ糖52.5gを撹拌混合し透析用A剤を得た。得られた透析用A剤における酢酸:酢酸ナトリウムのモル比は1:1である。
【0126】
(実施例9)
先ず、塩化ナトリウム11.05kg、塩化カリウム0.261kg、塩化カルシウム水和物0.386kg、及び塩化マグネシウム水和物0.178kgを加熱混合し、さらに水0.178kgを加えて造粒し、130℃で乾燥することにより電解質組成物を得た。また、別に氷酢酸0.105kgと無水酢酸ナトリウム0.144kgを混合し、酢酸/酢酸ナトリウム混合物を得た。前記電解質組成物237.4g、二酢酸ナトリウム4.97g、酢酸/酢酸ナトリウム混合物4.97g及びブドウ糖52.5gを撹拌混合し透析用A剤を得た。得られた透析用A剤における酢酸:酢酸ナトリウムのモル比は1:1である。
【0127】
(実施例10)
先ず、塩化ナトリウム11.05kg、塩化カリウム0.261kg、塩化カルシウム水和物0.386kg、及び塩化マグネシウム水和物0.178kgを加熱混合し、さらに水0.178kgを加えて造粒し、130℃で乾燥することにより電解質組成物を得た。また、別に氷酢酸0.105kgと無水酢酸ナトリウム0.144kgを混合し、酢酸/酢酸ナトリウム混合物を得た。前記電解質組成物237.4g、二酢酸ナトリウム1.99g、酢酸/酢酸ナトリウム混合物7.96g及びブドウ糖52.5gを撹拌混合し透析用A剤を得た。得られた透析用A剤における酢酸:酢酸ナトリウムのモル比は1:1である。
【0128】
各透析用A剤(実施例7〜10)について、酢酸及び/又は酢酸塩として添加した成分の種類と添加量、酢酸及び酢酸ナトリウムのモル比を表11に示す。
【0129】
【表11】
【0130】
(2)透析用A剤の長期安定性の評価
各透析用A剤(実施例7〜10)の各々149.9gを、ポリエチレン製の袋に収容した。更に、これを表8に示すPET/AL/PE袋に収容して密封し、25℃、相対湿度60%RHで2カ月間保存した。
【0131】
保存前、保存2週間後及び1カ月後、2カ月後の各透析用A剤について、試験例1と同様の方法で揮発酢酸濃度を測定した。また、保存前、保存2週間後及び1カ月後、2カ月後の各透析用A剤の各々149.9gを精製水に溶解して500mLとすることにより、最終的に調製される透析液中の各成分濃度の35倍に濃縮した35倍濃縮A剤溶液を調製し、得られた35倍濃縮A剤溶液のpH及び5−HMF量を試験例1と同様の方法で測定した。
【0132】
得られた結果を表12及び13に示す。表12及び13の結果から、実施例7〜10の透析用A剤では、保存2カ月後であっても、酢酸の揮発とブドウ糖の分解を十分抑制できており、保存安定性に優れていた。
【0133】
【表12】
【0134】
【表13】
【0135】
試験例3
(1)透析用A剤の調製
(実施例11)
先ず、塩化ナトリウム10.99kg、塩化カリウム0.261kg、塩化カルシウム水和物0.386kg、及び塩化マグネシウム水和物0.178kg及び無水酢酸ナトリウム0.072kgを加熱混合し、さらに水0.178kgを加え造粒し、その後、この造粒物を130℃で乾燥する際に、乾燥時間を変えることにより水分量の異なる電解質組成物を得た。前記電解質組成物237.8g、二酢酸ナトリウム9.95g、及びブドウ糖52.5gを攪拌混合し透析用A剤を得た。この操作により得られた透析用A剤の水分含量をカールフィッシャー水分計(製造元:平沼産業、型番:AVQ−6)にて測定したところ、それぞれ1.0重量%(実施例11−1)、1.1重量%(実施例11−2)、1.3重量%(実施例11−3)であった。また、得られた透析用A剤における酢酸:酢酸ナトリウムのモル比は、1:1.25である。
【0136】
(2)透析用A剤の評価
上記で得られた各透析用A剤について、上記試験例1と同様の方法で揮発酢酸濃度を測定した。
【0137】
得られた結果を表14に示す。表14から明らかなように、透析用A剤の水分含量1.1重量%以下の場合には、揮発酢酸濃度が100ppm以下と低い値を示しており、酢酸臭の低減効果が格別顕著に認められた。
【0138】
【表14】
【0139】
試験例4
(1)透析用A剤の調製
(実施例12−1)
先ず、塩化ナトリウム11.05kg、塩化カリウム0.261kg、塩化カルシウム水和物0.386kg、及び塩化マグネシウム水和物0.178kgを加熱混合し、さらに水0.178kgを加えて造粒し、130℃で乾燥することにより電解質組成物を得た。次いで、前記電解質組成物237.4g、二酢酸ナトリウム9.95g、及びブドウ糖52.5gを撹拌混合し透析用A剤を得た。得られた透析用A剤における酢酸:酢酸ナトリウムのモル比は1:1である。
【0140】
(実施例12−2)
塩化ナトリウム220.90g、塩化カリウム5.22g、無水塩化カルシウム5.83g、無水塩化マグネシウム1.67g、二酢酸ナトリウム9.95g、及びブドウ糖52.5gを単純混合し透析用A剤を得た。得られた透析用A剤における酢酸:酢酸ナトリウムのモル比は1:1である。
【0141】
(実施例13−1)
先ず、塩化ナトリウム10.94kg、塩化カリウム0.261kg、塩化カルシウム水和物0.386kg、及び塩化マグネシウム水和物0.178kg及び無水酢酸ナトリウム0.144kgを加熱混合し、さらに水0.178kgを加えて造粒し、130℃で乾燥することにより電解質組成物を得た。次いで、前記電解質組成物238.2g、二酢酸ナトリウム9.95g、及びブドウ糖52.5gを撹拌混合し透析用A剤を得た。得られた透析用A剤における酢酸:酢酸ナトリウムのモル比は1:1.5である。
【0142】
(実施例13−2)
塩化ナトリウム218.86g、塩化カリウム5.22g、無水塩化カルシウム5.83g、無水塩化マグネシウム1.67g、無水酢酸ナトリウム2.87g、二酢酸ナトリウム9.95g、及びブドウ糖52.5gを単純混合し透析用A剤を得た。得られた透析用A剤における酢酸:酢酸ナトリウムのモル比は1:1.5である。
【0143】
(実施例14)
塩化ナトリウム220.90g、塩化カリウム5.22g、塩化カルシウム水和物7.72g、塩化マグネシウム水和物3.56g、二酢酸ナトリウム9.95g、及びブドウ糖52.5gを単純混合し透析用A剤を得た。得られた透析用A剤における酢酸:酢酸ナトリウムのモル比は1:1である。
【0144】
(実施例15)
塩化ナトリウム218.86g、塩化カリウム5.22g、塩化カルシウム水和物7.72g、塩化マグネシウム水和物3.56g、無水酢酸ナトリウム2.87g、二酢酸ナトリウム9.95g、及びブドウ糖52.5gを単純混合し透析用A剤を得た。得られた透析用A剤における酢酸:酢酸ナトリウムのモル比は1:1.5である。
【0145】
(2)透析用A剤の評価
(透析用A剤の水分含量)
上記で得られた各透析用A剤の水分含量について、カールフィッシャー水分計(製造元:平沼産業、型番:AVQ−6)を用いて測定した(n=2で測定して平均値を求めた)。
【0146】
(保存後の透析用A剤の揮発酢酸濃度及び35倍濃縮A剤溶液の5−HMFの測定)
各透析用A剤を表15に示す所定量、ポリエチレン製の袋に収容し、さらにPET/AL/PE袋に収容して密封し、40℃、相対湿度75%RHで2週間保存した。
【0147】
保存前及び保存2週間後に、各透析用A剤を収容したポリエチレン製袋内に検知管をセットし、一定量の試料気体を酢酸測定用の検知管に通気させて、検知管式気体測定機(製造元:GASTEC、型番:GV−100S)で揮発酢酸濃度を測定した。
【0148】
また、保存前、保存2週間後の各透析用A剤を、表15に示す所定量を精製水に溶解して500mLとすることにより、最終的に調製される透析液中の各成分濃度の35倍濃縮A剤溶液の5−HMF量を上記試験例1と同様の方法で測定した。また、調整後の透析用A剤を用いて調製した35倍濃縮A剤溶液については、pHを上記試験例1と同様の方法で測定した。
【0149】
【表15】
【0150】
透析用A剤の水分含量について測定した結果を表16に示す。また、保存前後で透析用A剤の揮発酢酸濃度を測定した結果並びに保存前後の透析用A剤を用いて調製した35倍濃縮A剤溶液のpH及び5−HMF量を測定した結果を表17に示す。塩化カルシウム及び塩化マグネシウムとして水和物を使用して単純混合した実施例14及び15の透析用A剤では、水分含量が1.5重量%程度であったのに対して、塩化カルシウム及び塩化マグネシウムとして水和物を使用して混合後に乾燥処理した実施例12−1及び13−1、並びに、塩化カルシウム及び塩化マグネシウムとして無水物を使用した実施例12−2及び13−2では、水分含量が0.7重量%未満に低減できていた。表17より、実施例12〜15全ての透析用A剤において、保存前の揮発酢酸濃度及び5−HMF量が低いことから、安定な透析用A剤が製造できていることが確認できた。また、水分含量が低い実施例12−1、12−2、13−1及び13−2では、揮発酢酸量を低く維持し、ブドウ糖の分解を効果的に抑制できていたのに対して、水分含量が1.5重量%程度である実施例14及び15では、揮発酢酸量及び5−HMF量が抑制されていなかった。これまでの試験例と比較して、より過酷な環境下である40℃且つ相対湿度75%RHで保存すると、透析用A剤の安定性に対して水分の影響が顕著に見られた。以上の結果から、より安定な透析用A剤を製造するためには、乾燥処理等を行い、透析用A剤の水分量を低減させておくことが好ましいことが明らかとなった。
【0151】
【表16】
【0152】
【表17】